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2024年6月 3日 (月)

1-3月期法人企業統計では企業業績の伸びと投資や賃金の停滞が確認される

本日、財務省から1~3月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+2.3%増の387兆4182億円だったものの、経常利益は+15.1%増の27兆4279億円に上っています。そして、設備投資は+6.8%増の17兆6628億円を記録しています。ただし、季節調整済みの系列で見ると原系列の統計とは逆に、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比▲4.2%減となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

経常利益15.1%増、サービスけん引 1-3月法人企業統計
財務省が3日発表した1~3月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は27兆4279億円で、前年同期と比べて15.1%増えた。5四半期連続のプラスで、1~3月期としては過去最高額だった。サービス業は人出が回復した追い風を受けた。価格転嫁も進展した。
業種別の経常利益をみると非製造業は11.5%の増益だった。サービス業は29.9%、不動産業は55.6%それぞれ伸びた。人流回復によるオフィス需要や都心部の分譲マンション販売などが増加した。
製造業は23.0%の増益だった。自動車などの輸送用機械は33.1%伸び、全体を押し上げた。一部自動車メーカーで生産停止があったものの、円安の進行による為替差益や価格改定などの効果が出た。
全産業のソフトウエアを含む設備投資は17兆6628億円で、前年同期と比べて6.8%増えた。製造業・非製造業ともに前年同期を超えた。自動車や生産用機械などの生産体制の強化が進んだ。伸び幅は23年10~12月期の16.4%から縮んだ。季節調整済の前期比では4.2%縮んだ。
製造業では輸送用機械が25.7%、食料品が26.5%それぞれ増えた。生産体制や生産能力増強のための投資が進んだ。
非製造業では、運輸業・郵便業が11.5%のプラスだった。駅や空港関連施設の整備のための投資が進展した。サービス業は11.7%増えた。各社がDX(デジタルトランスフォーメーション)関連投資を進めていることを反映した。
財務省は今回の法人企業統計について「景気がゆるやかに回復している状況を反映したものと考えているが、海外の景気動向の下振れや物価上昇などの影響を含め今後とも企業の動向に注視していく」と説明した。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、引き続き、企業業績は好調を維持しており、まさに、それがこのところの株価に反映されているわけで、東証平均株価については3月下旬にバブル後最高値をつけて4万円を超えた後、4月半ばには37000円レベルに下落したものの、現時点では38000円を超える水準に回帰しています。ただ、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、昨年2023年10~12月期に跳ねてた後、直近で利用可能な今年2024年」1~3月期にはまたまた減少しています。前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象があり、10~12月期には出遅れが解消され、特に、日銀短観や日本政策投資銀行の調査などによる設備投資計画とGDP統計の差が縮小される動きが始まった可能性を感じていたのですが、どうも怪しくなっってきています。いずれにせよ、昨年2023年5月にコロナの分類変更がありましたし、ダメージの大きかった非製造業、特にサービス業が回復してきています。売上や経常利益では産業別に見てサービス業や不動産業が上位に名を連ねています。バブルに向かう動きでなければいいと思ってしまいました。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半と比べて、▲20%ポイント近く労働分配率が低下していると考えるべきです。名目GDPが約550兆円として100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の増加の勢いがしぼんでしまった可能性があるので、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。あるいは、アベノミクスの「負の遺産」と呼ぶエコノミストもいるかもしれません。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇するのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのか、どうか、キチンと議論すべき段階に入っているように私は考えています。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週6月10日に内閣府から1~3月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。1次QEでは小幅なマイナス成長でしたが、本日公表の法人企業統計を受けて設備投資は下方修正されることが確実であり、2次QEではより大きなマイナス成長となるものと私は予想しています。シンクタンクなどの2次QE予想については、日を改めて取り上げる予定です。

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