赤字が続く10月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.1%増の9兆4266億円に対して、輸入額は+0.4%増の9兆8879億円、差引き貿易収支は▲4612億円の赤字を記録しています。4か月連続の貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
貿易赤字4カ月連続、10月4612億円 パソコンの輸入増加
財務省が20日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4612億円の赤字だった。赤字は4カ月連続となった。半導体製造装置を中心に輸出が増えたものの、パソコンやスマートフォンなどの輸入が大幅に増えた。赤字幅は前年同月比で34.4%縮小した。
輸出額は前年同月比3.1%増の9兆4266億円。半導体製造装置が42.6%増だったほか、医薬品が34.2%増、科学光学機器が11.8%増だった。
国・地域別にみると米国向けの輸出は6.2%減の1兆8096億円だった。中国が半導体関連の投資を強化していることなどを受け、アジア向けは7.6%増の5兆408億円だった。欧州連合(EU)は自動車の輸出が減ったことなどから11.3%減の8303億円だった。
輸入額は0.4%増の9兆8879億円だった。品目別ではパソコンなどの電算機類が46%増と最も増え、銅などの非鉄金属鉱が38.3%増、スマホなど通信機が8.7%増だった。パソコンやスマホの新商品販売に伴い、中国やアジアからの輸入が増えた。
国・地域別ではアジアが5.6%増の5兆72億円。EUからは航空機や医薬品が伸び、3.9%増の1兆828億円だった。米国は0.7%減の1兆104億円だった。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲1兆2000億円を超える貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲4600億円を超える赤字は、予測レンジ上限の▲7620億円よりもさらに赤字幅が小さく、ハッキリと上振れした印象です。また、引用した記事の最後のパラにあるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字は前月7月統計からやや縮小しています。ただし、輸出入ともに減少した縮小均衡という見方もできます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年10月統計まで、3年半近く継続して赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。10月統計の億円ほどの貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
10月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、引用した記事で「パソコンやスマートフォンなどの輸入が大幅に増えた」と報じていますが、電算機類(含周辺機器)+46.0%増、電算機類の部分品+18.0%増が大きく伸びています。増減寄与度もこの2品目を合わせて+1%に達しており、輸入全体の伸びが+0.4%にしか過ぎませんから、注目すべき伸びであったといえます。また、鉱物性燃料は▲11.5%減となっており、エネルギーよりも注目されている食料品は+8.6%増と引き続き高い伸びを示しています。輸出に目を転ずると、自動車の部分品が▲12.3%減となり、輸送用機器全体でも▲4.4%減を記録した一方で、半導体等製造装置の+42.6%増などの一般機械が+2.2%増となっていて、10月統計の輸出については自動車の減少を半導体等製造装置といった一般機械で相殺した形となっています。
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