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2024年2月29日 (木)

1月鉱工業生産指数(IIP)は大きく落ち込み、商業販売統計も伸びが鈍化

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲7.5%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.3%増の13兆8190億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+1.0%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、1月7.5%低下 ダイハツの工場停止響く
経済産業省が29日に発表した1月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は97.6となり、前月比で7.5%低下した。品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響し、低下幅は新型コロナウイルスの感染が広がった20年5月以来の大きさとなった。
生産は全15業種のうち14業種で下がった。QUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中央値は前月比7.6%のマイナスだった。
生産の基調判断は「一進一退」から「一進一退ながら弱含み」と引き下げた。基調判断を変えたのは23年7月以来となる。2、3月は改善を見込むものの、1月のマイナス幅を取り戻すにはいたらないと判断した。
業種別でマイナス幅が大きいのは自動車工業で17.8%だった。国内の乗用車メーカー8社が28日にまとめた1月の国内生産は前年同月比6%減の54万8000台となった。22年12月以来13カ月ぶりに前年同月で減少に転じた。1月の鉱工業生産指数もこうした動きを反映した。
ダイハツ工業では23年12月に認証試験での不正を公表し、2月12日に京都工場で生産を再開させるまで、国内すべての完成車工場で生産を停止していた。
自動車の品質不正を巡っては、豊田自動織機でエンジンの認証手続きに関する問題も表面化している。1月29日に一部の工場で稼働を停止し、2月半ばから徐々に再開している。
医療業界向けの分析機器が低迷した汎用・業務用機械工業では前月比12.6%下がった。電気・情報通信機械工業も8.3%落ち込んだ。海外向けリチウムイオン蓄電池の需要が低迷した。上昇は1業種のみで、自動車を除く輸送機械工業が2.1%上昇した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数をみると2月は前月比4.8%の上昇を見込む。企業の予想値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた補正値は0.8%のプラスだ。3月の予測指数は2.0%の上昇を見込む。
小売業販売額1月は前年比2.3%増、食料・化粧品伸びる=経産省
経済産業省が29日に発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.3%増と23カ月連続でプラスだった。価格上昇を背景に飲食料品や医薬品・化粧品の販売が好調だった。出荷停止の影響で自動車販売はマイナスだった。ロイターの事前予測調査では2.3%の増加が予想されていた。
業種別で寄与度の最も大きかったのは飲食料品と医薬品・化粧品。価格上昇の影響や、家庭用品・日用品の販売が伸びた。
業種別の前年比は無店舗小売りが7.1%増、医薬品・化粧品が5.4%増、百貨店などの各種商品小売りが3.5%増だった。
一方、織物・衣服は8.3%減、自動車小売りは3.5%減だった。暖冬の影響で冬物衣料が不調だった。自動車は一部メーカー生産停止の影響で17カ月ぶりに減少した。
業態別の前年比は、ドラッグストア7.4%増、 百貨店5.9%増、 スーパー2.4%増、コンビニエンスストア1.6%増。
一方、家電大型専門店は5.8%減、ホームセンター0.4%減。昨年1月にウィンドウズ8.1のサポート終了に伴うパソコンの買い替え需要が発生した反動などが響いた。

長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲7.6%でしたので、実績の前月比▲7.5%の減産は、ほぼほぼコンセンサス通りと受け止めています。ただ、大きな減産であることは確かであり、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」から「一進一退ながら弱含み」と前月から半ノッチ引き下げています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の2月は補正なしで+4.8%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+0.8%の増産となっていますが、他方で3月は補正前で2.0%の増産ですので、1月の大きな減産は2-3月では取り戻せないという気がします。経済産業省の解説サイトによれば、1月統計での生産は、自動車工業の前月比▲17.8%、寄与度▲2.48%をはじめ、汎用・業務用機械工業でも▲12.6%の減産、寄与度▲1.01%、電気・情報通信機械工業でも前月比▲8.3%の減産、寄与度は▲0.72%など、我が国のリーディング産業が軒並み減産を示しています。引用した記事にもあるように、自動車工業についてはダイハツの品質不正による工場閉鎖の影響が大きいと私も考えていますが、今年の中華圏の春節は2月であるにもかかわらず、1月生産がここまで落ち込んでいるのは欧米先進国や中国への輸出の影響をうかがわせます。2-3月にもいわゆる挽回生産ノペントアップ需要が十分ではないようですし、生産の先行きはやや不安です。唯一のポジな要素は円安かもしれません。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、直近の1月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.2%の低下となって、先月までの「上昇傾向」から「一進一退」に明確に1ノッチ引き下げています。ただ、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、1月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+2%ほどのインフレを記録していますが、小売業販売額の1月統計の+2.3%の前年同月比での増加は、何とかギリギリでインフレ率を超えている印象で、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。ただ、こういった小売販売額がホントに国内需要に支えられているかどうかは疑問があります。すなわち、現在の高インフレは国内では消費の停滞をもたらす可能性が高く、したがって、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性が否定できません。したがって、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、例えば、引用した記事にもあるように、ドラッグストアや百貨店の販売額の増加率がスーパーやコンビニエンスストアを上回っているのは、インバウンドの影響をうかがわせると私は考えています。

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2024年2月28日 (水)

リクルートによる1月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明後日3月1日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる11月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、昨年2023年10月には+2.3%増となった後、11月12月も+2%台を記録しています。そして、今年2024年1月には+3.3%増となりました。昨日公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が1月統計で+2%でしたから、これくらいでようやく物価上昇率に追いついて、実質賃金がプラスに転じたのではないか、と想像されます。時給の水準そのものは、一昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方も昨年2023年10~11月には+2%を上回る増加を示しましたが、12月には+1.1%増に鈍化し、本日公表の2024年1月になってようやく+3.0%を記録しています。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より3.3%、前年同月よりも+38円増加の1,180円を記録しています。職種別では、「フード系」(+47円、+4.3%)、「販売・サービス系」(+46円、+4.2%)、「営業系」(+40円、+3.4%)、「専門職系」(+42円、+3.2%)、「製造・物流・清掃系」(+32円、+2.8%)、「事務系」(+32円、+2.6%)と、すべての職種で上昇を示しています。加えて、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+3.0%、+48円増加の1,650円になりました。職種別では、「製造・物流・清掃系」(+40円、+2.9%)、「IT・技術系」(+44円、+2.0%)、「オフィスワーク系」(+28円、+1.8%)、「医療介護・教育系」(+25円、+1.7%)、「営業・販売・サービス系」(+20円、+1.3%)で上昇を示した一方で、「クリエイティブ系」(▲26円、▲1.4%)だけは減少を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、従来から、低賃金労働とともに「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきましたが、ジワジワと募集時平均時給の伸びが縮小しています。我が国景気も回復・拡大局面の後半に差しかかり、あるいは、景気後退局面に近づき、雇用の今後の動向が気がかりになり始めるタイミングかもしれません。

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2024年2月27日 (火)

ほぼ2年ぶりの+2%まで縮小した1月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.0%を記録しています。前年比プラスの上昇は27か月連続ですが、先月11月統計の+2.5%のインフレ率からは上昇幅が縮小しています。日銀のインフレ目標である+2%とピッタリでした。ただ、ヘッドライン上昇率は+2.2%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.5%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の消費者物価2.0%上昇 伸び1年10カ月ぶり低水準
総務省が27日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.0%上昇した。伸びは3カ月連続で縮小した。上昇率は22年3月の0.8%以来、1年10カ月ぶりの低水準だった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.8%の上昇だった。23年12月は2.3%上昇だった。プラスは2年5カ月連続となる。
生鮮食品を除く食料や宿泊料は伸びを縮めたものの、依然として高い上昇率が続く。外国パック旅行費もプラスに寄与した。電気代や都市ガス代、固定電話の通信料は指数を下げる方向に働いた。
生鮮食品を除く総合指数の上昇率は日銀の物価安定目標である2%と同じだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は3.5%上がった。生鮮食品を含む総合指数は2.2%上昇した。
総務省によると政府の電気・ガス料金の抑制策がなければ、生鮮食品を除いた総合指数の上昇率は2.6%だった。政策効果で物価の伸びを0.5ポイント程度抑えた。
品目別にみると電気代は前年同月比21.0%、都市ガス代は22.8%それぞれ下がった。政府の料金抑制策で前年同月と比べてマイナスでの推移が続く。都市ガス代の下げ幅は比較可能な1971年1月以降で最大だった。
観光需要の回復が続く宿泊料は26.9%上昇した。前年の23年1月から政府の観光振興策「全国旅行支援」の割引額が縮小し、価格が上昇していた。この反動で23年12月の59.0%プラスから伸びを縮めた。
光回線を使う「IP網」への移行で固定電話の通信料も12.0%下がった。
全体をモノとサービスに分けると、サービスは2.2%伸びた。サービスの伸びは23年7月以降、7カ月連続で2%以上で推移する。
外国パック旅行費は62.9%上昇した。新型コロナウイルス禍の影響で21年1月以降は価格の収集を一時的に取りやめていたため、総務省は「20年1月との比較になっている」と説明した。この項目を除くと生鮮食品を除く総合指数は1.9%の上昇だった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2%を下回るとの予想でしたので、実績の+2.0%の上昇率はやや上振れた印象ながら、サプライズはありませんでした。品目別に消費者物価指数(CPI)を少し詳しく見ると、まず、エネルギー価格については、昨年2023年2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された1月統計では前年同月比で▲12.1%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲1.07%の大きさを示しています。先月の2023年12月統計ではこの寄与度が▲1.02%ありましたので、1月統計でコアCPI上昇率が先月統計から▲0.3%ポイント縮小した背景のひとつは、こういったエネルギー価格の動向にあります。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、1月統計では▲21.0%下落し、寄与度は▲0.90%の大きさを示しています。都市ガス代も▲22.8%下落していて、寄与度が▲0.30%となっています。統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.48%に達しており、うち、電気代が▲0.40%に上ります。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、ガソリン価格は昨年2023年7月統計から上昇に転じ、直近の1月統計では+4.7%となっています。中東の地政学的なリスクも高まっています。すなわち、ガザ地区でのイスラエル軍の虐殺行為、親イラン武装組織フーシによる商船の襲撃なども、今後、どのように推移するかについても予断を許しませんし、食料とともにエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。なお、食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮野菜が+0.11%、生鮮果物が+0.10%の寄与を示しています。鶏卵の前年同月比上昇率も+18.3%と、まだまだ高い伸び率が続いています。コアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、調理カレーなどの調理食品が+0.24%、アイスクリームなどの菓子類が+0.24%、フライドチキンなどの外食が+0.16%、鶏卵などの乳卵類が+0.15%、などなどとなっています。サービスでは、引用した記事にあるように、宿泊料が前年同月比で+26.9%上昇し、寄与度も+0.23%に達しています。もっとも、サービス価格については、上昇の勢いが鈍っている、という見方がある一方で、日経新聞の記事などでは、飲食店、金融機関、病院・診療所については、新型コロナウイルス禍前と比べてサービスの内容が悪化していて、実態的には「ステルス値上げ」が起きている、といった指摘もあったりします。

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2024年2月26日 (月)

2月27日はポケモンデー

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明日2月27日は2024 ポケモンデーです。去年はわずか15秒ながら公式動画があったのですが、今年はないようです(涙)。

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1月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は6か月連続で+2%台の上昇が続く

本日、日銀から昨年1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月から▲0.3%ポイント上昇率が縮小して+2.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても前月から伸びが縮小して+2.1%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、1月2.1%上昇 伸びは鈍化
日銀が26日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は109.8と、前年同月比2.1%上昇した。伸び率は23年12月より0.3ポイント縮小し4カ月ぶりに鈍化したが、6カ月連続で2%台で推移する。ソフトウエア開発や廃棄物処理などの幅広い分野で人件費を価格に反映する動きがみられた。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格変動を表す。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに消費者物価指数(CPI)の先行指標とされる。調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは108品目、下落は22品目だった。
内訳をみると、宿泊サービスが前年同月比で27.0%上昇した。23年1月に政府の観光促進策「全国旅行支援」の割引が縮小して値上げした反動で23年12月(56.6%上昇)より伸び率が縮小したが、インバウンド(訪日外国人)の需要回復が下支えしたことで高い伸びが続いた。
情報通信は前年同月比2.2%上昇した。ソフトウエア開発や情報処理・提供サービスで賃上げやサーバーの管理費の値上げが寄与した。廃棄物処理も2.1%上昇した。燃料費や人件費の上昇を転嫁する動きが影響した。
外航貨物輸送も14.9%上昇した。円相場が24年1月(平均)では1ドル=146円台と、23年1月(1ドル=130円台)より円安が進んだことで円ベースの価格が上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。ただし、指数の基準年が異なっており、国内企業物価指数は2020年基準、企業向けサービス価格指数は2015年です。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速は終了し、2022年12月から指数水準として120前後でほぼほぼ横ばいとなっています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてまだ上昇を続けているのが見て取れます。上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドライン指数の前年同月比上昇率は、今年2023年8月から+2%台まで加速し、本日公表された1月統計では+2.1%に達しています。6か月連続で+2%台の伸びを続けています。ただし、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高いながら、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、物価目標の+2%近傍であることも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率にせよ、国際運輸を除いたコアSPPIにせよ、日銀の物価目標とほぼマッチする+2%程度となっている点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて1月統計のヘッドライン上昇率+2.1%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.84%ともっとも大きな寄与を示しています。ヘッドライン上昇率+2.4%の半分近くを占めています。ただし、先月の2023年12月統計からは寄与度として▲0.19%ポイント縮小しています。引用した記事にもある通り、全国旅行支援が終了した一方でインバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で2023年12月+56.6%の上昇から、2024年1月は+27.0%に上昇率は縮小しましたが、依然として大きな上昇となっています。ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.48%、加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい外航貨物輸送や道路貨物輸送や道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.39%のプラス寄与となっています。運輸・郵便については、引用した記事にもあるように、円安の影響も見逃せません。リース・レンタルについても+0.19%と寄与が大きくなっています。

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2024年2月25日 (日)

スギ花粉は本格的に飛散

昨日2月24日付けで、ウェザーニュースから「全国の飛散状況 2024年春」が明らかにされています下の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。

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はい、もうどうしようもありません。
今年は例年になく目の調子が悪いようで、この花粉シーズンに処方してもらう目薬をすでに5ml入り3本も使い切っています。

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2024年2月24日 (土)

今週の読書は経済書3冊ほか計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、楡井誠『マクロ経済動学』(有斐閣)は景気循環の原因を外生的なショックではなく、設備投資、物価、資産価格に求め、冪乗則を援用してマクロ経済の動学を解明しようと試みている学術書です。野崎道哉『マクロ経済学と地域経済分析』(三恵社)は、ポストケインジアンのモデルに産業連関表を組み合わせたモデルを用いたり、地域産業連関表を用いた分析を試みています。田代歩『消費税改革の評価』(関西学院大学出版会)は、著者の博士号請求論文を基に、消費税と世代間不平等などを分析しています。吉田修一『永遠と横道世之介』上下(毎日新聞出版)は横道世之介シリーズ三部作の完結編であり、39歳になった世之介の日常生活を描き出しています。小林泰三ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』(角川ホラー文庫)と吉岡暁ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成2』(角川ホラー文庫)では、角川書店が主催する日本ホラー小説大賞という新人文学賞の短編賞を集成したアンソロジーです。なお、飯田朔『「おりる」思想』 (集英社新書)も読んだのですが、余りにも出来が悪くて論評するに値しないと考え、取り上げませんでした。
ということで、今年の新刊書読書は1月に21冊、2月第3週までに18冊の後、今週ポストする7冊を合わせて46冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。

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まず、楡井誠『マクロ経済動学』(有斐閣)を読みました。著者は、東京大学の経済学者です。本書では、景気循環の原因を外生的なショック、例えば、戦争とか一次産品価格の上昇とか、海外要因や政策要因などを想定するのではなく、マクロ経済の内生的な同調行動を引き起こす冪乗則 power law を想定してマイクロな経済に基礎を置きつつ、マクロ経済の動学的な運動を解明しようと試みています。なお、出版社からしても明らかに学術書、そして、私の目から見てもかなり高度な学術書です。学部生には読みこなすには大きなムリがありますし、博士前期課程、というか、修士課程の大学院生でもややムリがあり、博士後期課程の院生でなければ十分な理解が得られない可能性があります。ハッキリいって、私も十分に理解できたかどうか自信はありません。ということで、本書は2部構成であり、序章と前半の3章で景気循環理論と対応する経済モデルを解説しています。本書が寄って立つのは、実物的景気循環モデル(RBC)に物価の粘着性を加えて、貨幣と実物の二分法の課程を緩めたニューケインジアン・モデルであり、景気変動の原因としては3つの震源、と本書では表現していますが、要するに経済変動、すなわち、設備投資、物価、資産価格を想定してます。繰り返しになりますが、海外要因や政策要因ではありません。そして、私が往々にして軽視する点のひとつですが、マクロ経済のミクロ的な基礎づけを考え、ミクロの経済行動が冪乗則によってマクロ的な期待値を集計できないようなエキゾチックな波動を考えています。本書では「波動」という言葉を使っていませんが、おそらく、波動なんだろうと私は受け止めています。後半では、景気変動の3つの「震源」、すなわち、設備投資、物価振動、資産価格についてモデルの拡張を含めて論じています。繰り返しになりますが、とても難解な学術書であり、私自身が十分に理解しているかどうか自信がないながら、3点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、合理性についてややアドホックな前提が置かれている気がします。限定合理性を仮定するのか、それとも、消費CAPMのような超合理性を考えるのか、モデルによりやや一貫しないような気がしました。第2に、個別企業の価格付け行動に基づく相対価格の変化が基本的に考えられているようですが、デノミネーションのような貨幣単位の変更といった極端な例を持ち出すのではなく、一般物価水準がマクロ経済に及ぼす影響については、もう少し分析があってもいいのではないか、という気がします。第3に、資産価格については合理的・非合理的を問わず、バブルについての分析が欠けている気がします。バブルによるブームの発生とバブル崩壊による、あるいは、バブル崩壊後の金融危機による景気後退については、もう少し踏み込んだ分析ができないものか、という気がします。ただ、いずれにせよ、トップクラスの経済学の学術書です。おそらく、一般的なビジネスパーソンでは読みこなすのは難しい気がいますが、大学院生にはチャレンジしてほしいと思います。

