明日公表の7-9月期GDP統計速報1次QE予想の成長率は小幅にマイナスか?
先月末の鉱工業生産指数や商業販売統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日11月15日に7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。詳細な需要項目別で先行き景気に言及しているのは大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズであり、特に長々とヘッドラインを引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。
機関名 | 実質GDP成長率 (前期比年率) | ヘッドライン |
日本総研 | ▲0.1% (▲0.3%) | 10~12月期の実質GDPは、自動車の挽回生産やインバウンド需要の回復に支えられ、プラス成長に復帰する見通し。ただし、原油高が一段と進行した場合、実質賃金の低迷を通じて個人消費が下振れるリスクあり。試算では、原油価格が直近ピーク(1バレル=130ドル)まで上昇した場合、個人消費を年率で▲0.2%ポイント下押し。 |
大和総研 | ▲0.2% (▲0.6%) | 2023年10-12月期の日本経済はプラス成長に転じる見込みだ。自動車の挽回生産や、経済活動の正常化などを背景にサービス消費やインバウンド需要の回復基調が続き、景気を下支えしよう。 個人消費はインフレ率の低下や賃金上昇による所得環境の改善もあり、緩やかな増加傾向が続くだろう。コロナ禍からのサービス消費の回復余地は依然として大きく、外食や旅行を中心に緩やかに増加すると見込んでいる。財消費のうち、自動車における足元の落ち込みは一時的なものとみており、挽回生産の継続で販売台数は高水準を当面維持するとみられる。 住宅投資は足踏み傾向となるだろう。住宅価格は高止まりしており、持家を中心に軟調な推移が続くとみられる。 設備投資は緩やかな増加傾向が続くだろう。国内における経済活動の正常化が進む中、更新投資や人手不足に対応するための省力化投資などが増加すると見込んでいる。また、デジタル化、グリーン化に関連したソフトウェア投資や研究開発投資は底堅く推移し、設備投資全体を押し上げよう。 公共投資は回復傾向が続くだろう。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするとみられる。ただし、人手不足により回復ペースは緩やかなものになりそうだ。政府消費は、医療費が増加する一方、新型コロナウイルスの検査事業やワクチン接種などの感染症対策による押し上げが徐々に剥落することで、しばらくは足踏みが続きそうだ。 輸出は緩やかな増加傾向が続くだろう。挽回生産の継続により主力の自動車輸出が高水準で推移するほか、米国経済の底堅さが幅広い財の輸出を下支えするとみられる。 |
みずほリサーチ&テクノロジーズ | ▲0.3% (▲1.2%) | 10~12月期以降も内需はプラス基調継続が見込まれる。個人消費については、実質賃金の前年比マイナス幅が縮小傾向で推移すると見込まれることが好材料だ。夏場までに中小企業を含めた賃上げの給与への反映が進展したほか、最低賃金の引上げや人事院勧告の公務員給与への反映が今年度後半にかけて押し上げ要因になることで、名目賃金は前年比+2%台半ば程度で推移するであろう。一方、円ベースの輸入物価指数は2023年4月以降前年比マイナスで推移しており(9月時点で前年比▲15.6%)、食料品など財物価の上昇率は年度後半にかけて鈍化する見通しだ(例えば、帝国データバンク「「食品主要195社」価格改定動向調査(2023年10月)」によれば、原材料価格上昇の一服に伴い、主要食品メーカーの値上げは10月でピークアウトする可能性が高いことが示唆されている)。実際、足元では一部の小売業でPB(プライベートブランド)の食料品価格を値下げする動きがみられる。政府による物価高対策が10月以降延長される点も物価の押し下げ要因になり、コアCPI前年比は+2%台で鈍化していく見通しだ。 もっとも、人件費の上昇や(主にサービス価格の押し上げ要因となる)、足元の原油価格の上昇・円安の進展等を受けて、消費者物価の鈍化ペースは緩やかになるとみられる。燃料油価格激変緩和補助金や電気・ガス代の価格抑制策が延長されることを織り込んでも、足元の原油高・円安は年末以降の電気・ガス代の押し上げ要因になることが見込まれる。実質賃金の前年比マイナスは2024年度前半までは続く可能性が高く、引き続き物価高が個人消費の重石になることは避けられないだろう。年後半にかけて全国旅行支援が終了すること等を受けて、サービス分野の回復も一巡するとみられることから、個人消費の回復ペースは緩やかなものになる可能性が高いとみている。 なお、コロナ禍で積み上がった家計の現預金(いわゆる超過貯蓄)は、2023年4▲6月時点で47兆円程度残存しているとみられ(日本銀行「資金循環統計」ベース)、コロナ禍前(2019年10▲12月期)の家計の現預金残高対比で4.7%に相当する規模となっているが、個人消費の押し上げ効果は期待出来ないだろう。2019年10▲12月期から2023年4▲6月期にかけて、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出デフレーター)は累積で+7.3%上昇しており、物価高で超過貯蓄は相殺されてしまった計算となるからだ。 設備投資については、非製造業を中心に底堅い推移を予測している。前述のとおり設備投資計画(日銀短観ベース)は省力化・省人化に向けたデジタル投資など持続的な投資需要を受けて高い伸びが見込まれている。欧米を中心とした海外経済減速(詳細は後述)を受けて製造業を中心に計画対比で(例年の修正パターン以上に)下振れるとみられるものの、サービスを中心とした需要の回復・人手不足深刻化を受けて非製造業の設備投資は増加基調が続くだろう(特に、建設、運輸、小売など人手不足感が強い業種を中心に、省力化対応の必要性から投資意欲が高まっている模様だ)。