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2024年5月31日 (金)

予想に反して減産となった鉱工業生産(IIP)と順調に伸びを続ける商業販売統計と改善が鈍化している雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも4月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.4%増の13兆5290億円を示し、季節調整済み指数は前月から+1.2%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を▲0.02ポイント下回って1.26倍となっています。まず、日経新聞ほかのサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

4月の鉱工業生産、0.1%低下 市場予想下回る
経済産業省が31日に発表した4月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は101.6となり、前月から0.1%下がった。上昇を見込む声が多かった民間予測に反して2カ月ぶりのマイナスとなった。米航空機大手ボーイング社製の小型機の運航停止や減産の影響で輸送機械工業が低下したのが響いた。
QUICKがまとめた事前の民間エコノミスト予測の中央値は前月比1.2%上昇だった。基調判断は「一進一退ながら弱含み」と前月から据え置いた。
全15業種のうち7業種で低下した。航空機用機体部品などの輸送機械工業が前月比13.4%のマイナスだった。ボーイング社製の小型機の運航停止を受け、日本企業も受注や生産が減った。一般用蒸気タービンやコンベヤといった汎用・業務用機械工業は3.2%下がった。
上昇した8業種のうち、半導体製造装置や機械プレスの生産用機械工業は4.1%上がった。台湾や中国といった海外向けの生産が堅調だった。金属製品工業は6.4%伸びた。自動車部品のばねの生産が戻りつつある。
主要企業の生産計画から算出する予測指数は5月に前月比で6.9%の上昇を見込む。企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省による補正値は2.3%の上昇となっている。6月の予測指数は5.6%のマイナスとなった。
ボーイングは24年1月、小型機「737MAX」が飛行中に胴体に穴が開く事故を起こした。4月には中型機「787」の製造品質に不備があるとの内部通報があり、米連邦航空局(FAA)が調査に乗り出したことが明らかになっている。
経産省の担当者は、機体部品への「影響がどのくらい続くかは不透明だ」と言及した。
小売業販売額4月は前年比2.4%増、ドラッグストア好調や値上げで
経済産業省が31日に発表した4月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.4%増だった。医薬品・化粧品・機械器具などの伸びで26カ月連続のプラスとなった。ロイターの事前予測調査では1.9%の増加が予想されていた。
業種別の前年比は、機械器具が9.2%増、無店舗小売り6.3%増、医薬品・化粧品が6.0%増、飲食料品1.7%増など。ドラッグストアでの調剤や家庭用品販売が好調だったほか、エアコンやスマートフォンの販売も増えた。値上げの影響で、飲食料品の販売も膨らんだ。
一方、織物・衣服は天候不順の影響で1.0%減。自動車販売も、メーカーの生産停止が響き7.9%減と落ち込んだ。
業態別の前年比は、百貨店8.3%増、スーパー1.1%増、コンビニ0.3%増、家電大型専門店3.5%増、ドラッグストア6.2%増、ホームセンター0.8%増。
4月の求人倍率、1.26倍に低下 失業率は2.6%で横ばい
厚生労働省が31日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.26倍で、前月と比べ0.02ポイント低下した。賃上げへの期待から新規の求職件数は増えたが、物価高や円安の影響で求人を控える動きが目立った。総務省が同日発表した4月の完全失業率は2.6%で前月から横ばいだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人に対し、1人あたり何件の求人があるかを示す。4月の有効求人数は1.3%減の240万379人、有効求職者数は0.3%減の203万4156人だった。3月は求職者数が減り求人倍率が16カ月ぶりに上昇したが、再び低下に転じた。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月と比べ2.3%減った。産業別にみると、製造業で7.8%減、宿泊・飲食サービス業で6.3%減とマイナスが目立った。
製造業では物価高や円安による原材料費の高騰が収益を圧迫し、新規の採用を抑制する動きが出た。宿泊・飲食サービス業は前年の新型コロナウイルスの5類移行を前に、観光需要増を見据えて求人数が伸びた反動があった。
新規求職申込件数は前月と比べ5.2%増えた。厚労省によると、物価の上昇で生活コストが膨らみ、掛け持ちの仕事を探す傾向がみられた。今後の賃上げを期待して転職を希望する動きもあった。

とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で+1.2%の増産でしたので、実績の前月比▲0.1%の減産は、大きく下振れした印象です。しかしながら、引用した記事にもある通り、ボーイング社製の運航停止や減産というイレギュラーな要因が大きく影響した結果であることから、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、1月に下方修正した「一進一退ながら弱含み」を本日公表の4月統計でも据え置いています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の5月は補正なしで+6.9%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+2.3%の増産となっていますが、明日から始まる6月は▲5.6%の大きな減産と見込まれています。しかし、この製造工業生産予測指数を製造工業以外に単純に当てはめると、4~6月期の生産は前期比プラスとなりますから、GDPもプラス成長の可能性が十分あります。鉱工業生産に戻って、経済産業省の解説サイトによれば、4月統計での生産は、引用した記事にもある通り、自動車工業を除く輸送機械工業の落ち込みが大きく、前月から▲13.4%の減産、寄与度▲0.42%となっています。加えて、汎用・業務用機械工業で▲3.2%の減産、寄与度▲0.24%、電気・情報通信機械工業も▲2.4%の減産、寄与度▲0.20%となっています。他方、増産は、生産用機械工業が+4.1%の増産、寄与度+0.37%、金属製品工業も+6.4%の増産、寄与度+0.25%、無機・有機化学工業が+5.6%の増産で、寄与度+0.24%などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の4月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.5%の上昇となりましたので、1月統計から引き下げられた「一進一退」で据え置かれています。ただ、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、4月統計ではヘッドライン上昇率が+2.5%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.2%と、前年同月比で+2%台のインフレですので、小売業販売額の4月統計の+2.4%の前年同月比での増加は、インフレ率ギリギリとなっていて、実質的な消費はほとんど伸びていないと考えるべきです。加えて、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性が否定できません。引用した記事にもある通り、百貨店販売の伸びがスーパーなどよりも大きくなっている点にインバウンド消費が現れている気がします。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。なお、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から横ばいの1.28倍と見込まれていました。ジャストミートした失業率はともかく、有効求人倍率の予測レンジは±0.01倍でしたので、わずかに0.01とはいえレンジ加減を下回ったことになります。しかし、いずれにせよ、人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率も有効求人倍率もともに水準が高くて雇用は底堅い印象ながら、4月統計に現れた雇用の改善は鈍い、と私は評価しています。あるいは、そろそろ景気回復局面が最末期に近づいているのかもしれません。先進各国が景気後退に陥らないソフトランディングのパスに乗っているにもかかわらず、我が国の雇用の改善が緩やかな印象を持つのは私だけではないと思います。加えて、5月20日の経団連のプレスリリースによれば、経団連加盟企業の賃上げが昨年の+3.88%から今年2024年は+5.58%と、引き続き順調な賃上げとなっているとはいえ、大手が名を連ねる経団連加盟企業だけでなく、中小企業の賃金動向も注目です。

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2024年5月30日 (木)

金利引上げは住宅購入において低所得家計に不平等をもたらすのか?

3月に日銀が異次元緩和を終了し利上げに踏み切りました。どうも、円安是正を目指したり上げだったように受け止める見方もありますが、当然ながら金利引上げは企業活動、中でも設備投資に悪影響を及ぼします。しかし、家計に対しては貯蓄からの利子受取りが増加する好ましい面を強調する意見もあります。しかし、最新の経済ジャーナルで、"Monetary Policy and Home Buying Inequality" と題する論文が掲載され、家計のうちの低所得家計が金利引上げにより住宅投資に悪影響を受けかねない可能性を指摘しています。まず、引用情報は以下の通りです。

ジャーナルのサイトから論文のAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
Does monetary policy inuence who becomes a home owner? Lower-income home buyers may be more sensitive to interest rates, at least in part because they more frequently come up against binding payment-to-income ratio constraints in credit decisions. Exploiting the timing of high-frequency observations of individual mortgage rate locks around monetary policy shocks, I find that a 1 percentage point policy-induced increase in mortgage rates lowers the presence of lower-income households in the population of home buyers by 1 to 2 percentage points immediately following the shock. Effects are substantially stronger among first-time home buyers, and persist for approximately one year.

もちろん、pdfの全文ファイルも利用可能となっており、Figure 2: Effect of Mortgage Rates on Fraction of Home Purchase Loans to Lower-Income Households, by Day を引用すると下の通りです。

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当然ながら、低所得家計では信用を供与される際に支払額と所得の比率が低くなることが考えられ、流動性制約に直面する可能性が高くなります。したがって、低所得家計は住宅を購入する際に金利により敏感であると見なすべきです。上のグラフの下のパネルが低h祖特化型の金利引上げショックに対する反応を示しています。上のパネルよりも大きな乖離を生じているのが見て取れます。この論文では、住宅ローン金利が+1%ポイント上昇すると金利引上げ後に▲1~2%の低下を生じると試算しています。しかも、ある意味で当然なのですが、初めて住宅を購入する場合は上のグラフに見られる数日間というショックだけではなく、1年ほどの期間に渡って低下が継続する、と結論しています。

はい。金利が引き上げられると、消費にも影響しますが住宅投資にもネガなインパクトを持ちます。しかも、決してユニバーサルな影響ではなく、金利引上げは低所得家計に不利な影響を及ぼします。加えて、帝国データバンクのリポート「金利上昇による企業への影響調査」によれば、金利上昇による影響は「マイナスの影響の方が大きい」が 37.7%に対して、「プラスの影響の方が大きい」は2.8%にしか過ぎなかったようです。でも、金利を引き上げて、カギカッコ付きの「金融正常化」を進めたい姿勢は変わりないようです。

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2024年5月29日 (水)

5月の消費者態度指数は2か月連続で下降し基調判断が下方修正される

本日、内閣府から5月の消費者態度指数が公表されています。5月統計では、前月から▲2.1ポイント低下し36.2を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数5月は2.1ポイント低下、判断「足踏み」に下方修正
内閣府が29日公表した消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯、季節調整値)は前月から2.1ポイント低下し36.2となり、2カ月連続で悪化した。内閣府は消費者マインドの基調判断を、前月の「改善している」から「改善に足踏みがみられる」に下方修正。大型連休後の宿泊料など、各種値上げが影響した可能性があるとみている。
消費者態度指数の低下幅は2022年3月以来の大きさ、指数の水準は昨年10月以来の低さだった。
指数を構成する「暮らし向き」、「収入の増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の4指標全てが前月から低下した。
1年後の物価見通しでは、上昇するとの回答比率が前月の93.0%から93.5%に増え、昨年9月以来の水準となった。うち物価が5%以上上昇するとの回答は44.0%から46.9%に増え、昨年10月以来の高水準。
円安進行の影響については「調査項目にないためわからない」(内閣府幹部)という。

的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数は今後半年間の見通しについて質問するものであり、4項目の消費者意識指標から成っています。5月統計では、引用した記事にある通り、前月からすべての指標において下降しており、「耐久消費財の買い時判断」が▲2.8ポイント下降して29.0、「暮らし向き」が▲2.2ポイント下降して33.9、「雇用環境」も▲2.2ポイント下降し42.0、「収入の増え方」が▲1.2ポイント下降し39.9となっています。消費者態度指数は、昨年2023年10月統計から6か月連続の上昇を記録した後、4月統計で7か月ぶりに下降した後、5月統計でも2か月連続で下降しました。統計作成官庁である内閣府では基調判断を先月の「改善」から「改善に足踏み」へと下方修正しています。引用した記事にもある通り、年度始まりで物価改定が集中した4月、それに続く5月といった特性が出ている可能性があります。
注目すべきは、引用した記事にもある通り、インフレを見込む割合が高まっている点です。すなわち、物価上昇を見込む割合は、昨年2023年12月の91.6%を底に上昇を続けており、直近の2024年5月統計では93.5%に達しています。2週間前の5月14日に公表された日本経済研究センターのESPフォーキャストに示されたエコノミストの見方でも、消費者物価上昇率は今年2024年7~9月期に+2.76%でピークとなり、その後も高止まりを続け、来年2025年4~6月期でも日銀物価目標をやや上回る+2.07%、2025年7~9月期になってようやく+2%を下回る+1.70%まで上昇率が縮小すると予想されており、しばらくは日銀の物価目標を上回るインフレが続く見込みです。したがって、消費者マインドも物価に連動する時期がしばらく続く可能性が十分あります。

ちゃんと指標を追っているわけではありませんが、米国コンファレンスボードの消費者信頼感指数をロイターブルームバーグの報道で見る限り、インフレ懸念で消費者マインドが上向かないのは米国でも同じ、ということのようです。

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2024年5月28日 (火)

+2.8%の大きな上昇となった4月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から4月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からさらに加速して+2.8%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同様に+2.7%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、4月2.8%上昇 実質32年ぶり伸び
日銀が28日発表した4月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は111.9と、前年同月比2.8%上昇した。幅広い分野で人件費上昇を価格に反映する動きがあり、伸び率は3月(2.4%)から0.4ポイント拡大した。
プラス幅は消費税引き上げの影響があった15年3月(3.1%)以来で、同影響があった期間を除くと1991年9月(3.2%)以来32年半ぶりの大きさとなった。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。例えば貨物輸送代金や、IT(情報技術)サービス料などで構成される。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
内訳をみると、幅広い分野で4月の価格改定で人件費上昇などを転嫁する動きがみられた。機械修理は部品価格や人件費の上昇を転嫁する動きで前年同月比で5.5%上昇した。教育訓練サービスでは対面型のもので人件費と会場利用料の上昇があり、3月(0.8%)から伸び率が5.9ポイント拡大し、6.7%上昇した。
情報通信も前年同月比で2.2%上昇した。日銀によると、システムエンジニア(SE)職の賃上げを反映する動きが中心だったが、4月からは他の職種にも広がりがみられたという。
宿泊サービスはインバウンド(訪日外国人)を含む人流回復が寄与し、前年同月比22.3%上昇したが、3月(28.6%)から縮小した。23年4月に観光促進策「全国旅行支援」の割引の縮小で伸び率が拡大していた反動とみられる。
外航貨物輸送は前年同月比16.7%上昇した。需要減退や燃料費下落があった23年の反動で海運相場が上昇した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で4月に上昇したのは113品目、下落は18品目だった。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、とてつもなく長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。ただし、指数の基準年が異なっており、国内企業物価指数は2020年基準、企業向けサービス価格指数は2015年です。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速は終了し、2022年12月から指数水準として120前後でほぼほぼ横ばいとなっていて、直近で利用可能な4月統計でも121.2となっています。したがって、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は4月統計で+0.3%にとどまっています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてまだ上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、今年2023年8月から+2%台まで加速し、本日公表された4月統計では+2.8%に達しています。9か月連続で+2%台の伸びを続けている上に、消費税率の引上げ時期を別にすれば1991年以来32年ぶりの上昇幅ということになります。+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があるとは思いますが、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、その物価目標の+2%から大きく離れているわけではないことも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。すなわち、年度始まりの4月の価格改定に適した時期に人件費上昇分などを転嫁する動きが見られた、ということではないかという気もします。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて4月統計のヘッドライン上昇率+2.8%への寄与度で見ると、土木建築サービスや機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+1.31%ともっとも大きな寄与を示しています。コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方です。結果的に、ヘッドライン上昇率+2.8%の半分近くを占めています。また、引用した記事にもある通り、インバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で+22.3%と、3月統計から上昇幅が縮小したとはいえ、依然として高い上昇率です。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や外航貨物輸送や道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.55%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.49%、のプラス寄与となっています。

最後に、日本政策投資銀行のリポート「『強欲インフレ』にみる賃上げへの期待」にも見られるように、2023年中の日本のGDPデフレータの上昇はほぼほぼすべてが企業収益要因であって、賃金要因はゼロに近い点は忘れるべきではありません。賃上げが価格に転嫁されているのではなく、企業の収益増を支える価格上昇と考えるべきです。すなわち、日本国内のホームメードインフレーションは賃上げが原因なのではなく、企業が収益を伸ばす「強欲インフレ」(Greed-flation) なのです。

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2024年5月27日 (月)

ピーターソン国際経済研究所(PIIP)によるトランプ候補の財政提案の分析やいかに?

先週月曜日の5月20日に、ピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics=PIIE)から "Why Trump's Tariff Proposals Would Harm Working Americans" と題する Policy Brief が明らかにされています。すなわち、米国大統領選挙に共和党の候補として出馬するトランプ候補の関税と減税の提案が低所得や中所得の層が税負担の増加を負うダメージをもたらすとの主張です。まず、引用情報は以下の通りです。

私が大雑把に読んだところ、伝統的なミクロ経済学の余剰分析、すなわち、厚生経済学の第2定理に基づく市場価格に関税が課された時の消費者余剰と生産者余剰の変化、さらに、死荷重(dead weight loss)の計測を行っています。そして、それをいくつかの所得階層別に計測するとともに、逆進的な消費者課税の提案の影響も併せて計測しています。トランプ提案は2017年税制改革法の延長、一律10%の関税率の設定、特に中国からの輸入には60%の関税率の適用などが中心として考えられています。

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まず、リポートから Figure 3 Consumption-based taxes are less progressive than other tax instruments, putting more burden on lower-income taxpayers を引用すると上の通りです。10分位所得で見ていて、もっとも所得の低い第1分位は所得の0.7%を占める一方で、ほとんどの税金の0.7%未満、給与税の0.7%、物品税/関税の1.7%を負担しています。このように間接税は逆進性があり、トランプ提案は低所得層の税負担を重くするものであると主張しています。

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続いて、リポートから Figure 5 Trump's fiscal agenda includes both regressive tax cuts and regressive tax increases を引用すると上の通りです。グラフのタイトル通り、トランプ提案は逆進的な減税と同じく逆進的な増税の両方を含んでいると分析しています。TCJAというのは、2017年税制改革法=Tax Cuts and Jobs Act のことなのですが、所得の5分位でみて、低所得層ほどネットのロスが多くなっているのが見て取れます。

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続いて、リポートから Figure 6 Trump's fiscal agenda places a greater burden on lower- and middle-income taxpayers を引用すると上の通りです。要するに、このリポートの結論となるわけで、5分位所得で見てもっとも低所得の第1分位から第4分位までは負担増となり、所得が低い方が負担が大きい、と結論しています。5分位の中でネットでプラスとなるのは、もっとも所得の高い第5分位だけと試算されています。そして、その5分位所得の中の第5分位でもプラスは+0.21%にしか過ぎない一方で、100分位で考えてもっとも裕福なトップ1%は+1.36%のプラスと結論しています。

米国大統領選挙の二大政党の候補者はほぼほぼ決まったも同じで、これからいろんな政策議論が行われると考えられます。いろんな政策課題の中で、1992年のクリントン陣営のモットーであった "It's the economy, stupid." は今でも真実なのではなかろうか、と私は考えています。

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2024年5月26日 (日)

2枚看板のクローザー2人がともに失点して巨人に惜敗

  RHE
読  売0000000011 2100
阪  神0000001000 150

終盤に失点して、ジャイアンツに惜敗でした。
序盤から中盤までは緊迫した投手戦で、今日もノーヒットノーランされるのか、という危機感すらありましたが、ラッキーセブンの集中打で1点をもぎ取ります。そして、終盤8-9回はゲラ投手と岩崎投手が登場です。しかし、この2枚看板のクローザーのゲラ投手と岩崎投手がともに失点しては勝てません。

今週から始まる交流戦も、
がんばれタイガース!

