2か月連続で赤字を記録した11月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲0.2%減の8兆8195億円に対して、輸入額は▲11.9%減の9兆5965億円、差引き貿易収支は▲7769億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
貿易赤字2カ月連続、11月7769億円 赤字幅は62.2%縮小
財務省が20日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7769億円の赤字だった。赤字は2カ月連続で、赤字幅は前年同月に比べて62.2%縮小した。資源高が落ち着いて輸入額が減った。
全体の輸入額は9兆5965億円で11.9%減った。減少は8カ月連続。輸出額は8兆8195億円と0.2%減り、3カ月ぶりに減少に転じた。
輸入は原油が1兆832億円で11.5%減、液化天然ガス(LNG)が4938億円で34.1%減、石炭が4132億円で48.0%減となり、資源関連が全体を押し下げた。
原油はドル建て価格が1バレルあたり93.8ドルと前年同月から6.5%下がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万8741円と4.0%下落した。
地域別にみると米国が1兆101億円で3.5%減、アジアが4兆6530億円で6.7%減だった。
輸出は半導体等製造装置が2833億円で10.6%減少した。米国向けハイブリッド車など自動車や半導体等電子部品は増えた。
地域別では米国向けが1兆8144億円で5.3%増、アジア向けが4兆6023億円で4.1%減だった。
11月の貿易収支は季節調整値でみると4088億円の赤字となった。輸入が前月比で2.7%減の8兆9762億円、輸出が1.8%減の8兆5673億円だった。赤字幅は18.4%縮小した。
やたらと長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、𥬡兆円近い貿易赤字が見込まれていて、予測レンジの上限、というか、もっとも赤字額の小さい額が▲8878億円でしたので、この上限を超えた小さな赤字、ということになります。ただ、それほど大きなサプライズではなかった気がします。他方、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列の統計で見て、まだ11月統計でも赤字幅は縮小したとはいえ▲4000億円を超える赤字が継続していることも確かです。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額の伸びではなく輸入額の減少が貿易赤字縮小の原因です。貿易赤字が続いていますが、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。ただ、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小に向かうと考えている可能性が十分あります。
11月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲7.8%減、金額ベースで▲11.5%減となっています。この差は単価の低下です。LNGは原油からの代替が進んだのか、数量ベースでは▲3.9%減ながら、金額ベースでは▲34.1%と大きな減少となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、原油からの代替が進んだ可能性のあるLNGは減少幅が原油及び粗油ほど大きくはないとしても、こういったエネルギーの輸入については価格と数量の両面から輸入額が減少していると考えるべきです。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+10.7%増となっている一方で、金額ベースでは▲11.8%減と単価に従って輸入額が減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+9.0%増、金額ベースでは+16.3%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械▲10.2%減、電気機器▲0.3%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出額はやや停滞気味です。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出の停滞はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国に起因するものではなく、むしろ、11月統計を見る限り、中国向け輸出額の減少が寄与してい可能性があります。すなわち、例えば、北米向け輸出額は前年同月比で6.6%増、西欧向けも+1.1%増と伸びている一方で、中国向けは▲2.2%減を記録しています。11月単月の統計ながら、北米向け輸出が1.9兆円、西欧向けが1.0兆円に対して、中国向け輸出は1.6兆円に達していますので、不動産業界も含めて中国の景気動向が気にかかるところです。
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