金利上昇感が高まる日銀短観と堅調ながら改善局面を終えた可能性ある雇用統計
本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から横ばいの+13、他方、大企業非製造業は+1ポイント改善の+34となりました。また、本年度2024年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.9%と、3月調査の+8.4%から上方修正されています。まず、日銀短観について日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、横ばい 9月日銀短観
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回6月調査(プラス13)から横ばいのプラス13だった。IT(情報技術)市況の回復を受け半導体などが伸び、電気機械が10ポイント改善しプラス11となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。9月調査の回答期間は8月27日~9月30日で、回答率は99.2%だった。
大企業製造業の業況判断DIはプラス13と、QUICKが集計した民間予測の中央値(プラス13)と同じだった。自動車は5ポイント悪化のプラス7、先行きは2ポイント改善のプラス9だった。不正認証問題の影響が緩和しつつあるものの、8月の台風10号など自然災害による工場停止の影響が響いた。
大企業非製造業のDIは前回調査(プラス33)から1ポイント改善してプラス34だった。2四半期ぶりの改善となった。猛暑で夏物衣料など関連商品の需要が伸び、小売りは9ポイント改善のプラス28だった。宿泊・飲食サービスは3ポイント改善しプラス52だった。好調なインバウンド(訪日外国人)需要が押し上げ要因となった。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.3%、5年後は2.2%となった。企業は政府・日銀が掲げる2%物価目標近くで推移するとみている。
24年度の設備投資好調、18.8%増計画 大企業製造業で
日銀が1日公表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の設備投資は引き続き好調を維持している。2024年度の大企業製造業の設備投資計画は前年度比18.8%の増加となった。23年度の増加率は11.1%だった。堅調な業績や人手不足を背景に省力化投資が活発となっている。
全規模全産業は8.9%の増加となった。好調だった23年度の10.6%には届いていないが、高い水準が続いている。
日銀が3月にマイナス金利政策を解除し、企業が金融機関から融資を受ける際の金利は以前より上昇している。借入金利が「上昇」と答えた企業の割合から「低下」の割合を差し引いた判断指数は全規模合計でプラス48となった。前回・6月調査から16ポイント上昇した。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内との予想であり、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回6月調査から横ばいの+13、非製造業は▲1ポイント悪化の+32、と予想されていました。横ばい圏内の動きという意味でも、動きのマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。すなわち、実績としては、短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが6月調査から横ばいの+13となり、また、大企業非製造業では+1ポイント改善して+34となりました。大企業製造業で少し詳しく見ると、自動車が6月調査の+12から9月調査では+7と▲5ポイント悪化した一方で、電気機械が+1から+11に10ポイントの改善を見せています。自動車は認証不正のどうこうにより、やや神経質な動きを示していると私は受け止めています。大企業非製造業では、小売が+19から+28に+9ポイントの改善を見せています。昨日経済産業省から公表された商業販売統計でも小売販売は堅調な動きを見せていますし、景況感に関しては 概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。
先行きの景況感については、製造業については大企業・中堅企業・中小企業ともに、これまた、横ばい圏内ないし小幅な改善の動きを予想していますが、私としては為替レートの動向を懸念しています。非製造業については規模にかかわりなく悪化の方向が示唆されています。非製造業の中でも、特に、いずれの業種でも先行きマインドが悪化すると見込まれています。想定為替レートは、引用した記事にもある通り、6月調査の144.77\/$から9月調査では145.15\/$へと、ジワリと円安方向に修正されています。でも、足元の為替はこれよりわずかとはいえ円高水準ですので、今後、想定為替レートが円高方向に変更される可能性が高いと私は予想しています。

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感の払拭と不足感の拡大が見られます。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった昨年をさらに上回った背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性があるのではないか、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、低賃金労働者が不足しているだけであって、低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性を感じます。

続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。設備投資計画に関しては、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、大企業全産業で+13.9%増でしたが、実績は+10.6%増でしたのでやや下振れました。規模別に見ると、繰り返しになりますが、大企業が6月調査の+11.1%増から下方修正されて+10.6%増、そして、中堅企業が+9.0%増から上方修正されて+9.5%増、中小企業は▲0.8%減から大きく上方修正されて+3.5%増と、人手不足を設備で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での人員増が厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めています。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の9月調査では全規模全産業で+8.9%増の高い伸びが計画されています。6月調査よりも上積みされました。カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。

日銀短観の最後に、借入金利水準判断DIの推移は上のグラフの通りです。上昇から低下を差し引いた%ポイントで表示されているDIをプロットしています。日銀が今年2024年3月からゼロ金利を解除して利上げに踏み切り、米国連邦準備制度理事会(FED)などの先進各国中央銀行が利下げを進める中で、金融引締めの姿勢を崩していません。企業ではなく家計対象なのでしょうが、住宅ローン金利についてもいくつかのメガバンクなどで引上げが予定されていることは、広く報じられているところです。足元で金利が上昇していて、かつ、目先でさらに金利が上昇する可能性が高いわけですが、全規模全産業の借入金利水準の判断DIは、当然ながら、上昇超という判断が多くなっています。しかも、グラフを見ても理解できる通り、急速に金利上昇感が高まっています。すなわち、6月調査時点では上昇超が+32であったのが、9月調査では最近時点で+48と+16ポイント上昇し、さらに、先行きは+54と足元の最近よりもまたまた+6ポイント上昇するとの結果です。これを日銀がどう判断するかについても私は気にかかっています。すなわち、「多くの企業が金利上昇を織り込んだ」と解釈して、そのまま金利の再引上げに突っ走る可能性が否定できません。何とも気がかりなところです。

日銀短観を離れて、本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも8月の統計です。それぞれの統計については、失業率は前月から+0.2%ポイント低下して2.5%と改善した一方で、有効求人倍率は前月を▲0.01ポイント下回って1.23倍と悪化しています。いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率は前月から▲0.1%ポイントの低下して2.6%、また、同じ日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、有効求人倍率は前月から横ばいの1.24倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率は低く、有効求人倍率も1倍を超えていることから、雇用は底堅い印象ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。
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