予想に反して減産となった鉱工業生産(IIP)と順調に伸びを続ける商業販売統計と改善が鈍化している雇用統計
本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも4月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.4%増の13兆5290億円を示し、季節調整済み指数は前月から+1.2%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を▲0.02ポイント下回って1.26倍となっています。まず、日経新聞ほかのサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。
4月の鉱工業生産、0.1%低下 市場予想下回る
経済産業省が31日に発表した4月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は101.6となり、前月から0.1%下がった。上昇を見込む声が多かった民間予測に反して2カ月ぶりのマイナスとなった。米航空機大手ボーイング社製の小型機の運航停止や減産の影響で輸送機械工業が低下したのが響いた。
QUICKがまとめた事前の民間エコノミスト予測の中央値は前月比1.2%上昇だった。基調判断は「一進一退ながら弱含み」と前月から据え置いた。
全15業種のうち7業種で低下した。航空機用機体部品などの輸送機械工業が前月比13.4%のマイナスだった。ボーイング社製の小型機の運航停止を受け、日本企業も受注や生産が減った。一般用蒸気タービンやコンベヤといった汎用・業務用機械工業は3.2%下がった。
上昇した8業種のうち、半導体製造装置や機械プレスの生産用機械工業は4.1%上がった。台湾や中国といった海外向けの生産が堅調だった。金属製品工業は6.4%伸びた。自動車部品のばねの生産が戻りつつある。
主要企業の生産計画から算出する予測指数は5月に前月比で6.9%の上昇を見込む。企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省による補正値は2.3%の上昇となっている。6月の予測指数は5.6%のマイナスとなった。
ボーイングは24年1月、小型機「737MAX」が飛行中に胴体に穴が開く事故を起こした。4月には中型機「787」の製造品質に不備があるとの内部通報があり、米連邦航空局(FAA)が調査に乗り出したことが明らかになっている。
経産省の担当者は、機体部品への「影響がどのくらい続くかは不透明だ」と言及した。
小売業販売額4月は前年比2.4%増、ドラッグストア好調や値上げで
経済産業省が31日に発表した4月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.4%増だった。医薬品・化粧品・機械器具などの伸びで26カ月連続のプラスとなった。ロイターの事前予測調査では1.9%の増加が予想されていた。
業種別の前年比は、機械器具が9.2%増、無店舗小売り6.3%増、医薬品・化粧品が6.0%増、飲食料品1.7%増など。ドラッグストアでの調剤や家庭用品販売が好調だったほか、エアコンやスマートフォンの販売も増えた。値上げの影響で、飲食料品の販売も膨らんだ。
一方、織物・衣服は天候不順の影響で1.0%減。自動車販売も、メーカーの生産停止が響き7.9%減と落ち込んだ。
業態別の前年比は、百貨店8.3%増、スーパー1.1%増、コンビニ0.3%増、家電大型専門店3.5%増、ドラッグストア6.2%増、ホームセンター0.8%増。
4月の求人倍率、1.26倍に低下 失業率は2.6%で横ばい
厚生労働省が31日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.26倍で、前月と比べ0.02ポイント低下した。賃上げへの期待から新規の求職件数は増えたが、物価高や円安の影響で求人を控える動きが目立った。総務省が同日発表した4月の完全失業率は2.6%で前月から横ばいだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人に対し、1人あたり何件の求人があるかを示す。4月の有効求人数は1.3%減の240万379人、有効求職者数は0.3%減の203万4156人だった。3月は求職者数が減り求人倍率が16カ月ぶりに上昇したが、再び低下に転じた。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月と比べ2.3%減った。産業別にみると、製造業で7.8%減、宿泊・飲食サービス業で6.3%減とマイナスが目立った。
製造業では物価高や円安による原材料費の高騰が収益を圧迫し、新規の採用を抑制する動きが出た。宿泊・飲食サービス業は前年の新型コロナウイルスの5類移行を前に、観光需要増を見据えて求人数が伸びた反動があった。
新規求職申込件数は前月と比べ5.2%増えた。厚労省によると、物価の上昇で生活コストが膨らみ、掛け持ちの仕事を探す傾向がみられた。今後の賃上げを期待して転職を希望する動きもあった。
とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
まず、引用した記事にはある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で+1.2%の増産でしたので、実績の前月比▲0.1%の減産は、大きく下振れした印象です。しかしながら、引用した記事にもある通り、ボーイング社製の運航停止や減産というイレギュラーな要因が大きく影響した結果であることから、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、1月に下方修正した「一進一退ながら弱含み」を本日公表の4月統計でも据え置いています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の5月は補正なしで+6.9%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+2.3%の増産となっていますが、明日から始まる6月は▲5.6%の大きな減産と見込まれています。しかし、この製造工業生産予測指数を製造工業以外に単純に当てはめると、4~6月期の生産は前期比プラスとなりますから、GDPもプラス成長の可能性が十分あります。鉱工業生産に戻って、経済産業省の解説サイトによれば、4月統計での生産は、引用した記事にもある通り、自動車工業を除く輸送機械工業の落ち込みが大きく、前月から▲13.4%の減産、寄与度▲0.42%となっています。加えて、汎用・業務用機械工業で▲3.2%の減産、寄与度▲0.24%、電気・情報通信機械工業も▲2.4%の減産、寄与度▲0.20%となっています。他方、増産は、生産用機械工業が+4.1%の増産、寄与度+0.37%、金属製品工業も+6.4%の増産、寄与度+0.25%、無機・有機化学工業が+5.6%の増産で、寄与度+0.24%などとなっています。
続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の4月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.5%の上昇となりましたので、1月統計から引き下げられた「一進一退」で据え置かれています。ただ、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、4月統計ではヘッドライン上昇率が+2.5%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.2%と、前年同月比で+2%台のインフレですので、小売業販売額の4月統計の+2.4%の前年同月比での増加は、インフレ率ギリギリとなっていて、実質的な消費はほとんど伸びていないと考えるべきです。加えて、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性が否定できません。引用した記事にもある通り、百貨店販売の伸びがスーパーなどよりも大きくなっている点にインバウンド消費が現れている気がします。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。なお、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から横ばいの1.28倍と見込まれていました。ジャストミートした失業率はともかく、有効求人倍率の予測レンジは±0.01倍でしたので、わずかに0.01とはいえレンジ加減を下回ったことになります。しかし、いずれにせよ、人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率も有効求人倍率もともに水準が高くて雇用は底堅い印象ながら、4月統計に現れた雇用の改善は鈍い、と私は評価しています。あるいは、そろそろ景気回復局面が最末期に近づいているのかもしれません。先進各国が景気後退に陥らないソフトランディングのパスに乗っているにもかかわらず、我が国の雇用の改善が緩やかな印象を持つのは私だけではないと思います。加えて、5月20日の経団連のプレスリリースによれば、経団連加盟企業の賃上げが昨年の+3.88%から今年2024年は+5.58%と、引き続き順調な賃上げとなっているとはいえ、大手が名を連ねる経団連加盟企業だけでなく、中小企業の賃金動向も注目です。
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