プラス成長に上方修正された2023年10-12月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?
本日、内閣府から昨年2023年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.1%、前期比年率で+0.4%と2四半期振りのプラス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.9%に達し、5四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
23年10-12月GDP上方修正、年率0.4%増 プラス成長に
内閣府が11日発表した2023年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.1%増、年率換算で0.4%増だった。それぞれ0.1%減、0.4%減だった速報値を上方修正し、プラス成長となった。企業の設備投資が大きく上振れした。
QUICKが事前にまとめた実質GDPの民間予測の中心値は前期比0.3%増、年率で1.1%増だった。プラス成長は23年4~6月期以来、2四半期ぶりとなる。
成長率への年率の寄与度は内需がマイナス0.2ポイント、外需がプラス0.6ポイントだった。速報値はそれぞれマイナス1.1ポイント、プラス0.7ポイントで内需の押し下げ幅が縮まり、全体を押し上げた。
設備投資の上振れがプラス成長への転換をけん引した。速報値の前期比0.1%減から2.0%増に上方修正した。3四半期ぶりのプラスとなる。
財務省が4日に公表した23年10~12月期の法人企業統計では、金融・保険業を除く設備投資がソフトウエア込みで季節調整後に前期比10.4%伸びた。自動車や半導体関連の生産体制強化や非製造業のソフトウエア投資が押し上げた。
GDPの過半を占める個人消費は速報値の前期比0.2%減から0.3%減に引き下げた。エアコンや水産関連の加工食品が下押しし、3四半期連続でマイナスのままだった。暖冬で冬物衣料も振るわず、新型コロナウイルス禍からの経済回復の一服で外食も伸び悩んだ。
品目別に見ると、家電などの耐久財は速報値の前期比6.4%増から6.1%増に伸びを縮めた。食料品などの非耐久財は0.3%減から0.5%減に下げ幅が広がった。
民間在庫の前期比の寄与度は速報値のマイナス0.0ポイントからマイナス0.1ポイントに下押し幅が拡大した。在庫を取り崩す動きが速報値の想定よりも大きかった。鉄道や航空機といった輸送用機械、船舶、生産用機械で取り崩しが進んだ。
住宅投資は前期比1.0%減で、速報値から横ばいだった。
公共投資は前期比0.8%減だった。建設総合統計の結果などを反映し、速報値の0.7%減からマイナス幅が拡大した。政府最終消費支出も前期比0.2%減と速報値の0.1%減から引き下げた。
輸出は前期比で2.6%増、輸入は1.7%増でいずれも横ばいだった。
名目成長率は速報値の前期比0.3%増、年率で1.2%増から、それぞれ0.5%増、2.1%増に引き上げた。設備投資が前期比で2.9%増と速報値の0.7%増から上振れした。
23年暦年の成長率は実質が前年比1.9%増、名目が5.7%増でいずれも速報値から横ばいだった。
いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、内閣府のリンク先からお願いします。
です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした需要項目 | 2022/10-12 | 2023/1-3 | 2023/4-6 | 2022/7-9 | 2023/10-12 | |
1次QE | 2次QE | |||||
国内総生産 (GDP) | +0.4 | +1.0 | +1.0 | ▲0.8 | ▲0.1 | +0.1 |
民間消費 | +0.2 | +0.8 | ▲0.7 | ▲0.3 | ▲0.2 | ▲0.3 |
民間住宅 | +0.7 | +0.3 | +1.8 | ▲0.6 | ▲1.0 | ▲1.0 |
民間設備 | ▲1.3 | +2.0 | ▲1.4 | ▲0.1 | ▲0.1 | +2.0 |
民間在庫 * | (▲0.1) | (+0.5) | (▲0.1) | (▲0.6) | (▲0.0) | (▲0.1) |
公的需要 | +0.9 | +0.4 | +0.2 | +0.0 | ▲0.2 | ▲0.3 |
内需寄与度 * | (+0.0) | (+1.44) | (▲0.7) | (▲0.8) | (▲0.3) | (▲0.1) |
外需寄与度 * | (+0.4) | (▲0.4) | (+1.7) | (▲0.0) | (+0.2) | (+0.2) |