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次に、野崎道哉『マクロ経済学と地域経済分析』(三恵社)を読みました。著者は、岐阜協立大学の研究者です。出版社は、私の知る限りで自費出版などで有名な会社なのですが、本書が自費出版であるかどうかは言及がなかったと思います。本書は2部構成なのですが、前半と後半はほとんど関連性なく別物と考えたほうがよさそうです。中身は完全な学術書です。一般的なビジネスパーソンには向かないと思いますし、エコノミストでも専門分野が違えば理解がはかどらない可能性があります。ということで、前半部ではマクロ経済分析に関してケインズ型のモデルを考え、理論的な分析を試みています。最初の第1章でケインジアン・モデルについて考え、特に乗数分析についての理論を考察しています。具体的には、ケインズやカレツキの乗数分析をレオンティエフ的な産業連関表に統合した宮澤先生のモデルを用いて、東日本大震災後の宿泊などのリゾート産業における消費減少のインパクトを計測しようと試みています。続いて、第2章で2国間の国際貿易を明示的に取り込んだ理論モデルを基に、動学方程式モデルを用いたシミュレーション分析を実施しています。第3章で急にポストケインジアン・モデルを用いだインフレ目標政策の分析をしています。均衡の安定性が論じられています。第4章では、開放経済体系におけるインフレ目標政策を用いた分析により、積極財政政策と金融政策ルールとしてのインフレ目標が両立することが示されています。第5章では、ポストケインジアンのニューコンセンサス・マクロ経済学(NCM)と呼ばれるISSUE曲線はあるが、LM曲線を必要としない経済学を用いた分析を行っています。特に、バーナンキ教授等が行ったファイナンシャル・アクセラレーター・モデルの含意については、ポストケインジアン飲み方から批判的な検討が加えられています。後半部では産業連関表の作成や利用が中心となります。特に、大垣市の産業連関表の作成にページが割かれています。本書のタイトルの後半部分といえます。ただ、私はこの後半についてはなかなか理解がはかどりませんでした。また、第7章の表7.1と表7.2が10ページ超に渡って、老眼に私には苦しい大きさの数字で延々とデータ試算結果が示されています。これは、紙の印刷物でお示しいただくよりも表計算ファイルのフォーマットでダウンロードできる方が有益ではないか、という気がしました。実は、私も役所の研究所でAPECの貿易自由化政策の推計のために "Protection Data Calculation for Quantitative Analysis of MAPA" という論文を書いて関税率データを計算したことがあります。私の場合は、Excelファイルでダウンロードできるように、すでに25年以上の前の研究成果ながら、今でも国立国会図書館のサイトに収録されています。ご参考まで。

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次に、田代歩『消費税改革の評価』(関西学院大学出版会)を読みました。著者は、札幌学院大学の研究者であり、本書は関西学院大学に提出した博士論文を基にしています。タイトル通りに消費税に関する経済分析なのですが、序章と終章を除いて4章構成であり、世代間の受益と負担の公平性、所得階級別の軽減税率の効果負担の分析、同じく、年齢階級別の軽減税率の効果負担の分析、そして、年齢階級別の限界的税制改革のシミュレーション分析を主たるテーマにしています。博士論文ですので、極めて詳細なデータの出典やモデル構築時の詳細情報が含まれていて、とても参考になります。私自身は大学院教育を受けておらず、もちろん、博士号も取得していないので、こういった大学院生の博士論文を指導する機会はないものと考えますが、何人か博士論文審査の副査を務めた経験もあり、単なる経済学的な興味だけではなく、教育的な経験にもなるのではないか、と考えて読んでみました。まず、博士論文ですから非常に手堅く異論の出ない通説に寄って立った論文だという印象を受けました。例えば、財政に関して世代間の受益と負担の公平性に関しては世代重複(OLG)モデルを用いて分析し、通例、若年者が負担超過で高齢者が受益超過となります。ある意味で、シルバー民主主義の結果なのですが、どうして若年世代、あるいは、極端な場合には、まだ生まれていなくて、これから生まれる将来世代の負担が超過となるかといえば、財政赤字がリカード的に将来返済されると考えるからです。従って、本書のコンテクストでいえば、消費税率が低くて財政赤字が積み上がるような税率であれば、将来負担が大きくなって若年世代や将来世代の負担が、高齢世代よりも大きくなるわけです。逆にいえば、消費税率を高率にして財政赤字が積み上がらない、あるいは、財政赤字が解消されるような税率にすれば世代間の不公平は軽減ないし解消されます。本書では、この世代間不平等を解消する消費税率を24%程度と試算しています。既存研究からしてもいい線だと思います。ただ、ここは経済学の規範性を無視した議論であって、消費税率が24%とかきりよく25%となれば、マクロ経済がどうなるか、といった議論はなされていません。まあ、世代間不公平・不平等を解消するのと景気を維持するのとの間で、どちらにプライオリティを置くかの議論は別なわけです。あと、経済学ですので、評価関数によって差が生じます。すなわち、本書でも、低所得者層に配慮するロールズ的な厚生関数を前提にするのか、そういった違いを考慮せず同じウェイトで考えるベンサム的な厚生関数なのか、で政策評価が異なる例がいくつか示されています。そもそも、アローの不可能性定理によって推移律が成り立たないことから社会的な厚生関数を考えることがどこまで意味あるかは疑問なのですが、本書のような純粋に学術的、あるいは、教育的な経済学を考える場合には意味あるといえます。ちなみに、軽く想像される通り、低所得者層に配慮するロールズ的な厚生関数を前提とすれば、2019年10月から日本でも導入された軽減税率は意味がある、という結論となります。最後に、本書で興味深い点のひとつは、シミュレーションを多用している点です。基礎的で手堅いモデル設定に対して、シミュレーションを用いるのは、これからさらに注目されるかもしれません。

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次に、吉田修一『永遠と横道世之介』上下(毎日新聞出版)を読みました。著者は、日本でももっとも売れていて有名な小説家の1人ではないかと思います。本書は横道世之介シリーズ第3作であり、完結と銘打たれています。一応おさらいですが、シリーズ最初の『横道世之介』では、世之介が長崎から大学進学のために上京した1987年にスタートし、ほぼほぼ大学1年生の時の12か月をカバーしています。本書でも登場する社長令嬢で言葉遣いまでフツーと違う与謝野祥子との恋が私には印象的でした。最後に、16年後の現在である2003年から周囲の人々が世之介を振り返る構成となっています。私は小説を読んだのはもちろん、映画も見ました。2作目の『続 横道世之介』あるいは文庫化されて改題された『おかえり 横道世之介』では大学を卒業したものの、バブル最末期の売り手市場に乗り遅れて、パチプロ、というか、フリーターをしている24才の世之介の1993年4月からの12か月を対象としています。世之介は小岩出身のシングルマザーの日吉桜子と付き合って、世之介が知らないうちに勝手に投稿された写真コンテストで作品が「全量」と評価されて、プロカメラマンに成長していきます。そして、この続編でも27年後の2020年の東京オリンピック・パラリンピックのトピックが最後に挿入されています。今週読んだ第3作では世之介は38才から39才のやっぱり12か月です。もちろん、カメラマンの活動を続ける一方で、「ドーミー吉祥寺の南」なる下宿を所有するあけみと暮らしています。あけみは事実婚のパートナーで、芸者をしていたあけみの祖母が残した下宿を切り盛りしています。学生下宿というわけでもなく、世之介よりさらに年長の勤め人男性、書店員の女性、もちろん学生もいます。そこにさらに知り合いの中学教師の倅で、引きこもり男子高校生まで加わります。その9月から翌年の8月までの12か月が対象です。先輩カメラマンが壁に突き当たって活動を事実上停止したり、後輩カメラマンが子供を授かって結婚したり、緩いながらもいろいろな出来事があります。でも、世之介がいつも考えているのは事実婚のパートナーあけみではなく、付き合った時点で余命宣告されていた最愛の二千花であり、世之介は二千花と過ごした日々を何度も何度も回想します。そして、この作品でも15年後が挿入されています。表紙画像に見られるように、「横道世之介」シリーズ堂々の完結編とうたわれています。三部作の完結のようです。ただ、私は最初の『横道世之介』も読み終えた段階では、これで続編はないものと思っていました。今度こそホントに終わるのでしょうか。もう、世之介はアラフォーに達していますので、決して青春物語ではありませんし、初編と続編のように世之介は成長を見せるわけでもありません。でも、ほのぼのといい物語です。多くの読者にオススメします。

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次に、小林泰三ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』吉岡暁ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成2』(角川ホラー文庫)を読みました。著者は、ホラー小説家がズラリと名を並べています。まずおさらいで、私が調べたところ、現時点では「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」という文学賞があるのですが、これは「横溝正史ミステリ大賞(第38回まで)」と「日本ホラー小説大賞(第25回まで)」を2019年に統合したもので、角川書店の新人文学賞となっています。2019年が第29回ですから、回数は前者の「横溝正史ミステリ大賞」を引き継いでいます。そして、後者の「日本ホラー小説大賞」には、大賞、読者賞、優秀賞といった各賞のほかに、創設された1994年から2011年までは、大賞のほかに長編賞と短編賞に分かれていました。その短編賞を集成したのがこの2冊です。11編の短編が受賞順に収録されています。ただ、1年で2作の受賞作があったり、あるいは逆に受賞作がなかったり、はたまた、受賞したものの、この2冊には収録されていない短編があったりします。私が調べた範囲では、2001年吉永達彦「古川」と2010年伴名練「少女禁区」は収録されていません。理由は不明です。以下、ものすごく長くなりますが、収録順にあらすじです。なお、タイトルの後のカッコ内は受賞年です。まず、『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』から、小林泰三「玩具修理者」(1995年)では、子守していたときに弟を死なせてしまった姉が、何でもおもちゃを修理してくれる玩具修理者のところに死体を持込みます。回想する形の会話でストーリーが進みますが、ラストが秀逸です。沙藤一樹「D-ブリッジ・テープ」(1997年)では、横浜ベイブリッジにゴミとともに捨てられた少年の死体が、今はもう見ない60分テープとともに発見されます。そのテープに収録されていた質疑応答のような会話でストーリーが進みます。節ごとにこの会話と聞いている人たちの感想が交互に盛り込まれています。グロいです。残酷です。希望や救済といったものが微塵も見られません。かなりの読解力を必要とします。朱川湊人「白い部屋で月の歌を」(2003年)では、除霊のアシスタントを務める少年のジュンが主人公で、様々な霊魂を自分の体内に受け入れています。除霊している中で、ジュンは男に刺され魂が抜けた女子に恋してしまい、霊魂を閉じ込める白い部屋から月を眺めたりするわけです。しかし、ジュンの庇護者であり金儲け主義の霊媒師はこの恋を許してくれません。最初が幻想的で、ラストはジュン正体が明らかになってとってもびっくりします。森山東「お見世出し」(2004年)のタイトルは花街で修業を積んできた少女が舞妓としてデビューするための儀式を指します。主人公である綾乃のお見世出しの日は、お盆前の8月8日に決められて、33年前に自殺した幸恵という少女の霊を呼び出していっしょにお見世出しをすることになってしまいます。あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」(2005年)では、主人公の鍵和田は同級生の服部の姉に連れられて、古い家屋を訪れたところ、文化祭のセットで作ったはりぼての風呂があり、お湯も張らずにいっしょにお風呂に入ったりします。なんとも、不条理、シュールで不可解なホラー小説であり、それはそれで背筋が寒くなります。タイトルの由来は読んでみてのお楽しみです。次に、『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成2』から、吉岡暁「サンマイ崩れ」(2006年)のタイトルの「サイマイ」とは、三昧から派生していて方言でお墓のことです。舞台は和歌山県であり、熊野本宮に近い山村が大水害で多くの死傷者を出したと聞き、主人公の男性は精神科の病院を抜け出し、奇妙な消防団員2人と老人といっしょに熊野古道を進み、崖崩れで崩壊した隣村の墓地にたどりつきます。ラストに驚愕します。曽根圭介「鼻」(2007年)では、ややSF的に舞台は鼻の形で人々が二分され、「ブタ」と呼ばれる人たちが「テング」を呼ばれる人たちを差別して、その昔の「民族浄化」のような形で殺戮すらしていたりします。平文の医師が主人公の部分とゴシックの刑事が主人公の部分が交互に現れ、差別に批判的な医師は被差別者を救うために違法な手術をすることを決意する一方で、刑事は少女の行方不明事件の捜査中に、かつて自分が通り魔として傷つけた男に出会ったりします。雀野日名子「トンコ」(2008年)のタイトルであるトンコは、主人公ともいえるメスの子豚の愛称です。高速道路でトラックが横転事故を起こし、搬送中のブタの一部が行方不明になり、そのうちの1匹がトンコなわけです。トンコは山を下って用水路で犬をまいて、海にまで達するうちにいろいろなものに遭遇するわけです。田辺青蛙「生き屏風」(2008年)では、酒屋の主人の死んだ奥さんがあの世から帰ってきて屏風に取り憑いてしまいます。主人は仕方ないので、戻ってきてしまった奥さんの退屈を紛らすため、県境で魔や疫病の侵入から集落を守ってる妖鬼を選んで、酒屋に連れてきて話し相手をさせます。その妖鬼の親の鬼やいろんな話がそもそもホラーなのですが、最後に、屏風の奥さんが海に流して欲しいといい出してちょっとびっくりのラストになります。朱雀門出「寅淡語怪録」(2009年)では、夫婦で町会館の清掃奉仕に来た中年男性の主人公が、その町会館から地域の怪異話を収録している「寅淡語怪録」を持ち帰ります。読み進むうちに、収録されていた怪談の中に現れるぼうがんこぞうを100均ショップで見かけたり、勝負がつかないので組手を解くと3人いたという3人相撲などの怪談と同じ怪異を体験してしまいます。さらに、図書館の書庫に所蔵されている同様の100巻を借り出して、妻とともに怪異のあった場所を訪れたりします。最後に、国広正人「穴らしきものに入る」(2011年)では、主人公の男性は、洗車をしていた際に水道のホースに入って自動車の運転席側から助手席側に移動してしまい、それ以降、いろんな穴を通り抜けることを試みます。難易度でABCにランク付けしたりして一種の冒険を楽しんでいますが、電気の壁コンセントに入ったところで万事休してしまいます。ということで、何といっても新人文学賞ながら「日本ホラー小説大賞」の短編賞を受賞した短編のアンソロジーです。とてもレベルの高いホラー短編が集められています。私の趣味に基づけば、表紙デザインは今年2024年1月早々にレビューした「現代ホラー小説傑作集」の『影牢』や『七つのカップ』に比べてチト落ちるような気がしますが、デザインだけの問題で中身は充実しています。

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2024年2月23日 (金)

いよいよオープン戦が始まる

  RHE
阪  神012000010 491
読  売70000020x 9113

2月も下旬に入って、オープン戦が開幕です。
私は午後から外出して、試合は見ていないのですが、初回から伊藤将司投手が7点取られてしまったようです。この時期ですので勝負は度外視で、佐藤輝選手とミエセス選手のホームランでも楽しみましょう。

今季は連覇目指して、
がんばれタイガース!

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2024年2月22日 (木)

帝国データバンク「2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果やいかに?

昨日2月21日付けで帝国データバンクから「2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査」が明らかにされています。pdfの全文リポートもアップロードされています。デフレ脱却のために賃金動向がとても気にかかるところです。今年2024年度には、過去最高となる59.7%の企業で賃金改善を見込んでいるとの結果が示されています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果のポイントを4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 2024年度、過去最高となる59.7%の企業で賃金改善を見込む。ベースアップは過去最高を記録
  2. 賃金改善の理由、「労働力の定着・確保」が75.3%へ増加、「物価動向」も半数を超える
  3. 賃金を改善しない理由、「自社の業績低迷」が56.3%でトップ
  4. 総人件費は平均4.32%増加見込み、従業員給与は平均4.16%増と試算

ということで、リポートから、いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 2024年度の賃金改善見込み のグラフを引用すると上の通りです。大きな違いではありませんが、2020年度から最近5年間で、もっとも高い59.7%の企業で賃金改善を見込んでいます。逆に、賃金改善が「ない」との回答は13.9%ともっとも低くなっています。また、グラフは引用しませんが、賃金改善の具体的な内容を見ると、「ベースアップ」が53.6%(前年比+4.5%ポイント増)、「賞与(一時金)」が27.7%(+0.6%ポイント増)と、収益見合いの賞与などではなく、ベースアップ中心の賃金改善が予定されています。「ベースアップ」は過去最高となった前年の49.1%をさらに上る勢いです。また、賃金改善があると見込んでいる企業を産業別に見ると、「製造」が64.7%ともっとも高く、「運輸・倉庫」63.7%や「建設」62.5%が続いて高くなっています。

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続いて、リポートから 賃金を改善する理由 (複数回答) のグラフを引用すると上の通りです。2024年度に賃金改善が「ある」と回答した企業の理由は、人手不足などによる「労働力の定着・確保」が75.3%ともっとも高くなっています。また、昨年2023年度から「物価動向」を上げる企業の割合が高くなっているのも見て取れます。グラフは引用しませんが、賃金を改善しない理由としては「自社の業績低迷」がもっとも高いのですが、昨年度2023年の62.2%から今年度2024年度は56.3%までやや低下しています。また、総人件費の増加率は前年度2023年度から平均+4.32%増加すると見込まれ、うち従業員の給与は平均+4.16%、賞与は平均+4.04%、それぞれ増加し、さらに、各種手当などを含む福利厚生費も平均4.06%の増加が見込まれています。

今年は物価と賃金の動向に注目が集まり、デフレ脱却が現実味を帯びています。金融政策ではデフレ脱却前にマイナス金利などの非伝統的政策の解除が先行しかねない勢いですが、マイルドなインフレと賃金の着実な上昇が期待されます。

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2024年2月21日 (水)

再び赤字になった1月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+11.9%増の7兆3326億円に対して、輸入額は▲9.6%減の9兆909億円、差引き貿易収支は▲1兆7583億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

