自動車の不正問題の影響で急落した1月の景気動向指数のほか景気ウォッチャーと経常収支
本日、内閣府から1月の景気動向指数と2月の景気ウォッチャーが、また、財務省から1月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気動向指数のCI先行指数は前月から▲0.6ポイント下降の109.9を示し、CI一致指数も▲5.8ポイント下降の110.2を記録しています。CI一致指数の下降は2か月ぶりです。景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.2ポイント上昇の50.7となった一方で、先行き判断DIは▲0.3ポイント低下の49.1を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+4382億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。
景気「足踏み」に下方修正 1月の動向指数、車不正響く
内閣府が8日発表した1月の景気動向指数(CI、2020年=100)の速報値は、足元の経済状況を示す一致指数が前月比5.8ポイント低下の110.2だった。ダイハツ工業などの品質不正問題が響き、2カ月ぶりに低下した。景気の基調判断は「足踏みを示している」に引き下げた。
判断の下方修正は22年12月以来、1年1カ月ぶりとなる。一致指数を構成する10項目のうち、集計済みの8項目すべてが押し下げ要因となった。
ダイハツ工業と豊田自動織機の不正問題による生産や出荷の停止で、鉱工業生産指数や鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数が下がった。乗用車やトラックの生産、エンジンなど車関連部品の出荷が減った。
投資財出荷指数は、蒸気タービンなどの減少で低下した。輸出数量指数も下がった。米国と欧州連合(EU)向けが減り、全体を下押しした。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は前月比0.6ポイント低下の109.9と、2カ月ぶりに下がった。直近3カ月平均は前月より0.27ポイント高い109.7で、2カ月連続で上向いた。
2月街角景気、先行き上向く 賃上げ期待で4カ月連続上昇
内閣府が8日発表した2月の景気ウオッチャー調査によると2~3カ月後の景気を聞いた先行き判断指数(DI、季節調整値)が0.5ポイント上昇の53.0だった。4カ月連続で上がった。春季労使交渉(春闘)での賃上げを支えに消費マインドが上向くことを期待する声が上がった。
指数は23年5月以来9カ月ぶりの高い水準となる。分野別でみると家計、企業で上昇した。南関東の百貨店は「株価の上昇や春闘での賃上げが多くの業種で進み、消費への機運がさらに高まれば少しずつ良くなる」とみる。
連合は7日、傘下の労働組合の賃上げ要求が4日正午時点で平均5.85%と1994年以来30年ぶりに5%台だったと発表した。先行きで賃上げによる所得環境の改善が消費を支える期待が高まる。
インバウンド(訪日外国人)の増加や観光需要の回復なども押し上げた。中国地方の都市型ホテルからは「春の観光シーズンを迎え、予約状況が好調だ」との声が上がった。
人流の回復を支えに3カ月前と比べた現状判断指数は1.1ポイント上昇し、51.3だった。2カ月ぶりに上がった。
もっとも物価上昇は継続しており、消費マインドを下押しする。四国の一般小売店は「節約志向のなか、客は食料品以外の購入を控えている」とみる。
家計に関する統計の動きはさえない。総務省が8日発表した1月の家計調査では、2人以上世帯の消費支出が実質で前年同月比6.3%減った。下げ幅は23年12月の2.5%マイナスから拡大した。
ダイハツ工業などの認証不正により生産や出荷が停止した影響で自動車購入が減った。物価高で食料や住居などへの支出も落ち込んだ。
経常黒字、1月は4382億円 資源高一服で輸入減
財務省が8日発表した2024年1月の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支は4382億円の黒字となった。資源高が一服して貿易赤字が縮小した。訪日客の増加で旅行収支が過去最大の黒字となったことも寄与した。
経常収支は輸出から輸入を差し引く貿易収支や、旅行収支を含むサービス収支、海外投資に伴う利子や配当の収支を示す第1次所得収支などで構成する。経常収支の黒字は12カ月連続。前年同月は2兆136億円の赤字だった。
貿易収支は1兆4427億円の赤字で、赤字額は前年同月から54.5%縮んだ。輸入額は8兆7830億円で12.1%減った。資源価格の下落が主因だ。石炭は前年同月比43.2%減、液化天然ガス(LNG)は28.7%の減少だった。
輸出額は7兆3403億円で7.6%の増加だった。自動車や半導体製造装置などで増えた。23年は中国の春節(旧正月)の連休が1月だったのに対し、24年は2月で、2月の国際収支統計で輸出額などに影響が生じる可能性がある。
サービス収支は5211億円の赤字だった。前年同月から赤字幅が27.4%縮小した。このうち訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を引いた旅行収支は4159億円の黒字だった。単月の黒字額として過去最大となった。
海外からの利子や配当の収入を示す第1次所得収支は2兆8516億円の黒字で29.6%伸びた。海外の金利上昇で債券利子の受け取りが増えた。季節調整値で見た経常収支は2兆7275億円の黒字で前月から50.7%の増加だった。
とてつもなく長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

