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2024年8月21日 (水)

2か月ぶりに赤字を記録した7月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から7月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+10.3%増の9兆6191億円に対して、輸入額は+16.6%増の10兆2410億円、差引き貿易収支は▲6218億円の赤字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

7月の貿易収支、6218億円の赤字 2カ月ぶり
財務省が21日発表した7月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6218億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶり。医薬品や通信機などの輸入額が大幅に増え、赤字幅は前年同月比で10倍ほどに拡大した。
輸出額と輸入額はともに7月としては比較可能な1979年以降で最も大きかった。輸出額は9兆6191億円と10.3%増えた。増加は8カ月連続。輸入額は10兆2410億円で16.6%増と、4カ月連続の増加となった。
輸出は数量ベースで5.2%減少したが、円安などで金額は膨らんだ。輸出額を品目別に見ると半導体など電子部品が25.2%増、半導体の製造装置が27.8%増と伸びが大きかった。自動車は6.2%増だった。
地域別に見ると、米国が1兆9220億円と7.3%増、アジアが5兆944億円で15.3%増だった。
輸入額を品目別に見ると、医薬品が45.5%増で寄与が大きかった。米国からの高額医薬品の輸入が重なった。スマートフォンなどを含む通信機も47.1%増えた。
円安や資源高の影響も続く。原油の輸入は数量が8%減少した一方、金額は12.7%増と高水準が続く。原油はドル建て価格が1バレルあたり87.9ドルと前年同月から9.1%上がった。円建て価格にすると1キロリットルあたり8万8326円と22.5%の上昇だった。
地域別の輸入では米国が1兆1534億円と21.9%増えた。アジアは4兆9529億円で19.3%の増加だった。
貿易収支を季節調整値で見ると7552億円の赤字だった。赤字幅は前月比で7.9%縮小した。輸入は0.9%増の9兆8926億円、輸出は1.7%増の9兆1373億円だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲6000億円を超える赤字は、やや下振れした印象です。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、前月比で見て輸出が輸入を上回って増加しているため、貿易収支赤字は前月5月統計からやや縮小しています。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年7月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。7月統計の▲6000億円を超える貿易赤字も、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
7月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が再び増加となっています。すなわち、引用した記事でも指摘している通り、原油及び粗油はトンの数量ベースで▲8.0%減ながら、金額ベースでは+12.7%増となっています。数量ベースの減少を超えた単価の上昇があり、輸入額が増加しているわけです。引用した記事に従えば、原油はドル建て価格で+9.1%の上昇、円建て価格では何と+22.5%の上昇だそうです。液化天然ガス(LNG)についても、数量ベースの10.4%増を上回って、金額ベースでは+19.6%増となっています。原油と同様に、円建ての単価が上がっていることがうかがわれます。これらのエネルギー価格については、私はまったくの専門外ですので、日本総研「原油市場展望」(2024年8月)を見ると、先行きについて「年末にかけては、米欧などの主要国で利下げにより景気が上向くものの、OPECプラスの段階的な減産解除による供給増加により、価格下落圧力が優勢となる見込み。」と結論し、特に「中国需要の下振れが価格下落リスク」と指摘しています。いずれにせよ、先行き不透明です。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類はエネルギーと逆の動きを示しており、数量ベースのトン数では+5.8%増ながら、金額ベースでは▲5.0%減となっていて、穀物については単価が下落していることが見て取れます。また、引用した記事で指摘している医薬品については、前年同月比で+45.5%増を記録しています。
輸出に目を転ずると、輸送用機器・一般機械・電気機器といった我が国リーディング・インダストリーが輸出を牽引しています。すなわち、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、自動車の輸出額は+6.2%増を記録し、輸出増+10.3%への寄与度は+1.1%となっています。ただし、数量ベースの輸出台数は▲7.0%減となっています。前年比での円安により円建て価格の上昇があったものと想像しています。数字だけ上げておくと、自動車を含む輸送機械の輸出額が前年同月比で+5.7%増を記録した一方で、一般機械も+5.0%増、電気機器も+14.2%増と我が国リーディング・インダストリーの輸出は先進各国のソフトランディングを受けて堅調に推移しているように見えます。

最後に繰り返しになりますが、先月7月2日付けの財務省「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会の報告書や、こういった財務省による議論の提灯持ちの日経記事「デジタル赤字、抜け出せず 日本は米テックの『小作人』」などの主張は、十分批判的に受け止めておく必要があります。

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