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2023年12月27日 (水)

日本生産性本部による「生産性評価要因の国際比較」やいかに?

先週金曜日の12月22日、日本生産性本部から「生産性評価要因の国際比較」と題するリポートが明らかにされています。まず、長くなりますが、リポートから[要約]を3点引用すると以下の通りです。

[要約]
  1. 日本生産性本部は、生産性常任委員会(委員長: 福川伸次 地球産業文化研究所顧問/東洋大学総長)に生産性を評価する専門委員会(委員長: 宮川努 学習院大学教授)を設置し、生産性評価要因に関する検討を行った。生産性向上の原動力となる①IT・デジタル化、②教育・人材、③イノベーションの3要因、付加価値創出の持続可能性を問う、④環境、⑤所得分配、⑥サプライチェーンの3要因から生産性を評価し、OECD加盟国及びOECD非加盟のG20諸国の合計46カ国を対象に国際比較を行っている。
  2. 生産性評価要因から日本の現状をみると、「教育・人材」は人材投資(GDP比)などに課題があるものの、良好な学力成績などを反映し、米国やドイツなどより優れている。一方、「IT・デジタル化」や「イノベーション」は、今回比較対象とした46カ国平均こそ上回るものの、OECD加盟国平均並みとなっている。
  3. 日本の生産性が低い要因としては、「付加価値創出力」の低さが挙げられる。これは、ICT資産当たり付加価値(IT・デジタル化」)・STEM人材当たり付加価値(教育・人材)・研究開発費(ストックベース)当たり付加価値(イノベーション)として、それぞれの要素がどれだけ付加価値の創出につながっているかを定量化したもの。いずれの指標も米国やドイツのみならず46カ国平均を下回っており、日本の付加価値を創出する力が国際的にみて低いことを示しており、生産性向上にむけた課題になっている。

従来から、私は日本の労働力は世界的にも優れた教育などから、潜在的な生産性は決して低くないと主張してきましたし、いくつかテーブルを参照しつつ、簡単にこのリポートを取り上げておきたいと思います。

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まず、上のテーブルは、労働生産性とそれを評価する要因、すなわち、[要約]の第1点目に上げられていた6項目のスコアを取りまとめています。リポートp.9から 生産性評価要因のスコア を引用しています。労働生産性は確かにOECD平均と比べても異常なくらいに低いのですが、その要因として生産性本部が上げた6要因のうち、IT・デジタル化がわずかにOECD平均を下回っているだけで、ほかの5要因はすべてOECD平均を上回っています。特に、教育・人材は大きく上回っているのが読み取れます。実に、不可思議極まりありません。労働生産性を規定する6要因のうち5要因が平均以上であるにもかかわらず、しかも、教育・人材に至ってはOECD+G20の46か国中で11位の位置にあるにもかかわらず、それでも、これら6要因の結果として出てくる労働生産性はOECD平均を大きく下回っているわけです。実に不可解・不思議な現象といわざるを得ません。

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続いて、上のテーブルは、6要因のサブカテゴリ別のスコアを取りまとめています。リポートp.11から サブカテゴリ別のスコア を引用しています。OECD平均を下回っているIT・デジタル化の要因を詳しく見ると、基盤(インフラ)と政府の2項目はOECD平均を大きく上回っており、産業化と付加価値総出力が、逆に、大きく下回っていることが明らかです。項目別に見て、政府部門は十分な役割を果たしている一方で、企業部門が大きく立ち遅れているといわざるを得ません。私のドメインである教育・人材についても、同様に、学校教育成績や社会人学力成績は極めて良好ながら、人材投資・育成や付加価値総出力が大きく平均を下回っています。明らかに、政府や学校や労働者の責任ではなく、企業の責任の範囲で日本の労働生産性が低い原因を作っているとしかいいようがありません。イノベーションの付加価値総出力がさらに悲惨な状況であることはテーブルから明らかです。リポートp.11でも、「研究開発に多くを投じている割にそれが付加価値創出に結びついていないことを意味する。」と指摘しています。企業の研究開発投資がうまくいっていないわけです。

公表されたリポートは、繰り返しになりますが、日本の人材の潜在的な優秀性を明らかにするものであり、企業部門において日本の労働力・人的資源を活かしきれていない実情を浮き彫りにしています。特に、イノベーション活動はひどい状況です。これは、いわゆる「選択と集中」の失敗によるものといわざるを得ません。選択先を失敗したわけではありません。逆に、イノベーションのためのは広くリソースを配分する必要があるのですが、成功しそうなところだけに集中的にリソースを配分しようとして失敗しているわけです。言葉を変えれば、「当たる宝くじを買う」ことを狙っているわけで、私には極めて非現実的な戦略に見えます。幅広い対象に向かって実施している教育と真逆の方向を志向するイノベーション戦略の転換も必要です。

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