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2024年11月30日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、蓮見雄・高屋定美[編著]『欧州グリーンディールとEU経済の復興』(文眞堂)は、カーボンニュートラルからサーキュラーエコノミーを目指す欧州グリーンディールのファクトをいくつか取りまとめています。森永卓郎『新NISAという名の洗脳』(PHP研究所)は、政府の新NISA=少額投資非課税制度に関する批判とともに、老後のライフスタイルなどを論じています。東野圭吾『架空犯』(幻冬舎)は、『白鳥とコウモリ』に続く五代刑事を主人公とするミステリです。間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)は、100年後の九州の山奥の小さな家に1人で住んでいる主人公が家族史を書くというSF小説です。坂本貴志『ほんとうの日本経済』(講談社現代新書)は、人口減少による日本経済について雇用や職業や仕事の観点から分析しています。ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』(文春文庫)は、刑事事件専門のエイレングラフ弁護士が依頼人を裁判にかけることなく、破天荒な方法で無罪放免を勝ち取り法外な料金を要求するミステリです。
今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って先週までに計28冊をポストし、合わせて293冊、本日の6冊も入れて299冊となります。目標にしているわけでも何でもありませんが、年間300冊を超えるペースであることは明らかです。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、蓮見雄・高屋定美[編著]『欧州グリーンディールとEU経済の復興』(文眞堂)を読みました。著者は、立教大学経済学部教授と関西大学商学部教授であり、各チャプターの執筆者も大学の研究者となっています。タイトルを目指したご執筆のようですが、前半の欧州グリーンディールについてはEU文書を取りまとめている一方で、後半のEU経済の復興には十分には取り組めていない印象です。前半部分も、一応、欧州グリーンディールそのものが日本的なカーボン・ニュートラルで一息つく中途半端なものではなく、サーキュラー・エコノミーまで見通した演題は成長戦略であるわけですから、もう少し違う取りまとめ方があってもよかったのではないかという気がします。でも、それだけに欧州グリーンディールの全体像を適切に示すのは極めてハードな課題であることを認識させられます。欧州経済の専門家とともに環境経済学の見識も大いに問われるところです。ひょっとしたら、こういった全体像をビジュアル化しつつ適切に取りまとめるのは、大学の研究者とともにコンサルなどが向いているような気がしますが、コンサルの方ではビジネスチャンスがそれなりに適切な規模で確保されないと取り上げないでしょうから、そういった場合に大学の研究者が公共財的な情報取りまとめを行うのは適切なことだろうという気がします。ということで、私が注目したのは第4章の産業戦略としての観点からの分析なのですが、自動車産業の事例については、やや物足りない印象です。EU文書から適宜抜き刷っただけの取りまとめでは、学術書としては不十分と考えるべきです。加えて、ファイナンス関係でも、ECB文書を中心とした取りまとめに終止していて、機関投資家によるグラスゴー金融アライアンス(GFANZ)などには注目していないようです。おそらく、量的にも質的にも、公的機関からの資金というよりも、機関投資家による投資の影響力が無視できないと私は考えていますので、繰り返しになりますが、EUなどの公的機関の文書取りまとめだけでは不十分だと考えるべきです。その上、おそらく、こういった研究書はこれからも出版されることと思いますが、本書はほぼほぼdescriptiveな内容に終止していて、私としてはもっとanalyticalに掘り下げた分析も欲しいと考えます。例えば、本書ではファイナンス行動におけるサステイナブル基準という意味でのタクソノミーの動向を重視していて、それはそれでいいのですが、タクソノミーが割合と注目されたGATTウルグアイ・ラウンドの農業補助金の例なんかと比較しつつ、分析的な視点を提供していただきたいと考えます。しかし、他方で、ほとんど経済学的な小難しい分析、特に計量経済学を駆使した数量分析が含まれておらず、記述的な内容に終止しているだけに、学術書ではなく、さまざまな事実関係を情報として把握したいと考えるビジネスパーソンや実務家にはオススメであり、十分な価値がありそうな気もします。

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次に、森永卓郎『新NISAという名の洗脳』(PHP研究所)を読みました。著者は、経済アナリスト・エコノミストです。本書はタイトル通りに、新NISA=少額投資非課税制度に関する批判や警告を主たる中身としていますが、老後生活やライフスタイルに関しても幅広く論じています。私も共感するところが多く、レビューしておきたいと思います。まず、第1章では投資に関する6つの神話を否定しています。その中のひとつについて、私も考えるところがあります。すなわち、分散投資が投資のリスクを回避ないし低下させるかどうか、という論点です。本書では実に的確にも、金融商品2つを持つリスクは単純に2つの金融商品のリスクの積ではなく、さらにその2つの相関係数をかけ合わせた積になる点を強調しています。ですから、相関係数が小さければ、金融商品を2つ持つとリスクが低下するわけです。ただこれには以下のような落とし穴があります。私も授業で取り上げたことがあります。例えば、株価を例に取ると、コカコーラとペプシコーラの株価の相関関係をどう見るか、です。コーラ全体への需要はそう大きな変化なく、コカコーラからペプシコーラに需要がシフトするだけであれば、両社の株価の相関は逆相関となります。ただ、清涼飲料としてのコーラから別の何か、例えば紅茶飲料にシフトするとすれば、両社の株価は順相関で連動します。ではどう考えるか、の問題となります。本書では、多くの株価は一定の条件のもとで連動すると指摘します。すなわち、バブル崩壊の際はそうなります。バブルが崩壊して株式をはじめとする資産価格が下落する際には、すべての資産価格が順相関していっせいに落ちます。そして、深く議論を展開されているわけではありませんが、本書ではバブルは崩壊し、資本主義は終焉を迎えると指摘しています。繰り返しますが、この点について本書では深く議論されていません。資産運用編のレビューを終えて、ライフスタイルや老後生活の部分について考えると、ここでも私の賛同する見方が示されています。特に賛同するのは東京にこだわらない、という論点です。著者は所沢在住で、いわゆる「トカイナカ」に住むことを推奨し、あるいは、トカイナカと東京の2拠点生活を実行しています。私は国家公務員の定年とともに東京から500キロ以上も離れて関西に引越して、トカイナカどころか、関西でも京阪神ではなく、しかも県庁所在市でもない場所で生活しています。ハッキリいって、大きな不便はありませんし、東京に住み続けることが「勝ち組のステータス」あるいはみえでしかない、という本書の主張は納得できます。まあ、ホントのところは東京に未練がないわけでもないのですが、それはさておき、本書でも指摘しているように、老後生活は投資で稼ぐという拡大均衡的な収入増路線よりも、むしろ生活コスト削減でもって豊かな暮らしを目指す、とい方向性に大きく賛成です。定年を迎えて第一線を退いたからには、"Small is Bueautiful." の生活をしたいものだと思います。本書では、いわゆる「最後は金目でしょ」のお話が大きな部分を占めていて、その前段階の健康に関するトピックには深入りしていません。余命宣告された著者ですので、仕方ないかもしれません。最後に、本書で推奨するようなアーティストになるのは、私の場合は少し難しい可能性があることは自覚しています。

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次に、東野圭吾『架空犯』(幻冬舎)を読みました。著者は、我が国でも有数の売れっ子のミステリ作家です。出版社も売上を期待しているのか、特設サイトを開設したりしています。本書は同じ出版社の『白鳥とコウモリ』の続編であり、したがって、警視庁の刑事である五代努が主人公となって謎解きを繰り広げます。本書冒頭でも、「先の清洲橋事件を解決した」という形容詞を付けられており、本書の中でも上司から五代刑事がしばしばご下問を受け、推理能力が高く評価されていることがうかがえます。ということで、ストーリーは東京の高級住宅街にある一軒家が火事になり、焼け跡から2人の死体が発見されます。住宅は都議会議員の藤堂康幸とその夫人で元女優の恵利子の夫婦が住んでいて、死体はその2人と特定されます。しかし、死因は焼死ではなく、出火前に絞殺されていたことが捜査の結果明らかとなり、要するに、殺人事件としての捜査が早い段階から開始されます。殺された夫婦は、40年近く前に東京都西部にある都立昭島高校で教師と生徒という間柄であった点が明らかになり、捜査は昭島コネクションを中心に進められます。40年近く前の高校生の自殺、恵利子の卒業後から女優デビューの間の謎の空白期間、恵利子が支援していた児童福祉施設、色んな要素が絡まり、しかも、極めて意外な人物が犯行を自供したりして、事実関係だけでもとても複雑な様相を呈しています。その上に、小説の登場人物の心理についても細かな描写が当てられていて、さらにその上に、都議会議員の死亡事件だという点を割り引いても文体そのものが濃厚で、それに輪をかけてストーリー展開も重厚な作品に仕上がっています。途中から、私のような頭の回転の鈍い読者でも、徐々に犯人像がクリアになっていきます。最後の最後に名探偵が関係者を一堂に集めた上で、アッと驚く犯人を指摘するタイプのミステリと違って、お話が進むにつれてひとつひとつ玉ねぎの皮をむくように真相が明らかになるタイプのミステリです。たぶん、シリーズ前作である『白鳥とコウモリ』とともに、何らかの形で映像化されるのではないか、と思いますし、引き続き、五代努がガリレオこと湯川学や五代と同じ警視庁刑事の加賀恭一郎などとともに、新たなシリーズの主人公となるのだろうという気がします。

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次に、間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)を読みました。作者は、もちろん、作家なのですが、この作品が第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、デビューしています。ですので、この作品は当然SF小説です。しかも、とてもエモいポストヒューマンSFです。舞台設定はほぼほぼ100年後の九州です。すなわち、主人公は九州の山奥の小さな家に1人で住んでいて、おしゃべりが大好き、という設定です。一応、1997年生まれで人間であったころは女性ということになっています。その主人公が、2123年10月1日、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始めます。それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる融合手術を受ける時に、時間が余るだろうからと父親から提案されたことでした。主人公は両親の4人目の子どもであり、三女として生を受けましたが、主人公の出生の際に母親は亡くなってしまいます。上の兄姉と年齢が離れていて、成長するに従って亡くなった母親と容貌が似てきたので父親からは溺愛されますが、主人公が物心つくころには離れて住んでいた兄姉からは、母親の死の「責任」の一端めいた感情と父親から受ける扱いに反発して少し疎まれます。一家は裕福で働く必要もありませんでしたが、25歳の時に体調不良から合法化されていた安楽死を希望します。でも、父親に強く反対され、逆に、不老不死のサイボーグのような肉体となる融合手術を受けます。そして、主人公以外の手術を受けない人間のままの家族は、父親から始まって兄や姉は死んで行き、主人公が家族を看取るわけです。もっとも年齢の若い家族はすぐ上の姉の子供であり、主人公から見ると甥に当たる新(あらた)、主人公は「シンちゃん」と呼ぶ赤ん坊であり、彼は融合手術と同じ日に生まれ、2人は近親相姦的とも見えかねない恋人になります。そして、主人公は家族史をシンちゃんにおしゃべりするのですが、そのシンちゃんも死んでしまったため、文章で家族史を綴ってゆくことになるわけです。3章構成となっている本書の第1章はこのようなストーリーで、一応、主人公が紙に手書きで書いたということになっています。そして、第2章の多くの部分は口述の記録、さらに、第3章はこれも口述によるシンちゃんへの呼びかけのような形を取っています。あらすじは第1章までとしますが、この第1章はとてもひらがなが多くなっています。その昔に読んだ『アレジャーノンに花束を』に似た印象ですが、誤字脱字はありません。最後の方では、主人公は長い距離を歩いて旅をし、いかにもSF的な人々、というか、グループに出会います。その時点での日本の状況、例えば、気候変動が進みまくった100年後の日本をはじめとするあたりについては読んでみてのお楽しみ、ということになります。SFなのですが、架空の存在や出来事ばかりを並べるのではなく、Orangestarの「アスノヨゾラ哨戒班」とか、永瀬拓矢が将棋電王戦FINAL第2局でコンピューターソフトのSeleneと対局して勝利したことなど、21世紀初頭の歴史的事実をうまく織り込んで、実に巧みな構成としていると感じました。人間とは、愛情とは、家族とは、いろいろと考えさせられますし、繰り返しになりますが、読み進んでいくうちに何ともいえないキツい感情がこみ上げてきました。エモいです。読者によっては短い小説ながら投げ出してしまう人がいるかもしれません。ある程度の「覚悟」を持って読むべき小説かもしれない、と感じました。

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次に、坂本貴志『ほんとうの日本経済』(講談社現代新書)を読みました。著者は、リクルートワークス研究所の研究者です。本書は3部構成であり、第1部で人口減少経済における10の変化を上げ、第2部で労働現場における機械化と自動化を論じ、第3部で人口が減少する日本経済の方向について未来予測を8点上げています。まず、最初に第1部では、バブル崩壊後のいわゆる「失われた30年」における労働需給の緩みが人口減少とともに大きく減退し、足元から先行きはむしろ人手不足となり、労働時間減少が進むこともあって、急速に労働参加率が高まっても、経済学でいう生産関数のインプットである労働が不十分な状態となる点を強調しています。人手不足なのですから、賃金は最近時点での春闘の賃上げ率を見ても理解できるように、いよいよ上昇し始めているわけです。そして、バブル崩壊後長らく続いた需要不足から供給制約が強まる経済へと進むことを見通しています。もちろん、要素間代替により設備投資が進んで省力化は進むのでしょうが、第2部では、機械化や自動化が進んでもエッセンシャルワークといわれ、人が自ら労働しなければならない部分は、少なくともそれほど早期にはなくならず、人手不足から人件費高騰、そしてインフレが引き起こされる可能性を論じています。第2部ででは、ほかにも、サービス化が進んだ日本経済において、今まで無償で提供されていたサービスが有料化したり、あるいは、提供されなくなったりする可能性を指摘しています。はい、私もそう思います。というのは、サービスにおいては、提供されるサービスの量や質とそのサービス価格が日本では不釣り合いな印象があって、いわば、無償での過剰サービスがしばしば見られる、と私は感じていました。たとえば、ホテルなんかでは適切な料金を取ることなく無償のサービス提供が日本では多くて、海外ではそこまでしない、というか、有料のサービスとなるような気がしていました。ただ、何だかんだで、医療や介護の場においては最後は人手に頼らざるを得ないシーンが多くなります。しかも、医療や介護は典型的に情報の非対称が大きいサービスであり、すべてを市場に委ねることが不適当で公的な規制や政府介入の必要性が高い分野であることから、ご予算制約などから、サービスを提供する雇用者サイドでは賃金が、サービス利用者サイドでは料金が、それぞれ低く抑えられがちであることも事実です。すなわち、提供されるサービスの質と量に見合った価格設定がなされにくい分野であると考えられます。最後の第3部の将来予測については、読んでみてのお楽しみなのですが、人口減少とともに「小さな経済社会」に向かう中で、どのような方向性を探るか、ひとつには人口減少を緩和する意味も含めて、雇用や仕事に重点を置く本書の方向性がよく現れています。本書はあくまでリクルートワークス研究所の研究員が、日本経済を雇用や職業・仕事といった切り口で分析した結果ですので、輸出競争力や何やといった観点はありません。その意味で、タイトルはやや大きく出ている印象です。でも、雇用や仕事やといった身近な日本経済について改めて考えさせられるトピックを扱っています。

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次に、ローレンス・ブロック『エイレングラフ弁護士の事件簿』(文春文庫)を読みました。著者は、犯罪小説をメインとするミステリ作家です。私は初読だと思います。本書には『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』に収録された作品を中心に短編12作品が収録されています。すべての短編に「エイレングラフの」がつくのでその部分を省略すると、「弁護」、「推定」、「経験」、「選任」、「反撃」、「義務」、「代案」、「毒薬」、「肯定」、「反転」、「決着」、「悪魔の舞踏」となります。なお、最初の作品は1976年、そして、最後は2014年となっていて、40年間近くに渡って書き続けられているようです。すべての短編作品のあらすじを紹介すると長くなりますので、いくつかのエッセンスを取りまとめておきます。まず、主人公は刑事弁護士なのですが、冒頭の作品で「法廷での丁々発止のやりとりとか、反対尋問の妙技とかは、世のペリー・メイスン諸氏にまかせておけばいい」という主人公の言葉があり、法廷シーンは皆無です。要するに、起訴されることなく依頼者を無罪放免にすることをモットーとしています。そして、その料金はかなり高額で、ご本人が「法外」という表現を使っているケースもあります。どうして依頼人が無罪放免になるかといえば、例えば、最初の短編「エイレングラフの弁護」では、大学生の母親が駆け込んできて、大学生の息子はオックスフォード大学に留学した経験があって、大学のキャドモン会のメンバーになっていたのだが、その息子の恋人、というか、元婚約者がそのオックスフォード大学キャドモン会の独特のネクタイで絞殺された、というシチュエーションです。そんな極めてめずらしいネクタイは周囲数キロに渡って所有している人はいなさそうなのですが、エイレングラフ弁護士が弁護を引き受けた後になって、同様の殺人事件が3件起こって依頼人の息子の大学生は釈放されます。何が起こったのかは読んでみてのお楽しみですが、エイレングラフ弁護士がとんでもないことをやった可能性が示唆されます。お決まりのルーティンとして、エイレングラフ弁護士の出で立ちが詳細に語られます。そして、エイレングラフ弁護士が法外な成功報酬をふっかけます。そして、エイレングラフ弁護士が引き受けると、とんでもないことが起こったり、別の真犯人らしき容疑者が見つかったり、なんてことがあって、依頼人や容疑者は裁判にかけられることなく無罪放免となります。そして、ほぼお決まりのラストは依頼人は法外な料金を支払うことをためらいます。最後に依頼人は支払いに応ずるケースがほとんどですが、ひとつだけ、実際に支払わなかったと思しき事件があり、その依頼人はたいへんな目に遭います。ほぼワンパターンでストーリーは進みますし、多くの事件が殺人事件です。でも、エイレングラフ弁護士の役回りは殺人事件の真犯人を明らかにするのではなく、あくまで依頼人の無罪放免です。そして、ことごとく、そのミッションは成功裏に終わります。繰り返しになりますが、フレッド・ダネイ、すなわち、エラリー・クイーンのうちの1人が編集者として、これらの作品を『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』に収録していますので、型破りなものが多いながら、一応、ミステリなんだと思います。

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2024年11月29日 (金)

2か月連続で増産となった鉱工業生産指数(IIP)と伸びが縮小する商業販売統計と堅調な雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+3.0%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.6%増の13兆8590億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.1%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.5%と悪化した一方で、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.25倍と改善しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産10月は前月比3.0%上昇、先行きは2カ月連続マイナスへ
経済産業省が29日公表した10月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は前月比3.0%上昇し、2カ月連続のプラスとなった。半導体・フラットパネル製造装置や自動車生産が指数を押し上げた。
ただ、ロイターが集計した民間予測の前月比3.9%上昇は下回った。生産予測指数は2カ月連続の前月比低下で、経産省幹部は「自動車や半導体製造装置、米中経済など注視が必要」としている。
企業の生産計画から算出する予測指数は11月が前月比2.2%低下、12月は同0.5%低下だった。基調判断は「一進一退」で据え置いた。
10月の生産品目別の前月比は、半導体製造装置が67.2%増、フラットパネル・ディスプレイ製造装置が94.2%増、普通乗用車が9.0%増、橋りょうが2.15倍など。学校用の更新需要でノート型パソコンなどの生産も伸びた。
一方、半導体メモリーは17.8%減だった。スマートフォン向けなどフラッシュメモリー需要が低下した。
小売業販売額10月は前年比1.6%上昇、自動車増・食品減=経産省
経産省が29日公表した10月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比1.6%上昇だった。自動車やスマートフォンなどが伸びた一方、食品、衣類は減少した。ロイターが集計した民間予測中央値の2.2%上昇を下回った。
業種別の前年比は自動車が7.8%増、機械器具が4.8%増、燃料が3.1%増だった。一方、各種商品が3.9%減、織物・衣服が1.9%減、飲食料品が0.3%減だった。一部自動車メーカーの生産再開や、スマートフォン販売増などがけん引する一方、休日が昨年より1日少なかったことにより、飲食料品の販売数量減などが響いた。
経産省の担当者によると、調査対象企業から「節約志向の高まりで食品の数量が減少した」との声もあったという。
業態別ではドラッグストアが前年比4.3%増加した。マイコプラズマ肺炎の感染が広がったほか、新型コロナの影響もあり調剤が好調。コメ、菓子類販売も伸びた。
コンビニエンスストアも前年比2.0%増。インバウンド(訪日外国人)客向けに菓子の販売が増えたという。
一方、前年比で百貨店は1.3%減と32カ月ぶり、スーパーは0.3%減と33カ月ぶりにマイナスだった。休日数が少なかったほか、高い気温が続き冬物衣料・暖房器具などが不調だった。
失業率10月2.5%、労働市場は拡大 有効求人1.25倍に上昇
政府が29日発表した10月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.5%だった。前月から0.1ポイント上昇したが、「非労働力人口」から就業者や完全失業者にシフトするなど労働市場に拡大の動きもみられ、雇用情勢は悪くないという。有効求人倍率は1.25倍で前月から0.01ポイント上昇した。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.24倍と見込まれていた。
総務省によると15歳以上で労働力人口に入らない「非労働力人口」は17万人減少した一方、就業者数が16万人、完全失業者数が3万人それぞれ増加した。総務省の担当者は、労働供給側からみると「雇用情勢は悪くない」との認識を示している。
伊藤忠総研のチーフエコノミスト、武田淳氏は「労働市場は完全雇用の状況にある」と指摘。日本経済は今後、年収の壁の引き上げや賃上げ機運の一段の高まり、円安の修正によって内需中心の成長軌道に乗るとし、「日銀は来月以降いつでも利上げできる」との見方を示した。
<人手不足が続く>
有効求人倍率は4月(1.26倍)以来6カ月ぶりの高水準。
厚生労働省によると、10月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.2%増加した。製造業や建設業などで原材料や人件費などのコスト上昇を背景に求人を手控える動きはあるものの、全体的に人手不足は続いている。
有効求職者数(同)は0.7%減。物価高騰などで家計が苦しくなる中で生活の安定志向が強まり、現在の職からの転職を様子見する動きも一部にみられた。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たり企業から何件の求人があるかを示す。企業の多くは人手不足に対応するため賃金を引き上げて求人しているとみられ、厚労省の担当者は「雇用は決して悪い状況にはない」と述べた。

