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2024年1月13日 (土)

今週の読書は環境経済に関する専門書のほか計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、野村総合研究所『排出量取引とカーボンクレジットのすべて』(エネルギーフォーラム)は、2050年を目処としたカーボンニュートラル達成のための排出量取引とカーボンプライシングの一環であるカーボンクレジットについて、いかにもコンサル会社らしく網羅的に情報を集めています。高橋祐貴『追跡 税金のゆくえ』(光文社新書)は、先進国の中でも異常に公的債務が積み上がっている日本の財政の、特に歳出についてのムダを一般財団法人を抜け穴にした予算支出のあり方に一石を投じています。吉田義男ほか『岡田タイガース最強の秘密』(宝島社新書)は、昨年2023年のシーズンにセ・リーグ優勝と日本一に輝いた阪神タイガースの強さの秘密を岡田監督の采配から探ろうと試みています。東海林さだお『パンダの丸かじり』(文春文庫)は『週刊朝日』に連載されていた食べ物に関するエッセイを収録しています。最後に、東海林さだお『マスクは踊る』(文春文庫)はコロナ前後のエッセイとともに、漫画の方も収録しています。
ということで、今年の新刊書読書は先週5冊の後、今週ポストする5冊を合わせて計10冊となります。また、この5冊以外に、綾辻行人『十角館の殺人』も読んでいます。すでに、Facebookでシェアしてあります。

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まず、野村総合研究所『排出量取引とカーボンクレジットのすべて』(エネルギーフォーラム)を読みました。著者は、シンクタンクというか、コンサルタント会社であり、その野村総研のサステナビリティ事業コンサルティング部のスタッフが執筆に当たっています。タイトル通りに、カーボンニュートラルに向けて、二酸化炭素の排出権取引とカーボンクレジットという経済的な対策について網羅的に取りまとめています。今年に入って授業で不得手な農業と環境を講義する必要から、私も大学教員として、不断のお勉強を続けているわけです。ということで、本書でも指摘しているように、2018年4月に閣議決定された「第5次環境基本計画」においても、第1部第3章のp.13から始まる環境政策の基本的手法において7手法を上げていますが、大きく分けて規制的手法と経済的手法に分かれ、その経済的手法のうちでカーボンニュートラルを目指す政策手段の代表的なものが、 本書でいう排出権取引とカーボンクレジット、ということになります。排出権取引が数量アプローチであり、カーボンクレジットは価格アプローチです。カーボンクレジットの代表的なものがカーボンプライシングに基づく炭素税ということになります。数量アプローチの排出権取引は二酸化炭素排出量を確実にコントロールできる一方で、取引上で価格変動が十分ありえますのでビジネス上の不確実性が残ります。他方で、カーボンプライシングに基づく炭素税などの価格アプローチは、主として政府が炭素価格を税法で設定しますので、透明性が高くて価格固定のために安定したビジネス展望が開ける一方で、二酸化棚そ排出量のコントロールは確実ではありません。どちらもメリットとデメリットがあるわけで、本書ではその性格上、価格アプローチと数量アプローチのどちらかに軍配を上げることを明記しているわけではありませんが、世界の趨勢では炭素税などの数量アプローチが主流となりつつある、と私は感じています。特に、政府が炭素税を課す場合、透明性が高くて、しかも、いわゆる2重の配当が得られます。すなわち、炭素税の課税により二酸化炭素排出を減少させるとともに、税収をグリーン公共事業などに振り向けることが出来ます。二酸化炭素排出の量的コントロールは不確実かもしれませんが、税率の修正はそれほど、というか、少なくとも消費税率の引上げよりは国民的な合意が得られやすいように私は感じます。加えて、排出権取引については当初の排出権割当を行う際に、不透明性や利権が生じる可能性があるのではないかと危惧します。炭素税が税制の特徴からして一律に課せられるのに対して、排出権の割当は、過去の実績に基づくグランドファザリングにせよ、産業の技術特性に基づくベンチマーク方式にせよ、入札によるオークションを別にすれば、どうしても不透明性が残ります。最後に、私自身は大学の授業で取り上げてはいるのですが、環境政策に関して、例えば、国連のSDGsとか、日本政府の2050年カーボンニュートラルとかは、ハッキリいって懐疑的です。特に、我が国では2050年にカーボンニュートラ栂達成できるとは、まったく考えていません。まあ、私は2050年には90歳を超えますので見届けることはかないませんが、まあ、達成可能だと考えている人はどれくらいいるのでしょうか。政府の世論調査でも、例えば、2023年7月調査の「気候変動に関する世論調査」でも、2050年カーボンニュートラルが達成可能かどうかの設問はなかったように記憶しています。質問してはいけないのかもしれません。

