« 京都国際、優勝おめでとう | トップページ | Osaka Jazz Channnel の Shiny Stockings を聞く »

2024年8月24日 (土)

今週の読書はまたまは経済書なしで計6冊

今週の読書感想文は以下の通り経済書なしで教養書や小説など計6冊です。
今年の新刊書読書は1~7月に186冊を読んでレビューし、8月に入って先週までに計16冊をポストし、今週の6冊を合わせて計208冊となります。今後、Facebookやmixiなどでシェアする予定です。また、小松左京『霧が晴れた時 自選恐怖小説集』(角川ホラー文庫)も読んでいて、すでにFacebookとmixiでシェアしていますが、新刊書ではないと思いますので、本日の読書感想文には含めていません。

photo

次に、養老孟司『時間をかけて考える』(毎日新聞出版)を読みました。著者は、解剖学者であるとともに、『バカの壁』などのベストセラーも書いていたりします。ということで、本書は上の表紙画像に見られるように、サブタイトルが「養老先生の読書術」となっていますが、実は、2007年から昨年2023年までに著者が毎日新聞の書評欄に書いていた書評を収録しています。まえがきにあるように、文学、というか、フィクションはほとんど取り上げられていません。大きな例外のひとつはスティーヴン・キング『悪霊の島』です。構成は3部構成となっていて、最初に意識の問題を中心に心と身体に着目し、続いてヒトを問題の中心に据えて自然と環境を論じ、最後に日常の視点から歴史と社会を取り上げています。繰り返しになりますが、2007年から2023年までですのでほぼ15年に渡る書評を収録しています。その意味も含めて、さすがに私にも大いに参考になりました。大いに参考になったひとつの要因は、ほぼほぼ私の読書と重なっていないからです。要するに、私が読まなかった本をたくさん取り上げてくれている、ということです。「フィクション」と切って捨てた文学がほとんど含まれていないのも一因かもしれません。主要なところでは、環境に関するアル・ゴア『不都合な真実』や鵜飼秀徳『無葬社会』、宮沢孝幸『京都大学おどろきのウイルス学講義』などが私の既読書だったくらいで、ほんとに重複が少なかった気がします。タイトルとなっている「時間をかけて考える」というのは、いかにも、カーネマン『ファスト&スロー』を思い起こさせますが、ヒューリスティックではなく熟慮の必要性を強調しているわけでもなく、要するに、読書で時間をかけて考えるということなのだろう、と私は受け止めています。ただ、読書についての本をレビューするのは私は最近少し困っていて、高い確率で「最近の若者は本を読まない」というご感想をいただきます。学校図書館協議会などが毎年行っている「学校読書調査」によれば、30年以上に渡って平均読書冊数は増加を続けていますし、逆に、不読者の割合は減少し続けています。そして、こういった明白なエビデンスを示しても、特に年輩の方なのかもしれませんが、その昔の表現を借りれば「壊れたレコード」のように「最近の若者は本を読まない」を繰り返します。インターネットが普及し、ゲームをはじめとして読書以外の余暇活動が選択肢としていっぱいある中で、今の小中高校生はホントに読書に熱心に取り組んでいます。本書に収録されているような新聞その他のメディアによる書評が大きな役割を果たしている可能性を指摘するとともに、私のこのブログやSNSなどにおけるブックレビューも少しくらいは役立っていると思いたい、という希望的観測を添えておきます。

