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2024年11月29日 (金)

2か月連続で増産となった鉱工業生産指数(IIP)と伸びが縮小する商業販売統計と堅調な雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+3.0%の増産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.6%増の13兆8590億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.1%の上昇を記録しています。雇用統計では、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.5%と悪化した一方で、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.25倍と改善しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産10月は前月比3.0%上昇、先行きは2カ月連続マイナスへ
経済産業省が29日公表した10月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は前月比3.0%上昇し、2カ月連続のプラスとなった。半導体・フラットパネル製造装置や自動車生産が指数を押し上げた。
ただ、ロイターが集計した民間予測の前月比3.9%上昇は下回った。生産予測指数は2カ月連続の前月比低下で、経産省幹部は「自動車や半導体製造装置、米中経済など注視が必要」としている。
企業の生産計画から算出する予測指数は11月が前月比2.2%低下、12月は同0.5%低下だった。基調判断は「一進一退」で据え置いた。
10月の生産品目別の前月比は、半導体製造装置が67.2%増、フラットパネル・ディスプレイ製造装置が94.2%増、普通乗用車が9.0%増、橋りょうが2.15倍など。学校用の更新需要でノート型パソコンなどの生産も伸びた。
一方、半導体メモリーは17.8%減だった。スマートフォン向けなどフラッシュメモリー需要が低下した。
小売業販売額10月は前年比1.6%上昇、自動車増・食品減=経産省
経産省が29日公表した10月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比1.6%上昇だった。自動車やスマートフォンなどが伸びた一方、食品、衣類は減少した。ロイターが集計した民間予測中央値の2.2%上昇を下回った。
業種別の前年比は自動車が7.8%増、機械器具が4.8%増、燃料が3.1%増だった。一方、各種商品が3.9%減、織物・衣服が1.9%減、飲食料品が0.3%減だった。一部自動車メーカーの生産再開や、スマートフォン販売増などがけん引する一方、休日が昨年より1日少なかったことにより、飲食料品の販売数量減などが響いた。
経産省の担当者によると、調査対象企業から「節約志向の高まりで食品の数量が減少した」との声もあったという。
業態別ではドラッグストアが前年比4.3%増加した。マイコプラズマ肺炎の感染が広がったほか、新型コロナの影響もあり調剤が好調。コメ、菓子類販売も伸びた。
コンビニエンスストアも前年比2.0%増。インバウンド(訪日外国人)客向けに菓子の販売が増えたという。
一方、前年比で百貨店は1.3%減と32カ月ぶり、スーパーは0.3%減と33カ月ぶりにマイナスだった。休日数が少なかったほか、高い気温が続き冬物衣料・暖房器具などが不調だった。
失業率10月2.5%、労働市場は拡大 有効求人1.25倍に上昇
政府が29日発表した10月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.5%だった。前月から0.1ポイント上昇したが、「非労働力人口」から就業者や完全失業者にシフトするなど労働市場に拡大の動きもみられ、雇用情勢は悪くないという。有効求人倍率は1.25倍で前月から0.01ポイント上昇した。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.24倍と見込まれていた。
総務省によると15歳以上で労働力人口に入らない「非労働力人口」は17万人減少した一方、就業者数が16万人、完全失業者数が3万人それぞれ増加した。総務省の担当者は、労働供給側からみると「雇用情勢は悪くない」との認識を示している。
伊藤忠総研のチーフエコノミスト、武田淳氏は「労働市場は完全雇用の状況にある」と指摘。日本経済は今後、年収の壁の引き上げや賃上げ機運の一段の高まり、円安の修正によって内需中心の成長軌道に乗るとし、「日銀は来月以降いつでも利上げできる」との見方を示した。
<人手不足が続く>
有効求人倍率は4月(1.26倍)以来6カ月ぶりの高水準。
厚生労働省によると、10月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.2%増加した。製造業や建設業などで原材料や人件費などのコスト上昇を背景に求人を手控える動きはあるものの、全体的に人手不足は続いている。
有効求職者数(同)は0.7%減。物価高騰などで家計が苦しくなる中で生活の安定志向が強まり、現在の職からの転職を様子見する動きも一部にみられた。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たり企業から何件の求人があるかを示す。企業の多くは人手不足に対応するため賃金を引き上げて求人しているとみられ、厚労省の担当者は「雇用は決して悪い状況にはない」と述べた。

