やや停滞感のある鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計をどう見るか?
本日、経済産業省から2月の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.3%増の13兆8190億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+1.0%の増加を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から+0.2%ポイント上昇して2.6%を記録した一方で、有効求人倍率も前月から▲0.1ポイント悪化して1.26倍となっています。まず、日経新聞ほかのサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。
2月鉱工業生産0.1%低下 自動車振るわず市場予想下回る
経済産業省が29日発表した2月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は97.9となり、前月比で0.1%低下した。ダイハツ工業の生産停止や大雪の影響で自動車工業が低下するなどし、民間予測に反して2カ月連続のマイナスとなった。
QUICKが事前にまとめた民間エコノミスト予測の中央値は前月比1.3%の上昇だった。経産省は雪の影響に加え、能登半島地震による部品関連の生産減少が続いているため全体でマイナスとした。生産の基調判断は「一進一退ながら弱含み」を維持した。
全15業種のうち、7業種で低下した。自動車工業が前月比で7.9%のマイナスだった。認証不正問題によるダイハツの生産停止が一部工場で続いているほか、2月初旬の大雪で多くのメーカーが一時的に生産を止めたことが影響した。半導体製造装置や機械プレスといった生産用機械工業は3.2%下がった。上昇した8業種のうち、パルプ・紙・紙加工品工業は4.3%上がった。1月は能登半島地震の影響で生産が減っていたが、2月は通常稼働に戻り改善した。乳液や化粧水類といった化学工業は3.1%伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は3月に前月比で4.9%の上昇を見込む。企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省による補正値は4.5%の上昇となっている。4月の予測指数は3.3%のプラスとなった。
経産省の担当者は「世界経済の影響や自動車工業における工場稼働再開の状況などを注視していきたい」と話す。
小売業販売額2月は前年比4.6%増、価格上昇とうるう年で
経済産業省が29日に発表した2月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比4.6%増だった。ロイターの事前予測調査の3.0%増を上回った。価格上昇およびうるう年で営業日が多かった影響が寄与した。
前年比で自動車小売業が8.6%減となったものの、その他小売業が12.3%増、医薬品・化粧品が8.6%増など増えた。
業態別でも前年比でドラッグストアが11.4%増、百貨店が13.5%増、スーパーが5.5%増、コンビニエンスストアが5.4%増だった。
ドラッグストアでは食品や調剤医薬品、健康食品、化粧品、日用消耗品などが伸びた。百貨店は衣料品が増加した。
一方、家電大型専門店はスマートフォンとゲーム機の不振で前年比1.4%減にとどまった。
2月の有効求人倍率1.26倍に低下 失業率は2.6%に上昇
厚生労働省が29日発表した2月の有効求人倍率(季節調整値)は1.26倍で、前月から0.01ポイント低下した。求職者数が求人数を上回って伸びた。就職件数は8.9%増えた。総務省が同日公表した2月の完全失業率は2.6%で0.2ポイント上昇した。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人に対し、1人あたり何件の求人があるかを示す。2022年11月から23年1月にかけて1.35倍とピークに達した後、緩やかな低下傾向にある。求人倍率の低下は人手不足感の緩和を意味するが、現場での実感にはつながっていない。
有効求人数は0.5%増の254万2576人だった。23年12月まで減少傾向が続いていたが、24年1月以降は前月比で増加に転じている。有効求職者数は1.0%増の190万2943人で、求人数を上回って伸びたことが求人倍率を押し下げた。
就職件数は10万8258件で前月から大きく伸びた。一方で、景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)を産業別に見ると、製造業で前年同月比8.7%減、宿泊・飲食サービス業で8.4%減とマイナスが目立つ。
厚労省によると、製造業は原材料費の高騰で雇用を控える動きがあり、宿泊・飲食サービス業は前年の同時期に全国旅行支援で雇用環境が好調だった反動だという。
完全失業者数は177万人で、前年同月比で3万人増と3カ月ぶりに増えた。就業者数は6728万人で61万人増加し、19カ月連続で伸びている。労働参加は積極的で、仕事に就かず職探しもしていない非労働力人口は4082万人と81万人減った。