1月の貿易収支1兆7583億円の赤字 輸出の伸び鈍く
財務省が21日公表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆7583億円の赤字だった。赤字幅は前年同月に比べて49.9%縮小した。2カ月ぶりに貿易赤字となった。
全体の輸入額は9兆909億円で、9.6%減った。減少は10カ月連続だ。輸出額は7兆3326億円で11.9%増え、2カ月連続で増加した。
輸入は資源関連が全体を押し下げた。原油が9162億円で9.2%減、液化天然ガス(LNG)が6224億円で28.8%減、石炭が4299億円で43.2%減となった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり85.8ドルと前年同月から2.9%下がった。円安傾向となった影響で、円建て価格は1キロリットルあたり7万7647円と5.9%上がった。
地域別では米国が1兆83億円で6.0%増、アジアが4兆4820億円で7.0%減だった。
輸出は鉱物性燃料が1220億円と32.7%減った。米国向けの自動車や中国向けIC製造用など半導体等製造装置は増えた。地域別にみると米国向けが1兆4233億円で15.6%増え、アジア向けが3兆8964億円で13.5%の増加となった。
1月の貿易収支は季節調整値でみると2352億円の黒字となった。輸入が前月比で10.5%減の8兆5299億円、輸出が3.6%減の8兆7652億円だった。

長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1.85兆円ほど貿易赤字が見込まれていましたので、大きなサプライズはありませんでした。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額が伸びていないわけではなのですが、それよりも輸入額の減少が現状の貿易統計の大きな特徴です。報じられているように、季節調整していない原系列の統計ではまだ貿易収支は赤字ですが、引用した記事にもある通り、季節調整済みの系列では2021年5月以来久々の黒字、+2000億円余りを記録しています。ただし、中華圏の春節のカレンダーがイレギュラーになっていて、昨年2023年は1月22日から春節が始まった一方で、今年2024年は2月10日からとなっています。ですから、季節調整がどこまでこういった中華圏の春節要因を除去できているか、私には少し疑問です。ひょっとしたら、昨年と今年のそれぞれの1-2月を合計して、というか、平均して見る必要があるのかもしれません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
1月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲14.2%減、金額ベースで▲9.2%減となっています。数量ベースと金額ベースで大きな差がないというわけですから、価格低下に歯止めがかかりつつあると考えるべきです。LNGについても同様で、数量ベースでは▲10.5%減、金額ベースでは▲28.8%減となっています。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲5.6%減となっている一方で、金額ベースでは▲11.0%減と単価が低下を始めていることがうかがえます。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数で+16.1%増、金額ベースでも+31.6%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械+5.1%増、電気機器+7.6%増と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーも輸出額を伸ばしています。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国経済の需要要因とともに、円安の価格要因も寄与していると考えられます。すなわち、円・ドルの東京インターバンクの為替相場、スポット中心相場の月中平均で見て、2023年1月の\/$130.20から2024年1月には\/$146.57と12%を超える円安となっています。

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2024年2月20日 (火)

やっぱり2021年からのインフレは供給ショックだったのか?

先週2月15日、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のブログで Supply shocks were the most important source of inflation in 2021-23, but raising rates to curb demand was still appropriate と題する記事が明らかにされています。
何が分析されているのかといえば、米国でのインフレは供給サイドを起点に生じたものであることは確かである一方で、需要サイドの寄与がどうだったかを考えています。すなわち、供給サイドだけの要因であれば、金融政策によって需要を引き締める必要は決して大きくなかったのですが、需要のインフレへの寄与がそれなりにあったとすれば、金融政策による需要引締め策が必要であったということになります。

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まず、上のグラフはピーターソン国際経済研究所のサイトから Figure 1 Deviations from forecast can be shown as demand and supply shocks を引用しています。誰もが経済学と聞いて思い浮かべるであろう需要曲線と供給曲線でもって均衡が決まり、その均衡から供給曲線がシフトした結果を考えようと試みています。見れば明らかな通り、供給ショックであるとすれば、価格が上昇し、すなわち、インフレとなり、産出は減少します。

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続いて、上のグラフはピーターソン国際経済研究所のサイトから Figure 2 Shocks differ across major economies in 2020-21 and 2022-23 を引用しています。需要曲線や供給曲線は描けませんから、その交点の均衡、というか、均衡のシフトのみ示してあります。主要4地域、すなわち、米国、欧州、日本、英国です。2022年2月末のロシアによるウクライナ侵攻の前後で分割しており、左のパネルはウクライナ侵攻前の2021年10~12月期まで、右が侵攻後の2021年10~12月期以降となります。侵攻以前の日本が異常な動きを示していて、明らかに供給曲線に沿って需要曲線がシフトしている可能性が伺えます。そして、侵攻前については、少なくとも米国では需要がプラスの方向のシフトしており、"The results presented here suggest that supply shocks were the main culprit but that demand probably played a supporting role, especially in the United States." この結果は供給ショックが主な原因であるが、特に米国では需要がおそらく補助的な役割を果たしたことを示唆している、と結論しています。ですので、金融政策による需要の引締めは必要であった、ということになります。

という結論を見ると、現状でインフレが低下しつつあり、特に、日本の場合は需要がインフレに対して補助的な役割すら果たさなかったと思うのですが、いかがなものでしょうか?

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2024年2月19日 (月)

2023年12月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2023年12月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+0.7%増の8587億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注23年10-12月1.0%減 3四半期連続マイナス
内閣府が19日発表した2023年10~12月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比1.0%減の2兆5142億円だった。マイナスは3四半期連続。製造業の発注が減少した。
製造業は2.3%減で、2四半期連続のマイナスとなった。船舶と電力を除く非製造業は2.5%増で3四半期ぶりのプラスを確保した。
23年通年は製造業の減少が響き、全体で前年比3.6%減だった。マイナスは20年以来3年ぶりとなる。
内閣府は実績を見通しで割った「達成率」を公表しており23年10~12月期は93.2%だった。達成率は23年7~9月期の94.6%から低下した。
発注した業種ごとにみると、「化学工業」が26.0%減った。化学機械でまとまった受注があった23年7~9月期の反動が出た。「汎用・生産用機械」も9.1%減少した。クレーンやコンベヤーなどの運搬機械のマイナスが響いた。
船舶と電力を除く非製造業では通信業が18.1%増えた。11月に大型案件があった通信業が全体を押し上げた。卸売業・小売業も汎用コンピューターなどの電子計算機が増えてプラスに寄与した。
23年12月末時点の1~3月期の受注額見通しは前期比4.6%増だった。見込み通りなら4四半期ぶりのプラスとなる。製造業が11.7%増で全体をけん引する。モーターや電子・通信機械などの発注が増えると見込む。
23年12月単月の民需は前月比2.7%増の8388億円だった。プラスは2カ月ぶりとなる。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.5%増だった。内閣府は全体の基調判断を1年2カ月連続で「足踏みがみられる」とした。
製造業が10.1%増と2カ月ぶりにプラスだった。業種別では「化学」や「情報通信機械」が押し上げた。
船舶と電力を除く非製造業は2.2%減った。マイナスは2カ月連続。運輸業・郵便業や通信業が減少した一方、電子計算機が増えて金融業・保険業はプラスだった。

四半期統計中心でとても長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+2.5%増でした。予想レンジがかなり広かったとはいえ、下限は+0.1%増でしたので、実績の+2.7%増は大きなサプライズなかったと私は受け止めています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。1年2か月連続の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドで見れば、明らかに下向きとなっています。事実、昨年2023年中、4~6月期▲3.2%減の2兆5855億円に続いて、7~9月期▲1.8%減の2兆5385億円、10~12月期▲1.0%減の2兆5142億円と、3四半期連続で減少しています。ただ、受注水準としてはまだ何とか月次で8,000億円を上回っており決して低くはありませんし、足元の2024年1~3月期の受注見通しは+4.6%増の2兆6294億円と見込まれています。ただし、製造業が2ケタ増と見込まれている一方で、船舶と電力を除く非製造業は▲1.8%減と予想されていて、やや業種でばらつきが見られます。ただ、先行きに関しては、今年2024年1~3月期の受注増見込みはやや慎重に見ておく必要があります。すなわち、引用した記事にもあるように、受注の達成率が低下してきているからです。2023年7~9月期94.6%から10~12月期には93.2%でした。エコノミストの経験的な通説として、この達成率が90%を下回ると景気後退局面入りのひとつのサインとみなされています。私は、先日の2023年10~12月期のGDP養鶏速報1次QEなどを見ても、ひょっとしたら、すでに景気後退局面に入っているかの末芋ゼロではない、と考えていますし、この先、防衛費や子育予算などで国民負担が増加すると本格的な景気後退に入る可能性がさらに高まると考えています。

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2024年2月18日 (日)

Bill Evans の最後の録音 Consecration から You and the Night and the Music

もう説明の必要もありません。
Bill Evans の生前の最後の録音であるアルバム Consecration からアルバム冒頭に収録されている You and the Night and the Music です。

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2024年2月17日 (土)

今週の読書は教育に関する学術書をはじめとして計7冊

今週の読書感想文は教育に関する学術書をはじめとして計7冊、以下の通りです。
まず、経済協力開発機構(OECD)[編著]『教育の経済価値』(明石書店)は先進国が加盟する国際機関が人的資本形成に重要な役割を果たす教育について分析しています。中西啓喜『教育政策をめぐるエビデンス』(勁草書房)は、教育学の観点から少規模学級による学力格差是正効果などの定量的な分析を試みています。万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)は、第170回直木賞受賞作品であり、8月の猛暑の京都の御所グラウンドにおける草野球のリーグ戦に参加した不思議な選手についてのストーリーです。東野圭吾『魔女と過ごした七日間』(角川書店)は、ラプラスの魔女こと羽原円華が知り合った中学生の父親が殺された殺人事件の謎の解明に挑みます。伊藤宣広『ケインズ』(岩波新書)は、戦間期におけるケインズの活動について、対ドイツ賠償問題と英国の金本位制復帰に焦点を当てて議論しています。阿部恭子『高学歴難民』(講談社現代新書)は、博士課程に進んだり海外留学を経験して、高学歴でありながら低所得に甘んじている「難民」について実例を引きつつ考察しています。西村京太郎『石北本線 殺人の記憶』(文春文庫)では、何と、20年間の人工睡眠から目覚めた主人公がバブル期の北海道経済界で注目されていた若手財界人殺害の事件に遭遇します。
ということで、今年の新刊書読書は1月に21冊、2月第2週までに11冊の後、今週ポストする7冊を合わせて39冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。

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まず、経済協力開発機構(OECD)[編著]『教育の経済価値』(明石書店)を読みました。著者は、いわずと知れたパリに本部を置く国際機関であり、日本や欧米をはじめとする先進国が加盟しています。慶應義塾大学の赤林教授が監訳者となっていて、巻末の解説を書いています。かなり学術書に近いのですが、一般の教育関係者やビジネスパーソンにも十分有用な内容です。本書は5章構成となっていて、経済的に人的資本が重要であることを第1章で論じた後、第2章では経済に限定せずに、教育が広範な社会的な成果をもたらす点を指摘し、そして、第3章から第5章は学校教育の実践編となり、財政や予算配分などについて分析しています。私も大学の教員ながら、学校運営についてはシロートですし、ましてや学校財政や予算運営については大した見識があるわけではありませんから、主として、第1章と第2章を中心にレビューしておきたいと思います。まず、本書ではなぜかほとんど言及がないのですが、経済学的には生産関数という理論があり、生産要素、すなわち、資本ストックと労働をインプットして付加価値が生み出される、と考えます。この付加価値の一定期間の合計がGDPなわけで、GDPの伸び率を成長率というわけです。そして、本書でも言及あるように、資本ストックはともかく、もうひとつの生産要素である労働についてはシカゴ大学のベッカー教授の人体資本理論が教育を考える際の経済学の中心となります。人的資本は知識や経験をはじめとするスキルの限定的なストックであるとみなされていました。これはすなわち短期的な成長への寄与を中心に考えられていたことを意味します。しかし、ローマー教授などの内生的成長理論あたりから、人的資本はイノベーションへの貢献や普及を通じて長期的な成長にも寄与する部分が大きいと考えられるようになっています。日本でも「教育は国家100年の大計」といわれるように、人的資本形成に長期的な視点は欠かせません。ただ、2020年以降のコロナ禍の中で財政制約が厳しくなるとともに、目の前の命を救う医療や社会保障に比較して、教育に割り当てられる予算を見直す必要が生じたことも事実です。その上、コロナの前から格差問題がクローズアップされており、教育が経済的な格差にどのような影響を及ぼしてきているのか、といった分析も不可欠になっています。おそらく、教育にはスキル向上を通じた人的資本蓄積に寄与するのはもちろん、それ以上に、経済学的には外部性が大きいという特徴があります。例えば、感染症のパンデミックのケースを考えても、議論の絶えないマスク着用やワクチン接種の問題を差し置いても、衛生状態や栄養摂取の改善などについては、それなりの教育を受けて意識の高い人間が増加すれば、かなりの程度に解決される可能性があります。統計的なエビデンスは必ずしも十分には示せませんが、私の直感では明らかに学歴と喫煙習慣は逆相関しています。また、これも議論が分かれるかもしれませんが、2016年の英国のEU離脱の国民投票では、学歴とremainは正の相関があったと報告されています。加えて、本書では、メンタルヘルスの問題なども教育水準の向上とともに改善される可能性があると示唆しています。ただ、他方で、教育については普遍性と先進性の間にトレードオフがあるのも事実です。日本でいうところの「読み書き算盤」といった基礎的なスキルは義務教育で国民の多くが普遍的に身につける必要がある一方で、高等教育をどこまで普及させるべきかの観点は議論が分かれます。

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次に、中西啓喜『教育政策をめぐるエビデンス』(勁草書房)を読みました。著者は、桃山学院大学の研究者であり、専門は経済学ではなく教育社会学のようです。本書はほぼほぼ学術書と考えていいと思いますが、教育関係者にも配慮しているような気もします。例えば、経済学の学術書であれば、本書第1章の「科学的エビデンスとは何か」なんて議論はすっ飛ばしているような気がします。一般の教育関係者に配慮しているのか、それとも、教育学や教育社会学のエビデンスに対する考え方がまだこのレベルなのかは、私にはよく判りません。そして、本書では科学的エビデンスとは因果関係のことであると見なしています。いつも、私の主張のように、時系列分析の観点からは因果関係とともに相関見解も十分重要だと私は考えているのですが、そこは経済学との違いなのかもしれません。ただ、教育学や教育社会学と経済学で共通する観点、すなわち、実証的な分析と規範的な分析についてはキチンと押さえられています。例えば、本書でも少人数学級の有効性について分析をしているのですが、少人数学級が学習到達度の観点から有効であるかどうかと少人数学級を普及させるべきかどうか、の点は異なる観点から考えられるべき、ということです。経済学も同じで、例えば、財政支出拡大が成長に寄与るるかどうかは実証的に分析できますが、それでは、財政支出を拡大してまで成長を加速させるべきかどうかは別問題です。こういった実証と規範を考えた上で、いくつかの教育に関する論点をフォーマルな定量分析で実証的に明らかにしようと試みています。結論をいくつか抽出すると、まず、少規模学級による学力格差是正効果は小さいものの、その効果は本書では認められています。私のやや古い認識によると、週人数教育は学習到達度にはそれほど有効ではない、というのがこの世界の常識だったような気がしますが、学習到達度ではなく学力格差に着目すると効果あるという結論です。私自身としては一定の留保はつけておきたいと思います。大学のゼミナールが典型なのですが、少人数教育を尊ぶ考えについて、私自身は疑問を持っています。少人数教育ではそれだけ学習に対する圧力、まさに日本的な「圧力」、教師から、あるいは同じ生徒や学生間のプレッシャーがあるので学力への効果があると考えられますが、勉強するしないはそんなことで決まるものではありませんし、とくに、上級校になるに従って学校での学習の比率よりも家庭、というか、自分自身で学習すべき比率が高まりますから、私自身は少人数教育の効果には疑問を持っています。私の直感では、小学校の教員は少人数学級に好意的で、大学の教員はそうでもなさそうな気がします。しおれは、学校での学習と自分自身でやる学習の比率の差であろうと私は考えています。ただ、2点注意すべきなのは、まず、少人数学級ほど教員の負担が小さいことは事実だろうと思います。ですから、本書の分析結果のように、教師のサイドからすれば職務多忙の解消と学級規模の縮小が求められています。そして、従来からの定量分析結果に示されているように、学級規模を縮小させて15~20人くらいを境に学習効果が高まるのは事実だろうとおもいます。ギャクニ、コロナ禍の中で学級規模を40人から35人にしたくらいではほとんど効果はない可能性があると認識すべきです。そして、本書の分析結果として興味深かったのは、日本国民の間では、従来から教育は私的な活動であって、教育の便益は個人に帰属する可能性が高いことから、私的に費用を負担すべきものという感覚が先進各国と比べても高かったと私は認識しているのですが、その意識はかなり変化してきており、公的な支出をより増加させる機運が高まっている、との分析結果が示されています。よく主張される点ですが、日本位の先進国で高等教育機関である大学の無償化が進んでいないのは米国を別にすれば日本くらい、というのがあります。私自身は、大学学費がここまで高いのは雇用慣行の年功賃金が関係していると考えています。すなわち、雇用者の賃金が若年期に生産性より低い賃金しか支給されない一方で、中年以降の子育て期に生産性を上回るので教育費が負担できてしまう、という構図があります。大学の学費を政府が無償にするのではなく、企業に負担させているわけです。もうひとつは、少なくとも1950年代生まれの私くらいまでは、国公立大学は実質的に無償に近かった、という事実があります。私の京都大学の学費は年間36,000円だったと記憶しています。この額であれば、決して私の親は高給取りではありませんでしたが、かなり無償に近い印象でした。ただ、最近時点では国立大学でも年間50万円を大きく上回る学費が必要ですし、公的支出を拡大する機運が高まっているのは、ある意味で、当然かもしれません。

