上昇幅がさらに拡大した8月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?
本日、総務省統計局から8月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.7%から小幅に拡大し+2.8%を記録しています。4か月連続で上昇幅が拡大しています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から29か月、すなわち、2年半近くの間続いています。ヘッドライン上昇率も+3.0%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.0%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
8月の消費者物価、2.8%上昇 4カ月連続で伸び率拡大
総務省が20日発表した8月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が108.7となり、前年同月と比べて2.8%上昇した。4カ月連続で伸び率が拡大した。コメやチョコレートなどの食料や電気代が上昇した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.8%の上昇だった。
総合指数は3.0%上昇した。内訳では食料の3.6%上昇が目立った。コシヒカリを除くうるち米は29.9%上昇と1976年1月以降最大の上げ幅だった。8月は新米が本格的に出回る前の時期で、外食需要の高まりに加え台風など災害への不安から買いだめが発生したという。
外食は原材料価格の高騰に加え、物流費や人件費の上昇で2.5%上がった。菓子類のうち、チョコレートは12.7%上がった。原料のカカオ豆の価格が上昇していることに加え、物流費の上昇もみられる。
家庭用耐久財は7.7%プラスだった。猛暑の影響でルームエアコンが16.1%上昇した。外国パック旅行費も59.4%上がった。
エネルギー分野では電気代が26.2%の上昇だった。23年1月に始めた政府の電気・ガス料金の負担軽減策がいったん終了した影響が出た。
一方、ガソリンは前年同月比3.8%低下とマイナスに転じた。政府は22年からガソリン価格の高騰を抑える激変緩和措置を実施しており、前年8月に価格が上昇した反動で、24年8月はマイナスだった。
全体をモノとサービスに分けるとモノは4.5%上昇した。サービスは1.4%上昇で、前月と上昇幅は変わらなかった。家事関連サービスで人件費が上昇している。
何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.8%ということでしたので、実績の+2.8%はジャストミートしました。品目別に消費者物価指数(CPI)上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月7月統計では前年同月比+2.6%、寄与度+0.63%であったのが、今月8月統計ではそれぞれ+2.9%、+0.69%と引き続き高い伸びと寄与度を示しています。次に、エネルギー価格については、4月統計から前年同月比で上昇に転じ、本日公表の8月統計では先月と同じ+12.0%まで上昇が加速しています。寄与度も7月統計と同じ+0.90%まで拡大しています。特に、インフレを大きく押し上げているのは電気代であり、寄与度は何と+0.82%に達しています。引用した記事で指摘されている通りであり、政府の電気・ガス料金の負担軽減策がいったん終了した影響が出ています。
私が注目している食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮食品が野菜・果物・魚介を合わせて+0.33%あり、うち、生鮮野菜が+0.23%、生鮮果物が+0.10%の寄与をそれぞれ示しています。繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料の寄与度も+0.69%あります。生鮮食品を除くコアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、コシヒカリを除くうるち米などの穀類が+0.15%、うち、うるち米が+0.10%となっています。スーパーなどからコメが姿を消したり、大きく値上げされているのは日常生活でも目にしますし、広く報道されているところかと思います。穀類のほか、豚肉などのの肉類が+0.12%、焼肉などの外食も+0.12%、チョコレートなどの菓子類が+0.11%、などなどとなっています。また、コア財に目を転じると、引用した記事にもあるように、猛暑の影響でルームエアコンなどの家庭用耐久財が+0.11%の寄与、うち、ルームエアコンだけでも+0.07%の寄与を示しています。サービスでは、外国パック旅行費の+0.16%を含めて教養娯楽サービスの寄与度が+0.33%、などといった寄与を示しています。

最後に、現在のインフレが国民生活に大きな影響を及ぼしているひとつの要因は物価上昇率の高さであることはいうまでもありません。すなわち、1990年代初頭にバブル経済が崩壊して、1997-98年ころからデフレに入った後、リーマンショック前後の一時期を除けば、ここ25年余りでもっとも高い物価上昇率であることは国民の負担感の大きさに現れています。もうひとつが上のグラフです。すなわち、上のグラフは 基礎的・選択的支出別/購入頻度別の消費者物価指数(CPI)上昇率の推移 をプロットしていて、選択的な財よりも日常生活に必要性が高い基礎的な財の方の値上がりが大きく、また、頻度高く購入する財の方が値上がりが大きくなっています。これらの要因により、インフレの影響を物価上昇率の数字以上に強く感じる可能性があります。この点は、忘れるべきではありません。
なお、米国の連邦準備制度理事会(FED)は連邦公開市場委員会(FOMC)にて政策金利であるFFレートの50ベーシスの利下げを決めています。FOMC statement の通り、"the Committee decided to lower the target range for the federal funds rate by 1/2 percentage point to 4-3/4 to 5 percent." ということです。他方、日銀は本日まで開催されていた金融政策決定会合において、政策金利の据置きを決めています。「当面の金融政策運営について」にある通りです。今後の日米両国における金融政策の方向についても注目です。
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