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2024年5月25日 (土)

ノーヒットノーランの翌日は完封リレーでジャイアンツにリベンジ

  RHE
読  売000000000 041
阪  神01011000x 381

先発のビーズリー投手が6回まで3安打無失点で抑え、7回から強力リリーフ陣が繰り出され、ジャイアンツに快勝でした。昨夜のノーヒットノーランのリベンジです。
序盤の1回ウラに3番森下選手と4番大山選手が相次いでヒットを放ち、昨夜の嫌なイメージを払拭した後、2回には木浪選手のタイムリー、4回には先発5番サードに入った渡邉選手のソロホームラン、5回にも森下選手のタイムリーで着々と加点し、投げては完封リレーでした。それにしても、3連戦の初戦を落としては続く2戦を取ってのカード勝ち越しが続いています。その昔のプロレス3本勝負を思い出してしまいました。

明日の交流戦前最後のゲームも、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書と歴史書に新書を合わせて計6冊

今週の読書感想文は以下の通り計6冊です。
まず、エドワード・チャンセラー『金利』(日本経済新聞出版)は、どこかで見たような低金利批判のオンパレードです。クィン・スロボディアン『グローバリスト』(白水社)は、シカゴ学派ではなくジュネーブ学派のハイエクなどに新自由主義=ネオリベの源流を求めた歴史書です。堤未果『国民の違和感は9割正しい』(PHP新書)では、能登半島地震の復興策や自民党のパーティー券収入の裏金などに関して、国民の違和感を正しく評価しています。雨宮処凛『死なないノウハウ』(光文社新書)は、格差が広がり貧困が蔓延する日本社会で、生死を分けかねない社会保障などの重要な情報を収録しています。柯隆『中国不動産バブル』(文春新書)は、中国のバブルはすでに崩壊したと指摘し、中国バブルの発生と進行を後づけています。寺西貞弘『道鏡』(ちくま新書)は、日本史上の悪僧として名高い道鏡について、巷間のウワサの域を出ない物語を否定し、その実像に迫ろうと試みています。
ということで、今年の新刊書読書は1~4月に103冊の後、5月に入って先週までに19冊をレビューし、今週ポストする6冊を合わせて128冊となります。順次、Facebookやmixiなどでシェアする予定です。なお、経済書ということで冒頭に取り上げた『金利』はすでにAmazonでレビューしており、現時点では私しかレビューを掲載していないようです。誠に申し訳ないながら、2ツ星の評価としておきました。

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まず、エドワード・チャンセラー『金利』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、金融史研究者、金融ジャーナリスト、ストラテジストと紹介されています。英語の原題は The Price of Time であり、2022年の出版です。本書は三部構成であり、金利の歴史、低金利の分析、ビー玉ゲームとなっています。日本経済新聞らしく、本書の一貫したテーマは低金利に対する批判です。第Ⅰ部は金利の歴史をなぞっていて、第Ⅱ部が本書の中心的な部分と考えるべきです。そして、この第Ⅱ部で極めて執拗な低金利及び低金利政策に対する批判が加えられています。おそらく、本書のタイトルからして、金利とは時間の価格であり、一般的に正の時間割引率を前提とするのであれば金利はそれ相応の水準になければならない、ということのようです。歴史的に、自然利子率の考えは、名称ではなく、考えは、17世紀のロックの時代までさかのぼることが出来ると指摘しつつ、しかしながら、20世紀のケインズ卿は自然利子率が完全雇用を保証するとは限らない、しかも、利子率の水準よりも雇用のほうが重要、という価値判断から金利を低く抑えて完全雇用を達成するための政策手段のひとつとして利用しようとします。私はこのケインズ卿の理論は完全に正しいと考えていますが、本書ではこういった考えに基づく低金利が攻撃の槍玉に上げられています。繰り返しになりますが、それが第Ⅱ部の主たる内容です。まず、グッドハートの法則を持ち出して、金融政策の操作目標が金利になると不都合を生じる可能性を示唆します。後はどこかで見たような主張の羅列となります。ゾンビ企業が淘汰されずに生き残ってしまって非効率が生じ、当然のようにバブルが発生してしまうと主張します。バブルは生産活動に従事しなくても所得を得る可能性を生じさせて経済の生産性を低下させるわけです。もちろん、低金利では社会保障基金の収入が低下しますので、第13章のタイトルは「あなたのお母さんは亡くならなくてはいけません」になるわけです。でも、マリー・アントワネットではないのですから信用を食べて生きていけるわけではない、という結論です。最後の第Ⅲ部では金融抑圧や中国の例が持ち出されて、低金利批判が繰り返されます。要するに、低金利が原因となって非効率や低成長といった結果をもたらすという主張なのですが、整合性を欠くことに、時間の価格としての金利を想定していますので、時間が経過しても生産が増加せずに結果として低金利に帰着する、という因果関係は無視されています。私は、金利と生産性のは双方向の因果関係、というか、もはや因果関係とは呼べないような相互のインタラクションがあるのではないかと考えていますが、本書ではそうではなく、低金利がすべて悪い、という主張のようです。しかも、しばしば言及されているのは国際決済銀行(BIS)のチーフエコノミストだったホワイト局長とか、ボリオ局長です。ややバイアスあるエコノミストという気がしないでもありません。ただ、出版されてほぼ1か月を経過し、アマゾンのレビューの第1号が私のもののようですが、日経新聞が利上げを強硬に強力に主張し、日銀が3月に利上げを開始したところですから、ある意味で、タイムリーな出版ともいえます。それなりの注目を集める可能性があります。でも、それほど大した内容ではありませんし、間違っている部分も少なくないと私は考えています。

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次に、クィン・スロボディアン『グローバリスト』(白水社)を読みました。著者は、カナダ生れの歴史学者であり、現在は米国ボストン大学の研究者です。ご専門はドイツ史や国際関係史だそうです。ですので、p.20では「本書の物語は、中欧からみたネオリベラルなグローバリズムのビジョンを提示する。」と宣言しています。そうです、ネオリベといえば英米が中心、しかも、フリードマン教授やスティグラー教授などの米国のシカゴ学派が拠点と考えられがちですが、本書ではシカゴ学派ではなく中欧のジュネーブ学派、ミーゼスやハイエクなどのエコノミストを念頭に置きつつ、1920年代から現在までのほぼ100年に及ぶネオリベラルな政治経済史を明らかにしようと試みています。そして、私はエコノミストですので、1980年前後から英国のサッチャー内閣、米国のレーガン政権、あるいは、モノによっては我が国の中曽根内閣などのネオリベな経済政策が頭に浮かびますが、そういったネオリベな経済政策、国営や公営企業の民営化や規制緩和などはほとんど言及されていません。そうではなく、もっと政治経済学的な帝国、特に、ハプスブルグ帝国やその末裔、また、帝国の後を引くような国民国家(インぺリウム)と世界経済(ドミニウム)を融合させる連邦を理想とした政治家たちを取り上げて、制度設計を中心に据えるネオリベラルの歴史をひもといています。特に、英米や日本といった先進国もさることながら、途上国にも自由貿易を理想として示したり、あるいは、21世紀になって「ワシントン・コンセンサス」とやや揶揄されかねない呼称を与えられた経済政策を旗印にした国際機関にも注目しています。ここでも、ジュネーブ学派が国民国家における民主的な議会制度などではなく、超然とした存在の国際機関をテコにしたネオリベラリズムを志向していた可能性が示唆されます。他方で、一国主義的な自由や民主主義はグローバリズムによる制約を受ける可能性、というか、グローンバリズムが一国内の民主的な制度を超越しかねないリスクもありえます。私は、今世紀初頭にインドネシアの首都ジャカルタで国際協力の活動に参加して、1990年代終わりの国際通貨危機の後始末もあって、ワシントン・コンセンサスに基づくネオリベなIMF路線が蛇蝎のように嫌われていながらも、受け入れて救済を受けるしかない国民の不満を目の当たりに見ましたし、韓国でも同じような状況であったと聞き及びました。ただ、それでは国内に重点を置けばいいのかというと、ポピュリスト政権、例えば、米国のトランプ政権のような方向性が望ましいのかといえば、もちろん、そうでもありません。ネオリベな格差の是認や貧困の放置は、少なくとも日本では極限に達していますが、それだけではなく、ネオリベラリズムの国際的な側面、歴史的な成立ちを解き明かそうとする真摯なヒストリアンの試みの書といえます。

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次に、堤未果『国民の違和感は9割正しい』(PHP新書)を読みました。著者は、国際ジャーナリストであり、私はこの著者の新書は『デジタル・ファシズム』、『堤未果のショック・ドクトリン』ほかを読んでレビューしています。5章構成となっていて、第1章では、災害の違和感として、災害時、特に今回の能登半島地震などに見られる棄民の実態、あるいは、地方政府などの提供するインフラの切売りを取り上げています。第2章では戦争と平和を取り上げて、ガザやウクライナにおける戦争や防衛費増額の疑問に焦点を当てています。第3章では農業と食料を取り上げ、第4章ではパーティー券収入の裏金問題をはじめとする情報操作に注目し、第5章ではこれらの違和感に対する対応につき議論を展開しています。ということで、特に、官庁エコノミストとして長らく官庁に勤務した私の目から見て、やっぱり、パソナや電通をはじめとする民間企業に政府のなすべき公務を丸投げして大儲けさせている実態には唖然とするしかありません。水道インフラを外国企業に売り渡す地方自治体があったり、農家を立ち行かなくする制度を作った上で農地を海外投資家に売るように仕向けたりといった形で、なんとも日本の国益に沿った政治がなされているのかと疑問に感じるような政策が次々と実行されています。加えて、貿易費調達のためにNTTの通信インフラを売りに出したり、無理ゲーのマイナカードの普及を図ったりと、国民生活を中心に据えた政策ではなく、政治家や一部の政治家に癒着した企業が儲かるだけの違和感タップリの政策をここまで堂々と推し進められてはかないません。しかし、他方で、メディアの劣化もはなはだしく、災害報道や芸能ニュース、はたまた、実にタイミングよく飛び出す北朝鮮のミサイル発射など、国民の耳をふさぎ真実を伝えない報道も本書では明らかにされています。本書では取り上げられていませんが、私は最近の民法改正の目玉であった「共同親権」については大きな疑問を持っていますが、メディアでは法案が成立した後になって報道し始め、一部に批判的な専門家を取材したりして、それでもってお茶を濁すような姿勢が明らかです。メディアがここまで政府の提灯持ちとなって劣化していますので、本書の最終章でも「選挙で政権交代」といった解決策は提示されていません。そうです。私も現在の日本でホントに選挙で政権交代が出来るとは思っていませんし、その意味で、日本は中国やロシアの独裁政権に似通った部分がある可能性を憂慮しています。かといって、武力革命なんて選挙による政権交代よりも10ケタ以上可能性が低いことは衆目の一致するところです。このままでは、米国ハーバード大学のエリカ・チェノウェス教授の『市民的抵抗』で取り上げられている3.5%ルールに望みをかけるしかないのか、という悲観論者になってしまいそうです。

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次に、雨宮処凛『死なないノウハウ』(光文社新書)を読みました。著者は、反貧困や格差への抵抗を旗印にした作家・活動家です。本書は、タイトルこそおどろおどろしい印象なのですが、実は、困ったときのマニュアルといえます。もちろん、何に困るかにもよりますが、表紙画像にあるように金欠問題を取り上げた第1章のお金始まって、第2章では仕事、第3章で親の介護、第4章で健康、第5章で相続などの近親間でのトラブル、最後の第6章で、これも表紙にある散骨を含む死を取り上げています。私はカミサンとともに両親ともすでに死んでいて、現時点で親の介護の必要はないものと想定していますが、その他のお金にまつわる問題点についても、何とか大問題と考えずに済むような状態にあります。仕事も60歳で公務員の定年を、65歳で大学教員の定年を、もう2度の定年を超えて退職後再雇用の状態にありますから、それほど心配はしていません。ただ、もう60代半ばですから健康についてはこれから悪化していくことが明らかであり、何かで見たように「死と税金ほど確かなものはない」というブラックジョークにあるように、いつかは不明であるとしても、そのうちに死ぬことは確かです。その意味で、自分自身の身に引きつけての読書ではありませんでしたが、日本の経済社会一般の格差や貧困を考慮しての必要とされる一般教養として、とても勉強になります、本書の序章では必要な情報を持っているかどうかで生死を分けかねないと指摘していますし、それを持ってタイトルとしているわけですが、まったくその通りです。本書の位置づけは、決して、より豊かに、あるいは、楽をして暮らすためのマニュアルではなく、生死を分ける境目で役に立つ情報を収録していると考えるべきです。本書の評価としてはとても素晴らしいのですが、本書で取り上げている生命を維持し、健康を保つなどのために必要な実効上の日本の福祉制度などの評価は何ともいえません。ただ、「ないよりまし」な制度もあり、本書では、それでも死を避けるためには有益、という評価なのだろうと思いますが、もう少し有益なものにする努力も中央・地方政府に求めるべきではなかろうか、というものも散見されます。最後に、こういった本が出版されるのは、本書でも指摘しているように、特に地方政府に総合的なワンストップの窓口がないことによります。そこまで含めた見直しが必要かもしれませんし、そもそも、こういった情報が本に取りまとめられて売り物になる日本の現状を憂える人も少なくないものと想像します。私もこういった情報本がなくても死なない日本を構築する必要を痛感します。それにしても、入居金6000万円の高級老人ホームのコラムは嫌味でした。

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次に、柯隆『中国不動産バブル』(文春新書)を読みました。著者は、長銀総研や富士通総研の勤務の後、現在は東京財団の主席研究員だそうです。アカデミックな大学などではなく民間シンクタンクのご経験が豊富なようです。本書では、タイトルのとおりに中国のバブルについて論じています。ただ、本書冒頭で指摘しているように、すでに中国のバブルは崩壊したと著者は考えているようです。2021年の恒大集団(エバーグランデ)のデフォルトがバブル崩壊の幕を開け、昨年2023年10月には碧桂園(カントリーガーデン)がオフショア債の利払いを延滞しています。この2社は不動産開発会社=デベロッパーですが、今年2024年1月には不動産関連案件に投資するシャドーバンキング大手の中植企業集団が破産を申請しており、これらをもって中国のバブル崩壊と見なすべきであるという見解です。また、バブル崩壊の要因は2点あり、第1は、習近平主席が「家は住むためのものであり、投機の対象ではない」と発言したことから人民銀行が住宅ローンへの規制を強化したことであり、第2に、ゼロコロナ政策によるコロナ禍の中での需要の減退、と指摘しています。もう中国バブルはすでに崩壊したのか、といぶかる向きがあるかもしれませんが、我が国でも、現在から見れば1991年2月には景気の山を迎えていた一方で、その後もしばらく認知ラグが発生してバブル崩壊が認識されなかったことは歴史的事実です。私は1991年3月から南米チリの日本大使館での勤務を始めましたが、バブルの象徴という人もいる「ジュリアナ東京」は私の離日直後の1991年5月にオープンし、私が帰国した1995年4月の直後の1994年8月に閉店しています。ほぼ私の海外生活の時期と重なっていて、私が帰国した時にはバブルがすでに崩壊していたのは明らかでしたから、私はジュリアナ東京に足を運ぶ機会はありませんでした。それはともかく、本書では中国のバブルの発生と進行について詳細に報告しています。基本的に、日本の1980年代後半のバブル経済や米国の2000年代半ばのサブプライムバブルと同じで土地や不動産を起点にするバブルであると結論しています。ただし、中国は土地国有制ですので、土地使用権に基礎を置くバブルであり、したがって、地方政府が収入を得るタイプのバブルであったと見なしています。すなわち、不動産開発に基礎を置くバブルにより、地方政府が正規と非正規の収入を得るとともに、住宅開発の面からは地域住民の利益になる部分もあった、ということです。日本では地方政府はそれほどバブルの「恩恵」は受けていないように思います。また、地方政府が非正規の収入を得たというのは、政府、というよりも政府で働く公務員がワイロを、しか、お、莫大な学のワイロを受け取った、という意味です。不動産開発会社=デベロッパーが大儲けし、そこに融資したシャドーバンクも同様です。日本のバブルと少し違う点が3点ほど私の印象に残りました。第1に、中国人の家に対する執着です。まず家を用意した上で結婚を考える、ということのようです。日本ほど賃貸住宅の発達が見られないのかもしれません。第2に、地方政府の公務員に対するワイロです。とても巨額のワイロが平気でまかり通っているのが不思議でした。第3に、本書では第7章の最後に、バブルは崩壊したものの、情報統制で金融危機が防げる可能性が指摘されていると同時に、第9章ではコロナ禍によりすでに「恐慌」に入っている可能性も示唆されています。ここの理解ははかどりませんでした。何といっても、バブル崩壊はその後の金融危機、特に、大規模な不良債権の発生で金融システムのダメージが大きいことが経済への大きな影響につながりますから、金融危機を防止できればひょっとしたら大きな影響は避けられるのかもしれません。同時に、強烈なゼロコロナ政策により経済が不況に陥っている可能性も無視できません。バブル崩壊は大きなインパクトないが、ゼロコロナ政策のために不況に陥っている可能性がある、ということでしょうか。でも、やっぱり、少し不思議な気がします。

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次に、寺西貞弘『道鏡』(ちくま新書)を読みました。著者は、和歌山市立博物館の元館長さんです。本書では、日本史上稀代の悪僧と見なされている道鏡について確実と考えられる史料から、その実像の解明を試みています。まず、道鏡が太政大臣禅師の地位に就いたのが、重祚前は孝謙天皇と呼ばれていた称徳女帝と同衾しその性的な能力や魅力に基づく、とする淫猥伝説は一刀両断の下に否定されています。すなわいち、8世紀後半のこういった太政大臣禅師就任などの政治動向について、性的な能力によるとする淫猥伝説が現れたのが数百年も時代を下った『水鏡』、『日本紀略』、『古事談』などであることから、何ら信頼性がない俗説であると結論しています。加えて、称徳女帝は未婚のまま践祚し次の男帝までのつなぎの位置づけであったことが明らかであり、その点は周囲もご本人も十分に認識していたハズ、と示唆しています。まあ、そうなのだろうと私も思います。そして、道鏡の出自を明らかにし、出家と受戒についても考察した後、道鏡がいかにして称徳女帝の信頼を勝ち得たのかについては、当時の仏教界の状態や影響力に基づいた議論を展開しています。繰り返しになりますが、道鏡が活動していたのは8世紀後半であり、高く評価していた称徳女帝の父は東大寺建立で有名な聖武天皇、そして、次代はやや無名の光仁天皇ですが、さらにその次代が桓武天皇ですから平安遷都の直前といえます。その時代の仏教はいわゆる「鎮護国家」であって、僧侶は今でいえば国家公務員です。国家の安泰を目指すとともに、本書では医者の役目など一般国民に対する呪術的な役割も果たしていた、と指摘しています。しかも、平安期に入って空海や最澄などが世界の大先進国であった当時の中国から最新の密教を持ち帰る前の時代ですので、日本の伝統的な呪術信仰と仏教が入り混じった宗教であった可能性を本書では示唆しています。現在、というよりも、数百年後の日本ですら記憶が薄れた呪術的な仏教、国家を鎮護するとともに、病気の平癒を祈念するとかの幅広い効用を仏教に求めていたため、その方面で道鏡は称徳女帝から過大評価を受けていた可能性があるとの意見です。ですから、道鏡からの求めや働きかけ、というよりも、称徳女帝からの一方的な過大評価かもしれない、というわけです。このあたりの本書の見方は、私には何とも評価できませんが、まあ、あり得るのだろうと受け止めています。奈良時代末期の歴史をひもとくいい読書でした。

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2024年5月24日 (金)

+2.2%と上昇率が縮小した消費者物価指数(CPI)の先行きをどう見るか?

本日、総務省統計局から4月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.2%を記録しています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は22か月連続、すなわち、2年あまりの連続です。ヘッドライン上昇率は+2.5%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.4%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

4月の消費者物価2.2%上昇、エネルギー上昇に転じる
総務省が24日発表した4月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が107.1となり、前年同月比で2.2%上昇した。エネルギーが上昇に転じ全体を押し上げた。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.2%の上昇だった。2年8カ月連続で前年同月を上回った。伸びは前の月の2.6%から縮小したものの、日銀の物価安定目標である2%を超える上昇が続いている。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.4%上がった。生鮮食品を含む総合指数は2.5%上昇した。
エネルギーは0.1%上がり、前月の0.6%下落から上昇に転じた。プラスに転じたのは2023年1月以来、1年3カ月ぶりとなる。
資源価格の上昇や円安が影響し、ガソリン価格の上昇が加速したほか、都市ガス代のマイナス幅が縮まった。
5月以降は光熱費の上昇が加速しそうだ。再生可能エネルギーの普及のため国が電気代に上乗せしている「再生可能エネルギー賦課金」の上げが5月の電気代に反映される。物価高対策として進めてきた電気代やガス代を補助する事業は5月使用分で終了する。中東情勢の悪化や円安も上昇圧力となる。
4月の結果について他の品目をみると生鮮野菜・果物の上昇が目立った。キャベツが39.4%、リンゴが37.6%それぞれ上がった。天候不良で出荷量が減少し品薄になったことが影響した。
果実ジュースは28.9%上昇した。オレンジジュース果汁の主要原産国であるブラジルや米国で、天候不良による不作や病害の影響で需給が逼迫した。
生鮮食品を除く食料は3.5%上昇だった。8カ月連続で上昇幅が縮小した。アイスクリームや冷凍ギョーザ、チョコレートなど昨年4月にあった値上げの影響がはく落した。
宿泊料は18.8%伸びた。3月の27.7%からは上昇幅が縮小した。前年4月には全国旅行支援の影響縮小などで宿泊費が大きく伸びていた。今年4月はその反動が出た。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.2%ということでしたので、まさにジャストミートしました。品目別に消費者物価指数(CPI)を少し詳しく見ると、まず、エネルギー価格については、昨年2023年2月統計から前年同月比マイナスに転じていたのですが、3月統計では前年同月比で▲0.6%まで下落幅が縮小し、本日発表された4月統計ではとうとう+0.1%と上昇に転じました。ヘッドライン上昇率に対する寄与度はまだ+0.01%なのですが、先月3月統計では▲0.04%でしたので、先月との寄与度差を見ると+0.05%押し上げたことになります。ガソリン補助金が縮減された影響で、ガソリン価格は3月統計では+4.3%、本日公表された4月統計でも+4.4%と、ともにヘッドライン上昇率に対する寄与度は+0.09%となっています。
現在のインフレの主役である食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮食品が野菜・果物・魚介を合わせて+0.38%あり、うち生鮮野菜が+0.26%、生鮮果物が+0.14%の寄与をそれぞれ示しています。生鮮食品を除く食料の寄与度が+0.83%あります。コアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、せんべいなどの菓子類が+0.15%、調理カレーなどの調理食品が+0.13%、うるち米などの穀類が+0.12%、焼肉などの外食が+0.10%、鶏卵は下がったものの牛乳など上昇した乳卵類が+0.09%、などなどとなっています。サービスでは、宿泊料が前年同月比で+18.8%上昇し、寄与度も+0.19%に達しています。
消費者物価指数(CPI)の先行きに関しては、コアCPIの前年同月比上昇率で見て、3月の+2.6%から4月統計では+2.2%に縮小しましたが、先行き、順調に物価上昇率が沈静化していくとは考えられていません。特に、エネルギーの価格が上昇に転じており、さらに、5月から再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2024年度以降の買取価格等と2024年度の賦課金単価が、経済産業省の発表によれば1kw当たり3.49円と大幅に引き上げられます。それまでは1.4円でしたので、大幅な引上げといえます。したがって、日経新聞の報道では、「標準家庭で月836円負担増」があると報じられており、国民生活を直撃するとともに、食料に加えてエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。日銀は金利上昇をどこまで許容するのでしょうか?

