高い上昇率を示す8月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?
本日、日銀から8月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月と同じ+2.7%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても同じく+2.7%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
企業向けサービス価格2.7%上昇 8月、人件費高止まり
日銀が25日発表した8月の企業向けサービス価格指数(2020年平均=100)は107.6と、前年同月比で2.7%上昇した。伸び率は7月(2.7%上昇)から横ばいだった。幅広い分野で人件費上昇を価格に反映する動きが出た。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。例えば貨物輸送代金や、IT(情報技術)サービス料などで構成される。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに、今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
内訳を見ると、宿泊サービスは前年同月比で12.5%上昇した。インバウンド需要を含めた人流回復が続き、前年同月比のプラス基調が継続している。道路貨物輸送は「2024年問題」への対応を含めた人件費の上昇や、燃料コスト上昇の転嫁により3.0%上昇した。
7月に9.4%上昇した外航貨物輸送は8月、1.6%下落に転じた。中国経済の減速を背景とする海運市況の悪化や、為替の円安一服の影響が出た。
調査品目のうち、生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は2.8%上昇し、低人件費率サービスも2.4%上昇した。調査対象の146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは113品目、下落は17品目だった。
もっとも注目されている物価指標のひとつですから、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は7月統計で+3.0%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.1%まで加速した後、本日公表された8月統計では先月7月統計と同じ+2.7%にやや上昇率が縮小しています。1年超の14か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(PPI)とは構成要素が大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。加えて、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、企業向けサービス価格指数(SPPI)で見てもインフレ率は高いながら、物価上昇が+2%を大きく超えて加速する局面ではない可能性が高い、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、8月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービス+2.8%、低人件費率サービス+2.4%の上昇となっています。ですので、引用した日経新聞の記事のタイトルの「人件費転嫁」というのは大きく間違っているわけではありませんが、人件費率に関係なく価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて8月統計のヘッドライン上昇率+2.7%への寄与度で見ると、機械修理や土木建築ササービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+1.38%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分を占めています。人件費以外も含めてコストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で8月統計では+12.5%の上昇と、6月統計の+26.8%や7月統計の+13.7%からは大きく縮小していますが、引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスや道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.37%、ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.30%、景気敏感項目とみなされている広告も+0.22%、などとなっています。
直感的には、消費者物価指数(CPI)上昇率も、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価上昇率も、そして、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率も、いずれもさらに上昇率が加速する段階ではないことは事実です。日本経済研究センター(JCER)が実施しているESPフォーキャストの9月調査結果によれば、消費者物価指数の上昇率はおおむねジワジワと縮小していって、ほぼ1年後の2025年7~9月期には日銀物価目標の+2%を下回ると予想されています。物価上昇が再加速するよりも、緩やかにインフレが収束する方向を見込んでいるエコノミストが多いのだろうと私は受け止めています。
| 固定リンク
コメント