サプライチェーン見直しに伴う国内生産拠点の強化、脱炭素化投資などの構造的な投資需要が下支えし、全体としてみれば、緩やかな増加傾向で推移するとみている。 インバウンドの回復が続くことも経済活動の押し上げに寄与しよう。円安を受けて一人当たり旅行支出額も当面はコロナ禍前を上回る水準で推移する可能性が高い。現時点で、インバウンド需要(非居住者家計の国内での直接購入)の増加は、2023年度のGDP成長率に対し+0.5%Pt程度の押し上げ要因になるとみている。ただし、回復が遅れている訪日中国人客数については、中国の雇用所得環境・消費マインドの悪化に加え、原子力発電所の処理水を巡る問題を受けて下振れるリスクがある点には留意する必要がある。 懸念されるのがサービス業を中心とした人手不足の深刻化である。女性や高齢者の労働参加に増加余地があったアベノミクス期と異なり、現状は女性の「M字カーブ(結婚・出産に伴う退職)」がほぼ解消されるなど労働供給の増加余地が限られ、景気回復に伴う労働需要増をカバーしきれなくなりつつある。人手不足が制約となって稼働率が十分に引き上げられない中では、事業者にとっては「売り」となる商品・サービスの明確化等による客単価の引き上げが今後の収益確保の鍵になるだろう。 |
ニッセイ基礎研 | ▲0.2% (▲0.9%) | 2023年10-12月期は、海外経済の減速を背景に輸出が伸び悩む一方、民間消費、設備投資などの国内民間需要が底堅く推移することから、現時点では年率1%程度のプラス成長を予想している。 |
第一生命経済研 | ▲0.1% (▲0.5%) | 先行き、海外経済の減速が見込まれるため、輸出が景気の牽引役になることは期待薄だろう。こうしたなか、内需も伸び悩みが続くということになれば、景気は牽引役不在の状態に置かれることになる。今後も景気の回復傾向は持続するとみているが、回復ペースに関しては緩やかなものにとどまる可能性が高いと予想している。 |
PwC Intelligence | ▲0.8% (▲3.1%) | 2023年7-9月期の実質GDP成長率を、前期比-0.8%(年率換算-3.1%)と予想する。見通しについて述べると、内需が前期比寄与度-0.4%、外需が同-0.4%と内外需要がともに低迷した。 |
伊藤忠総研 | ▲0.3% (▲1.3%) | 2023年10~12月期は、輸出が欧米景気の減速などから伸び悩むものの、個人消費は物価上昇率の鈍化と賃金上昇の加速を受けて拡大を続け、設備投資も旺盛な企業の投資意欲を背景に増加に転じると見込まれる。その結果、実質GDP成長率は前期比でプラスに転じると予想する。 年明け後も、設備投資の拡大が続くほか、来年度の春闘賃上げ率は今年度を上回り、実質賃金は前年比でプラスに転じ伸びを高めていくとみられるため、個人消費の回復傾向も続く。輸出も来春頃には欧米景気の底入れを受けて増勢加速が見込まれるため、景気は回復基調を維持しよう。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | ▲0.1% (▲0.6%) | 2023年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比-0.1%(年率換算-0.6%)と4四半期ぶりのマイナス成長が見込まれる。基本的には、景気が緩やかに回復する中でのスピード調整の動きであり、景気腰折れのリスクは小さいものの、内外需ともに弱く、回復力は力強さに欠ける。 |
三菱総研 | +0.1% (+0.4%) | 2023年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.1%(年率+0.4%)と小幅プラス成長を予測する。 |
明治安田総研 | ▲0.1% (▲0.6%) | 先行きの景気はインバウンド消費が引き続き下支えになると見込む。個人消費については、物価上昇率の鈍化に伴う実質所得の増加が押し上げ要因になると予想する。一方、海外景気の動向は不安材料となる。中国景気は不動産市場の低迷が足枷となり、力強さに欠ける推移となる可能性が高い。米国景気は依然として堅調だが、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を当面の間、高水準ですえ置く可能性が高いことなどから、今後は減速に向かうとみる。 2023年度後半の日本景気は、インバウンドを除く外需が冴えないなかでも、個人消費を中心とする内需が底堅く推移することで、緩やかな回復基調をたどると予想する。 |
見れば明らかですが、三菱総研を唯一の例外として、軒並みマイナス成長の予測となっています。ただし、マイナス成長に陥って、このまま景気後退に突入し、日本経済が大ピンチかというと、そうでもないようです。理由は3点あります。まず、第1に、外需主導ながら高成長を記録した4~6月期の反動という面があります。第2に、多くのシンクタンクがマイナス成長を予測しているとはいえ、三菱総研がプラス成長の予測をしていることからもうかがえるように、ゼロ近傍のマイナス成長を予想するシンクタンクが多くなっています。第3に、統計の対象となっている7~9月期はマイナス成長としても、足元の10~12月期はプラス成長に回帰し、年度後半も緩やかな回復が続くと見込むシンクタンクが多くなっています。私自身も今年2023年年央くらいまでは、米国が年内に景気後退に入る可能性が高く、日本も年明けには景気転換点を迎える可能性が十分ある、と考えていたのですが、今では少し軌道修正しています。上方修正です。世間のエコノミストはすでに米国を始めとする先進各国のソフトランディングを展望しています。なお、この場合のソフトランディングとは景気の減速で持ちこたえて、景気後退には入らない、という意味です。おそらく、日本経済も、そう急に景気後退局面入りするとは想定されません。ただし、いうまでもなく景気回復局面は後半の部に入っており、地政学的なリスクもウクライナだけでなく中東でも顕在化する可能性が高まっている点は十分に注意しておく必要があります。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。
| 固定リンク
コメント