利益が積み上がる法人企業統計とそれなりに堅調な雇用統計
本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など、10月の雇用統計が、それぞれ公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+5.0%増の367兆7350億円だったものの、経常利益は+20.1%増の23兆7975億円に上っています。そして、設備投資は+3.4%増の12兆4,079億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と経常利益は前期比プラスを示しています。GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.4%増となっています。また、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.5%となり、有効求人倍率も前月から+0.01ポイント上昇し1.30倍と、いずれも改善を示しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
7-9月の設備投資3.4%増、自動車けん引 法人企業統計
財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)のソフトウエアを含む設備投資は12兆4079億円で、前年同期と比べると3.4%増えた。輸送用機械などで生産体制の強化が進んだ。伸びは4~6月期の4.5%から縮んだ。
設備投資は瞬間風速を示す季節調整済みの前期比では1.4%伸びた。2期ぶりのプラスとなった。非製造業が2.4%増えた一方、製造業は0.4%減った。
経常利益は前年同期比20.1%増の23兆7975億円だった。7~9月期として過去最高を更新した。
設備投資の業種別では製造業、非製造業とも前年同期比でプラスを確保した。輸送用機械が16.8%、化学が6.0%プラスだった。生産体制の強化や能力増強に関連した投資が進んだ。鉄鋼は8.5%減、業務用機械は9.0%減でいずれも落ち込んだ。前年からの反動が出た。
非製造業はリース資産の購入があった物品賃貸業が39.2%増えた。娯楽施設の改修や新設投資がみられたサービス業は12.0%伸びた。
経常利益を業種別にみると、非製造業が40.0%の増益で全体を押し上げた。
発電用の燃料価格が下落した電気業が増益に転じた。新型コロナウイルス禍からの回復に伴う新規出店や客数増加のあった卸売業・小売業は17.1%上向いた。
海外経済の減速などを受けた製造業は0.9%減少した。パソコンやスマートフォン向けの需要が弱まった情報通信機械は60.7%の減益だった。業務用機械も41.3%マイナスだった。
売上高は5.0%増の367兆7350億円となった。供給制約の緩んだ輸送用機械が17.2%伸びた。価格転嫁の進んだ食料品なども増収だった。
財務省の担当者は「景気が緩やかに回復している状況を反映した」と分析した。先行きについては、海外景気の下振れや物価上昇の影響を注視したいと述べた。
10月の求人倍率1.30倍、10カ月ぶり上昇 失業率は改善
厚生労働省が1日に発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.30倍で前月から0.01ポイント上昇した。10カ月ぶりに前月を上回った。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ飲食・サービス業の需要が回復して求人が増えた。
総務省が同日発表した10月の完全失業率は2.5%で前月に比べて0.1ポイント下がった。2カ月連続で改善した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。10月の有効求職者数は0.3%減少した。有効求人数は前月比横ばいだった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で1.8%マイナスとなった。原材料費や光熱費が上がった影響を受けて製造業は10.6%、建設業は6.2%それぞれ減少した。宿泊・飲食サービス業は新型コロナからの消費持ち直しを背景に2.2%増加した。
完全失業者数は175万人で前年同月比で3万人減った。就業者数は6771万人で16万人伸び、15カ月連続の増加となった。男性は6万人、女性は10万人いずれも増えた。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4062万人で33万人減った。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、いくつかの統計を並べましたので、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。
ということで、法人企業統計の結果について、3つの要因が作用しています。すなわち、第1に、製造業、特に、自動車産業における半導体部品などの供給制約の緩和、第2に、金融引締めに転じている先進各国をはじめとする海外景気の動向、そして、第3に、インフレないし物価上昇の動向、の3点です。いずれにせよ、売上高にせよ、営業利益や経常利益にせよ、名目で計測される統計ですので、インフレによる水増しの影響は無視できません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは不明です。少し産業別に詳しく見ると、7~9月期の前年同期比で見て、供給制約が緩和された輸送機械が売上高でも経常利益でも大きな増収・増益となっています。また、食料品も値上げの浸透から増収・増益に転じています。他方、石油・石炭が売上高で大きな減収となっているのは、数量ベースというよりもエネルギー価格の動向に起因するものであろうと理解すべきです。また、政府からの補助金の影響が現れたのが電気業であり、昨年2022年は10~12月期まで営業利益も経常利益も赤字でしたが、今年2023年に入って1~3月期には黒字に転じ、7~9月期まで3期連続で営業利益も経常利益も黒字を計上しています。設備投資はやや低退色を強めているように私には見えます。上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」といえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかり溜め込まれるのが、どこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように右肩上がりの拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問と私は考えています。
続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率が大きく低下を示しています。設備投資/キャッシュフロー比率もようやく底ばいから上昇し始めたところです。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から悪横ばいの1.29倍と見込まれていました。実績では、失業率も有効求人倍率もわずかながら改善しましたが、予測レンジの範囲内でしたし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の10月統計までの期間で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+36万人増加し、非労働力人口は▲45万人減少しています。就業者は+23万人増の一方で、完全失業者は+4万人しか増加しておらず、これには積極的な職探しの結果の増加も含まれていると考えるべきです。就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+11万人増の一方で、非正規が+10万人増ですら、わずかながら質的な雇用も改善しているといえます。先進各国がソフトランディングに成功すれば、我が国の雇用も悪化することは考えにくいのではないかと思います。ですので、問題は量的な雇用ではなく賃金動向です。
最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。私はほとんど1次QEから変更ないものと受け止めています。
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