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次に、万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)を読みました。著者は、私の後輩の京都大学ご出身の小説家です。私はこの作者の作品はかなり大量に読んでいると自負しています。そして、この作品は、いわずと知れた第170回直木賞受賞作品です。作者の『鴨川ホルモー』のデビューから16年ぶりの京都を舞台にした青春小説です。本書は2部構成、2本立て、というか、順に短編ないし中編の「十二月の都大路上下る」と表題作の「八月の御所グラウンド」を収録しています。両者は密接にリンクしている連作なのですが、独立して読んでも十分楽しめます。ということで、前者の「十二月の都大路上下る」は全国高校駅伝で京都市内を走る県代表の女子高生が主人公です。この主人公JKは1年生なのですが、前日になって先輩の2年生JKが体調不良で交代で出場することになります。主人公JKは極度の方向音痴の上に、雪が舞う最悪のコンディションで、右に曲がるか左なのかのコースを間違えそうになるところ、よく見かける歩道を並走する人たちにコースを教えてもらいます。しかし、この野次馬の並走者が現在には決してマッチしない服装であり、駅伝翌日の買い物で主人公がそれに気づく、というストーリーです。「八月の御所グラウンド」は主人公が、いかにも京都大学を思わせる工学部の男子大学生になります。自堕落な生活を送ってきた学生なのですが、いよいよ卒業が近づいて卒論単位の条件に指導教員から、何と、夏の暑い真っ盛りの8月の御所グラウンドで開催される「たまひで杯」の野球リーグ戦に優勝するとの条件を示されます。京都の8月という極めて悪条件な天候の中で、野球をするための9人を集めるのに苦労し、中国人の大学院留学生の女性に加わってもらったりしていたのですが、とても不思議な3人組も出場することになります。そして、中国人の大学院留学生が調べたところ、確かに、大学に学籍はあったが、卒業も中退もしていない学徒出陣した学生だったことが明らかになり、さらにさらにで、あの伝説の名投手がピッチャーをしていたのではないか、と示唆されます。そして、中国人の大学院留学生は中国にいたころの経験からトトロを持ち出して、正体が明らかになるともう現れない、と主張しますが、彼らは野球に参加し続けます。はい、いい作品でした。ただ最後に、すごく最近の『ヒトコブラクダ層ゼット』あるいは、文庫化の際にタイトル変更して『ヒトコブラクダ層戦争』は別としても、私はこの作者の割合と初期の作品、特に、関西を舞台にした作品が好きです。すなわち、デビュー作の『鴨川ホルモー』、そして、『鹿男あをによし』、『偉大なる、しゅららぼん』、『プリンセス・トヨトミ』の4作です。順に、京都、奈良、滋賀(琵琶湖)、大阪を舞台にしています。これら4作品と本作品を合わせて5作のうちで、この作品『八月の御所グラウンド』が突出した大傑作、という気もしません。むしろ、5作品の中では『プリンセス・トヨトミ』が1番ではないのか、という気すらします。ですから、決してこの直木賞受賞作品をディスるつもりはありませんが、こういった一連の作品を合わせて合せ技1本で直木賞、ということなのではないか、と考える次第です。

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次に、東野圭吾『魔女と過ごした七日間』(角川書店)を読みました。著者は、日本でもっとも人気あるミステリ作家の1人ではないかと思います。この作品は「ラプラスの魔女」シリーズの長編ミステリであり、『ラプラスの魔女』の続編となります。従って、シリーズ作品を時系列的に順に並べると、『魔女の胎動』、『ラプラスの魔女』、そして本作品『魔女と過ごした七日間』となります。本作品は『ラプラスの魔女』から数年を経ていますが、このシリーズを通じて時代設定は近未来、ということになります。ですので、AIが広範に活用されていたりします。主人公は、まあ、シリーズに共通して羽原円華なわけですが、この作品では中学3年生の月沢陸真ともいえます。そして、羽原円華の「ラプラスの魔所」としての特殊な能力については特に本作品では解説なしで始まります。すなわち、羽原円華が糸のないけん玉を操るのを月沢陸真が目撃したりするわけです。羽原円華は独立行政法人数理学研究所で働いており、そこには特殊な能力を持ったエクスチェッドの解明を試みています。といったプロローグにに続いてストーリーが本格的に始まります。月沢陸真の母親は早くに亡くなっていて、その上、本書冒頭で父親の月沢克司が他殺死体となって多摩川で発見されます。父親を亡くした月沢陸真を気づかい、中学校の友人の宮前純也が家に誘い、自動車修理工場を経営する宮前純也の親も優しく接してくれたりします。月沢陸真の父親の月沢克司は警備会社に勤務していたのですが、その前には見当たり捜査員として町中を流しては指名手配犯を見つけ出す、という刑事をしていました。その月沢克司が他殺死体となって発見されたのですから、当然、警察の捜査が始まります。そして、羽原円華が「ラプラスの魔女」としてその特殊な能力を活かして闇カジノにルーレットのディーラーとして潜入したりするわけです。まあ、ミステリなのであらすじはここまでとします。本書で大きな焦点を当てられているのがDNAを活用した警察の捜査、あるいは、DNAのデータベースです。この作者の作品で、私が読んだ範囲では『プラチナデータ』と同じです。小説そのものは10年以上も前の作品ですが、時代設定は本作品と同じ近未来となります。ただ、極めて記憶容量のキャパに制限大きい私の記憶ながら、重複する、というか、同じ登場人物はいないと思います。最後に、DNAの活用に加えて、AIに対しても作者はかなり明確に否定的な態度を示していると私は受け止めました。例えば、AIによる顔認証や顔貌の識別よりも人間のプロである見当たり捜査員の優秀生を持ち上げたりしているわけです。そのあたりは、私はニュートラルなのですが、読者によっては好みが分かれるのではないかと思います。

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次に、伊藤宣広『ケインズ』(岩波新書)を読みました。著者は、高崎経済大学の研究者であり、専門は現代経済思想史だそうです。本書冒頭に、ケインズ卿はマーシャル以来のケンブリッジ大学の経済学の正当なる継承者であって、断絶を認めるに近いケインズ「革命」があったかどうかは言葉の問題、と指摘しています。まあ、そうなのかもしれません。本書では、第1次世界大戦後の対独賠償の問題を中心に据えて、第2次世界大戦後のブレトン-ウッズ体制については言及がほとんどありません。ケインズについては、2022年11月に平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』をレビューして、戦間期におけるワンマンIMFとしてのケインズの活動を実に見事に捉えていただけに、ブレトン-ウッズ体制構築時の交渉のの欠落や新書という媒体のボリュームの小ささも含めて、本書はやや物足りない気がします。でも、ケインズの「平和の経済的帰結」は極めて重要かつ高名なパンフレットですし、本書でも、ケインズの的確な賠償積算の正しさをあとづけています。この点は、その後にドイツが戦後賠償の過酷さに耐えかねてナチスの独裁を許してしまったという歴史的事実でもって、圧倒的にケインズの見方の正しさが証明されている、と考えるべきです。そういった国際舞台でのケインズの活躍とともに、本書で焦点を当てているのは英国国内の経済問題におけるケインズの考え方と活動です。大きな商店は戦間期の金本位制復帰です。いろんな観点があって、英国は旧平価でもって金本位制に復帰したのは歴史的事実です。そして、我が日本も英国と同じで旧平価で金本位制に復帰しています。ただ、この範囲では同じような経済政策に見えるのですが、本書では、旧平価での金本位制復帰は、ロンドンの国際金融市場としての活力の維持、あるいは、米国ニューヨークに国際金融活動の中心が移行しないような配慮、という観点で考えられた政策です。他方で、ケインズは平価を減価させた水準での金本位制復帰、ないし、金本位制の放棄を念頭に置いていたのですが、これは、国内の経済活動、特に製造業の国際競争力の観点から主張されています。ムリにポンド高の為替レートでもって金本位制に復帰すれば、国内経済はデフレに陥り、製造業の国際競争力は低下します。そして、英国の政策決定はケインズの減価政策を取らずに、旧平価での金本位制復帰を決めたわけです。そのあたりは、私は国内均衡を重視し、現時点からの後知恵とはいえ、国内均衡の重視や国際競争力の維持という観点が、当時は、希薄であったことにやや驚きます。ただ、日本が英国と同じように旧平価で金本位制に復帰したのは、国際金融市場としてのロンドンの地位の維持という政策目標が日本にはないわけですから、単なる誤解というか、経済政策に対する無理解から生じた悲劇であった、と考えるべきです。そして、こういった経済政策に対する無理解から国民生活を苦境に陥れる政策決定は、何と、今でも行われている、と考えられる例が少なくない、と私は指摘しておきたいと思います。

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次に、阿部恭子『高学歴難民』(講談社現代新書)を読みました。著者は、東北大学の大学院修士課程に進み、修士学位を取得した後、犯罪加害者の家族への支援組織を立ち上げて活動しています。間違えてはいけません。犯罪被害者ではなく、犯罪加害者の家族への支援です。本書では、実例に基づきつつ、ということはかなり極端な例である可能性があるわけですが、高学歴者の苦境を分析しています。本書での高学歴者難民とは、博士課程難民、法曹難民、海外留学帰国難民、にカテゴライズされ、いくつか実例を上げつつ、後半の章で家族からのヒアリングや社会構造的な解明を試みています。冒頭に強烈な例を持ってきています。すなわち、博士課程まで大学院を進みながら、結局、安定した職がなくて闇バイトで逮捕されたり、万引きを繰り返したりといった例です。繰り返しになりますが、かなり極端な例ですので、どこまで一般化して考えるかは読者の想定に委ねられている部分が大きいと私は考えます。ただ、おそらく、実例としてはあり得るのだろうと思います。また、法曹難民については、当然ながら、司法試験に合格しなかった人です。合格してしまえば何の問題もないのでしょうが、合格しなければ生活が成り立たない例はあるものと容易に想像されます。ほか、海外留学からの帰国者も含めて、私の実体験からしても、永遠に学生や院生、あるいは、資格試験挑戦者を続けて就職しない、ないし、出来ない人はいることはいます。ある意味で、高学歴難民といえるかもしれません。ただ、本書の著者のように犯罪加害者を身近に接していると、やっぱり、高学歴難民よりも低学歴であるがゆえに低所得の犯罪加害者が割合としては多いのではないか、と私は直感的に考えます。もちろん、高学歴であれば犯罪加害者になる可能性が低いと考える人が多いでしょうから、その反例を持ち出すことには意味があります。他方で、高学歴を目指すこと自体を疑問視するべきではないと私は考えます。私は高学歴そのものは否定されるべきではないと考えますが、博士課程まで終了して博士学位を取得しても、研究職への就職が容易ではないという現実があります。

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最後に、西村京太郎『石北本線 殺人の記憶』(文春文庫)を読みました。著者は、我が国でももっとも多作なミステリ作家の1人です。本書も、この著者の代表作である十津川警部シリーズのトラベルミステリです。本書はややSFがかったミステリで、20年間の人口睡眠から主人公が目覚めるところからストーリーが始まります。その主人公は、父親から受け継いだ銀行経営者であり、バブル期に思い切った融資を実行して、北海道経済界の若手6人衆の1人とされながら、1990年代後半の金融危機で銀行が破綻し、背任容疑で逮捕されて実刑判決を受け、1年半を刑務所で過ごす羽目になってしまいます。そして、刑務所を出所した後、米国NASAの技術に基づく「20年の眠り」に入ったわけですが、20年後の2月に目覚めてみると時代はコロナのパンデミックに入っていたわけです。そして、主人公が目覚めるとともに、連続殺人事件が発生します。バブル期にもてはやされた北韓道の6人衆のうち、主人公を除く経済界の財界人が次々を殺されます。主人公は20年を経て現在でも忠実な女性の秘書と行動をともにし、もう1人の男性秘書がJR石北本線特急オホーツク1号で主人公から目撃されたことから、犯人の可能性があると追跡を始めます。当然、東京でも殺人が発覚し、十津川警部も捜査にあたるわけです。タイトル通りに、北海道内のJR石北本線特急オホーツクでの移動に基づくアリバイトリックがあり、また、北海道にとどまらず、東京や京都でも主人公は出向きます。ただ、最後はややモヤッとした結末です。私には殺人までする動機の強さが理解できなかったのですが、それは、読んでいただくしかありません。小説の中のキャラがそれほど際立っているわけではなく、ハッキリいえば明確ではなく、逆に、ドラマ化はしやすいんではないか、と、ついつい、どうでもよくていらないことを考えてしまいました。

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2024年2月16日 (金)

海外からの国内送金はフィリピンの成長にどのくらい寄与しているのか?

2月1日に、アジア開発銀行(ADB)から "Measuring the Contribution of International Remittances to Household Expenditures and Economic Output" と題するワーキングペーパーが公表されています。引用情報は以下の通りです。

まず、ペーパーからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
The macroeconomic studies that assess the contribution of international remittances to the origin countries of migrants use a different definition of remittances than the microeconomic literature that examines the impact at the household and community levels. This study overcomes this difference in definition by integrating household expenditure data into the input-output analysis. Using the 2018 Family Income and Expenditure Surveys (FIES) of the Philippines, we find that remittance-financed household consumption and investment totaled ₱742.2 billion ($14.1 billion) and contributed 3.5% of the country's total output, 3.4% of gross domestic product (GDP), and 3.7% of total employment in 2018. We note that the largest value added is accruing to the manufacturing sector as it accounts for more than a third of remittance recipients' spending basket followed by the trade and agriculture, forestry, and fisheries sectors, which are closely linked to the manufacturing industry. The international remittances income reported by households is less than half (43.8%) of the ₱1.7 trillion ($32.2 billion) aggregate international remittances reported by the central bank in the same year based on the balance of payments definition.

私は前任校の長崎大学経済学部のころ、国際協力機構(JICA)研究所の特別研究員をしていて、共同研究の成果として紀要論文 "An Essay on Remittances Effects to Economic Development: A Survey" を取りまとめたことがあります。その際に、本国送金が経済成長へどのような影響を及ぼすかについては、外国為替需給に影響を及ぼして、いわゆる「オランダ病」として為替の増価を招く可能性がある一方で、資金アベイラビリティを高めて、また、金融サービスの質の改善も相まって国内の消費や投資が活性化される可能性も否定できない、としつつ、でも結論としては、数十年にわたる民間の所得移転、つまり、海外からの送金(remittances)は、受取国の経済成長にほとんど貢献しておらず、一部の国では成長を遅らせている可能性さえある "decades of private income transfers - remittances - have contributed little to economic growth in remittance-receiving economies and may have even retarded growth in some." としておきました。でも、フィリピンの場合はそれなりのインパクトあるようです。

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まず、上のグラフはペーパー p.11 Figure 1: Philippine Households by Receipt of and Dependence on International Remittances and Income Quintile, 2018 を引用しています。海外からの送金(remittances)を受け取っている家計ほど所得分位5階級で豊かな階級に分類されています。この論文では産業連関表に基づく試算を行っていて、ここではあくまで相関関係ですが、下のテーブルで詳細に論じます。

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次に、上のテーブルはペーパー p.26 Table 5: Estimated Impact of a 10% Increase in Remittance Income by Sector, 2018 を引用しています。テーブルのタイトル通りに、海外からの送金(remittances)が増加するインパクトを産業ごとに見ています。もちろん、農林水産業や鉱業もインパクト大きいのですが、このリポートでは建設業(Construction)、不動産業(Real estate and ownership of dwellings)への誘発効果を強調しています。そして、同時に、宿泊・飲食サービス(Accommodation and food service activities)が次いで大きな誘発効果を示しています。要するに、サービス部門での影響が大きいと結論しています。

最後に、このペーパーでは、海外からの送金(remittances)による家計消費と投資は、2018年にフィリピンの総生産の3.5%(244億ドル)、国内総生産(GDP)の3.4%(119億ドル)、総雇用の3.7%(150万人)に貢献したとの試算結果を示し、シミュレーション分析に基づいて、海外からの送金(remittances)による収入が10%(14億ドルに相当)増加すると、国のGDPがベースライン(2018年の約12億ドル)を0.34%上回る増加につながる "Remittance-financed household consumption and investment contributed to 3.5% of the country's total gross output ($24.4 billion), 3.4% ($11.9 billion) of gross domestic product (GDP), and 3.7% (1.5 million individuals) of total employment in 2018. In our simulation, a general increase in international remittance income of 10% (equivalent to $1.4 billion) leads to an increase in the country's GDP of 0.34 percentage points over the baseline, i.e., about $1.2 billion in 2018." と結論しています。私の紀要論文の結論は、決して間違っていないと思っていたのですが、フィリピンにおける海外からの送金(remittances)の経済的インパクトはかなり大きいのかも知れません。

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2024年2月15日 (木)

2四半期連続でマイナス成長となった10-12月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から昨年2023年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.1%、前期比年率で▲0.4%と2四半期連続のマイナス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.8%に達し、5四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率0.4%減で2期連続マイナス 10-12月、消費不振
内閣府が15日発表した2023年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.1%減、年率換算で0.4%減だった。2四半期連続のマイナス成長となった。個人消費と設備投資を中心に内需が軒並み落ち込んだ。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率1.0%増で、大きく下回った。前期比年率の寄与度は、内需がマイナス1.1ポイント、外需がプラス0.7ポイントとなり、内需の弱さが目立つ。
GDPの過半を占める個人消費は前期比0.2%減で、3四半期連続のマイナスだった。暖冬の影響で衣料品が振るわず、新型コロナウイルス禍からの回復が一服し、外食も落ち込んだ。物価高も響き、アルコール飲料や野菜、ガソリンなどの消費が減った。
消費に次ぐ民間の柱である設備投資も前期比0.1%減で、3四半期連続のマイナスとなった。設備投資は航空機用の発動機部品や通信ネットワークなどに使われるデジタル伝送装置が下押し圧力となった。
企業の設備投資意欲は旺盛だが、人手不足による工場の建設の遅れなど供給面での制約も響いたとみられる。世界的な半導体市場の低迷が底を打ち、半導体製造装置は堅調だった。省力化に向けた受注ソフトウエア投資も伸びた。
民間住宅は前期比1.0%減と2四半期連続のマイナスだった。インフレによる住宅資材の高騰で着工が弱含み、人件費も上昇して出来高に影響が出ているとの見方がある。民間在庫変動の寄与度はマイナス0.0ポイントだった。
公共投資は前期比0.7%減で、2四半期連続のマイナスとなった。22年度の補正予算による押し上げ効果が一巡したとみられる。政府最終消費支出は医療費の減少などで0.1%減った。2四半期ぶりのマイナスとなる。
輸出は前期比2.6%増で、3四半期連続のプラスだった。とくにサービスの輸出が前期比11.3%伸び、全体を押し上げた。大手製薬会社が新型抗がん剤の開発で提携した米国企業から知的財産関連の使用料を受け取った一時的な要因が大きい。
計算上は輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)の日本国内での消費は前期比14.1%増となり、押し上げ要因となった。
輸入は前期比1.7%増で2四半期連続のプラスだった。原油や液化天然ガス(LNG)などの鉱物性燃料の輸入が増えた。輸入はGDPの計算から控除する項目のため、増加は全体を押し下げる。
名目GDPは前期比0.3%増、年率換算で1.2%増と2四半期ぶりのプラスだった。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比で3.8%上昇し、5四半期連続のプラスとなった。
23年の実質GDPは前年比1.9%増、名目は5.7%増でともに3年連続のプラスだった。暦年ではコロナ禍からの経済回復が緩やかに進んでいる。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/10-122022/1-32023/4-62023/7-92023/10-12
国内総生産GDP+0.4+1.1+1.0▲0.8▲0.1
民間消費+0.2+0.8▲0.7▲0.3▲0.2
民間住宅+0.7+0.3+1.8▲0.6▲1.0
民間設備▲0.5+1.6▲1.4▲0.6▲0.1
民間在庫 *(▲0.2)(+0.6)(▲0.2)(▲0.5)(▲0.0)
公的需要+0.8+0.4+0.2+0.0▲0.2
内需寄与度 *(▲0.0)(+1.5)(▲0.7)(▲0.8)(▲0.3)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.4)(▲0.4)(+1.7)(▲0.0)(+0.2)
輸出+1.4▲3.5+3.8+0.9+2.6
輸入▲0.8▲1.6▲3.6+1.0+1.7
国内総所得 (GDI)+0.8+1.8+1.6▲0.6▲0.2
国民総所得 (GNI)+1.3+0.4+2.1▲0.7+0.0
名目GDP+1.9+2.3+2.5▲0.1+0.3
雇用者報酬 (実質)+0.1▲1.5+0.4▲1.0+0.1
GDPデフレータ+1.4+2.3+3.7+5.2+3.8
国内需要デフレータ+3.6+3.2+2.7+2.5+2.0

