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2024年9月 9日 (月)

下方修正された4-6月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から4~6月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比+0.7%増、年率換算で+2.9%増を記録しています。2四半期ぶりのプラス成長で、1次QEからはわずかに下方改定されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.2%、国内需要デフレータも+2.6%に達し、7四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP2.9%増に低下、4-6月改定値 持ち直し基調は継続
内閣府が9日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%増、年率換算で2.9%増だった。8月発表の速報値(前期比0.8%増、年率3.1%増)から下方修正した。設備投資と個人消費が若干下振れしたものの、持ち直し基調に大きな変化はみられない。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.8%増、年率3.2%増だった。予測を下回った一方で、2四半期ぶりのプラス成長は変わらなかった。名目GDPは前期比1.8%増、年率換算で7.2%増で、実額は年換算で607兆円だった。
内閣府の担当者によると、ダイハツ工業などの品質不正問題で停止していた生産・出荷が再開し、自動車の購入や設備投資の再開が増えて全体を押し上げる構図に変化はなかった。
GDPの半分以上を占める個人消費は実質で前期比0.9%増だった。速報値は前期比1.0%増だった。直近の指標を反映した結果、お菓子の消費が減った。サービスでは外食の上昇寄与度が速報値の段階より縮小した。
消費に次ぐ柱の設備投資は前期比0.9%増から0.8%増に下方修正した。財務省が2日に公表した4~6月期の法人企業統計などを反映した。
公共投資は速報値の前期比4.5%増から4.1%増に下方修正した。建設総合統計などの結果を反映した。民間在庫の寄与度は前期比マイナス0.1%、政府最終消費支出は前期比0.1%増で、それぞれ速報値段階から変化がなかった。
輸出は前期比1.4%増から1.5%増になった。輸入は前期比1.7%増のままだった。前期比年率の寄与度は内需がプラス3.1%、外需がマイナス0.3%だった。
ソニーフィナンシャルグループの宮嶋貴之氏は「成長率が小幅に低下したものの、速報値の認識を大きく変えるほどではない」と指摘した。「自動車を巡る認証不正問題の一巡など一時的とみられる要因もあり、景気は引き続き踊り場だ」と評価した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。なお、一般には大きな必要ないことながら、今回のGDP推計から内閣府のアナウンスにあるようにコロナ禍の時期のダミー変数の設定が変更されています。

需要項目2023/4-62022/7-92023/10-122024/1-32024/4-6
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.7▲1.1+0.1▲0.6+0.8+0.7
民間消費▲0.8▲0.3▲0.3▲0.6+1.0+0.9
民間住宅+1.4▲1.2▲1.1▲2.6+1.6+1.7
民間設備▲2.0▲0.2+2.1▲0.5+0.9+0.8
民間在庫 *(▲0.0)(▲0.6)(▲0.1)(+0.3)(▲0.1)(▲0.1)
公的需要▲0.9+0.1▲0.4+0.1+0.9+0.8
内需寄与度 *(▲1.0)(▲0.8)(▲0.1)(▲0.1)(+0.9)(+0.8)
外需寄与度 *(+1.7)(▲0.3)(+0.2)(▲0.5)(▲0.1)(▲0.1)
輸出+3.2+0.1+3.0▲4.6+1.4+1.5
輸入▲4.1+1.3+2.0▲2.5+1.7+1.7
国内総所得 (GDI)+1.2▲0.7+0.1▲0.7+0.8+0.7
国民総所得 (GNI)+1.5▲0.7+0.2▲0.6+1.3+1.3
名目GDP+2.0▲0.0+0.7▲0.3+1.8+1.8
雇用者報酬▲0.4▲0.6+0.1+0.2+0.8+0.8
GDPデフレータ+3.7+5.2+3.9+3.4+3.0+3.2
内需デフレータ+2.7+2.5+2.1+2.3+2.4+2.6

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された4~6月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、赤の消費がプラスの寄与度を示しているのが見て取れます。

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基本的には、1~3月期に自動車の認証不正に伴って一部工場の操業停止などの動きがあったことから、4~6月期に工場稼働が再開されたものもあって、反動も含めて消費が伸びてプラス成長につながった、と考えるべきです。ですので、この反動増を割り引く必要もあり、4~6月期の年率+3%近い高成長はそれほど大きな意味はないと私は受け止めています。まあ、何と申しましょうかで、私の従来からの主張である「日本経済自動車モノカルチャー論」を補強してくれている気すらします。その昔の私の小学校のころは、ブラジル経済がコーヒーのモノカルチャーだったと主張する人もいましたし、私が大使館勤務をしていた1990年代前半のチリ経済も銅のモノカルチャーに近かった気がしますが、日本も経済規模が徐々に縮小すればさらに自動車モノカルチャーの色彩を強める可能性が否定できないと思います。

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ただ、先行きを考える場合、8月末から9月初の台風10号による列島マヒを別にして、雇用者報酬の動向が重要となります。上のグラフはその雇用者報酬の季節調整済みの系列を実額でプロットしています。広く報じられている通り、昨年春闘に続いて今年2024年春闘も画期的な賃上げを勝ち取っていて、賃上げが徐々に広がるとともに、他方で、物価の方は落ち着く方向にあるわけで、ジワジワと実質賃金が増加する方向にある点を評価すべきです。実質所得が増加すれば消費だけでなく、住宅投資も増加するでしょうし、それが企業活動にも波及するのは当然です。アベノミクス箱用の増加などをもたらして、一定の成果があったと私は考えているのですが、最大のアベノミクスの誤りは企業から家計への波及がトリックルダウンとして実現する可能性を課題に評価した点だと私は考えています。円安から輸出増、そして企業業績は回復したかもしれませんが、家計への恩恵はまったくないに等しい程度でした。これからは、その志向を逆にして家計の所得を増加させ、消費をはじめとする内需を拡大し、それが企業業績につながる、という真逆のルートを経済政策で模索すべきタイミングだと私は考えています。

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最後に、本日、内閣府から8月の景気ウォッチャーが、また、財務省から7月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.5ポイント上昇の49.0となった一方で、先行き判断DIも+2.0ポイント上昇の50.3を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆1930億円の黒字を計上しています。

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