« 2か月連続で減少した8月の機械受注をどう見るか? | トップページ | 5か月ぶりに上昇率が縮小した9月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか? »

2024年10月17日 (木)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編を読む

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し分析編」World Economic Outlook, October 2024: Analytical Chapters が公表されています。まず、章別のタイトルは以下の通りです。

第2章によれば、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)パンデミックによりサービス、特に対人サービスから財へと需要がシフトした一方で、各国政府の需要下支え策もあって需要はそれほど落ちず、財とサービス間で供給と需要のミスマッチが生じたと主張しています。COVID-19パンデミックもあって港湾サービスが不足した上に、パンデミックが収束した際にはサービス需要が持ち直すとともに、さらに、ロシアによるウクライナ侵攻もあって、エネルギーや穀物などの商品価格は大きく上昇しました。したがって、 "the steepening of the inflation-slack relationship - that is, the Phillips curve - are essential to understanding the global surge in inflation" このインフレはフィリップス曲線がスティープになった結果である、と主張しています。そして、このスティープなフィリップス曲線は悪い面と良い面があり、悪い面としては、インフレが急上昇 "inflation can surge" しましたが、いい面として、小さなGDPロスで緊縮策がインフレ抑制を成し遂げた "tighter policy can bring it down quickly with limited output costs" 、と指摘しています。なお、英語の引用はいずれも Chapter 2: The Great Tightening 冒頭のサマリーから取っています。また、こうした需要と供給のミスマッチの結果として、さまざまな部門間で相対価格の変化が大きくスパイクした、とも指摘しています。下のグラフはそのスパイクについて同じ Chapter 2: The Great Tightening から Figure 2.2. Movements in Sectoral Price Dispersion (Percent) を引用して示しています。

photo

第3章についても、Chapter 3: Understanding the Social Acceptability of Structural Reforms 冒頭のサマリーから引用しつつ要約すると、競争を活発化させ、新部門への資源配分を促進し、高齢化が進む中で労働供給を強化する措置 "measures that foster competition, facilitate resource allocation to emerging sectors, and bolster labor supply amid aging populations" を構造改革として進める必要がある、と指摘しています。その上で、情報を基礎とし包括的で信頼に基づくアプローチが政策の質を高めるだけでなく、構造改革の実現可能性と維持のため "the potential of informed, inclusive, and trust-based approaches not only to enhance the quality of policies but also to significantly increase the likelihood of implementing and sustaining structural reforms" 必要である、と結論しています。

photo

最後に目を国内に転じると、本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲1.7%減の9兆382億円に対して、輸入額は+2.1%増の9兆3325億円、差引き貿易収支は▲2943億円の赤字を記録しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲2000億円を少し超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲3000億円近い赤字は、予測レンジ下限の▲6125億円の範囲内でしたが、やや下振れした印象です。なお、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年9月統計まで、3年余り継続して赤字を記録しています。もっとも、季節調整済みの系列で見た貿易赤字幅はかなり縮小してきています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。9月統計の▲2000億円には達しない貿易赤字も、特に、何の問題もないものと考えるべきです。

|

« 2か月連続で減少した8月の機械受注をどう見るか? | トップページ | 5か月ぶりに上昇率が縮小した9月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 2か月連続で減少した8月の機械受注をどう見るか? | トップページ | 5か月ぶりに上昇率が縮小した9月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか? »