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10~12月期の最新データでは、前期比成長率がわずかながらマイナス成長を示し、黒い外需のプラス寄与のほかは、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+1%ほどでしたから、実績の年率▲0.4%はやや下ぶれした印象です。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが大きく鈍化して、3四半期連続の前期比マイナスです。3四半期連続のマイナスという符号条件は民間設備投資もまったく同じです。従って、内需寄与度は昨年2023年4~6月期から、これまた、3四半期連続してマイナス寄与となっています。他方で、純輸出の外需は10~12月期にはプラス寄与に転じています。また、報道ではほとんど注目されていないのですが、公的需要が7~9月期の伸びがゼロな上に、10~12月期にはとうとう前期比でマイナスになっています。公的需要の中でも、特に、公的固定資本形成、すなわち、公共投資は7~9月期の前期比マイナスに続いて、10~12月期も2四半期連続でマイナスとなっていて、政府は公共投資によって景気を下支えする気はないように見受けられます。ひょっとしたら、財政再建の方に重点を置き始めている可能性が示唆されているのかも知れません。

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上のグラフは、」上のパネルが雇用者報酬、下のパネルが非居住者家計の購入、すなわち、インバウンド消費のそれぞれの推移をプロットしています。特に、先行き日本経済を考える場合、物価上昇の影響を受ける消費については、実質雇用者報酬の動向が懸念されます。すなわち、少し長い目で見て、2019年10月の消費税率引上げにより、消費者の購買力が低下した後、さらに追い打ちをかけるように、雇用者報酬が傾向的に低下を続けています。上のグラフは実質値でプロットしていますので、物価上昇の影響も含まれているとはいえ、これだけ雇用者報酬が低下すれば消費が振るわないのは当然です。今年の春闘はかなり大幅な賃上げ要求が出そろっているとはいえ、賃上げによる雇用者報酬の増加が着実に進まないと、インフレによるダメージをカバーできずに消費への影響はさらに大きくなる可能性もあります。いずれにせよ、日本経済の大きな課題は賃上げがインフレに追いつくかどうか、と私は受け止めています。そうです。物価を抑えるよりも賃上げの方に重点を置くべきです。他方で、下のパネルのインバウンド消費はコロナの分類変更とともに、実に短期間であっさりと過去最高を記録し年率換算では5兆円を突破しています。内外の経済の差がクッキリと現れています。企業の賃上げ動向が政府の政策とともに注目されるところです。

最後に2点指摘しておきたいと思います。まず第1に、朝日新聞「23年の名目GDPは591兆円、ドイツに抜かれ世界4位に転落」日経新聞「名目GDP、ドイツに抜かれ4位 23年4兆2106億ドル」NHK「日本の去年1年間の名目GDP ドイツに抜かれ世界4位に後退」などで盛んに報じられているように、2023年中の我が国GDPは米ドル換算でドイツを下回り、世界で米国、中国、ドイツについで4番目の位置に交代したようです。私はGDPで計測した経済規模はそれなりに重要だと考えています。でも、現時点での計測は為替レートに大きく依存していますので、それほど意味があるとは考えていません。さらに付け加えると、世界で5番目はインドですから、インドにはあっさりと抜かれる可能性が十分あります。第2に、本日公表されたGDP統計は2四半期連続のマイナス成長でしたので、テクニカルな見方だけでなく、実際に景気後退局面入りしている可能性が十分あると考えるべきです。私が見た範囲のリポートでも、ニッセイ基礎研究所みずほリサーチ&テクノロジーズ第一生命経済研究所などでは、今年2024年1~3月期の成長率をゼロないしマイナスと見込んでいるシンクタンクも少なくありません。3月末に政府予算案が国会で可決されれば議論が本格化する可能性が高いと思います。でも、4月には日本銀行がマイナス金利を解除するという見方があります。景気後退局面に入っているにもかかわらず、金融政策が引き締め方向に変更されるのでしょうか。その意味で、政府と日銀で景気認識は一致しているのでしょうか。とても不思議です。

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2024年2月14日 (水)

昨年2023年10-12月期GDP統計速報1次QEの予想は2四半期ぶりのプラス成長か?

少し前の商業販売統計や家計調査をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日2月15日に昨年2023年10~12月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である昨年2023年10~12月期ではなく、足元の1~3月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。そのため、大和総研やみずほリサーチ&テクノロジーズの引用がやたらと長くなっています。いつもは適当に端折るのですが、まあ、今回は長々と引用してみました。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.6%
(+2.5%)
2024年1~3月期の実質GDPも、プラス成長が続く見通し。好調な企業収益が積極的な賃上げや設備投資の拡大につながり、わが国景気は内需主導で緩やかな回復が続く見込み。能登半島地震による影響は限定的と判断。
大和総研+0.2%
(+0.7%)
2024年1-3月期の日本経済は横ばい圏で推移する見込みだ。経済活動の正常化や所得環境の改善などを受けて内需の持ち直しが進むとみられる一方、外需は輸出の反動減によりマイナス寄与に転じよう。
個人消費はインフレ率の低下や賃金上昇による所得環境の改善などを背景に、小幅に増加すると予想する。サービス消費はコロナ禍からの回復余地が依然として大きいこともあり、2023年10-12月期の停滞は一時的とみられる。2024年1-3月期には再び増加に転じよう。財消費のうち、耐久財では自動車の挽回生産が下支えするとみている。
住宅投資は横ばい圏で推移しよう。住宅価格の高騰が続く中、持家を中心に軟調な推移が続くとみられる。
設備投資は増加に転じよう。企業が先送りしてきた更新投資や工場の新設などを含む能力増強投資、人手不足に対応するための省人化投資などが増加すると見込む。デジタル化、グリーン化に関連したソフトウェア投資や研究開発投資も底堅く推移しよう。
公共投資は増加しよう。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするとみられるが、人手不足により回復ペースは緩やかなものになりそうだ。政府消費は、前述のワクチン接種にかかる押し上げ効果が剥落する一方、医療費の増加が全体を押し上げるとみられる。
輸出はサービスにおける反動減が下押し要因となって減少に転じよう。中国経済が回復する一方で米欧経済の減速が見込まれることで、財輸出は伸び悩むとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.6%
(+2.4%)
1~3月期成長率はマイナスに転じる可能性が高いと予測する。サービス輸出の反動減が見込まれることに加え、欧米を中心とした海外経済の減速が外需の重石になるほか、国内で生じた一時的な要因による下押し影響も重なることが経済活動を抑制するだろう。
米国については、10~12月の実質GDP成長率が前期比年率+3.3%と、個人消費を中心に想定を大きく上回る伸びを維持している。移民やプライム層の労働供給が増加することで、雇用の増加と労働需給の緩和が同時に進展し、景気の強さと賃金・物価の減速が両立している状況にある。これまで大幅な利上げが行われた一方で、金融コンディションの緩和や企業債務の減少、株価上昇に伴う家計の資産効果、地方政府による支出の継続などが国内需要の下支えとなり、雇用の深刻な悪化には至らず「ソフトランディング」の可能性が高まったとみている。しかしそれでも、これまでの金融引き締めの影響が企業部門を中心に顕在化することで、2024年前半にかけて景気は減速基調で推移すると予想している。
欧州についても、金融引き締め効果が次第に顕在化し、2023年末から2024年前半にかけて小幅な景気後退に陥ると予想している。利上げの影響等から消費者マインドは低水準が続いており、消費は当面弱含みが続く公算が大きい。需要の弱さを背景にPMIは8カ月連続で50(好不況の節目)割れとなっている。生産も輸送機械や資本財等の減産、化学等のエネルギー多消費業種の低迷が下押し要因になり、減少傾向が継続している状況だ。中東情勢緊迫化による物流網混乱が経済に影響を与えるリスクにも注意が必要だろう。
中国は、サービス消費のリベンジ需要がはく落するほか、不動産部門の調整が長期化する下で景気減速感が強まる展開となるだろう(不動産については、販売低迷により在庫調整のペースが鈍っており、過剰在庫の調整完了時期は2025年以降にずれ込む公算が大きい)。国債1兆元増発によるインフラ投資が先行きの景気下支え要因になる一方、政府は大幅な財政赤字を伴う巨額の景気刺激策に慎重なスタンスであり、成長率鈍化は避けられないとみている。
半導体については、メモリ価格の下げ止まり・ロジック価格の上昇を受けて単価が上昇しており、シリコンサイクルは好転している。一方、上記のとおり当面は米国の景気減速などが最終需要を下押しすると見込まれることから、本格回復はスマホの買い替え等が進む2024年後半以降になる可能性が高いだろう。
以上を踏まえると、1~3月期の財輸出は伸び悩む可能性が高い。インバウンド需要も、中国については国内志向や航空便制約が影響して春節休暇(2/10~17)も大幅な伸びは見込みにくいほか、ASEANや欧州の繰り越し需要も一巡すると予想され、訪日客数はいったん減速が見込まれる。1~3月期の外需に景気のけん引役は期待できないだろう
一方、内需も緩やかな回復にとどまる見通しだ。実質賃金の前年比マイナス幅の縮小ペースが緩やかな中で、当面の個人消費は緩やかな回復にとどまる可能性が高い(消費者物価指数の前年比については、2月に政府の電気・ガス代価格抑制策による押し下げ寄与が剥落することで上昇率が高まる点に留意が必要である)。設備投資も、前述した供給制約が引き続き下押し要因となることで増加ペースが抑制されるだろう。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)をみると、10~11月平均は7~9月平均対比で▲ 1.0%と減少傾向での推移が継続しており、製造業を中心に機械投資の伸び悩みを示唆している。半導体関連産業の在庫調整の進展等を背景に、先行きの設備投資は回復基調を維持するとみているが、急速な回復は期待しにくいだろう。
さらに、1~3月期は令和6年能登半島地震や一部自動車メーカーの生産停止が一時的な下押し要因になるだろう。1月に発生した令和6年能登半島地震の被害状況について、内閣府は住宅・社会インフラ等の資本ストック棄損額を1.1~2.6兆円程度と試算している。2016年の熊本地震について内閣府が資本ストック棄損額を2.4~4.6兆円程度、フローへの影響としてGDP損失額を900~1,270億円程度と推計している点を踏まえて機械的に計算すると、今回の令和6年能登半島地震におけるGDPへの影響は1,000億円程度となる可能性がある。ただし、現時点で被害状況の全容が見えているわけではなく、引き続き状況を注視する必要がある。全国の製造業の付加価値に占める主要被災地域(石川県・新潟県・富山県)のシェアは4%程度であるが、繊維工業(同8%)、生産用機械工業(同7%)、電子部品・デバイス工業(同7%)のシェアがやや大きく、部品等の生産停止が長引けば関連サプライチェーンに悪影響が拡大する可能性があるだろう(実際、足元で一部の自動車メーカーが部品不足により減産を余儀なくされるといった動きが出ている)。地震発生に伴う風評リスクがインバウンド需要の抑制につながる懸念もある。政府には、一日でも早い復旧・復興に向けた取組みが求められる。
一部自動車メーカーの生産停止については、(代替生産・代替需要の動きも出るとみられるものの)生産停止が長引いた場合の影響は相応に大きなものになる可能性がある(報道によると少なくとも2月までは当該メーカーの生産回復は期待しにくい模様である)。経済産業省が本日公表した製造工業生産予測指数をみると、1月の輸送機械工業の計画前月比は▲10.6%(2月は同+0.8%)となっているが、下振れリスクも大きい。
こうした一時的な要因の影響については不確実性が大きいが、現時点では、上記の令和6年能登半島地震や一部自動車メーカーの生産停止により1~3月期のGDPが▲0.4%程度(年率▲1%台後半程度)下押しされると想定している。前述したとおりサービス輸出の反動減が生じることが見込まれる点も踏まえ、1~3月期は2期ぶりのマイナス成長になると予測している。
ニッセイ基礎研+0.2%
(+0.9%)
2023年10-12月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、7-9月期の落ち込みを取り戻すには至らず、景気の回復ペースは依然として緩やかなものにとどまっている。2024年1-3月期は、海外経済の減速を背景に輸出が低迷し、民間消費、設備投資などの国内民間需要も低い伸びにとどまることから、現時点では前期比年率ゼロ%台の低成長を予想している。
第一生命経済研±0.0%
(±0.0%)
先行きについても、牽引役不在のなか、景気の回復ペースは緩慢なものにとどまるだろう。米国景気は足元で依然堅調に推移しているが、方向としては先行き減速していくとみるのが妥当だろう。欧州や中国経済にも多くは望めず、輸出が景気の牽引役となることは期待薄だ。内需についても、コロナ禍からのリバウンドの動きが一巡するなかで引き続き物価高が消費回復の頭を押さえる。景気は今後も停滞感が残るだろう。なお、24年1-3月期については、内需の回復が限定的ななか、サービス輸出で反動減が生じることから、マイナス成長となる可能性が高いと予想している。
伊藤忠総研+0.5%
(+2.0%)
続く2024年1~3月期については、輸出が海外景気の減速により伸び悩むものの、個人消費や設備投資の拡大傾向は維持され、基本的にはプラス成長が見込まれるが、一部自動車メーカーの生産・出荷停止により個人消費や設備投資、在庫投資が落ち込み、実質GDP成長率が大きく押し下げられる恐れがある点に留意が必要であろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.3%
(+1.4%)
2023年10~12月期の実質GDP成長率は、前期比+0.3%(前期比年率換算+1.4%)とプラス成長に転じる見込みである。しかし回復力は力強さに欠け、7~9月期の同-0.7%(同-2.9%)の落ち込みを取り戻すには至らない。
三菱総研+0.6%
(+2.3%)
2023年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.6%(年率+2.3%)と、プラス成長を予測する。
明治安田総研+0.5%
(+2.2%)
先行きについて、まず個人消費は、春闘における高めの賃上げ率が期待できることに加え、物価上昇率の鈍化に伴う実質所得の増加が下支え要因となるため、回復傾向で推移すると予想する。一方、設備投資は、日銀短観など各種調査で見られるとおり計画自体は強いものの、当面は人手不足や資材不足が足枷になるとみられ、緩やかな回復にとどまると見込む。外需にも景気の牽引役は期待しづらい。財輸出に関しては、中国景気の停滞が長引くほか、欧米景気も減速に向かう可能性が高いことから、年の前半を中心に低迷が続くと予想される。インバウンドは引き続き景気の下支え要因になるとみられるが、訪日外客数はすでにコロナ禍前の水準まで戻っており、今後は需要拡大ペースの鈍化が見込まれる。こうした点を踏まえると、2024年の日本景気の回復ペースは緩やかなものにとどまると予想する。

ということで、現在の最新の前期比年率のデータで考えて、2022年10~12月期+1.0%、2023年1~3月期+5.0%、4~6月期+3.6%と、3四半期連続のプラス成長の後、7~9月期に▲2.9%のマイナス成長に陥りましたが、上のテーブルに見る多くのシンクタンクの予想では、10~12月期にはプラス成長に回帰するとの見込みとなっています。ただ、その成長率にはかなり開きが見られるのも事実です。例えば、第一生命経済研究所のゼロ成長もあれば、+2%台半ばの高成長を予測するシンクタンクも少なくありません。基本は、純輸出=外需の見方で違いが生じているのではないか、と私は考えています。私は米国をはじめとして欧米先進国についてはソフトランディングのシナリオが当てはまる一方で、中国の見方が分かれている気がします。そういった中で、単純に平均を取っている日経・QUICKの事前コンセンサスでは+1.1%という数字が明らかにされています。まあ、単純平均であればそうなのかもしれません。ただ、こういった見方の違いにもかかわらず、先行きについては押しなべて停滞ないし横ばい圏内から、見方によってはマイナス成長と、2024年も日本経済の先行きがそれほど明るくないという事実が示されています。大雑把に考えて、昨年2023年10~12月期に高成長を予測するエコノミストは反動を考慮して、今年2024年1~3月期の横ばいないしマイナス成長を見込んでいる気がします。まあ、当然です。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。前期比年率で+2%前後の高成長で純輸出の寄与が大きい、という私の感覚によく合致しています。

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2024年2月13日 (火)