3つの統計から取りましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+3.9%の増産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく+3.9%の増産が予想されていましたので、実績の前月比+3.0%の増産はやや下振れた印象です。しかしながら、我が国主要産業である生産用機械工業や自動車工業が牽引した増産ですので、やや市場の事前コンセンサスから上振れた印象とはいえ、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いてしています。
先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の11月は補正なしで▲2.2%の減産であり、上方バイアスを除去した補正後では、さらにマイナス幅が広がって▲3.7%の減産と試算されています。先行き生産は2か月連続の減産を見込んでいるわけです。加えて、12月も▲0.5%の減産との予想となっています。経済産業省の解説サイトによれば、10月統計における生産は、生産用機械工業が前月比で+21.7%の増産で+1.74%の寄与度を示したほか、自動車工業が+6.4%の増産で+0.83%の寄与度、金属製品工業が前月比+8.1%増で+0.34%の寄与度、などとなっています。他方で、生産低下に寄与したのは、電子部品・デバイス工業がが▲8.5%の減産、寄与度▲0.54%、輸送機械(除、自動車工業)が▲13.3%の減産、寄与度▲0.40%、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での寒冷なのですが、伸び率はまだプラスを維持しているものの、プラス幅が落ちてきているのが見て取れます。その上、季節調整済みの系列では先月9月統計で前月比マイナスを記録した後、今月10月統計でも+0.1%の小幅な伸びにとどまっています。引用した記事にある通り、ロイターでは前年同月比で+2.2%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、下振れした印象を持つエコノミストも多かろうと思います。ただ、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断しているところ、本日公表の10月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.3%の減少となりましたので、先月の段階で「上方傾向」から「一進一退」と明確に1ノッチ下方修正した後、今月も「一進一退」で据え置かれています。鉱工業生産と同じ表現となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、10月統計ではヘッドライン上昇率が+2.3%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.3%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も+2.3%となっていますので、小売業販売額の10月統計の前年同月比+1.6%の増加は、インフレ率をやや下回っている可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。引用した記事にもインバウンド消費が言及されています。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは前月と同じ2.5%、有効求人倍率も前月から横ばいの1.24倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率は前月から横ばいながら、有効求人倍率は10月統計では改善を示し、もちろん、どちらの指標も雇用の底堅さを示す水準が続いています。ただし、グラフからも明らかなように、雇用は堅調ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。ただ、それでも、今年2024年に入ってから10月統計までに失業者数は季節調整済み系列の累計で▲1万人減少しており、その背景として、同じ期間に就業者が+34万人増、雇用者にいたっては+49万人増と大きな増加を示しています。なお、季節調整していない原系列の統計で失業者数は前年同月比で▲5万人減少しています。もちろん、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計は10月統計の失業率と有効求人倍率のように改善と悪化のまだら模様である一方で、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を高めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

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最後に、本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。11月統計では、前月から+0.2ポイント上昇して36.4を記録しています。グラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。消費者態度指数を構成する指標について前月差で詳しく見ると、「収入の増え方」が+0.8ポイント上昇し40.2、「耐久消費財の買い時判断」が+0.2ポイント上昇し29.9、「暮らし向き」が+0.1ポイント上昇し34.3となった一方で、「雇用環境」は▲0.6ポイント低下し41.0となりました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。6か月連続の据え置きです。また、インフレに伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が10月の47.9%から47.5%に低下する一方、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は33.8%から34.1%に増え、物価上昇を見込む割合は93.2%と前月10月統計から変化なくと高止まっています。

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2024年11月28日 (木)

リクルートによる10月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明日11月29日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、6月+2.0%増とやや上昇幅が縮小していたのですが、7月には+2.6%増の後、直近で利用可能な8月には+2.9%増から少しずつ上昇幅を拡大して、本日の10月統計では+3.0%増となりました。先週11月22日に公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が10月統計でヘッドライン、生鮮食品を除くコアともに+2.3%でしたから、アルバイト・パートの賃金上昇は物価上昇をやや上回った、と考えています。募集時平均時給の水準そのものは、2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、今年2024年10月で1,200円に達したわけで、現在、報じられている最低賃金と比較しても、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方は、8月+1.5%増、9月+3.1%増に続いて、10月は+1.4%増と、まずまず底堅い動きながら、CPI上昇率には追いついていません。アルバイト・パートの時給の方今年2024年に入ってから横ばいだったのですが、10月からの最低賃金の施行とともに、少し上向く結果となりました。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、10月には前年同月より+3.0%、前年同月よりも+35円増加の1,212円を記録しています。職種別では前年同月と比べて伸びの大きい順に、「フード系」(+43円、+3.8%)、「製造・物流・清掃系」(+42円、+3.6%)と「販売・サービス系」(+41円、+3.6%)、まで平均よりも高い伸びを示していて、「事務系」(+20円、+1.6%)、「営業系」(+19円、+1.6%)、「専門職系」(+15円、+1.1%)は伸び率は小さいものの、すべての職種で前年同月比プラスとなっています。また、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、10月には前年同月より+1.4%、+23円増加の1,643円となりました。職種別では、「オフィスワーク系」(+49円、+3.1%)、「医療介護・教育系」(+28円、+1.9%)、「製造・物流・清掃系」(+21円、+1.5%)、の3業種は前年比でプラスの伸びを示しましたが、「営業・販売・サービス系」(▲8円、▲0.5%)と「クリエイティブ系」(▲9円、▲0.5%)、「IT・技術系」(▲77円、▲3.4%)、は減少を示しています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、私なんかは授業では正規雇用に比較して不利な点が3点ある、と指摘しています。すなわち、低賃金労働であるとともに、「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきた上に、正規雇用職員に比べて教育訓練の機会が少なくなっています。リクルートの調査では賃金しか把握できませんが、直近で利用可能な10月統計で見ると、やっぱり、派遣社員の時給引上げ率は消費者物価上昇率に届いていない、という結果です。

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2024年11月27日 (水)

世界各国におけるチャイルドペナルティの大きさやいかに?

Child Penalty=チャイルドペナルティとは、子どもを持つことにより、主として女性が社会的に、主として職業上の不利益を受けることを意味する言葉です。まあ、日本なんかはジェンダーギャップが先進国の中ではとても大きいわけですので、たぶん、チャイルドペナルティも大きいんだろうと私は想像しています。そのチャイルドペナルティについて世界各国の推計を試みた論文が Review of Economic Studies に採択され、近く刊行される予定となっています。そのタイトルはズバリ "The Child Penalty Atlas" です。まず、ジャーナルのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。長くなります。

Abstract
This paper builds a world atlas of child penalties in employment based on micro data from 134 countries. The estimation of child penalties is based on pseudo-event studies of first child birth using cross-sectional data. The pseudo-event studies are validated against true event studies using panel data for a subset of countries. Most countries display clear and sizable child penalties: men and women follow parallel trends before parenthood, but diverge sharply and persistently after parenthood. While this pattern is pervasive, there is enormous variation in the magnitude of the effects across different regions of the world. The fraction of gender inequality explained by child penalties varies systematically with economic development and proxies for structural transformation. At low levels of development, child penalties represent a minuscule fraction of gender inequality. But as economies develop - incomes rise and the labor market transitions from subsistence agriculture to salaried work in industry and services - child penalties take over as the dominant driver of gender inequality. The relationship between child penalties and development is validated using historical data from current high-income countries, back to the 1700s for some countries. Finally, because parenthood is often tied to marriage, we also investigate the existence of marriage penalties in female employment. In general, women experience both marriage and child penalties, but their relative importance depends on the level of development. The development process is associated with a substitution from marriage penalties to child penalties, with the former gradually converging to zero.

続いて、引用情報は以下の通りです。

私は分析手法についてはよく理解できていないのですが、横断的なクロスセクションのパネルデータを用いて第1子出産の疑似イベントスタディ pseudo-event studies という手法を用いて、世界134か国のチャイルドペナルティの世界地図を作成しています。まず、論文から Figure 3: Validation of Pseudo-event Study Approach を引用すると以下の通りです。4枚目のパネルDに日本が示されていて、第1子出産直後に縦軸の Employment Impact が大きな負のショックを受けていることが見て取れます。

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次に、この論文の主たる目的であるチャイルドペナルティの世界地図、ヒートマップを論文の Figure 9: Heatmap of Child Penalties により引用すると以下の通りです。テーブルのランキング表のようなものはないのですが、ヒートマップからすれば、日本の成績はかなり悪いんだろうと私は想像しています。

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最後に、チャイルドペナルティの研究はかなり以前から行われていたのですが、最近時点で大きな画期となって研究がさらに進むきっかけとなった論文があり、その論文は紹介した論文の著者3人のうちの2人が別の研究者と執筆しています。これも引用情報だけ示しておきます。論文は complimentary で以下のリンクからダウンロードすることが出来ます。

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2024年11月26日 (火)

+2.9%の高い伸びとなった10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は物価と賃金の好循環を示しているのか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月からわずかに縮小して+2.9%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについては前月と同じ+2.8%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格10月は2.9%増、指数は95年以来の高水準=日銀
日銀が26日公表した10月の企業向けサービス価格指数は、前年同月比プラス2.9%の108.7と、バブル崩壊後の1995年6月以来の水準まで上昇した。価格改定時期で幅広く値上げが実施されたが、とくに人件費や燃料費などのコスト上昇を背景に郵便料金が改定されたことが主要因と日銀は分析している。高人件費率サービスも3.3%上昇、外航貨物輸送やインターネット広告もプラスに寄与した。
前年比プラスは3年8カ月連続。10月は4月と並び企業の多くが価格改定をするタイミングで、前月比でも0.8%上昇した。
人件費が上昇する局面では消費者物価のサービス指数よりも企業向けサービス価格の方に早く反映される傾向があることから、民間エコノミストの間では注目度が高い。
日銀は金融政策を運営するに当たり、賃金と物価が関連し合いながら伸長していく好循環の実現を注視している。
大和総研エコノミストの中村華奈子氏は、企業間サービスでは、コストの転嫁が進み循環的な物価の上昇が根付きだしていることが改めて確認できたが、日銀がより重視する消費者物価のサービスは、価格転嫁の遅れもあり思ったより強くないとみる。
中村氏は「今日のデータだけで、賃金と物価の好循環が実現していると手放しで喜ぶのは危険だ」と指摘。12月中旬の金融政策決定会合で日銀の追加利上げを予想する市場関係者もいるが、日銀は1-3月まで待つだろうとし、「春闘の見通しをはじめ、あらゆるデータを見るデータディペンダントな姿勢を日銀は崩さないだろう」との見方を示した。
企業向けサービス価格指数は不動産や運輸、金融、広告など企業が提供している各種サービス価格の傾向を示すため日銀が公表している指数で、内閣府の国内総生産(GDP)統計を算出するための基礎統計としても利用されている。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、今年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は10月統計で+3.4%を示しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準として一貫して上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2023年11月に+2.8%まで加速し、さらに今年2024年6月統計では+3.2%まで加速した後、本日公表された10月統計では+2.9%と高止まりしています。1年超の16か月連続で日銀物価目標である+2%以上の伸びを続けているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なります。しかし、いずれにせよ、+2%超の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性があります。ただし、真ん中のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、物価上昇率が高止まりしていることは事実としても、インフレが+2%を大きく超えて加速する局面ではない、と私は考えています。また、人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はありません。引用した記事の通り、10月統計の前年同月比で見て、高人件費率サービス+3.3%、低人件費率サービス+2.8%の上昇となっています。ですので、人件費率に関係なく+2%超の価格上昇が見られる点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて10月統計のヘッドライン上昇率+2.9%への寄与度で見ると、機械修理や宿泊サービスや土木建築サービスなどの諸サービスが+1.66%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。人件費以外の原材料やエネルギーなども含めて、コストアップが着実に価格に転嫁されているというのが多くのエコノミストの見方ではないでしょうか。ただし、諸サービスのうちの宿泊サービスは前年同月比で9月統計では+17.1%の上昇と、引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.53%、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.29%、ほかに、景気敏感項目とみなされている広告+0.22%、リース・レンタル+0.15%などとなっています。

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2024年11月25日 (月)

AERA「『専業主婦願望はゼロ』 幼いころうんざりした父親の言動」に見る女子学生の希望する世帯のスタイルやキャリアプラン・ライフプランやいかに?

11月25日付けのAERAの記事「『専業主婦願望はゼロ』 幼いころうんざりした父親の言動」を拝読しました。私の勤務校である立命館大学経済学部には、たぶん、30%から40%近い比率で大学・大学院とも女子が在学しているんではないかと見ています。しかるに、なぜか私のゼミにはほとんど女子が来てくれないのですが、ゼミだけではなく、もっと女子の比率が高いであろう文学部の授業も担当していたりしますので、少し興味を持って見ていました。

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上はAERAのサイトから 女子学生が希望する世帯スタイル と題するグラフを引用しています。2016年卒も2024年卒も共働き世帯を希望する割合がほぼほぼ75%あり、¾の卒業生が共働きを希望していることが読み取れます。実は、今年2024年版の「男女共同参画白書」の冒頭p.5に 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移 と題するグラフがあり、2023年時点で妻が64歳以下の世帯において、雇用者の共働き世帯が1,206万世帯に上るのに対して、男性雇用者と無業の妻から成る世帯、いわゆる専業主婦のいる世帯は404万世帯に過ぎません。大雑把に¾の世帯が共働きということで、実に整合的な統計となっています。AERAの記事では総務省統計局による労働力調査を引いて、「働き世帯は1278万世帯、専業主婦世帯は517万世帯」としていて、ビミョーに数字が違っているものの、大きな違いはありません。それはともかく、女性の社会進出が進み仕事と家庭を両立しやすくなっているという背景は無視できないとはいえ、男女ともに学生が希望する世帯のスタイルやキャリアプラン・ライフプランが大きく多様化した今となっては、かつての寿退職や専業主婦という存在が現在の学生諸君には希薄なわけで、日本経済を授業で教える際にも十分な配慮が必要か、と考える今日このごろです。

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2024年11月24日 (日)

今年2024年のベスト経済書やいかに?

経済週刊誌から寄せられていたアンケート「2024年ベスト経済書」について、ようやく回答しました。結果は以下の通りです。

  1. 小野浩『人的資本の論理』(日本経済新聞出版)
  2. 原田泰・飯田泰之[編編]『高圧経済とは何か』(金融財政事情研究会)
  3. 脇田成『日本経済の故障箇所』(日本評論社)

『人的資本の論理』と『日本経済の故障箇所』については、アンケートの例示リストに入っていたのですが、『高圧経済とは何か』はノーマークでした。まあ、そうなんだろうと思います。でも、巷間よく話題になる雇用の流動性について、高圧経済の下では雇用者のスキルを活かした雇用条件のいい職に移動できることであるのに対して、景気低迷期やデフレ経済下では使用者サイドに都合のいい首切り合理化でしかない、という点は重要だと考えます。というのも、労働組合を支持母体としたり、そこまで明確でなくても、労働者サイドに近い野党ですら理解が進んでいない印象を私は持っています。ですから、そういった向きは何が何でも「雇用の流動化反対」となるのですが、高圧経済下でこそ雇用の流動化が進められるべきだと私は考えています。

昨年は、週刊『ダイヤモンド』にて、ドンジリ4人目ながら、ブランシャール『21世紀の財政政策』についての私の書評が掲載されました。はたして、今年はどうなることやら?

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2024年11月23日 (土)

今週の読書は賃上げを論じた経済書をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』(日本経済新聞出版)は、賃上げ成長論についての疑問を明らかにしています。児美川孝一郎『新自由主義教育の40年』(青土社)は、中曽根内閣時の臨教審路線から40年を経た新自由主義的な教育を批判的に分析しています。井上智洋『AI失業』(SB新書)は、人工知能=AIの広範な利用に伴う雇用の喪失だけでなく、新たな産業の形や日本経済へのインパクトなどを幅広く論じています。近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)は、バブル経済の崩壊に伴う就職氷河期世代の職業生活や家族形成、格差の広がりなどについてデータに基づいて議論しています。西山昭彦『立命館がすごい』(PHP新書)は、私の勤務校である立命館大学について、特に誇るべきポイントを整理しています。クリスティン・ペリン『白薔薇殺人事件』(創元推理文庫)は大叔母の子に際しての遺産遺贈を受けるために犯人解明を進めるミステリ作家志望の女性の活躍を描いています。日本文藝家協会[編]『夏のカレー』(文春文庫)は、特に統一的なテーマの設定はないのですが、著名作家による良質な短編を収録したアンソロジーです。
なお、今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って先週までに21冊、本日に7冊をポストし、合わせて293冊となります。現時点で1か月余りを残して、文句なしに、年間300冊に達するペースかと思います。今後、Facebookやmixiでシェアする予定です。

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まず、中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、日本大学の教授を務めた研究者と厚生労働省の局長経験もある公務員OBです。タイトルからうかがえるように、賃上げ成長論についての疑問を呈しています。本書で着目する疑問は2点あって、日本で賃金が上昇していないという通説に対する反論を試みるとともに、加えて賃上げが必ずしも経済成長につながるわけではない、あるいは、不合理な賃上げの弊害や「持続的賃上げ」がインフレを悪化させるリスクがある点、などを指摘しています。私も授業で日本の賃上げを議論する際に引用するグラフがあって、それは「令和4年版 経済財政白書」(2022) p.101の第2-1-1図 主要先進国の実質GDPの推移 です。3枚のグラフが示されていて、いずれもバブル崩壊の1990年や1991年を100とした指数をプロットしたG5先進5カ国のグラフです。上2枚の実質GDPと1人当たり実質GDPはG5諸国の中で日本がドンジリもいいところで、ほぼほぼゼロ成長なのですが、一番下の労働時間当たり実質GDPは日本の数字は他の先進各国G5諸国と比べても遜色ありません。大雑把に、米英が日本より高成長な一方で、日本は仏独を上回る成長となっています。何を示しているかというと、労働者1人1時間当たりの付加価値額は先進諸国の中で決して小さくないのに、第1に、非正規雇用の比率、特にパートタームの比率が高くて、平均労働時間が短いために労働者1人当たりの付加価値が小さくなっています。そして、第2に、労働分配率が他の先進各国に比較して低くて資本分配率が高くなっている結果であろうと考えるべきですが、労働者が生み出した付加価値のうち労働者に分配される部分の比率が小さくなっています。マルクス主義経済学では搾取率が大きい、というのかもしれません。私はこのあたりは詳しくありません。しかし、本書はこの賃金や1人当たり実質GDPの伸び悩みを否定します。本書p.49の図1-3で、どのような計算をしたのかは明らかではありませんが、バブル崩壊時の1990年ころに、いわゆる内外価格差の議論を持ち出して、日本の賃金がほかの先進各国より高かったと主張し、伸び悩みの議論を賃金水準の議論に置き換えて、2008-09年のリーマン・ショック時くらいまでは日本の賃金は先進各国と比べても大きな差がなく、その後、日本の賃金が先進各国を下回るようになったと主張しています。繰り返しになりますが、賃金の伸び悩みの議論を賃金水準で置き換えて否定しようと試みています。そこに、1990年ころの内外価格差の議論を付加しているわけです。ちょっと、どうかという気がします。エコノミストの間で広範な合意が得られるかどうか疑問です。ただ、長期に渡って日本の賃金が伸び悩んだ原因のひとつが、決して階級闘争的でない、というか、戦闘的ではない労働組合にあり、コア労働者層である中年男性の正規雇用から組織された労働組合が、日本的雇用慣行のひとつである長期雇用を守るために、雇用の質的な面を代表する賃金を犠牲にして雇用の量的な確保を求めた、というのは、おそらく、同意するエコノミストが多そうな気がします。賃上げの弊害についても、同じような疑問があり、弊害としてインフレを考えるとしても、それは日本経済が本格的にデフレを脱却してから、という段取りを考えるエコノミストが多そうな気がしますし、一時的に生産性を上回る賃上げが実現されるとしても、ホントに一時的なのであれば分配率の変化でインフレにつながらないような経済運営は可能です。ここまで企業の利益剰余金が積み上がっているわけですから、生産性を上回る賃上げは短期間であれば十分可能だと私は考えます。ただ、最低賃金の今後の展望とも合わせて、本書ではほとんど議論されていない中小企業への一定の配慮は必要であると考えます。

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次に、児美川孝一郎『新自由主義教育の40年』(青土社)を読みました。著者は、法政大学キャリアデザイン学部教授であり、ご専門はキャリア教育や教育政策だそうです。諸般の事情により、先週の段階で教育、特に新自由主義的な教育に対する批判を展開している2冊の新書、すなわち、髙田一宏『新自由主義と教育改革』(岩波新書)と鈴木大裕『崩壊する日本の公教育』(集英社新書)を読んでレビューしたのですが、どうしても初等・中等教育に限定されていて、私が直接に関わっている大学という高等教育について取り上げられていないため、本書を図書館で借りて読んでみました。基本は、初等・中等教育とともに高等教育においても、新自由主義的な教育政策では「教育の市場化」が進められている、という点に関しては同じです。ただ、私自身は大学の学費問題とともに新自由主義的な教育の問題点を考えたかったので、学費に関する問題意識についてはまったく本書でも取り上げられていませんでした。今年、大学教育という私の所属する業界のもっとも大きな話題のひとつは東大の学費値上げでした。慶應義塾の塾長の主張も大きく報じられていたところです。学費の点に関しては本書と離れて、最後に言及するとして、本書では、1980年前後の英米における新自由主義的経済政策を掲げる政権、すなわち、1979年に成立した英国サッチャー内閣、1981年に就任した米国レーガン大統領の政策に呼応するような形で、日本でも中曽根内閣が発足し、いわゆる臨教審路線が始まったと指摘しています。はい、私はそのころにキャリアの国家公務員として社会人になっていますし、割合と身近にそういった新自由主義的な各種政策を見てきたつもりです。そして、本書では、大学レベルの教育における著者ご専門のキャリア教育こそが大学教育劣化のひとつの原因である可能性を指摘しています。およそ、就職を第1の目標とし経済学部や経営学部の学生でありながら、例えば、経済指標の動向などには大きな関心を示さず、社会とは企業社会であることを前提として、そういった環境に順応する教育がまかり通っていて、経済社会における格差や差別に対する疑問、あるいは、政府の政策への批判的な見方などはまったく影を潜めています。その上で、本書の用語を借りれば、「勝ち組のススメ」と「転落への脅し」を車の両輪として、格差を前提とした上で競争の結果を「自己責任」として受容させ、そして、そうした競争に参加することをもって「社会的包摂」に置き換える教育が進められています。最後は、デジタル機器の教育への導入によるGIGAスクール構想により、教育現場がハードウェアとソフトウェアの企業の売込み先となり、デジタル機器を有効に使える生徒・学生とそうでないグループの格差を固定してしまいかねない危うさがあります。私個人の観点ですが、本書では言及されていない学費の問題に関しては、新自由主義的な教育においては、真逆に見える2つの方向性が考えれます。ひとつは、無償化の方向です。典型的には大阪の維新の会による新自由主義教育の下で高校教育が無償化、というか、正確には私立高校の学費無償化が進められています。これは学校や教師に対する競争を促進・激化するとともに、府立高校のうちの不人気校=定員割れ高校の廃止を目論んでいます。大学=高等教育についても、大阪公立大学では学費無償化が進められ、同様の流れが示されつつあります。これは、違う見方をすれば、「金を出すから、口も出す」という政治の教育への介入を招く恐れもあると私は危惧しています。ただし、新自由主義的な教育政策としては、真逆に、大学については学費を値上げし、応益負担の方向が進められる可能性も十分あります。このあたりは、エコノミストの私は専門外ですので、今後の展望などの勉強を進めたいと思います。