長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で+1.3%の増産でしたので、実績の前月比▲0.1%の減産は、予測レンジの下限である▲2.0%の減産を上回ってレンジ内であるものの、かなり下振れしたと受け止めています。ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、前月に下方修正した「一進一退ながら弱含み」を据え置いています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の3月は補正なしで+4.9%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+4.5%の増産となっていますが、1-2月の大きな減産は3月では取り戻せず、1~3月期の生産はマイナスという気がします。そうだとすれば、1~3月期のGDPもマイナス成長の可能性が十分あります。鉱工業生産に戻って、経済産業省の解説サイトによれば、2月統計での生産は、引き続き、ダイハツ自動車の品質不正問題による工場閉鎖の影響が大きく、自動車工業は前月比▲7.9%、寄与度▲1.01%となっています。加えて、生産用機械工業でも▲3.2%の減産、寄与度▲0.28%、自動車工業を除く輸送機械工業も前月比▲8.3%の減産、寄与度は▲0.24%など、我が国のリーディング産業が軒並み減産を示しています。繰り返しになりますが、自動車工業についてはダイハツの品質不正による工場閉鎖の影響が大きいわけですが、今年の中華圏の春節は2月ですので、、そういったカレンダー要因も無視できません。ただ、足元の円安はラグを伴うもののプラスの影響あるかもしれません。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の2月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.1%の上昇となりましたので、先月から引き下げられた「一進一退」で据え置いています。ただ、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、2月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+3%ほどのインフレですので、小売業販売額の2月統計の+4.6%の前年同月比での増加は、十分にインフレ率を上回っている印象で、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。ただ、こういった小売販売額がホントに国内需要に支えられているかどうかは疑問があります。加えて、営業日が昨年よりも1日多い閏年効果も考え合わせる必要があります。すなわち、現在の高インフレは国内では消費の停滞をもたらしている可能性が高く、したがって、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性が否定できません。まら、昨年の2月が28日であったのに対して、今年は閏年で29日ありました。単純に計算しても+3%以上の上振れ要因となることは明らかです。もちろん、引用した記事にも「百貨店は衣料品が増加した」とあるように、2月の天候要因で暖かでしたので春物衣料は好調であったようですが、小売業販売額全体では織物・衣服・身の回り品小売業の伸びは前年同月比で+0.7%にとどまっています。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は否定できません。私の直感ながら、例えば、引用した記事にもあるように、インバウンド消費の割合が高いドラッグストアや百貨店の販売額の増加率が2ケタとなっているのに対して、国内消費者の割合が相対的に高いスーパーやコンビニエンスストアは堅調とはいえ+5%程度の伸びにとどまって、ドラッグストアや百貨店の伸びを下回っています。この結果は、インバウンドの影響の大きさをうかがわせると私は考えています。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。なお、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.4%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月から横ばいの1.27倍と見込まれていました。失業率・有効求人倍率ともに実績は市場の事前コンセンサスをやや下回っています。人口減少局面ということもあって、失業率も有効求人倍率もともに水準が高くて雇用は底堅い印象ながら、2月統計に現れた雇用の改善が鈍い、と私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、一昨年2022年年末12月から直近の2月統計までの1年余りの期間で、人口減少局面に入って久しい中であるにもかかわらず労働力人口は+66万人増加し、非労働力人口は▲97万人減少しています。就業者+58万人増、うち雇用者+70万人増の一方で、完全失業者は+8万人増にとどまっており、就業率は着実に上昇しています。ただ、就業率上昇の評価は難しいところで、働きたい人が着実に就労しているという側面だけではなく、物価上昇などで生活が苦しいために働かざるを得ない、というケースもありえます。加えて、就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+45万人増の一方で、非正規が+34万人増ですら、国際労働機構(ILO)のいうところも decent work だけが増えているわけではありません。先進各国がこのまま景気後退に陥らないソフトランディングのパスに乗っているにもかかわらず、我が国の雇用の改善が緩やかな印象を持つのは私だけではないと思います。加えて、今年は昨年から引き続き順調な賃上げとなっているとはいえ、大手が名を連ねる経団連加盟企業だけでなく、中小企業の賃金動向も重要な課題です。
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