3か月連続で0%台の上昇となった1月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から1月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で保合いとなり、上昇率は12か月連続で鈍化しています。したがって、次の2月統計ではマイナス圏に舞い戻るという可能性もありそうです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業物価、0.2%上昇 3カ月連続0%台
日銀が13日発表した1月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は120.1と、前年同月比で0.2%上昇した。23年12月(0.2%上昇)から横ばいで、3カ月連続で上昇率が0%台となった。政府の補助金が電気・ガスの価格を押し下げたが、飲食料品などの幅広い分野で原材料コストを販売価格に反映する動きがみられた。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。1月の上昇率は民間予測の中央値(0.0%)を0.2ポイント上回った。公表している515品目のうち406品目が値上がりした。
内訳をみると、電力・都市ガス・水道が前年同月比で27.7%下落した。燃料費の下落や政府による電力・ガスの価格抑制策がマイナスに寄与した。日銀の試算によると、抑制策は企業物価指数全体の上昇率を約0.3ポイント押し下げている。
一方、飲食料品は前年同月比で4.4%上昇した。原材料や包装資材のコスト上昇分を販売価格に転嫁する動きが続いている。金属製品も4.1%上昇した。飲料用のアルミニウム製の缶では原材料高のほか、人件費上昇が価格に与える影響もみられたという。
輸入物価は円ベースで前年同月比0.2%下落し、10カ月連続でマイナス圏となった。23年12月(マイナス4.9%)より下落幅が縮小した。

注目の指標のひとつですから、ついつい長くなりますが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の上昇率は前年同月から保合いの±0.0%と見込まれていましたので、実績の+0.2%はやや上振れした印象かもしれません。特に、円ベースの輸入物価は4月統計から前年同月比でマイナスに転じ、1時は2桁マイナスでしたが、1月統計では▲0.2%の下落まで縮小しています。本日公表の企業物価指数(PPI)にはサービスが含まれませんが、他方で、企業向けサービス価格指数(SPPI)は8~12月の統計では5か月連続で前年同月比+2%台を記録しています。しかも、やや上昇率は加速気味だったりしますので、資源高などに起因する輸入物価の上昇から国内物価への波及が、同時に、モノからサービスの価格上昇がインフレの主役となる局面に入る可能性がある、と私は考えています。したがって、日米金利差にもとづく円安の是正については、最近では1ドル150円弱の水準で安定していることも事実であり、経済政策として取り組む必要性や緊急性はそれほど大きくなくなった、と考えるべきです。消費者物価への反映も進んでいますし、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。まあ、それが「迷惑」だという見方も否定はしません。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇・下落率で少し詳しく見ると、引用した記事にもある通り、電力・都市ガス・水道が▲27.7%と下落幅を拡大しています。農林水産物もとうとう▲0.6%の下落に転じましたが、他方、飲食料品は+4.4%の高い上昇率が続いています。ほかに、窯業・土石製品+10.9%、パルプ・紙・同製品+7.1%、石油・石炭製品+6.6%、生産用機器+5.5%、繊維製品+5.0%、などが+5%以上の上昇率を示しています。ただ、ここで上げたカテゴリーをはじめとして多くの品目でジワジワと上昇率が低下してきています。もちろん、上昇率が鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格水準としては高止まりしているわけですし、しばらくは国内での価格転嫁が進むでしょうから、決して物価による国民生活へのダメージを軽視することはできません。特に、農林水産物の価格上昇はストップしたものの、農産物を原料とする飲食料品についてはまだ高い上昇率を続けています。生活に不可欠な品目ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、エネルギーのように石油元売会社や電力会社のような大企業に対して選別的に補助金を交付するよりは、消費税率の引下げとかで市場メカニズムを活かしつつ、国民向けに普遍的な政策を取る方が望ましい、と私は考えています。

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2024年2月12日 (月)

今年の桜開花予想やいかに?

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とても旧聞に属する話題ながら、2月1日にウェザーニュースから2024年 第2回桜開花予想が明らかにされています。上の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。
ウェザーニュースの予想に従えば、ソメイヨシノの開花トップは東京の3月20日で、翌3月21日に福岡が続くと見込みまれています。関東以北では平年より早いものの、関西をはじめとして東海以西では平年並となる予想が示されています。紅葉とともに桜のお花見の名所でもある京都嵐山の開花は3月28日と予想されています。

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2024年2月11日 (日)

ジョージ・ウィンストン Longing Love を聞く

ジョージ・ウィンストンのソロピアノによる Longing Love の演奏です。
判る人には判る、というか、判らない人には判らないと思いますが、最近読んだ塩田武士『存在のすべてを』で繰り返し言及されていた曲です。たぶん、村上春樹の『1Q86』で話題になったヤナーチェクの「シンフォニエッッタ」ほど注目している人は少ないと思いますが、『存在のすべてを』を読んだ人には記憶にあるんではないでしょうか。YouTubeには超ロングバージョンの1時間超の動画がアップロードされていたりします。私自身はピアノを聞くとしても、ほとんどジャズピアノばっかりなので、この演奏はほとんど聞いたことがありません。でも、テレビでコマーシャルソングとして、あるいは、ニュース番組のオープニングなどで聞いたことはあります。写実派の画家が集中力を高めるために聞きそうな音楽、というのはよく理解できます。はい、リラックスするための音楽ではなく、集中力を高めるための音楽だという気がします。

どうでもいいことながら、私のためにYouTubeが用意しいてくれたこの曲の「ミックスリスト」には、なぜか、ビル・エバンスの演奏がかなり大量に含まれていました。よく理解できるところか、思います。

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2024年2月10日 (土)

今週の読書はデータサイエンスの学術書をはじめとして計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、依田高典『データサイエンスの経済学』(岩波書店)は、理論的な面とともに、経済学、特にマイクロな経済学が我が国経済社会での選択にいかに役立つかを解説しています。塩田武士『存在のすべてを』(朝日新聞出版)は、誘拐事件の後3年を経て解放された男児が画家になってメディアに登場したことから、新聞記者が空白の3年を取材で埋めようと試みます。織守きょうや『隣人を疑うなかれ』(幻冬舎)は、連続殺人犯が同じマンションに住んでいるかもしれないという状況で、姉弟の2人が犯人探しを進めます。藤崎翔『モノマネ芸人、死体を埋める』(祥伝社文庫)は、引退した野球選手のモノマネしか出来ない芸人が、その野球選手から死体の処理を依頼されます。話題の達人倶楽部[編]『気の利いた言い換え680語』(青春文庫)は、対人関係の悪化を防止することも視野に入れて、ネガな表現をポジに言い換える例を多数収録しています。
ということで、今年の新刊書読書は1月に21冊、先週6冊の後、今週ポストする5冊を合わせて32冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。
なお、どうでもいいことながら、先週レビューした鳥集徹『コロナワクチン 私達は騙された』(宝島社新書)をFacebookでシェアしたところ、ブックレビューしたスレ主の私を差し置いて、コメント欄がやたらとバズっていたりします。まあ、そろそろ終了ではないかという気がしますが、よく判りません。

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まず、依田高典『データサイエンスの経済学』(岩波書店)を読みました。著者は、私の母校である京都大学経済学部の研究者です。本書は、ビッグデータや人工知能(AI)に先立つ段階からデータを分析する手法をていねいに解説し、理論的な面とともに、経済学、特にマイクロな経済学が我が国経済社会での選択にいかに役立つかを解説しています。データサイエンスとしてデータを集めて分析するという意味で、RCT(randomized controlled trial) や差の差(DID)分析などに加えて、因果推論や機械学習もカバーしています。基本的に学術書であり、大学のレベルや分野によっては修士課程では少し難しい可能性もあります。ですので、一般社会人、というか、ビジネスパーソンの手にはおえないと思います。はい、かくいう私もマクロエコノミストですので、こういったマイクロなデータの分析には少し読み進んで困難を感じています。本書の構成としては三部構成であり、まず、第1部はデータ収集から始まります。ですので、私も総務省統計局でやならいでもなかったアンケート調査の設計から始まります。最近ではネット調査が多くなるんだろうと思います。そして、顕示選好も含めてコンジョイント分析と続きます。第2部では、行動科学の成果フィールド実験におけるも含めたRCTやオプトインとオプトアウトの比較など、そして、第3部では因果推論や機械学習が取り上げられて、コーザル・フォレストや限界介入効果の測定などを例にした議論が進められています。実際の例としては、著者のグループがフィールドで実施したインターネット接続、というか、インターネット接続における需要代替性・補完性の調査、コンジョイント分析では喫煙習慣、時間選好度、危険回避度の測定、そして、ダイナミックプライシングに関してはけいはんな丘陵における電力選択、などなど、実例も豊富に入っています。本書については、キチンと然るべき目的で然るべき水準の知性を持った人が読めば、大いに役立つと思います。そのうえで、少しだけ私の理解がはかどらなかった点を上げておきたいと思います。まず、第1点目は、本書冒頭でも言及されている行動経済学の再現性です。ただ、再現性という点については、私自身がお仕事として従事していた統計局の調査でも、完全な再現性は望めません。調査疲れ(survey fatigue)は避けられませんし、厳密に要求すべきではないのは判っていつつも、それでも気にかかります。世の中には、あれほど騒がれながら、「STAP細胞はあります」とだけ言い残して学界を去った女性もいるわけです。第2に、因果関係がすべてではない点は強調しておきたいと思います。本書での第1部でコンジョイント分析が取り上げられており、あくまでマイクロに原因と結果を追求する姿勢が見られますが、マクロ経済では必ずしも因果関係が重要とは思えない場面もあることは確かです。第3に、こういった資金的に大規模な調査、フィールド実験はそのリソースを持つ大企業に有利な結果をもたらす点は忘れるべきではありません。例えば、ダイナミックプライシングで時間別に電力料金を設定すれば、電力会社は収益アップにつながるのでしょうが、中小企業や消費者はギリギリまで高い料金を請求されるわけで、経済学の専門家であるエコノミストが誰のために研究をしているのか、についてはちゃんと考えるべきだと思います。

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次に、塩田武士『存在のすべてを』(朝日新聞出版)を読みました。著者は、ミステリ作家です。私はグリコ・森永事件を題材にした『罪の声』ほかを読んだ記憶があります。ということで、いや、すごい迫力があり、よく考えられた小説でした。まだ2月も始まったばかりなのですが、ひょっとしたら、私が今年読むであろう中で今年一番のミステリかもしれません。物語は、神奈川県を舞台にした1991年の二児同時誘拐事件から始まります。1人は厚木の小学生男児、もう1人は横浜山手の未就学男児です。厚木の小学生は早々に、そして、横浜山手の男児は身代金受渡しに失敗しながらも、何と、3年後に無事に保護されます。そして、この小説では、後者の3年後に帰還した男児が3年間どこでどう過ごしていたのかについての謎解きを主たるテーマにしています。でも、その謎解きの開始は誘拐事件から30年後という大きな時の隔たりがあり、誘拐事件としては時効が成立しています。謎解きの主役、というか、事実関係を求めて全国を回るのは、誘拐事件当時は入社早々ながら、30年後には地方の支局長になっている大手新聞の記者の門田です。プロローグをおえて、誘拐事件当時の刑事であった中澤が死んで葬式に門田が出席するところから物語の幕が切って落とされます。ひとつのきっかけは、写真週刊誌に新進気鋭で期待の若手写実画家が、この誘拐事件の被害児童であった、とすっぱ抜かれたことです。そして、門田とともに、もう1人、この写実画家の高校時代の同級生であった画廊経営者の娘の里穂もこの画家を探します。もう後は読んでいただくしかありませんが、とても綿密な構成と感動的なストーリーです。特に、ラストはとりわけ感動的です。ということで、本書と深く関係する画壇と美術品について、雑談でごまかしておきたいと思います。ランガー女子による古い古い『芸術とは何か』(岩波書店)に従えば、芸術、もちろん、ハイカルチャーであって、サブカルを含まない芸術には4分野あり、順不同で、美日、文学、音楽、舞踏、となります。このうち、文学についてはグーテンベルク以来コピーがかなり容易になり、大衆性が増しています。音楽と舞踏についても、昨今の技術進歩によりかなりの程度にコピーが普及しています。他方で、美術、絵画や彫刻については、本書でもしてk敷いているように、「一品もの」であって、コピーは容易ではありません。ですから、というか、何というか、クリスチャン・ラッセンのようなデジタルアートでコピーが無制限に可能な絵画は、ややハイカルの中では価値が低いとみなされるわけです。他方、芸術については、特に美術については、経済学的にスピルオーバーが大きく、公共財的な周囲に広く便益を及ぼすことから、そのままでは過小供給に陥る可能性が高くなります。日本ではまだまだですが、欧米では芸術に関してはチャリティをはじめとして、公共的な財源も使って補助がなされています。本書では、公共的な補助はどうしようもなく皆無なのですが、美術愛好家の手厚い援助により芸術家の才能が伸ばされるさまがよく描かれています。美術界の旧弊あるしきたりなんかも、私がよく知らないだけで、本書に書かれている通りなのかもしれません。

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次に、織守きょうや『隣人を疑うなかれ』(幻冬舎)を読みました。著者は、ミステリ作家です。私は『幻視者の曇り空』や『花束は毒』を読んでいます。本書は、同じマンションの連続殺人犯がいるのではないか、という設定のミステリです。謎解きの探偵役は姉弟であり、マンションに住む姉の今立晶と隣接したアパートに住む弟の小崎涼太です。小崎涼太の隣室の土屋萌亜が、殺人事件の被害者のJKを隣のマンションで見たと小崎涼太に相談した直後に行方不明になります。小崎涼太はフリーランスの事件を追うライターなのですが、隣接するマンションに住む姉の今立晶にその話をし、今立晶の高校の同級生だった友人で同じマンションに住む県警刑事にも相談します。他方、土屋萌亜が目撃したJKは3都県にまたがる連続殺人犯の3人目の被害者であり、その手口が25年ほど前の「スタイリスト」と呼ばれた未解決犯の手口に酷似している点が指摘されます。まず、どうして3都県にまたがる連続殺人事件だと判明したのかというと、持ち物リレーが施されていたからで、これが「スタイリスト」とまったく同じであることがキーポイントになります。持ち物リレーとは、この場合、1人目に殺された女性のネックレスが2人目に殺された女性の首にかけられていて、2人目に殺された女性の腕時計が3人目の女性の腕につけられていた、ということです。土屋萌亜はこの3人目の被害者のJKを隣接するマンションで目撃したわけです。ただ、土屋萌亜がJKを目撃した日付から1か月が経過しての殺人事件でしたので、防犯カメラの動画は上書き消去されてしまっていました。そして、探偵役の姉弟がマンションの住人の中に連続殺人犯がいると見立てて、犯人探しを始めます。本書のタイトルはこのあたりの事情を踏まえています。ですから、マンションの隣人が連続殺人犯であっても不思議はないわけで、事実、何度か黒いパーカーの男につけられるケースもあります。本書も、『幻視者の曇り空』や『花束は毒』と同じで、登場人物がかなり少ないです。海外ミステリなんかでは2ダースくらいの登場人物がいて、犯行の動機ある人物だけでも1ダースくらいいる小説が少なくなく、外国人の人名に不案内なことも相まって、なかなか理解がはかどらない場合もあるのですが、この作品の作者の場合、登場人物が少ないにもかかわらずラストで大きなサプライズを用意する、という特徴があります。本書でもそうで、探偵役の姉弟以外には、ほんの一握りの登場人物で、しかも、かなりキャラが明確なので読みやすいといえるのですが、ラストは少しびっくりします。ただ、難点は姉弟の2人の探偵役がいるので仕方ないかもしれませんが、視点が頻繁に入れ替わります。やや読みづらい印象を持つ読者がいそうな気がします。しかも、姉の今立晶がヤンキーの男言葉で語りますから、よりいっそうの混乱を生じかねません。その上、マンションの設定に少し疑問が残ります。マンション住人を片っ端から当たるので、わずか20戸少々という設定なのですが、そんな小規模マンションがどこまで不自然でないと感じるかは読者次第といえます。加えて、今どきのマンションはすべからくオートロックになっています。誰でも簡単にマンション内に入れるわけではありません。特に、関東首都圏のマンションは2重のオートロックになっているケースも少なくありません。少なくとも、我が家が住んでいた城北地区のマンションはそうでした。作者は関西在住なので、関西には私が知る限り2重のオートロックのマンションはほぼぼないのですが、本書の舞台は千葉県ですし、どこまでマンションの実態を作者が理解しているのか、やや疑問に感じないでもないところがいくつかありました。

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次に、藤崎翔『モノマネ芸人、死体を埋める』(祥伝社文庫)を読みました。著者は、お笑い芸人から転じた小説家です。まず、あらすじですが、主人公の関野浩樹はタイトル通りにモノマネ芸人です。マネ下竜司の芸名で、プロ野球の往年の名投手竹下竜司のモノマネ一本で生計を立てています。竹下竜司ご本人にも気に入られ、晩酌のお供をして多額の小遣いまで稼ぐ順風満帆な芸人生活で、アルバイトの必要もなく生活できています。モノマネされているご本人の竹下竜司の方は、若い2人目の夫人と広尾の豪邸に住んでいて、現役時代に稼いだ貯金がワンサカとあって、マネ下竜司にも金払いがよかったりします。その一方で、荒っぽい気性でプロ野球チームのコーチや監督は務まらず、酒と不摂生でぶくぶくと太っていたりもします。ある夜破局が訪れて、竹下竜司は行きずりの女性を殺してしまいます。殺害現場である竹下竜司の広尾の自宅に呼び出された浩樹は愕然とする。竹下竜司が捕まれば、竹下竜司のモノマネしか芸のないモノマネ芸人であるマネ下竜司こと関野浩樹は廃業必至となるわけです。自首を勧めるといった選択肢がないでもなかったのですが、マネ下竜司こと関野浩樹は事件を隠蔽する道を選びます。まず、タイトル通りに、死体を北関東の山中に遺棄し、モノマネ芸人ならではの方法で警察のDNA検査をすり抜けたりします。最後がどういうラストを迎えるのかは読んでみてのお楽しみ、ということになります。ひとつの読ませどころはモノマネ芸人の会話や生活実態です。作者自身が元はといえば芸人さんですから、かなり真に迫ってリアルです。どこまで作者の実体験に基づいているのかは、私には知りようがありませんが、まったく私の知らない世界ですので、かなり面白おかしく接することが出来た気がします。そして、タイトルの死体が登場して埋めるあたりから、後半は怒涛の展開になります。チラッと言及した警察とのやり取りも含めて、なかなかよく考えられています。ラストは少し尻すぼみなのですが、それなりに楽しめます。

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次に、話題の達人倶楽部[編]『気の利いた言い換え680語』(青春文庫)を読みました。著者は、「カジュアルな話題から高尚なジャンルまで、あらゆる分野の情報を網羅し、常に話題の中心を追いかける柔軟思考型プロ集団」と出版社のサイトで紹介されています。本書は、1月末にブック・レビューした『すごい言い換え700語』の続編といえます。基本は、話し相手に不快感を与えないような形の言い換えなのですが、中には意味が違うんじゃあないの、といった例もあったりします。落語家と教員はしゃべるのがお仕事の要ですので、おしゃべりの「極意」とまではいわないとしても、それなりの判りやすい話し方が要求されます。ただ、私の場合は判りやすくかつ正確である必要があると考えています。というのも、今年度後期の期末リポートの採点を終えて成績をインプットしようとしたところ、非常に出来が悪いことに気付かされました。さすがに半分とはいいませんが、かなり高い割合で単位を認めない、「落単」という結果になりそうです。学生の理解が悪いとばかりはいい切れず、私の教え方も悪いのかもしれないと反省しています。ただ、本書のような言い換えで済む問題ではありません。本題に戻って、本書では聞く側の印象をかなり重視しているように見受けられます。典型的には、A but B. であればあとの方のBが強調された形になりますし、逆に、B but A. であればAが強調されます。この例では意味だけですが、言い換えの中にはネガな表現からポジな表現に置き換えるというのが少なくありません。「根暗」を「落ち着いている」とかです。ただ、私は京都人でひねくれた考え方、受け止め方をする傾向にありますので、本書の逆を念頭に人の話を聞いていることが少なくありません。本書では登場しませんが、よく持ち出される例で、「ピアノがうるさい」とはいわずに、「ピアノの練習ご熱心ですね」というのがあります。逆から考えて、「ピアノの練習ご熱心ですね」とまるで褒められているような表現をされたにもかかわらず、「ピアノがうるさい」という意味なんだと理解して、ピアノの練習は控える必要があるのかもしれない、と考えたりするわけです。話す方のサイドでは言い換えになるかもしれませんが、聞く方のサイドになった場合は、素直に聞くだけではダメなのかもしれません。

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2024年2月 9日 (金)

身体的特徴の遺伝と経済的影響やいかに?