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次に、井上智洋『AI失業』(SB新書)を読みました。著者は、駒澤大学経済学部准教授であり、ご専門はマクロ経済学です。本書では、AIによる雇用の喪失とともに新たな産業革命や日本経済へのインパクト、人間とAIの共存、などなど、タイトル以外にも幅広いテーマを論じています。もちろん、新書という限定されたメディアですので、やや印象論に偏る嫌いはありますが、かなりまっとうな議論が展開されていると私は受け止めています。まず、当然ながら、現在のAI開発状況について概観されていて、ChatGPTをはじめとする文章生成AI、ミッドジャーニーやステーブル・ディフュージョンに代表される画像生成AIなど、各ジャンルで高機能のAI技術が続々と誕生している点については、改めて論じるまでもないことと思います。そのうえで、もう10年以上も昔の論文ながら、英国オックスフォード大学のフレイ-オズボーンによる論文 The Future of Employment も引きつつ、AIが雇用喪失につながるかどうかを議論しています。私は当然に新しい技術が導入されると雇用は失われると考えています。現在までの歴史がそれを実証していますし、本書でも織機の導入による手職工の失業を契機にラッダイト運動が生じた歴史を持ち出しています。AIの幅広い活用も含めて、機械化や自動化により雇用が失われることは明白なのですが、現在までの歴史では失なわれた雇用以上に新たな雇用が生み出されて、そのために技術的失業が必ずしもクローズアップされていないわけです。ただ、ネットで考えるのではなく、グロスで考えれば、AIにより雇用が失われるという事実は否定しようがないと私は考えています。その上で、新たな産業革命かどうか、国家の繁栄にどこまでAIが寄与するか、あるいは、そもそもAIが必要か、などを本書では議論しています。そのあたりは読んでいただくしかありません。そして、本書では最後に、人工知能(AI)と人間が共生可能かどうかを議論しています。この結論も本書を読んでいただくしかないのですが、ヒントはp.253の「脱労働社会」です。これに付け加えて私自身の考えを展開しておくと、現時点で人間と馬が共生しているような関係において共生可能である、としかいいようがありません。ただ、私は将来におけるポジションとして、いわゆるシンギュラリティ、あらゆる局面でAIの能力が人間を超えるとすれば、人間と馬の関係とはいえ、AIが現在の人間の位置を占め、人間が現在の馬の位置を占める可能性を排除できないと考えています。人間は、ひょっとしたら、AIの家畜化する可能性がないとはいえないと考えているわけです。別の視点からいうと、現在の資本主義、あるいは、かなり新自由主義的な色彩の強くなった資本主義では、生産性によって、あるいは、その生産性が何世代かに渡って蓄積された結果としての富によって、人間がランク付けされている部分があります。もちろん、「法の下における平等」は制度的に確保されているとしても、実際には格差や不平等が広がり、上位者に対して下位者、あるいは別の表現をすれば、「上級国民」に対して「一般ピープル」はなすすべがありません。その昔の『ドラゴン桜』に、「おまえら、しっかり勉強しないと東大出に搾取され放題になってしまうぞ」という趣旨の発言があったと記憶していますが、経済的な搾取だけではなく、ほかにもいろいろとやられ放題になる可能性があるわけです。すなわち、シンギュラリティを超えてAIが人間よりも高い、それもちょっとだけではなく大きく高い能力を身につけてしまうと、現在の「上級国民」のポジションをAIが占め、「一般ピープル」のポジションを人間が占める、ということになりかねません。現在は、生産性が低い、あるいは、富を持たない人間はそれほど尊くはない、という現実が広がっていて、しかも、それは自己責任である、という見方が受け入れられているような気がしてなりませんが、AIの技術進歩が進むにしたがって、基本的人権の理念の下に、「人間とは生きているだけで尊い」、という社会を目指す必要を痛感します。

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次に、近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)を読みました。著者は、東京大学社会科学研究所教授であり、ご専門は労働経済学です。はい、私も役所に勤務していたころに何度かお会いしたことがあります。本書では、1993年から2004年に高校・大学などの学校を卒業した世代を就職氷河期世代として定義し、雇用形態や所得などをデータから明らかにすることを目的としています。ただ、この著者のご専門である労働経済学の小難しい計量経済学的な数量分析は用いられておらず、グラフなどにより直感的に理解できるように工夫されています。ですので、学生やビジネスパーソンなどにも判りやすい内容となっています。そもそも、バブル経済崩壊後の経済停滞がこの世代の人生に与えたインパクトは大きくて、就職から始まる職業生活だけでなく、結婚・出産など家族形成への影響や、男女差、世代内の格差、地域間の移動、、さらに、将来的には高齢化に伴う問題などなど、さまざまな課題が想定されていて、これらについて分析を試みています。詳細は読んでいただくしかありませんが、ザッとテーマだけを取り上げておくと、まず、第1章では労働市場における就職氷河期世代の占めるポジションとして、正規・非正規の雇用形態、そしてそれらに伴う年収などの現状を分析し、第2章では、そういった経済基盤に起因する家族形成について論じています。すなわち、正規・非正規だけではなく所得などの格差から結婚や子育てを考え、通説とは少し異なる結論を提示しています。個人のミクロレベルで見ると、結婚せず、子どもを持たない確率は高いものの、世代を通して考えれば、若年期の雇用状況が悪かった就職氷河期世代ほど未婚率が高いとか、子供の数が少ない、というわけではない、との結論を得ています。同時に、就職氷河期世代から少子化が加速したというエビデンスはない、という分析結果です。女性雇用については、新卒時点では男性よりも女性の方に就職氷河期の影響が大きかったが、それでも就業率や正規雇用率で見た世代間格差は数年で解消していて、この要因としては、晩婚化や既婚女性の就業継続率の上昇により就職氷河期の影響を打ち消している部分がある、と指摘しています。ただ、就職氷河期以降では格差拡大は所得分布における下位層の所得がさらに低下することによってもたらされている点を指摘しています。米国などにおける所得格差拡大は、日本と逆であって、所得分布の上位層の所得がさらに増加することによってもたらされており、いわば、日本国内における国民全体の貧困化が浮き彫りにされた形です。地域間格差については、就職氷河期の影響は地域ごとに一様ではないのはもちろんですが、地域間の賃金格差は就職氷河期とともに拡大ペースが速まった点が強調されています。最後の政策的な対応策はやや物足りないといわざるをえず、一般的なセイフティネットの拡充にとどまっています。まあ、仕方ないのかもしれません。

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次に、西山昭彦『立命館がすごい』(PHP新書)を読みました。著者は、ごく最近まで立命館大学の教員でした。大学生協の書店にいっぱい並んでいたので買ってみました。基本的に、立命館大学関係者以外から見れば、悪くいってタイトル通りの「提灯本」と考えられるかもしれません。本書冒頭に明記しているように、教員については論文や書籍、あるいは、ほかの意見表明機会があるだろうから割愛して、他の大学に関するステークホルダー、すなわち、学生・院生・卒業生、職員、学生の就職先や共同研究などの関係企業、さらに、学生を送り込む高校や塾・予備校などの関係者、といったところへのインタビューをコアな内容としています。副学長へのインタビューもありますが、学長はダメだったんでしょうか。まあ、それはいいとして、そいったインタビューの前置きとして、規模、すなわち、学生数で日大と早大につ次いで3番目とか、国家公務員総合職試験や公認会計士試験の合格者数、科研費採択件数、外部評価などを列挙しています。ということで、ほぼほぼすべてなのですが、まあ、何と申しましょうかで、ネトウヨの「日本スゴイ論」みたいで、どこまで信頼性があるのかは疑問ですが、結果的に立命館大学の宣伝になっている面は決して無視できないと考えます。私が再就職する前の世間一般の評判としては、関西の関関同立の中では同志社がやや抜きん出てトップ大学であり、次いで関学らしくて、やっぱり、東京六大学でいえば早大より慶大、明大や法大よりも立教が人気だという人もいて、関西でも「ミッション系の坊っちゃん嬢ちゃん大学が人気」だと聞かされてきましたが、私は各大学の内実をそれほどよく知っているわけではありません。少しだけ見知っているのは国家公務員への就職です。本書でも指摘されているように、国家公務員総合職試験で立命館大学はかなり上位に食い込んでいます。2024年度春試験に限定すれば、東大と京大についで3番目ということになります。でも、試験合格者がかなり多数に上るのは事実としても、実際に採用されるのは決してここまで多くはありません。実は、私もゼミの学生なんかに総合職の国家公務員、あるいは、公務員全般を勧めることはしていません。ここまで人口減少で人手不足が進めば、立命館大学卒業生はそこそこの就職先に恵まれますし、就職後の職場の働きやすさなんかを考慮すれば、公務員がトッププライオリティというわけでもないだろうと考えています。ただ、実際には学生の中にも公務員志望者は決して少なくなく、私自身が国家公務員試験の試験委員をしていた経験者だということもあって、一定数の公務員志望者が集まることも事実です。ついでながら、経済学部という固有の学部限定なのですが、大学院進学も決して勧めません。もちろん、理工学部とか、別学部であれば別の話ですが、立命館大学に限らず経済学部生が大学院に進む利点は現時点で日本では決して大きくないと考えています。ということながら、立命館大学の教員としては、それでもやっぱり誇らしい気分にさせてくれる記述が少なくなく、大学関係者の裾野も広いことから幅広い売上が期待されるのではないか、という気がします。

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次に、クリスティン・ペリン『白薔薇殺人事件』(創元推理文庫)を読みました。著者は、米国出身で英国在住の作家です。日本ではまだ知名度が低いものの、英国ではそれなりの評価を得ているようです、ただし、本書は大人向けの最初の出版ということです。英語の原題は How to Solve Your Own Murder であり、2024年の出版です。ということで、小説の主人公は25歳のミステリ作家志望の女性であるアニーです。アニーの母親ローラはそれなりに有名な画家であり、個展を開いたりしています。アニーの祖父、すなわち、母親ローラの父親の妹に当たる大叔母フランシスから彼女の住むキャッスルノールに招待されて屋敷に到着すると、大叔母は図書室の床に倒れて死んでいました。大叔母は手から血を流したらしく、その手の近くには白薔薇がありました。邦訳タイトルの由来をなしているものと考えます。アニーがキャッスルノールに呼ばれたのは、大叔母の弁護士によれば最近遺言書を書き換えて、アニーへの遺贈が盛り込まれている可能性が高いからです。大叔母の亡くなったご亭主は貴族であるグレイヴズダウン家の当主で大金持ちでしたから、莫大な遺産が転がり込む可能性があるわけです。他方で、大叔母はそのグレイヴズダウン家に嫁ぐ前のミドルティーンのころ、すなわち、60年ほど前に占い師から、いつか殺されると予言された言葉を信じており、遺言状はグレイヴズダウン一族である医師のサクソンとアニーのどちらか、殺人犯を突き止めることが出来た方、ただし、1週間以内に殺人犯を解明した方に遺産を譲る、という内容でした。もしも、1週間以内に犯人解明が出来なかった場合、弁護士の孫が勤務する開発会社に地所をすべて売り飛ばして売却金は国庫に収納する、ということになります。アニーは、大叔母が占い師の「いつか殺される」という予言を信じて、さまざまな出来事を文書に残していたキャッスルノール・ファイルを読み漁って、60年前に何があったのか、それは現在にどのようにつながって大叔母の殺人という結果を引き起こしたのか、などなどの真実を突き止めようとします。冒頭何章かは1966年のキャッスルノールの出来事をかいたキャッスルノール・ファイルと現在の出来事が交互に記述されています。ある意味で、1966年のキャッスルノール・ファイルはフランシスらの青春物語ともいえます。フランシスとグレイヴズダウン家のフォードとの出会いはロマンス小説さながらです。もちろん、ミステリとしては本格的な whodunnit であり、犯人探しの王道ミステリといえます。ただし、1966年と約60年後の現在を行ったり来たりしますし、当然、若かりしころの人物と老人となった現時点でも生存している人物がいて、同じ人物で同じ名前ですので、それなりの読解力は必要です。繰り返しになりますが、大人向けの作品は初めてという作家ですし、これから先の作品が楽しみです。

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次に、日本文藝家協会[編]『夏のカレー』(文春文庫)を読みました。著者は、江國香織をはじめとする11人の著名作家なのですが、特にテーマを設定していないアンソロジーだったりします。時代小説こそ含まれていないものの、シリアスな短編もあれば、コミカルなテイストの作品もあり、まあ、良くも悪くも各作家の特徴が出ているっぽくて、特にまとまりのないバラバラな短編集です。収録順にごく簡単にあらすじを追っておくと、まず、江國香織「下北沢の昼下り」は、中年男性が主人公であり、70歳過ぎの母親と高校生の娘とともに、タイトル通りに、下北沢のヴェトナム料理店で食事中です。妻は3度目の家出中で、いずれの回も主人公の浮気が原因らしいです。三浦しをん「夢見る家族」は、夜音次=ネジという名の少年で、両親と年子の兄である千夜太=チヨの4人家族です。兄弟の名に「夜」が入っているのは、毎朝夢の内容を母親に話す家族の習慣と関係しているのかもしれません。兄のチヨは母親が期待する内容の夢を語るのに対して、それができないネジと兄弟間で待遇が違ってきます。乙一「AI Detective 探偵をインストールしました」では、主人公はタイトル通りにAI探偵であり、妹を殺した犯人を捕まえるという依頼を受けます。人間に近いながらも人間ではないAIが一人称で語るミステリはめずらしいと思いますし、最後の大逆転のどんでん返しもなかなかのものです。澤西祐典「貝殻人間」はSFです。海から貝殻とともに上陸し、生きている人間とソックリで、本人の生活を乗っ取ってしまう貝殻人間が発生し、貝殻人間に人生を奪われた8人の男女が夜の海辺に集まり、それぞれの境遇を語り合うのですが、決して悲劇ばかりでなく、貝殻人間の保護活動の経験者がいたり、また、それまでの人生を捨てることにより、かえってよかったと感じる人もいたりします。山田詠美「ジョン&ジェーン」では、何度も死にたいと訴えるジョンを、バスタブに沈めて溺死させたジェーンが主人公です。ジェーンは良家の生まれなのに歌舞伎町のトー横で過ごすようになるのですが、ホストだったジョンとの出会い、そしてこういった結末に至る男女の刹那的な生き方に、『野菊の墓』などの文芸趣味をからませた語り口が印象的です。小川哲「猪田って誰?」は、高校を卒業して間もない若い男性が主人公で、「猪田の告別式、どうする?」というLINEが届いたのですが、猪田が誰なのかをサッパリ思い出せず、知り合いの間で連絡が回るばかり、という状況が、半ばコミカルに、半ばシリアスに語られます。中島京子「シスターフッドと鼠坂」は、夏休みに郷里である富山に帰省中の若い女性が主人公です。その帰省の機会に、祖母の澄江から母親である珠緒の出生の秘密を漏らされます。すなわち、母親の珠緒の実の母は祖母の澄江ではなく、東京に住む志桜里という女性であり、祖母の澄江と実の祖母である志桜里は学生時代からの親友であった、ということです。肉親、というか、家族の間の細やかな連帯や反目も含めた感情を見事に描き出しています。荻原浩「ああ美しき忖度の村」は、20年前に現在の村名となった忖度村の若手女性村議会議員の黒崎美鈴が主人公です。村名を決めた20年前と違って、悪い印象となったためイメージ向上委員会が構成されてメンバーとなります。ところが、ほかのメンバーが村の有力者の意向をうかがいながらの会議のために一向に進まないようすを、コミカルかつ軽快に風刺しています。タイトル作である原田ひ香「夏のカレー」は、葬儀から帰宅した主人公を待っていた冴子と主人公の半生の恋物語です。20歳で出会って、一度は結婚を約束しながら、また、何度も人生の節目で出会いと別れを繰り返しつつ、結局は結婚に至らなかった男女が60歳になった人生を振り返る切ないラブストーリーです。タイトル作になっているだけあって、収録短編の中でもっとも印象的な作品でした。宮島未奈「ガラケーレクイエム」は、20代後半の女性が主人公です。実家に帰省した折に、解約したつもりだったガラケーの契約がまだ続いていることを知り、充電したら受信メールがあり、その発信者である高校のころの同級生と会うことになります。最後に、武石勝義「煙景の彼方」は、両親が離婚したころに母方の祖父母の家で暮らすようになった小学生のころを回想する男性が主人公です。祖父が喫煙している時に煙草の煙の輪の中に見えるものがある、しかも、実態を伴っているという不思議な現象を主人公が結婚後に家族を持ってから体験します。繰り返しになりますが、統一したテーマのないアンソロジーです。でも、かなり著名な作者が並んでいますし、各短編作品はかなりいい出来です。特に、表題作の「夏のカレー」は読んでおいて損はないと思います。

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2024年11月22日 (金)

やや上昇率が縮小した10月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.8%から縮小し+2.4%を記録しています。久しぶりの上昇幅縮小です。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から30か月、すなわち、2年半の間続いています。ヘッドライン上昇率も+2.5%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.1%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の消費者物価、2.3%上昇 2カ月連続で伸び率縮小
総務省が22日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が108.8となり、前年同月と比べて2.3%上昇した。政府による電気・ガス代補助の再開でエネルギーの上昇幅が縮んだことなどから、2カ月連続で伸び率が縮小した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.2%の上昇だった。
エネルギーの上昇幅は2.3%で、9月の6.0%から縮小した。政府が5月使用分までで止めていた電気・ガス代への補助を8月使用分から再開したことで、請求分が反映される9月、10月と2カ月連続でエネルギーの伸び率は鈍化した。
生鮮食品を除く食料は3.8%プラスだった。価格高騰が続くコメ類は58.9%上昇し、比較可能な1971年1月以降、過去最大の伸び率となった。
原材料価格の高騰でチョコレートなどの菓子類が5.0%プラス、オレンジジュースなど飲料が6.1%プラスと多くの品目で上昇した。生鮮果物でも、猛暑の影響で不作だったみかんが12.5%プラスと大幅に上昇した。
このほか、ルームエアコンが売れたことなどから家庭用耐久財が6.0%、地震や災害の増加による保険料改定に伴い火災・地震保険料が7.0%上昇した。下落が大きかったのは通信で、マイナス3.5%だった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.2%ということでしたので、実績の+2.3%はやや上振れた印象はあるものの大きなサプライズはありませんでした。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、生鮮食品を除く食料の上昇が継続しています。すなわち、先月9月統計では前年同月比+3.1%、寄与度+0.73%であったのが、今月10月統計ではそれぞれ+3.8%、+0.92%と、さらに高い伸びと寄与度を示しています。次に、エネルギー価格については、4月統計から前年同月比で上昇に転じ、本日公表の10月統計では先月からやや上昇率は縮小したものの、+2.3%の高い上昇率となっていて、寄与度も+0.17%を示しています。特に、インフレを押し上げているのは電気代であり、寄与度は+0.13%に達しています。引用した記事で指摘されている通り、政府の「酷暑乗り切り緊急支援」による押し下げ効果が再開されて、先月から上昇率はこれでも縮小しています。なお、統計局のプレスリリースによれば、この緊急支援の寄与度は▲0.54%、うち電気代▲0.45%、都市ガス代▲0.09%、とそれぞれ試算されています。
多くのエコノミストが注目している食料について細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+3.8%、寄与度+0.92%に上ります。その食料の中で、コシヒカリを除くうるち米などの穀類が上昇率+60.3%ととてつもないインフレとなっていて、寄与度も+0.22%あります。さすがに一時の品薄感は解消されつつありますが、少し前までスーパーなどからコメが姿を消していたわけですし、今でも大きく値上げされているのは日常生活でも目にし、広く報道されているところかと思います。コメの値上がりの余波を受けて、外食のすしが上昇率+6.1%、寄与度+0.02%を記録しています。すしも含めた外食のカテゴリーでは、上昇率+2.9%、寄与度も+0.13%に上っています。豚肉などの肉類が上昇率+5.0%、寄与度も+0.13%あり、チョコレートなどの菓子類が上昇率+5.0%、寄与度+0.13%、果実ジュースなどの飲料も上昇率+6.1%、寄与度0.10%、焼豚などの調理食品が上昇率+1.8%、寄与度+0.07%、などなどとなっています。コアCPIの外数ながら、みかんなどの生鮮果物も上昇率+6.6%、寄与度+0.07%の寄与となっています。また、食料からコア財に目を転じると、引用した記事にもあるように、ルームエアコンなどの家庭用耐久財が上昇率+6.0%、寄与度+0.09%、うち、ルームエアコンだけでも上昇率+15.2%、寄与度+0.07%を示しています。サービスでは、外国パック旅行費の上昇率+75.6%、寄与度+0.17%を含めて教養娯楽サービス全体で上昇率+5.5%、寄与度が+0.29%、などとなっています。食料だけでなく、耐久財などのコア財、サービスまで幅広い値上がりが見られます。

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2024年11月21日 (木)

リクルートの考える日本型雇用の問題は何か

先週11月15日、リクルートワークス研究所から「日本型雇用の問題は何か」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。なお、今年2024年8月に取り上げた「『日本型雇用』のリアル」に続いて、Global Career Survey 2024 のデータに基づく研究成果の第2弾です。第1弾は日本的雇用のイメージと実態について考え、高度成長期から「日本的雇用」の特徴と考えられてきたナラティブが、必ずしも当てはまらない、という事実を明らかにしています。この第2弾では、日本的雇用のネガな面を探っています。4つの分析が収録されているのですが、そのうちの3点について、リポートからグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思いまあす。以下の通りです。

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まず、上のグラフはリポート p.6 から 【図表3】今の会社を辞めることになったとしても、希望の仕事につくことができる を引用しています。転職後のキャリアといえます。日本的雇用慣行のひとつとして長期雇用とそれを補完する年功賃金が上げられますが、逆に、転職にはとても大きな不利益をもたらしかねないといえます。また、主として女性かもしれませんが、p.7 には結婚・出産などでキャリアの中断をした後の再就職について、【図表4】一度働くのをやめてブランク期間を経ても、再び同じような待遇や働き方が選べる 問い設問の回答が収録されており、同じような結果となっています。要するに、再チャレンジが困難であることです。ただし、前のリポート「『日本型雇用』のリアル」では、終身雇用は日本的雇用の特徴であるが、年功賃金はそうではない、と結論していただけに、私は少し違和感を感じてしまいました。

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続いて、上のグラフはリポート p.12 から 【図表11】 7カ国における男女の年収格差 を引用しています。もはや、言葉を持ちません。何度も繰り返していますが、日本経済の最大の障害のひとつは男女格差です。グラフなどは引用しませんが、リポートでは、加えて、年齢が上がるとともに、また、金属年収が長くなるとさらに男女間格差が拡大するとの分析結果を示しています。

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続いて、上のグラフはリポート p.18 から 【図表18】2023年の1年間で自己啓発を行った人の割合 を引用しています。広くスキルアップとまでいわずとも、日本の雇用者・労働者は「学び」に不熱心だという点については定評があり、本田由紀先生の論文「世界の変容の中での日本の学び直しの課題」などでも指摘されている通りです。上のグラフでも自己啓発の不熱心さが現れています。「学び」や自己啓発に不熱心だとスキルアップに繋がる可能性も低いのではないかと私は懸念します。ただ、これは就職してからの学びや自己啓発についての日本的な弱点であり、リポートでも、日本における就職前の大学での学び=専攻と現職職種の関連が他国の現状と比べて明確に弱いとまではいえない、という結果も示されています。私も典型的にこれに当てはまり、就職してから大学院などでのリスキリングはさっぱりやっていませんが、大学の時に勉強した経済学を60代半ばになっても活用できています。

4点目の分析はキャリアの自律性に関する考察で、長期雇用といわれつつも、他国と比べて引退するまで雇い続けてくれる可能性はそれほど大きく感じていない割には、自分のキャリアに対する自己決定意欲が低い、という点を分析しています。今日のところは割愛します、といいつつ、たぶん、改めて取り上げることもしないと思います。

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2024年11月20日 (水)