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2024年5月23日 (木)

気候変動のマクロ経済への影響はかなり深刻

全米経済研究所(NBER)からワーキングペーパー No.32450 として、気候変動のマクロ経済への影響を分析した "The Macroeconomic Impact of Climate Change: Global vs. Local Temperature" が明らかにされています。もちろん、pdfファイルもアップロードされています。引用情報は以下の通りです。

まず、このワーキングペーパーのAbstractをNBERのサイトから引用すると以下の通りです。

Abstract
This paper estimates that the macroeconomic damages from climate change are six times larger than previously thought. We exploit natural variability in global temperature and rely on time-series variation. A 1℃ increase in global temperature leads to a 12% decline in world GDP. Global temperature shocks correlate much more strongly with extreme climatic events than the country-level temperature shocks commonly used in the panel literature, explaining why our estimate is substantially larger. We use our reduced-form evidence to estimate structural damage functions in a standard neoclassical growth model. Our results imply a Social Cost of Carbon of $1,056 per ton of carbon dioxide. A business-as-usual warming scenario leads to a present value welfare loss of 31%. Both are multiple orders of magnitude above previous estimates and imply that unilateral decarbonization policy is cost-effective for large countries such as the United States.

ごく簡単に取り上げておきたいと思いますが、まず、ワーキングペーパー p.18 Figure 5: The Average Effect of Global Temperature Shocks を引用すると下の通りです。

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要するに、Abstractにもある通り、気候変動により地球の温度が+1℃上昇すれば、世界GDPが▲12%減少する "A 1℃ increase in global temperature leads to a 12% decline in world GDP." と試算されています。従来考えられていたよりも、6倍大きいと指摘しています。逆にいえば、世界GDPの12%を地球温度+1℃上昇の防止策に注ぎ込んでも経済的には釣り合う、ということです。この試算結果は少し私も驚きました。

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なお、この気候ショックの地域的な影響を試算した結果について、ワーキングペーパー p.28 から Figure 12: Regional Impacts of Global Temperature Shocks を引用すると上の通りです。少し違和感ありながらもショックだったのは、右上の Central and East Asia と左下の Southeast Asia が真逆の影響と試算されている点です。おそらくは中国を含む Central and East Asia が気候変動からGDPが上振れする影響を受ける一方で、逆に、Southeast Asia ではひときわダメージが大きいと試算されています。それほど蓋然性が高いとは思えませんが、この研究成果を見て、中国が気候変動対策に reluctant になってしまうリスクを感じないでもありません。

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2024年5月22日 (水)

2か月ぶりの赤字を記録した4月の貿易統計と基調判断が上方修正された3月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から4月の貿易統計が、また、内閣府から3月の機械受注統計の結果が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+8.3%増の8兆9807億円に対して、輸入額は+8.3%増の9兆4432億円、差引き貿易収支は▲4625億円の赤字を記録しています。機械受注については、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+2.9%増の9130億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

4月の貿易収支、4625億円の赤字 2カ月ぶり
財務省が22日発表した4月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4625億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶり。赤字幅は前年同月に比べて7.6%増加した。
輸入額は9兆4432億円で前年同月に比べ8.3%増えた。2カ月ぶりに増加した。輸出額は8兆9807億円と8.3%増え、5カ月連続の増加となった。いずれも4月としては過去最高だった。
資源高や円安で原油などの輸入額が膨らんだ。品目別にみると原油は1兆64億円で13.1%増えた。航空機類や電算機類も伸びた。石炭が4003億円で22.5%減だった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり85.7ドルと前年同月から2.6%上がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万1719円と17.7%上昇した。
地域別では米国が1兆1143億円で29.0%増、アジアが4兆4081億円で10.3%増えた。
輸出は米国向けのハイブリッド車など自動車が1兆5824億円で17.8%増加した。半導体等製造装置や半導体等電子部品も増えた。
地域別にみると米国が1兆8027億円で8.8%増、アジアが4兆7139億円で9.7%増だった。
4月の貿易収支は季節調整値でみると5607億円の赤字となった。赤字幅は前月比17.8%縮小した。輸入は0.5%減の9兆4032億円、輸出が0.9%増の8兆8425億円だった。
機械受注、4四半期ぶりプラス 1-3月4.4%増
内閣府が22日発表した1~3月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比4.4%増の2兆6236億円だった。プラスは4四半期ぶりとなる。製造業、非製造業ともに発注が増えた。
船舶と電力を除く非製造業は6.8%増で2四半期連続のプラスを確保した。製造業も0.9%増で3四半期ぶりに増加した。
内閣府は全体の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。2月までの判断は「足元は弱含んでいる」だった。上方修正は2022年4月以来、1年11カ月ぶりとなる。
発注した業種ごとにみると船舶と電力を除く非製造業では、鉄道車両が押し上げて運輸業・郵便業が7.1%増えた。汎用コンピューターなどの電子計算機が増えて情報サービス業も11.0%プラスだった。
製造業では「電気機械」が27.7%プラスだった。汎用コンピューターや半導体製造装置などが増えた。「情報通信機械」は53.7%、「その他輸送用機械」は22.1%それぞれ増加した。
3月末時点の4~6月期の受注額見通しは前期比1.6%減だった。見込み通りなら2四半期ぶりのマイナスとなる。製造業、非製造業ともに減少する。
見通しは企業から聞き取った受注額に、実績を見通しで割った「達成率」を直近の3四半期で平均した数値をかけて算出する。足元の達成率の平均は93.4%だった。単純に企業から聞き取った受注額では、4~6月期の見通しは前期比5.3%増える見通しだ。
同日発表した3月単月の民需は前月比2.9%増の9130億円だった。2カ月連続のプラスとなる。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.6%減だった。

長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲3000億円を超える貿易赤字が見込まれていましたので、実績の▲4625億円はやや下振れした印象です。ただし、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、輸出が前月比で増加した一方で、輸入は減少していて、結果として貿易収支赤字は前月3月統計から縮小しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えているんではないかと受け止めています。
4月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が再び2ケタ増となっています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲3.9%減ながら、金額ベースでは+13.1%増となっています。数量ベースの減少以上に単価が上昇した結果、輸入額が増加しているわけです。引用した記事の4パラ目にある通りです。しかし、LNGについては、数量ベースでは+16.7%増、金額ベースでも+12.5%増となっています。数量の伸びほどは金額が増えていませんから、単価が下がっていることがうかがわれます。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+9.5%増、金額ベースでも+3.0%増となっていて、数量ベースのトン数ほどに金額が伸びていないのは単価の低下が背景となっていると考えるべきです。引用した記事にみられる航空機類は前年同月比+293.7%増となっていて、何か特殊要因があったことが伺われます。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で見て、数量ベースの輸出台数は▲5.8%減ながら、金額ベースでは+26.0%増と大きく伸びており、円安による価格上昇があったものと想像しています。すなわち、外貨建て、例えば、米ドル建ての価格が大きく変更ないならば円建ての輸出単価は膨らむわけです。自動車を含む輸送機械が金額ベースの前年同月比で+25.5%増であるのに対して、一般機械は+1.3%増、電気機器も+0.1%増とそれほどの伸びはみられません。

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まず、引用した記事の最後にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比マイナスでしたが、実績はプラスとなっています。予想レンジの上限は+5.0%増でしたので、実績の+2.9%増はそれほどの大きなサプライズではなかった気がします。しかしながら、今年2024年1~3月期の四半期データには影響大きく、季節調整済みのコア機械受注の系列で見て前期比+4.4%増の2兆6236億円となり、4四半期ぶりの前期比プラスを記録しています。したがって、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に上方修正しています。ただ、先行きが問題ないわけではなく不安が残っています。すなわち、コア機械受注の4~6月期の見通しは前期比で▲1.6%減の2兆5,810億円であり、製造業▲2.0%減、非製造業(除く船舶・電力)▲4.0%減といずれも減少すると見込まれています。ついでながら、グラフは示しませんが、四半期データでコア機械受注の達成率を見ると2023年7~9月期95.0%、10~12月期93.1%、そして、今年2024年1~3月期92.1%とジワジワと低下してきています。エコノミストの経験則として、この達成率が90%を下回ると景気後退局面入りのシグナル、と見なす向きもあります。何度も繰り返していますが、景気回復局面もかなり後半の部ですので、欧米先進国がソフトランディングに成功するとしても、中国の景気、あるいは、国内要因から景気局面が転換する可能性があります。

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2024年5月21日 (火)

日本の低所得家計の負担率を国際比較する

先週金曜日5月17日、NIRA総合研究開発機構から勤労者世帯の負担と給付の国際比較について、「勤労者世帯の負担と給付の国際比較」と題するワーキングペーパーにより明らかにされています。もちろん、pdfファイルもアップロードされています。引用情報は以下の通りです。

まず、ワーキングペーパーの概要をNIRA総合研究開発機構のサイトから引用すると以下の通りです。

概要
家計にどれほどの税や社会保険料の負担がかかり、手当などの給付を受けられるのか、ということは、人々の大きな関心事であり、その制度設計は政策的に非常に重要である。しかし、税制・給付制度は複雑で全体像を把握しづらく、また、他国の情報を参考にすることも容易ではない。本稿では、OECDが各国の政策・制度の内容を収集して構築したOECD tax-benefit model (TaxBEN) を用いて、勤労者世帯における収入と純負担の関係を分析し、国際比較を踏まえながら日本の特徴を整理した。モデル世帯アプローチ (hypothetical family approach) に基づき2022年のデータでシミュレーションしたところ、以前から指摘されるように、日本は低中所得層において収入に占める社会保険料の負担割合が高いことが確認された。また、諸外国と比べると、日本は負担率全体の累進度が低く、高所得層ほど相対的に負担率が低くなることがわかった。この傾向は子どもの有無にかかわらず観察された。さらに、収入が児童手当の所得制限や所得上限を超えるところで負担率が上がる段差があることや、配偶者の働き方によって世帯の負担率が異なることも検証した。不公正な仕組みを是正し、税と社会保険を一体的に改革する必要性が示唆される。

実に、上に引用した概要にある通り、「諸外国と比べると、日本は負担率全体の累進度が低く、高所得層ほど相対的に負担率が低くなる」ことが確認されています。極めて直接的にこれを表したテーブルは以下の通りです。

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上のテーブルは、ワーキングペーパー p.14 から 表8 共働き世帯の負担率 (日本と主要9カ国、2022年) を引用しています。少し判りにくいのですが、共働き世帯の世帯総収入70%のやや低所得の家計、100%平均的な家計、そして、200%の高所得家計の3ケースについて、OECD平均及び主要9か国と比較しています。累進度が低くて高所得家計ほど相対的に負担が低くなる、というすでに指摘した点とともに、子供がいない方が負担が大きい点も見逃すべきではありません。このワーキングペーパーでは負担とともに給付の試算も同時にしていて、子供がいなければ給付が大きく減りますので、子供がいない家計の方の負担率が高くなるのは当然といえば当然なのですが、岸田内閣が掲げる異次元の少子化対策の財源を考える上で議論になる可能性があると私は受け止めています。

先日、第一生命経済研究所のリポート「賃金と物価の好循環の幻想」を取り上げて、日本では国民負担率がほかの先進国と比較して大きく増加していて、賃上げにより所得が伸びても消費への影響が小さい可能性がある、との議論を示しました。まさに、政府の外郭団体の研究成果により実証的に裏付けられた形です。

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2024年5月20日 (月)

リクルートのコラム「『熱意』は仕事に必要か?」を読む

先週月曜日5月13日にリクルートによるコラム「『熱意』は仕事に必要か?」を読みました。伝統的に、マイクロな経済学では労働は不効用であり、その不効用を補償(compensate)するために賃金が支払われる、と考えます。ただ、そうはいっても所得を得るために労働は必要なわけですし、ひるがえって、労働に何らかの正の効用を見出す個人も少なくありません。

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まず、リクルートのサイトから、伝統的なマイクロ経済学に即して「仕事とはそもそもつらいものであり、そこに楽しさを見出すことは困難だ」に対する回答の結果を引用すると上の通りです。それなりに左右対称の分布を見せています。伝統的な経済学からすれば、圧倒的に「そう思う」が多いとみなされるのですが、まあ、そうはなっていません。ただ、少なくとも、楽しくはないとしても、もしも、苦痛の程度がはなはだしければ労働を継続することが難しくなりますので、そこそこのレベルでの「つらさ」が経済学でも暗黙のうちに前提されている、と考えるべきです。まあ、ケース・バイ・ケースなんだろうと思います。

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そのケース・バイ・ケースで考えるべきポイントは、いうまでもなく、仕事に対するエンゲージメント=「熱意」です。ということで、上の画像は、エンゲージメントとパフォーマンスの関係認識に基づく就業者のタイプ を考えています。縦軸は、仕事におけるエンゲージメントとパフォーマンスがリンクするかどうか、横軸は、仕事におけるパフォーマンスの高さそのもの、です。私が考えるに、縦軸はエンゲージメントとパフォーマンスのリンクよりも、エンゲージメントの強さ/高さそのものと同じではないか、あるいは、エンゲージメントをダイレクトに取った方がいいのではないか、と受け止めているのですが、まあ、それなりに、コンサルらしい判りやすい画像かという気がします。

2点ほどコメントしておきたいと思います。まず、私自身ですが、典型的な「仙人」だと思います。合理的な経済人らしく、仕事はかなりの程度に苦痛です。しかも、出来の悪いことはなはだしく、周囲に迷惑をかけている気がします。エンゲージメント=熱意は低くて、パフォーマンスは悪いわけです。ただ、第2に、この分析では絶対優位だけが考慮されていて、比較優位の観点が無視されています。おそらく、私は絶対優位の観点からは、エンゲージメントが低くて、パフォーマンスも悪いんでしょうが、比較優位の観点からは、公務員/大学教員に適している、というか、ほかの職業にはより適していないのではないか、という気もします。

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2024年5月19日 (日)

リリーフ投手陣の差を見せつけてヤクルトに大勝

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ヤクルト200000000 271
阪  神02020003x 7110

先発の才木投手が先制点を奪われながら、ヤクルトに逆転勝ちでした。リリーフ投手陣の差を見せつけた形です。
序盤の1回に才木投手が先制を許しますが、2回には下位打線で同点に追いつき、中盤4回には才木投手がフォアボールを選んで逆転、近本選手のタイムリーも飛び出します。終盤8回には満塁男の木浪遊撃手のタイムリーなどでヤクルトを突き放しました。才木投手はハーラートップの5勝目です。打線も2ケタ安打で、援護点が少ないと嘆いていた才木投手をバックアップしました。ヒーローインタビューが関西っぽいノリのよさで面白かったです。

次の広島戦も、
がんばれタイガース!

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キダ・タローさんが亡くなって差別用語について考える

「浪花のモーツァルト」とも呼ばれたキダ・タローさんが亡くなったと報じられています。心よりお悔やみ申し上げます。

数多くの名曲が記憶に残る中で、私が中学生だったころですから、もう50年ほども前になりますが、「アホの坂田」というのがあります。ご本人は昨年暮れに亡くなったと記憶しています。上の動画の通りです。
テレビかラジオか忘れましたが、キダ・タローさんの訃報の際にこれを流していたのですが、前口上として「関西では『あほ』というのは、親しみを込めた表現です」といった紹介をしていました。そのまま流すと差別用語か何かに当たるのかもしれません。
少し前の小説を読んだりすると、同じように、現在では不適当な表現かもしれないが、発表された当時の社会背景を考慮し、作品としての歴史的経緯などから修正はしなかった、との旨のお断りが入っている場合もいくつか見かけます。

東京の補選でつばさの党の党首などが選挙妨害で逮捕されています。テレビなどの報道で見る限り、ああいった行動が「表現の自由」の名の下に許されるハズもないと私は考えますが、他方で、ポリコレも含めて、かなり表現が窮屈になったとも感じています。どのあたりに最適点があるのか、私には不明です。

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2024年5月18日 (土)

今週の読書は経済書2冊をはじめ小説はなく計5冊

今週の読書感想文は以下の通り計5冊です。
まず、二宮健史郎・得田雅章『金融構造の変化と不安定性の経済学』(日本評論社)は、ミンスキー教授の理論によるポストケインジアンのモデルに基づいて経済の不安定性を論じた学術書です。日本地方財政学会[編]『マクロ経済政策と地方財政』(五絃舎)は、編者の学会総会のシンポジウムや研究論文などを収録した学術書です。鈴木貴宇『「サラリーマン」の文化史』(青弓社)は、明治・大正期からの職業としての「サラリーマン」の成立ちやその文化を論じた教養書です。前野ウルド浩太郎『バッタを倒すぜアフリカで』(光文社新書)は一連のアフリカにおけるバッタ研究を取りまとめつつ、現地生活も振り返っています。橋本健二『女性の階級』(PHP新書)は、女性自身と配偶者の組合せによる30パターンのケースについて女性階級の格差を検証しています。
ということで、今年の新刊書読書は1~4月に103冊の後、5月に入って先週までに14冊をレビューし、今週ポストする5冊を合わせて122冊となります。順次、Facebookやmixiなどでシェアする予定です。

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まず、二宮健史郎・得田雅章『金融構造の変化と不安定性の経済学』(日本評論社)を読みました。著者2人は、立教大学と日本大学の研究者ですが、それぞれの前任校の滋賀大学で研究者をしていたようです。本書は、出版社からも軽く想像される通り、完全な学術書です。税抜きで6000円を超えますし、一般ビジネスパーソンはもちろん、学部学生では少しハードルが高いかもしれません。専門分野を学んでいる修士課程の大学院生くらいの経済学の基礎知識を必要とします。私は大学院教育を受けたことがありませんし、専門外ですので、かなり難しかったです。十分に理解したかどうかは自信がありません。なお、著者ご自身が明示しているように、非主流派に属するポストケインジアン派の経済学の中のミンスキー教授が示した経済の不安定性を、実践的には2008年のリーマン証券の破綻以降の金融危機に適用しようと試みています。ミンスキー教授の理論は、ヘッジ金融から投機的金融、そして、最終的には、ポンジー金融に至る金融構造の脆弱化が進めば、実物要因が安定的であっても経済は不安定化する、というものです。そして、この理論は現代貨幣理論(MMT)へとつながりますので、本書で直接にMMTへの言及はありませんが、MMT研究者にも有益な学術書かもしれません。ということで、本書を一言でいえば、Taylor and O'Connell (1985) "A Minsky Crisis" の議論をS字型の貯蓄関数と結びつけ、Hopfの分岐定理を適用して金融的な循環を論じている、ということになります。これで理解できる人はとっても頭がいいわけで、ひょっとしたら、本書を読む必要すらないのかもしれません。本書では、非線形の構造VAR(SVAR)を適用して、金融構造の変化と経済の不安定性の関係を実証的に分析しようと試みています。バックグラウンドのモデルや方法論については、以上の通り、かなり難しいので、得られた結論だけに着目すると、Taylor and O'Connell (1985) の結論通りということですので、特に新規性はないのですが、利子率が長期正常水準を下回る期間が長くなれば、それだけ確信の状態が上昇し、そして、確信の状態が高まれば所得が上昇しているにもかかわらず、利子率がさらに低下する可能性がある、ということにつきます。本書ではそれを実証的に示しています。確信の状態が高まって、いわゆるユーフォリアが生じてバブルが発生する可能性が高まるのは、我が国の1980年代後半のバブル経済期に観察されている通りです。経済学的には、緩和的な金融政策の継続が資産価格を上昇させてバブル経済をもたらした、と政策オリエンテッドな理解が一般的ですが、経済に内在的な要因から不安定化がもたらされる可能性が示唆されているわけです。最後の最後に、どうしてもこの学術書のエッセンスに接したいという向学心旺盛な向きには、この両著者による学術論文「構造変化と金融の不安定性」が2011年に経済理論学会から『季刊 経済理論』第48巻第2号に掲載されています。web検索すれば発見できると思います。何ら、ご参考まで。