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次に、高橋祐貴『追跡 税金のゆくえ』(光文社新書)を読みました。著者は、毎日新聞のジャーナリストです。本書では、タイトル通りに、税金のゆくえ、すなわち、政府の歳出についての調査報道の成果を取りまとめています。5章構成であり、それぞれに歳出のムダを指摘しています。一般社団法人を使った電通やパソナなどによる中抜き、オリンピックマネーに注ぎ込まれた政府予算、コロナ対策として緊急性を重視したゼロゼロ融資の不透明性、消防団員への報酬が遊興費に消える昔ながらのしきたり、単年度で消化しきれない防衛費などを基金に積み立てる正当性、となっています。私は60歳の定年まで国家公務員をしていましたから、それなりにこういった予算の使い方を知らないわけでもなく、エコノミストとしてフツーに読み進みましたが、そうでなければ、大きな怒りさえ覚える読者がいそうな気がします。国民として、収めた税金がムダな有効に活用され政策に活かされているのかどうかは、当然に気にかかるところです。しかし、本書の著者による調査の結果は、政府予算の使い方には大いなるクダがある、というものです。電通やパソナが一般社団法人を「活用」して、政府からの収入を大いに中抜して収益を上げているのは、いっぱい報じられているところですし、オリンピックでは贈収賄までして私腹を肥やしている輩がいるのも事実です。コロナ禍の中で経営の苦しい事業者がいたのは事実ですし、救済の必要性は十分理解するとしても、それを悪用するチェックが不十分であるのも確かです。テレビドラマや小説の『ハヤブサ消防団』ではまったく言及されていないものの、地方の消防団員への報酬がジーサンの孫への小遣いに消えているというのショックでした。防衛費はロシアのウクライナ侵攻などに悪乗りする形で大幅な増額が決められてしみましたが、「基金」に積み立てる形で不十分なチェック体制のままに使われようとしています。ただ、本書で指摘されているような税金のムダ使いの大きな原因は、私は政府の公務員が少ないので、支出する政府の側のチェック機能が働いていないせいだと考えています。例えば、経済協力開発機構(OECD)の Government at a Glance 2023 p.181 にあるグラフ 12.1. Employment in general government as a percentage of total employment, 2019 and 2021 を見れば明らかな通り、日本の公務員は先進国の加盟する国際機関であるOECD平均の1/3に達しないくらい少ない水準です。これではチェック機能が行き届かないのは当然だと考えるべきです。本書で指摘するように、増税の前に排除すべき歳出のムダがあるのは確かですが、同時に、政府の機能も考える必要があります。

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次に、吉田義男ほか『岡田タイガース最強の秘密』(宝島社新書)を読みました。著者は、一応、経緯を表してなのでしょうが、何を見ても吉田義男をトップに持って来ていますが、収録順でいうと、掛布雅之、江本孟紀、金村曉、吉田義男、赤星憲広、田淵幸一、改発博明、ということになります。最後の方以外はすべて阪神タイガースOBで有名な方ばかりですが、最後の方は阪神タイガースに好意的な報道を旨とする「デイリースポーツ」のジャーナリスト、いわゆるトラ番記者から社長も務めています。ということで、昨年2023年シーズンにセ・リーグ優勝、そして、パ・リーグ覇者のオリックスを下して日本一に輝いた阪神タイガースについて、特に、タイトル通りに岡田監督の焦点を当てつつ論じています。まあ、阪神ファンであれば、あるいは、それなりのプロ野球ファンであれば、シーズン中からシーズン終了後に聞いたようなトピックばかりですが、改めて振り返るのも、阪神ファンには心地よいものです。岡田監督を褒め称える場合、水際立った試合の采配があります。当然です。横浜戦で代打で左投手を引っ張り出しておいて、代打の代打で原口選手を送ってホームランを打ったり、ジャイアンツ戦で初先発した村上投手を7回パーフェクトのまま交代させたり、あるいは、特に最終盤の日本シリーズでは、初戦で佐藤輝選手に初球から盗塁させて先取点を奪って、結果的に、日本でナンバーワンと目されていた山本由伸投手から大量点を上げ、また、第4戦では長らく戦列を離れていた湯浅投手を起用して甲子園の雰囲気を一変させてサヨナラ勝ちに持ち込んだりといったところです。ただ、私が注目したのは、これも言い尽くされた感がありますが、得点力向上のためのフォアボールの重視です。しかも、単に選手指導で「フォアボールを重視せよ」というだけではなく、球団の査定システムとしてフォアボールのウェイトを大きくするという制度面での改革に持ち込んだ点が重要と私は考えています。常々、エコノミストとしての私の主張は、気持ちやココロの持ちようだけでは何の解決にもならない、とまではいわないものの、本格的な対策や政策としては、制度的な裏付け、法令による規制、などといったシステムの変更が必要である、というものです。交通安全を願うココロだけでは交通事故死は減少しません。信号や横断歩道や歩道橋を設置し、スピード制限を設けて、加えて、違反した場合の罰則を法令で決めなければ実効ある交通安全対策にはなりません。こういった私のエコノミストとしての従来からの主張が、岡田タイガースのフォアボールの査定アップで証明されたと感じています。

