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2024年7月18日 (木)

小幅な黒字を計上した6月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+5.4%増の9兆2086億円に対して、輸入額は+3.2%増の8兆9846億円、差引き貿易収支は+365億円の黒字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支、6月は2240億円の黒字 3カ月ぶり
財務省が18日発表した6月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2240億円の黒字だった。黒字は3カ月ぶり。円安を背景に半導体関連の輸出などが伸び、黒字幅は前年同月比で6.1倍になった。
2024年上半期(1~6月)の貿易収支は3兆2345億円の赤字だった。赤字額は前年同期比で53.7%減少した。半期ベースの赤字は6期連続。エネルギー価格の高まりによる輸入額の伸びが大きく、赤字基調が続いている。石炭や液化天然ガス(LNG)の輸入価格の高騰は一服しており、米国向けのハイブリッド車の輸出などが増えて赤字額は縮小した。
6月単月の輸出額は9兆2086億円と5.4%増え、7カ月連続の増加となった。6月としては比較可能な1979年以降で最も大きかった。輸入額は8兆9846億円で3.2%増えた。増加は3カ月連続だった。
輸出を品目別に見ると、半導体関連の製造装置の数量が増え、金額が37.9%増の3971億円と好調だった。輸出額全体に占める割合の高い自動車は数量ベースでは12.5%減の48万4529台と、品質不正による生産停止からの回復が鈍い。金額は1兆6039億円と2.3%増だった。
地域別に見ると、米国が1兆9266億円と11%増、アジアが4兆8508億円で7.7%増だった。
輸入にも円安の影響が出ている。輸入を品目別に見ると、パソコンなど周辺機器を含む電算機類の輸入が数量ベースで9%減った一方、金額は48.5%増加して3301億円となった。
原油などの輸入額も膨らんだ。鉱物性燃料全体で見ると、輸入額は1兆8270億円と2.3%減少した。原油は数量ベースで14%減だったが、7877億円と3.3%の増加となった。
原油はドル建て価格が1バレルあたり87.8ドルと前年同月から6.7%上がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万6543円と20.1%の上昇だった。
地域別の輸入では米国が1兆565億円と14.8%増えた。アジアは4兆2824億円で1.4%の増加だった。
財務省によると6月の貿易収支は例年、黒字になりやすい傾向がある。6月単月の貿易収支を季節調整値で見ると8168億円の赤字だった。赤字幅は前月比で26.8%拡大した。輸入は1.6%増の9兆7775億円、輸出は0.2%減の8兆9606億円だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の小幅な黒字はわずか+300億円余りでもあり符号が違っているとはいえ、大きなサプライズはありませんでした。なお、予測レンジの上限は2000億円余りの黒字でした。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、輸出が減少して輸入が増加しているため、貿易収支赤字は前月5月統計からやや拡大しています。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年6月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。最近時点での貿易収支動向は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
6月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が再び増加となっています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲14.0%減ながら、金額ベースでは+8.8%増となっています。数量ベースの減少を超えた単価の上昇があり、輸入額が増加しているわけです。引用した記事に従えば、原油はドル建て価格で+6.7%の上昇、円建て価格では何と+20.1%の上昇だそうです。液化天然ガス(LNG)についても、数量ベースではわずかに+0.8%増ながら、金額ベースでは+8.1%増となっています。数量の伸びを超えて金額が増えていますから、円建ての単価が上がっていることがうかがわれます。これらのエネルギー価格については、地政学的なリスクもあって先行き不透明です。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲1.2%減ながら、金額ベースでは+1.2%増となっていて、エネルギー価格ほどボラタイルではないとしても、穀物についても単価が少し上昇していることが見て取れます。輸出に目を転ずると、輸送用機器・一般機械・電気機器といった我が国リーディング・インダストリーが輸出を牽引しています。季節調整していない原系列の前年同月比で見て、自動車の輸出額は+17.4%増を記録しています。ただし、数量ベースの輸出台数は▲12.5%減となっています。円安による円建て価格の上昇があったものと想像しています。すなわち、外貨建て、例えば、米ドル建ての価格が大きく変更ないならば円建ての輸出単価は膨らむわけで、その分、輸出額は増加します。数字を上げておくと、自動車を含む輸送機械の輸出額が前年同月比で+23.5%増を記録した一方で、一般機械も+18.1%増、電気機器も+16.4%増と我が国リーディング・インダストリーの輸出は先進各国のソフトランディングで堅調に推移しているように見えます。ただし、繰り返しになりますが、季節調整済みの系列では輸出額が前月から減少している点は忘れるべきではありません。

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