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次に、日本地方財政学会[編]『マクロ経済政策と地方財政』(五絃舎)を読みました。著者は、名称通りの学会組織です。本書は昨年2023年6月に名古屋市立大学で開催された学会第31回総会のシンポジウムや発表論文などを取りまとめています。第1部がシンポジウム、第2部で研究論文を収録し、第3部は書評、第4部は学会の活動報告となっています。第1部と第2部を簡単にレビューしておきたいと思います。第1部のシンポジウムは本書と同じテーマ、というか、シンポジウムのテーマがそのまま本書のタイトルに採用されているわけです。シンポジウムのメンバーは、なぜか、総務省の財政課長とか愛知県の副知事とかの行政官が登壇し、アカデミアの貢献は少ない印象です。でも、マスグレーブ的な財政の3機能、すなわち、資源配分機能=公共財の供給、所得再分配、マクロ経済安定、については、米国のような連邦制に基づく分離型の地方財政を前提とすれば成り立つ一方で、日本をはじめとする融合型の地方財政においては判然としない、といった見方が示されています。そうかもしれません。論文は3編掲載されています。まず、地方税に法人税が含まれていて、しかも、後年度に損金算入ができる制度を持つ国は少ない中で、この制度に基づく超過課税について分析した研究が示されています。当然ながら、超過課税は増税であり、同時に、利子率の上昇も招くことから企業の投資を阻害する要因となりかねない点が示されています。したがって、設備投資の資金調達の中立性を確保するために、法人税率の引下げの必要性を示唆しています。続いて、中国の政府間財政関係の論文が示されています。中国は政治的にはかなり高度に中央集権的である一方で、財政制度については地方分権が進んでいるという不整合が、ある意味で、地方間の格差是正につながっている可能性を示唆しています。最後の論文は、財政構造の変化が、いわゆるティボー的な「足による民主主義」を促すとすれば、公共財の供給などによる地域住民が享受する便益が地価や住宅価格などの不動産価格に反映する可能性があると指摘し、この資本化仮説に基づく実証的な分析を行っています。実際には、公共財の供給を地方財政費目で代理し、注目すべき結果としては、土木費は政令指定市ではすでに過大供給となっていてマイナスの便益を示している一方で、中核市では過小供給であり増加させることが望ましいと結論しています。書評は2冊を取り上げています。最後に、シンポジウムの収録はテーマからして、私にも興味引かれるものだったのですが、登壇者が盛んに言及しているスライドがどこにも見当たりません。学会の総会ホームページにもありません。会員サイトにあるのかもしれませんが、一般向けに書籍を販売している以上、やや疑問がある対応であると私は考えました。大いに改善の余地ありだと思います。

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次に、鈴木貴宇『「サラリーマン」の文化史』(青弓社)を読みました。著者は、東邦大学の研究者であり、ご専門は日本近代文学、日本モダニズム研究、戦後日本社会論といったところだそうです。本書の内容はタイトル通りであり、明治期の近代化から先進国に近い産業化が進み、それに伴って「サラリーマン」が我が国にも誕生しています。その歴史を後づけています。ただ、歴史的なスコープは明治期から戦後昭和の高度成長期までです。ということで、産業構成の発展方向としてペッティ-クラークの法則というのがあります。付加価値生産、だけでなく、本書が焦点を当てている労働者の構成が、第1次産業から第2次産業、そして第3次産業へとシフトする、というものです。徳川期には圧倒的多数を占めていた農民から、明治期に入って第2次産業や第3次産業のシェアが高くなり、サラリーマンという人々が雇用者の中で生まれます。当初は都市住民であって、比較的学歴が高く、したがって、所得も高いアッパーミドル層でした。ただ、本書では第1次産業従事者と対比させるのではなく、「丁稚上がりと学校出」という勤め人の間での対比を取っています。さらに、経済的な側面ではなく、タイトル通りに文化史に焦点を当てています。基本的には、都市住民が想定され、現在のような会社勤めをはじめとして、官吏や教員、銀行員などが代表的な存在です。官吏の中でも下級職員の昔ながらの「腰弁」と洋館に住んで洋服を着て自動車で通勤する高級官僚を区別しています。そして、特に後者では旧来の地縁や門閥による登用ではなく、出身階級の桎梏から逃れて学歴、勉強により立身出世を目指す向きが主流となります。知識階級とか、インテリゲンチャというわけです。そのサラリーマンが時代を下るにつれて、明治期のインテリやアッパーミドル層から、高度成長期後半にはごく普通の国民である「ありふれた一般人」となり、「一億総中流」を形成するわけです。もちろん、男性だけではなく、大正デモクラシー期には高等教育が女性にも開かれるようになり、女性の社会進出も始まります。ただし、本書で詳細に触れられていませんが、20世紀半ばの敗戦まで国民の半分近くは農民だったわけであり、農作業は夫婦共同作業が一般的であった点は本書のスコープ外とはいえ忘れるべきではありません。そして、高度成長期になって労働力不足から雇用者の囲い込みをひとつの目的として長期雇用、あるいは終身雇用が成立し、それを補完する制度として年功賃金も支給されるようになります。そして、サラリーマン家庭では専業主婦の形で女性が家庭を守る役割を与えられるようになります。ただ、こういった経済史は本書では詳しく取り上げられていません。そして、家庭内での専業主婦の役割や多くの家庭では子供が2人といった文化的な同質性が形成されることになります。こういった文化史を文学作品や戦後は「君の名は」といっらラジオドラマや映画などに基づきつつ、詳細に論じています。経済的な基礎の上に文化を考える私にはとても参考になりました。

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次に、前野ウルド浩太郎『バッタを倒すぜアフリカで』(光文社新書)(光文社新書)を読みました。著者は、バッタ博士と自称する研究者であり、アフリカのサバクトビバッタの研究がご専門です。本書の前編となるのが同じ光文社新書の『バッタを倒しにアフリカへ』であり、2017年の出版です。なお、同じ著者からほかにも同じようなバッタ本が出版されています。私は『バッタを倒しにアフリカへ』は読んでいて、レビューもしていたりします。新書ですし、著者ご本人も本書は「学術書」であると位置づけています。ですので、それなりに難解な部分もあります。したがって、ここでは現地生活や現地での人的交流を中心にレビューしたいと思います。ということで、私も2度ほど海外生活を送りました。30過ぎの独身のころに南米チリの大使館勤務、そして、その10年後にインドネシアへの国際協力のため家族4人でジャカルタに住んでいました。それぞれ約3年間です。ですので、私はエコノミストでもあり、基本的に首都住まいでしたので、本書の著者のようにバッタのいる砂漠に野営する生活ではありませんでした。本書の著者がアフリカで活動した中心はモーリタニアだそうで、本書冒頭ではスーパーで売っているモーリタニア産のタコが取り上げられていたりもします。私の場合は南米とアジアですので、アフリカほど文化的な違いは大きくないのでしょうが、やっぱり、日本とは違います。当然です。私が滞在していたのはいずれも先進国ではありませんでしたから、やっぱり、時間の流れが緩やかであったように感じました。要するに時間がかかるのです。ただ、この点は役所を定年退職した後に関西に来た際にも、東京よりも時間がかかる、というのは感じました。現地での人的交流という点に悲しては、本書では「学術書」といいつつも、著者の運転手だったティジャニなる人物にスポットが当てられています。そうなんですよね。私もチリでは運転手ではなく自分で自動車を運転していました。外交官ナンバーの治外法権の自動車でしたが、ジャカルタではもっとも人的交流が多かったのはやっぱり運転手さんでした。ラムリーさんといいます。ラムリーさんのご自慢は「プリンセス紀子」をお乗せした、ということでした。すなわち、私が担当していた国際協力プロジェクトの前任者として川嶋教授が働いていたのか、あるいは、講演会などで短期的にジャカルタにいらしたのか、そのあたりはハッキリしませんが、いずれにせよ、私の担当のインドネシア開発企画庁(BAPPENAS)の国際協力プロジェクトに川嶋教授がいらして、そのご縁で紀子さまが、当然秋篠宮に嫁ぐ前に、ジャカルタにお出ましになって、その際、私の送迎を担当してくれたラムリーさんが運転した、ということのようです。ブックレビューもさることながら、私の海外生活のレビューの要素が多くなってしまいました。悪しからず。

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次に、橋本健二『女性の階級』(PHP新書)を読みました。著者は、早稲田大学の研究者です。ご専門は経済学ではなく、社会学なんだろうと思います。本書では「社会階層と社会移動に関する全国調査」、すなわち、SSM調査のデータを用いて、女性の階級につき、資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級を考え、さらに、労働者階級を正規と非正規で分割し、さらにさらにで、女性ご自身だけではなく配偶者の階級も考慮し、無配偶も入れて、本書冒頭のpp.10-11で示されたように30のグループに分割して分析を進めています。第2章では女性の賃金の低さを考え、おそらく、私も推計したことのあるミンサー型の賃金関数により、学歴、勤続年数、年齢などの属性を取り除いても、なお男女間に賃金格差が残るとの分析結果を引用しています。資本主義的生産様式が男女間の賃金ほかの格差を生み出している根本原因とするマルクス主義的なフェメニズム観も示しつつ、家事労働などの無報酬の女性労働の存在も指摘していたりします。特に、女性の場合、いわゆる専業主婦という無職も少なくない上に、ご本人の所得のほかに配偶者の所得を考慮する必要があり、かなり細かな分類をしています。男性の所得が、資本家階級>新中間階級>旧中間階級≥労働者階級、とシンプルであるのに比べて、とても複雑になっています。例えば、男性が非正規雇用の労働者階級であれば、ほぼほぼアンダークラスなのですが、女性の場合は配偶者が新中間階級で、ご本人がパート勤務であれば、アンダークラスでないケースがほとんどであろうというのは容易に想像できます。その分析結果の読ませどころが第4章であり、30グループの女性たちに適切にネーミングを施した上で、詳細な分析結果が示されています。例えば、ご本人が資本家階級であり、かつ、配偶者も資本社会級であるケースは「中小企業のおかみさん」と名付けられ、消費行動や余暇活動などの特徴を明らかにしています。そのあたりは、30グループすべてを取り上げるわけにも行きませんから、読んでいただくしかありません。私が興味深いと感じたのは、独身女性が両親と実家暮らしをしていたりすると、かつては、親に養ってもらって自分のお給料はお小遣い、という「パラサイトシングル」を想像していたのですが、今では、年齢が進行して逆に独身女性が親を養っている、というケースも少なくないと報告しています。本書では、特に、相対的な格差だけではなく、絶対的な貧困についても、アンダークラスを中心に詳細な分析が行われています。第4章に続く第5章において、アンダークラスに陥りやすい女性についての分析がなされています。最後の第7章では格差に関する意識についても論じられていて、その第7章のタイトルは「格差と闘う女性たちが世界を救う」となっています。私も強く同意します。ただ、最後に、本書で分析されているのは相関関係であって因果関係ではない、という批判はあるかもしれません。しかし、私はこれだけのデータをそろえれば、相関関係で十分と考えます。

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2024年5月17日 (金)

第一生命経済研究所リポート「賃金と物価の好循環の幻想」を読む

今週月曜日の5月13日に第一生命経済研究所から「賃金と物価の好循環の幻想」と題するリポートが明らかにされています。短くいえば、賃上げは順調に進んでいるものの、所得ほど消費が伸びない構造に変化したため、家計消費の雇用者所得に対する弾性値が大きく低下していて、賃金上昇と消費拡大の好循環がそれほどすんなりとは実現しない、それは年金を所得の源泉とする高齢世帯の増加もあるが、もっとも大きな要因は国民負担率の上昇である、ということになります。激しく長くなってしまいますが、リポートから要旨を5点引用すると以下の通りです。

(要旨)
  • 2024年の春闘賃上げ率が33年ぶりの水準となったことで、早ければ今夏にも実質賃金がプラスに転じることが期待されており、6月給与分から開始される定額減税とも相まって、個人消費の拡大を期待する向きもある。
  • しかし、実質家計支出の実質雇用者報酬に対する弾力性は2015年ピークの5割強にまで低下しており、マクロで見た実質賃金となる実質雇用者報酬が増加に転じたとしても、物価→賃金→消費の好循環が起こりにくくなっている。
  • 理由としては、先進国でも断トツの国民負担率の上昇で雇用者報酬が増えているほど可処分所得が増えていないことがある。また、無職世帯比率の増加も一因。むしろ世帯の3分の1以上を占める無職世帯にとってみれば、賃金と物価の好循環が進めば進むほど公的年金のマクロ経済スライド制により受給額が減ることになる。
  • 一昨年の防衛増税報道から足元にかけて、様々な負担増の報道が相次いでいることも消費マインドを委縮させている。また、若い頃の不況経験がその後の価値観に影響を与えることが米国のデータから明らかにされており、仮にこれが日本にも当てはまるとすれば、少なくとも失われた30年の間に社会に出た50代前半までの世代の財布のひもはそう簡単には緩まないことになる。
  • 世界でも異例の失われた30年により家計にデフレマインドが定着してしまっていることからすれば、実質賃金が安定的にプラスになった程度では、個人消費の回復もおぼつかない可能性が高い。家計のデフレマインドが完全に払しょくされていない個人消費を盛り上げるためには、支出をした家計が得をするような思い切った支援策を打ち出すことが必要になる。

これで、ほぼ尽きているのですが、上の5点のうちの第2と第3の点を中心に、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 家計最終消費支出の雇用者報酬弾力性 を引用しています。2010年代半ばには1.4を超えていたものが、最近時点では0.8を下回るようになっているのが見て取れます。したがって、2010年代半ばには所得が1兆円増加すると1.4兆円ほどの消費が増加していたのですが、最近時点では8000億円も増加しない、ということになります。ですから、今年の賃上げがかなり大幅なものであっても、それに見合って以前ほど消費が拡大するわけではない、ということになります。賃上げと消費の連動性が低下してきているわけです。

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続いて、上のグラフはリポートから 国民負担率の国際比較 を引用しています。前のグラフで見た賃金と消費の連動性の低下の原因はいくつか考えられますが、大きな原因は社会保障や税金の負担が大きく増加していることである、と分析しています。すなわち、たとえ賃上げによって所得が増加しても、他の先進国と比較して日本では、政府に徴収される社会保障負担や税金が大きく増加しており、賃上げほど所得が伸びない、したがって、賃上げほど消費も伸びない、ということになります。加えて、高齢化に伴って公的年金に頼る家計の割合が増加しており、マクロ経済スライドによりかえって所得環境が悪化しかねない、と指摘しています。加えて、防衛増税などの報道により先行きの増税感が強まって消費マインドが悪化しており、さらに、18-25歳くらいまでの若年期の不況体験が個人の価値観に影響を及ぼして、そう簡単には消費を増やさない可能性が十分ある、と結論しています。このため、消費支出の増加を支援するような制作が必要とし、例えば、キャッシュレス決済の普及も念頭に置きつつ、韓国で実施されているようなキャッシュレス決済の一定割合を所得控除する、などを上げています。

私自身は最後の結論となっているキャッシュレス決済の支援策は支持するつもりは毛頭ありません。単純に国民負担率を低下させる、例えば、消費税率の引下げなどが政策選択肢となる、と考えています。

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2024年5月16日 (木)

2四半期ぶりのマイナス成長となった1-3月期GDP統計速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から1~3月期GDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比△0.5%減、年率換算で▲2.0%減を記録しています。2四半期ぶりのマイナス成長です。なお、なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.6%、国内需要デフレータも+2.6%に達し、6四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率2.0%減 1-3月、2四半期ぶりマイナス成長
内閣府が16日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.5%減、年率換算で2.0%減だった。2四半期ぶりのマイナス成長となった。品質不正問題による自動車の生産・出荷停止の影響で消費や設備投資が落ち込んだ。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値の年率1.5%減を下回った。前期比年率の寄与度は内需がマイナス0.6ポイント、外需がマイナス1.4ポイントだった。内需のマイナスは4四半期連続となる。
GDPの半分以上を占める個人消費は前期比0.7%減で4四半期連続のマイナスだった。4四半期連続での減少はリーマン・ショックに見舞われた2009年1~3月期まで以来で15年ぶりとなる。
普通自動車や軽自動車に加え、携帯電話機など耐久財の消費が振るわなかった。暖冬の影響で電気代も減った。飲食サービスや証券関連手数料など金融サービスを中心にサービス消費はプラスに寄与した。
消費に次ぐ民需の柱である設備投資もマイナスで、前期比0.8%減だった。減少は2四半期ぶりとなる。商用車などの普通乗用車やトラックが押し下げた。掘削機などの生産用機械も落ち込んだ。研究開発費は増えた。
民間住宅は2.5%減少した。資材高や人手不足で建築費が高止まりし、着工件数が減少していることが響いているとみられる。民間在庫変動の寄与度はプラス0.2ポイントだった。
公共投資は前期比3.1%増で3四半期ぶりに増加した。政府最終消費は医療費の増加などで0.2%増えた。プラスは2四半期ぶりとなる。
輸出は5.0%減と4四半期ぶりに減少した。自動車の出荷が減ったことがマイナスに響いた。23年10~12月期に大手製薬会社が提携する米国企業から知的財産関連の使用料を受け取って一時的にサービス輸出が増えた反動もあった。
計算上は輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)の日本国内での消費は前期比で11.6%増えた。年換算した実額は実質で6.5兆円と過去最高となった。
輸入は前期比3.4%減で3四半期ぶりのマイナスだった。原油や液化天然ガス(LNG)といった鉱物性燃料の輸入が減った。中東アジアの近海で武装組織による商船襲撃などを受けた物流の混乱が響いた。輸入はGDPの計算から差し引く項目のため、減少は全体の押し上げにつながる。
24年1~3月期の名目GDPは前期比0.1%増、年率換算で0.4%増と2四半期連続でプラスとなった。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比で3.6%上昇と6四半期連続でプラスだった。23年度の実質GDPは前年度比で1.2%増えた。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/1-32023/4-62023/7-92023/10-122024/1-3
国内総生産GDP+1.2+1.0▲0.9+0.0▲0.5
民間消費+0.7▲0.7▲0.3▲0.4▲0.7
民間住宅+0.7+1.8▲0.9▲1.4▲2.5
民間設備+2.5▲1.7▲0.2+1.8▲0.8
民間在庫 *(+0.5)(▲0.1)(▲0.6)(▲0.2)(+0.2)
公的需要+0.2+0.2+0.2▲0.1+0.8
内需寄与度 *(+1.3)(▲0.6)(▲0.8)(▲0.2)(▲0.2)
外需(純輸出)寄与度 *(▲0.2)(+1.7)(▲0.1)(+0.2)(▲0.3)
輸出▲2.4+3.8+0.3+2.8▲5.0
輸入▲156▲3.6+0.9+1.8▲3.4
国内総所得 (GDI)+1.7+1.6▲0.6+0.1▲0.5
国民総所得 (GNI)+0.4+2.0▲0.7+0.1▲0.6
名目GDP+2.2+2.6▲0.2+0.7+0.1
雇用者報酬 (実質)▲1.5+0.3▲0.9+0.0▲0.4
GDPデフレータ+2.3+3.7+5.2+3.9+3.6
国内需要デフレータ+3.2+2.7+2.5+2.1+2.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された1~3月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、灰色の在庫のプラス寄与のほかは、消費をはじめとしてGDPの需要項目のいろんなコンポーネントが軒並みマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率で▲1.5%の減でしたから、予想レンジの下限が▲3.3%とはいうものの、やや下振れした印象は否めません。季節調整済み系列の前期比伸び率で見て、GDP▲0.5%減のうち、内需寄与度が▲0.2%、外需寄与度が▲0.3%ですから、ともにマイナス寄与です。特に、GDPコンポーネントとして最大シェアを占める消費が▲0.4%の寄与を示しています。ただ、マインドを含めた消費のトレンドが決して低下しているわけではなく、次のグラフで見るように、雇用者報酬がここまで下がり続けながらも消費は全体として底堅い印象を持っています。引用した記事にもある通り、サービス消費は医療を含めて堅調です。ですから、1~3月期のマイナス成長のもっとも大きな要因は自動車の品質不正問題に端を発する工場閉鎖と考えるべきです。従来から、私は日本経済が自動車のモノカルチャーに近い印象を持っていましたが、まさに、この私の印象を裏付ける形で悪い面が出てしまった気がします。今さらながらに、生産面での自動車産業のすそ野の広さや波及効果の大きさを実感し、需要面でも幅広い消費に及ぼす影響の強さを再認識させられた思いです。私自身としては、60歳の定年まで東京で公務員をしていて、公共交通の便利さから自動車とは縁遠く、逆に、住宅に同じような影響力の強さを感じていたのですが、やっぱり、自動車のモノカルチャーかもしれないと思い直しています。この1~3月期については、公的需要が前期比伸び率+0.8%、寄与度も+0.2%と日本経済を下支えしたようです。岸田総理を「増税メガネ」とか、揶揄する向きがあるようですが、今期に限っては公的需要が増加している点は評価できます。ただ、公的需要+0.8%増のうち、公的固定資本形成、いわゆる公共投資が+3.1%増、寄与度でも+0.2%となっています。私も最近は政府財政から遠く離れていますが、ひょっとしたら、能登半島地震に伴うものなんでしょうか、それとも、年度末の駆込み支出なんでしょうか。能登半島地震の被災者はカッコ付きの「棄民政策」の犠牲になっている、と私はみなしていたのですが、見方を変える必要があるのかもしれません。でも、今少し情報が不足しています。

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最後に、上のグラフは、上のパネルが雇用者報酬、下のパネルが非居住者家計の購入額、すなわち、いわゆるインバウンド消費のそれぞれ季節調整済み系列の年額をプロットしています。もちろん、縦軸のスケールが1ケタ半くらい違うとはいえ、国内の消費に基礎を置くビジネスよりもインバウンドに頼る方が先行きの望みがありそうに見込む向きがあっても不思議ではありません。インバウンド消費は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染法上の分類変更などに伴って、実に素早く過去最高を記録しています。もちろん、大いに円安がインバウンド消費の増加に寄与しているのはいうまでもありません。

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2024年5月15日 (水)

明日公表予定の1-3月期GDP統計速報1次QEは自動車の品質不正などを受けてマイナス成長か?