赤字が続く10月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.1%増の9兆4266億円に対して、輸入額は+0.4%増の9兆8879億円、差引き貿易収支は▲4612億円の赤字を記録しています。4か月連続の貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字4カ月連続、10月4612億円 パソコンの輸入増加
財務省が20日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4612億円の赤字だった。赤字は4カ月連続となった。半導体製造装置を中心に輸出が増えたものの、パソコンやスマートフォンなどの輸入が大幅に増えた。赤字幅は前年同月比で34.4%縮小した。
輸出額は前年同月比3.1%増の9兆4266億円。半導体製造装置が42.6%増だったほか、医薬品が34.2%増、科学光学機器が11.8%増だった。
国・地域別にみると米国向けの輸出は6.2%減の1兆8096億円だった。中国が半導体関連の投資を強化していることなどを受け、アジア向けは7.6%増の5兆408億円だった。欧州連合(EU)は自動車の輸出が減ったことなどから11.3%減の8303億円だった。
輸入額は0.4%増の9兆8879億円だった。品目別ではパソコンなどの電算機類が46%増と最も増え、銅などの非鉄金属鉱が38.3%増、スマホなど通信機が8.7%増だった。パソコンやスマホの新商品販売に伴い、中国やアジアからの輸入が増えた。
国・地域別ではアジアが5.6%増の5兆72億円。EUからは航空機や医薬品が伸び、3.9%増の1兆828億円だった。米国は0.7%減の1兆104億円だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1兆2000億円を超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲4600億円を超える赤字は、予測レンジ上限の▲7620億円よりもさらに赤字幅が小さく、ハッキリと上振れした印象です。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字は前月7月統計からやや縮小しています。ただし、輸出入ともに減少した縮小均衡という見方もできます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年10月統計まで、3年半近く継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。10月統計の�億円ほどの貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
10月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、引用した記事で「パソコンやスマートフォンなどの輸入が大幅に増えた」と報じていますが、電算機類(含周辺機器)+46.0%増、電算機類の部分品+18.0%増が大きく伸びています。増減寄与度もこの2品目を合わせて+1%に達しており、輸入全体の伸びが+0.4%にしか過ぎませんから、注目すべき伸びであったといえます。また、鉱物性燃料は▲11.5%減となっており、エネルギーよりも注目されている食料品は+8.6%増と引き続き高い伸びを示しています。輸出に目を転ずると、自動車の部分品が▲12.3%減となり、輸送用機器全体でも▲4.4%減を記録した一方で、半導体等製造装置の+42.6%増などの一般機械が+2.2%増となっていて、10月統計の輸出については自動車の減少を半導体等製造装置といった一般機械で相殺した形となっています。

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2024年11月19日 (火)

米国トランプ次期政権の通商政策を考える

11月初めの米国大統領選挙でトランプ元大統領が大統領に返り咲くことが決まり、日本に限らず世界的に米国政府の経済政策の方向性が議論されています。もちろん、いろんな観点があるのですが、もっとも注目されるもののひとつは、当然、通商政策ということになります。特に、先週末のペルーで開催されたAPECでも話題になっていたように報じられています。最近、全米経済調査会(NBER)のワーキングペーパーで2点ほど目につきましたので、簡単に取り上げておきます。まず、2本の論文の引用情報は以下の通りとなります。

続いて、以下の通り、ワーキングペーパーからABSTRACTをそれぞれ引用します。見るべきセンテンスはハイライトしてあります。

ABSTRACT (Tariffs)
We study the relationship between tariffs and labor productivity in US manufacturing between 1870 and 1909. Using highly dis-aggregated tariff data, state-industry data for the manufacturing sector, and an instrumental variable strategy, results show that tariffs reduced labor productivity. Tariffs also generally reduced the average size of establishments within an industry but raised output prices, value-added, gross output, employment, and the number of establishments. We also find evidence of heterogeneity in the association between tariffs and value added, gross output, employment, and establishments across groups of industries. We conclude that tariffs may have reduced labor productivity in manufacturing by weakening import competition and by inducing entry of smaller, less productive domestic firms. Our research also reveals that lobbying by powerful and productive industries may have been at play. The era's high tariffs are unlikely to have helped the US become a globally competitive manufacturer.
ABSTRACT (Trade War)
The Trump Administration's tariffs created a wedge between mutually beneficial trades between China's producers and U.S. consumers. Moving production to nearby Vietnam allows firms to jump the tariff wall. Within Vietnam, cities closer to China with respect to distance and industrial mix grow faster and attract more FDI. They are increasingly consuming renewable power to fuel their local economy. We study the local air quality gains and the carbon dioxide emissions reductions associated with the growth in regional trade. China's regional trade increases have important implications for the rise of the system of cities across Asia.

上に引用情報を示した最初の論文 "Did Tariffs Make American Manufacturing Great? New Evidence from the Gilded Age" は、米国が高関税国であった1870年から1909年までのデータを基にして、高関税が労働生産性の低下をもたらした点を実証しています。当然ながら、高関税は輸入品との競争圧力を弱め、同時に、小規模で生産性の低い国内企業の参入を誘発し、製造業の生産性を低下させた可能性があると結論しています。したがって、その当時の高関税が米国製造業の競争力の向上につながった可能性は低い、という結論になります。産業構造が大きく変化しているとはいえ、21世紀の現在でも基本的には同様の結論が導かれる可能性が高い、と私は考えています。ということで、この論文 "Did Tariffs Make American Manufacturing Great? New Evidence from the Gilded Age" から p.53 Figure 8: Non-parametric Estimates of the Relationship between the Main Variables of Interest and the Average Tariff in SIC 37: Transportation Equipment, 1880-1909 を引用すると以下の通りです。

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注の4行目にあるように、より幅広い SIC 2-digit category の中の SIC 3-digit level の産業である transportation equipment を取っています。なお、このグラフの前の Figure 6 と Figure 7 も同様のグラフが示されていて、Figure 6 は paper, and printing and publishing、Figure 7 は chemicals, and petroleum and coal の産業となっています。Figure 7 では雇用=Employment こそ増加させていますが、生産性は低下している点はほかのグラフを同じです。

次の論文 "How the US-China Trade War Accelerated Urban Economic Growth and Environmental Progress in Northern Vietnam" からはグラフなどの引用はしませんが、中国製品への高関税の当然の帰結として、ベトナムなどが「漁夫の利」を得る、という結論が得られています。加えて、ABSTRACTにもあるように、距離と産業構成が中国に近いベトナム国内の都市では再生可能エネルギー消費が増加し、二酸化炭素排出が減少するといった効果もあるようです。

まあ、高関税による米国内産業の生産性低下や近隣国の「漁夫の利」については、あまりにも当然予想される結果ですが、経済学を応用して定量的に把握しているのは重要なポイントだろうと思います。

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2024年11月18日 (月)

3か月連続で減少した9月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から9月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲0.7%減の8520億円と、3か月連続の前月比減少を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

機械受注は9月は-0.7%、3カ月連続減 設備投資に懸念の声
内閣府が18日に発表した9月機械受注統計によると、設備投資の先行指標である船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は、前月比0.7%減となった。3カ月連続の減少で、賃上げから所得、消費と企業活動の好循環の鍵を握る設備投資は足踏みが続いている。
ロイターの事前予測調査では前月比1.9%増と予想されており、結果はこれを下回った。前年比での実績は4.8%減だった。
内閣府は、機械受注の判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いた。
製造業は前月比0.0%減、非製造業は同1.5%増だった。製造業は4カ月連続の減少で、機械受注全体の足を引っ張っている。
アナリストらは、日銀短観などにみられる計画段階では企業は設備投資に旺盛な意欲を示しているものの、内外需とも先行きの不透明感が増す中、実際の投資を実行するには至っていないとみる。
外需は、9月は前月比10.3%減だった。
四半期ベースでは、7-9月が前期比1.3%減、10-12月の見通しは同5.7%増となった。
機械受注統計は機械メーカーの受注した設備用機械について毎月の受注実績を調査したもの。設備投資の先行指標として注目されている。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+1.9%増、日経・QUICKによるマクロ予測でも+2.1%増でしたので、実績の▲0.7%減は大きく下振れした印象です。ただし、日経・QUICKによるマクロ予測のレンジ下限は▲0.8%減でしたのでギリギリレンジ内ということはいえます。もっとも、繰り返しになりますが、3か月連続でコア機械受注が前月比マイナスを記録していますし、四半期でならしてみても7~9月期は前期比で▲1.3%減となりました。内閣府による見通しでは前期比で+0.2%でしたので、これまたかなり下振れた印象です。かなり弱め内容となっていますが、しかしながら、というか、何というか、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いています。ひとつには、10~12月期の見通しが前期比で+5.7%と集計されており、4~6月期の実績の▲0.1%減、7~9月期の▲1.3%減を上回る可能性がまだあるからといえます。振れの大きな指標ですので、何とも先行きは見通せません。ただ、先行きリスクは下方に厚いと私は考えており、特に、年内10~12月期くらいから年明けには日銀による金利引き上げの影響がラグを伴って現れる可能性が十分あります。すでに、住宅ローン金利が引き上げられたのは広く報じられている通りです。
ただ、さらに大きな謎は、引用したロイターの記事にもある通り、計画段階では日銀短観などのソフトデータで示されている企業マインドとしての意欲は底堅い一方で、設備投資が実行されるに至っておらず、したがって、GDP統計や本日公表された機械受注などには一向に現れていない点です。すなわち、投資マインドと実績の乖離が気にかかります。乖離の理由について、「先行き不透明感」で片付けるのは忍びなく、私は十分には理解できていません。これだけ人口減少による人手不足が続いている中で、労働に代替する資本ストック増加のための設備投資の伸びもなくそのためにDXやGXが進まないとすれば、日本企業は大丈夫なのかどうか大きな不安が残ります。

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2024年11月17日 (日)

ミスター・ドーナツでピカチュウをゲットする

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先々週の11月6日からミスター・ドーナツでポケモン・ドーナツが始まっているのは知っていて、何度か近くのショップに行ってみたのですが、夕方とか、夜になってからで、すでに売り切れているタイミングばかりでした。今日は、午後からオンライン会議が長々と予定されていて、朝一番の10時開店を目指してダッシュし、ようやくピカチュウをゲットしました。もう一方のはモンスターボールです。ディグダも頼もうかと考えないでもなかったのですが、結局、諦めました。今月末の11月27日からはディグダの進化形であるダグトリオも発売されるらしいです。まあ、ともかく、ピカチュウをゲットしたので満足しておきます。

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2024年11月16日 (土)

今週の読書は産業革命を取り上げた経済書をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通り計7冊です。
まず、ロバート C. アレン『産業革命』(白水社)は、イングランドにおける産業革命の開始を分析し、その波及についても歴史的な見方を示しています。西川貴清『現場から社会を動かす政策入門』(英治出版)は、役所や官僚に政策提案をし要求を実現する方法などについて紹介しています。早見和真『アルプス席の母』(小学館)は、まったく今までになかった母親視点の新しい高校野球小説です。髙田一宏『新自由主義と教育改革』(岩波新書)は、大阪を例にとって新自由主義的な教育政策を批判しています。鈴木大裕『崩壊する日本の公教育』(集英社新書)は、教育のサービス産業化に強い懸念を表明しています。鳥谷敬『ミスをしない選手』(PHP新書)は、ミスに対する準備、分析、練習の重要性を強調しています。標野凪ほか『眠れぬ夜のご褒美』(ポプラ文庫)は、夜食にまつわる短編を収録しているアンソロジーです。
なお、今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って先週までに14冊、今日に7冊をポストし、合わせて286冊となります。たぶん、年間300冊に達するペースかと思います。今後、Facebookやmixiでシェアする予定です。また、事情あって、宮部みゆき『火車』(新潮文庫)を読んだのですが、もう30年も前の本ですので本日の読書感想文では取り上げず、すでにFacebookでシェアしています。

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まず、ロバート C. アレン『産業革命』(白水社)を読みました。著者は、長らく英国オックスフォード大学の経済史担当教授を務めています。産業革命研究などで世界でもトップクラスの経済史研究者として知られています。本書は、オックスフォード大学出版会によるVery Short Introduction=VSIシリーズとして執筆されており、英語の原題は The Industrial Revolution であり、2017年の出版です。近年になって、「産業革命はなかった」とする極端に歴史修正主義的な見解に対して、産業革命研究の第1人者が反論を試みています。何度か繰り返して私も主張してきましたが、20世紀終了時点、あるいは、見方によっては現時点での世界経済の覇権を北米ないし西欧という意味での西洋が握っている大きな理由のひとつは産業革命の成功にあります。そして、17世紀が終了した1800年の時点では、世界経済で優勢であった中国ではなく西欧、特に、決して先進地域とは見なされていなかったイングランドで産業革命が始まった点の解明、さらに、産業革命による経済活動や国民生活の変化なども後付けています。というのも、産業革命とは華やかに生産や経済活動が飛躍したという側面だけではなく、労働者の労働環境や生活条件を劣悪なものにした、という側面もあるからです。もちろん、各産業における技術の観点からの解明も抜かりありません。ただ、私はこの方面は詳しくないので、生産や生活面に着目したいと思います。まず、現時点までの産業革命研究としては、売国の経済史学者であり、ノーベル経済学賞も受賞したノース教授らの制度学派が中心的なポジションを占めています。そして、この延長線上に今年2024年ノーベル経済学賞を受賞したアセモグル教授らの制度学派が位置づけられます。アセモグル教授らの研究は産業革命に焦点を当てているわけではありませんが、通常、制度学派の見方からすればイングランドにおける所有権の確立を重視します。まあ、要するに、経済学の祖と見なされるアダム・スミスと同じで、所有権が確立されて技術への投資が利益をもたらし、それを資本家や投資家が所有権に基づいて得ることが出来る点を利己的に実行すれば市場の見えざる手で個人レベルの最適化により社会レベルの最適化も進む、という見方です。しかし、本書ではもっと複合的な見方を提供しています。すなわち宗教や倫理観の果たす役割がどこまで重要だったのか、鉄や石炭といった天然資源の賦存状況は重要だったのか、また、黒死病パンデミックによる人口停滞が高賃金をもたらしたのか、などなど、1500年までさかのぼってグローバル経済におけるイングランドの成功を産業革命前の農業革命、石炭革命、高賃金経済、識字率拡大といったいくつかのキーワードで解き明かそうと試みています。そして、一部は繰り返しになりますが、産業革命が労働者や生活者一般にもたらしたもの、マルサスが不賛成に終止した社会改革的な観点、そして、もちろん、イングランドから英国全土に産業革命が広がり、さらに、他の西欧諸国、北米、そして極東の日本まで産業革命が始まった歴史を振り返っています。もちろん、こういった視点は世界史の中の産業革命というグローバルヒストリーにつながるものであり、いまだに産業革命を終了したかどうか疑わしい発展途上国の経済開発に対する工業化のためのビッグプッシュの必要性に関する議論にもつながります。シリーズ名に現れているように大きなボリュームではありませんし、産業革命とは現在時点での世界経済につながる原点のひとつに位置づけられますので、多くの人が手に取って読むことをオススメします。

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まず、西川貴清『現場から社会を動かす政策入門』(英治出版)を読みました。著者は、私のような定年まで国家公務員を務めたものからすれば少し不思議な経歴なのですが、全国紙記者の後、厚生労働省にお務めになり、政策コンサルティング会社千正組取締役に就任しています。公務員の経験からなのでしょうが、医療・介護・福祉・労働分野を中心にした政策コンサルティングを行っている、ということです。政策策定には、極めて大雑把に、ボトムアップとトップダウンの両方向があり、本書では中心はボトムアップによる現場からの制作策定を中心に据えている印象ですが、もちろん、トップダウンの政策についても十分視野に入れられています。ということで、まず、国民の声が政策決定の場である政府や国会に届いているかどうかについて考えています。現実には、官僚=公務員が政策立案を行うことが多いでしょうから、p038では、官僚による政策案の作成、審議会などの政府会議での議論、そして、ここが少し飛ぶような気がするのですが、与党部会での議論=事前審査制、国会での議論・採血・成立、そして、政策の実行、としています。ただ、先日の総選挙後には与党の多数が失われましたので、雇うんの意見の集約も必要になっている点は本書の観点からは抜けています。まあ、仕方ありませんが、与党が多数でも野党の意見を取り入れるかどうかは視野に入れておいて欲しかった気がします。そして、政策と市場財との比較をし、政策には代替性がない点を強調しています。すなわち、例えば、自動車であれば、トヨタでもホンダでもいいとする消費者がいそうな一方で、政策には政策以外の別の手段が乏しいという意味です。そして、政策の種類として7つのツールをp.56で列挙しています。法案などによる規制、予算、税制、などなどです。以下、詳細は読んでいただくしかありませんが、定年まで国家公務員をしていた私の方で付け加えたいポイントは、第1に、公務員=官僚のお仕事は政策ニーズを把握したうえで、あくまで選択肢の準備であって、決定は閣議であれ、国会であれ、政治のレベルで決める、という点です。もちろん、より細かな施行上の点を政治レベルを含まない公務員レベルだけで決めることもありえますが、基本は、ボトムアップであるとすれば、国民や中間団体から制作ニーズを把握し、選択肢を準備するのが公務員の役割で、最後にその選択肢から決定するのは政治レベルの役割です。ただ、日本の決定システムはややこんがらがって、三すくみにある場合があります。すなわち、政官業の三すくみです。政治レベルは投票権を持つ広く国民や業界やの意見を聞く必要がある一方で、政府には指揮命令権、あるいは、官僚に対する人事権を持っています。でも、国民一般や業界は規制や補助金をはじめとする支援策により政府の顔色をうかがう必要がある一方で、政治家には投票権を持って意向を汲んでもらうことが可能です。政府やその構成員である官僚はその逆であり、政治家の指揮命令に従う一方で、規制や支援策により国民一般や業界に対する一定のコントロールが可能となる場合があります。また、第2に、政策実現のためには、EBPMとして、何らかの定量的なエビデンスを示す必要性があるケースの忘れるべきではありません。いずれにせよ、本書では、国民や中間団体からの政策要望を官僚を通じて、あるいは、政治家も巻き込みつつ実現するために、とても効率的で実践的なやり方を例示しています。

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次に、早見和真『アルプス席の母』(小学館)を読みました。著者は、小説家であり、私は不勉強にして、たぶん、この作者の作品は『店長がバカすぎて』と『笑うマトリョーシカ』しか読んだことがありません。15年前の作者のデビュー作は『ひゃくはち』といって、補欠球児の青春を描いた作品だったそうですが、私は未読です。本書は、出版社の宣伝文句通りに、まったく新しい高校野球小説です。高校に限らず、野球小説やマンガはいくつか読んでいますが、これはホントに新しい小説です。出版社も力を入れているのか、特集サイトが開設されていたりします。ということで、主人公は高校球児の母親、秋山菜々子であり、配偶者と死別した後、神奈川で看護師をしながら湘南のシニアリーグで活躍する航太郎を育てていました。秋山航太郎には関東一円からスカウトが来ていましたが、秋山航太郎が希望したのは大阪の甲子園出場の常連校でした。でも、その大阪の名門校からはお呼びがかからず、結局、選んだのは同じ大阪の羽曳野にある新興高校でした。秋山航太郎は当然のように野球部の寮に入りますが、母親の秋山菜々子も学校近くに引越して来ます。新しい職場であるクリニックではいい条件に恵まれるものの、知らない土地での新しい生活には不慣れな部分も少なくありませんし、特に、高校の父母会での厳しいルール、あるいは、暗黙のうちに従わねばならない掟のようなものもストレスを高めます。また、明らかに不当不法な慣行もあります。秋山菜々子は父母会の会計係としてそういったものに接するようになります。倅の秋山航太郎は順調に育ちますし、父母会の中にもいい仲間が出来ますが、まあ、有り体にいって、母親の方にも、倅の方にも障害はいっぱいあります。詳細は、もちろん、結末も読んでいただくしかありませんが、倅の秋山航太郎の高校入学直前から、高校卒業後まで、数年間をスパンに収め、私なんぞの知らない世界を垣間見せてくれます。私は小説を読んだり、映画を見たりして泣くことはまったくありませんが、それでも、本書を読んで号泣する人がいそうな気がします。華やかで爽やかな高校野球の裏側で、高校球児ご本人たち以外にも父母や関係者がどういった役割を果たして、どういった理不尽な慣行があるのか、もちろん、フィクションの小説ですので、すべてをリアルであると捉えるのは間違っていると判っていつつも、主人公やその倅の高校球児に大いに感情移入してしまいます。とってもオススメで、多くの読者に読んでいただきたい感動の小説です。ただ、私は男ですので、主人公が死別し、高校球児の父親の存在が何度も出てきますが、もう少し死別した亭主について、高校球児との関係について詳しく知りたい気がしました。その点だけは少し残念に思いますが、そんな微細な欠点は微塵も感じさせないいい小説医でした。

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次に、髙田一宏『新自由主義と教育改革』(岩波新書)を読みました。著者は、大阪大学教授であり、ご専門は教育社会学などだそうです。本書は、大阪維新の会による大阪府政や大阪市政の下で、新自由主義的な教育改革がもっとも大規模かつ組織的に実施されてきた大阪に着目して、新自由主義的な教育改革の問題点を明らかにしようと試みています。新自由主義は、ごく簡単にいえば、福祉国家の非効率を批判し、自由放任の下での市場を重視して、政府による再分配を軽視する傾向があると本書では指摘しています。は、その通りです。その新自由主義が教育改革に適用されるとどうなるかといえば、英米の例を引いて、学力テストによる目標管理、保護者による学校選択の自由や学校経営の自律性拡大による競争拡大、成果に基づく信賞必罰主義、などの特徴が上げられます。大阪における教育改革も基本的に似通っており、本書では教師責任論と競争礼賛を改革を支える思想として指摘しています。そして、大阪の教育改革を3期に分けて、2008年の橋下知事就任からの第1期で大阪府学力テストの実施や大阪の教育力向上プランなどで世論を喚起し、2011年の府知事と市長のダブル選挙以降の第2期で基盤固めを行い、2014年の2度目のダブル選挙以降の第3期で小中学校の学校選択制が始まり、中学生チャレンジテスト小学生すくすくウォッチといったテストの実施、加えて、公立高校の再編整備が進められた、とあとづけています。結局のところ、教育における公正を重視する姿勢から卓越性に重きを置く方向が志向され、格差拡大や地域分断が進んでしまった、と結論しています。判りやすいのは格差拡大ですが、地域分断については地域独特の部落差別などがあり、そういった差別感情などに基づき、低学力地域の学校からの退避が生じていて、大阪におけるインクルーシブな教育が放棄されつつある現場を指摘しています。すなわち、学校選択制と学力テストにより、特定の地域に対する予断や差別が学力テストの結果と短絡的に結びつけられ、地域的な分断が生じている実態が明らかにされています。同時に、高校は義務教育ではないことから、高校再編の中で定員割れ学校などがセーフティネットに対応した高校として、中学レベルの学び直しを重視するエンパワーメントスクールや多様な教育実践を行うとされたステップスクールと位置づけられたりしています。人口減少や少子化の中で、これらの高校は将来的に募集停止となる可能性が十分あります。そうなると、セーフティネットの高校も消滅しかねません。ただし、保護者の学校選択制に対する支持は揺るぎない、のも事実です。私立高校授業料無償化は、私立高校と公立高校の競争を激化させる可能性があります。いずれにせよ、大阪の学力は十分な成果を出せているとはいえないという結果が示され、権利の主体としての子どもが教育サービスの受け手や買い手として捉えられ、逆に、教師が教育サービスの提供者として市場における取引のように教育が考えられる点について疑問を、大きな疑問を呈しています。