photo

まず、マウンティングポリス『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)を読みました。著者は、マウンティング研究の分野における世界的第一人者だということです。不勉強にして、私は存じ上げませんでした。本書は4章構成であり、第1章でさまざまなマウンティングを解説しています。私自身の本書の読書はこの章が眼目だったといえます。ページ数的にも半分を超えます。その後の3章で、武器として人と組織を動かすマウンティング術、ビジネスに活かしイノヴェーションをもたらすマウンティング術、最後に、マウントフルネス、すなわち、マウンティングを活用した人生戦略、となります。私の眼目であったさまざまなマウンティングについてを中心にレビューすると、まず、マウンティングとは、要するに「自慢」のことだといえます。ですから、本書のp.168にあるように、学歴、年収、社会的地位、居住地、婚姻歴、教養、海外経験、子供の有無などについて、自分の優位性を相手に理解させることを目的とした情報提供、あるいは、おしゃべり、となります。しかし、第1章で、私が大いに驚いたのは、達観マウンティングなんてものがあったり、第2章では自虐マウンティングが出てきたりします。私自身は、周囲にいうのに、「飲み食いと着るものは特段のこだわりはない。マクドナルドと吉野家とユニクロで十分」というのがありますが、ひょとしたら、達観マウンティングなのかもしれません。しかし、私自身はマウンティングを取る意図はまったくありません。ほかもそうであり、たとえば、p.168にある最初の項目である学歴なんぞは、私ごとき京都大学経済学部ではお話にならないような職業に身を置いてきたわけです。京都大学がエライと思っているのは私の両親くらいのものでしたが、もう2人とも亡くなりました。恥ずかしながら、キャリアの国家公務員の半分以上は東大卒であることは、現在はともかく、私の就職した1980年代初めころは常識でした。公務員を定年退職してからも大学教員ですから、私のような4年生学部卒の学士号しか学位ないのは超低学歴と考えるべきです。少なくない大学教員が博士号を持っているのは広く知られている通りです。年収も、公務員や教員はそれほどの高給取りというわけではありません。ただ、私の場合、少なくとも公務員を定年退職して関西に移り住んだ時点から、居住地、特に海外勤務については自慢しようと思えば自慢できるような気がします。大学教員でも関西の大学教員は、海外はおろか、東京で働いた経験のある人すら決して多くありません。しかし、誠に残念ながら、周囲の大学教員がそれほど東京に関する地理的な情報を持たないためにマウンティングすらできない、というのが実情です。私は公務員のころに参事官の職階に上がって資格を得て、千葉の松戸から南青山に引越したのですが、松戸と南青山の違いを理解できる関西方面の大学教員はそれほど多くありません。たとえば、私の母は晩年に茅ヶ崎の妹の住まいからほど近い施設に入っていたのですが、関西人からすれば茅ヶ崎は東京の地理的な範疇に入ります。ですので、東京に住んでいた、という事実は重要かもしれませんが、その詳細は問われなかったりします。ついでながら、私はマウンティングのほかに、縄張りというものもほとんど意識しないので、生物学的なオスとして何か欠陥があるのかもしれません。でも、もうそれほど残された人生が長いわけでもないのでオッケーだと思っています。

photo

次に、貴志祐介『兎は薄氷に駆ける』(毎日新聞出版)を読みました。著者は、ホラーやSF小説などを中止とするエンタメ系の小説家です。私の京都大学経済学部の後輩なのですが、当然ながら、まったく面識はありません。なお、上の表紙画像には、ホラーやSFといった作者の作風を考慮してか、「リアルホラー」という謳い文句が帯にありますが、本書は少なくともホラーではありません。おそらく、私のつたない読書経験から考えれば法廷ミステリと考えるべきです。私の感想では、E.S.ガードナーによるペリー・メイスンのシリーズを思い起こさせるものがあります。なお、毎日新聞に連載されていたものを単行本に取りまとめていて、500ページ近い大作です。ということで、あらすじは、嵐の夜に資産家の独身男性が亡くなります。レストラン経営で得た資産の一部を注ぎ込んだクラッシクカーのマニアでしたが、キャブレターでガソリンをエンジンに送り込むクラシックカーのエンジンの不完全燃焼、ランオンと呼ばれる現象によりガレージ真上にあった寝室で一酸化中毒で亡くなります。事件か事故か、そこから始まり、警察は死亡した男性の唯一の遺産相続人である甥を逮捕し、長時間に及ぶ極めて厳しい取調べから自供を引き出して起訴し裁判となるわけです。亡くなった男性の兄がこの裁判における被告の父親なわけですが、この父親には交通事故に起因する軽い知的障害があり、15年前に資産家老女の殺人事件の犯人として逮捕され厳しい取調べにより自供しており、冤罪と疑わしい裁判の判決が確定した後に獄死しています。亡くなった資産家男性の甥で逮捕され裁判の被告となるのが日高英之で、15年前の日高英之の父親の事件の際と同じ本郷弁護士が弁護します。そして、本郷弁護士に調査のためアルバイトとして雇われた垂水謙介の視点でストーリーが進みます。日高英之の恋人の大政千春も垂水謙介の調査を手伝ったり、法廷で証言に立ったりします。まず、目を引くのは、警察の強引な取調べです。自白偏重の捜査が明らかです。これを逆手に取ったのが東野圭吾『沈黙のパレード』といえます。本書では200ページ過ぎあたりから裁判の法廷となり、警察と検察の黒星が積み重なってゆきます。また、陪席の女性判事補が少し被告寄りとも見える姿勢を示したりします。繰り返しになりますが、ペリー・メイスンのシリーズを彷彿とさせる法廷シーンです。たぶん、法廷ミステリですので、あらすじはここまでとしますが、これをミステリと考えるのであれば、いわゆる名探偵もので、名探偵がラストに関係者を集めて「アッ」と驚く結末を示すタイプのミステリではなく、私の好きなタイプ、すなわち、玉ねぎの皮をむくように徐々に真実が明らかにされていくタイプのミステリです。従って、ラストは決して驚愕のラストではないのですが、続編がある可能性を残して本書は終わります。実は、というか、何というか、この著者の代表作のひとつである『悪の教典』についても私はネットで蓮見の独白を見かけたことがあり、続編がある可能性が残されているものと認識しています。でも、本書はさらに強く続編の可能性が示唆されていると私は考えています。最後に、タイトルなのですが、薄氷を駆ける兎は日高英之です。そして、それを追う猟犬が警察や検察の法執行機関であり、ある意味で、冤罪の源です。そして、薄氷が割れて冷水に落ちるのは兎か、あるいは、猟犬か、もしも続編があれば明らかにされるのかもしれません。

