« ピーターソン国際経済研究所(PIIP)によるトランプ候補の財政提案の分析やいかに? | トップページ | 5月の消費者態度指数は2か月連続で下降し基調判断が下方修正される »

2024年5月28日 (火)

+2.8%の大きな上昇となった4月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から4月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からさらに加速して+2.8%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同様に+2.7%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、4月2.8%上昇 実質32年ぶり伸び
日銀が28日発表した4月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は111.9と、前年同月比2.8%上昇した。幅広い分野で人件費上昇を価格に反映する動きがあり、伸び率は3月(2.4%)から0.4ポイント拡大した。
プラス幅は消費税引き上げの影響があった15年3月(3.1%)以来で、同影響があった期間を除くと1991年9月(3.2%)以来32年半ぶりの大きさとなった。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。例えば貨物輸送代金や、IT(情報技術)サービス料などで構成される。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
内訳をみると、幅広い分野で4月の価格改定で人件費上昇などを転嫁する動きがみられた。機械修理は部品価格や人件費の上昇を転嫁する動きで前年同月比で5.5%上昇した。教育訓練サービスでは対面型のもので人件費と会場利用料の上昇があり、3月(0.8%)から伸び率が5.9ポイント拡大し、6.7%上昇した。
情報通信も前年同月比で2.2%上昇した。日銀によると、システムエンジニア(SE)職の賃上げを反映する動きが中心だったが、4月からは他の職種にも広がりがみられたという。
宿泊サービスはインバウンド(訪日外国人)を含む人流回復が寄与し、前年同月比22.3%上昇したが、3月(28.6%)から縮小した。23年4月に観光促進策「全国旅行支援」の割引の縮小で伸び率が拡大していた反動とみられる。
外航貨物輸送は前年同月比16.7%上昇した。需要減退や燃料費下落があった23年の反動で海運相場が上昇した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で4月に上昇したのは113品目、下落は18品目だった。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、とてつもなく長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。ただし、指数の基準年が異なっており、国内企業物価指数は2020年基準、企業向けサービス価格指数は2015年です。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

photo

上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速は終了し、2022年12月から指数水準として120前後でほぼほぼ横ばいとなっていて、直近で利用可能な4月統計でも121.2となっています。したがって、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は4月統計で+0.3%にとどまっています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてまだ上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、今年2023年8月から+2%台まで加速し、本日公表された4月統計では+2.8%に達しています。9か月連続で+2%台の伸びを続けている上に、消費税率の引上げ時期を別にすれば1991年以来32年ぶりの上昇幅ということになります。+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があるとは思いますが、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、その物価目標の+2%から大きく離れているわけではないことも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。すなわち、年度始まりの4月の価格改定に適した時期に人件費上昇分などを転嫁する動きが見られた、ということではないかという気もします。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて4月統計のヘッドライン上昇率+2.8%への寄与度で見ると、土木建築サービスや機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+1.31%ともっとも大きな寄与を示しています。コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方です。結果的に、ヘッドライン上昇率+2.8%の半分近くを占めています。また、引用した記事にもある通り、インバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で+22.3%と、3月統計から上昇幅が縮小したとはいえ、依然として高い上昇率です。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や外航貨物輸送や道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.55%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.49%、のプラス寄与となっています。

最後に、日本政策投資銀行のリポート「『強欲インフレ』にみる賃上げへの期待」にも見られるように、2023年中の日本のGDPデフレータの上昇はほぼほぼすべてが企業収益要因であって、賃金要因はゼロに近い点は忘れるべきではありません。賃上げが価格に転嫁されているのではなく、企業の収益増を支える価格上昇と考えるべきです。すなわち、日本国内のホームメードインフレーションは賃上げが原因なのではなく、企業が収益を伸ばす「強欲インフレ」(Greed-flation) なのです。

|

« ピーターソン国際経済研究所(PIIP)によるトランプ候補の財政提案の分析やいかに? | トップページ | 5月の消費者態度指数は2か月連続で下降し基調判断が下方修正される »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ピーターソン国際経済研究所(PIIP)によるトランプ候補の財政提案の分析やいかに? | トップページ | 5月の消費者態度指数は2か月連続で下降し基調判断が下方修正される »