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2024年8月 1日 (木)

来年度2025年度に基礎的財政収支は黒字化する? それは歓迎すべきことか?

やや旧聞に属する話題ながら、今週月曜日7月29日の経済財政諮問会議に内閣府から「中長期の経済財政に関する試算」が提出されています。内閣府のサイトから、シナリオ別の2024年7月試算のポイントを3点引用すると以下の通りです。

2024年7月試算のポイント
  • 成長移行ケース: 全要素生産性(TFP)上昇率が過去40年平均の1.1%程度まで高まるシナリオ。2030年代以降も実質1%を安定的に上回る成長が確保(名目成長は中長期に2%台後半)。
  • 高成長実現ケース: TFP上昇率がデフレ状況に入る前の期間の平均1.4%程度まで高まるシナリオ。中長期的に実質2%程度、名目3%程度の成長。
  • 過去投影ケース: TFP上昇率が直近の景気循環の平均並み(0.5%程度)で将来にわたって推移するシナリオ。中長期的に実質0%台半ば、名目0%台後半の成長。

この前提のうち、GDP成長率のシナリオのグラフを内閣府のサイトから引用すると以下の通りです。なお、当然のことながら、リポートにはGDP成長率だけでなく、賃金上昇率、消費者物価上昇率、名目長期金利といった財政収支に影響を及ぼす主要な前提が示されています。

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GDP成長率の想定は上のグラフの通りなのですが、そのバックグラウンドには、なぜか資本ストック増加率が抜けている一方で、TFP上昇率と労働参加率があり、それらを基に成長会計から潜在成長率が推計されています。そして、「内閣府年央試算」に沿った成長が実現した後、マクロの需給がほぼ均衡する中で、実質GDP成長率が潜在成長率並みで推移する姿が想定されています。GDPに加えて、繰り返しになりますが、賃金上昇率や消費者物価上昇率や名目長期金利の想定もなされています。

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そして、その結果としてもっとも注目されたのが、基礎的財政収支(PB)の動向とそのPBに従って決まる公債等残高です。上のグラフの通りです。そもそも、すでに概算要求基準が決まっている2025年度予算案の想定からして、来年度2025年度に基礎的財政収支(PB)が黒字化すると見込まれていて、その後も着実に収支バランスないし黒字を見込んでいて、公債等残高は安定ないし低下する方向が試算されています。私自身は、こういった試算結果は、あくまで試算ですので、一定のモデルに基づいた試算ができるのは当然ですし、エコノミストとしてのお仕事の一環だと受け止めています。ただ、びっくりしたのは、メディアがいっせいに基礎的財政収支の黒字化について好意的に報道している点です。私が見た限りで以下の通りです。

ほぼほぼすべてのメディアで、2025年度に1.6兆円の税収増があり、基礎的財政収支が+0.8兆円の黒字になると報じています。たぶん、政府の発表そのままを垂れ流しているのだと思いますが、その後の社説などを見る限りでも、基礎的財政収支の黒字を危ぶむ意見はまったく見当たりません。日本のメディアは政府発表をそのまま報じて、財政黒字化のためであれば増税には好意的なのだと改めて知らされました。疑問すら出ないのでしょうか。

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