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2024年7月12日 (金)

対外債務により政府が財政破綻すると何が起こるのか?

日本政府が世界の先進国の中で飛び抜けているのは累積債務の大きさであることは広く認識されています。先進国が加盟してい経済協力開発機構(OECD)の中でもGDP比で200%を超える政府債務を抱えているのは日本だけだと思います。最近の学術論文で "The Social Costs of Sovereign Default" と題して、対外債務により政府が財政破綻すると何が起こるのかを歴史的に分析したペーパーが出ています。もちろん、pdfによる全文ファイルもアップロードされています。引用情報は以下の通りです。なお、3人目の著者は、ロゴフ教授との共著による『国家は破綻する』などの著作でも有名なラインハート教授です。

まず、しっかりと確認しておきたいのは、この論文は、私も冒頭でいささか刺激的でミスリード気味の書き方をしましたが、日本が累積させているような内国通貨建ての国内債務の破綻ではありません。あくまで外貨建ての対外債務不履行による財政破綻です。たぶん、このあたりを意図的にでも混乱させようとする論評が出る可能性が十分ありますから注意が必要です。その上で、論文のABSTRACTを引用すると以下の通りです。

ABSTRACT
This paper investigates the economic and social consequences of sovereign default on external debt. We focus on the crises’ impact on real per capita GDP, infant mortality, life expectancy, poverty headcounts, and calorie supply per capita. After methodological exclusions, the sample covers 221 default episodes over 1815-2020. The analysis adopts an eclectic empirical strategy that relies on an augmented synthetic control method and local projections. Our findings suggest that sovereign defaults lead to significant adverse economic outcomes, with defaulting economies falling behind their counterparts by a cumulative 8.5 percent of GDP per capita within three years of default. Moreover, output per capita remains nearly 20 percent below that of non-defaulting peers after a decade. Based on the trajectory of the health, nutrition, and poverty indicators we study, we assess that the social costs of sovereign default are significant, broad-based, and long-lived.

要するに、1815年から2020年までの100年余りの期間の221のデフォルト例を分析して、経済的にはGDPで計測して3年以内に1人当たりGDPで累計▲8.5%の遅れを生じ、10年後には▲20%余り下回る、ということです。そして、タイトルにあるように、健康、栄養、貧困などの指標から社会コストは重大である、と結論しています。全文ファイルから、いくつかグラフを引用したいと思います。

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上のグラフは、Figure 1.1. Sovereign default and real per capita GDP: Aggregated SCM results を引用しています。よく理解できていないのですが、1815-2020年の221ケースの債務不履行のデータベースを構築したといいながら、1828-2020年の135のケースを用いた結果です。ただ、債務不履行=デフォルトする2年ほど前から1人当たりGDPがトレンドから離れているのは確認できます。デフォルトする少し前から経済状態が思わしくない状態が始まっていたのだろうと思いますが、ひょっとしたら、経済状態が停滞して1人当たりGDPが伸びなくなったからデフォルトしたのかもしれません。デフォルト下少し後からトレンドに近い成長曲線に戻っているように見えるのも、やや皮肉が効いているように私は受け止めました。

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続いて、上のグラフは、社会的コストの代表格ということで、幼児死亡率と平均寿命のグラフ、すなわち、Figure 4.1. Sovereign default and infant mortality: Aggregated SCM results と Figure 5.1. Sovereign default and life expectancy: Aggregated SCM results を引用しています。私の方で無理やりに画像を結合していたりします。これまら、債務不履行=デフォルトの少し前から幼児死亡率の上昇や平均寿命の低下が始まっています。221ケースのデータセットのうち、Figure 4.1. の幼児死亡率は104ケース、Figure 5.1. の平均寿命は127ケースが用いられています。

当然ながら、対外債務に対する政府財政の破綻は経済的にも社会的にも大きなコストをもたらします。国民生活の改善はトレンドから乖離してしまいますし、幼児死亡率や平均寿命も従来トレンドからの改善が遅れ始めます。ただ、一部に繰り返しになりますが、注意すべき点が3点あります。第1に、現在の日本が抱えているのは国内通貨建ての政府債務であり、この論文で分析されている外貨建ての対外債務ではありません。ですから、この分析をそのまま日本の政府債務に当てはめることは出来ません。第2に、因果関係は不明であり、私の直感では、政府財政の破綻以外の何らかの経済の不調が、政府財政の破綻と1人当たりGDPの伸びの鈍化と幼児死亡率低下の遅れと平均寿命の伸びの鈍化をもたらしているような気もします。それがどういった要因は各国の事情により異なる可能性が高いと考えるべきです。第3に、この論文で分析されている外貨建て対外債務による政府財政の破綻と内国通貨建て債務の破綻が同じものであるかどうか、私には不明です。私自身は、現代貨幣理論(MMT)で高らかに宣言されていて、決して証明はされていない「発券機能を有した中央銀行があり、変動為替相場制を採用していれば、内国通貨建ての債務で政府は破綻しない」というのは、それほど信用していませんが、それでも、外貨建ての対外債務で破綻するのと内国通貨建ての政府債務で財政破綻するのは、だいぶんと違うのではないか、という気はします。強くします。

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