1月統計のCI一致指数については、2か月ぶりの下降となりました。3か月後方移動平均の前月差でも▲1.90ポイントの下降となり、加えて、7か月後方移動平均でも▲0.88ポイント下降と、当月、3か月と7か月の両方の後方移動平均とも前月差がマイナスを記録しています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏み」に下方修正しています。先月には「改善」でしたので、明確に1ノッチの下方修正です。「改善」から「足踏み」に下方修正する場合には、3か月後方移動平均が前月差でマイナスになるだけではなく、マイナス幅が1標準偏差以上になるという判断基準となっています。ただ、私の直感では、報道にもあるように、ダイハツ工業や豊田自動織機などの自動車関連の不正問題による生産や出荷の停止といった経済外要因の影響が大きく、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには景気後退入はしない可能性が高い、と考えています。もちろん、景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。なお、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、▲1%を超える大きなマイナス寄与を示した系列が4項目もあります。すなわち、鉱工業用生産財出荷指数▲1.25ポイント、生産指数(鉱工業)▲1.23ポイント、耐久消費財出荷指数▲1.18ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)▲1.12ポイント、となっています。これらに加えて、輸出数量指数も▲0.61ポイントと大きなマイナス寄与を示しています。

続いて、景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。現状判断DIは、昨年2023年年末11~12月から50を超える水準が続いて、今年2024年に入っても1月統計52.5、本日公表の2月統計では前月から+0.5ポイント上昇して53.0を記録しています。長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、この50を超える水準は決して低くない点には注意が必要です。2月統計で上昇した主因は企業動向関連です。家計動向関連が前月から+0.2ポイント上昇にとどまった一方で、企業動向関連は+2.0ポイントの上昇となっています。製造業も非製造業も、ともに前月から上昇しています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」で据え置いています。また、内閣府のリポートの中の近畿の景気判断理由の概要の中から家計同行関連の現状判断の理由を見ると、「バレンタイン商戦は好調であったほか、リニューアルオープンしたレストランを中心に、好調に推移している。また、インバウンドも春節に伴う観光客の増加で好調となり、来客数の増加と売上の拡大につながっている(百貨店)。」といった見方がある一方で、「暖冬の影響もあり、給湯器やエアコンの動きが悪い(家電量販店)」といった意見も見られます。ハードデータの生産などが自動車の不正問題で大きく落ち込んだ一方で、ソフトデータのマインド指標は堅調に推移している印象です。

続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは経常黒字は+3300億円を超えるということでしたので、実績の+4382億円はやや上振れした印象です。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て、昨年2022年10月統計▲3419億円だけです。もちろん、ウクライナ戦争後の資源価格の上昇が大きな要因です。ですから、経常黒字の水準はウクライナ戦争の前の状態に戻っていますし、たとえ赤字であっても経常収支についてもなんら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

最後に、目を米国に転じると、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は+275千人増と USA Today のニュースで私が見た Bloomberg survey の+200千人増を上回った一方で、失業率は前月から+0.2%ポイント上昇して3.9%を記録しています。それぞれのグラフは上の通りです。この統計公表前ながら、米国連邦準備制度理事会(FED)のパウエル議長は、3月6日の上院における議会証言で "The labor market remains relatively tight, but supply and demand conditions have continued to come into better balance." と発言し、雇用の加熱感の正常化に自信を示しています。私のような楽観的なエコノミストは、+2%のインフレ目標の達成にはやや時間がかかる可能性が残るものの、失業率が急上昇して景気後退に陥るリスクはほぼなくなり、米国経済はソフトランディングのパスに乗っている、と考えています。
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