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次に、東海林さだお『パンダの丸かじり』(文春文庫)を読みました。著者は、漫画家、エッセイストであり、本書は『週刊朝日』に連載されていた「あれも食いたいこれも食いたい」というコラムのうち、2018年1-10月掲載分を収録しています。単行本は2020年11月の出版でその文庫化です。出版社によれば、食べ物エッセイ「丸かじり」シリーズの第43弾だそうです。ということで、コラムのタイトル通りに、食べ物エッセイです。ただ、人間が食べるものだけではなく、これまた、タイトル通りに、パンダの食べる笹も含まれていたりします。すべては網羅できませんが、取り上げられている食べ物は、かっぱ巻き、七草粥、芋けんぴといった食品、というかすでに食べられる状態になっているものから、鶏むね肉などの素材まで、いろいろとあります。すべてのエッセイに1編2-3枚の挿絵があるのは漫画家ならではの特技を活かしているといえます。余りに話題が多岐に渡っているので、本書の方向性と異なる2点だけ指摘しておくと、まず、ビビンバです。いうまでもありませんが、丼や炊いたご飯とナムルや肉や卵などの具を入れ、よくかき混ぜて食べる料理です。本書の「ビビンバ」ではなく、「ビビンパ」と表記される場合がありますが、私は本書と違って後者の「ビビンパ」と書くのが正しいと思っています。というのは、「ピビン」が「混ぜ」の名詞形で、「パプ」が「飯」の意味となっていて、韓国の文化観光部2000年式のアルファベット表記でも "bibimbap" となるからです。次に、うどんの麺の太さを選ぶ際の無意識の根拠として、心細い時は細麺、心丈夫で心太い時は太麺、普通の時は並麺、というのは、さすがにあんまりだという気がします。まあ、そういった批判的精神を維持しつつ、心安らかに、また、心穏やかに読むべきエッセイだというのは確かです。

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次に、東海林さだお『マスクは踊る』(文春文庫)を読みました。著者は、漫画家、エッセイストであり、本書は『オール読物』の「男の分別学」に収録されていたエッセイ、また、『週刊文春』の「タンマ君」に連載されていたマンガについて、それぞれ2019年から2020年の期間のものを抄録しています。ですので、2020年のコロナ後のエッセイを含んでいますので、タイトルや表紙のようにマスクが登場するわけです。なお、エッセイだけではなく、対談も2本収録されています。エッセイや対談の方にも挿絵が数枚入っています。漫画の方はタンマ君がサラリーマンですから、そういった現役世代の中年を主人公に描かれている一方で、エッセイの方はかなり高齢者を重点にしている印象です。対談のテーマも認知症だったりします。特に、エッセイの後半はコロナの時代に入っているようで、パンデミックのころの運動としてクローズアップしている散歩については、日本人的に何でも「道」に仕立て上げて、散歩道としていろんな散歩を類型化しています。もちろん、マスクについても顔が半分ほども隠れるので、目と口で作られる表情について、なかなかに鋭い指摘をしていたりします。コロナ前と思しきバドミントンをディスるエッセイは、私には理解できませんでした。

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