企業向けサービス価格指数(SPPI)の上昇は人件費アップの転嫁ではない
本日、日銀から5月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からさらに加速して+2.5%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同様に+2.4%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
企業向けサービス価格、5月2.5%上昇 人件費転嫁続く
日銀が25日発表した5月の企業向けサービス価格指数(2020年平均=100)は106.9と、前年同月比2.5%上昇した。4月(2.7%)から伸び率が0.2ポイント縮小した。宿泊サービスの伸び率が縮小したが、幅広い分野で人件費上昇を価格に反映する動きが続いている。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。例えば貨物輸送代金や、IT(情報技術)サービス料などで構成される。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
5月から基準年を15年から20年に改定し、調査品目の見直しなども実施した。
内訳をみると、宿泊サービスは前年同月比で12.9%上昇した。23年5月に観光促進策「全国旅行支援」の割引が縮小し、伸び率が拡大していた反動で4月(21.2%)から伸び率が縮小した。ただインバウンド(訪日外国人)などの人流回復の影響で依然として高い水準を維持している。
廃棄物処理はエネルギーコストや人件費の上昇を転嫁する動きがあり、前年同月比5.8%上昇した。道路貨物輸送は物流の運転手が不足する「2024年問題」による人件費上昇などで2.9%上昇した。
外航貨物輸送は海運相場の上昇が影響し、前年同月比11.8%上昇した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で5月に上昇したのは109品目、下落は20品目だった。
基準改定に合わせて人件費の比率の高低でサービスを分類する新指数も公表した。高人件費率サービスの価格指数は前年同月比2.5%上昇し、低人件費率サービスも2.5%上昇した。
もっとも注目されている物価指標のひとつですから、長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。
上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したものの、最近時点で再加速は見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は5月統計で+2.4%を示しています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、今年2023年8月から+2%台まで加速し、本日公表された5月統計では+2.5%に達しています。11か月連続で+2%台の伸びを続けているわけです。+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があるとは思いますが、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、その物価目標の+2%から大きく離れているわけではないことも確かです。加えて、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。すなわち、年度始まりの4月の価格改定に適した時期にコストアップ分などを転嫁する動きが見られた、ということではないかという気もします。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下にパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。昨年2023年から今年2024年にかけて、春闘賃上げ率が高まっていることを背景に、物価上昇は人件費の転嫁であるという実しやかな説が流れていますが、政策投資銀行のリポートでも「2023年以降では(物価)上昇要因のほとんどが企業収益の増加によるもの」と指摘しています。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて5月統計のヘッドライン上昇率+2.5%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや廃棄物処理などの諸サービスが+1.23%ともっとも大きな寄与を示しています。コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方です。結果的に、ヘッドライン上昇率+2.5%の半分近くを占めています。また、引用した記事にもある通り、インバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で+12.9%と、4月統計から上昇幅が縮小したとはいえ、依然として2ケタの高い上昇率です。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や外航貨物輸送や道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.49%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスや新聞といった情報通信が+0.30%、のプラス寄与となっています。
繰り返しになりますが、今回から日銀が公表するようになったSPPIの人件費投入比率に基づく分類指数を見ても、あるいは、引用した記事の最後のパラからも明らかなように、高人件費比率のサービスの上昇率が高いわけではありません。人件費の上昇が価格に転嫁されて物価上昇につながっているというのは、明らかに誤った情報です。メディアのリテラシーの低下を嘆いているエコノミストは私だけなのでしょうか?
最後に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示されている高人件費サービスと低人件費サービスの分類 SPPIの人件費投入比率に基づく分類 を以下の通り示しておきます。ご参考まで。
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