photo

次に、染井為人『芸能界』(光文社)を読みました。著者は、2017年に『悪い夏』で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞して作家デビューしています。北海道新聞のインタビューによれば、「ジュニアモデルのマネジャーなどとして芸能界に身を置いてきた」ということですので、芸能界のご経験があるようです。私は本書の前作の『黒い糸』に感激して、本書も読んでみました。ただ、『悪い夏』は未読です。本書は短編集であり、7話が収録されています。収録順にあらすじを紹介します。まず、「クランクアップ」では、25年在籍した事務所を落ちぶれて退所する俳優が中心となります。すなわち、相原恭二は売れっ子だった俳優なのですが、ファンを名乗る反社の男性からお酒を奢ってもらい、週刊誌にすっぱ抜かれて落ちぶれて事務所から独立しようとしますが、大きな罠が待ち構えています。「ファン」では、人気タレントを10年かけて育て上げた辣腕マネージャーが主人公です。すなわち、坂田純一は有名になった若手女優を育てた敏腕マネージャーなのですが、現在は新たに芸人と売り出し中のアイドルグループを担当しています。しかし、担当するタレントが次々に活動休止に追い込まれ、その背景にとんでもない事情が見え隠れします。「いいね」では、50歳にしてインスタにハマったベテラン女優が主人公です。すなわち、元アイドルの石川恵子は50歳を過ぎてインスタに目覚め、修正しまくった写真をポストして、いいねを集めることに熱中し、やがて暴走します。「終幕」では、若い男子が集うミュージカルを仕切る女性プロデューサーが主人公です。すなわち、叶野花江はイケメン男子たちをキャストにミュージカルを運営する女性プロデューサーなのですが、キャストたちをホストのように扱った上、自分に色目を使うキャストを特別扱いするようになり、結局、大きく転落します。「相方」では、容姿をイジるネタで30年笑いを取ってきた漫才コンビが主役となります。すなわち、容姿で笑いをとっていたコンビ「ミチノリ」なのですが、今ではルッキズムが批判され、コンプラ的にも容姿ネタはNGになり、かつてのように笑いを取れなくなったことに悩みます。かなりベタな展開です。「ほんの気の迷い」では、誹謗中傷に悩まされ孤独とたたかうアイドル俳優が主人公です。すなわち、栗原翔真は若手ナンバーワンの売れっ子俳優です。しかし、一部のアンチからナルシスト扱いされ誹謗中傷を受けています。また、家族にも問題があり、母親はカルト宗教に熱中し、弟は地元で俳優である兄の名前を使って女性たちと問題を起こしています。その中で、SNSでエゴサーチをした時、突然体調が悪くなってしまいタイヘンな事態に立ち至ります。「娘は女優」は、震災の町からデビューした中学生女子の父親が主人公となります。すなわち、村田幹一は福島の自転車屋を営んでいますが、大事な一人娘の皆愛が修学旅行先の東京で芸能事務所からスカウトされてしまいます。レッスンや何やで東京に行く機会が多くなり、勝手に芸名をつけたり、グラビアに出たりする娘に父親は猛反対、反発しますが、なぜ彼女がこんなふうに突き進むのかの理由がとてもよかったりします。本書も、『黒い糸』ほどではないものの、ややどす黒いものを感じる短編が多く収録されていますが、最後の「娘は女優」がとっても爽やかなラストなので読後感はよかったりします。近く、『悪い夏』の文庫本を借りる予定なので楽しみです。