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次に、鈴木大裕『崩壊する日本の公教育』(集英社新書)を読みました。著者は、教育研究者であり、千葉市内の公立中学校での英語教員の経験もあります。本書冒頭で新自由主義とは、かつては国民の当然の権利であったものが商品として価格をつけて売られる方向を目指すものとの考えが示されています。その上で、教育とは生徒(+保護者)がお客様であって、教師がお客様を教育するというサービス産業となる可能性を示唆しています。タウプマンのTeaching by Numbers などを紹介して、マニュアルに沿った教育がいいのかどうかを本書では問うています。はい、私はマクドナルドのようなマニュアル通りの顧客サービスが教育の本質とは考えません。というのは、教育の主体は教師ではなく、特に基礎教育過程では子どもに置かれるべきだと考えるからです。教育を受けることは子どもの権利であり、教師が主体となるかどうかはケース・バイ・ケースながら、権利主体はあくまで子どもであると考えるべきです。その教育現場について、本書では政府が進めようとしている学校における働き方改革は教職員の勤務時間削減という「減らす」というベクトルが強すぎて、政府が投資をして「増やす」というベクトルとのバランスがあまりに悪い、と指摘しています。はい、私もその通りと受け止めていて、藤森毅『教師増員論』などの主張に強く共鳴しています。特に、本書ではコロナ禍を経て、学校教育がサービス産業化し、非正規の教員が増加して「使い捨て労働者」のような雇用が広がっている、と警告しています。同時に、教育される子どもの権利主体としての認識を否定しかねないような「お国のための教育」が幅を利かせるようになり、2006年の教育基本法改正に際しては、新自由主義時代の富国強兵を目指して、道徳心、愛国心、郷土愛などを強調するようになり、いじめの防止を目的とした道徳の教科化が、愛国教育のツールにされてしまったと批判しています。加えて、2007年に復活した全国学力テストは、大阪だけではなく、学力向上という大義名分をまとって、教育への政治介入を正当化するリスクがあると懸念を示しています。校則などが「べからず集」として、禁止事項でいっぱいになっていて、生徒のみならず学校や教師まで信用しない姿勢が明らかであり、人を育てる場としての学校にふさわしいかどうかという疑問を呈しています。そして、最後に、教育の場における「遊び」の必要性、あるいは、自由の前提としてパブリックな(あるいは、コモンの)スペースの必要性を強調しています。私の属する大学教育に関する本ではなく、初等・中等教育を主たる対象にしているように感じましたが、大学教育についても参考になる部分が少なくなかったと思います。

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次に、鳥谷敬『ミスをしない選手』(PHP新書)を読みました。著者は、阪神に長らく遊撃手として在籍し、2000本安打も達成した名選手でした。私はこの作者の本については、『キャプテンシー』(角川新書)と『明日、野球やめます』(集英社)を読んだことがあります。現役選手のころは、打撃はもちろんのこと、守備でも名手とされていて、何度もゴールデングラブ賞を受賞しています。ただ、本書に書かれているように、遊撃手で4回、三塁手で1回というゴールデングラブ受賞歴は、とても少ないと感じてしまいました。もっと取っていたような気がしていました。加えて、連続フルイニング出場記録とか、ケガに強い鉄人としても知られていました。私が記憶しているのはジャイアンツ戦でデッドボールにより鼻骨骨折にもかかわらず、翌日の試合にファイスマスクをして代打出場した試合です。ネットで検索すれば容易に調べられると思います。そして、本書では守備機会における「ミス」に焦点を当てるとともに、選手時代のいろんなもいで、というか、大リーグ挑戦の内幕なども取り上げています。まず、野球を知っている人であれば、というか、本書を手に取るような読者はそれなりに野球に関する知識があることと思いますが、打撃では3割を打てば名選手、逆から見て、7割は打てなくてもOKなのですが、守備では97%とかそれ以上のノーミスが求められます。もちろん、著者は遊撃手という内野手ですので、外野手のお話はまったく出てきません。野球の技術的な内容はまったく私は不案内ですので、ミスへの一般的な対策としてp.21で上げている準備、分析、練習について考えたいと思います。最後の「練習」というのは、まあ野球における練習でしょうから、より一般的には「対策」とか、「対応」とかにいいかえてもOKではないかと思います。私はまず準備は入念に必要で、ボーイスカウトのモットーに「備えよ常に」というのがあり、倅が小学校のころからスカウト活動をしていたことから、本番で慌てないためにも準備の重要性を認識させられてきました。その上で、ミスをした後の分析というのは少し驚きました。というのは、私はまず「認識」が必要かという気がします。すなわち、大昔からミスは笑ってごまかすもの、という見方があります。どうしてミスをしたのかを分析するというのはさすがにプロだと感じてしまいました。私のような凡人では、まず、ミスではないことにする。そして、小学生なんかがよく「わざとじゃない」といい張るのですが、故意ではないことを強調する。まあ、ミスなんですから当然に故意ではありません。そして、大人になってからは同じポイントで、故意ではなく、ケアレスミスであると強調するケースが少なくありません。私にはあまり理解が進まないのですが、通常のミスよりもケアレスミスであれば批判を免れる、との考えが少なくないように思います。ケアレスミスであれば分析なんかはまったくせずに、次は気をつければいい、という結論にしかなりません。その点はさすがにプロは違う、と感じ入ってしまいました。大学の試験やリポートでは、ケアレスミスであっても採点結果は同じです。大学生が定期試験やリポートに臨む際もプロイ野球選手に近い姿勢を要求されるのかもしれません。それはそれで、少し酷な気もします。

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次に、標野凪ほか『眠れぬ夜のご褒美』(ポプラ文庫)を読みました。著者は、もちろん、小説家なのですが、私は不勉強にして初読の作家さんが多かった印象です。ある程度読んだといえそうなのはラストの近藤史恵女史くらいです。表紙画像に見える6人の作家によるアンソロジーです。そして、テーマは夜食です。中には、夜食にしてはヘビーな食べ物も登場します。収録順にあらすじを紹介します。まず、標野凪「バター多めチーズ入りふわふわスクランブルエッグ」は、当然ながらスクランブルエッグを中心に据えています。主人公は若い女性の陽茉莉で、小学校の同窓生だった憲吾とは大学で再会するもすぐ疎遠になったものの、社会人になって偶然連絡を取り合い、恋人となっています。憲吾は吉祥寺のパン・ケーキ店の製造スタッフをしていて、その店のオーナーの総子さんのスクランブルエッグを絶賛します。冬森灯「ひめくり小鍋」では、これも若い女性の主人公のすず音は全国コンビニの1/3を占める大手チェーン店の開発担当をしていて、ヒットしそうなスイーツ開発に挑戦していましたが、何と、宣伝に起用した大物歌手が亡くなって、新開発スイーツは日の目を見ないままお蔵入りになってしまいます。ある夜、終電を乗り逃がしたすず音は、謎めいた女性に誘われてたどり着いたうしみつ屋というお店は、とても変わったところで、入店するのに合言葉が必要でした。そこで出されたのがタイトルにある鍋料理です。友井羊「深夜に二人で背脂ラーメンを」では、男子大学生2人が主人公で、不眠がちの勝を、深夜、同級生の昇一が、何と背脂ラーメンを食べようと誘いに来ます。お目当ての店に向かう途中、サークルの仲間が亡くなった事件の現場を通りかかります。八木沢里志「ペンション・ワケアッテの夜食」では、主人公の明美が傷心旅行で那須高原にある小さなペンションを訪れます、ちょっと変わったオーナー夫婦が経営していて、明美は散歩中にペンションオーナーの亭主の方の小吉と出会って、大きな穴に落ちてしまいます。大沼紀子「夜の言い分。」では、キンキンの水風呂とウワサされる50才手前の女性が主人公です。ファミレスで女子会ならぬ夜食会を定期的に催して参加しています。50才近辺ともなれば、バツがついた人、熟年結婚する人、子どもとの関係に悩む人、ずっとシングルで来た人、などなどいろいろとあります。気のおけない仲間内のおしゃべりの言い分は意外な方向に進みます。近藤史恵「正しくないラーメン」では、食と健康うるさい栄養管理士の母親に厳しく育てられた料理研究家の秀美が主人公です。しかも、亭主の亮太郎は胃が弱くて正しい食べ物が好きだったりします。でも、そして、秀美は母に内緒の食べ物、夫に内緒の食べ物は決して嫌いではないのですが、インスタントの激辛キムチラーメンが食べたいといいだせず、ストレスが溜まっていきます。以上があらすじとなります。私の好き嫌いをいえば、「ペンション・ワケアッテの夜食」のオーナー夫妻のキャラがよく出来ていて、ペンション名の謎もなかなかでした。また、「夜の言い分。」のラストはとても意外です。

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2024年11月15日 (金)

7-9月期GDP統計速報1次QEは年率+1%弱のプラス成長

本日、内閣府から7~9月期GDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比+0.2%増、年率換算で+0.9%増を記録しています。2四半期連続のプラス成長です。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+2.5%、国内需要デフレータも+2.3%に達し、8四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率0.9%増 7-9月実質、消費伸び2期連続プラス
内閣府が15日発表した7~9月の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%増、年率換算で0.9%増だった。個人消費が全体を押し上げ、2四半期連続のプラス成長となった。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値である年率0.7%増より高かった。ゼロ%台半ばとされる潜在成長率を上回る伸びとなった。
赤沢亮正経済財政・再生相は15日の記者会見で「33年ぶりの高水準となった春季労使交渉における賃上げの効果や、堅調な夏のボーナスを受け、実質雇用者報酬が前年同期比でプラス0.9%と、2四半期連続の増加となった」と所得の改善を強調した。先行きについても「景気の緩やかな回復が続くことが期待される」と話した。
GDPの半分以上を占める個人消費は前期比0.9%増と2四半期連続のプラスだった。品質不正による出荷停止の影響が解消し、自動車の購入が回復した。スマートフォンの新商品も増加に寄与した。
猛暑や台風、南海トラフ地震臨時情報なども消費に影響した。旅行や外食、宿泊などが振るわなかったが、パックご飯や清涼飲料水が押し上げ要因となった。衣料品は4~6月期の販売が好調だった反動がみられた。
民間住宅は前期比0.1%減で2四半期ぶりにマイナスに転じた。
消費に次ぐ民需の柱である設備投資は前期比0.2%減で2四半期ぶりのマイナスだった。「プラント工事関連の支出が減少した」(内閣府の担当者)という。半導体製造装置や業務用の複写機の落ち込みもみられた。民間在庫変動の前期比寄与度はプラス0.1ポイントだった。
公共投資は前期比0.9%減で2四半期ぶりに落ち込んだ。政府消費は同0.5%増だった。
輸出は前期比0.4%増だった。金属製品や半導体などの電子部品が増えた。GDP統計で輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)消費は前期比13.3%減と、22年4~6月期以来、9四半期ぶりのマイナスとなった。訪日客数が頭打ち傾向にあることが背景とみられる。
輸入は前期比2.1%増だった。医薬品やスマホの輸入が増えたという。
前期比年率の成長率に対する寄与度をみると、内需がプラス2.5ポイント、外需がマイナス1.6ポイントだった。寄与度について内需のプラスは2四半期連続、外需のマイナスは3四半期連続となる。
名目GDPは前期比0.5%増、年率2.1%増で2四半期連続のプラスだった。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比で2.5%上昇した。4~6月の3.1%から伸び率が縮んだ。
働く人の収入の動きを示す雇用者報酬は前年同期比で名目3.6%増だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2023/7-92023/10-122024/1-32024/4-620234/7-9
国内総生産GDP▲1.0+0.1▲0.6+0.5+0.2
民間消費▲1.1+0.2▲0.3+0.6+0.7
民間住宅▲0.9▲1.0▲2.9+1.4▲0.1
民間設備▲0.1+2.1▲0.4+0.9▲0.2
民間在庫 *(▲0.6)(▲0.0)(+0.3)(▲0.1)(+0.1)
公的需要+0.0▲0.4+0.1+0.8+.3
内需寄与度 *(▲0.)(+0.0)(▲0.2)(+0.7)(+0.6)
外需(純輸出)寄与度 *(▲0.2)(+0.1)(▲0.4)(▲0.1)(▲0.4)
輸出+0.2+2.9▲4.5+1.4+0.1
輸入+0.9+2.4▲2.4+2.9+2.1
国内総所得 (GDI)▲0.7+0.2▲0.7+0.6+0.3
国民総所得 (GNI)▲0.7+0.3▲0.7+1.2+0.4
名目GDP▲0.1+0.8▲0.3+1.7+0.5
雇用者報酬 (実質)▲0.5+0.1+0.2+0.7+0.0
GDPデフレータ+5.3+4.0+3.4+3.1+2.5
国内需要デフレータ+2.6+2.2+2.3+2.6+2.3

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、灰色の在庫と黒の純輸出がマイナス寄与しているほかは、赤の消費をはじめとしてGDPの国内需要項目の多くのコンポーネントが軒並みプラス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事には+0.7%とあるのですが、私が見た範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前期比年率で+0.6%のプラスで、予想レンジの上限が+1.8%とはいうことでしたので、やや上振れしたと私は受け止めています。季節調整済み系列の前期比伸び率で見て、GDP+0.2%増のうち、内需寄与度が+0.6%、外需寄与度が▲0.2%ですから、内需主導で潜在成長率近傍の成長といえます。また、外需のマイナス寄与についても、輸出入ともに伸びている中で、輸入の伸びが輸出を上回った結果としての純輸出のマイナス寄与です。内需では、特に、GDPコンポーネントとして最大シェアを占める消費が+0.5%の寄与を示しています。ただ、後のグラフで見るように、雇用者報酬がここまで水準として低くなっている一方で、今春島における賃上げなどによって伸びが大きくなっっている点が消費の伸びにつながっていると考えるべきです。加えて、今年の年末ボーナスも増加すると見込まれていて、10~12月期の消費も期待できる、と私は考えています。また、8月末には台風により一部の自動車工場などで操業を停止したりしていましたが、それでも7~9月期はプラス成長でしたし、10~12月期はこういった天候要因のリバウンドも期待できますので、目先の景気はそれほど悪くないと私は楽観しています。

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続いて、上のグラフの上のパネルでは、GDPデフレータ、消費デフレータ、国内需要デフレータのそれぞれの季節調整していない原系列データの前年同期比を、下のパネルでは、季節調整済みの系列の雇用者所得の実額を、それぞれプロットしています。上のパネルで影をつけた部分は景気後退期です。GDP統計の需要項目については季節調整済み系列の前期比や前期比年率で見るのに対して、伝統的に、デフレータ項目は季節調整していない原系列の前年同期比で見ることになっています。原系列の前年同期比で見る理由は、私には不明ですが、あるいは、同じように季節調整していない原系列の前年同期比で見る消費者物価指数になぞらえているのかもしれません。ということで、上のグラフで見る通り、GDPデフレータで見たインフレは昨年2023年7~9月期にピークアウトしたようですし、消費デフレータや国内需要デフレータに基づくインフレは、さらにもう1四半期早い2023年4~6月期にピークアウトしているようです。ただ、GDPデフレータはまだ前年同期比+2.5%の上昇となっていますし、消費デフレータや国内需要デフレータでもまだ+2%超のインフレです。日銀の物価目標は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除くコアCPIで+2%ですから、計測基準が異なるとはいえ、物価上昇率は低下しているものの、まだ、インフレは高止まりしていると考えるべきです。また、下のパネルから雇用者報酬が春闘における賃上げにより伸びている点が見て取れます。ただし、水準としてはまだコロナ前には追いついていません。円安とともにインフレが懸念材料ですが、所得面では年末ボーナスに期待します。

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2024年11月14日 (木)

明日公表予定の7-9月期GDP統計速報1次QEは小幅のプラス成長か

先月末の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計をはじめとして必要な統計がほぼ出そろって、明日11月15日に、7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である4~6月期ではなく、足元の7~9月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.2%
(+0.9%)
10~12月期の実質GDPは7~9月期から小幅に加速する見通し。物価の伸びが鈍化する一方、名目賃金が拡大基調を維持することで、実質賃金は上昇基調を辿る見込み。所得環境の改善により個人消費は増勢を維持するほか、内外需の回復を受けた能力増強投資の回復を背景に設備投資が再び増加に転じる見通し。
大和総研+0.1%
(+0.3%)
2024年10-12月期の日本経済は3四半期連続のプラス成長を見込んでいる。自動車の生産体制正常化に伴う増産や所得環境の継続的な改善、企業の旺盛な設備投資意欲、インバウンド消費の持ち直しなどが押し上げに寄与しよう。
個人消費は、持ち直しが加速すると予想する。実質賃金は2024年6月に前年比+1.1%と27カ月ぶりにプラスへと転換し、8月は同▲0.8%と再びマイナスに転じたものの、均して見れば2023年初からの持ち直し基調が継続している。今後も賃上げを反映した賃金改定が広がり、また物価上昇が一服する中で、実質賃金の緩やかな上昇が進むとみている。また、自動車のペントアップ需要の消化は一部で進捗が見られているものの、不正認証問題や台風に伴う断続的な供給制約の影響から当初想定していたほどには進んでおらず、今後の加速が期待される。
住宅投資は減少するとみられる。住宅価格の上昇ペースの減速などが需要を下支えするものの、2四半期連続で増加した反動が表れよう。
設備投資は増加に転じると予想する。日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(日銀短観)によると、9月調査時点3における2024年度の設備投資計画(全規模全産業、除く土地、含むソフトウェア・研究開発)は前年度比+10.1%だった。9月調査時点としては比較的高水準を維持しており、企業の投資意欲は引き続き旺盛だ。10-12月期には自動車の増産なども追い風となり、建設投資の一層の進捗にも期待がかかる。デジタル化、グリーン化に関連したソフトウェア投資や研究開発投資も底堅く推移するとみられる。
公共投資は減少するとみられる。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えする一方、4-6月期に上振れした影響の剥落が下押し要因となりそうだ。他方、政府消費は増加すると予想する。医療費などの趨勢的な増加が続くとみられる。
輸出は増加が続くとみられる。財輸出は、前述した自動車の増産や半導体市況の回復などを受けて増加する見込みだ。サービス輸出は、7-9月期に落ち込んだインバウンド消費が持ち直す一方、業務用サービスなども趨勢的な増加が続くとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.2%
(+0.7%)
10~12月期は、既往の利上げの影響で減速が見込まれる米国、ドイツを中心に不振が続く欧州、不動産部門の調整長期化が予想される中国など海外経済の減速が外需の重石になる一方、高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ることで、内需を中心に日本経済は回復基調で推移する見通しであり、現時点で年率+1%程度のプラス成長を予測している。
前述したとおり、高水準の賃上げ率を背景に、名目賃金(所定内給与)は前年比+3%程度の伸びが続くことが見込まれる一方、消費者物価については政府による「酷暑乗り切り緊急支援」を受けて9月以降の電気代・ガス代の前年比上昇率が再び低下するため、10~12月期の実質賃金は前年比プラスで推移すると予測している(10月には昨年10月にガソリン代・都市ガス代の補助金が半減されたことの裏が出る影響もあり、エネルギーの伸び率はさらに縮小する見込みである)。基調的な実質賃金の回復を受けて、個人消費も増加基調で推移するとみている。ただし、実質賃金前年比のプラス幅は0%台半ば程度が見込まれ、これまで2年以上過続いた実質賃金の低下に比して反発力は十分なものとは言えず、個人消費の回復も緩やかなものになるとみている。米類を中心とした食料の価格上昇等を受けて10月の消費者態度指数は低下しており、消費マインドの改善には足踏み感がみられる。
設備投資についても、前述したように2024年度の設備投資計画が堅調であることに加え、世界的な半導体市場の回復等が先行きの押し上げ要因になり、増加基調での推移が続くだろう。中期的な観点からは、中国・アジアの人件費上昇に伴う生産拠点としてのコスト優位性の低下、米中対立の深刻化・地政学的リスクの高まり(経済安全保障への関心の高まり)を背景としたグローバル・サプライチェーンの見直し、さらには近年の円安進行等が国内投資シフトを後押ししている面もあると考えられる。内閣府「企業行動に関するアンケート調査」(上場企業が調査対象)をみると、今後3年間の設備投資見通しは全産業で年度平均+6.8%と1990年(同+7.9%)以来の高い伸びとなっている。また、日本政策投資銀行「2024年度設備投資計画調査」をみても、コロナ禍前対比で国内の生産拠点を強化する動きが継続していることが確認できる。精密機械や輸送用機械等を中心に広がりつつある国内生産拠点強化の動きが設備投資の持続的な押し上げ要因になろう。ただし、前述した建設業等の人手不足が下押し要因となることで強気な計画対比でみると低い伸びとなりそうだ。
一方、外需については当面力強い伸びは期待しにくい。海外経済の減速が引き続き財輸出の逆風になるだろう。米国経済は、企業の値下げ戦略が奏功し、家計の消費は大幅な悪化を回避するほか、インフレ減速に伴い仕入れコストが抑制されることで企業業績も底堅く推移し、雇用が下支えされるなどソフトランディングに成功する可能性は高いとみている。一方で、既往の高金利政策の余波が低所得層・中小企業を中心に及ぶことで2025年前半にかけて小幅な減速が見込まれる(FRBの利下げで金融環境は徐々に緩和に向かうものの利下げの恩恵が顕在化するまでにタイムラグがある)。欧州経済についても、製造業の低迷が続くドイツを中心に低成長が続く見通しだ。既往の利上げによる需要減少に加えて、エネルギー価格上昇を主因とした競争力の低下が不振の背景にあり、ドイツの製造業の弱さは物流やリースなど製造業の影響を受けやすいサービス業にも波及していることも踏まえると、2025年にかけて低成長が続く可能性が高い。10月のユーロ圏総合PMIも2カ月連続で50割れとなっており、景況感の低迷が続いている。さらに、中国経済は、不動産過剰在庫の調整が完了し、価格が底入れして住宅販売や不動産投資が上向くまで3年以上かかる公算が大きい。雇用や所得の先行き不安に加え、住宅不況による逆資産効果が消費回復の足かせになるだろう。こうした海外経済の動向を踏まえると、財輸出の力強い回復は当面期待しにくい。特に中国は内需の不振を輸出ドライブ(価格引き下げによる輸出促進)でカバーする構図が2023年半ば以降続いており、中国製品との競争激化が日本の輸出の伸び悩みにつながることも懸念される(特に近年はNIEs・ASEANといった市場で幅広い日本製品が中国製品に割り負けしている模様だ)。
インバウンド需要についても、高水準での推移が継続するものの増勢は鈍化するとみられる。国内線も含めた航空需要が回復する中で、グランドハンドリング人材不足等で地方空港では国際線の復便や増便に対応できない事例もあり、地方訪問縮小の一因になった可能性があるだろう。中国からの訪日客数が伸び悩んでいる背景に旅客便回復の遅れがあるとみられる。円高進展等を受けて、一人当たり消費単価についても買い物代や平均泊数(観光・レジャー目的)の縮小等を通じて高水準ながらも回復ペースが鈍化する可能性が高いだろう。
ニッセイ基礎研+0.2%
(+0.8%)
2024年7-9月期は2四半期連続のプラス成長を確保したが、所得税・住民税減税が6月から実施されていることを考慮すると、消費を中心に期待はずれの低成長にとどまったとみられる。現時点では、10-12月期の実質GDPは前期比年率1%程度のプラス成長を予想しているが、物価の高止まりなどを背景に、引き続き民間消費を中心に下振れリスクは高い。
第一生命経済研▲0.0%
(▲0.1%)
仮に7-9月期のマイナス成長になったとしても、日本銀行は「台風や地震による下振れの影響が大きい。個人消費は底堅い」として問題視しない可能性が高い。日本銀行は伝統的にGDPを重要視しない傾向があるため、金融政策に影響が生じる可能性は小さいと思われる。
もし影響が出るとすれば財政政策だろう。政府は現在、11月中にもまとめる総合経済対策の内容について調整を行っているが、仮にマイナス成長となれば、対策規模を膨らませようという意見が増える可能性がある。与党の過半数割れにより歳出拡大圧力が強まっている状況であるため、GDPの結果がそうした流れをさらに後押しする可能性があることに注意したい。
伊藤忠総研+0.1%
(+0.4%)
続く2024年10~12月期も、賃金上昇と物価上昇の鈍化により実質賃金が増加し、個人消費の拡大が加速しよう。設備投資も景気の回復を背景に増勢を強めるとみられる。輸出も増勢を維持し、実質GDP成長率は内需主導で前期比の成長率を高めると予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.1%
(+0.4%)
2024年7~9月期の実質GDP成長率(1次速報値)は、前期比+0.1%(前期比年率換算+0.4%)と予想される。2四半期連続でのプラス成長であり、景気は緩やかな持ち直しを続けていることが示されようが、プラス幅は小幅であり、持ち直しペースは極めて緩慢である。個人消費が力強さに欠け、設備投資も減少に転じるなど内需の弱さが目立つ。
三菱総研+0.3%
(+1.2%)
2024年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.3%(年率+1.2%)と、2四半期連続のプラスを予測する。
明治安田総研+0.2%
(+0.7%)
先行きについては、賃金上昇のほか、「酷暑乗り切り緊急支援」などの政策の後押しによる物価上昇率の鈍化が個人消費の下支え要因になると予想する。設備投資は、企業収益が堅調なことに加え、シリコン・サイクルの好転に伴う半導体製造装置や、半導体材料の増産のための投資需要が追い風になるとみる。一方、住宅投資は、住宅価格の高止まりと住宅ローン金利の上昇が足枷になると見込む。外需も当面軟調な推移が続くとみる。インバウンド需要は下支え要因となるものの、中国景気が力強さを欠くことなどから財輸出は停滞気味の推移が見込まれ、日本の景気の回復ペースは緩やかなものにとどまると予想する。
農中総研+0.6%
(+2.5%)
7~9月期のGDPについて、実質成長率は前期比0.2%(同年率換算 0.6%)と、4~6月期(2.9%)から鈍化するものの、2期連続のプラスと予想する。また、前年比も0.3%と3期ぶりのプラスが見込まれる。名目成長率も前期比0.6%(同年率2.5%)と2期連続のプラスとなるだろう。なお、全般的には、デフレギャップが存在する中で「潜在成長率」並みの成長率にとどまるなど、足踏み感を払拭できない数字と評価できる。

