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2024年8月 2日 (金)

7月の米国雇用統計は米国経済の過熱感の終息を示すのか?

日本時間の今夜、米国労働省から7月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、6月統計では+179千人増、直近の7月統計では+114千人増となり、失業率は前月から+0.2%ポイント上昇して4.3%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を、中見出しを除いて、やや長めに8パラ引用すると以下の通りです。

Job report: Employers added just 114,000 jobs in July as unemployment jumped to 4.3%
U.S. hiring slowed substantially in July as employers added a disappointing 114,000 jobs amid historically high interest rates, persistent inflation and growing household financial stress.
The unemployment rate rose from 4.1% to 4.3%, highest since October 2021, the Labor Department said Friday. The rise along with the pullback in payroll gains and slowing wage growth bolsters the Federal Reserve's case for cutting interest rates in September,
Economists had estimated that 175,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
The unexpected sharp rise in the jobless rate triggers the Sahm rule. It says that if unemployment, based on a three-month average, rises by at least a half percentage point over the past 12 months, the nation is probably in a recession.
While the rule has correctly predicted all U.S. recessions since the 1970s, many economists say this time is different. An immigration surge, along with the return of many Americans to the workforce after COVID, has caused unemployment to climb without the usual spread of layoffs because many people who are looking for jobs haven't yet landed positions.
Still, the rising unemployment rate underscores that the job market is weakening and it eventually could set off a downturn, says Wells Fargo economist Sarah House.
Average hourly pay rose 8 cents to $35.07, pushing down the yearly increase to 3.6%, the lowest since May 2021.
Wage growth generally has slowed as pandemic-related worker shortages have eased, and it's close to the 3.5% pace that aligns with the Federal Reserve's 2% inflation goal.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を大きく下回って、7月統計では+114千人を記録しています。なお、6月統計も先月の公表時には+206千人増だったものが、+179千人増に下方修正されています。失業率も+0.2%ポイント上昇して4.3%に達しました。引用した記事の3パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+175千人という見方でしたので、記事でも "disappointing" 「失望」と表現しています。失業率については、昨秋あたりからウワサされていた "Sahm rule" サーム・ルールについて、引用した記事でも言及しています。すなわち、記事の4パラめにあるように、サーム・ルールとは失業率の後方3か月平均が過去12か月でもっとも低かった失業率を0.5%ポイント上回った時点で景気後退が始まっている確率が高い、とする経験則です。とすれば、先月6月統計までは米国雇用にはまだ過熱感が残っている、とみなされていたところ、今月7月統計を見る限り、サーム・ルールからすれば、すでに米国では景気後退が始まっていてもおかしくない、ということになります。なお、サーム・ルールのグラフはセントルイス連銀の提供する FRED のサイトに Real-time Sahm Rule Recession Indicator というタイトルで収録されています。

日銀が本格的な金融引締めを開始して、広く報じられている通り、円高と株安が進んでいます。私は米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、日本もそうそう景気後退に陥ることはなかろうと高をくくっていましたが、日銀がバリバリと金融引締めを進めて年内にも再利上げし、米国経済が、これまた、年内にも景気後退局面に入るとすれば、日本経済への影響が軽微であるわけがありません。
私は従来からメディアを中心とする日本の経済論調に異を唱えていて、まず、少し前まで物価目標の+2%が達成できないといっては当時の黒田日銀総裁を批判していたのが、消費者物価上昇率が+2%に達した途端、デフレ脱却未達成の批判を逆向きにして、インフレ抑制への政策転換の大合唱が始まります。確かに、2023年は消費者物価上昇率が+3%を超えましたが、その昔は「ビハインド・ザ・カーブ」容認の議論もありましたし、金融政策への批判がいかにアドホックなものか、強く実感しました。結果、インフレ抑制に日銀は舵を切り、為替の円安修正のための金利引上げに踏み切っています。金利引上げの結果として、円高に起因して、株安が進むだけではなく、実体経済にも影がさして、米国の景気後退に引きずられる形で日本も景気後退に陥れば、またまた、メディアの批判は逆噴射して景気拡大のための金融緩和の大合唱になる可能性があるんではないか、という気がしないでもありません。そういったメディアや内閣からの圧力に対して金融政策を適切に運営するために中央銀行の独立性が確保されているんではないのか、と考えるエコノミストは私だけではないと思いたいです。

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