4月末の鉱工業生産指数や先週の家計調査をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日5月16日に1~3月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である1~3月期ではなく、足元の4~6月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.8%
(▲3.3%)
4~6月期の実質GDPは、自動車メーカーの出荷再開や家計の所得環境の改善に支えられ、プラス成長に復する見通し。連合の春闘第4回回答集計によると、2024年の賃上げ率(定期昇給含む)は5.20%と33年ぶりの高い伸びに。夏場にかけて、春闘で妥結された賃上げの適用が広がり、個人消費が回復に転じる見込み。
大和総研▲0.4%
(▲1.6%)
2024年4-6月期の日本経済はプラス成長に転じよう。自動車の挽回生産が複数の需要項目の押し上げに寄与するほか、所得環境の改善などを受けて個人消費の持ち直しも続くとみられる。
個人消費は、インフレ率の低下や積極的な賃上げなどを背景に増加が続くと予想する。サービス消費を中心にコロナ禍からの回復余地は依然として大きく、実質賃金の持ち直しなどを受けて緩やかに回復するとみられる。また、国内の自動車生産体制は4月中におおむね正常化したとみられることから、挽回生産による耐久財消費の増加も期待できよう。
住宅投資は減少傾向が続くとみられる。住宅価格の高騰が続く中、持家を中心に軟調な推移が続く公算が大きい。
設備投資は増加に転じよう。日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(日銀短観)によると、3月調査時点における2024年度の設備投資計画(全規模全産業、除く土地、含むソフトウェア・研究開発)は前年度比+4.5%だった。3月調査時点としては比較的高水準であり、企業の投資意欲は引き続き旺盛だ。2024年度にはこれまで先送りしてきた更新投資や能力増強投資、人手不足に対応するための省力化投資などが徐々に発現しよう。デジタル化、グリーン化に関連したソフトウェア投資や研究開発投資も底堅く推移するとみられる。
公共投資は減少すると予想する。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするとみられる一方、建設業などにおける人手不足が重しとなるほか、一部で1-3月期に大きく増加した反動が生じる可能性がある。政府消費は医療費の増加などを受けて、小幅に増加しよう。
輸出は、財・サービスいずれも増加するとみられる。前述した自動車の挽回生産のほか、海外景気の堅調な推移やシリコンサイクルの回復局面入りなどが財輸出を押し上げよう。サービス輸出はインバウンド消費の持ち直しや知的財産権等使用料、一部の業務サービスなどの趨勢的な増加が続くとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.5%
(▲2.1%)
1~3月期は年率▲2.1%のマイナス成長となり、経済活動が停滞したことを示す内容になる可能性が高いと予測するが、令和6年能登半島地震や一部自動車メーカーの生産停止といった一時的な下押し要因による影響が大きい(みずほリサーチ&テクノロジーズは、波及効果も加味して、これらによる自動車減産の影響により1~3月期のGDPが最大で▲0.8%程度下押しされた可能性があるとみている)。こうした一時的な下押し影響が一服する4~6月期にはプラス成長に転じるとみられ、自動車生産が持ち直すことに加え、春闘賃上げの効果が徐々に顕在化することが押し上げ要因になるだろう(ただし、自動車生産については、昨年末以上に稼働率を引き上げる余地は小さく、一時的な下押しが顕在化する前の水準には回復するとしても、それ以上の大幅な挽回生産は見込みにくい)。
2024年の春闘については、高水準で推移する企業収益や人手不足の深刻化等を受けて、前年を大きく上回る賃上げ率が実現しそうな状況だ。連合構成組合の賃上げ回答(第4回集計)は+5.20%と前年を大幅に上回る高水準(前年同時期対比でのプラス幅は+1.51%Pt)になっており、筆者が想定していた以上に強い数字だ(組合員数300人未満の中小企業も+4.75%と第3回から上方修正されており、これも想定外の強い数字である)。夏の最終集計にかけて中小企業の集計が進むにつれて下方改定される可能性がある点には留意する必要があるが、第4回集計時点では人手確保を目的に中小企業でも賃上げに取り組む企業の裾野が広がっていることを確認できる内容であり、最終集計も前年を大きく上回る水準(賃上げ率は5%台、ベアは3%台)で着地する蓋然性が大きくなっている。高水準の賃上げ率を背景に、所定内給与も4月以降徐々に伸び率を高めていくことで、実質賃金は改善に向かうことが見込まれる(ただし、大企業中心の連合集計値と比して毎月勤労統計は中小企業の割合が高いため、名目賃金の伸び率の加速度はやや抑制される可能性が高い点には留意が必要である)。株高による押し上げに加え、生産の回復に伴う自動車の国内販売の持ち直し等も重なり、4~6月期の個人消費は増加基調で推移すると予測している。
ただし、各種物価押し上げ要因により、物価上昇率が当面高止まることで賃上げによる押し上げ効果が減殺されてしまう点には注意が必要だ。東京都における高校授業料の実質無償化が下押し要因になる一方(東京都区部のコアCPI前年比に対しては▲0.5%Pt程度の下押し影響があるが、全国ベースでは▲0.1%Pt程度の影響とみられる)、再生可能エネルギー賦課金の引き上げや政府による電気代・ガス代支援策の終了を背景にエネルギー価格の再上昇が見込まれるほか、賃上げに伴う人件費の上昇はサービス物価を中心に物価押し上げ要因になる。いわゆる「2024年問題」の影響もあって運送業の人手不足深刻化により物流費の上昇が見込まれることに加え、昨秋以降の円安や足元の原油価格上昇に伴う輸入物価再上昇によるコストプッシュ(いわゆる「第1の力」)が食料品など財価格の下げ渋りにつながる公算が大きくなっており、コアCPIベースのインフレ率は夏場にかけて前年比+2%台後~+3%前後で推移する可能性が高まっている。実質賃金の前年比マイナスは当面継続し、個人消費の回復ペースが抑制される可能性が高い。また、サービスや半耐久財については、前述した1~3月期のうるう年要因の反動減が押し下げに働く可能性が高い点に留意が必要だ。
設備投資についても、4~6月期はプラスに転じるとみている。日銀短観3月調査における2024年度の設備投資計画(全規模合計・全産業、ソフトウェア・研究開発を含む)は前年比+4.5%と、3月調査時点としては高い伸びとなった。資材価格高騰等を受けて2023年度に実行しきれなかった投資が2024年度に繰り越された面もあるが、自動車や化学、生産用機械(半導体製造装置含む)等では過去の実績を大きく上回る設備投資計画になっており、EV関連投資需要の高まりや半導体市場の回復観測等を背景に、旺盛な企業の設備投資意欲が確認できる内容だ。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)をみても、1~2月平均は10~12月平均対比で+2.1%と非製造業を中心に持ち直している。後述の海外経済減速が重石になる一方、インバウンド需要の回復や、半導体関連産業の在庫調整の進展等が押し上げ要因になるほか、DX・GX関連投資や人手不足対応の省力化投資も顕在化することで、先行きの設備投資は回復基調で推移するとみてよいだろう。
輸出については、自動車生産の持ち直しや世界的な製造業サイクル・シリコンサイクルの回復が押し上げ要因になる一方、海外経済の減速が財輸出の逆風になるだろう。米国経済は、1~3月期の実質GDP成長率が前期比年率+1.6%と減速したものの、在庫や外需のマイナス影響が大きく、良好な雇用所得環境を背景に個人消費など内需は堅調な推移が続いている。それでも、これまでの金融引き締めの影響が企業部門を中心に顕在化することで、2024年前半にかけて景気は緩やかな減速基調で推移すると予想している(4月のPMIをみると米国は金利上昇や物価高を背景に新規受注が鈍化するなど景況感がやや弱含んでいる)。欧州経済については、金融引き締め効果の顕在化を受けて、2024年前半は軟調な推移になる可能性が高い。特にドイツでは、安価なロシア産ガスからの切り替えに伴う採算性の悪化等を受けた構造的な競争力の低下が今後も生産回復の足かせとなる可能性が高い。中国経済は、1~3月期の実質GDP成長率が前年比+5.3%と市場予想対比で上振れたものの、足元の小売売上高や固定資産投資、工業生産は力強さを欠き、景気回復の持続性には不透明感が強い。不動産販売は底ばいでの動きが続いているほか、在庫調整が続く中で不動産投資も減少基調で推移しており、当面は不動産部門の調整が経済活動を下押しする状況が続く見通しだ。こうした海外経済の動向を踏まえると、財輸出の力強い回復は当面期待しにくいだろう。機械受注(外需)をみても、1~2月平均は10~12月平均対比で▲1.7%と弱含んでいる。
一方、インバウンド需要の回復は継続が見込まれる。夏場にかけて航空便数が拡大する見込みであり、円安傾向が継続すれば先行きも2019年超えの訪日外客数が続く可能性が高いだろう。ただし、訪日外客数についてはタイやマレーシアなど一部の国で増勢が既に一服しているほか、一人当たり消費単価についても平均泊数(観光・レジャー目的)が徐々に縮小するなど、高水準ながらも回復ペースが鈍化する可能性が高い点には注意が必要だ。
さらに、政府の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」、並びにその財源として成立した2023年度補正予算を受けて、防災・減災、国土強靭化の推進に係る公共事業が4~6月期も一段と進捗することが見込まれ、公共投資は増加傾向で推移しよう。
以上を踏まえ、4~6月期の日本経済は、海外経済の減速が輸出を下押しするものの、自動車生産が持ち直すほか、高水準の企業収益が賃金・設備投資に回ること等により内需が持ち直し、年率+2%程度のプラス成長になる可能性が高いと現時点で予測している。
ニッセイ基礎研▲0.4%
(▲1.6%)
2024年4-6月期は、2024年春闘の結果を受けて名目賃金の伸びが高まる中、所得・住民減税による可処分所得の押し上げ効果もあり、民間消費が5四半期ぶりに増加すること、高水準の企業収益を背景に設備投資が増加に転じることなどから、現時点では年率1%台後半のプラス成長を予想している。
第一生命経済研▲0.4%
(▲1.4%)
先行きについては緩やかな持ち直しが予想される。1-2月の落ち込みが響いたことで、自動車生産は1-3月期で見れば大幅減少となったが、3月単月では反発がみられ、4、5月も増産計画が示されている。自動車生産が正常化に向かうことが目先の生産押し上げに寄与する見込みだ。自動車減産の影響で1-3月期に下押された分が回復に向かうことで、個人消費や輸出等でも反発が予想されることから、4-6月期はプラス成長が見込まれる。その後も、24年後半に実質賃金のプラス転化が見込まれることが下支えになることで、個人消費は緩やかに持ち直すだろう。製造業部門の下押しが弱まることや底堅い企業収益を背景として設備投資も緩やかに増加する可能性が高い。これまで景気の足を引っ張ってきた内需に持ち直しの動きが出ることで、景況感も徐々に改善に向かうと予想する。
もっとも、物価上昇による実質購買力の抑制が消費の頭を押さえる状況は残る。再エネ賦課金の引き上げや電気代、ガス代の負担軽減策の終了でエネルギー価格が大幅に上昇することに加え、円安や原油高によるコスト上昇分の価格転嫁が行われることもあり、物価は当面高止まる可能性が高い。名目賃金の上昇率拡大により実質賃金は24年7-9月期にプラス転化し、消費を支えるとみているが、物価上昇の影響で実質賃金の増加幅は抑制される可能性が高い。コロナ禍からのリバウンドも終了したなか、個人消費の回復ペースは緩やかなものにとどまるとみられ、景気に加速感が出るには至らないだろう。
伊藤忠総研▲0.2%
(▲0.9%)
2023年4~6月期は、物価上昇の鈍化と賃金上昇が一段と進み実質賃金が前年比でプラスに転じるとみられ、個人消費の拡大が加速しよう。設備投資は日銀短観で確認された強気の計画が実行に移されることで再び増加に転じる見込み。米国経済の減速が予想され、欧州経済は底ばい、中国経済も回復力に欠けるため、輸出には多くを期待できないものの、実質GDP成長率は内需主導で前期比プラス成長を取り戻すと予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.3%
(▲1.3%)
2024年1~3月期の実質GDP成長率(1次速報値)は、前期比-0.3%(前期比年率換算-1.3%)となり、日本経済は2四半期ぶりのマイナス成長に陥ったと予想される。物価高が続いていることに加え、能登半島地震や一部自動車メーカーの品質不正問題による工場稼働停止の影響、10~12月期にサービス輸出が一時的な要因で高い伸びとなったことの反動減等が下押し要因となった。
三菱総研▲0.5%
(▲2.0%)
2024年1-3月期の実質GDPは、季節調整済前期比▲0.5%(年率▲2.0%)と、2四半期ぶりのマイナス成長を予測する。
明治安田総研▲0.5%
(▲2.1%)
先行きについて、まず個人消費は、春闘における高めの賃上げが段階的に給与に反映されることや、定額減税などの政府の経済対策が下支えとなり、持ち直しに向かうと予想する。設備投資は、脱炭素・デジタル関連が引き続き底堅く推移するほか、自動車の生産・出荷再開が回復に寄与するとみる。半導体市況の一巡で製造装置等の増産に係る投資需要が増加することも追い風となろう。一方、外需は停滞気味の推移が続くと予想する。財輸出に関しては、中国景気が力強さに欠ける推移となることなどから、年度前半を中心に低迷持続が見込まれる。インバウンドは引き続き外需の下支え要因になるとみられるが、2024年度の日本景気の回復ペースは緩やかなものにとどまると予想する。

見ての通り、今年2024年1~3月期はマイナス成長ということでコンセンサスがあります。しかも、そのマイナス成長の原因は自動車の品質不正問題であり、改めて自動車産業について生産面での裾野の広さ、消費面での位置づけなどを、良くも悪くも確認した形となりました。私のように周囲に自動車産業で働く知り合いがなく、自分自身が自動車に乗っていない人間には、少し意外だった気がしますが、産業や耐久消費財として、日本における自動車の重要性を思い知らされた気がします。ただ、マイナス幅はややばらつきが見られ、年率でも▲1%に届かないとする伊藤忠総研から、▲3%を越えると予想している日本総研まで、かなりの幅があります。私の直感では▲1%台後半のあたりで、▲2%を超えないのではなかろうか、と考えています。ちゃんとした根拠はありません。
他方で、自動車生産は3月から正常化しつつあり、したがって、足元4~6月期はプラス成長が見込まれています。自動車にまつわる事情はペントアップが主ですので割愛するとして、円安が進行しているにもかかわらず外需の停滞が予想されています。私自身は、4~6月期の外需はやや上振れリスクがあると考えています。欧米先進国のソフトランディングと円安がその要因です。たっだ、中国の不動産市場次第では下振れリスクも顕在化する可能性が否定できません。それでも、4~6月期は内需に支えられたプラス成長に回帰する、というのが大方のエコノミストの緩やかなコンセンサスだろうと思っています。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研究所のリポートから引用しています。

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2024年5月14日 (火)

底堅い動きを続ける4月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から4月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+0.9%の上昇となり、先月3月統計と同じ上昇率でした。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、4月0.9%上昇 伸び率は横ばい
日銀が14日発表した4月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は121.2と、前年同月比0.9%上昇した。3月から伸び率は横ばいだった。銅や原油価格上昇の価格転嫁が進んだ。加えて円安の影響で円ベースの輸入物価が上がり、企業物価の押し上げ圧力になっている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに、今後の消費者物価指数(CPI)に影響を及ぼす。4月の上昇率は民間予測の中央値(0.8%上昇)より0.1ポイント高かった。
内訳は、銅価格の上昇を受けて非鉄金属が前年同月比11.7%上昇した。3月の5.8%上昇から拡大した。新年度に切り替わる4月は価格改定が増えやすく、原材料コストや物流費、人件費を転嫁する動きもみられた。飲食料品はコスト上昇の転嫁により2.9%上昇した。
石油・石炭製品は中東情勢など地政学リスクを背景に前年同月比5.3%上昇した。伸び率は3月から横ばいだった。一方、電力・都市ガス・水道は19.7%下落した。下落率は30%近かった直近ピークより狭まってきた。2023年に始まった政府による電気・ガス料金の支援制度が一巡してから、企業物価の前年同月比を押し下げる効果はなくなってきている。
円ベースの輸入物価指数は、前年同月比6.4%上昇と3月の1.4%から大きく拡大した。23年3月(9.4%)以来の伸び率となった。日銀担当者は「国際商品市況や為替の影響があり、上昇している。輸入物価はラグを持って国内の企業物価に影響する可能性がある」と説明した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+0.8%と見込まれていましたので、やや上振れたもののほぼジャストミートしました。これも引用した記事にある通り、国内物価指数は3月統計では1-2月統計よりも上昇率を高めていましたが、4月統計は3月統計と伸びは横ばいでした。すなわち、1月の前年同月比上昇率はその直前の12月と同じ+0.3%だったのですが、2月+0.8%、3月+0.9%に続いて、4月も+0.8%となっています。国内物価の上昇幅が拡大した背景には、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が一巡した影響もあると考えるべきです。加えて、輸入物価が2月から再び上昇に転じ、3-4月もジワリと上昇幅を拡大し始めています。その背景として、引用した記事にもある円安は決して無視できないのですが、原油価格の上昇も考慮すべきです。すなわち、企業物価指数のうちの輸入物価の原油価格の円建ての前年同月比を見ると、2023年12月に+3.0%と再上昇に転じた後、1月+10.4%、2月+7.9%、3月+7.8%、4月は+19.2%の上昇と大きく値上がりしています。我が国では、金融政策を通じた需給関係などよりも、原油価格のパススルーが極端に大きいので、国内物価にも無視し得ない影響を及ぼしている可能性があります。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が▲19.7%、食料品の原料として重要な農林水産物+▲0.7%と下落が続いている一方で、飲食料品は+2.9%と3月の+4.0%から伸びが縮小したとはいえ、依然として高い伸びが続いています。ほかに、非鉄金属+11.7%、窯業・土石製品+9.8%、非鉄金属+6.6%、石油・石炭製品+5.3%、生産用機器+5.0%などといった費目で+5%以上の上昇率を示しています。そして、価格上昇がかなり幅広い費目に及んでおり、電気機器と情報通信機器がともに+3.3%、はん用機器+3.2%、などが+3%超の上昇率となっています。ある意味で、企業間で順調な価格転嫁が進んでいると見ることも出来ます。

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2024年5月13日 (月)

グリーン投資家は株価にどのようなインパクトを及ぼすか?

国連がSDGsの17のゴールを定めて、経済界でもESG投資が盛んに話題になる昨今ですが、グリーン投資家が株価にどのようなインパクトを及ぼすか、については直感的な理解は十分可能であり、定量的な研究もいくつか出始めています。その中で、興味深いモデルを用いた論文が出ています。まず、引用情報は以下の通りです。

続いて、論文のAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
We study the impact of green investors on stock prices in a dynamic equilibrium model where investors are green, passive or active. Green investors track an index that progressively excludes the stocks of the brownest firms; passive investors hold a value-weighted index of all stocks; and active investors hold a mean-variance efficient portfolio of all stocks. Contrary to the literature, we find large drops in the stock prices of the brownest firms and moderate increases for greener firms. These effects occur primarily upon the announcement of the green index's formation and continue during the exclusion phase. The announcement effects imply a first-mover advantage to early adopters of decarbonisation strategies.