輸出 | +1.4 | ▲3.5 | +3.8 | +0.9 | +2.6 | +2.6 |
輸入 | ▲0.8 | ▲1.6 | ▲3.6 | +1.0 | +1.7 | +1.7 |
国内総所得 (GDI) | +0.8 | +1.6 | +1.7 | ▲0.5 | ▲0.2 | +0.1 |
国民総所得 (GNI) | +1.4 | +0.3 | +2.1 | ▲0.6 | +0.0 | +0.2 |
名目GDP | +1.8 | +2.2 | +2.6 | ▲0.0 | +0.3 | +0.5 |
雇用者報酬 | +0.1 | ▲1.5 | +0.3 | ▲1.0 | +0.1 | +0.1 |
GDPデフレータ | +1.4 | +2.3 | +3.7 | +5.2 | +3.8 | +3.9 |
内需デフレータ | +3.6 | +3.2 | +2.7 | +2.5 | +2.0 | +2.1 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された10~12月期の最新データでは、前期比成長率がわずかながらプラス成長を示し、水色の設備投資と黒い外需のプラス寄与のほかは、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にプラス寄与しているのが見て取れます。

まず、予想通りに1次QEから上方修正されて、プラス成長の結果が示されています。すでに、1週間前の3月4日の法人企業統計で設備投資の数字が明らかにされていましたので、GDP統計でも設備投資が大きく上振れすることは十分に予想されていて、プラス成長に転じた点についてはまったくサプライズはありませんでした。しかし、引用した記事の2パラめにあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは季節調整済みの系列で前期比+0.3%、前期比年率+1.1%でしたので、これから見るとやや下振れした印象すらあります。国内と海外に分けると、先月の1次QEの際には国内需要の寄与が▲0.3%、純輸出の寄与が+0.2%で合わせるとマイナス成長という結果でした。本日公表の2次QEでは、純輸出の寄与度+0.2%か1次QEから変わらない一方で、設備創始の上振れなどにより国内需要の寄与度が▲0.1%にマイナス幅を縮小させ、合わせたGDP成長率がプラスになっています。ですので、内需がまだ不足しているという見方を変更する必要はありません。設備投資が上振れしても、消費を中心とした内需は弱いままなわけです。何といっても、消費はGDPの過半を占めている需要項目なのですが、まったく盛り上がりを見せていません。消費低迷の大きな要因は、何といってもインフレ=物価上昇であり、実質所得が伸び悩んでいるのですから、消費が低迷するのは当然です。
設備投資については、底流には人口減少過程に入った日本経済の人手不足があり、加えて、今春闘で相応の賃上げがなされるとすれば、経済合理性からして人的資本に代替する設備投資の増加は、今後とも、緩やかに継続すると私は見込んでいます。問題は最大のGDPコンポーネントである消費です。今までは、食料品やエネルギーなどの国内生産が追いつかない基礎的な消費物資、ないし、消費物資の原材料が円高により低コストで輸入できていましたので、国内ではインフレにもならず、賃金水準が低いままでも国民生活が成り立っていました。しかし、2022年2月のウクライナ戦争から商品価格の上昇と円安がダブルで消費、すなわち、国民生活にダメージを与えています。ですので、一部の経済学の専門知識ない論者から円高誘導を求める意見が出ていたのも、一定の理由があった可能性は私も認めます。ただ、商品価格の上昇と円安に対する根本的な処方箋は所得の増加、すなわち、賃上げです。しかしながら、賃金調整には時間がかかります。特に日本の場合、調整時間が長いことから、一時的なりとも政策的な措置、典型的には消費税率の引下げが必要と私は考えていましたが、現在の政府の国民生活を顧みない「棄民政策」のために、逆に、電力会社や石油元売りに対する補助金という世界でも例を見ない大企業優先政策が取られています。実に驚くべきことです。
現在の岸田内閣の支持率が低いのには、当然の理由があります。能登半島を見れば、現政権の「棄民政策」が明確に理解できます。それでも選挙で政権交代が図られず、現在の与党が政権に居座り続けるのであれば、何らかの市民的な抵抗運動が生じる可能性を本日のGDP統計をはじめとする経済統計の公表ごとに見る思いがしてなりません。
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