マイナス成長予想をしている第一生命経済研究所を別にして、ズラリと小幅のプラス成長の予想が並んでいる印象です。ひとつには消費が緩やかに持ち直している点を上げておきたいと思います。消費者物価が近年になく上昇しているとはいえ、春闘の大幅賃上げに加えて、6月から実施されている所得税・住民税減税により所得環境は改善していることが明らかです。ただし、他方で、南海トラフ地震情報や異常気象による工場操業停止の影響などもあって、マインドはそれほど好転していない可能性も高いと考えるべきです。住宅投資と設備投資は物価上昇の影響が消費よりも強く出る可能性がありますので、それほど期待はできません。外需はプラス寄与すると予想していますが、直近の9月の経常収支の黒字幅はやや懸念材料かもしれません。ただ、何といっても消費の牽引によりプラス成長の可能性高いと私は考えています。
下のグラフはニッセイ基礎研究所のリポートから引用しています。

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2024年11月13日 (水)

過去最高を記録した10月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.4%の上昇となり、8月統計の+2.6%、先月9月統計の+3.1%からさらに上昇が加速しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数が過去最高、10月3.4%上昇 コメ高騰
日銀が13日発表した10月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は123.7と前年同月比で3.4%上昇した。23年8月(3.5%上昇)以来の高い伸び率となり、指数は2カ月連続で過去最高を更新した。民間予測の中央値(3.0%上昇)より0.4ポイント高かった。コメの価格が高騰しており、農林水産物の上昇率が26.0%と大幅な伸びとなったことが影響した。
10月は価格改定月であり、人件費などのコストを価格に転嫁する動きも後押しした。自動車用部品を含む輸送用機器などで大企業から中小・中堅企業へ、価格転嫁のすそ野が広がった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
為替市場での円安進行により、円ベースで輸入物価指数は前月比3.0%上昇と22年9月(5.3%上昇)以来の高い伸びとなった。一方で、原油価格の下落などを背景に前年同月比では2.2%下落した。
非鉄金属は14.6%上昇と9月(9.7%上昇)から伸び率が拡大した。月初に、中国の景気刺激策への期待から銅価格が上昇したことが影響した。
政府の政策も引き続き、企業物価指数に影響を与えた。電力・都市ガス・水道は5.6%上昇と9月(7.9%上昇)から伸び率が鈍化した。再生可能エネルギーの普及のため国が電気代に上乗せしている再エネ賦課金が24年5月から引き上げられたことが前年同月比プラスに寄与した。一方で、9月検針分から再開された電気・ガスの補助金が押し下げ要因となった。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+3.0%、予測レンジの上限でも+3.2%と見込まれていましたので、実績の+3.4%はレンジ上限を超えて大きく上振れた印象です。国内物価の上昇幅が拡大したした要因は、引用した記事にもある通り、コメなどの農林水産物の価格上昇であり、10月の農林水産物は何と+26.0%の上昇を記録しています。ただ、全般的に、統計の対象である10月は年度始まりの4月に次いで価格改定の多い月である点も見逃せません。また、今年2024年5月から再生可能エネルギー発電促進賦課金単価が物価押上げ要因となっていて、例えば、東京電力のプレスリリースによれば、賦課金単価は1kwh当たり1.40円から3.49円に引き上げられています。逆に、政府による電気・ガスの補助金は9月検針分から再開されたことは物価押下げ要因となっており、11月検針分まで継続される予定です。加えて、10月の為替は円安が進んだ点も物価押上げ要因と考えるべきです。前月9月から4.3%の円安が進んでいます。また、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2024年10月)を見ておくと、「2024年9月のWTI原油先物価格は、上旬に60ドル台半ばに低下」した後、「中旬には、70ドル台前半に上昇」し、「先行きを展望すると、原油価格は70ドル台を中心に推移する見込み」ということになっていて、地政学的リスクに対する警戒に言及しています。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず繰り返しになりますが、農林水産物は9月の+18.2%から10月は+26.0%と上昇幅を大きく拡大しています。したがって、飲食料品の上昇率も10月は+1.8%と高止まりしています。他方で、電力・都市ガス・水道が9月の+7.9%から10月は+5.6%と小幅に上昇幅を縮小させています。ほかに、銅市況の高騰により非鉄金属が+14.6%と2ケタ上昇を示しています。また、石油・石炭製品も9月の+1.5%から10月は+4.5%と上昇幅を拡大しています。

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2024年11月12日 (火)

今年の年末ボーナスはそこそこ増えるか

今月11月に入って、例年のシンクタンク4社から2024年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。可能な範囲で支給総額に言及している部分を取っています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。第一生命経済研ではそもそも公務員は予想の対象外です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研40.6万円
(+2.5%)
69.0万円
(+4.7%)
今冬の賞与を展望すると、民間企業の支給総額は前年比+6.1%と、今夏に続いて大幅な増加となる見通し。支給対象者が昨年から増加するほか、一人当たり支給額も同+2.5%と今夏並みの伸びとなる見通し。
みずほリサーチ&テクノロジーズ40.9万円
(+3.5%)
77.6万円
(+2.5%)
今冬の民間ボーナス支給総額(一人当たりボーナス支給額×ボーナス支給労働者数)は前年比+6.4%と、一人当たりボーナス支給額(同+3.5%)よりも増加幅が大きくなるだろう。2024年は夏のボーナスを支給された労働者の割合が大幅に高まったことから、冬のボーナスに関しても支給される労働者の割合が84.2%(前年差+2.3%Pt)に上昇し、支給総額が押し上げられる見込みだ。
なお、公務員(国+地方)の一人当たりボーナス支給額は、前年比+2.5%と前年(同+2.3%)に続き底堅く推移するだろう。2024年度の人事院勧告で国家公務員の月例給が増額されたほか、ボーナス支給月数が+0.1カ月(4.50カ月→4.60カ月)引き上げられたためだ。地方公務員についても、国家公務員に準じて給与を決定する自治体が多いため、一人当たりボーナス支給額が増加すると見込まれる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング40.6万円
(+2.5%)
70.8万円
(+5.0%)
一人当たり支給額と支給労働者数の増加を受け、ボーナスの支給総額は17.9兆円(前年比+8.6%)と4年連続で増加しよう。支給総額は物価を上回るペースで上昇し、個人消費の回復に寄与することが期待される。
第一生命経済研n.a.
(+2.7%)
n.a.夏と同様に、冬のボーナスでも中小企業を中心として賞与の支給事業所割合が増えることが予想される。この支給事業所の増加による影響を考慮した「全事業所における労働者一人平均賞与額」で見れば、冬のボーナスは前年比+5.6%の大幅増になると予想する。
冬のボーナスで明確な増加が見込まれることは、家計の所得環境にとって大きな追い風となる。実質賃金は24年8、9月には前年比ゼロ%近傍の推移にとどまっているが、ボーナス支給時期である24年12月には明確なプラスとなるだろう。

先週の11月7日に発表された厚生労働省の毎月勤労統計では、今年の夏季ボーナスは1人当たりで+2.3%増、賞与支給のある事業所に雇用される労働者の割合も前年差4.3%ポイント増となり、かけ合わせた支給総額は+10%近い伸びと考えられます。引き続き、年末ボーナスも大きな伸びを示すと考えられており、上のテーブルのように、民間企業では+2%台半ばから後半、あるいは、+3%台の伸びが予想されています。支給対象も増加する見込みで、したがって、かけ合わせた支給総額の伸びは+5%を超え、これは明らかに物価上昇率を上回っていて、実質的な所得増を達成する見込みです。年末商戦には期待を持てそうです。
下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2024年11月11日 (月)

インフレにより2か月連続で低下した10月の景気ウォッチャーと黒字が縮小した9月の経常収支

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.3ポイント低下の47.5となった一方で、先行き判断DIも𥬡.4ポイント低下の48.3を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆7171億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから記事を引用すると以下の通りです。

街角景気10月小幅低下、物価高で節約志向 判断は維持
内閣府が11日発表した10月の景気ウオッチャー調査は現状判断DIが47.5となり、前月から0.3ポイント低下した。2カ月連続マイナス。物価高が景況感を押し下げているが、前月からの低下が小幅だったことや構造的な変化がみられなかったことから、景気判断は「緩やかな回復基調が続いている」で据え置いた。
指数を構成する3部門では、企業動向関連DIが0.2ポイント、雇用関連が0.4ポイントそれぞれ上昇した一方、家計動向関連が0.6ポイント低下した。
企業動向関連の回答では「修学旅行生やインバウンドの増加傾向が続いており、10月はイベントも多いことから身の回りの消費は活発になっている」(沖縄=食料品製造業)など、インバウンドが支えになっているとの声が聞かれた。
家計動向関連では「米の値段が大きく上がり、様々な食品が値上がりとなっていくなか、客は購入点数や来店回数を減らすことで生活防衛を行っている」(九州=スーパー)、「今夏が猛暑でエアコンがよく売れたため、その反動が出てきている」(東海=家電量販店)など、物価上昇の影響や季節要因に関する指摘が出ていた。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは前月から1.4ポイント低下の48.3と、2カ月連続で低下した。
回答者からは「依然として所得の増加を上回る物価上昇が続いていることから、客の購買力が相対的に低下している」(北海道=住宅販売会社)、「今後も客の節約志向は続くものと予想され、販売数量を維持することは厳しいとみられる」(中国=一般小売店[食品])など、顧客の節約志向や買い控えを懸念する声が上がっていた。
内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」とした。
大和証券のエコノミスト、鈴木雄大郎氏は「節約志向は根強いものの、今後は実質賃金の回復を背景にマインドは緩やかに回復に向かう」と指摘。個人消費も底打ちが期待されるが「リベンジ消費に一服感がみられる中では、大幅に増加する可能性は低い」との見方を示した。
調査期間は10月25日から31日。
経常収支9月は1兆7171億円の黒字、予測下回る 貿易赤字で
財務省が11日に公表した9月経常収支は1兆7171億円の黒字となり、2023年2月から続く連続経常黒字を20カ月に更新した。ただ黒字幅はロイター予測の3兆2628億円を大きく下回り、2023年3月以来の対前年黒字幅縮小を記録した。
財務省は、9月の経常黒字幅の縮小は輸入コスト増加に起因する貿易収支の赤字によるものとした。貿易収支は前年同月から6912億円悪化し3152億円の赤字となった。赤字は3カ月連続。経常黒字をけん引してきた第一次所得収支の黒字幅が縮小したことも効いた。第一次所得収支は前年同月から4660億円減の2兆7745億円の黒字となった。黒字の減少は3か月ぶり。
9月の第一次所得収支の黒字幅減少について財務省担当者は、7-8月に海外証券等投資の配当増が集中したことによるもので「期ずれによる一時的な動きではないか」としている。
経常収支は2023年1月に2兆0014億円の赤字を記録した後は、円安と食料品、エネルギー、資源価格の高騰などによる貿易赤字にも関わらず、海外への証券投資や直接投資からの収入に支えられ、黒字を続けている。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、直近では5月統計で45.7の底となった後、6月統計では47.0、8月統計では49.0に上昇したものの、9月統計では47.8、本日公表の10月統計でも47.5と2か月連続の低下となっています。基本的には、インフレによるマインドの低下、主として家計のマインド低下の影響が大きいと私は考えています。10月統計でも低下したのは家計動向関連だけで、企業動向関連と雇用関連は上昇しています。また、企業動向関連の産業別でも、消費をはじめとする内需への依存度の高い非製造業は前月差マイナスながら、いくぶんなりとも輸出の効果が見込める製造業は前月差プラスとなっています。ただし、依然として水準はそれほど低下したわけでもなく、長期的に平均すれば50を上回ることが少ない指標ですので、現在の水準は、マインドが決して悪い状態にあるわけではない点には注意が必要です。10月統計ではサービス関連が上昇した以外、小売関連や飲食関連などは軒並み低下しています。しかし、企業動向関連では、輸出の恩恵ある製造業で上昇しています。また、雇用関連では前月差プラスが続いていて、翠寿は50を超えています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いている」で据え置いています。先行きについては、価格上昇の懸念は大いに残っているものの、賃上げの浸透や定額減税、あるいは、増額されるであろう年末ボーナスへの期待が見られると考えるべきです。また、内閣府の調査結果の中から、小売業界の見方に着目すると、「物価高騰により売上は前年比100%前後であったが、来客数もようやく前年並みに回復してきた(東北=コンビニ)。」とか、「米の値段が大きく上がり、様々な食品が値上がりとなっていくなか、客は購入点数や来店回数を減らすことで生活防衛を行っている(九州=スーパー)」といったものが目につきました。米の価格上昇や品薄はインパクト大きかった気がします。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用した記事にもある通り、いずれも季節調整していない原系列の統計で、ロイターによる市場の事前コンセンサスは+3兆円を上回る黒字でしたので、実績の+1兆7171億円はかなり下振れた印象です。また、季節調整済みの系列でも、前月8月統計の+3兆1,459億円から9月統計では+1兆2,717億円の黒字へと、▲2兆円近く経常黒字が大きく縮小しています。大雑把に丸めた数字で、第1次所得収支で▲1.6兆円、貿易・サービス収支で▲0.3兆円の黒字縮小要因といえます。ですので、引用した記事の「期ずれによる一時的な動き」かもしれません。もちろん、経常収支にせよ、貿易収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はなく、資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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今日は我が家の結婚記念日

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今日は、我が家の結婚記念日です。
来年は結婚30周年になります。誠に、めでたい限りです。
忘れないうちにポストしておきます。

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2024年11月10日 (日)

今年のベスト経済書アンケート

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今年も、経済週刊誌から年末恒例のベスト経済書のアンケートが送られて来ました。昨年は、週刊『ダイヤモンド』にてブランシャール教授の『21世紀の財政政策』に対する私のコメントを首尾よくラストの4人目で掲載していただきました。今年はどうなるかと考えています。まず、ベスト経済書のトップはノーベル賞なども考慮すれば、アセモグル教授とジョンソン教授の『技術革新と不平等の1000年史』(早川書房)で決まりだと思います。昨年も、ノーベル賞を受賞したゴールディン教授の『なぜ男女の賃金に格差があるのか』はトップではないとしてもかなり上位に食い込んでいましたから、『技術革新と不平等の1000年史』もトップではないとしてもトップスリーくらいには入るものと私は想像しています。私も推しますが、よほど気の利いたコメントをしないと取り上げてもらえそうもないと思います。ほかは、順当には小野浩教授の『人的資本の理論』とか、トランプ大統領誕生で注目されているマーティン・ウルフ『民主主義と資本主義の危機』、はたまた、飯田泰之教授の『財政・金融政策の転換点』などとなります。寺井公子教授らの『高齢化の経済学』も私は推したいところなのですが、すこしビジネスパーソンには難しそうな学術書です。ただし、トリッキーなところで原田泰・飯田泰之『高圧経済とは何か』入れておきたい気がしています。

ここはケインズ的な美人投票の応用で、自分が美人と考える人に投票するのではなく、自分のコメントが取り上げられるような本で回答する、というのが肝要です。11月25日が締切ですから、すこし迷いつつもしっかり考えたいと思います。

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2024年11月 9日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通り計6冊です。
まず、ヴィリ・レードンヴィルタ『デジタルの皇帝たち』(みすず書房)は、国家権力よりも強大になったテック企業について分析しています。続いて、デヴィッド・グレーバー & デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』(光文社)では、有史以前の人類史に新たな視点を当てています。続いて、金子玲介『死んだ山田と教室』(講談社)は交通事故で死んだ山田が教室に戻ってきておしゃべりするエモい小説です。続いて、市川憂人ほか『東大に名探偵はいない』(角川書店)は、東大卒や在学中の作家によるミステリ短編のアンソロジーです。続いて、大西広『バブルと資本主義が日本をつぶす』(ちくま新書)は、人口減少を食い止めるための平等化を論じています。最後に、スティーヴン・キング『コロラド・キッド』(文春文庫)はホラーの帝王の出版50周年記念企画の第4弾となる中編集です。なかなか、積読になっている新書の読書がはかどりませんが、来週はがんばりたいと思います。
なお、今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って先週が8冊、今日が6冊をポストし、合わせて279冊となります。たぶん、年間300冊に達するペースかと思います。なお、今週になって10冊あまりの経済書まどを一気にAmazonのブックレビューにポストしました。ほかにも、本日分をはじめとしてFacebookやmixiでシェアする予定です。

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まず、ヴィリ・レードンヴィルタ『デジタルの皇帝たち』(みすず書房)を読みました。著者は、英国オックスフォード大学教授であり、ご専門はデジタル経済などの経済社会学だそうです。本書の英語の原題は Cloud Empire であり、2022年の出版です。ということで、まず、本書の副題は表紙画像にも見られる通り、「プラットフォームが国家を超えるとき」となっています。コチラの方が本書の内容をよく表しているかもしれません。ただ、英語のサブタイトルは How Digital Platforms Are Overtaking the State and How We Can Regain Control ですから、英語の副題の後半は邦訳から落ちています。謎です。本書は3部構成であり、第Ⅰ部が経済的制度、第Ⅱ部は政治的制度、第Ⅲ部は社会的制度を対象にしています。私の専門から、また、本書での重要度の見方からしても、このレビューでは経済に焦点を当てたいと思います。ということで、対象とされている企業は本書p.3などから、Airbnb; Amazon; Apple; eBay; Google; Uber; Upworkなどのデジタルプラットフォーム企業であり、本書冒頭ではこれらの企業の紛争処理解決担当者のお仕事が紹介されていたりします。そして、紛争解決だけではなく、こういったテック企業の最高経営責任者=CEOは国の国家元首よりも大きな力を持っている可能性を示唆しています。そうかもしれません。ひとつには、経済活動がオンラインに移行すると、その経済活動に対してルールを設定して遵守させようとする主体が国家ではなくテック企業となる可能性が高くなります。詐欺やサイバー攻撃まで過激にならなくても、あるいは、ルールまで至らない評価やレピュテーションのたぐいについても同様です。例えば、グルメサイトの評価がレストランの売上げを左右しかねないのは広く理解されているところかと思います。そういった訴訟もあったんではないでしょうか。加えて、もうひとつはプライバシー保護についても、闇サイトのシルクロードを引き合いに出して、プライバシーをどこまで保護すべきかのジレンマについて本書は議論を展開しています。本書では取り上げられていませんが、現在の日本の首都圏で問題となっている闇バイトによる強盗事件などについても、秘匿性の高い通信ソフトが使用されている点が明らかになっていますので、プライバシー保護と犯罪行為の関係も議論されるべきポイントと考えるべきです。同時に、オンラインで労働するフリーランス的な労働が増えた際の統計的差別、すなわち、先進国の労働者と途上国の労働者の間の賃金格差の可能性についても言及しています。政治的制度については、アマゾンという巨大なテック企業が売行きのよい商品を提供する弱小企業から、その商品を事実上乗っ取るような行為があり、そういった行為だけではなく、手数料の大幅な値上げなども市場集中の進んだテック企業では行われていると本書では指摘しています。オンラインビジネスでは極めて巨大なネットワーク効果が働くので、こういった市場の集中度が高まりかねません。同時に、デジタル決済プラットフォームに犯罪資金が引きつけられたため閉鎖せざるを得なくなった例も報告されています。そして、ビットコインなどの暗号資産は経済的制度ではなく政治的制度の中で、リバタリアン的な中央支配を拒絶するクリプトクラシーとして取り上げられています。このあたりは読んでみてのお楽しみです。社会制度についても、経済社会のデジタル化が進む中でセイフティネットをはじめとして福祉国家のほころびが目立ち始めていると指摘しています。その最大の例としてクラウドファンディングを上げています。日本でも国立科学博物館で公的資金が不足しクラウドファンディングでナショナル・コレクションを守る活動を始めたことは広く報じられているところです。最後の第12章では、デジタル暴君を退位させるための競争の回復、あるいは、市場集中の防止に関する議論が展開されています。米国では、金ぴか時代の反トラスト法などの経験があることも確かです。でも、どこまで有効性が確保されるか、私は疑問なしとしません。デジタルプラットフォームに関して経済・政治・社会の側面から幅広い議論を投げかけているオススメの本です。