何が興味深いかというと、投資家を3カテゴリーに分類してます。すなわち、グリーン投資家、パッシブ投資家、アクティブ投資家となります。同様に、企業にもカテゴリーを設定していて、グリーン企業1カテゴリーと非グリーンのブラウン企業は3カテゴリーの計4種類を設定しています。その概念を図示しているのが以下の画像であり、論文 p.11 から Figure 1: Asset exclusion and exchange between green investors and active investors を引用しています。

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グリーン投資家はもっともブラウンな企業の株式を徐々に(progressively)除外するインデックスを、パッシブ投資家はすべての株式の価値加重インデックスを、そして、アクティブ投資家はすべての株式の平均分散効率の高いポートフォリオを、それぞれ保有すると仮定しています。そうすると、最終的に、というか、t期にはグリーン投資家とアクティブ投資家のポートフォリオは右端の棒グラフのようになります。

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このモデルに基づいて、簡単なシミュレーションをすれば、グリーン企業の株価が上昇し、ブラウン企業の株価が下落するという点が理解できます。その結果を論文 p.25 Figure 3 : Impact of changing the relative fraction of green and active investors のうちの Panel C: Realised return impact (in %) を引用すると上の通りです。グリーン投資家が除外しない企業の株式が徐々に上昇するのに対して、グリーン投資家が除外する企業、特に、1年目という早々に除外される企業の株式が大きく下落します。そして、株価の上昇はかなり長期を要しますので、例えば、SDGs期限である2030年ギリギリでは効果が小さく、グリーン化を早く進めた企業の株価への効果が大きい、という点は確認しておきたいと思います。

ただし、私は株式投資はやらないのでトンと理解が追いつかないのですが、問題はこのモデルにおけるグリーン投資家とアクティブ投資家の投資行動が、どこまで現実の株式市場を反映しているのか、という点ではなかろうかと考えます。

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2024年5月12日 (日)

才木投手128球の熱投で横浜に完封勝ち

  RHE
阪  神001000000 120
横  浜000000000 040

昨日の逆転負けが嫌な印象だったのですが、才木投手の熱投で横浜に完封勝ちでした。
序盤3回にツーアウトから才木投手のフォアボールを足がかりに、1試合を通じてわずか2安打を集中して1点をもぎ取ります。ここでは、井上選手を1番二起用した岡田采配が実を結んだ形です。でも、得点はこれだけ、というか、ヒットもこの2本だけでした。素晴らしい投手戦なのですが、才木投手のヒーローインタビュー冒頭の「もうちょっと点取って欲しいですね~」を、阪神打線は、特に佐藤輝選手は肝に銘じて欲しいところです。

明日の中日戦も、
がんばれタイガース!

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2024年5月11日 (土)

今週の読書はマルクス主義経済学の学術書2冊をはじめとして計8冊

今週の読書感想文は以下の通り計8冊です。
まず、デヴィッド・ハーヴェイ『反資本主義』(作品社)は、2007-08年の金融危機は新自由主義の危機にとどまらず、資本主義そのものの危機であり、社会主義的な代替案へ平和的に移行する可能性を示唆しています。村上研一『衰退日本の経済構造分析』(唯学書房)は、1980年代にかけて外需に依存した形で「経済大国」化が進んだ後、いわゆる「減量経営」によって高賃金雇用が減少し所得と消費の縮小を招いたと論じています。阪井裕一郎『結婚の社会学』(ちくま新書)は、結婚の歴史を近代史から現代史とたどった後、離婚と再婚、事実婚と夫婦別姓、セクシュアル・マイノリティと結婚、最後に、結婚の未来について論じています。米井嘉一『若返りホルモン』(集英社新書)では、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)を摂取すれば老化を防いで若返ることができると主張しています。スティーヴン・キング『アウトサイダー』上下(文春文庫)は、同一人物、すなわち、指紋やDNAが一致する同一人物が同時に100キロあまり離れた2か所に存在し、アリバイが成り立たない殺人事件の謎を解き明かそうとするミステリです。西村京太郎『土佐くろしお鉄道殺人事件』(新潮文庫)は、JR土讃線・土佐くろしお鉄道を走る特急「あしずり9号」の車内で経済復興担当の黒田大臣が青酸化合物により毒殺された事件の謎を十津川警部が解き明かそうと奮闘します。井上荒野ほか『Seven Stories 星が流れた夜の車窓から』(文春文庫)は、九州を走る豪華寝台列車の「ななつ星」にまつわる短編小説と随筆を収録したアンソロジーです。
ということで、今年の新刊書読書は1~4月に103冊の後、5月に入って先週は6冊、そして、今週は8冊、合わせて117冊となります。順次、Facebookやmixiなどでシェアする予定です。

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まず、デヴィッド・ハーヴェイ『反資本主義』(作品社)を読みました。著者は、英国生まれで現在はニューヨーク市立大学の研究者であり、専門分野は地経学です。本書の英語の原題は The Anti-Capitalist Chronicles であり、2020年の出版です。コロナ禍の中でPodCastとして人気を博した David Harvey's anti-capitalist chronicles の書籍版となっています。まず、冒頭で資本主義の中の新自由主義とは資本主義の危機を権威主義的政策と自由市場型解決策を促進させる反革命であり、過去30年間で深刻な社会的不平等をもたらした元凶である、ということになります。資本主義は、1980年代に新自由主義を導入した後、当時のソ連・東欧への地理的な拡張を成し遂げ、さらに、人々にクレジットカードを保有させて債務超過状態に陥らせることにより、市場経済の矛盾を解決しようとしていと主張します。後者の債務超過状態が経済の金融化を進めることにつながります。金融経済では食べることも着ることも住むことも出来ないことから、寄生的にならざるを得ない、と結論しています。そして、著者がもっとも強調しているのは、2007-08年の金融危機は新自由主義の危機にとどまらず、資本主義そのものの危機である、という点です。したがって、英国のサッチャー首相の言葉として伝えられている "There is no alternative (TINA)." は誤りであり、社会主義という代替案(alternative)を示します。しかも、社会主義的な代替案へ平和的に移行する可能性が強く示唆されています。すなわち、資本蓄積と資本構造から離れて、国有化も含めた社会的で共同的な存在へと移行することです。コモンの拡大といってもいいかもしれません。本源的蓄積、疎外などのマルクス主義特有の用語を駆使した分析は私の手に余りますが、それなりに説得力あります。ただ、私自身は資本主義の枠内で新自由主義の弊害を取り除くことが出来る可能性をもう少し追求すべきではないか、という気もしました。いきなり社会主義的な解決策を模索する前に、そういった思考も必要ではないかと考えます。ただ、最後の方のパンデミックに着目した議論も、いかにも社会主義を想像させるような計画的な集団活動により、パンデミックに対応することが出来た、という主張も事実です。資本主義、中でも、新自由主義の悪影響を除去し、新たな段階の経済を模索する上でとても参考になる経済書でした。

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次に、村上研一『衰退日本の経済構造分析』(唯学書房)を読みました。著者は、中央大学の研究者です。本書で、著者は、日本経済の現状を「衰退」と捉え、経済行動について貿易から解き明かそうと試みています。すなわち、2011年3月の大震災以降の時期、そして、最近2-3年における貿易赤字を国際競争力の低下と考え、資本輸出による現地生産の進行も踏まえつつ、広範なデータを駆使して実証しようと試みています。まず、衰退前の前段では、高度成長期から1980年代にかけて、外需に依存した形で「経済大国」化が進みました。大企業を中心にして、労働者や下請け企業を支配し、大企業に資本蓄積が進み、国際競争力が強化されます。同時に、短期的収益に左右されずに中長期的視点に立った研究開発や生産能力の構築などが、政府の政策的指導と相まって「経済大国」化に寄与します。しかし、1990年代以降に新自由主義が世界経済を席巻する中で、いわゆる「減量経営」、すなわち、非正規雇用の拡大による高賃金雇用の減少を招き、国内での所得と消費の縮小を生じたと結論しています。このあたりは、私をはじめとして主流派エコノミストの中でも異論は少ないだろうと感じます。日本では特に年功賃金を前提に育児や教育や住宅などへの公的支出が少なく、格差の拡大や貧困の蔓延につながりやすい素地があったと指摘しています。さらに、新自由主義的な経済政策運営や経営方sんなどにより、短期的な利益を重視する方向に舵が切られ、日本経済は投資不足に陥ります。さらに、大震災直後の2010年代に貿易収支が赤字化した事実から、第5章では貿易と産業構造のデータを駆使し、国際競争力の低下を実証しようと試みています。本書の読ませどころはこの第5章と第7章なのですが、後者の第7章では新自由主義的な経済思想が、短期的利益の追求に終止し、投資の不足を招くとともに、政府の経済への介入、すなわち、オリンピック快哉、カジノ、リニア建設などに支えられるような資本主義に変質した点を分析しています。本書はマルクス主義経済学の視点からの日本経済分析であり、おそらく、私のような主流派エコノミストの目から見れば、国際競争力というよりは国際分業の中での比較優位構造の変化と考えるべき点なのですが、膨大なデータに基づいてこういった点を実証しようと試みています。私のような主流派エコノミストの目から見ても同意できる点はいくつもあります。

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次に、阪井裕一郎『結婚の社会学』(ちくま新書)を読みました。著者は、慶應義塾大学文学部の研究者であり、ご専門は家族社会学だそうです。本書では、結婚の歴史を近代史から現代史とたどった後、離婚と再婚、事実婚と夫婦別姓、セクシュアル・マイノリティと結婚、最後に、結婚の未来について論じています。近代史の前から見て、結婚とは部族内での夜這いなどの形態、というか、乱婚に近いものから家族どうしの結びつき、これは今でも見受けますが、xx家とxx家の結婚式、というもので、見合いとか親の決定に従った結婚が当たり前だったものを経て、個人間の結婚へと歴史的に変化しているのは大筋で日本もそうなっていると思います。そして、明治期からキリスト教国の影響を受けつつ、いわゆる複婚から単婚が成立します。複婚といっても、実態は裕福な男性だけに許された一夫多妻、あるいは、妾制度です。ただ、日本の場合、離婚はその昔からあり得ました。すなわち、本書では明記していないのですが、キリスト教国はモルモン教などの例外を別にすれば基本的に単婚なのですが、プロテスタントは、まさに、英国国教会がヘンリー8世の離婚問題を一因として発足したように、離婚が出来なくはない一方で、カトリックは離婚を認めない場合も一部に見受けられます。私が大使館勤務をしていたころのチリでは、離婚ではなく、そもそもの結婚にさかのぼって取消しを行うという形での離婚でした。そして、現在の憲法では両性の一致に基づいた結婚が、すなわち、家ではなく個人の意志による結婚が成立しています。戦後は地縁結婚から職域結婚、あるいは、職場結婚も多く見られるのは広く知られているところです。ただし、それでも、本書ではそれなりにスペックの似た個人間での結婚が主流であって、現在のマッチング・アプリにもそれが引き継がれていると指摘しています。それはそうなのかもしれません。選択的夫婦別姓とか、同性婚とか、私は基本的に個人のレベルで責任を取れる範囲で好きにすべきと考えています。責任とは主として経済的な面であって、生活が成り立たない結婚がどこまで好ましいかは、少し私も保守的な見方をしているかもしれません。また、「本書のスコープ外」といわれればそれまでですが、結婚には妊娠・出産が控えていると考える読者も多くいそうながら、少子化についてはほとんど何も言及ありません。物足りないと受け止める読者もいそうな気がします。いずれにせよ、「結婚の常識を疑うというのが本書に通底する問題意識」との謳い文句にひかれて読んだのですが、結婚を個人から社会の問題に捉え直すとの観点はやや希薄だった気がしました。

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次に、米井嘉一『若返りホルモン』(集英社新書)を読みました。著者は、同志社大学の研究者であり、本書はいわゆるアンチエイジングをホルモンの観点から科学的に解明しようと試みています。というか、本書の内容を一言でいえば、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、ネットで調べた化学式はC19H28O2、を摂取すれば老化を防いで若返ることができる、ということです。この2-3行で終わる結論を医学的なバックグラウンドも含めて延々と説明しているのが本書、ということになります。もちろん、一般的なアンチエイジング、というか、適度な運動をして、塩分や脂質の多い食事を避け、睡眠をはじめとする生活リズムを正しくして、なんぞというものはいうまでもありません。ただ、常識に反すると思ったのは、素食は推奨していません。すなわち、噛む力も含めて消化能力を弱体化させるリスクを指摘しています。そして、体脂肪を減らしてボディビルダーのように筋肉を鍛えすぎるのもNGで、機能面の老化を早めたり、動脈硬化を起こす可能性も指摘しています。そして、老化防止はDHEAの摂取一点張りです。もちろん、ホルモンですから、過剰摂取はNGです。でも、DHEAは老化防止だけでなく、がん罹患率、更年期障害、生殖医療などなど第2章では幅広い効果を取り上げています。私のようなシロートからすれば、そんなすごいホルモンが今までさほど注目されなかった理由を知りたいくらいです。少なくとも、私は不勉強にしてDHEAについては初めて聞きました。本書後半はDHEAとの関連がそれほどない一般的なアンチエイジング、あるいは、アンチエイジングとすら関係薄い健康一般のお話になっていて、少し物足りない気もしましたが、もっとも物足りないのは、では、どうすればアンチアイジングの本丸であるDHEAを摂取することが出来るか、という点の紹介がほとんどない点です。私が本書を読んだ理解からすれば、どうも、DHEAを多く含む食物はないようです。ですから、薬ないしサプリメントとして摂取するしかないような気がするのですが、著者のクリニックに行って入手する以外には、どうも、私のような一般ピープルには入手のしようがないのではないか、とすら思えてしまいます。でも、ネットで探せばDHEAを売っているところはいっぱいありそうな気がします。本書を読んでレビューしておきながら、何なんですが、私はこういった薬物や薬物まがいのサプリメントはほとんど興味や関心がありません。もっと、ナチュラルに生活したいと考えています。

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次に、スティーヴン・キング『アウトサイダー』上下(文春文庫)を読みました。著者は、モダンホラーの帝王とすら称される小説家です。本書は、いわゆるミステリ三部作の『ミスター・メルセデス』、『ファインダーズ・キーパーズ』、『任務の終わり』の続編ともみなせるミステリ小説です。ホッジズなどとファインダーズ・キーパーズ探偵事務所を立ち上げたホリー・ギブニーが下巻から登場して謎解きの主導権を取ります。ただ、単なるミステリの謎解きなのではなく、三部作もそうだったのですが、近代物理学の常識に抵触しかねない要素が、本書でも時間の経過とともに段々と強くなります。ということで、簡単なストーリーですが、刑事のラルフ・アンダースンが主人公です。高校教師でスポーツチームのコーチとしても地域で慕われている男性が、11歳の少年を性的に凌辱して殺害するという事件が起こります。目撃者が何人かいて、指紋やDNAといった完璧な物的証拠もありますので、アンダースン刑事が指揮を取って、衆人環視の現場で逮捕します。しかし、この男性にはこれまた完璧なアリバイがありました。高校の同僚教員とともに数名で100キロあまり離れた場所におもむいて、セミナーに参加していました。要するに、同一人物、すなわち、指紋やDNAが一致する同一人物が同時に100キロあまり離れた2か所に存在したわけです。通常のミステリで成立するアリバイが成り立たないわけです。しかも、被疑者の男性を裁判所に搬送する際に、被害者の少年の兄が狙撃して死亡させ、狙撃した被害者の兄も警察によって射殺される、という事件が起こります。警察にとっては大きな黒星となるわけです。そして、事件を指揮したアンダースン刑事が再調査を行い、そこにホリーも探偵事務所から加わるわけです。ラストは圧巻の終わり方です。近代物理学からの乖離を気にしなければ、というか、私が読んだ際には気にならなかったのですが、さすがにキングの小説です。グイグイとストーリーに引き込まれ、何ともいえない気味悪さがあるにもかかわらず、物語に没頭できてしまいます。ハッキリいって、謎解きは大したものではありません。近代物理学に反しているのですから当然です。でも、それにもかからわず、ストーリーとしてはさすがに出色の出来です。小説としてはものすごく楽しめると思います。この作者の本筋であるホラーではありませんし、近代物理学に反するわけですので、本格ミステリからもほど遠いのですが、それでも、素晴らしい小説といえます。年少の少年が凄惨な殺され方をするわけですし、論理的な謎解きがなされるミステリでもありません。それでも、読後感はそれほど悪くありません。

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次に、西村京太郎『土佐くろしお鉄道殺人事件』(新潮文庫)を読みました。著者は、小説家、ミステリ作家であり、2022年3月に亡くなっています。本書は著者による最後の地方鉄道ミステリです。ということで、JR土讃線・土佐くろしお鉄道を走る特急「あしずり9号」、高知から宿毛まで走るこの特急の車内で経済復興担当の黒田大臣が青酸化合物により毒殺されます。さらに、総理の経済ブレーンの28階マンションにドローンから爆弾が投げ入れられたりもします。怪しい人物は、父から兄が引き継いだ大田区蒲田の町工場を売却した土佐出身の加納という人物で、「昭和維新の歌」や2.26事件で死亡した加納の祖父の名刺を送りつけると、送りつけられた人物が殺されたり、あるいは、何らかの暴行を受けたりといった事件が起こります。しかし、容疑をかけられた加納自身には確実なアリバイがあります。この謎を十津川警部が解き明かすわけです。コロナ禍の中で、辛酸を嘗める蒲田の工場経営者、それに反して、反省もなく責任も取らないA級国民の世襲政治家、あるいは、政府の役人、この対立を軸に、世間からは政治家や役人が被害者となる事件に快哉を叫ぶ声も聞かれ始めます。こういった歪んでいて、心を病んだような犯罪に対して十津川警部が真相を解明して犯罪の連鎖を断ち切るわけです。でも、私の読解力が不足しているのかもしれませんが、ホントに事件が解決されたのかどうかは読みきれませんでした。少しあいまいな結末だったと受け止めています。暗い戦前の「世直し」的な世相が令和のコロナ禍の中で広まったとは、私は決して思いませんが、高度成長期などの戦後昭和を懐かしむ見方がある一方で、本書のような昭和、特に戦前昭和を鋭く批判する見方もあっていいと感じました。結末はともかく、昭和を批判的に見るという意味では、オススメです。明治維新期の恵まれなかった武士階級や土佐の急進的なグループの記述など、歴史小説的な要素もあり、逆に、まとまりを欠いた小説であるという印象もあります。ミステリとしても、また、旅情小説としても、いずれもやや中途半端な気がします。でも、それはそれとして、作者最晩年の作品のひとつですから、ファンならば読んでおいて損はありません。

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次に、井上荒野ほか『Seven Stories 星が流れた夜の車窓から』(文春文庫)を読みました。著者は、小説が女性4人、随筆が男性2人というアンソロジーです。共通したテーマは九州を走る豪華寝台列車の「ななつ星」です。作者とともに、簡単にストーリーを振り返ると、まず、井上荒野「さよなら、波瑠」は、夫婦で「ななつ星」に乗っているはずなのですが、実は、夫の方は直前に死んでいて、幽霊が妻を見ている、という設定となっています。もちろん、妻の方で幽霊となった夫がそばにいるとは感じられていません。桜木紫乃「ほら、みて」は、20代半ばから30年を経た夫婦が「ななつ星」に乗ります。卒婚がテーマになっていて、タイトルはサット・ハミルトンの絵本のタイトルです。三浦しをん「夢の旅路」は、高齢の夫婦が乗るはずだった「ななつ星」なのですが、直前に夫の方がぎっくり腰になって、妻の高校時代の同級生、2年前に夫を亡くした友人といっしょに女性2人で乗って、2人で人生の来し方を振り返ります。糸井重里「帰るところがあるから、旅人になれる。」と小山薫堂「旅する日本語」はいずれも随筆であり、フルカラーのイラストともに「ななつ星」を直接に語るものではないものの、旅や電車・列車についての短い随筆となっています。恩田陸「ムーン・リヴァー」は、両親を亡くした幼い兄弟を育ててくれた叔母にプレゼントした「ななつ星」のチケットなのですが、その叔母が直前に亡くなり、兄弟で乗っています。その叔母のハーモニカ、あるいはハーモニカで奏でた曲を懐かしんでいます。川上弘美「アクティビティー太極拳」は、東京の両親の元を離れて名古屋で大学生活を送り、そのまま名古屋で生活している女性が、夫を亡くした母と2人で「ななつ星」に乗ります。でも、コロナのパンデミックによりオンラインで旅を楽しむことになります。最後に、なかなかに豪華な執筆陣なのですが、「実は、乗るハズだったのに」というお話が多くて、また、もっとこってりした実話に近いリポートの挿入があっても良かったのですが、いずれにせよ、大部分であろうと推察される「ななつ星」に乗っていない読者に配慮したのか、淡くてスムーズなお話が多かったような気がします。逆にいえば、やや薄っぺらい印象でした。でも、アンソロジーですから、時間つぶしにはピッタリです。

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2024年5月10日 (金)

2か月連続で低下した4月の景気ウォッチャーと黒字が続く3月の経常収支

本日、内閣府から4月の景気ウォッチャーが、また、財務省から3月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲2.4ポイント低下の47.4となった一方で、先行き判断DIは▲2.7ポイント低下の48.5を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆3988億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をNHKのサイトなどから記事を引用すると以下の通りです。