海外の学術論文ながら、週末前の軽い話題を提供する、という意味で、NBERワアーキングペーパー "The Economic Impact of Heritable Physical Traits: Hot Parents, Rich Kid?" を取り上げておきたいと思います。タイトルから想像されるように、遺伝的に身体的特徴がどこまで経済的なインパクトを有するのか、について回答しようと試みています。まず、NBERのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
Since the mapping of the human genome in 2004, biologists have demonstrated genetic links to the expression of several income-enhancing physical traits. To illustrate how heredity produces intergenerational economic effects, this study uses one trait, beauty, to infer the extent to which parents' physical characteristics transmit inequality across generations. Analyses of a large-scale longitudinal dataset in the U.S., and a much smaller dataset of Chinese parents and children, show that a one standard-deviation increase in parents' looks is associated with a 0.4 standard-deviation increase in their child's looks. A large data set of U.S. siblings shows a correlation of their beauty consistent with the same expression of their genetic similarity, as does a small sample of billionaire siblings. Coupling these estimates with parameter estimates from the literatures describing the impact of beauty on earnings and the intergenerational elasticity of income suggests that one standard-deviation difference in parents' looks generates a 0.06 standard-deviation difference in their adult child's earnings, which amounts to additional annual earnings in the U.S. of about $2300.

はい、大胆にも美しさ beauty を取り出して、親の身体的特徴が世代間で不平等をどれくらい伝わるか "to infer the extent to which parents' physical characteristics transmit inequality across generations"を推測しようと試みています。その結果、親の容姿の標準偏差が1増加すると、子供の容姿の標準偏差が0.4増加する "a one standard-deviation increase in parents' looks is associated with a 0.4 standard-deviation increase in their child's looks" そして、親の容姿の標準偏差が1大きければ、成人した子供の収入には0.06の標準偏差の差が生じ、これは追加の収入に相当し、米国であれば年収は約2300ドル増加することが示唆される "one standard-deviation difference in parents' looks generates a 0.06 standard-deviation difference in their adult child's earnings, which amounts to additional annual earnings in the U.S. of about $2300." と結論しています。すなわち、親の容姿がよければ子供に遺伝して、子供により高い年収をもたらす、というわけです。

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上のグラフはワーキングペーパーから Figure 1a. Relation of Child's Average Looks Rating to Mother's, Girls & Figure 1b. Relation of Child's Average Looks Rating to Mother's, Boys を引用しています。まあ、ルッキズムの典型です。私自身は、各個人の経済的な境遇は教育や環境だけで決まるものでは決してなく、遺伝的な要因は決して無視できない、と考えています。でも、そんな私でも、経済学の科学的な研究は価値判断を配して客観的に行うべきである、というのは、どうも怪しい、と考えざるを得ません。

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2024年2月 8日 (木)

物価高と震災により現状判断DIが低下した1月の景気ウォッチャーと黒字が続く経常収支

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2023年12月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲1.6ポイント低下の50.2となった一方で、先行き判断DIは+2.1ポイント上昇の52.5を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+7443億円の黒字を計上しています。まず、ロイターのサイトなどから統計を報じた記事を引用すると以下の通りです。

街角景気、1月は1.6ポイント低下 物価高や震災の影響で
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査で、景気の現状判断DIは前月から1.6ポイント低下し、50.2となった。景気判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」と据え置きつつ、「能登半島地震の影響もみられる」と付け加えた。
指数を構成する項目では、家計動向関連DIが前月から2.1ポイント低下の49.5、企業動向関連DIが1.2ポイント低下の50.9だった一方、雇用関連DIは0.6ポイント上昇して53.3となった。
地域別では全国12地域中2地域で上昇、10地域で低下。能登半島地震が発生した北陸地方が9.1ポイント低下し、最も低下幅が大きかった。北陸の百貨店からは「消費マインドが大幅に低下している」、都市型ホテルからは「観光客が激減し、宴会部門も自粛でほぼキャンセルになり、新規予約も入らなくなっている」といったコメントが出ていた。
先行き判断DIは前月から2.1ポイント上昇し52.5となった。内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
経常収支、暦年黒字2年ぶり20兆円超 貿易赤字縮減で倍増
財務省が8日発表した国際収支状況速報によると、2023年暦年の経常収支は20兆6295億円の黒字となった。貿易収支の赤字縮減などで黒字幅が倍増し、2年ぶりに20兆円台を回復した。
通年の経常収支のうち、貿易収支は6兆6290億円の赤字だった。輸出が前年比1.5%増の100兆2743億円だったのに対し、輸入は106兆9032億円と6.6%減少し、赤字幅は前年から縮小した。
稼ぎ頭の第一次所得収支は34兆5573億円の黒字で、ほぼ横ばいにとどまった。
併せて発表された23年12月の経常収支は7443億円の黒字で、黒字幅はロイターの事前予測(1兆0189億円程度の黒字)を下回った。

とても長くなってしまいましたが、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、昨年2023年に入ってから高い水準が続いて、2月以降は12か月連続して50を超えています。ただし、本日公表の1月統計では前月から▲1.6ポイント低下してしまいました。もっとも、長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、50近傍の水準は決して低くない点には注意が必要です。1月統計で上昇した主因はインフレと能登半島地震と考えるべきです。まず、前月から▲2.1ポイント低下した家計動向関連の中でも、飲食関連が▲7.8ポイントと大きく低下しています。企業動向関連は前月から▲1.2ポイントの低下にとどまっていますが、製造業が+0.5ポイント上昇している一方で、非製造業は▲2.5ポイントの低下です。加えて、地域別の現状判断DIの前月差を見ると、引用した記事にもある通り、北陸が▲9.1ポイントと最大の落ち込みを示しています。先行き判断DIも北陸は沖縄とともに前月差マイナスとなっています。ただ、全国レベルでは先行き判断DIが前月から+2.1ポイント上昇していますので、長続きはしない、という受け止めなのかもしれません。従って、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。」で据え置いています。ただ、「令和6年能登半島地震の影響もみられる。」との追加文言もあったりします。また、内閣府のリポートの中の北陸の景気判断理由の概要の中から悪化の判断の理由を見ると、現状判断では「能登半島地震の直接的な被害はほとんどなかったが、予約のキャンセルや自粛ムードにより、客足は止まっている(一般レストラン)。 」とか、先行き判断では「能登半島地震による自粛ムードがすぐに払拭できるとは考えられない。北陸応援割が始まる春以降に期待したい(商店街)。」といった意見が見られます。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用したロイターの記事では、2023年12月単月の経常収支に関する市場の事前コンセンサスは+1兆円余り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同様に+1兆億円余りでしたので、実績の7443億円の黒字はやや下振れした印象です。しかしながら、ウクライナ戦争後の資源価格の上昇に起因する国際商品市況の価格上昇により輸入が大きく増加した局面はすでに過去のものなり、経常黒字の水準はウクライナ戦争の前の状態に戻っています。ですから、2023年12月のように市場の事前コンセンサスを下回っても、もちろん、たとえ赤字であっても、経常収支の水準については何ら悲観する必要はありません。当然、エネルギーや食料をはじめとして経済安全保障には留意する必要はあるものの、資源の乏しい日本では消費や生産のためならエネルギーや食料は輸入すればよく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2024年2月 7日 (水)

暗号資産のマイニングの電力使用は決して小さくない

先週2月1日付けの米国エネルギー情報局 U.S. Energy Information Administration (EIA) から、"Tracking electricity consumption from U.S. cryptocurrency mining operations" と題する分析 IN-DEPTH ANALYSIS が公表されています。長くなりますが、EIAのサイトから冒頭4パラのサマリを引用すると以下の通りです。

Summary
Electricity demand associated with U.S. cryptocurrency mining operations in the United States has grown very rapidly over the last several years. Our preliminary estimates suggest that annual electricity use from cryptocurrency mining probably represents from 0.6% to 2.3% of U.S. electricity consumption.
This additional electricity use has drawn the attention of policymakers and grid planners concerned about its effects on cost, reliability, and emissions. Key challenges associated with tracking cryptocurrency mining energy use include the difficulty of identifying cryptocurrency mining activity among millions of U.S. end-use customers and the dynamic nature of the crypto market, where mining assets can be moved rapidly to areas with lower electricity prices.
We have developed general estimates of electricity use by U.S. cryptocurrency mining operations by employing both top-down and bottom-up approaches. Our top-down approach involves data from the Cambridge Centre for Alternative Finance, which maintains an index that estimates global and national electricity use from cryptocurrency activities. We also developed our own bottom-up approach, which involves collecting data pertaining to the location of individual cryptocurrency mining operations and the amount of electricity each facility says it may use.
In order to develop more rigorous estimates of electricity use by U.S. cryptocurrency miners, we have requested and received an emergency clearance pursuant to Office of Management and Budget (OMB) procedures established at 5 CFR Part 1320, Controlling Paperwork Burdens on the Public. We plan to begin collecting data on a monthly basis from February through July 2024.

サマリ1パラ目にある通り、米国における暗号資産(仮想通貨)のマイニング事業に関連する電力需要は、ここ数年で急速に増加していて、EIAによる推定では、おそらく、暗号資産(仮想通貨)のマイニングによる年間電力使用量は米国の電力消費量の0.6%から2.3%に相当する、ということのようです。下のグラフは、EIAのサイトから Annual electricity generation at five select poer plants with crypt-mining operations (2015-2022) を引用しています。

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はい。まったく意味のない電力消費だと私は思います。暗号資産のマイニングは禁止するに値するという意見に私は同意します。強く同意します。

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2024年2月 6日 (火)

経済成長と二酸化炭素排出はデカップリングするか?

やや旧聞に属する話題ながら、1月31日、国際エネルギー機関(IEA)の解説サイトで The relationship between growth in GDP and CO2 has loosened; it needs to be cut completely と題して、経済成長と二酸化炭素排出の関係がデカップリングしつつある、との記事を見かけました。直訳すれば「経済成長と二酸化炭素排出の関係が乖離しつつある; しかし、乖離するだけではなく完全に関係を切り離さなければならない」とでもなるのでしょうか。
人新世 Anthropocene に入って以来、少し前まで、経済成長とエネルギー消費、そして、二酸化炭素排出は手に手を取って、というか、正の相関を持って増加し続けてきました。しかし、1990年代以降、先進国では経済成長と二酸化炭素排出の関係がデカップリングされてきています。例えば、成長と不平等の経験的な関係を捉えた逆U字型のクズネッツ曲線になぞらえて、成長とともにエネルギー消費や二酸化炭素排出が逆U字型の曲線で、すなわち、初期の早い段階では成長と二酸化炭素排出が正の相関をもって増加するものの、後期には成長が続いても二酸化炭素排出とは負の相関に変化する、という経験則です。これは環境クズネッツ曲線と呼ばれていて、実証的に明らかにされています。実は、私も10年以上も前の長崎大学で紀要論文 "Estimation of Environmental Kuznets Curve for Various Indicators: Evidence from Cross-Section Data Analysis" として取りまとめて実証しています。

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上のいくつかのグラフはIEAのサイトから GDP and CO2 emissions by region を引用しています。上の段の4つのグラフは左から米国、欧州、日本と韓国、オーストラリアとニュージーランド、となっています。下の段は左から中国、インド、アフリカ、ラテンアメリカです。上の段の先進諸国は、日本も含めて、見ての通りで、青いGDPとオレンジの二酸化炭素排出が見事にデカップリンフしていて、GDPが増加を続けている一方で、2022年の時点で、米欧はすでに1990年の水準を下回っており、日韓とオセアニア2国も2030年くらいまでには1990年の水準まで低下することが予想されています。下の段の新興国とアフリカ、ラテンアメリカについても二酸化炭素排出が1990年の水準まで低下することは、現時点では灘見込まれていませんが、GDPの増加から少し距離をおいてしか二酸化炭素排出が増加していないことが見て取れます。

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他方、上の2つのグラフも、同じく、IEAのサイトから GDP and CO2 emissions by region を引用していて、左が東南アジア、右が中東なのですが、見ての通り、二酸化炭素排出量がGDPと同等に増加しています。まだ、デカップリングされていないわけです。

IEAでは、最近のGDPに見る経済成長と二酸化炭素排出の関係の乖離は以下の4要因によるものと指摘しています。

  • Rapid growth in clean energy investment
  • A growing trend of electrification
  • Improvements in technical energy eff iciency
  • Transitions away from coal

加えて、エネルギー集約度がは格段に高い製造業ではなく、サービス産業が成長に寄与している "the services sector has had a larger contribution to economic growth than industry, which is a far more energy intensive" 点も上げています。しかしながら、解説のタイトルに戻るわけで、経済成長と二酸化炭素排出の関係は完全に切断される必要がある、という点が主張されています。

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2024年2月 5日 (月)

在宅勤務技術の進歩は何をもたらすのか?

最近、在宅勤務技術の進歩が何をもたらすのか、についての論文を見かけました。サイテーションは以下の通りです。なお、Review of Economic Studies は、経済学の中ではインパクトファクターの高いジャーナルとして知られています。

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まず、上のグラフは FIGURE 1 Fraction of all days with more than 4 h of work performed only at home, 2003-19 を引用しています。学位が熟練の代理変数として用いられているのですが、学士あるいはそれ以上の修士や博士の学位を持つ高学歴労働者は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの2020年以前から着実に在宅勤務が増えている点が明らかです。他方で、高校卒業以下の労働者はCOVID-19パンデミック以前は、ほとんど在宅勤務が増加していません。

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次に、上のグラフは FIGURE 4 Change in REIT prices from January 1, 2020 to December 31, 2021 を引用しています。ということで、在宅勤務技術の進歩がもたらす在宅勤務の増加によって、オフィス街の不動産価格が低下し、住宅の方の不動産価格が上昇する、それも、アパートメントではなく、家族向けの借家の不動産価格の方がより大きく上昇しているのがグラフから見て取れると思います。まあ、エコノミストが考えるのはこういった不動産に及ぼす経済効果なんかなんでしょうね。家族の絆とか、地域の活性化とか、そういった価値観はなかなか計測が難しくて、エコノミストの目には入らないのかもしれません。

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2024年2月 4日 (日)

退職記念講義を終える

先週1月末に、退職記念講義に臨みました。
よくあるパターンは、本来の講義の最終回をもって当てるのだそうですが、私はよく分からずに、別途の機会を設けてもらい、「日本の財政赤字と公的債務をどう考えるか?」とのテーマで講義しました。ほとんど、無観客を前提にしていましたが、DVDに動画を収録してくれるというので、講義というよりは講演会に近い形で1時間ほどおしゃべりしています。下の写真は、講義をしているところと、修士論文を指導しているインドネシア人院生から花束贈呈の場面です。

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2024年2月 3日 (土)

今週の読書は高圧経済に関する経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、原田泰・飯田泰之[編編]『高圧経済とは何か』(金融財政事情研究会)は、需要が供給を超過する高圧経済の特徴について、エコノミストだけではなく一般ビジネスパーソンにも判りやすく解説しています。宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)は、本屋大賞にもノミネートされた前作『成瀬は信じた道をいく』の続編であり、成瀬あかりの大学入試や大学生になった後のびわ湖観光大使としての活動などのパーソナル・ヒストリーを追っています。長岡弘樹『緋色の残響』(双葉社)は、『傍聞き』の表題作で主人公を務めた杵坂署のシングルマザー刑事の羽角啓子と1人娘の菜月が母娘で事件の解決に当たります。もう、文庫本が出ているのですが、私は単行本で読んで、新刊書読書とはいえ4年ほども前の出版なのですが、次の作品との関係で取り上げてあります。その次の作品、長岡弘樹『球形の囁き』(双葉社)は、『傍聞き』の表題作で主人公を務めた杵坂署のシングルマザー刑事の羽角啓子と1人娘の菜月が母娘で事件の解決に当たります。一気に時間が流れて、啓子は定年退職してからも再雇用で犯罪捜査に当たり、菜月は大学生、さらに卒業して地元紙の記者になり、シングルマザーになっています。鳥集徹『コロナワクチン 私達は騙された』(宝島社新書)は、ジャーナリストがワクチン接種後の体調不良、あるは、死亡、マクロの統計に現れた日本人の死者数の増加などを解明しようと試みています。最後に、アンソニー・ホロヴィッツ『ナイフをひねれば』(創元推理文庫)は、ホーソーンとの3作の契約が終わったホロヴィッツが殺人事件の容疑者となって逮捕され、ホーソーンに解決を委ねます。
ということで、今年の新刊書読書は先週まで、というか、1月には21冊で、今週ポストする6冊を合わせて27冊となります。順次、Facebookでもシェアしたいと思います。

