2か月ぶりの赤字を記録した4月の貿易統計と基調判断が上方修正された3月の機械受注をどう見るか?
本日、財務省から4月の貿易統計が、また、内閣府から3月の機械受注統計の結果が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+8.3%増の8兆9807億円に対して、輸入額は+8.3%増の9兆4432億円、差引き貿易収支は▲4625億円の赤字を記録しています。機械受注については、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+2.9%増の9130億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
4月の貿易収支、4625億円の赤字 2カ月ぶり
財務省が22日発表した4月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4625億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶり。赤字幅は前年同月に比べて7.6%増加した。
輸入額は9兆4432億円で前年同月に比べ8.3%増えた。2カ月ぶりに増加した。輸出額は8兆9807億円と8.3%増え、5カ月連続の増加となった。いずれも4月としては過去最高だった。
資源高や円安で原油などの輸入額が膨らんだ。品目別にみると原油は1兆64億円で13.1%増えた。航空機類や電算機類も伸びた。石炭が4003億円で22.5%減だった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり85.7ドルと前年同月から2.6%上がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万1719円と17.7%上昇した。
地域別では米国が1兆1143億円で29.0%増、アジアが4兆4081億円で10.3%増えた。
輸出は米国向けのハイブリッド車など自動車が1兆5824億円で17.8%増加した。半導体等製造装置や半導体等電子部品も増えた。
地域別にみると米国が1兆8027億円で8.8%増、アジアが4兆7139億円で9.7%増だった。
4月の貿易収支は季節調整値でみると5607億円の赤字となった。赤字幅は前月比17.8%縮小した。輸入は0.5%減の9兆4032億円、輸出が0.9%増の8兆8425億円だった。
機械受注、4四半期ぶりプラス 1-3月4.4%増
内閣府が22日発表した1~3月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比4.4%増の2兆6236億円だった。プラスは4四半期ぶりとなる。製造業、非製造業ともに発注が増えた。
船舶と電力を除く非製造業は6.8%増で2四半期連続のプラスを確保した。製造業も0.9%増で3四半期ぶりに増加した。
内閣府は全体の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。2月までの判断は「足元は弱含んでいる」だった。上方修正は2022年4月以来、1年11カ月ぶりとなる。
発注した業種ごとにみると船舶と電力を除く非製造業では、鉄道車両が押し上げて運輸業・郵便業が7.1%増えた。汎用コンピューターなどの電子計算機が増えて情報サービス業も11.0%プラスだった。
製造業では「電気機械」が27.7%プラスだった。汎用コンピューターや半導体製造装置などが増えた。「情報通信機械」は53.7%、「その他輸送用機械」は22.1%それぞれ増加した。
3月末時点の4~6月期の受注額見通しは前期比1.6%減だった。見込み通りなら2四半期ぶりのマイナスとなる。製造業、非製造業ともに減少する。
見通しは企業から聞き取った受注額に、実績を見通しで割った「達成率」を直近の3四半期で平均した数値をかけて算出する。足元の達成率の平均は93.4%だった。単純に企業から聞き取った受注額では、4~6月期の見通しは前期比5.3%増える見通しだ。
同日発表した3月単月の民需は前月比2.9%増の9130億円だった。2カ月連続のプラスとなる。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.6%減だった。
長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲3000億円を超える貿易赤字が見込まれていましたので、実績の▲4625億円はやや下振れした印象です。ただし、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、輸出が前月比で増加した一方で、輸入は減少していて、結果として貿易収支赤字は前月3月統計から縮小しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えているんではないかと受け止めています。
4月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が再び2ケタ増となっています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲3.9%減ながら、金額ベースでは+13.1%増となっています。数量ベースの減少以上に単価が上昇した結果、輸入額が増加しているわけです。引用した記事の4パラ目にある通りです。しかし、LNGについては、数量ベースでは+16.7%増、金額ベースでも+12.5%増となっています。数量の伸びほどは金額が増えていませんから、単価が下がっていることがうかがわれます。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+9.5%増、金額ベースでも+3.0%増となっていて、数量ベースのトン数ほどに金額が伸びていないのは単価の低下が背景となっていると考えるべきです。引用した記事にみられる航空機類は前年同月比+293.7%増となっていて、何か特殊要因があったことが伺われます。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で見て、数量ベースの輸出台数は▲5.8%減ながら、金額ベースでは+26.0%増と大きく伸びており、円安による価格上昇があったものと想像しています。すなわち、外貨建て、例えば、米ドル建ての価格が大きく変更ないならば円建ての輸出単価は膨らむわけです。自動車を含む輸送機械が金額ベースの前年同月比で+25.5%増であるのに対して、一般機械は+1.3%増、電気機器も+0.1%増とそれほどの伸びはみられません。

まず、引用した記事の最後にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比マイナスでしたが、実績はプラスとなっています。予想レンジの上限は+5.0%増でしたので、実績の+2.9%増はそれほどの大きなサプライズではなかった気がします。しかしながら、今年2024年1~3月期の四半期データには影響大きく、季節調整済みのコア機械受注の系列で見て前期比+4.4%増の2兆6236億円となり、4四半期ぶりの前期比プラスを記録しています。したがって、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に上方修正しています。ただ、先行きが問題ないわけではなく不安が残っています。すなわち、コア機械受注の4~6月期の見通しは前期比で▲1.6%減の2兆5,810億円であり、製造業▲2.0%減、非製造業(除く船舶・電力)▲4.0%減といずれも減少すると見込まれています。ついでながら、グラフは示しませんが、四半期データでコア機械受注の達成率を見ると2023年7~9月期95.0%、10~12月期93.1%、そして、今年2024年1~3月期92.1%とジワジワと低下してきています。エコノミストの経験則として、この達成率が90%を下回ると景気後退局面入りのシグナル、と見なす向きもあります。何度も繰り返していますが、景気回復局面もかなり後半の部ですので、欧米先進国がソフトランディングに成功するとしても、中国の景気、あるいは、国内要因から景気局面が転換する可能性があります。
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