5か月連続で赤字を記録した11月の貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.8%増の9兆1523億円に対して、輸入額は▲3.8%減の9兆2700億円、差引き貿易収支は▲1176億円の赤字を記録しています。5か月連続の貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
11月貿易統計、半導体製造装置の輸出伸びる 赤字は縮小
財務省が18日発表した11月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1176億円の赤字だった。赤字は5カ月連続となった。半導体の製造装置が輸出額を押し上げ、赤字幅は前年同月比で85.5%縮小した。
輸出額は前年同月比3.8%増の9兆1523億円だった。11月としては比較可能な1979年以降で最高額となった。半導体の製造装置は台湾での設備投資の需要が旺盛なことから、32.1%増の3743億円だった。建設用素材や自動車向けの非鉄金属が14.7%増、食料品は21.4%増だった。
地域別でみると、アジア向けの輸出が8.9%増の5兆116億円と、全体をけん引した。うち中国向けは4.1%増の1兆6621億円だった。
米国向けは8%減の1兆6701億円となった。自動車や医薬品の輸出が減少した。欧州連合(EU)向けは電気自動車(EV)や船舶などの輸出が減り、12.5%減の7539億円だった。
輸入額は3.8%減の9兆2700億円だった。品目別ではサウジアラビアなどからの原粗油が29.7%減と最も減った。数量ベースでは17%減った。原粗油は円建て価格も1キロリットルあたり7万5154円で15.4%下がった。中国からのスマートフォンなど通信機は23.9%増だった。
地域別ではアジアが0.2%減の4兆6510億円。台湾からの半導体など電子部品や、インドネシアからの石炭の輸入が減少した。
EUからは医薬品や原動機が落ち込み、5.4%減の9640億円だった。米国は0.6%減の1兆61億円。原粗油のほか有機化合物や液化石油ガスの輸入も減った。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲7000億円近い貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の▲1000億円を少し超える赤字は、予測レンジ上限の▲400億円の範囲内とはいえ、やや上振れした印象です。また、記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字はこのところジワジワと縮小していたのですが、11月統計ではやや拡大しています。季節調整済みの系列では輸出入ともに増加しているのですが、輸入の増加幅の方が輸出より大きくなっています。ですので、拡大均衡という見方もできます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年11月統計まで、3年半近く継続して赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。今年2024年11月統計の億円ほどの貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
11月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、引用した記事にもある通り、原油及び粗油が数量ベースで▲17.0%減、金額ベースでも▲29.7%減となっている一方で、通信機は+23.9%増を記録しています。エネルギーよりも注目されている食料品は+1.7%増と、輸入額全体が減少している中で引き続きプラスの伸びを示しています。輸出に目を転ずると、半導体等製造装置が+32.1%増、ほかに、非鉄金属や食料品などの輸出も引用した記事のように伸びていますただし、11月統計の輸出については自動車は数量ベースで▲3.8%減、金額ベースで▲5.2%減となっています。輸出については、欧米先進国がソフトランディングするとすれば、先行き回復が見込めると考えるべきです。
最後に、来年2025年1月のトランプ米国大統領の就任に伴って、メキシコ・カナダに加えて中国製品への関税率の大幅アップが予想されています。いくつかのシンクタンクで試算していて、日を改めて取り上げたいと思いますが、日本から米国への輸出への影響は、第1に、関税引上げ国からの輸出を代替する部分はプラスのインパクトを持つものの、第2に、所得効果として高関税国だけではなく米国自身も景気悪化の影響をこうむりますので、日本からの輸出は一定のダメージを受けると予想されます。たぶん、後者のマイナスの影響の方が大きいんだろうと私は考えています。
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