4月の景気ウォッチャー調査 2か月連続で前月下回る 続く円安で
働く人に景気の実感を聞く先月の景気ウォッチャー調査は、円安が続く中、物価の上昇による消費の押し下げや原材料高による企業の負担を懸念する声が寄せられ、景気の現状を示す指数が2か月連続で前の月を下回りました。
内閣府は、働く人たち2000人余りを対象に毎月、3か月前と比べた景気の実感を聞いて指数として公表しています。
先月の調査では、景気の現状を示す指数が47.4となり、前の月を2.4ポイント下回って、2か月連続で低下しました。
調査の中では、東海地方の飲食店からは「円安を受けた値上げの影響が大きく、購入量が減少している」といった声や中国地方の製造業から「円安や物価高の影響でコストが上がっているが、すべてを販売価格には転嫁できていない」といった声が寄せられています。
こうしたことを踏まえ、内閣府は景気について「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」という見方に下方修正しました。
また、2か月から3か月先の景気の先行きを示す指数は、前の月より2.7ポイント低い48.5と2か月連続で低下しました。
23年度の経常黒字、最高の25.3兆円 資源高一服で
財務省が10日発表した2023年度の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を表す経常収支の黒字は25兆3390億円だった。22年度から約2.8倍に増加し過去最高だった。資源価格の高騰が一服したことで貿易収支の赤字が改善したことが影響した。
経常収支は輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。
経常黒字が大きく増えた要因は貿易赤字の縮小だ。23年度の赤字額は3兆5725億円と22年度と比べて金額はおよそ8割減った。22年度は原油や液化天然ガス(LNG)といった資源価格の高騰に円安が重なり、貿易収支の赤字幅が膨らんでいた。
為替相場は23年度の平均は1ドル=144円55銭で、22年度の135円43銭と比べると6.7%の円安となった。原油価格は1バレルあたり85.98ドルと16.3%下がっている。円建ては1キロリットルあたり7万7868円と10.7%下がった。23年度の輸入額はこうした要因から105兆4391億円と22年度と比べて10.3%減った。
輸出額は北米向けの自動車などが好調で2.1%増の101兆8666億円だった。100兆円を超えるのは初めてで過去最高となった。
海外からの利子や配当の収入を示す第1次所得収支は0.6%増の35兆5312億円の黒字だった。伸びは小幅だったが過去最大を更新した。
旅行収支などを含むサービス収支は2兆4504億円の赤字で、赤字幅は半分以下に縮小した。主な要因は訪日客の増加による旅行収支の黒字幅の拡大だ。23年度は4兆2295億円となり、前年度から3.6倍に増えた。
同時に発表した3月の経常収支は前年同月比44%増の3兆3988億円の黒字だった。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、昨年2023年年末11~12月から50を超える水準が続いて、今年2024年に入っても1月統計52.5、2月統計53.0と50を超えていましたが、3月統計で▲1.5ポイント低下して49.8を、また、本日公表の4月統計ではさらに▲2.4ポイント低下して47.4を記録しています。長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、2か月連続で低下したとはいえ、現在の水準は決して低くない点には注意が必要です。4月統計では家計動向関連・企業動向関連ともに低下しています。企業動向関連では、非製造業が前月から▲1.2ポイントの低下にとどまった一方で、製造業は▲3.1ポイントの低下と低下幅が大きくなっています。これには、本格化し始めたインバウンド消費がいくぶんなりとも寄与しているのではないか、と考えられます。したがって、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」に半ノッチ下方修正しています。先月までは最後が「一服感がみられる」でした。また、内閣府のリポート「景気の現状に対する判断理由等」の中には、価格上昇に起因する売上減、すなわち、インフレの影響と見られるものがいくつかありました。例えば、南関東のコンビニで「客単価は前年を超えているが、来客数は前年割れが続いている。」とかです。近畿でも、「値上げの影響で、売上は前年よりも上向いているが、消費の減少によって、販売数量は減っている。」といった意見が見られます。もうひとつ目についたのは賃上げへの言及です。例えば、その他レジャーのうちの映画で「物価の上昇は止まらないが、それに伴う賃上げがない(東京都)。」などです。ただ、外国人客やインバウンドについての効果の言及も少なくありません。私の直感的な印象としては、今年に入ってからの円安の影響も無視できませんが、同時に、年度替わりの4月に価格改定が相次いだ影響もあるものと考えています。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは経常黒字は+3兆4591億円でしたので、実績の+3兆3988億円はほぼほぼジャストミートしました。報道は2023年度の年度統計に着目しているものを多く見かけますが、引用した記事にもある通り、年度を通じて円安が進みましたので経常黒字が大きく膨らんでいます。しかし、貿易収支は相変わらず赤字を計上しており、円安にも関わらず赤字が縮小したのとどまっています。もちろん、経常収支にせよ、貿易収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2024年5月 9日 (木)

自動車の生産再開で上昇した3月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から3月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲0.7ポイント下降の111.4を示し、CI一致指数は+2.4ポイント上昇の113.9を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数、3月は前月比2.4ポイント改善 自動車の生産再開で
内閣府が9日公表した3月の景気動向指数速報(2020年=100)は、指標となる一致指数が前月比2.4ポイント上昇の113.9となり、3カ月ぶりにプラスに転じた。一部自動車メーカーの生産再開や半導体製造装置の出荷増で、鉱工業生産指数や投資財出荷指数などが指数を押し上げた。
このほか一致指数の押し上げに寄与したのは、耐久消費財出荷指数や輸出数量指数、有効求人倍率など。小売販売額は2月がうるう年の影響で増えていた反動で指数を押し下げた。
先行指数は前月比0.7ポイント低下の111.4となり2カ月ぶりのマイナス。鉱工業用生産財在庫率指数や最終需要財在庫率指数、新設住宅着工床面積などが指数を押し下げた。新設住宅着工床面積はトレンド的に低下しており、生産財在庫率は電子デバイスなど幅広い品目で悪化した。
一致指数の移動平均値などから内閣府が決める基調判断は、「下方への局面変化を示している」とし、前月の表現を据え置いた。

包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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3月統計のCI一致指数については、昨年2023年12月以来3か月ぶりのの上昇となりました。ただし、3か月後方移動平均の前月差では▲0.67ポイントの下降となり、加えて、7か月後方移動平均の前月差でも▲0.19ポイント下降と、当月では前月差プラスながら、3か月と7か月の両方の後方移動平均では前月差がマイナスを引き続き記録しています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を前月2月統計に続いて「下方への局面変化」で据え置いています。もっとも、私の直感ながら、自動車の品質不正問題による生産や出荷の停止といった経済外要因の影響が3月統計では剥落しましたので、基調判断が2か月連続で「下方への局面変化」であっても、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには日本経済が景気後退局面に入ることはないのではないか、と考えています。もちろん、景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、自動車の品質不正からの生産再開のペントアップにもっとも直接的な影響を受ける生産指数(鉱工業)が+0.66ポイントの寄与を示したほか、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.61ポイント、耐久消費財出荷指数と輸出数量指数がともに+0.41ポイント、有効求人倍率(除学卒)も+0.39ポイント、鉱工業用生産財出荷指数も+0.35ポイント、などで大きなプラス寄与を示しています。ただし、他方で、商業販売額(小売業)(前年同月比)が▲0.26ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)も▲0.19ポイント、などがマイナスの寄与を示しています。

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2024年5月 8日 (水)

学校でスマホを禁止するとどうなるか?

教育関係者にとって、学校でスマホを禁止するとどうなるか、はとても興味深いテーマであり、日本のように、例外的な一部の名門校をはあるものの、事実上、スマホが野放しに近い国の教員や保護者からすると、きっといいことが起こりそうに感じているのは私だけではないと思います。その研究成果がノルウェイで明らかにされています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、論文のAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
How smartphone usage affects well-being and learning among children and adolescents is a concern for schools, parents, and policymakers. Combining detailed administrative data with survey data on middle schools' smartphone policies, together with an eventstudy design, I show that banning smartphones significantly decreases the health care take-up for psychological symptoms and diseases among girls. Post-ban bullying among both genders decreases. Additionally, girls' GPA improves, and their likelihood of attending an academic high school track increases. These effects are larger for girls from low socio-economic backgrounds. Hence, banning smartphones from school could be a low-cost policy tool to improve student outcomes.

Abstractとやや重複しますが、pp.2-3で "I present five key findings" として、以下の5点を上げています。

  1. reduces the number of consultations for psychological symptoms and diseases at specialist care ... In addition, girls have fewer consultations with their GP due to issues related to psychological symptoms and diseases
    精神症状や病気による医師の診察が大幅に減少 ... 特に女子
  2. lowers the incidence of bullying for both girls and boys
    男女双方でのいじめの減少
  3. girls exposed to a smartphone ban from the start of middle school make gains in GPA
    no effect on the boys' mental health
    GPA女子のGPAスコアの向上
    (しかし)男子のメンタルヘルスやGPAスコアへの影響は見られない
  4. health care take-up for psychological symptoms and diseases, GPA, teacher-awarded grades, and the probability of attending an academic high school track is larger for girls from low socioeconomic backgrounds.
    精神的症状や病気に対する医療の負担、GPAスコア、成績評価、高校進学の可能性は、社会経済的背景に恵まれない女子の方が高い
  5. the effect on grades, GPA, and test scores is largest among girls attending middle schools that ban students from bringing their phones to school or schools where students must hand their phones in before classes start.
    成績、GPAスコア、テストの点数への影響がもっとも大きいのは、生徒が学校に携帯電話を持ち込むことを禁止している中学校・高校や、授業が始まる前に携帯電話を提出しなければならない学校に通っている女子生徒の間となっている

ある意味では、男子よりも女子のほうがスマホの悪影響を受けていて、さらに、社会経済的背景が恵まれないケースではスマホの悪影響が強まる、ということなのだろうと思います。最後に、少し判りにくいかもしれませんが、論文 p.38 から Figure 6: Effect of Smartphone Ban on GPA, Test Scores and Likelihood of Attending an Academic High School Track by Gender を引用すると以下の通りです。日本でのスマホ禁止は今後進むのでしょうか?

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2024年5月 7日 (火)

「IMF世界経済見通し」アジア・太平洋編を読む

4月18日に「IMF世界経済見通し」を取り上げた後、5月3日には「OECD経済見通し」にも注目したのですが、IMF Blog のサイトで Asia's Growth and Inflation Outlook Improves, but Risks Remain と題して、アジア・太平洋の地域見通しを詳しく解説しています。まず、成長率見通しの総括表を IMF Blog のサイトから引用すると以下の通りです。

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見ての通りであり、今年2024年のアジア地域見通しは昨年2023年10月時点から+0.3%ポイント上方修正されて+4.5%と見込まれています。ただし、アジア先進国は▲0.1%ポイント下方修正されていて、情けなくも、我が日本の低成長が要因となっています。また、来年2025年も+4.3%の高成長が続くと予想されています。日本も、今年2024年の成長率をわずかに下方修正されたとはいえ、2024年+0.9%、2025年+1.0%の潜在成長率をやや上回る成長が期待されています。新興国や途上国の中の主要国では、インド、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどが+5%、あるいは、それを越える高成長と見込まれています。中国は今年来年とも+4%台の成長となるものの、今年については政策効果により成長率が上方修正されていて、アジア地域の成長率を押し上げる要因となっています。

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続いて、IMF Blog のサイトから Sources of growth のグラフを引用すると上の通りです。日本は別としても、アジア新興国、中国、インドについては純輸出がマイナスの寄与となる一方で、消費や投資といった内需が成長をサポートする形が見込まれています。

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続いて、IMF Blog のサイトから Uneven inflation outcomes のグラフを引用すると上の通りです。物価目標を超えているのが、ニュージーランド、おーすとらりあ、韓国の3か国で、日本をはじめとして、インド、フィリピン、インドネシア、ベトナムについては物価目標近傍と評価しています。ただ、タイについてはインフレ率は直近でマイナスを記録しており、物価目標を下回っています。シンガポールなど物価目標を持たないながら、+2~3%に収斂すると見込まれています。

このブログでも、"Global disinflation and the prospect of lower central bank interest rates have made a soft landing more likely, hence risks to the near-term outlook are now broadly balanced." 世界的なディスインフレと中央銀行による金利引下げの予想によってソフトランディングの可能性が高まっており、短期的な見通しに対するリスクは概ねバランスが取れている、と評価する一方で、"China's property market correction and geoeconomic fragmentation remain key risks." と、中国の不動産市場の修正と地経学的分断が引き続き主要なリスクである、と分析しています。

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2024年5月 6日 (月)

ステイケーションで終わったゴールデンウィークを振り返る

ゴールデンウィークの最終日も夕方になりました。今年のゴールデンウィークは、特に、お出かけもせずに近場に出歩いて、家でゴロゴロしてと、ステイケーション staycation で終わりました。
そもそも、世間一般のカレンダーでは前半3連休、平日3日をはさんで、後半4連休となっていて、平日3日に有給休暇を取れば10連休も可能、ということになっていましたが、私のような大学教員の場合、というか、私の勤務校では4月29日の昭和の日が祝日授業日でしたので、ゴールデンウィーク前半は3連休ではなく通常の週末で、お休みが続いたのは後半4連休だけでした。大学の場合、ハッピーマンデーからこの方、月曜日の祝日が増えて授業日数が不足す場合があるので、秋学期などは祝日は通常授業日になっているケースが多くなっています。ただ、例外はこのゴールデンウィークと成人の日です。その昔に「5月病」というのがありましたが、大学に入学したばかりの新入生に気遣い、ゴールデンウィークはたっぷり休めるように配慮しています。成人の日が重要であるのは大学生の年齢を考えれば当然です。ただ、コロナのころには成人式で帰省してはコロナ二罹患して大学に戻って来る学生が多かったのも事実です。
私自身はステイケーションでしたので読書が進みました。ただ、大学教員は教師であるとともに研究者ですので、学術論文もそれなりに読みました。まとまった自由時間ですので、英語の学術論文中心です。そのうちに、いくつかブログでも取り上げたいと思います。
仕事に関連する学術論文のほかは、ようやく、4月からスポーツジムでプールを再開したのですが、5月のゴールデンウィークになって1時間ほどかけて2,000メートル泳げるようになりました。40代のころには週末ごとに4,000メートル泳いでいましたし、関西に引っ越してきた最初のころは、京都のスポーツジムで、また、2年ほど前に大学近くに引越してからも、まだまだ3,000メートル泳ぐことができていましたが、昨年の交通事故で3か月近く入院を余儀なくされてから、1年余りを経過して4月からプールを再開して1,000メートルが、文字通り、アップアップでした。ようやく2,000メートル泳げるようになり、できれば、夏までには3,000メートルに伸ばせるようがんばりたいと思います。

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2024年5月 5日 (日)

近本選手の先制ツーランをリリーフ投手がしっかり抑えて何とか逃げ切る

  RHE
阪  神003000010 490
読  売000020000 290

一昨日と昨日に巨人に連敗した後、今日は何とか逃げ切って巨人に勝利でした。
序盤2回に近本外野手の先制ツーランと佐藤輝選手のタイムリーで3点を取った後、才木投手が5回に打ち込まれて2点を失いました。しかし、今日は6回から4人のリリーフ投手を注ぎ込んで巨人打線を抑え切りました。前川選手のダメ押しタイムリーの効果も抜群でした。8回スリーアウト目のサードファウルフライを全力で追いかけたゲラ投手を見て、内野手出身とはいえ、勝利にこだわる執念を見た気がしました。

明日の広島戦も、
がんばれタイガース!

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2024年5月 4日 (土)

今週の読書は経済書2冊と新書4冊の計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、カール・ウィンホールド『スペシャルティコーヒーの経済学』(亜紀書房)は国際資本の大企業に対抗する零細コーヒー農家の今後の方向を議論しています。森永卓郎『書いてはいけない』(フォレスト出版)は、ジャニーズの性的加害、財務省のカルト的財政均衡主義、日本航空123便の墜落事故の3つについて、日本のメディアの姿勢を問うています。室橋祐貴『子ども若者抑圧社会・日本』(光文社新書)は、支援や保護の対象としての子どもではなく、権利や人権を認められた子どもの存在を認める日本の民主主義について議論をしています。橘玲『テクノ・リバタリアン』(文春新書)は、自由のあり方について、イーロン・マスクやピーター・ティールを例にして議論しています。速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)は、婚活のひとつのツールでありながらアプリ世界に彷徨い続ける男女を取材した結果を取りまとめています。矢口祐人『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社新書)は、欧米先進国の大学に比較して極端に女子学生比率が低い東大の現状と歴史を考え、米国プリンストン大学の例から東大の学生の多様性について考えています。
ということで、今年の新刊書読書は1~3月に77冊の後、4月に26冊をレビューしています。5月に入って今週ポストする6冊を合わせて109冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。なお先々週にレビューした石持浅海『男と女、そして殺し屋』のシリーズ前作の2冊『殺し屋、やってます。』と『殺し屋、続けてます。』も読みました。この2冊は新刊書ではないので、このブログでは取り上げませんが、Facebookやmixiでシェアしたいと思います。

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まず、カール・ウィンホールド『スペシャルティコーヒーの経済学』(亜紀書房)を読みました。著者は、米国の大学を卒業しているので米国人だと思うのですが、長年経営コンサルティングとコーヒーの国際交易に携わり、現在はリスボン大学にて開発学の博士号を目指して研究中途のことです。よく判りません。英語の原題は Cheap Coffee であり、2021年の出版です。英語の原題からも理解できる通り、「スペシャルティコーヒー」はほとんど関係ありません。どうして、こういった邦訳タイトルをつけたのかは理解に苦しみます。なお、私はかつてピエトラ・リボリ『あなたのTシャツはどこから来たのか?』を読んだ記憶があるのですが、本書はフェアトレードに関係しつつも、フェアトレード一般の貿易ではなく、むしろ、コーヒー生産に関連する経済書・学術書といえます。国際的なバリューチェーンの中で、地域としては南米に焦点を当てて、零細なコーヒー農家がいかにして経営を成り立たせているか、しかし、その裏側で国際的な巨大企業に騙されて搾取されているかを赤裸々に追っています。年米でいえば、「バナナ・リパブリック」という表現がありますが、あるいは、漁業なども含めて、1次産業の零細な生産者が市場原理に名の下で巨大な先進国の企業から生産物を安く買い叩かれ、高額な種子などを買わされ、十分な利益があげられずに、ほとんど開発に寄与しない農業を営んでいる、という実態があります。巨大国際企業とは資本力も交渉力もケタ違いで、いいなりになるしかない場合もあれば、零細農家の方で十分な理解がなく、正しく効率的な経営行動を取れていない場合も少なくありません。技術的に、日なた栽培と日陰栽培の違い、あるいは、ウェットパーチメントを1週間かけて乾かしてドライパーチメントにしたほうが付加価値が高くなるのは理解するとしても、それだけの期間をかけてリスクを取れる農家がどれだけあるのかも理解が進んでいません。でも、零細農化が組合を結成して生産量のロットを上げ、交渉力を向上させるというのは、あるいは、独占の形成を促すとみなされるとしても、国際企業との対抗上許容されるような気もします。大昔のようなプランテーション農場での奴隷労働はもうなくなったとはいえ、大規模土地所有制での零細な小作農や自作農であるとしても零細規模の農家の問題はまだまだ解決されているとは思えません。本書の視点は南米に中心がありますが、コーヒーということになれば、本書でも指摘しているように、インドネシアはもちろん、ベトナムでの栽培も無視できませんから、アジアの問題でもあります。コーヒーというのはもはやエキゾチックな飲み物ではなく、日本でも一般的に広く受け入れられているわけですから、自分自身の身近な問題として考える機会が与えられたように感じます。

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次に、森永卓郎『書いてはいけない』(フォレスト出版)を読みました。著者は、エコノミストとしてメディアへの露出も多いのですが、昨年2023年12月にステージ4のがん告知を受けています。ということで、前著の『ザイム真理教』のラスト、最後のあとがきに私は衝撃を受けました。すなわち、『ザイム真理教』のpp.189-90のパラ4行をそのまま引用すると、「本書は2022年末から2023年の年初にかけて一気に骨格を作り上げた。その後、できあがった現行を大手出版社数社に持ち込んだ。ところが、軒並み出版を断られたのだ。『ここの表現がまずい』といった話ではなく、そもそもこのテーマの本を出すこと自体ができないというのだ。」ということで、本書はその意味で続編となります。本書で取り上げているのは、ジャニーズの性的加害、財務省のカルト的財政均衡主義、日本航空123便の墜落事故の3つが、メディアでは決して触れてはいけないタブーになっている点であり、著者はこれに危機感を抱いています。加えて、日本経済墜落の真相も4章で軽く言及されています。まず、ジャニーズの性的加害については、一応、メディアに現れるようになりましたが、民主主義国家として考えられないようなメディアコントロールの下における茶番ともいえる記者会見の実態が報じられた後、ハッキリいって、真相解明や再発防止などが進んでいるとはとても思えません。財務省の財政均衡主義については前著でかなり詳細に取り上げていましたので、省略するとしても、役所全体の無謬主義や国民生活からかけ離れた政策遂行などとも考え合わせる必要を強く感じました。しかし、本書で何よりも私が衝撃を受けたのは1985年の日本航空123便の墜落事故の真相です。この日航機事故は、その前のいわゆる尻もち事故の後に、ボーイング社の不適切・不十分な修理のために後部の隔壁の強度が不足していたことが原因、と私のようなシロートは認識していました。でも、本書で著者は、おそらく、自衛隊機が非炸薬ミサイルを誤射して日航機の後部を損壊させて墜落させた上で、その証拠隠滅のために特殊部隊が現場を火炎放射で焼き払った、との見方を示しています。ここまで来ると、私には判断のしようがありません。そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。でも、こういった主張をメディアで封じ込めるのは民主主義国家としては許容できないと考えます。最後に、やや3大テーマから見ればオマケ的な扱いなのですが、バブル経済の発生とバブル崩壊後の日本経済の大失速については、まず、バブル経済発生の原因は日銀の窓口指導と指摘しています。なぜなら、低金利と財政拡大が原因であるなら、最近まで続いた財政金融政策でもバブルになっていた可能性が高いのに、そうなていないからである、という点を強調しています。そして、金融緩和による金融機関の体力に応じた後処理ではなく、不良債権の処理というハードランディングを選択した結果としてバブル崩壊後の不況が長引いた、と主張しています。私はこの点は不明ながら、直感的には少し違っていると感じています。バブルの発生とバブル後の不況は、緩和的な金融政策がバブル経済を発生させ、バブル崩壊後の金融緩和が不足していたから、と考えています。