photo

次に、米澤穂信『冬季限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家です。本書は著者による小市民シリーズの作品であり、私は本書がシリーズ完結編である可能性を示唆する出版社の宣伝文句を見たような記憶があります。私のことですから、記憶は不確かです。なお、小市民シリーズはTVアニメになって、すでに7月から放送されているのではないかと思います。ということで、小市民シリーズですので小鳩常悟朗と小山内ゆきが主人公です、互恵関係にあるものの、恋愛関係にはない高校3年生の同級生です。そして、本書では3年前に2人が中学3年生だったころにさかのぼります。要するに、馴れ初め、というか、2人が知り合ったきっかけを明らかにするわけです。両方のストーリーが交互に語られますので、「現在編」と「3年前編」と名付けてレビューを進めます。ついでながら、現在編と3年前編のどちらも交通事故が大いに関係します。というのは、現在編ではクリスマス直前に小鳩常悟朗が交通事故にあい、年明けの大学受験を諦めざるを得ないほどの大ケガを負って入院します。他方、3年前編では中学校でも小鳩常悟朗と小山内ゆきの2人は同じ学校の生徒でした。そして、2人が通う中学校のバドミントン部員である日坂が交通事故にあいます。3年前編の交通事故は轢き逃げ犯が捕まっているのですが、被害者である日坂が事故時の同行者について隠し事をしていて、小鳩常悟朗が事故の真相を追いかけることになります。現在編の交通事故では轢き逃げ犯は捕まっておらず、小鳩常悟朗が入院していますので、小山内ゆきが調査を進めているのだろうと思いますが、ストーリーが基本的に小鳩常悟朗の視点で進みますので、それほど明確ではありません。なかなかに、驚愕のラストでした。3年前の事故と現在の事件を同時に調査し、当然ながらボリュームからしても大作ですし、以前の小市民シリーズでは日常の謎を扱っていて、ここまでの交通事故による大ケガという被害はなかった気がしますので、その意味でも完結編にふさわしい終わり方だったかもしれません。

photo

次に、エラリー・クイーン『境界の扉 日本カシドリの秘密』(角川文庫)を読みました。著者は、私なんぞが何かいうまでもない超有名なミステリ作家です。本書の舞台は主人公エラリーや父リチャードのホームグラウンドである米国ニューヨークです。ストーリーは、日本育ちの人気女流作家カレン・リースが文学賞受賞パーティーの直後、ニューヨーク中心部にある日本風邸宅で死体となって見つかります。カレンは癌研究の第一人者であるジョン・マクルーア博士と婚約中であり、文学賞受賞とも合わせて、作家としても個人としても幸福の絶頂にあると思われていました。カレンの死亡当時、マクルーア博士は大西洋を船で横断中であり、たまたま、エラリーと乗り合わせていました。カレンが亡くなった時、マクルーア博士の娘である20歳のエヴァがカレンの邸宅を訪れており、エヴァのいた部屋を通らなければカレンの部屋には行けない密室状態だったことから、唯一犯行が可能だったのはエヴァであることが推定されます。そして、なぜか、私立探偵のテリー・リングがリース邸に現れます。もちろん、エヴァ自身は無実を主張しますし、リングはエヴァの側に立って警察との対応をエヴァに教唆したりします。警察もエヴァを逮捕するには至りません。エラリーは、父親であるリチャード・クイーン警視をはじめとするニューヨーク市警と異なる見方を示し、さまざまな局面で対立しながら、事件の謎に挑みます。もちろん、事件の真相解明のためにカレン・リースの日本滞在時のいろいろな事実が解き明かされ、マクルーア博士やカレンとともに、その当時日本に滞在していたカレンの姉エスターやマクルーア博士の弟などの日本における動向についても明らかにされます。私立探偵のリングのほか、カレンが日本から連れてきたメイドのキヌメがエキゾチックな雰囲気を持って登場したりします。もちろん、最後にはエラリーが密室殺人の謎を解き明かします。驚愕のラストでした。なお、本書は越前敏弥さんの新訳により今年2024年年央に、他の国名シリーズなどと同じ角川文庫で出版されています。不勉強にして旧訳を読んでいないので比較はできませんが、とてもよくこなれた邦訳に仕上がっていると、私は受け止めています。

|

« 京都国際、優勝おめでとう | トップページ | Osaka Jazz Channnel の Shiny Stockings を聞く »

コメント

私はマウントする人とは付き合いませんけれども、たまに自分がマウントする気がないのに、それをしている方がいます。特に思想とか環境問題を話していると。そういう時はそれとなく自転車の話に誘導して、話をはぐらかします。

投稿: kincyan | 2024年8月28日 (水) 13時58分

>kincyanさん
>
>私はマウントする人とは付き合いませんけれども、たまに自分がマウントする気がないのに、それをしている方がいます。特に思想とか環境問題を話していると。そういう時はそれとなく自転車の話に誘導して、話をはぐらかします。

はい。本書では、相手の反発を招かずに、上手にマウンティングする方法や、逆に、相手にマウンティングさせていい気分になってもらう方法などが解説されています。

投稿: ポケモンおとうさん | 2024年8月28日 (水) 23時11分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 京都国際、優勝おめでとう | トップページ | Osaka Jazz Channnel の Shiny Stockings を聞く »