赤字が縮小した2月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+7.8%増の8兆2492億円に対して、輸入額は+0.5%増の8兆6285億円、差引き貿易収支は▲3793億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
2月の貿易収支、3793億円の赤字 前年比6割縮小
財務省が21日発表した2月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3793億円の赤字だった。赤字は2カ月連続。自動車の輸出が増えたことなどから、赤字幅は前年同月に比べて59.2%縮小した。
輸入額は8兆6285億円で前年同月に比べ0.5%増えた。11カ月ぶりに増加した。輸出額は8兆2492億円と7.8%増え、3カ月連続の増加となった。
輸出の伸びが貿易赤字の縮小につながった。品目別に見ると自動車が1兆3821億円で19.8%増、自動車の部分品が3235億円で22.6%増だった。いずれも米国向けが好調で、全体をけん引した。オーストラリア向けの軽油など鉱物性燃料は1097億円と35.2%減った。
地域別に輸出先を見ると米国が1兆7233億円で18.4%増えた。アジアは4兆2278億円で2.3%増、中国は1兆3486億円で2.5%増だった。
輸入は衣類のほか、電算機類や石油製品が大きく伸びた。液化天然ガス(LNG)は5972億円で21.1%減、石炭が3917億円で39.6%減だった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり83.6ドルと前年同月から4.9%下がった。円建て価格は1キロリットルあたり7万7879円と8.1%上がった。
地域別の輸入は米国が1兆116億円で9.3%増、アジアが4兆96億円で6.6%増えた。
2月の貿易収支は季節調整値でみると4516億円の赤字となった。輸入が前月比で3.8%増の9兆11億円、輸出が1.5%減の8兆5495億円だった。
長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲8000億円ほど貿易赤字が見込まれていましたところ、実績は半分くらいの赤字でした。でも、予測レンジの下限が▲3500億円ほどでしたので、大きなサプライズはありませんでした。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、1月と2月は中華圏の春節次第で我が国の貿易が大きな影響を受けますので、やや撹乱要因となっています。例えば、昨年2023年は1月22日から春節が始まった一方で、今年2024年は2月10日からとなっています。ですから、季節調整がどこまでこういった中華圏の春節要因を除去できているか、私には不明です。ひょっとしたら、昨年と今年のそれぞれの1-2月を合計して、というか、平均して見る必要があるのかもしれません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
2月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲7.5%減、金額ベースで▲0.0%減となっています。数量ベースの減少幅が金額ベースを上回っていますので、引用した記事にもあるように、単価が上昇していることは明らかです。しかし、LNGについては逆の現象が見られます。すなわち、数量ベースでは▲5.9%減、金額ベースでは▲21.1%減となっています。単価が下がっていることがうかがわれます。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+9.4%増となっている一方で、金額ベースでは+1.0%増にしかすぎず、単価が低下していることが明らかです。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で見て、数量ベースの輸出台数は+14.2%増、金額ベースでも+19.8%増と大きく伸びています。前年同月との比較ですので、どこまでの寄与があるのか不明ながら、ダイハツの品質偽装に端を発する生産停止から、「軽自動車10車種の生産・出荷の再開を決定」とプレスリリースが出たのが2月9日でしたので、自動車生産も増加している可能性があります。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械+3.7%増、電気機器+7.7%増と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーも輸出額を伸ばしています。ただし、今年2024年2月はいわゆる閏年で2月が29日まであって1日多かったので、その要因も含まれている可能性には注意が必要です。いずれにせよ、こういった我が国の輸送機器や一般機械や電気機械の輸出はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国経済の需要要因とともに、円安の価格要因も寄与していると考えられます。すなわち、円・ドルの東京インターバンクの為替相場、スポット中心相場の月中平均で見て、2023年1月の\/$130.20から2024年1月には\/$146.57と12%を超える円安となっています。
最後に、足元の1~3月期はマイナス成長を予測するシンクタンクが多く、日本経済研究センターの取りまとめによるESPフォーキャストでは年率で▲0.36%が見込まれています。ほか、ニッセイ基礎研究所や第一生命経済研究所などの短期経済見通しでも1~3月期はマイナス成長を予想しています。中でも外需はマイナス寄与を見込むシンクタンクが多いのですが、円安の価格効果が外需にどのように現れるかを私は注目しています。
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