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次に、室橋祐貴『子ども若者抑圧社会・日本』(光文社新書)を読みました。著者は、若者の意見を政治に反映させる「日本若者協議会」を設立して代表理事として活動しているそうです。本書では、日本の民主主義の一つの弱点となっている若者の意見、特に年少の子供に対する抑圧的な見方に異議を唱えています。すなわち、被選挙権が25歳とか、30歳とかとほかの先進各国に比べて非常識なくらいに高く、若者の政治意識や参加意識がとても低いことの原因になっている可能性があると、私も考えています。例えば、ここ数日で広く報道されているように、中東ガザにおけるイスラエルの残虐行為についても、欧米先進国の大学などでは広範な反対意見を表明するデモなどが行われていますが、我が国ではそういった意見表明は、少なくとも、報じられていません。米国UCLAの抗議デモをNHKニュースで見かけましたが、私の母校である京都大学なんて、こういったケースでは先頭に立って意見表明する方だったのですが、鳴りを潜めているのか、それともメディアに無視されているのか、一向に国民には伝わってきません。本書のタイトルである子どもに付いて着目しても、日本ではホンのつい最近まで、子どもは従順な性格がよいとされ、親のいうことをよく聞く子が称賛の対象になっているくらいでした。パターナリズムの考えの下で支援や保護の対象とみなされていました。子どもの人権や権利なんてまったく無視され、ブラック校則で縛られていて、運動部は丸刈りの坊主頭が少なくなかったわけです。最近になって、甲子園大会に出場する高校野球の部活でも長髪が一部に見られるようになったりし始めていますが、子どもの学校活動などへの参画は遅れたままです。本書はそういった日本の学校教育における子どもの権利や人権の軽視ないし無視は、1969年の文部省の通達に起因すると説き、欧米先進国における民主主義教育、子どもの権利を尊重する取組み、などなどを紹介しています。大学教育に携わる身として、子どもや若者の成長のために、ひいては、日本の民主主義のために重要なポイントであると受け止めています。加えて、子供だけでなくジェンダー的に考えて女性など、支援や保護の対象の色彩強く見なされているグループにも適用され得る部分が少なくないと感じます。

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次に、橘玲『テクノ・リバタリアン』(文春新書)を読みました。著者は、文筆家なんだろうと思います。著作業ともいえるかもしれません。私も何冊か著書を読んだ記憶があります。小学館新書の『上級国民/下級国民』とかです。本書では、PART0から4までと、最後にPARTXの構成となっていて、正義に関する見方として、リベラリズム、リバタリアン、功利主義(たぶん、ユーティリタリアニズム)、共同体主義(たぶん、コミュニタリアニズム)の4類型を示しています。p.34で図示されている通りです。そして、日本的なリベラルというのは、世界的なグローバススタンダードのリベラルではなくサンデル教授のようなコミュニタリアン左派であると論じています。日本的リベラルではなく、世界的なリベラルはくまで自己責任で自由に生きる個人、ということになります。そして、その4類型の思想の道徳的な基礎がp.44に図示されています。これらの両方の概念図で、本書のテーマであるテクノ・リバタリアンはリバタリアニズムと功利主義の重なった部分を占める、との理解を示しています。逆にいえば、テクノ・リバタリアンはリベラリズムやコミュニタリアニズムとの接点はないといえます。そして、そのテクノ・リバタリアンにとても近いのがネオリベということになります。加えて、本書ではこのテクノ・リバタリアンを体現しているのがイーロン・マスクとピーター・ティールと指摘しています。PART1でその2人について生い立ちから含めて人物像を明らかにしていまう。PART2ではクリプト・アナキズムを、まさに、ビットコインなどに代表されるように国家に依存しない貨幣発行とも関連づけ、原理主義的なリバタリアニズムとして浮き彫りにしています。PART3では逆に総督府功利主義に着目しています。まさに、中国的な監視社会を典型的な総督府功利主義と私は考えていたのですが、本書の理解は少し違っていた気がします。いずれにせよ、本書んテーマは原理的な自由に関する考え方です。そこには、私が従来から指摘しているように、民主主義的な平等の下での自由と資本主義的な何らかの不平等を許容する自由の2種類があると私は考えています。私は完全は平等を主張するつもリはありませんが、不平等が社会的に許容できる範囲で、すべての国民が個人として尊重される経済社会における自由が追求されるべきと考えます。逆からいえば、テクノ・リバタリアンの見方とはかなり異なります。はい。それは自覚しています。

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次に、速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)を読みました。著者は、新聞記者の経験もあるジャーナリストです。本書の取材のために、実際にいくつかのマッチング・アプリに登録して、「婚活」のような活動をしているようです。ということで、マッチング・アプリとは、私のような高齢既婚者はお呼びでないのでしょうが、SNSのような感覚で相手のプロフにlikeを押して、アプリ内のメッセージ機能を使ってコミュニケーションを取り、さらに進めば実際にお茶や食事をごいっしょする、という形で進む婚活目的のアプリです。しかし、実際には、一昔前にはやった「出会い系」と同じでヤリモクの人も混じっていることは否定のしようがありません。そして、本書のタイトルに即していえば、婚活の最終目的である結婚にたどり着くことなく、延々とマッチング・アプリを使って婚活を続けている症状を指しています。出版社のサイトでは「アプリ世界に彷徨い続け、婚活より自己肯定感の補完にハマり抜け出せなくなってしまった男女を扱う」ということらしいです。ただ、私自身としてはマッチング・アプリにはそれ相応の肯定的な面もあることは事実だと受け止めています。例えば、米国の世論調査機関であるPew Research Centerの調査によれば、婚活目的のマッチング・アプリというよりも、恋人探しやカジュアルな出会いを求めてのオンラインデートも含めて、また、アプリだけでなくサイトの利用も含めて、米国人成人の30%、男性の34%、女性の27%に使用経験があり、とくに、18-29歳の若年層では53%と過半に達しています。ただ、日本では評価が違うのは当然です。特に、男性ではマズロー的な承認欲求が強いのではないか、と私は本書を読んでいて感じました。女性についても、ほとんど用語としては現れませんが、お見合いもマッチング・アプリも同じで「高望み」というのが透けて見えるような気がします。お見合いの場合は、然るべき年長者のアドバイスが有益な場合もあるのでしょうし、もちろん、まったく無益なアドバイスもいっぱいあるのでしょうが、マッチング・アプリではすべてを自分で判断するツラさのようなものがありそうに感じました。また、婚活は就活と似た面があります。私は役所を60歳で定年退職した後の再就職で強く感じましたし、学生諸君の就活でも同じことですが、プロ野球の優勝争いではないのですから、まあ、勝ち負けではないとしても、勝率を競う必要はまったくありません。就活も婚活も1勝すればいいというのは忘れるべきではありません。その1勝が遠いのが本書でいうマッチング・アプリ症候群であるのは理解しますし、期限がある学生の就活と違って、無期限ではないとしても期限が緩い婚活は時間をかける場合があるのも理解しますが、就職も結婚もとても長期に及ぶ関係性についての決断ですから、言葉は悪いかもしれませんが、ギャンブルの要素はなくならないのではないか、という気がします。最後に、どうでもいいことながら、マッチング・アプリからはかなり豊富なデータが取れます。私のようなマクロ経済学が専門のエコノミストはダメなのですが、選択を考えるミクロ経済学の観点から、ビッグデータの一種として、とても重宝するデータと見なしている人もいます。ウッダーソンの法則なんてのも有名になりました。

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次に、矢口祐人『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社新書)を読みました。著者は、東大の研究者、副学長だそうです。名前からして男性ではないか、と私は受け止めています。本書でも指摘しているように、まず、事実関係として、東大は、私の母校である京大もそうですが、女子学生の比率がわずかに20%ほどと、学生の性別比率に極端に差があります。教員についても性別で差があります。しかも、現在でもサークルの中には、他大学女子学生は受け入れるのに、東大生女子は受け入れないものもあるらしいです。これには、私もびっくりしました。本書では、東大のそういった現状について分析するとともに、歴史的に戦前史をひも解き、戦後史も明らかにしています。東大は、よく知られているように、終戦までは東京帝国大学で女子の入学を認めていませんでした。配線とともに占領軍の指示で女子学生を受け入れるようになったわけです。当然、トイレなどのインフラはまったく未整備で、そういった事情も本書で明らかにしています。そして、米国アイビーリーグの名門校のプリンストン大学をケーススタディしています。すなわち、プリンストン大学が女子学生を受け入れ始めたのは1969年と東大よりも遅く、ご同様に、1991年まで女性の入会を認めないイーティング・クラブが存在しましたが、約40年かけて2010年には女子学生比率は50%に達しています。その2倍の80年近くかけて、いまだに20%ほどの東大とは差があるわけです。また、学生レベルだけでなく、2001年には女性が学長に就任したりもしています。そして、本書ではプリンストン大学が経営方針として共学化を開始し、女子学生受入れを積極的に進めた点を強調しています。要するに、東大でも、もちろん、我が母校の京大でもやれば出来るんではないか、というわけです。ただ、これも明らかな通り、東大だけで女子学生比率を上昇させることは限界があるような気がします。日本の国として、教育界全体として考えるべき要素も無視できません。そして、本書の第5章では東大のあるべき姿、として、女子学生雨の比率上昇のためのクオータ制の導入などについても検討されています。私の従来からの主張として、日本経済の大きな弱点は女性の管理職などへの登用が決定的に欠けていることであり、このポイントを理解せねばなりません。そして、経済面で女性の活躍が不足しているひとつの原因は大学における、特に、東大や京大といったトップ校における女性比率の低さも考えねばなりません。

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2024年5月 3日 (金)

4月統計に見る米国雇用の過熱感は和らぎつつあるか?

日本時間の今夜、米国労働省から4月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の4月統計では+175千人増となり、失業率は前月から△0.1%ポイント上昇して3.9%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を中見出しを除いてやや長めに6パラ引用すると以下の通りです。

Jobs report today: Employers added 175,000 jobs in April, unemployment rises to 3.9%
U.S. payroll growth slowed substantially in April as employers added 175,000 jobs amid high interest rates and stubborn inflation, while average pay increases fell to a three-year low.
The unemployment rate rose from 3.8% to 3.9%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 250,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
Employment gains for February and March were revised down by a total 22,000, and the report portrays a broadly cooling labor market that should be welcomed by a Federal Reserve seeking to curtail high inflation.
Average hourly pay rose 7 cents to $34.75, pushing down the yearly increase from 4.1% to 3.9%, lowest since June 2021.
Wage growth has slowed as pandemic-related labor shortages have eased, but it's still above the 3.5% pace Federal Reserve officials say would align with their 2% inflation goal.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ようやく、というか、何というか、ひとつの目安とされる+200千人を下回りました。引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+250千人の雇用増を見込んでいましたので実績はやや下振れました。同時に、雇用統計の中では遅行指標とはいえ、心理的な影響も見逃せない失業率についても、わずかに0.1%ポイントとはいえ上昇しました。加えて、引用した記事にもあるように、2月と3月の統計における非農業部門雇用者の増加幅も下方修正されています。過熱感の強かった米国の雇用統計もようやく峠を超えたように見えます。
当然ながら、賃金の伸びも同時に過熱感が和らぎつつあります。これも、引用した記事の最後のパラにあるように、平均時給は34.75ドル、前年同月比上昇率は3月の+4.1%から4月には+3.9%まで伸びが縮小しています。+2%のインフレ目標に相当する賃金上昇率は+35%と考えられており、まだ上回っているものの、徐々に近づいていることも確かです。
ということで、下のグラフは米国の時間あたり賃金と消費者物価指数のそれぞれの前年同月比上昇率です。賃金の最新月は雇用統計と同じ4月ですが、消費者物価はまだ4月の統計は公表されておらず、最新月は3月です。

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「OECD経済見通し」を読む

日本時間の昨夜、経済協力開発機構(OECD)から「OECD経済見通し」OECD Economic Outlook, May 2024 が公表されています。OECD閣僚理事会の開催に合わせての公表です。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、プレスリリース資料から見通しのヘッドラインである成長率見通しの総括表 GDP growth projections を引用すると上の通りです。見れば明らかな通り、インドやインドネシアなどのアジア新興国が世界経済を牽引して、世界の成長率は今年2024年+3.1%、来年2025年+3.2%と見込んでいます。インフレ抑制のための金融引締めといった経済要因だけでなく、ウクライナ戦争やガザをはじめとする中東における緊張の高まりを考慮すれば、現在までのところ世界経済は驚くほどレジリエントである global activity has proved surprisingly resilient so far と評価しています。今回の見通しの副題は An unfolding recovery とされていて、まさにその通りです。ただし、先進各国について詳しく見ると、今年2024年については米国こそ高成長が見込まれているものの、欧州諸国や日本は物価高や物価抑制のために金融引締めにより+1%を下回る低成長が予測されています。しかし、来年2025年になれば逆に、米国経済がやや減速する一方で、日欧は成長率を高め+1%、あるいは少し+1%を超える成長率になるとの見通しになっています。

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続いて、最大の注目ポイントである物価の見通しについて、プレスリリース資料から インフレ見通し Inflation projections のグラフを引用すると上の通りです。大雑把に、今年2024年から来年2025年にかけて物価上昇は落ち着く方向にあると見込まれています。もっとも、OECD加盟国平均では、2024-25年とも+3%を超えるインフレ率になると予想されています。ただし、G7を構成する日本や欧米先進国はおおむね+2%のインフレ目標の周辺でアンカーされることが見込まれています。景気後退に陥ることなくインフレ抑制に成功するという意味で、典型的なソフトランディングにパスに乗っているように見えます。

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続いて、先行きリスクとして、プレスリリース資料から 地政学的な緊張の高まり Geopolitical tensions put the recovery at risk のグラフを引用すると上の通りです。左のパネルは石油価格上昇のリスク、そして、右のグラフはその石油価格上昇に起因するインフレのリスクです。ほかに、政策課題として人工知能の活用による生産性の向上なども議論されています。下のグラフはプレスリリース資料から 人工知能(AI)が経済パフォーマンスを大幅に向上させる可能性 Artificial intelligence (AI) can yield large performance gains です。ご参考以上のものとは思えませんが、あくまで、ご参考まで。

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2024年5月 2日 (木)

物価高でマインド悪化を示す4月の消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から4月の消費者態度指数が公表されています。4月統計では、前月から▲ 1.2ポイント低下し38.3を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数4月は1.2ポイント低下の38.3、7カ月ぶりマイナス
内閣府が2日に発表した4月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は38.3で、前月から1.2ポイント低下した。同指数が前月から低下するのは7カ月ぶり。
指数を構成する4つの意識指標は、全て前月比でマイナスとなった。耐久消費財の買い時判断が2.2ポイント、暮らし向きが1.4ポイント、雇用環境が0.8ポイント、収入の増え方が0.4ポイントそれぞれ低下した。
内閣府は消費者態度指数の基調判断を「改善している」で据え置いた。
1年後の物価が「上昇する」との回答比率は前月から0.6ポイント増加し93.0%で、4カ月連続で上昇した。

的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数は今後半年間の見通しについて質問するものであり、4項目の消費者意識指標から成っています。4月統計では、引用した記事にある通り、前月からすべての指標において下降しており、「耐久消費財の買い時判断」が▲2.2ポイント下降して31.8、「暮らし向き」が▲1.4ポイント下降して36.1、「雇用環境」が▲0.8ポイント下降し44.2、「収入の増え方」も▲0.4ポイント下降し41.1となっています。消費者態度指数は、昨年2023年10月統計から6か月連続の上昇を記録した後、4月統計で7か月ぶりに下降しています。引用した記事にもある通り、物価改定が集中した4月の特性が出ている可能性があります。帝国データバンクによる「食品主要195社価格改定動向調査」の「半年ぶりの値上げラッシュ」の指摘通り、という気もします。ただし、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善している」に据え置いています。
引用した記事の最後のパラにあるように、高めの物価上昇率を見込む割合が高まっています。すなわち、今年2024年に入ってからの統計を見ると、+2%以上+5%未満の上昇を見込む割合は、1月36.1%、2月37.5%、3月38.3%の後、4月統計では35.6%と、高い水準で推移しており、+5%以上の物価上昇を予想する割合は1月38.4%、2月37.7%、3月40.8%に次いで、4月には44.0%に達しました。日本経済研究センターのESPフォーキャストに示されたエコノミストの見方では、先行き物価上昇率は縮小していき、来年2025年年央には日銀物価目標の+2%を下回ると見込まれているのですが、一般消費者のマインドは必ずしもそうなっていません。繰り返しになりますが、食品をはじめとする値上げが4月に相次いだことがマインド低下につながった可能性は十分ある一方で、エコノミストの予想通りに物価上昇率が縮小していけば、消費者マインドも反転して改善に向かうことが期待されます。

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2024年5月 1日 (水)

インテージによるゴールデンウィークに関する調査結果やいかに?

すでに、一昨日のうちに今年2024年のゴールデンウィークの前半が終了しましたが、遅ればせながらで、先週の4月23日に、インテージによるゴールデンウィーク調査の結果が明らかにされています。まず、ポイントを5点インテージのサイトから引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • ゴールデンウィーク(GW)予算は平均27,857円で横ばい。増加、減少の理由はともに「物価高・円安」が上位
  • 物価高や円安のGWへの影響、「かなり影響する」「やや影響する」を合わせると63.4%
  • 近々給料が「増える」との回答は16.9%。ただし給料増の人もGWの予算は半数が「変わらず」と財布のひも固く
  • 予定TOP3は「自宅で過ごす」「外食に行く」「ショッピングに行く」。上位は昨年同様もショッピングは大幅減
  • 「国内旅行」、「海外旅行」ほぼ増えず。ただし国内予算は平均81,310円で昨年(71,809円)より約1万円増加

エコノミストとして、ご予算に関する調査結果を中心に、グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから GWにかける予算(平均)過去3年との比較 を引用すると上の通りです。今年2024年の予算増加の理由としては、「外出や人に会う機会が増えるから」というディマンド・プルの要因が33.3%でもっとも高く、次いで、「物価高・円安だから」というコスト・プッシュの要因が31.9%に上っています。カレンダー要因もあり、評価は人によって違うのでしょうが、今年のGWは3連休の週末の後、平日が3日はさまって、もう一度4連休の週末となりますから、やや連続した休みが取りにくい気もします。

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続いて、インテージのサイトから 物価高や円安は、GWの予定にどの程度影響(予算を減らしたり行動を控えたり)するか を引用すると上の通りです。物価高や円安が今年のGWにかける予算への影響の質問については、「かなり影響する」と「やや影響する」を合わせて63.4%でした。まあ、当然影響するのだろうと思います。グラフは引用しませんが、財源についてもインテージでは質問しており、GWの予算が「増えそう」と回答したのは給料が増える人で33.7%に上っていて、給料が変わらない人や減る人に比べて、当然ながら、高い比率になっています。

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続いて、インテージのサイトから 国内旅行予算(平均)昨年との比較 を引用すると上の通りです。「海外旅行」の回答はコロナ禍前の2019年には1.7%だったのですが、2023年0.8%、2024年1.0%と半分近くに減少していて、少し参考にはしにくい気がします。国内旅行については、宿泊なしも含めれば、2022年12.4%、2023年14.4%から2024年は15.6%までジワジワと増加を示しています。その予算も上のグラフの通り、昨年2023年の71,809円から今年は81,310円に10,000円近く跳ね上がっています。ただし、予算増の見通しについても、前向きな回答がある一方で、宿泊費の値上げや物価高に関する理由も少なからず上げられています。

私も場合は、今週の月曜日のように、祝日でありながら授業日に割り振られていたりして、なかなか遠出することが難しいのですが、後半4連休のお天気はよさそうですし、近場でゴールデンウィークを楽しみたいと思います。

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