国際通貨基金「IMF世界経済見通し」分析編を読む
今週、3日間に渡って五月雨式に国際通貨基金(IMF)から「IMF世界経済見通し」分析編 IMF World Economic Outlook Analytical Chapters が公表されています。第1章の見通し編は4月16日の公表予定です。すでに公表されている分析編は以下の第2-4章です。前年までは分析編は第2章と第3章の2章だけ、というパターンが多かった気もしますが、以下の通り、今回は分析編が金利上昇の影響、中期的な成長の鈍化、新興国市場からの波及効果、の3点に焦点が当てられています。
- Chapter 2: Feeling the Pinch? Tracing the Effects of Monetary Policy through Housing Markets
- Chapter 3: Slowdown in Global Medium-Term Growth: What Will It Take to Turn the Tide?
- Chapter 4: Trading Places: Real Spillovers from G20 Emerging Markets
分析編だけで3章、各章20ページを超えますので、誠に簡略ながら、以下の IMF Staff Blog も参照しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。
- Housing is One Reason Not All Countries Feel Same Pinch of Higher Interest Rates
- World Must Prioritize Productivity Reforms to Revive Medium-Term Growth
- Emerging Markets Are Exercising Greater Global Sway
広く知られている通り、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックによる供給サイドの問題、あるいは、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、エネルギー価格や穀物などの食料価格などの値上がりにより世界経済は大きな物価上昇を生じ、先進国をはじめとして世界の中央銀行は金融引締め=利上げを行っています。長らくゼロ金利が続いた日本ですら、先月3月に日銀が異次元金融緩和を終了し、金融引締めを開始したことは広く報じられている通りです。ただ、これまた、広く認識されているように、米国では従来の金融引締めの高価が発揮されておらず、インフレの収束が遅れている一方で、景気悪化にも至らず、ソフトランディングのパスに乗っている可能性が取り沙汰されています。他方で、未公表ながら、第1章の見通し編で示されるように、金融引締めによる総需要抑制効果が大きく現れて成長率を鈍化させている国もあるようです。こういった金融政策の効果の違いがどういった要因により生じているかを第2章では分析しています。そして、結論としては、住宅投資を通じた景気効果にその差を求めています。すなわち、住宅ローン借入れに固定金利が占める比率が高いと金融政策の効果、金利引上げの効果が小さくなる、逆は逆、ということになります。まあ、誰が考えてもそうなのですが、それをIMFのスタッフが正面から取り組んだところに意義があるのかもしれません。ということで、上に引用したのは p.56 Figure 2.13. Changes in the Share of Fixed-Rate Mortgages です。もちろん、これだけではなく、家計の債務や供給制約も考慮されています。でもって、住宅ローンについて日本を例に考えると、もともと固定金利住宅ローン Fixed-Rate Mortgages の割合が低く、その上、2011:Q1から2022:Q4にかけて固定金利ローンの割合がさらに低下しているのが見て取れます。ですから、日本は政策金利に連動して変動する住宅論の比率が高くて金融引締めの効果が現れやすい、ということになるのですが、ホントですかね、と思うエコノミストは私だけでしょうか。それとも、日本はいつでも世界の例外なんでしょうか。
続いて、第2章では中期的な成長の鈍化に直面して、生産性向上の重要性を分析しています。中期的に、IMFでは成長率が低下する予想を持っていて、COVID-19パンデミック前の2000~2019年の20年間の平均成長率に対して、2030年までに▲1%ポイントの成長率の低下の可能性があると試算しています。そして、その対策として、いくつかの政策とその政策効果、ほかに現在の経済の流れなどの試算結果を上げています。それが上のグラフであり、p.76 Figure 3.17. Impact of Various Factors on Global Medium-Term Growth を引用しています。政策効果については4つの政策をピンポイントで試算し、経済の今後の方向については3つの潮流をレンジで試算しています。見れば明らかなのですが、政策効果については、労働参加率上昇政策 Policies boosting LFPR、移民促進による先進国での労働供給拡大 Migration boost to AEs' labor supply、人材配置改善政策 Policies improving allocation of talent の3つについては、まあ、なんと申しましょうかで、効果はボチボチといえますが、資源配分是正のための構造改革 Structural reforms reducing misallocation については+1%ポイントを超える成長促進効果を見込んでいます。また、今後の経済の方向性として、公的債務の過重 Public debt overhang と世界経済の分断化 Fragmentation は成長率抑制に作用する一方で、AIの活用 AI adoption はかなり大きな効果が予想されています。AIの活用はもういうまでもありませんから、資源配分是正のための構造改革については、IMFでは商品・サービスの市場や労働市場の柔軟性を向上させ、貿易や投資の開放性を維持し、金融の深化を促す政策を想定しているようです。
世界経済の主役の変化については、今までも何度も主張されてきた通り、第2次世界大戦直後の米国一強経済と違って、21世紀にはG20レベルの新興国の世界経済への影響力が強まるのは当然です。サイズの点ではいうに及ばず、サプライチェーンに占める新興国の重要性も、この章で波及効果の計測などが分析されています。上のグラフは p.96 Figure 4.9. Firm-Level Spillovers を引用しています。このグラフは、新興国の成長が加速した場合のショックが、サプライチェーンの原材料や部品などの供給サイドからのショックと製品などの供給先として考える需要サイドのショックに分けて試算しています。インドネシアとトルコを例外として、G20新興国のうち多くの国で成長が加速すれば、その国から原材料や部品、あるいは、製品の供給を受けている場合、当然、新興国内での成長加速により輸入できる数量が減少したり、あるいは、輸入価格が上昇したりして、サプライチェーン前方の輸入元からの負の供給ショックを受けます。他方で、輸出先としてサプライチェーンの後方リンケージを考えると、輸出が増加してプラスの需要ショックが生じます。これも当然といえば当然の結果であり、企業レベルでは新興国を輸出先としてサプライチェーンに組み入れるべき時代がやってきた、ということになります。
最後に繰り返しになりますが、「IMF世界経済見通し」の見通し編本編は4月16日の公表予定です。
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