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2023年12月28日 (木)

3か月ぶりに減産を記録した鉱工業生産指数(IIP)と高い伸びが続く商業販売統計をどう見るか?

本日は、役所のご用納めで年末最後の閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.9%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.3%増の13兆8190億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+1.0%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、11月は0.9%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は104.0となり、前月比で0.9%低下した。自動車工業や電気・情報通信機械工業が振るわず、3カ月ぶりのマイナスとなった。
QUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値は前月比1.7%の下落だった。28日の発表では全15業種のうち11業種が低下した。生産の基調判断は「一進一退」で、10月の表現を据え置いた。
2カ月連続で上昇していた自動車工業は前月比で2.5%のマイナスとなった。小型乗用車や自動車用エンジンが伸び悩んだ。
電気・情報通信機械工業は3.5%低下した。10月に海外向けに大きな取引があった反動で、宇宙や軍事関連のレーダー装置が落ち込んだ。コンベヤーや水管ボイラーといった汎用・業務用機械工業は3.8%下落した。
上昇した4業種のうち、生産用機械工業は1.6%のプラスとなった。国内外問わず半導体製造装置の出荷が好調だった。プラスチック製品工業は0.5%上昇した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は12月に前月比で6.0%のプラスを見込む。1月は7.2%のマイナスになる見通しだ。生産計画は上振れする傾向があり、補正後の試算値は12月が前月比3.2%の上昇となる。
経産省の担当者は「金利上昇による世界経済の下振れリスクや、物価上昇の影響に引き続き注視する必要がある」と説明した。
小売業販売額、11月は前年比+5.3% 値上げで食品販売増加=経産省
経済産業省が28日に発表した11月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比5.3%増となった。ロイターの事前予測調査では5.0%増が予想されていた。値上げで食品販売額が増加したほか、自動車の納車状況改善などが寄与した。
業種別の前年比は、自動車が11.3%増、機械器具11.0%増、飲食料品5.8%増など。寄与度が大きかったのは飲食料品と自動車だった。
業態別の前年比は、ドラッグストア9.0%増、百貨店6.6%増、スーパー3.8%増、家電大型専門店3.3%増、ホームセンター3.1%増、コンビニ0.1%増。
ドラッグストアは食品や家庭用品・日用消耗品などが伸びた。物価高の影響で「より安い食品をまとめ買いする需要から、客層が広がっている」(経産省幹部)という。
百貨店は衣料品が増加、衣料品やインバウンドが寄与した。
スーパーは食料品販売が値上げの影響で増えたが「購入点数などで買い控えの影響は続いている」(経産省)という。

いくつかの統計を報じた記事ですので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲1.7%、上限でも▲1.0%の減産でしたので、実績の前月比▲0.9%の減産は、コンセンサスよりもやや上振れしています。上のグラフでも明らかな通り、まさに、生産は横ばい状態が続いていて、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「生産は一進一退で推移している」と前月から据え置いています。ただ、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の12月は補正なしで+6.0%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+3.2%の増産となっていますが、他方で明けて2024年1月は▲7.2%の減産ですので、まさに「一進一退」という気がします。経済産業省の解説サイトによれば、2023年11月統計での生産は、自動車工業の前月比▲2.5%、寄与度▲0.36%をはじめ、我が国のリーディング産業である電気・情報通信機械工業では前月比▲3.5%の減産、寄与度は▲0.30%、汎用・業務用機械工業では、▲3.8の原産、寄与度▲0.30%パーセントポイントでした。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、かなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、直近の11月統計までの3か月後方移動平均の前月比は▲0.1%の低下となっているのですが、「上昇傾向」で据え置いています。さらに、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年11月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+2%台半ばないし後半のインフレを記録していますが、小売業販売額の11月統計の+5.3%の増加は軽くインフレ率を超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。ただ、こういった小売販売額がホントに国内需要に支えられているかどうかは疑問があります。すなわち、インフレの影響は国内では消費の停滞をもたらす可能性が高く、したがって、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性があります。したがって、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、例えば、引用した記事にもあるように、スーパーの販売額が+3.8%で小売業販売額平均の+5.3%を下回っている一方で、百貨店やドラッグストアの伸びが高いのが、インバウンドの象徴のような気もします。引用したロイターの記事で、「スーパーは食料品販売が値上げの影響で増えたが『購入点数などで買い控えの影響は続いている』」というのも気がかりです。

繰り返しになりますが、今日はお役所のご用納めで経済指標についても年内最後の公表ではないかと思います。今年2023年を振り返ってみると、賃金上昇が物価の高騰に追いつかない状態でした。厚生労働省の毎月勤労統計によれば、昨年2022年4月から実質賃金は前年同月比でマイナスを続け、直近で利用可能な2023年10月統計まで1年半に渡ってマイナスが続いています。他方で、法人企業統計に見る企業利益は増加していて、すでに利益剰余金はGDPに匹敵する500兆円半ばに達しています。国民生活を犠牲にして企業利益が積み上がっているとしかいいようがありません。来年2024年はこういったネオリベな傾向を反転させられるような1年になって欲しいと願っています。

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