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2024年3月 5日 (火)

米国の最低賃金引上げの経済効果やいかに?

先週金曜日3月1日付けで、みずほリサーチ&テクノロジーズから「米国: 最低賃金引き上げの経済効果」と題するリポートが明らかにされています。今年2024年から州別の最低賃金が22州で引き上げられ、今年の個人消費を70億ドル押し上げる効果がある、と試算しています。リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポートにあるように、米国では公正労働基準法に基づいて連邦政府が設定する連邦最低賃金があるのですが、2009年から時給7.25ドルで据え置かれたままとなっており、実体的には各州政府の定める最低賃金が適用されているケースが多くなっています。というのは、連邦政府の最低賃金と州政府が独自に定めている最低賃が異なる場合、高い方が適用されるからです。州政府の最低賃金は2010年以降も多くの州で継続的に引き上げられてきており、今年2024年1月1日には22州が引き上げを実施し、就業者数で加重平均した各州の最低賃金は時給で11.28ドルに達しています。リポートから 最低賃金引上げの影響を受ける労働者数 のグラフを引用すると以下の通りです。

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従来から、ミクロ経済学的な経済分析では、最低賃金の引上げは雇用の増加にはつながらない、すなわち、賃金水準は労働の限界生産性に従って決まっていて、その賃金水準を政府が規制して最低賃金を設定すると、その最低賃金より低い生産性しか持たない労働者が雇用されなくなり、そのため、政府による最低賃金の設定は雇用には悪影響を及ぼす、とされてきました。実証的に確かめられている研究成果も少なくありません。しかし、近年では、最低賃金の引上げが消費拡大の効果を持ち、所得の増加はもちろん、消費の増加をもたらし、ついでに、債務まで増加させる結果が示されたりしていますし、特に非耐久消費財への支出が増加する、といった研究成果もあります。

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みずほリサーチ&テクノロジーズでは全米50州のパネルデータに基づく消費関数を推計し、固定効果モデルにより 最低賃金引き上げによる消費の押し上げ効果 を推計しています。そのグラフをリポートから引用すると上の通りです。推計結果は引用しませんが、州最低賃金の増加が個人消費を押し上げる正の効果が認められ、統計的有意性も十分のようです。推計された係数に従えば、最低賃金が実質で+1%の引き上げられると、約+0.029%ポイントの個人消費への押上げ効果があることが示唆されています。そして、上のグラフに要約されているように、昨年2023年に実施された前年比+6.7%の最低賃金引上げは+84億ドル、今年2024年の+6.7%の最低賃金引上げは+70億ドルのそれぞれの消費拡大効果があったと試算しています。

日本でも最低賃金は都道府県別に設定されており、最近時点では徐々に引き上げられていますが、米国の先に上げた11.28ドルを1ドル150円で換算した1690円余りには遠く及びません。例えば、もっとも最低賃金が高く設定されている東京でも時給1113円ですし、関西2府4県で時給1000円を超えているのは京阪神の3府県にとどまります。最低賃金の消費拡大効果が実証的に示されているわけですから、政府は最低賃金の大幅な引上げを早期に実施すべき、と私は考えています。

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