台風の影響などで大きな減産となった8月の鉱工業生産指数(IIP)と堅調に増加する商業販売統計
本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から3.3%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.8%増の13兆7720億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.8%の上昇を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
8月生産は3.3%低下 台風響き2カ月ぶり低下 自動車・半導体製造装置下押し
経済産業省が30日発表した8月鉱工業生産指数速報は前月比3.3%低下となり、2か月ぶりのマイナスとなった。ロイターの事前予測調査では同0.9%低下の予想だった。台風の影響もあり、自動車や半導体製造装置の減産が下押しした。
<7-9月の前期比プラス確保は困難か>
生産予測指数は9月が前月比2.0%上昇、10月が同6.1%上昇となった。経済産業省は生産の基調判断を「一進一退」で据え置いた。
予測が実現すれば9月の生産指数は101.7となるが、経産省では「102.5以上でないと、7-9月の前四半期比プラス確保は難しい」と試算しており、事実上マイナスとなる公算が大きそうだ。
8月の指数を押し下げた主な業種は自動車が前月比10.6%減、電気・情報通信機械が6.2%減、生産用機械が4.6%減など。主な品目は普通乗用車が16.2%減、半導体製造装置が18.7%減など。
台風により普通乗用車、アルミ建具、鋳物、セメントなど幅広い品目で影響が出た。半導体製造装置は台湾向け輸出が減少した。
9、10月は自動車の挽回生産が寄与する見込み。10月は半導体製造装置など生産用機械が前月比33.4%と大きく増える見通しとなっている。
小売業販売、8月は前年比2.8%増 値上げや買いだめ押し上げ=経産省
経済産業省が30日に発表した8月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.8%増となった。ロイターの事前予測調査では2.3%増が予想されていた。飲食料品の値上げや、土曜日が前年比で1日多かったこと、防災用備蓄などが押し上げた。
業種別の前年比では織物・衣服が11.3%増、その他小売業が6.1%増、機械器具が4.0%増、医薬品・化粧品が2.7%増などだった。
業態別の前年比ではスーパーが5.0%増、コンビニが0.7%増、ドラッグストアが7.4%増、ホームセンターが7.9%増など。防災備蓄用にコメやカップ麺、水、カセットコンロなどの販売が各業態での販売を押し上げた。
家電大型専門店は3.6%増で、スマートフォンの値上げなどが寄与した。
長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。
まず、引用した記事にある通り、鉱工業生産指数(IIP)はロイターの事前予測調査では▲0.9%の減産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、▲1.0%の減産が予想されていましたので、実績の前月比▲3.3%の減産は、例えば、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの予測レンジ下限の▲2.9%減を超えて、予想以上の大きな減産と私は受け止めています。しかしながら、減産の要因のひとつが8月末の台風による影響ですから、何とも景気判断の難しいところです。いわゆるペントアップの挽回生産の増加につながる可能性はありえます。したがって、というか、何というか、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、先月の7月統計で上方改定して「一進一退ながら弱含み」から「弱含み」を削除したところでもあり、今月8月統計を受けて「一進一退」で据え置いています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の9月は補正なしで+2.0%の増産、10月はさらに大きな増産で+6.1%との結果ながら、上方バイアスを除去した補正後では9月増産は+0.3%にとどまります。これらを単純に生産に当てはめると、7~9月期の生産は前期から減産の可能性が十分あります。経済産業省の解説サイトによれば、8月統計における生産は、自動車工業▲10.6%の減産で▲1.40%の寄与度を示しています。加えて、電気・情報通信機械工業が▲6.2%の減産、▲0.55%の寄与度、生産用機械工業が▲4.6%の減産、寄与度▲0.39%、などとなっています。逆に、プラスの寄与を示しているのは、輸送機械工業(除、自動車工業)が+6.8%の増産、+0.19%の寄与度、電子部品・デバイス工業が+2.2%の増産、寄与度+0.14%、などとなっています。
続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。しかし、小売業販売額の前年同月比は+2.8%の伸びを示していますが、引用した記事にある通り、ロイターでは+2.3%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、やや上振れた印象です。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、本日公表の8月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.5%の上昇となりましたので、基調判断が「上方傾向」で据え置かれています。少しさかのぼると、4月統計の「一進一退」から5月統計では「緩やかな上昇傾向」に、また、先々月の6月統計では「上昇傾向」と2か月連続の上方改定となった後、7~8月統計では据置きとなっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、8月統計ではヘッドライン上昇率が+3.0%、生鮮食品を除くコアCPI上昇率も+2.8%となっていますので、小売業販売額の8月統計の+2.8%の増加は、インフレ率を上回っているか、下回っているか、きわどいところです。したがって、実質的な消費は伸びていない可能性が十分あると考えるべきです。加えて、考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。
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