再び赤字になった1月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+11.9%増の7兆3326億円に対して、輸入額は▲9.6%減の9兆909億円、差引き貿易収支は▲1兆7583億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
1月の貿易収支1兆7583億円の赤字 輸出の伸び鈍く
財務省が21日公表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆7583億円の赤字だった。赤字幅は前年同月に比べて49.9%縮小した。2カ月ぶりに貿易赤字となった。
全体の輸入額は9兆909億円で、9.6%減った。減少は10カ月連続だ。輸出額は7兆3326億円で11.9%増え、2カ月連続で増加した。
輸入は資源関連が全体を押し下げた。原油が9162億円で9.2%減、液化天然ガス(LNG)が6224億円で28.8%減、石炭が4299億円で43.2%減となった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり85.8ドルと前年同月から2.9%下がった。円安傾向となった影響で、円建て価格は1キロリットルあたり7万7647円と5.9%上がった。
地域別では米国が1兆83億円で6.0%増、アジアが4兆4820億円で7.0%減だった。
輸出は鉱物性燃料が1220億円と32.7%減った。米国向けの自動車や中国向けIC製造用など半導体等製造装置は増えた。地域別にみると米国向けが1兆4233億円で15.6%増え、アジア向けが3兆8964億円で13.5%の増加となった。
1月の貿易収支は季節調整値でみると2352億円の黒字となった。輸入が前月比で10.5%減の8兆5299億円、輸出が3.6%減の8兆7652億円だった。
長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1.85兆円ほど貿易赤字が見込まれていましたので、大きなサプライズはありませんでした。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額が伸びていないわけではなのですが、それよりも輸入額の減少が現状の貿易統計の大きな特徴です。報じられているように、季節調整していない原系列の統計ではまだ貿易収支は赤字ですが、引用した記事にもある通り、季節調整済みの系列では2021年5月以来久々の黒字、+2000億円余りを記録しています。ただし、中華圏の春節のカレンダーがイレギュラーになっていて、昨年2023年は1月22日から春節が始まった一方で、今年2024年は2月10日からとなっています。ですから、季節調整がどこまでこういった中華圏の春節要因を除去できているか、私には少し疑問です。ひょっとしたら、昨年と今年のそれぞれの1-2月を合計して、というか、平均して見る必要があるのかもしれません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
1月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲14.2%減、金額ベースで▲9.2%減となっています。数量ベースと金額ベースで大きな差がないというわけですから、価格低下に歯止めがかかりつつあると考えるべきです。LNGについても同様で、数量ベースでは▲10.5%減、金額ベースでは▲28.8%減となっています。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲5.6%減となっている一方で、金額ベースでは▲11.0%減と単価が低下を始めていることがうかがえます。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数で+16.1%増、金額ベースでも+31.6%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械+5.1%増、電気機器+7.6%増と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーも輸出額を伸ばしています。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国経済の需要要因とともに、円安の価格要因も寄与していると考えられます。すなわち、円・ドルの東京インターバンクの為替相場、スポット中心相場の月中平均で見て、2023年1月の\/$130.20から2024年1月には\/$146.57と12%を超える円安となっています。
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