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次に、デヴィッド・グレーバー & デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明』(光文社)を読みました。著者は、グレーバー教授は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの人類学教授であり、私も読んだ『負債論』や『ブルシット・ジョブ』などの著書のある研究者で2020年に亡くなっています。ウェングロウ教授は、ロンドン大学の考古学研究所に所属していて、比較考古学がご専門です。本書の英語の原題は The Dawn of Everything であり、2021年の出版です。邦訳タイトルはご大層に聞こえますが、ほぼほぼ直訳です。ということで、本書は文字記録の始まる前の先史時代、すなわち有史以前の人類史を捉え直そうとする試みです。ですので、歴史学者ハラリによる『サピエンス全史』、進化心理学者ピンカーの『暴力の人類史』、はたまた、進化生物学者ダイアモンド教授の一連の著作などと同じ試みといえます。もっと大昔でいえば、エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』とも相通ずるものがありそうです。まあ、何と申しましょうかで、ゴーギャンの名画 1D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous? = 我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか とよく似た問いに対する回答を試みています。はい、上下2段組で解説や参考文献まで含めて700ページ近いボリュームであり、私の専門分野とビミョーに異なりますので、すべてを的確に理解できたかどうかは自信ありませんが、それなりのインパクトある読書だったことは確かです。ただ、有史以前からの人類史とはいえ、歴史的なモデルは置かれています。近代的な経済社会においては、国家が成立して議会・政府・裁判所が三権分立し、国内治安を維持するための警察、対外的な安全保障のための軍隊などを備え、基本的人権などの前に所有権などの制度的な諸権利が確立するわけです。その前の状態をホッブズとルソーの2つの自然状態に関する人類観とでも呼ぶべきモデルを示します。すなわち、ホッブズは、人々は孤独で貧しく辛く残忍で短い、という、いわゆる「万人の万人に対する闘争」と考える自然状態のモデルを提示し、人類とは凶暴で争い好きな存在として描き出します。逆に、ルソーは、農業と冶金の勃興を機に土地が分割されて私的に所有され、しかも、貴金属の蓄積と支配隷属関係が始まってしまうんですが、その前の段階では、豊かな実りを採集できる森で小さな集団にしか属さなかった野生人は、欲望を競わず平等かつ平穏に暮らしていた、という自然状態のモデルを示し、人類とは自由で平等な無邪気な存在であるとします。その上で、ホッブズ的にいえば、社会契約によって人類の本能を権力サイドから抑圧することとなり、ルソー的にいえば、本来の自由を犠牲にしていろんな制約に服することになります。そして、本書の重要な観点は格差とか不平等という経済的な見方です。すなわち、先史時代には原始共産制のような平等な経済社会であったにもかかわらず、文明の発達が不平等に道を開いた、というのが『サピエンス全史』なんかで見られる歴史観だと思うのですが、そこに本書は大きな疑問を呈しています。現在では例外的な紛争地帯などを別にすれば大きな移動は見られませんが、今の移民どころではない大規模な人口移動が先史時代から有史時代でも大昔にはいっぱいあったわけで、地域選択も自由だったようです。こういった基本的人権のもっとも基礎をなす自由と平等の観点から壮大な人類史の構築を試みた歴史書です。書店や図書館で目にするだけでボリュームに圧倒されて手に取ろうという気が起こらないかもしれませんし、手に取って読んでみてもなかなか理解がはかどらないかもしれませんが、時間をかけてでも挑戦する値打ちのある歴史書といえます。

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次に、金子玲介『死んだ山田と教室』(講談社)を読みました。著者は、もちろん、小説家なのですが、この作品が第65回メフィスト賞を受賞してデビューしたのではないかと思います。やや記憶は不確かです。この作品はすでに映画化が決まっており、マンガも出ていて、出版社でも特設サイトを開設していたりします。ということで、とてもエモい作品です。特に、最後は果てしなくエモいです。舞台は、おそらく東京か、少なくとも言葉で判断する限り、首都圏の東京近郊にある大学附属高校です。まあ、架空の名称が付与されていますので、ソチラはどうでもいいのですが、重要なポイントのひとつは男子校である、もうひとつは高偏差値の進学校である、という点です。大学に進んで、弁護士や医師を目指す生徒が少なくありません。そして、タイトルにある教室とは2年E組です。花浦先生が担任で生徒は、当然ながら、男子ばっかりです。これまた、タイトル通りに、山田は死んでいます。飲酒運転の交通事故で夏休み最終盤の高校2年生の8月末の交通事故でした。飲酒運転です。見た目は金髪に染めて目の下のホクロが印象的であり、明るくギャグを飛ばしてクラスの人気者、しかも、それなりに成績もよくて付属校から成績優秀者のみが行ける大学医学部を志望していたりする、といった設定です。ところが、死んだハズの山田が2学期になってスピーカーから声を発します。というか、おしゃべりを始め、教室にいる生徒や先生の声などの音も聞こえる、という怪奇現象が起こります。視覚的に見ることはかなわないものの、聴覚は十分で山田とおしゃべりができるわけです。で、死んだ山田は2年E組の席替えとかを提案したりするわけで、生きている、というか山田以外の2年E組の生徒もいろいろと最初は山田に関する行動を取るわけです。例えば、新聞部が山田の交通事故の真相について取材したり、学園祭で金髪にホクロという山田の見た目をマネた出で立ちでカフェを開いたりします。ところが、その学園祭の山田カフェに山田のバンド仲間とか、山田が中学校のころに所属していた部活の同級生が来たりして、いろいろと山田の知られざる実態が、2年E組の生徒諸君が知らなかった事実が、明らかになったりします。ただ、そうこうしているうちに、いわゆうr「去る者日々に疎し」となって、2年生の終業式、さらに、3年生を終えた卒業式などの時間の経過とともに、2年E組の教室にやって来る同級生は減って行き、卒業して大学に進学し、さらに、その大学も卒業して社会人になってからは、ほとんど誰も来なくなるのは当然といえば当然の成り行きです。そして、最後にとっておきのエモいラストが待っているわけで、それは読んでみてのお楽しみとなります。


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次に、市川憂人ほか『東大に名探偵はいない』(角川書店)を読みました。短編を集めたアンソロジーなのですが、各作品の著者は、東大卒、あるいは、現役東大生です。そして、タイトル通りに、殺人事件こそ起こりませんが、日常のちょっとした謎も含めて短編ミステリといえます。収録順にあらすじを紹介すると、まず、市川憂人「泣きたくなるほどみじめな推理」は、1995年、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件などがあった年、東大生となった女子大生が主人公です。主人公は失踪した従姉妹の痕跡を探すため東大の文芸サークルに入り、また、従姉妹の下宿のアパートの部屋を訪ねたりした上で、真相に近づきます。ラストはハッピーエンドです。続いて、伊与原新「アスアサ五ジジシンアル」は、東大の地震研究所を舞台に、地震予知を示唆する「アスアサ五ジ ナガノ ジシンアル」と記されたはがきが届きます。この文面が、かつて虹で地震を予知すると注目をされた椋平広吉の電報とそっくりでした。主人公の研究員は、このトリックを明らかにし、その背景も探ります。続いて、荒川帆立「東大生のウンコを見たいか?」では、作者ご本人がミステリ作家という設定で、謎解きのワトソン役を務めます。すなわち、東大准教授の同窓生から依頼が入り、人糞から飲用水を作る研究をしている農学部の施設で、学生を人糞タンクに突き落とした犯人を突き止める、というミステリです。続いて、辻堂ゆめ「片面の恋」では、東大に入学した女子大生が主人公で、入学早々にやってきた学園祭である5月祭でクラスで焼き肉ホットサンドの模擬店を出すことになり、クラスメートたちは試作に余念がありません。そういった中で、男子たちは都内の名門中高一貫女子校出身の美女ふたりに大きく注目して、主人公はやや等閑視されるわけですが、ある男子学生が帰り道で急速に熱を冷めさせてしまいます。その理由を「片面は...さすがに」という一言から想像するのですが、まるで、ケメルマンの名作短編「9マイルは遠すぎる」のような見事な推理が展開されます。続いて、結城真一郎「いちおう東大です」では、共働きながらすべての家事をこなしてくれる妻に満足し、東大の見えるところに住みたいという妻の希望を入れた住まいで暮らす主人公なのですが、年始の挨拶に妻の祖父母の家を訪れて一家が東大卒ばっかりであることに驚き、妻の恋愛や結婚に対する考えを知って愕然とします。最後に、これだけが現役東大生の作品で、浅野皓生「テミスの逡巡」では、学生によるwebメディアの記者をしている男子学生が主人公です。ちょっと風変わりな卒業生をインタビューに行きます。法学部を卒業し弁護士になりながら、医学部に入り直して医師をしているOBです。法律による救済と医療による命の救済について、何とも摩訶不思議で偶発的な、というか、ものすごく小説らしい作為的な謎解きです。たぶん、世間一般では結城真一郎「いちおう東大です」の評価が高そうな気がします。途中で真相に気づく読者もいそうですが、いかにも世間一般の東大生に対する雰囲気をよく取り込んだ作品です。でも、私は辻堂ゆめ「片面の恋」をもっとも高く評価します。繰り返しになりますが、ケメルマンの名作「9マイルは遠すぎる」のような見事な安楽椅子探偵の謎解きです。

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次に、大西広『バブルと資本主義が日本をつぶす』(ちくま新書)を読みました。著者は、慶應義塾大学と京都大学の名誉教授であり、ご専門はマルクス主義経済学です。実は、京都大学経済学部のOBですので、私の2年先輩に当たります。はい。私は著者と面識があります。それも、かなり親しい関係といえると思っています。本書は、おそらく、同じ著者による前著である『「人口ゼロ」の資本論』の続編という位置づけなのでしょうが、誠に申し訳ないながら、私はこの前著はよんでいません。ですので、十分本書を理解したかというと、s値モン分野が違う点も含めて、それほど自信がありません。ということで、私自身は定年まで長らく官庁エコノミストをしていて、まさに、政府の御用学問的な経済学に親しんでいますが、本書の著者はいわゆるマルクス主義経済学の観点から人口減少と貧困や不平等のはびこる日本経済について分析と解決策の提示を試みています。まず、人工減少については、私は目先の将来についてはそれほど心配していません。目先の将来とは、まあ、20-30年先くらいまで、という感触です。ただ、人口の年齢構成、すなわち、少子高齢化については大きな懸念材料だと考えています。ただ、年齢構成のバランスそのままで人口減少が起こるはずもありませんから、両者はコインの裏表で一体的に考えるべきである、というのは確かです。まず、人口減少については、私自身はある一定のクリティカル・ポイントまでは線形で考えて十分だと見なしています。ただ、おそらく、直感的には2000-3000万人くらいのところでキンクするポイントがあり、そのあたりからはノンリニアで急速に国家としての日本の衰退が始まると考えています。すなわち、インフラ、単なる道路や何やといったハードな物的なインフラから、社会関係資本などのソフトなインフラ、もちろん、学校・病院、果ては、警察や消防などに至るまで、経済成長や生産・物流なんてところにとどまらず、国家の体をなさない状態に陥る可能性があります。極端にいえば、人口1万人では国土の防衛は不可能と考えるべきです。ですので、本書では、そうならないために平等化が志向されます。もっともです。底辺労働者に限らず、国民生活全体の底上げが必要です。そもそも、低所得であるがゆえに結婚や子育てを諦めている国民がとても大きな割合いて、それが人口減少の主因となっていることは明らかです。加えて、本書の主張ではなく、私自身の考えとして、現在の日本の貧困や不平等は基本的人権の尊重すらリスクにさらしている可能性があります。選挙で適切な選択をするためには、それなりに日常的に政治・経済ニュースなどの情報に接する必要がありますし、就労するためには居住する場所や情報を受け取る機器が不可欠です。その観点からも不平等の是正が必要です。現在の経済社会では自由ばかりが重視され、平等やその基礎となる民主的な参加や決定が軽視される傾向にあります。本書の分析や推論について十分理解した自信はありませんが、その主張しようとするポイントは重要ですし、方向性は完全に正しいと思います。

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次に、スティーヴン・キング『コロラド・キッド』(文春文庫)を読みました。著者は、いわずと知れたホラー小説の大御所です。本書は短編というよりは中編くらいのボリュームの作品3点を収録しています。作家活動50周年記念刊行第4弾となります。第4弾ということらしいのですが、出版社では第1弾から順に『異能機関』、『ビリー・サマーズ』、『死者は嘘をつかない』に続く第4弾、という位置づけらしいです。私はそれほどキングのファンというわけでもないので、第1-2弾の『異能機関』と『ビリー・サマーズ』は読んでいません。ぎゃくに、50周年企画とは関係なく、ミステリ3部作の『ミスター・メルセデス』、『ファインダーズ・キーパーズ』、『任務の終わり』とか、『アウトサイダー』なんぞは読んでいたりします。ということで、収録されている順に、まず、冒頭の「浮かびゆく男」は、リチャード・マシスンの名作「縮みゆく男」を想起させます。場所はキングのファンであればご存じのキャッスルロックとなります。ITデザイナーのバツイチ40男スコットが主人公です。巨体を誇り、身長は190cmを超え、体重も軽く10キロオーバなのですが、外見の体型はまったく変わらないのに体重だけが減少を続けます。しかもこの体重減少が加速したりします。隣人のレストラン経営の同性婚の女性2人とは、隣人らしい衝突から始まって、ターキートロット・レースと呼ばれる12キロのマラソン大会から親密な関係を気づくとともに、かかりつけの医師夫妻と5人で定期的な夕食会を持って、体重がゼロ、というか、マイナスに突っ込む最後の日を迎えます。最後はエモいです。タイトル作の「コロラド・キッド」は、登場人物はたったの3人で、メイン州の小さな島の新聞ウィークリー・アイランダー紙の発行社にインターンでやってきたステファニーが、2人の年配記者であるヴィンスとデイヴから聞かされる奇妙な物語です。大昔に島の海岸で発見された死体の来歴が語られます。その名の通り、コロラドからはるばるやって来て、島の対岸にあるレストランで食事して、島の海岸で死体が発見されます。どうしてコロラドからやって来たかが判明したかというと、タバコのパッケージにあった納税スタンプです。不思議とか奇妙というよりも、とても不気味なストーリーです。作者自身によるあとがきがあり、それも含めて名作だという気がします。最後の「ライディング・ザ・ブレット」は正真正銘のホラーです。しかも、オカルトや超常現象の要素もあるのですが、そういったものよりは、私がホントに恐怖を覚える常軌を逸した人間行動によるホラーです。主人公はメイン州立大学に通う男子学生で、主人公が過去を回想するという形を取ります。ある夜、郷里の隣人から電話があり、母ひとり子ひとりで主人公を育てた母が倒れて入院したという知らせでした。主人公はヒッチハイクで夜を徹して母親が入院している郷里の病院を目指します。その最後に、乗っけてもらったドライバーから究極の選択を迫られます。車の運転も怖いですが、この選択を迫られる主人公の心理描写も怖いです。ただ、超長い文章で細かい描写を得意とするキングにしては、という意味ながら、心理描写がそれほど細かく微に入り細を穿っていない気もします。でも、車の疾走感も重要ですし、このあたりは評価がビミョーなところかもしれません。私のようなさほど熱心ではない読者も読んでいるのですから、熱心なキングのファンにはとってもオススメです。

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2024年11月 8日 (金)

8月末の台風による自動車工場停止からの反動が見られる9月の景気動向指数

本日、内閣府から9月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+2.5ポイント上昇の109.4を示し、CI一致指数も+1.7ポイント上昇の115.7を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数9月は2カ月ぶりプラス、生産など改善
内閣府が8日発表した9月の景気動向指数速報(2020年=100)によると、足元の景気を示す一致指数は前月比1.7ポイント上昇の115.7と2カ月ぶりにプラスとなった。鉱工業用生産財出荷指数や輸出数量指数の改善が寄与した。8月に台風による生産停止が響いた自動車の反動や、エアコン・リチウム電池などの生産・輸出が寄与した。
一致指数から一定の基準で内閣府が決める基調判断は5月以来の「下げ止まりを示している」で据え置いた。
先行指数も前月比2.5ポイント上昇の109.4と2カ月ぶりのプラスだった。鉱工業用生産財在庫率指数や最終需要財在庫率指数の改善が指数をけん引した。中小企業売上見通しも電気機械・設備投資関連を中心にプラス寄与した。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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9月統計のCI一致指数は2か月ぶりの上昇となりました。加えて、3か月後方移動平均の前月差も2か月ぶりに+0.53ポイント上昇し、7か月後方移動平均の前月差も+0.47ポイント上昇しています。7か月後方移動平均の上昇は3か月連続です。ただ、統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で先月から据え置いています。5月に変更されてから半年据置きです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、世間一般と比べるとやや楽観的な見方かもしれません。ただし、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は、引き続き、考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、鉱工業用生産財出荷指数が+0.70ポイント、輸出数量指数が+0.64ポイント、耐久消費財出荷指数が+0.37ポイント、生産指数(鉱工業)が+0.25ポイント、有効求人倍率(除学卒)が+0.23ポイントなどとなっています。8月末に台風の影響で自動車工場がいくつか生産停止となった反動が9月統計に現れています。他方、マイナスで目立つのは商業販売統計であり、商業販売(小売業)(前年同月比)が▲0.34ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)も▲0.14ポイント、のそれぞれマイナス寄与を示しています。

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2024年11月 7日 (木)

連合総研「勤労者短観」に見る賃上げと物価上昇やいかに?

先週木曜日の10月31日に連合総研から10月調査の「第48回勤労者短観」のうちの首都圏・関西圏版分析結果が明らかにされています。全国版の分析結果は12月上旬になる予定とのことですが、そろそろ春闘での賃上げの実感が判るのではないかと注目しました。まず、リポートから定点観測調査に関する調査結果のポイントを3点引用すると以下の通りです。

調査結果のポイント
  • 1年前と比べた景気認識は4期ぶりに悪化【図表Ⅰ - 1】
  • 1 年前と比べて物価は上がったとの認識は高い水準で推移【図表Ⅰ - 3】
  • 賃金の増加幅が物価上昇幅より大きいと回答した割合は、依然として7.9%と低水準にとどまる【図表Ⅰ - 5】

続いて、関心事項である賃上げとインフレの関係、すなわち、調査結果のポイントの第3番目の点について、リポートから図表Ⅰ-5 1年前と比較した賃金収入の変動幅と物価上昇幅の差 を引用すると以下の通りです。

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それぞれの棒グラフの左端の黒い部分が賃金の増加幅が物価上昇幅より大きいと回答した割合を示しています。物価上昇よりも大きな賃上げを勝ち取ったと感じている割合は、そもそも10%に満たないほど少なくなっています。逆にいえば、インフレによる物価上昇の方が賃上げよりも大きいと感じている割合が過半となっています。賃上げが物価上昇に追いついていないわけですから、すなわち、実感として生活が苦しくなっている、と感じていることになります。ただし、いくつかのグループで見ると、例えば、非正社員よりも正社員の方が物価上昇よりも賃上げの方が大きかったと感じている割合は高くなっていますし、同様に、20代の若手から30代や40代の中堅層が50代以降のベテラン層よりも賃上げの実感があるように見えます。ただ、繰り返しになりますが、賃上げが物価上昇に追いついていない、という受止め、というか、印象が、逆の印象よりも圧倒的に大きくなっています。

さて、人口減少社会に入って人手不足が問題となっている中で、また、物価が上昇している中で、どうして賃上げがここまで進まないのでしょうか。大きな謎です。

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2024年11月 6日 (水)

ユーキャン「新語・流行語大賞」ノミネート語

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昨日11月5日、ユーキャン「新語・流行語大賞」のノミネート語30が明らかにされています。上の通りです。はい、私も半分くらいしか判りません。いくつかみたメディアのサイトの中で、NHKの「2024年『新語・流行語大賞』30の候補 発表【一覧で詳しく】」の解説がもっとも判りやすかった気がします。ご参考まで。
私のイチ推しはNo.18「はて?」です。NHK今年度上半期の朝ドラ「虎に翼」に由来します。ちなみに、昨年の大賞は阪神タイガースの日本一にちなんで「アレ (A.R.E.)」でした。もはや、大昔のことのように感じます。それから、No.25に「ホワイト案件」がノミネートされていますが、「闇バイト」は昨年のトップテンに入っていたりします。
さて、12月2日に発表される今年の大賞やいかに?

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2024年11月 5日 (火)

社長の出身大学に我が勤務校は入っているか?

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やや旧聞に属するトピックながら、先週月曜日の10月28日に東京商工リサーチから2024年「全国社長の出身大学」調査の結果が明らかにされています。上のテーブルの通りです。
14年連続で日本大学がトップなのですが、社長数は1万9,974人と前年の2万248人を下回っており、調査開始以来、初めて2万人を下回りました。2位は慶応義塾大学の1万737人、3位は早稲田大学が1万582人で、その差はわずかです。ここまでのトップスリーは1万人を超えています。4位以下は、明治大学8,071人、中央大学7,356人、法政大学5,948人と、いわゆるMARCHの中の3校が並んでいます。次いで、東海大学、近畿大学、同志社大学、東京大学が続き、トップテンの順位は昨年と同じだったようです。11~20位には、MARCHから青山学院大学と立教大学、西の関関同立から関西大学、立命館大学、関西学院大学が入っています。関東、関西以外の地方からは、福岡大学が16位、愛知学院大学が18位となっています。ランクアップは国公立大学9校、私立大12校で、ほとんど差はなかった、とリポートされています。
ここでも、私の出身校はそこそこの成績を収めているようです。

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2024年11月 4日 (月)

Osaka Jazz Channel による Wave

Osaka Jazz Channel による Wave の演奏です。ジャズというよりはボサノバなのでしょうが、アントリオ・カルロス・ジョビンの名曲であり、ジャズでも幅広く取り上げられています。やや古い演奏ながら、ゆったりと流れるメロディは大好きです。
大忙しの今日は、適当なトピックでごまかしておきます。

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2024年11月 3日 (日)

ミスドでまたまたポケモンドーナツ

ミスター・ドーナツで、またまた、ポケモンドーナツが登場です。今週水曜日の11月6日スタートです。前回、私はコダックをゲットしたのですが、今回は定番ピカチュウのほか、ディグダのラインナップです。後は、モンスターボールとか。

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はい、私は完全に宣伝の術中にはまってミスドに行くんだろうと思います。

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2024年11月 2日 (土)

今週の読書は税制に関する経済書をはじめ計8冊

今週の読書感想文は以下の通り計8冊です。
まず、林正義『税制と経済学』(中央経済社)は、東大教授による税制に関する経済書です。続いて、吉岡友治『ややこしい本を読む技術』(草思社)は、難易度の高い本を読む際の留意点をいくつか指摘しています。続いて、新名智『雷龍楼の殺人』(角川書店)は、ややトリッキーながら斬新なアイデアを詰め込んだ「読者への挑戦状」つきの本格ミステリです。続いて、桂幹『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』(集英社新書)は、日本のリーディング・インダストリーであった電機産業の凋落について5つの要因から分析を試みています。続いて、小宮一慶『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(日経文庫)は、日本経済を把握するためにマクロ経済などの指標を取り上げています。続いて、チャールズ R. ダーウィン『ビーグル号航海記』上下(平凡社ライブラリー)は、ほぼ200年前の英国測量船ビーグル号の航海の詳細を『種の起源』で進化論を唱えたダーウィンが取りまとめています。続いて、絲山秋子『御社のチャラ男』(講談社文庫)は、芥川賞作家が地方の食品企業の部長をしているチャラ男の実態をさまざまな関係者の視点からあぶり出そうと試みています。
今年の新刊書読書は1~10月に265冊を読んでレビューし、11月に入って本日の8冊も入れて273冊となります。たぶん、年間300冊に達するペースだろうと思います。新書の積読もがんばって読んだものの、さらに借りたり、買ったりもあって、なかなか新書の積読が減ってくれません。なお、Facebookやmixi、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、林正義『税制と経済学』(中央経済社)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、ご専門は財政学です。本書は中央経済社の月刊誌『税務弘報』に連載されていた記事を取りまとめています。かなり学術書に近いレベルであると考えるべきです。でも、実際に税務に携わっているビジネスパーソンであれば、十分読みこなせると思います。決して難解な内容ではありませんし、結論は多くの方が納得できるものだと思います。ということで、冒頭に公的言説として以下の7点を上げています。すなわち、(1) 高い労働所得税は勤労意欲を削ぐ、(2) 最高税率を上げても税収増には貢献しない、(3) 高い累進課税は高額所得者の海外流出に繋がり、ひいては税収の減少を招く、(4) 配偶者控除は女性の社会進出を阻害している、(5) 相続税は事業継承を阻害し、日本経済に悪影響を与えている、(6) 法人課税は日本経済の成長に悪い影響を与える、(7) 軽減税率を設けることによって低所得者を助けることができる、といった言説です。まあ、印象的には、これらはやや怪しく、本書で検証する、というスタイルです。本書では新たに著者独自の定量分析を行っているわけではありませんが、既存研究をサーベイすることにより、こういった言説の信頼性について回答を試みています。まず、既婚女性のパート収入をヒストグラムでプロットすると、年収95-100万円のクラスで集群=バンチが見られ、個人の予算線の屈折=キンクや離断=ノッチを示唆していると指摘しています。ただし、マイクロシミュレーションの結果によれば、配偶者控除全廃による労働供給の増加の効果は小さいとの研究成果を示していて、税制と社会保険料制度に整合性ある制度設計を求めています。まあ、結論はよく判らない、ということのようです。ただ、総選挙で国民民主党が訴えていた「103万円の壁」やほかに主婦層の労働供給を制約している可能性ある税制や配偶者控除の「壁」については、それほど効果あるという結論は見られないとしています。続いて、個人所得税の累進課税については、日本では現行55%である最高税率をさらに上げる余地は十分にあると結論しています。私もそう思います。富裕層に対して減税をし過ぎである可能性が示唆されています。また、フリードマン教授による負の所得税についても理論的な紹介をしています。さらに、税制による再分配については、資産が移転される時点での相続税よりも、資産保有税の方が格差是正には有効と、まあ、これは従来からの定説を改めて確認しています。企業に対する法人税についてはGechert and Heimbergerのメタ分析の結果を取り上げ、法人税率は経済成長には影響しない、という、これまた、かなり確立された結論を示しています。唯一、実効平均税率(EATR)だけが統計的に有意な負の影響を持つが、出版バイアス、すなわち、法人税率と成長率に負の相関を持つ論文の方が査読を通りやすい、というバイアスを考えれば、総合的に判断して、法人税率は成長率への影響力を持たない、と結論している旨を紹介しています。最後に、消費税については、これまた有名なAtkinson and Stiglitzの理論研究に基づき、労働(あるいは、その逆の余暇)と財消費が分離できるならば、消費課税は冗長=redundantであり、所得課税だけで十分、という結論を紹介しています。最後を締めくくって、いわゆるEBPM=Evidence Based Policy Makingの重要性を強調しています。

