3四半期連続で景況感が改善した12月調査の日銀短観をどう見るか?
本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは36月調査から+4ポイント改善して+9、また、大企業非製造業も+4ポイント改善の+27となりました。大企業製造業では2四半期連続の改善です。また、本年度2023年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+13.0%の大きな増加が見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
景況感3期連続改善、中小もプラス圏浮上 12月日銀短観
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、3ポイント改善してプラス12だった。改善は3期連続。中小企業製造業は6ポイント改善のプラス1と4年半ぶりにプラス圏に浮上した。価格転嫁の進展や自動車生産の回復を背景に、景気の回復基調を裏付ける結果となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。12月調査の回答期間は11月9日~12月12日。回答率は99.3%だった。
大企業製造業の業況判断DIはQUICKが事前に集計した民間予想の中心値(プラス10)を2ポイント上回った。原材料コスト高が一服し、自動車生産の回復が進んだ。自動車は13ポイント改善しプラス28となった。金属製品が17ポイント改善し0に、非鉄金属が15ポイント改善しプラス12だった。
大企業非製造業はプラス30と9月調査から3ポイント改善した。新型コロナウイルス感染症の影響緩和や価格転嫁の進展を背景に7期連続の改善で、1991年11月調査以来の高水準となった。9月調査でプラス44だった宿泊・飲食サービスはさらに改善しプラス51と04年の調査開始以来の最高を更新した。小売は2ポイント改善しプラス26に、対個人サービスも4ポイント改善のプラス28だった。
規模別では中小企業の改善幅も目立った。中小企業製造業の業況判断DIはプラス1と9月調査(マイナス5)から改善した。大企業製造業の伸び(3ポイント)を上回る強さで2019年3月調査以来のプラス圏を回復した。中小でも16ポイント改善し0となった紙・パルプなど幅広い業種で価格転嫁の進展が聞かれたという。中小企業非製造業もプラス14と2ポイント改善した。
先行きは海外経済の減速への不安などから、製造業、非製造業を問わず悪化予想となった。大企業製造業は4ポイント悪化、大企業非製造業では6ポイントの悪化を見込む。人手不足や人件費高騰を懸念する声も多く、宿泊・飲食サービスは先行きで12ポイントの大幅悪化を見込む。
価格転嫁の進展が全体の景況感を底上げしたとみられるが、値上げの勢いは一服感が出ている。販売価格が「上昇」から「下落」をひいた販売価格判断DIはいずれも低下。大企業製造業は6ポイント低下のプラス26だった。中小企業は4ポイント低下の26、非製造業は2ポイント低下し25だった。
企業の消費者物価見通しはおおむね不変だった。1年後は前年比2.4%、3年後に2.2%、5年後は2.1%と2%を超える上昇率が続く予想となった。調査時の水準と比較した際の販売価格の見通しも1年後は2.6%、3年後が3.7%、5年後に4.4%と上昇が続く期待感が維持されているようだ。
企業の事業計画の前提となる2023年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=139円35銭と9月調査の135円75銭から円安方向に修正された。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
昨日のエントリーで日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては横ばい圏内ないしは小幅ながら3四半期連続の改善との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から+1ポイント改善の+10、非製造業は前回から変わらず+27、となっています。実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが9月調査から+3ポイント改善して+12となり、また、大企業非製造業でも+3ポイントの改善して+30となりました。予測レンジの上限が、大企業製造業で+12、大企業非製造業で+28でしたので、大企業非製造業ではこの上限を超えたことになります。ただし、先行きの景況感については、製造業・非製造業とも、また、規模別でも大企業・中堅企業・中小企業のすべてで、悪化の方向が示唆されていて、非製造業ほど悪化の幅が大きい、と見込まれています。製造業については、先進各国がインフレ抑制のために金利を引き上げた結果、景気が減速しており、輸出への影響が懸念される一方で、非製造業では物価上昇による国内消費の停滞や人手不足・人件費高騰の懸念が示されているようです。
業種別に先行き景況感の方向性ほぼ悪化一色となっており、製造業の先行き景況感の変化を少し詳しく見ると、素材業種では鉄鋼が先行き▲18ポイントの悪化、紙・パルプが▲10ポイントの悪化、加工業種でも自動車が▲11ポイントの悪化、などとなっています。食料品の▲10ポイントの悪化は輸出の懸念もあるのでしょうが、国内における物価上昇による消費の低迷という要因も大きそうです。非製造業の先行きでは、電気・ガスの▲13ポイント悪化は別としても、宿泊・飲食サービスの▲12ポイントの悪化はインバウンドに対する期待よりも物価上昇や人手不足・人件費に対する不安を読み取ることが出来ます。ただ、私の斜めの見方では、自動車産業の我が国におけるプレゼンスの大きさを確認した次第です。いずれにせよ、足元では景況感が改善した一方で、国際的な経済環境としては先進各国景気の停滞による輸出の伸びう悩み、国内環境としてはインフレによる国内需要の停滞と人手不足や人件費高騰といった懸念が大きいのではないか、と私は考えています。最後に、2023年度の事業計画の前提としている想定為替レートは、引用した記事にもある通り、9月調査時点では132.43\/$だったのですが、9月調査では135.75\/$でしたが、最新の12月調査では139.35\/$へと、ジワリと円安に修正されています。
続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素感で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業全産業で+12.5%増でしたが、実績は+13.5%でしたので少し上振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が+13.5%増、そして、中堅企業が+12.8%増、中小企業が+10.3%増と、中小企業でも2ケタ増を見込んでいます。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の12月調査ではやや下方修正されましたが、それでも、全規模全産業で+12.8%増の2ケタ増が計画されていますし、まあ、通常の動きの範囲ではなかろうか、と私は受け止めています。
最後に、というか、最後のひとつ前に、引用した記事の最後から2番めのパラで言及されている通り、企業の物価全般に対する見通しは、全規模全産業で1年後+2.4%、3年後+2.2%、5年後+2.1%と、9月調査からほとんど変化なく、5年後でも日銀物価目標の+2%を上回ると見込まれています。他方で、日本経済研究センター(JCER)が実施ているESPフォーキャストの最新で利用可能な11月調査によれば、消費者物価上昇率はこの先低下を続け2024年第4四半期には+2%を下回る、とのエコノミストの予測値総平均が示されています。日銀短観の場合、仕入れ価格を高めに見積もっているだけでなく、自社製品・サービスの販売価格もこれくらい上昇すると見込んでいるのでしょうか。これも、雇用とともに私には謎です。
最後の最後に、金融政策の動向について、足元の景況感を見て金融引締めの根拠とするか、先行きの懸念を見て緩和継続の根拠とするか、どちらとも解釈できる内容の短観結果だと思います。ですので、植田総裁をはじめとする日銀幹部のもともと持っている方向性が示されるものと私は考えています。
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