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2024年4月17日 (水)

3か月ぶりに貿易黒字を計上した3月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+7.3%増の9兆4,696億円に対して、輸入額は▲4.9%減の9兆1,031億円、差引き貿易収支は+3,665億円の黒字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字3年連続、23年度5.8兆円 資源高一服で縮小
財務省が17日発表した2023年度の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆8918億円の赤字だった。赤字は3年連続となる。原油など資源価格の高騰が一服したことなどから金額は73.3%減った。
輸出額は前年度比3.7%増の102兆8982億円で過去最高となった。23年通年でも100兆円を超えていたが、年度でも初めて大台に乗った。半導体不足の解消で供給制約が少なくなり、自動車の輸出額が17兆8771億円と30.2%伸びたことなどが押し上げた。
輸入額は10.3%減の108兆7901億円だった。原油や液化天然ガス(LNG)などの輸入額が減った。これら鉱物性燃料の輸入額は26.4%減の26兆55億円となった。原油及び粗油の輸入量が8.6%減るなど、化石燃料は数量ベースでも輸入が減った。
財務省によると23年度の円の対ドル相場は平均で1ドル=143円79銭だった。22年度の135円05銭からさらに円安・ドル高に振れた。ロシアのウクライナ侵略による資源価格の世界的な高騰が一服した影響によって、円安が進む中でも全体の輸入額は3年ぶりに減少に転じた。
地域別に見ると、米国との貿易収支は9兆1356億円の黒字だった。自動車や建設用・鉱山用機械の輸出がけん引して黒字額は37.8%増えた。中国には5兆9287億円の貿易赤字、欧州連合(EU)向けは7219億円の赤字だった。
足元では23年度の平均を上回る154円台まで円安が進んでいる。イランがイスラエルに報復攻撃を加えるなど中東情勢は緊迫の度合いを増しており、今後原油価格に影響してくる可能性もある。貿易赤字が再び膨らむ懸念が残る。
同時に発表した3月の貿易収支は3664億円の黒字だった。黒字は3カ月ぶりとなる。自動車や半導体など電子部品の輸出が伸びた。

長くなってしまい、かつ、2023年度統計に圧倒的な重点が置かれていますが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、+3000億円を超える貿易黒字が見込まれていましたので、ほぼジャストミートしたといえます。3月の貿易収支は季節調整していない系列で見ると黒字でしたが、季節調整済みの系列で見るとまだ赤字が続いています。ただし注意すべき点は、1月と2月は中華圏の春節次第で我が国の貿易が大きな影響を受けるという事実であり、ひょっとしたら、3月までそういった撹乱要因が継続的に影響している可能性は否定できません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
3月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が伸び悩んでいます。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲4.5%減ながら、金額ベースでは+2.8%増となっています。数量ベースの減少以上に単価が上昇した結果、輸入額が増加しているわけです。しかし、LNGについては、数量ベースでは▲3.0%減、金額ベースでも▲9.5%減となっています。数量の低下とともに単価が下がっていることがうかがわれます。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲8.5%減、金額ベースでも▲22.0%減と大きく減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で見て、数量ベースの輸出台数は+14.9%増、金額ベースでも+22.0%増と大きく伸びています。前年同月との比較ですので、どこまでの寄与があるのか不明ながら、ダイハツの品質偽装に端を発する生産停止からの回復が寄与しているのかもしれません。自動車や輸送機械を別にすれば、金額ベースの前年同月比で見て、一般機械は+3.2%増と輸出を伸ばしている一方で、電気機器は▲2.9%減となっています。

最後に、貿易収支だけではなく、サービス収支や所得収支・金融収支なども含めた経常収支に関して財務省で「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」と題する財務官主催の懇談会が3月26日に第1回の会合を開催しています。その事務局提出資料に貿易・サービス収支について考えられる論点として、p.8に以下の3点が上げられています。所得収支・金融収支なども含めた論点が財務省の事務局資料にありますので、ご興味ある向きは原資料をご覧下さい。

  • 近年の貿易赤字傾向の背景としては、自動車に匹敵する黒字の担い手の不在、生産拠点の海外移転、基礎的資源の輸入依存などが挙げられる。
  • サービス収支については、好調なインバウンドを背景に旅行収支は改善する一方、デジタル分野や研究開発関連といった先進的な分野では赤字が拡大している。
  • こうした状況の背景や今後の見通しをどのように分析するか。我が国が、今後、財・サービス両分野で、収支構造を強靱化するとともに、国際競争力を維持・強化するためには、どのような施策が必要か。

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