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2024年7月 2日 (火)

スーパーリッチに課税する

先週、ブラジルで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議において、ズックマン教授から "A blueprint for a coordinated minimum effective taxation standard for ultra-high-net-worth individuals" と題するリポートが提出されています。このリポートはズックマン教授のサイトにもアップロードされています。会議の模様は以下のG20サイトにあります。

日本語の報道資料は私がみた範囲でロイターと日経新聞があります。以下の通りです。

日本でも同じことですが、個人への税金は決して累進課税になっているわけではなく、個人所得と税率は90パーセンタイルくらいまでは上昇して累進課税っぽく見えるんですが、実は、逆U字カーブになっています。すなわち、スーパーリッチ層に対する税率はむしろ低かったりするわけです。米国とフランスとオランダの所得パーセンタイルと税率をプロットしたグラフをズックマン教授のリポート p.13から引用すると以下の Figure 2: Effective income tax rates by income groups and for billionaires の通りです。

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どうして、このような税率の「反転」が生じるかといえば、スーパーリッチ層の所得において金融資産からの収益の占める比率が高いからです。もっといえば、労働の報酬に対する賃金への税率に対して、株式の売却益などに対する税率が低く抑えられているからです。先日、私は『ワルラス 社会経済学研究』(日本評論社)を読みましたが、社会主義者を自称するワルラスは明確に労働に対する報酬である賃金に対する税率はゼロ、すなわち、賃金は非課税を主張しているのですが、日本を含む先進各国では真逆の政策対応で、賃金所得に対しては累進課税、金融資産所得に対しては税金を軽課する、という政策を取っているわけです。ズックマン教授のリポートでは、"A minimum tax equal to 2% of wealth on global billionaires would raise $200-$250 billion per year in tax revenue from about 3,000 taxpayers globally; extending the tax to centi-millionaires would generate an additional $100-$140 billion." (p.5) 「世界の億万長者に対して資産の2%に相当するミニマム税を課すことにより、世界中の約3,000人の納税者から年間2,000~2,500億ドルの税収が得られる。この税を1000億ドル以上の富豪にまで拡大すると、さらに1,000~1,400億ドルの税収が生まれる。」と指摘しています。なお、引用における"billionaires"=「億万長者」とは、グラフからも理解できるように、世界人口の0.00001%、約3,000人ということのようです。
最後に、日本における逆U字型の税率は、第17回 税制調査会(2022年10月4日)に提出された財務省の説明資料のに見られます。p.32 申告納税者の所得税負担率 を引用しています。合計所得金額が1億円を超えると税率が低下するわけです。

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誠についでながら、ズックマン教授は米国カリフォルニア大学バークレー校の准教授であり、『21世紀の資本』で一躍時代の寵児となったピケティ教授の下で博士号を取得しています。昨年2023年には、かのジョン・ベイツ・クラーク・メダルを受賞しています。その際の同僚のサエズ教授の紹介文は以下の通りです。

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