3つの統計から取りましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+3.9%の増産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく+3.9%の増産が予想されていましたので、実績の前月比+3.0%の増産はやや下振れた印象です。しかしながら、我が国主要産業である生産用機械工業や自動車工業が牽引した増産ですので、やや市場の事前コンセンサスから上振れた印象とはいえ、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いてしています。
先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の11月は補正なしで▲2.2%の減産であり、上方バイアスを除去した補正後では、さらにマイナス幅が広がって▲3.7%の減産と試算されています。先行き生産は2か月連続の減産を見込んでいるわけです。加えて、12月も▲0.5%の減産との予想となっています。経済産業省の解説サイトによれば、10月統計における生産は、生産用機械工業が前月比で+21.7%の増産で+1.74%の寄与度を示したほか、自動車工業が+6.4%の増産で+0.83%の寄与度、金属製品工業が前月比+8.1%増で+0.34%の寄与度、などとなっています。他方で、生産低下に寄与したのは、電子部品・デバイス工業がが▲8.5%の減産、寄与度▲0.54%、輸送機械(除、自動車工業)が▲13.3%の減産、寄与度▲0.40%、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での寒冷なのですが、伸び率はまだプラスを維持しているものの、プラス幅が落ちてきているのが見て取れます。その上、季節調整済みの系列では先月9月統計で前月比マイナスを記録した後、今月10月統計でも+0.1%の小幅な伸びにとどまっています。引用した記事にある通り、ロイターでは前年同月比で+2.2%の伸びを市場の事前コンセンサスとしていましたので、下振れした印象を持つエコノミストも多かろうと思います。ただ、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断しているところ、本日公表の10月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.3%の減少となりましたので、先月の段階で「上方傾向」から「一進一退」と明確に1ノッチ下方修正した後、今月も「一進一退」で据え置かれています。鉱工業生産と同じ表現となっています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、10月統計ではヘッドライン上昇率が+2.3%、生鮮食品を除くコア上昇率も+2.3%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も+2.3%となっていますので、小売業販売額の10月統計の前年同月比+1.6%の増加は、インフレ率をやや下回っている可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。引用した記事にもインバウンド消費が言及されています。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。記事にもある通り、ロイターでは失業率に関する事前コンセンサスは前月と同じ2.5%、有効求人倍率も前月から横ばいの1.24倍が見込まれていました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率は前月から横ばいながら、有効求人倍率は10月統計では改善を示し、もちろん、どちらの指標も雇用の底堅さを示す水準が続いています。ただし、グラフからも明らかなように、雇用は堅調ながら、そろそろ改善局面を終えた可能性がある、と私は評価しています。ただ、それでも、今年2024年に入ってから10月統計までに失業者数は季節調整済み系列の累計で▲1万人減少しており、その背景として、同じ期間に就業者が+34万人増、雇用者にいたっては+49万人増と大きな増加を示しています。なお、季節調整していない原系列の統計で失業者数は前年同月比で▲5万人減少しています。もちろん、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。ただ、あくまで雇用統計は10月統計の失業率と有効求人倍率のように改善と悪化のまだら模様である一方で、人口減少下での人手不足は続くでしょうし、米国がソフトランディングの可能性を高めている限り、それほど急速な雇用や景気の悪化が迫っているようにも見えません。

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最後に、本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。11月統計では、前月から+0.2ポイント上昇して36.4を記録しています。グラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。消費者態度指数を構成する指標について前月差で詳しく見ると、「収入の増え方」が+0.8ポイント上昇し40.2、「耐久消費財の買い時判断」が+0.2ポイント上昇し29.9、「暮らし向き」が+0.1ポイント上昇し34.3となった一方で、「雇用環境」は▲0.6ポイント低下し41.0となりました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。6か月連続の据え置きです。また、インフレに伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が10月の47.9%から47.5%に低下する一方、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は33.8%から34.1%に増え、物価上昇を見込む割合は93.2%と前月10月統計から変化なくと高止まっています。

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