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まず、原田泰・飯田泰之[編編]『高圧経済とは何か』(金融財政事情研究会)を読みました。編著者は、内閣府の官庁エコノミストを経て日銀制作委員を経験した私の先輩と明治大学の研究者です。本書は9章からなり、それほど耳慣れない高圧経済についていろんな側面から解説を加えています。学術書っぽい体裁ではありますが、中身は一般ビジネスパーソンにも十分判りやすく考えられています。ということで、高圧経済とは、基本的に、インフレギャップが生じている経済といえます。すなわち、供給能力を上回る需要があり、経済が需要超過の状態にあることが基本となります。需要超過ですから、少し前までの日本経済が陥っていたデフレではなく、マイルドないしそれ以上のインフレ圧力があります。労働者の失業が減少して完全雇用に近くなり、そのため、労働者の流動性が高まって、より生産性が高くて、従って、賃金の高い職に就くことができます。もちろん、男女格差などの経済的合理性なく雇用者を差別的に扱う労働慣行は大きく減少します。加えて、需要が増加しますので労働生産性が需要の増加に応じて上昇します。雇用の流動性についても、現時点では、使用者サイドから低賃金労働者を求めて解雇規制の緩和などの方策が模索されていますが、高圧経済では雇用者のサイドから高賃金を求めて自発的に転職する、などの大きな違いが生じます。現在は、何とか黒田前日銀総裁の異次元緩和と呼ばれた金融政策によってデフレではない状態にまで経済を回復させましたが、高圧経済で需要超過となればインフレ圧力が大きくなります。日銀物価目標にマッチするマイルドなインフレで収まるか、あるいは、もっと高いインフレとなるかは需要超過の度合い次第ということになりますが、ここまでデフレ圧力が浸透している日本経済ですから、現在の物価上昇を見ても理解できるように、そうそうは高インフレが続くとも思えません。ですから、私なんかから見ればいいとこずくめの高圧経済なのですが、問題は実現する方策です。異次元緩和の金融政策だけでは、何とかデフレではない状態までしか均衡点をずらすことができませんでしたから、ここは財政政策の出番ということになるのが自然の流れだろうと思います。そして、現在の円安は高圧経済に必要です。小泉内閣からアベノミクスの少し前まで継続していた構造改革とは、需要を増加させるのではなく供給サイドを効率的にするという思想でしたから、高圧経済の観点からは真逆の政策でした。その意味で、日本経済に必要な経済政策を考える上でとても重要な1冊です。

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次に、宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)を読みました。著者は、本屋大賞にもノミネートされた『成瀬は天下を取りにいく』の作者であり、本書はタイトルから用意に想像される通り、その続編であり主人公の成瀬あかりは大学生に進学しています。学部は明記されていないものの、著者や私と同じ京都大学です。そうです。成瀬あかりが京都大学の後輩になって、私もうれしい限りです。出版社が特設ページを設けています。ということで、前作と同じ5話の短編からなる連作短編集です。各話のあらすじは、「ときめきっ子タイム」では、成瀬あかりの後輩に当たるときめき小学校4年3組の北川みらいが自由学習の時間の課題で成瀬と島崎みゆきのコンビデアルゼゼカラを取材することになり、調べを進めます。「成瀬慶彦の憂鬱」のタイトルは軽く想像される通り、成瀬あかりの父親で、京都大学の受験日に娘に試験場まで同行することになりますが、試験場で野宿しようとしている受験生を成瀬あかりが自宅に連れて帰ります。「やめたいクレーマー」では、大学生になった成瀬あかりが平和堂グループの一角であるフレンドマートでアルバイトしていて、その店の顧客であるクレーマーの女性とともに万引き防止に取り組みます。「コンビーフはうまい」では、成瀬あかりがびわ湖観光大使の選考に臨み、市会議員の娘で祖母と母もびわ湖観光大使を経験した女性とともに選考の結果任命され、観光大使-1グランプリなるゼゼカラの2人がチャレンジしたM-1グランプリのようなコンテストに臨みます。最終話の「探さないでください」では、いかにもタイトル通りに成瀬あかりが家出をします。それも大晦日です。その大晦日には東京から島崎みゆきが成瀬家にやって来て、ときめき小学校の北川みらいやフレンドマートのクレーマーも巻き込んで大捜索が行われます。以上のように、やや、成瀬あかりの奇行に焦点を当て過ぎているのではないか、という気がして、私の評価はハッキリと前作から落ちます。私は成瀬あかりの奇行に見える行動については、今野敏「隠蔽捜査」シリーズの竜崎伸也と同じで、世間一般から比べて異常なまでに合理的であるから「奇行」に見えるだけ、と考えていました。しかし、特に第2話で、見知らぬ受験生を自宅に連れ帰るというのは、まったく合理的ではありませんし、最終話もやや同じ傾向です。ただ、前作の流れがありますので、とても楽しく読めました。最後に、この作品にご興味ある向きは、本屋大賞にもノミネートされていることですし、前作の『成瀬は信じた道をいく』から先に読むことをオススメします。

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次に、長岡弘樹『緋色の残響』(双葉社)を読みました。著者は、『教場』などの警察ミステリで有名な作家です。本作品のシリーズでは『傍聞き』の表題作で、主人公を務めた杵坂署のシングルマザー刑事の羽角啓子と1人娘の菜月が母娘で事件の解決に当たります。この作品では菜月は中学生になり、新聞記者になる夢を持って新聞部で活動しています。5話から成る連作短編集です。あらすじは順に、「黒い遺品」では、半グレの構成員が殺害され、現場には花が残されていたのですが、実は、菜月が犯人を目撃していたので似顔絵を書くことになります。啓子の相棒の黒木から、得意な道具で描くとうまく描けると示唆され、亡父の趣味のひとつだった囲碁の碁石を使って菜月が似顔絵を描いて犯人逮捕につながります。「翳った水槽」では、菜月の中学校の担任先生はアラサー独身なのですが、羽角家に家庭訪問に来て忘れ物をして菜月が届けるとベッドで横たわっていて、殺されたと後で知ることになります。表題作の「緋色の残響」では、菜月が4-5歳のころに習っていたピアノ教室で、菜月のクラスメートで勉強もピアノもよくできる子が死亡します。ピーナツのアレルギーで不慮の事故かと見られたのですが、何らかの殺意が感じられることから捜査が進められます。「暗い聖域」では、菜月がクラスメートの男子から料理を教わりたいといわれて男子生徒の自宅に行きます。アロエの苦みを取る方法を知りたいということです。直後に、その男子生徒が崖から突き落とされて大けがを負うのですが、啓子は謎の言葉「安全な場所に逃してあげる」と菜月に約束することになります。最後の「無色のサファイア」では、菜月がイジメにあっているのではないか、という上方が母親の啓子に伝えられます。他方、質屋での強盗殺人事件の被告に最高裁で無期懲役の判決が下されたが、菜月の所属する中学校の新聞部は長期に渡る徹底した調査を継続していた。このイジメに見える菜月の行動が、実は、長期戦の調査と深く関係しています。ということで、各話が50ページ足らずの短編で、それほど登場人物も多くないことから、whodunnit の犯人はそれほどムリなく見当がつきます。でも、どうしてなのか、という whydunnit がとても絶妙に組み込まれています。ただ、各短編ごとに、物理的、あるいは、心理学なヒントの素のようなものが配されており、少し東野圭吾のガリレオ・シリーズに近い部分があります。私自身は「ノックスの十戒」に反している、とまでは思いませんし、各短編に詳しい説明がありますので、特に気にはなりませんが、本格ミステリと呼ぶのはためらわれる読者もいるかも知れません。

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次に、長岡弘樹『球形の囁き』(双葉社)を読みました。著者は、『教場』などの警察ミステリで有名な作家です。本作品のシリーズでは『傍聞き』の表題作で、主人公を務めた杵坂署のシングルマザー刑事の羽角啓子と1人娘の菜月が母娘で事件の解決に当たります。『緋色の残響』の続編となるこの作品では菜月は高校生から大学生、さらに、一気に地元紙の新聞記者になって、さらにさらにで、シングルマザーとなる20代後半までの長期をカバーしています。その時点では母親の羽角啓子は60歳定年後の再雇用で引き継式犯罪捜査に当たっています。前作と同じ5話から成る連作短編集です。あらすじは順に、「緑色の暗室」では、菜月は高校に進学しても新聞部に所属し、アナログ写真の現像のために、マンション一室を使ったレンタル暗室に行った際にネガを1枚階下に落とし、その部屋を訪ねると菜月が小学生のころに教育実習に来ていた女性が住んでいて、その菜月が卒業した小学校の教師をしていると聞きます。他方、同年代の20代後半の女性が殺されるという殺人事件が発生する。表題作の「球形の囁き」では、菜月はすでに大学生となって2年生で、夏休みにデパートの職員売り場でアルバイトした際に、とても懇意になり「もう1人のおかあさんみたいな人」といっていた女性が殺されます。その女性は保育士の資格を持っていて、同じデパートの託児ルームで手伝いをしていたことから捜査が進みます。「路地裏の菜園」では、菜月は大学生でベビーシッターのアルバイトをしている母親の啓子と同じ警察に勤務する事務職員の女性が大怪我を負う事件が発生します。家庭内暴力(DV)で離婚寸前の元夫が疑われることになります。「落ちた焦点」では、すでに菜月は地元紙の記者をしていて、杵坂署の刑事と恋仲にあります。一角の山の展望台から転落事故があり女性が殺されますが、証拠が不十分で容疑者は無罪判決を受け確定します。しかし、その後、この容疑者は遺書を残して自殺します。「黄昏の筋読み」では、菜月は引き続き地元紙の記者ですが、すでにシングルマザーになっており、母親の啓子は杵坂署を60歳で定年退職した後、引き続き再雇用で犯罪捜査に当たっています。菜月の娘の彩弓はお向かいの70歳くらいの元県庁職員によく懐いていて、彩弓の好きな昆虫を持って来てくれたりします。啓子は、早朝のジョギング途中に不審な死に方をした事件の操作を進めます。ということで、この作品も、前作『休憩の囁き』と同じで、各話が50ページ足らずの短編で、それほど登場人物も多くないことから、whodunnit の犯人はそれほどムリなく見当がつきます。でも、どうしてなのか、という whydunnit がとても絶妙に組み込まれています。ただ、各短編ごとに、物理的、あるいは、心理学なヒントの素のようなものが配されており、少し東野圭吾のガリレオ・シリーズに近い部分があります。

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次に、鳥集徹『コロナワクチン 私達は騙された』(宝島社新書)を読みました。著者は、医療問題を中心に活動しているジャーナリストです。ですから、医療関係者、というか、医師や医学研究者あるいは薬学の研究者ではありません。ですので、どこまで医学的な見識を想定するかは読者に委ねられている部分も少なくありません。本書では、タイトル通り、コロナワクチンに対する不信感を強調する情報収集活動の結果が集められています。ただ、コロナワクチンって、何種類かあったんではなかろうか、という疑問には答えてくれていません。そのワクチンの種類にはこだわらずに、ワクチン接種後の体調不良、あるは、死亡、マクロの統計に現れた日本人の死者数の増加などを解明しようと試みています。本書でも冒頭に示されていますが、メリットとリスクの見合いで、単純にメリットがリスクを上回ればいい、という経済効果的な考えは廃されるべきという点は私も合意します。でも、私は現時点ではワクチンのデメリットやリスクがメリットを上回っているとは見なしていません。その点で著者の結論には同意しませんが、こういった議論が必要である点は大いに認めたいと思います。まず、コロナの症状の重篤化や死亡率に関しては、年齢との何らかの相関が強く疑われていた点は指摘しておくべきかと思います。典型的な比較対象のペアは戦争です。ばかげた見方かもしれませんが、戦争では、おそらく、20代や30代の男性が主たるリスクの対象と考えられる一方で、コロナのリスクは高齢者、特に、80歳以上の高齢者に大きなリスクあったと考えるべきです。その意味で、シルバー民主主義的な決定メカニズムが働いた可能性が否定しきれないと私は考えています。すなわち、コロナ対策、ワクチンも含めたコロナ対策に決定に関しては、国民の平均ではなく高齢者の方に有利なバイアスが働いた可能性が否定できません。その意味で、平均的な国民の意識とはズレを生じている可能性もあります。ただし、この点に関しては医学的な検証が必要と私は考えます。統計的な結果論だけではなく、疫学的な因果関係が立証されねばなりません。さらに広く、潜在的な利益・不利益も考え合わせる必要があります。ですので、総合的に考えれば、コロナパンデミックの2-3年後くらいに集中的にワクチン接種により社会的な同様を防止したという点は、私は評価されるべきかと思います。ただ、医学的にどう見るかは何とも自信ありません。おそらく、あくまで私の直感に基づいた感触だけの根拠ない見方ながら、コロナワクチンについては医学的・経済的・社会的な効用を考えれば、それなりの差引きプラスの効果があった、と私は考えています。ただし、個人としては、私はコロナワクチンはそれほど信用していません。ですので、教育者として学生に接する立場ですから、3度目まではワクチン接種しましたが、これで打止めとしています。

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次に、アンソニー・ホロヴィッツ『ナイフをひねれば』(創元推理文庫)を読みました。著者は、英国の人気ミステリ作家です。この作品はホロヴィッツ&ホーソーンのシリーズ第4作です。第3作までは、契約に基づいてホロヴィッツがホーソーンの事件解決を小説に取りまとめる、ということでしたが、その契約が終了した後の第4作になるわけです。ですから、冒頭で、ホーソーンの方から小説執筆を継続するようなお話がホロヴィッツにあるのですが、ホロヴィッツの方では印象悪くてすげなく断ってしまいます。でも、その翌週、ホロヴィッツの戯曲を酷評した劇評家のハリエット・スロスビーが死体で発見されます。凶器は、やっぱりホロヴィッツが脚本を手がけた戯曲の上演の記念品だった短剣で、ややネジが緩んでいるところがあって、ホロヴィッツの受け取ったものと断定され指紋まで発見されます。ホロヴィッツは警察に逮捕されて1時釈放されますが、困り果ててソーホーンに泣きついて事件解明を依頼するわけです。ホロヴィッツ本人にはまったく身に覚えがない一方で、多くの状況証拠がホロヴィッツが犯人であることを指し示しているわけです。そして、ハリエット・スロスビーが劇評家になる前の個人的なパーソナル・ヒストリーを追って、まあ、古典的ともいえるミステリの謎解きが始まります。典型的な whodunnit とともに、同時に whydunnit も解決されます。当然です。面白かったのは、タイムリミットが設定されていて、ホーソーンに協力する同じアパートの住人がコンピュータをハッキングして警察を混乱させたりしながら時間を稼ぎ、ロンドンを離れての調査をしたりしています。また、前3作で謎のまま放置されていたホーソーンのパーソナル・ヒストリーも一部だけながら明らかになります。世間のウワサではこのシリーズは10作あるようなので、これから小出しにしていくのかもしれません。繰り返しになりますが、古き善き時代のミステリであって、犯人探しや動機の解明など、ミステリの醍醐味をたっぷり味わえる佳作と私は思います。ただ、おそらく、シリーズの中盤に差しかかった作品ですので、前3作を把握しておかないと本作品の魅力はそれほど味わえません。加えて、後に数作続くわけですので、例えば、ホーソーンの生い立ちなんかが不明の部分多く残されるなど、やや物足りないと感じる読者もいるかもしれません。10作をすべてコンプリートしてから一気に読む、という読み方もありかも、と思わないでもありません。

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2024年2月 2日 (金)

1月の米国雇用統計はソフトランディングほぼ確定のサインか?

日本時間の今夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の1月統計では+353千人増となり、失業率は前月から横ばいの3.7%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を4パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added booming 353K jobs in January, unemployment held at 3.7%.
Hiring picked up sharply in January as employers added a booming 353,000 jobs, highlighting a labor market that continues to defy high interest rates and household financial strains.
The unemployment rate held steady at 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 185,000 jobs were added last month.
Job gains for November and December were revised up by a whopping 126,000, with the December tally upgraded to 333,000 from 216,000. The changes portray a strong labor market in the fall than previously believed.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人どころか、昨年2023年12月と今年2024年1月の2か月は+300千人増を超えていて、失業率も3%台後半を継続しています。1月統計を見ると、2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期からの回復過程にあった2021-22年のような勢いはないといえますが、12月の雇用増も+126千人上方修正されて、+333千人増に引き上げられていますので、USA Todayのタイトルのように booming というのは、決して誇張ではないかもしれません。引用した記事の3パラめにあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+185千人の雇用増を見込んでいましたので実績は大きく上振れました。昨年2023年12月13日の連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表された最新の経済見通しである Summary of Economic Projections の想定するラインから、雇用についてはやや上振れている印象を私も持っています。従って、米国の連邦準備制度理事会(FED)は直近の1月30-31日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)でも金利引下げを見送っています。会議終了後のパウエル議長の会見でも次回会合の3月の金利引下げの可能性が小さいと示唆されているようですし、NY株式市場のダウ平均も史上最高値を更新し、大統領選挙を迎える年の米国経済は堅調と見えます。ソフトランディングはほぼ確定なのかもしれません。

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2024年2月 1日 (木)

今日から始まるプロ野球キャンプやいかに?

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球春到来!!!
いよいよ今日からプロ野球12球団がキャンプインです。上のキャンプ地は日刊スポーツのツイッタサイトから引用しています。
我が阪神は沖縄でキャンプインです。ドラフトや外国人選手を除いて大きな補強はないのですが、現有戦力のキャリアハイを目指す努力で、今シーズンも優勝と日本一に輝くべくがんばってほしいと思います。

今シーズンは連覇を目指して、
がんばれタイガース!

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