2か月連続の赤字となった8月の貿易収支と足踏み続く7月の機械受注をどう見るか?
本日、財務省から8月の貿易統計が、また、内閣府から7月の機械受注統計の結果が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+5.6%増の8兆4419億円に対して、輸入額は+2.3%増の9兆1372億円、差引き貿易収支は▲6953億円の赤字を記録しています。また、機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲0.1%減の8749億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
8月の貿易収支、6952億円の赤字 2カ月連続
財務省が18日発表した8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6952億円の赤字だった。赤字は2カ月連続。半導体関連の輸出額が伸びたことで、赤字幅は前年同月比で26.0%縮小した。
輸出額は8兆4418億円と前年同月比で5.6%増えた。8月としては比較可能な1979年以降で最も大きかった。増加は9カ月連続。輸入額は2.3%増の9兆1371億円で、5カ月連続の増加となった。
輸出額を品目別に見ると、半導体の製造装置が55.2%増と大きく伸びた。半導体など電子部品は15.0%の増加だった。自動車は9.9%減少した。
地域別の輸出額は米国が1兆6066億円と0.7%減った。自動車の輸出が振るわず、35カ月ぶりに減少に転じた。アジアは4兆6620億円で11.4%増だった。
輸入では医薬品が43.5%増えた。欧州連合(EU)から単価の高い医薬品を多く仕入れたことを反映したとみられる。石油製品は42.1%増えた。
地域別の輸入額は医薬品が伸びたEUが17.7%増の1兆1013億円と単月で過去最高を更新した。アジアは4兆2201億円で0.8%増、米国は9491億円で2.0%減だった。
貿易収支を季節調整値で見ると、5958億円の赤字だった。赤字幅は前月比で12.0%縮小した。輸出は3.9%減の8兆7586億円、輸入は4.4%減の9兆3544億円だった。
機械受注7月0.1%減、2カ月ぶりマイナス 造船業下押し
内閣府が18日発表した7月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で0.1%減の8749億円だった。マイナスは2カ月ぶり。内燃機関などの造船業からの発注に反動減が出て、全体を下押しした。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.4%増だった。
内閣府は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」との基調判断を据え置いた。3カ月連続で同じ表現とした。月ごとのぶれをならした3カ月移動平均では0.4%減だった。
製造業は5.7%減の3984億円で、2カ月連続のマイナスだった。17業種のうち7業種が前月から減少した。発注した業種ごとにみると、造船業が51.6%減だった。前月に内燃機関などの大型案件があった反動で7月は落ち込んだ。化学工業は23.0%減、工作機械や航空機を含むはん用・生産用機械は8.3%減だった。
非製造業は7.5%増の4844億円で、2カ月連続で増加した。業種別では自動料金収受システム(ETC)関連の発注をした運輸業・郵便業が35.0%増と押し上げた。金融業・保険業は21.8%増だった。社内システムのデジタル化に関連した投資を実施した。
長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1兆2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲6000億円を超える赤字は、予測レンジ上限の▲7620億円よりもさらに赤字幅が小さく、ハッキリと上振れした印象です。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字は前月7月統計からやや縮小しています。ただし、輸出入ともに減少した縮小均衡という見方もできます。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年8月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。8月統計の▲7000億円には達しない貿易赤字も、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
8月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、引用した記事で石油製品が大きく増加したと報じていますが、確かに+42.1%増hが大きいのですが、金額ベースでは1790億円に過ぎません。9466億円に達する原油及び粗油は前年から▲4.9%減を記録していますし、石油製品のほぼ2倍の輸入額5425億円の液化天然ガス(LNG)の輸入額は+8.3%増となっています。なお、エネルギー価格については、私はまったくの専門外ですので、9月12日に公表された日本総研「原油市場展望」(2024年9月)を見ると、9月に入ってからバレる60ドル台半ばで推移しているWTI原油先物価格は、先行きについて「先行きを展望すると、原油価格は60ドル台後半を中心に推移する見込み。」と結論し、同時に「ハリス氏が大統領に選出され、同氏が掲げる環境・エネルギー政策が実施される場合、原油価格は低下する公算。」と分析しています。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では+6.2%増ながら、金額ベースでは▲2.5%減となっていて、穀物については単価が下落していることが見て取れます。また、引用した記事で指摘している通り、医薬品は前年同月比で+43.5%の大幅増を記録しています。輸出に目を転ずると、電気機器・一般機械といった我が国リーディング・インダストリーが、それぞれ+8.7%増、+7.9%増と輸出を牽引していまる一方で、輸送用機器は▲5.1%減となっています。輸送用機器の中でも、自動車の輸出額は▲9.9%減、数量ベースの台数でも▲11.8%減を記録しています。円高がどこまで輸出に影響を及ぼしているのかについては、現時点では不明ですが、かなり急速な円高ですので、先進各国がソフトランディングするとしても、輸出企業には価格面からのダメージが出る恐れは否定できません。
続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+0.4%増でしたので、実績の▲0.1%減は予想レンジの下限▲1.2%増の範囲ながら、やや下振れした印象です。したがって、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いています。また、業種別に見ても、引用した記事にもある通り、7月統計では製造業が▲5.7%減の3984億円、非製造業が+7.5%増の4844億円と、6~7月の2か月連続で製造業マイナス、非製造業プラスが続いています。円高のダメージが一部に現れている可能性が否定できません。ただ、もっとも謎なのは、設備投資については、日銀短観などで示されている企業マインドとしての意欲は底堅い一方で、設備投資が実行されているかどうかは、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていない点です。すなわち、投資マインドと実績の乖離が気にかかります。乖離の理由について、私は十分には理解できていません。これだけ人手不足が続いている中で、設備投資の伸びもなく、したがって、DXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なかどうか、とても不安が残ります。
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