電気製品はいかに家庭や女性労働を変革したか?
全米経済研究所(NBER)から、電気製品がいかに家庭に変革をもたらしたかの歴史的概観を取りまとめたリポートが明らかにされています。主として、米国とドイツの例を取り上げていて、残念ながら、ほとんど日本に対する言及はありませんが、欧米先進国については米独以外にも何か国かレビューされています。まず、引用情報は以下の通りです。
- Adamopoulou, Effrosyni, Jeremy Greenwood and Nezih Guner (2024) "The Household Equipment Revolution," NBER Working Paper No.32253, March 2024
pdfのリポートからグラフをいくつか引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポート p.3 から Figure 2. The decline in weekly hours spent on housework in the United States. を引用すると上の通りです。見ればわかると思いますが、1990年から2020年までの家事に費やされた労働時間の推移です。120年前には1週間で60時間近い家事労働を必要としていましたが、1975年には週当たり18時間まで減少しています。1990年以降はほぼ安定し、10時間余りとなっています。
続いて、リポート p.4 から Figure 3. The diffusion (upper panel) and the time price (lower panel) of electrical appliances through the U.S. economy. を引用すると上の通りです。上のパネルが家庭における家電製品の普及率を、そして、下のパネルがそういった家電製品の購入に必要な労働時間を、それぞれプロットしています。先ほどの家事労働時間のグラフで明らかなように、1990年でほぼ安定していますので、普及率の方も1990年までをプロットしてあります。基本的な因果関係は下のパネルから上のパネルに向かっています。すなわち、耐久消費財であるこれら家電製品が大量生産されるに従って価格を低下させるとともに、賃金上昇も加わって、大いに家庭に普及し家事労働時間を短縮したわけです。
最後に、リポート p.14 から Figure 13. Evolution of Female Labor-Force Participation rates in a set of countries. を引用すると上の通りです。NHKの朝ドラ「虎に翼」に見られる日本に限らず、先進各国では家事労働はご婦人によって大きな部分が担われていたわけで、その家事労働時間が短縮されると女性の労働参加率が上昇します。誠に残念ながら、日本はこのグラフに入っていませんが、おそらくは同じ傾向であったと推察されます。各国さまざまな経済社会の条件により結果は異なっていて、北米では今世紀に入って女性の労働参加率はむしろ反転・低下を始めているようですが、欧州に目を転じると、英国とドイツではまだ上昇を続けていて、フランスとスペインでは横ばいの安定した段階に達したのかもしれません。ただし、グラフの引用は省略していますが、同時にこのリポートでは Figure 14. Evolution of Marriage rates in a set of countries. を報告していて、婚姻率は低下しています。婚姻率の低下も女性の労働参加率上昇のひとつの要因になっている可能性は否定できません。
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