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次に、吉岡友治『ややこしい本を読む技術』(草思社)を読みました。著者は、よく判らないのですが、論理的文章の指導や小論文の添削指導などを主催しているようです。本書に何らかの関連ありそうないくつかの経歴の中では、駿台予備校や代々木ゼミナールといった予備校講師の職歴が目につきました。こういった要領よく本を読むという技術はそのあたりで活用できそうな気がします。本書は5部構成となっていて、第1部で読む前の準備、第2部で読みながらすべきポイント、第3部で読み返しつつ考える、第4部で実際のややこしい大著を読む際の注意点、最後の第5部では会読のすすめ、となっています。第1部の準備編は明らかで、特に本書で指摘されるまでもないのですが、要するに、ややこしい本のタイトルと目次から、ある程度のあたりをつける、という作業といえます。ややこしい本でなくても、買ったり、借りたるする際にはタイトルと目次くらいはチェックするものと思います。タイトルと目次に加えて、著者についてもチェックしておけば、本の中身に関する事前知識が得られるのではないか、という気もします。第2部では、読んでいる最中には、取り上げられている問いとその荒っぽい回答、さらに、論理の流れなどの要旨をつかむ必要性が説かれています。まあ、当然です。第3部では、ややこしい本ですので1回読むだけでなく読み返すこともアリ、ということで、論理の流れや構造を深めたり、別の本と比較したりといったことが理解を深める上で有益、という、これまた、当然のことが主張されています。その上で、第4部では10年ほど前にはやったピケティ教授の大著『21世紀の資本』を題材にして、実際にあらすじを紹介して読んでみるという実例を示しています。私は『21世紀の資本』は専門分野の経済学の本でもあり、当然に読んでいますので、このあたりは軽く読み飛ばしていますが、未読の向きには、あるいは、参考になるかもしれません。そして、最後の第5部では読書会がいいと推奨しています。私は「会読」と追う言葉は初めて目にしましたが、まあ、漢字で表現されていますので、いわんとするところは十分理解できます。巻末に、読むべき「ややこしい本」リストが収録されています。年代別に10代から始まって、50代以上まで、なるほどと納得感のある本がリストアップされています。最後に、私の感想を付け加えておくと、本書でいうところのややこしい本、あるいは、その中でも難易度の高い本は特にそうですが、そうでなくても、多くの読書でもっとも厄介なのは冒頭部分を的確に読むことだ、と私は考えています。私が読書する際には、冒頭50ページほどと残り250ページと、同じくらいの時間をかけるケースが決して稀ではありません。逆に、冒頭をスンナリと理解できれば、残りの部分の読書がはかどるような気もします。ということで、本書は単なる読書のススメではなく、表現はビミョーながら、難易度の高い本を読むススメのようなものだと考えて差し支えありません。そういった本に挑戦する場合には、何かの参考になるかもしれません。ならないかもしれません。

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次に、新名智『雷龍楼の殺人』(角川書店)を読みました。著者は、ワセダミステリクラブご出身のミステリ作家であり、2021年に『虚魚』で第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞してデビューしています。小説の舞台は富山県の沖合に浮かぶ油夜島と東京です。まず、油夜島にある外狩一族の屋敷である雷龍楼において、2年前に密室で4人が不審な一酸化炭素中毒事故により命を落とす事件が生じています。その事件で両親を失った中学生の外狩霞は、東京にいる従兄弟の高森穂継の家へ身を寄せていたのですが、下校途中、何者かに誘拐されてしまいます。その外狩霞を助けるために誘拐犯の指示に従って、油夜島にある雷龍楼に高森穂継がやって来ます。しかし、高森穂継が到着した夜にいきなり密室殺人事件が起こり、さらに連続殺人事件に発展します。高森穂継は屋敷の外狩一族や使用人から犯人ではないかと疑われてしまい、そのままでは、誘拐犯の要求も果たすことができないことから、誘拐犯は外狩霞に対して真犯人探しに協力するように迫ります。ということで、ミステリですのであらすじの紹介はここまでとします。まず、小説開始早々20ページに「読者への挑戦」が示されます。しかもその末尾に油夜島で起こる連続殺人事件の犯人の名前が明らかにされ、その上、叙述トリックも存在しない、と宣言されます。ですので、私は決してすべてのミステリを読み切ったわけでもなく、それほどミステリに素養があるわけでもないのですが、それでも、過去に類例のない趣向を盛り込んだ本格ミステリであることは理解できました。この点は、とても明確です。例えば、外狩霞が推理に一定の役割を果たす、というか、誘拐犯にそのように要求されるのですが、その外狩霞は誘拐されていて自由を奪われていて、通話でのみ油夜島の雷龍楼の現場の状況を伝えてもらって推理する、という形式を取っていて、これはとても斬新でした。また、このミステリは、いわゆるクローズド・サークルの密室殺人事件の謎解きではありません。ただし、私も含めて、結末はとてもトリッキーであると受け止める読者もいそうな気がします。その中には、ひょっとしたら、本書で示される真相に納得しない読者もいる可能性が否定できません。私も、本書の結末はそうかも知れないけれども、別の可能性ある真相が考えられるんではないか、という疑問は払拭できませんでした。すなわち、最近はやった夕木春央の『方舟』みたいなものです。逆に、ものすごく高く評価する読者もいそうな気がします。決して多数派ではないと私は思いますが、ひょっとしたら、今年のベスト級のミステリと感じる読者がいても不思議ではありません。読んでみてのお楽しみです。

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次に、桂幹『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』(集英社新書)を読みました。著者は、ほぼ私と同年代で、TDKのサラリーマンを長らくお務めです。また、著者のご尊父さまは早川電機からシャープの副社長までお務めであったそうで、親子2代に渡っての電機産業ご勤務の経験から本書の執筆に至っているようです。ということで、本書のタイトル通り、長きに渡って日本の製造業、特に電機産業と自動車産業は我が国のリーディング・インダストリーであり、世界水準で強い競争力を持っていました。自動車産業は今でもいくぶんなりとも競争力を維持していますが、電機産業の凋落ぶりは目を見張るものがあります。例えば、今月になって、船井電機が500億円近い債務を抱えて破産したことが広く報じられていますし、それ以前にも、三洋電機、シャープ、東芝などが苦境に陥ったとの報道を数多く目にしてきました。本書は5章構成で、その原因を5つ上げるとともに、最終第6章で提言を試みています。電機産業凋落の原因となる5点は、本書で取り上げられている順に、(1) 誤認、(2) 慢心、(3) 困窮、(4) 半端、(5) 欠落、と章タイトルで名付けられています。まず、最初の誤認とは、デジタル化の進展で差別化が困難となり、価格競争の世界に突入したことを見抜けずに、高品質とか高性能にこだわり続け、プラットフォーム・ビジネスでも、技術でも大きな遅れを取った、と指摘しています。第2の慢心については、台湾や韓国企業の成長に対する上から目線の根拠ない優越感に基づいており、特に説明は必要ないものと考えます。第3の困窮は、私の専門領域である経済分野のプラザ合意による強烈な円高です。デジタル化で価格競争の世界に入り、円高で輸出競争力が大いに殺がれてしまったわけです。第4の半端については、いわゆる日本的経営の下で、ダイバーシティ経営が進まず、賃上げにも消極的で従業員のエンゲージメントを高められなかった、と指摘しています。ただ、それでは、米国やアングロ・サクソン的な経営に優位性を認めるのか、というと、それも違うような気がします。第5の欠落とはビジョンやミッションを明らかにできない経営を批判しています。もちろん、これがエンゲージメントの向上を阻害していることはいうまでもありません。本書では指摘していませんが、ジョブズなどのカリスマ的な、というか、事業の将来を見通した展望を持っている経営者をビジョナリー=visionaryというのと共通する部分を私は感じました。日本の経営者には、昭和の時代はともかく、それ以降は経営者にビジョナリーがいないわけです。私自身はキャリアの国家公務員を60歳の定年まで勤め上げた後、大学教員に再就職したエコノミストですから、隣接領域の経営学についてはまだしも、工学的な技術については不案内です。でも、電機産業がかなり大きく凋落ないし衰退したことは事実であり、経済学的な比較優位構造の変化だけでは説明できないと受け止めています。その意味で、事業所や企業という単位で最適化行動を行うのと違って、産業というメゾスコピックな単位での分析ながら、大いに得るものがあった読書した。さらに進んで、ガソリン車から電気自動車や燃料電池自動車といったハード面での大きな技術革新、さらに、ソフト面でも自動運転技術の導入という岐路に立っている自動車産業、そうです、我が国のもうひとつのリーディング・インダストリーの将来についても、同時に考えさせられるものがありました。ただ、最後の提言にある雇用の流動化はやや的外れ、という気がします。そこに電機産業凋落の主たる原因があるわけではありません。

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次に、小宮一慶『コンサルタントが毎日見ている経済データ30』(日経文庫)を読みました。著者は、タイトル通りコンサルタントであり、小宮コンサルタンツ代表です。私は官庁エコノミストから大学教員で経済学を主たる活動領域としてきましたので、さすがに、本書についてはとっても入門書であると感じましたが、逆に、大学入学直後の学生などにはいいかもしれないと感じました。第1章で、マクロ経済の動向を把握するうえで重要な役割を果たす失業率やGDPを取り上げた後、第2章で、日銀短観や景気ウォッチャーなどのマインド指標のソフトデータに加えて、景気動向指数の先行指数などの先行指標を景気の先行きを考えるとの観点から注目しています。第3章で、マクロ指標から個別の産業指標に移って、コロナ禍のとても極端であったころの経済を反映する旅行業界のデータなどに着目した後、第4章で、金融指標を取り上げています。ただ、金融に関しては、指標のほかに特に必要もなく現時点でのカギカッコ付きの「主流派」と同じ見方を提供しているだけで、黒田総裁の時期の異次元緩和はやりすぎだったので、早く金利を引き上げて、これまた、カギカッコ付きの「金融正常化」を進めるべきである、という旧来の日銀理論を特段の理論的根拠なく展開しています。そして、最後の第5章はお約束の株式投資に役立つ指標の解説で本書を締めくくっています。私はその昔の長崎大学に出向していたころに、少し経済学の基礎を身につけたであろう2回生向けに、いくつかのマクロ経済指標のデータをインターネットからダウンロードしてグラフを書いたりする小集団授業を担当していたことがあります。そこで教科書として使っていた本は、かなり前に絶版になってしまって入手できませんので、いくつか類似の本を買って読んでみました。中では、たぶん、森永康平『経済指標 読み方がわかる事典』がいいような気もします。というのは、経済指標を客観的科学的に解説しているからです。本書については、特段の根拠なく著者の好みでいろんな経済指標に対する解釈などが付加されており、少なくとも私は少し違和感覚えるものも散見されました。最後を投資のススメで締めくくっているのも、少し気がかりです。いずれにせよ、大学低回生にはマッチする内容だという気がする一方で、本書がとっても参考になったというビジネスパーソンがいるとすれば、少し勉強が足りないんじゃあないの、という気もしないでもありません。

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次に、チャールズ R. ダーウィン『ビーグル号航海記』上下(平凡社ライブラリー)を読みました。著者は、進化論で有名な科学者です。ニュートンやアインシュタインなどとともに、世界でももっとも有名な科学者の1人だろうと思います。本書の英語の原題は The Voyage of the Beagle であり、ほぼ200年前の1831年から5年かけて世界を一周したイギリス海軍の測量船ビーグル号に同乗した若き日のダーウィンが、南アメリカ大陸沿岸や南太平洋諸島をめぐって各地の地質や動植物をつぶさに観察した日記体の調査記録です。すでに、1959年に岩波書店から3巻から成る『ビーグル号航海記』が出版されているのですが、今年になって「完訳」と銘打って、本書が刊行されています。私は岩波書店版を読んでいないので比較はできませんが、本書はとても読みやすくて、ダーウィンのもっとも有名な『種の起源』といった学術書でもなく、一般読者にも受け入れられやすい出版となっている印象です。ひとつの理由は、『種の起源』が学術書であるというだけではなく、1859年、すなわち、このビーグル号の航海から30年近くを経過して出版されている上に、その翌1860年から早くも改訂に入って、結局、13年にわたって加筆修正が加えられて第6版まで版を重ねている一方で、本書『ビーグル号航海記』は航海それ自体はダーウィンが20代のころ、20代半ばから後半で、出版はせいぜい30歳そこそこという時期の出版物だから、というの取っつきやすい理由であると思います。ですので、上巻の表紙画像はとてもミスリーディングであり、ビーグル号で航海したり、その紀行文を出版したころのダーウィンはもっと若々しかったハズです。ということで、とっても前置きめいた部分が長くなりましたが、航海をしたビーグル号は英国を発って大西洋を南に下り、アフリカ西岸やブラジル・アルゼンチンといった南米東岸を進みます。パタゴニアからティエラ・デル・フエゴなど、ほぼほぼ植生や動物などの限られた不毛の地を経て、マゼラン海峡を通って大西洋から太平洋に抜けます。チリの海岸を北上し、かのガラパゴス諸島に寄港するわけです。この第17章のガラパゴス諸島が本書のハイライトと考えるべきですが、ページ数から考えて、それほど大きなボリュームが割かれているわけではありません。まあ、フツーという感じです。ただ、ガラパゴス諸島の後はかなり省略、というか、ビーグル号が航海した距離に比較して本書の記述ボリュームが極端に少なくなっている気はします。タヒチとニュージーランドからオーストラリア、キーリング島とモーリシャスを経て、さっさと英国に帰国してしまった印象です。まあ、ガラパゴス諸島を別にすれば、太平洋はすでに調べ尽くされていたのかもしれません。いずれにせよ、出版から200年近くを経て、歴史上に燦然と輝く名著であることは確かであり、おそらく、100年後も名著であり続けることと私は考えています。完訳が出版された機会に読んでみるのもオススメです。大いにオススメです。

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次に、絲山秋子『御社のチャラ男』(講談社文庫)を読みました。著者は、芥川賞作家です。ですので、本書も純文学なのでしょうが、やや大衆文学、というか、エンタメに近い印象です。ただ、本書のチャラ男は、世間一般で考えられている「チャラ男」とは少し違っています。おそらく、世間一般に考えられているチャラ男は、20代かせいぜいが30代前半くらいの男性で、外から見た格好としては、髪の毛は金髪ではないにしても明るめで、アクセをいっぱい使っていて、ピアス穴は3つくらいあり、ヨーロピアン・ブランド、たぶん、イタリアのスーツを着て、エナメル靴の先端が尖っている、といったものではないでしょうか。こういった外見に加えて、言動は思いつき次第で責任を持つわけではなく、行動もご同様、言動も行動も軽くて、でも世渡り上手、といったイメージではないかと思います。というか、私はそうでした。でも、本書のチャラ男は創業者社長のコネで入社した部長級職員、というか、部長そのものなのですが、社内外から「チャラ男」と見なされています。本書の舞台は、明示されていないながら、何となく、北関東をイメージさせる地方の食品会社で、オイルやビネガーを取り扱っているジョルジュ食品です。そして、本書は16章から構成されていて、このチャラ男こと三芳部長のチャラ男としての本質そのたを、ご本人も含めた多くの社内外の関係者の視点からあぶり出そうと試みています。私は読んでいてとてもしっかりしたリアリティを感じました。ただ、このチャラ男こと三芳部長が実際にやっているのはかなり深刻なものもあり、例えば、仕事が出来ないにもかかわらず、なんとか仕事が出来るように周囲に見せかけ、でも誰も騙すことが出来ない、とか、部下に理不尽な仕事を押し付ける、とかのあたりまではよく見かけるとしても、社員へのいじめにとどまらず不倫にまで及んだり、明確な犯罪行為である横領をしたりします。ですので、決して、「サラリーマンあるある」ではないのですが、本書は実にサラリーマン小説、というか、会社員小説であるという点は強調しておきたいと考えます。この作者の芥川賞受賞作品の主人公もサラリーマンだったと記憶しているのですが、本書ではさらにサラリーマンの業務上の実態を詳しく描写しています。チャラ男の周囲も、盗癖があって万引きで警察に捕まる中年男とか、ややハチャメチャで通常の会社ではないところもあるのですが、救いはラストにあります。ラストには希望が見出だせます。感動とか、爽快とまではいいきれない部分は残りますが、でも、このラストがあることで本書を読んだ甲斐があった、と感じることが出来ると思います。

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2024年11月 1日 (金)

雇用者の伸びが12千人まで減速した10月の米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の今夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、9月統計で+223千人増から10月統計では+12千人増と大きく減速し、失業率も前月から横ばいの4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに9パラ引用すると以下の通りです。

October jobs report: Economy added 12K jobs amid storms, strikes; unemployment at 4.1%
Employers added just 12,000 jobs in October as hiring slowed substantially. The total was expected to be constrained by two Southeast hurricanes and several worker strikes but the tally was far lower than expected and job gains for previous months were revised sharply downward, raising concerns about a weakening labor market.
The report provides a final portrait of the economy just days before next week's historic election and key Federal Reserve meeting. But the temporary hurdles will likely make it challenging for Fed officials to get a reading of the labor market's underlying health, economists said.
The unemployment rate held steady at 4.1%, the Labor Department said Friday.
Before the report was released, economists surveyed by Bloomberg estimated that 105,000 job gains were added in October.
Also worrisome: Payroll gains for August and September were revised down by a whopping 112,000. August's additions were downgraded from 159,000 to 78,000 and September's, from 254,000 to 223,000.
Hurricanes Helene and Milton likely reduced employment last month by about 70,000 in the Southeast, Oxford Economics estimated. Goldman Sachs expected a smaller impact of 40,000 to 50,000 jobs. Hurricane Helene hit Florida's Gulf Coast on September 26, well before the Labor Department conducted its jobs survey, the agency noted, but Milton struck during the week of the survey.
Across the region, the number of businesses open, employees working and hours logged all fell by about 9%, according to Homebase, which makes employee scheduling software.
Meanwhile, an ongoing Boeing strike - along with smaller walkouts at Textron, an aerospace parts maker, and Hilton Hotels - likely suppressed payrolls by about 40,000, according to research firm Nomura.
All told, the storms and strikes probably shaved job gains by about 100,000, forecasters estimated.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、10月統計では大きく減速して+12千人を記録しています。引用した記事の4パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+105千人という見方でした。なお、引用した記事の5パラ目にあるように、雇用者数については8-9月統計も先月の公表時から下方修正されています。すなわち、8月統計は+159千人増が+78千人増に、9月統計は+254千人増が+223千人増に、それぞれ修正され、2か月の合計で▲112千人の下方修正となっています。他方、失業率も前月から横ばいの4.1%を記録しています。もちろん、この雇用の減速はインフレ抑制のための連邦準備制度理事会(FED)による金融引き締めの影響もありますが、引用した記事のタイトルにもあるように、ハリケーンとストライキの影響も見逃せません。すなわち、9月末のヘリーン、10月初旬のミルトンと立て続けにハリケーンが南部を襲っています。引用した記事の6パラにあるように、オックスフォード・エコノミクスはハリケーンによる雇用者数の減少を▲70千人ほど、また、ゴールドマン・サックスでは▲40-50千人と推定しています。また、これも記事の8パラにあるように、ボーイングやテキストロン、あるいは、ヒルトンなどにおけるストライキで▲40千人ほど減少したのではないかと見られています。要するに、ハリケーンとストライキで▲100千人ほどの影響があったことになります。しかし、これらを加味しても+12千人増という10月の雇用者の伸びは明確に雇用が減速していることを示していると考えるべきです。
米国連邦準備制度理事会(FED)は9月17-18日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)では通常の2倍の▲50ベーシスの利下げを実施しましたが、先行きは通常の▲25ベーシスの利下げが見込まれています。連邦公開市場委員会(FOMC)は11月には来週6-7日に、12月には17-18日に予定されています。日銀の次の金融政策決定会合は12月FOMC直後の12月18-19日です。ひょっっとしたら、再利上げに踏み切る可能性もあります。はてさて、日米の金融政策動向やいかに?

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日銀「展望リポート」に見る経済の先行き見通しやいかに?

すっかり忘れていましたが、昨日10月31日、日銀にて政策委員会・金融政策決定会合が開催され、金融政策の現状維持を決定するとともに、「経済・物価情勢の展望 (展望リポート)」(2024年10月)を明らかにしています。1日遅れで少し気が抜けた印象ですので、テーブルのみリポートp.9から引用しておきたいと思います。

     
  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
(参考)
消費者物価指数
(除く生鮮食品・エネルギー)
 2024年度+0.5 ~ +0.7
<+0.6>
+2.4 ~ +2.5
<+2.5>
+1.9 ~ +2.1
<+2.0>
 7月時点の見通し+0.5 ~ +0.7
<+0.6>
+2.5 ~ +2.6
< +2.5>
+1.8 ~ +2.0
< +1.9>
 2025年度+1.0 ~ +1.2
<+1.1>
+1.7 ~ +2.1
<+1.9>
+1.8 ~ +2.0
<+1.9>
 7月時点の見通し+0.9 ~ +1.1
<+1.0>
+2.0 ~ +2.3
<+2.1>
+1.8 ~ +2.0
<+1.9>
 2026年度+0.8 ~ +1.1
<+1.0>
+1.8 ~ +2.0
<+1.9>
+1.9 ~ +2.2
<+2.1>
 7月時点の見通し+0.8 ~ +1.0
<+1.0>
+1.8 ~ +2.0
<+1.9>
+1.9 ~ +2.2
<+2.1>

なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数については、自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

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