労働分配率がやや向上したように見える7-9月期の法人企業統計
本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+2.6%増の377兆2965億円だったものの、経常利益は▲3.3%減の23兆124億円に減少しています。そして、設備投資は+8.1%増の13兆4110億円を記録しています。ただし、設備投資を季節調整済みの系列で見ると原系列の統計と歩調を合わせて増加しており、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.7%増となっています。年率で+7%を超える増加と見られます。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
法人企業統計、7四半期ぶり経常減益 7-9月3.3%減
財務省が2日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は23兆124億円で、前年同期と比べて3.3%減った。7四半期ぶりにマイナスに転じた。海外企業との競争激化や一時的な円高の動きなどが製造業の利益を押し下げた。
製造業の経常利益は前年同期に比べ15.1%減少した。自動車などの輸送用機械が16.8%落ち込み、最大の押し下げ要因となった。海外での販売競争が厳しかったほか、9月に一時1ドル=139円台になるなど為替レートが円高に振れる動きが出たことも影響したとみられる。原油価格が下落したことで、石油・石炭の経常利益も157.2%減と大幅に減った。
非製造業の経常利益は4.6%増だった。最も増益に寄与したのはサービス業で、持ち株会社の配当収入が増えたことなどから64.3%増だった。デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の投資が増えていることで、情報通信業も10.8%の増益だった。
設備投資は前年同期に比べて8.1%増え、13兆4110億円だった。増加は14四半期連続だった。製造業が9.2%増、非製造業が7.4%増と共に増えた。半導体関連の需要増により生産能力を増やす動きが活発だったほか、駅周辺の開発投資、宿泊施設の開業などが目立った。
売上高は2.6%増の377兆2965億円で、14四半期連続で増加した。食料品の値上げによる価格転嫁が進んだことや化学関連の需要増を背景に、製造業が2.8%増えた。非製造業もインバウンド(訪日外国人)増加によりサービス業や運輸業などが好調で、2.5%増となった。
経常利益は7四半期ぶりにマイナスに転じたものの、7~9月期としては23年に次いで過去2番目に高い水準という。財務省は「景気がゆるやかに回復している状況を反映したものと考えている」と分析し、今後は海外景気の下振れや物価上昇などの影響を注視したいとした。
長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。
法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。まさに、それが今年に入ってからの株価に反映されているわけで、東証平均株価については、少しならして見れば、昨年末あたりから上昇を始めて、3月下旬にバブル後最高値をつけて4万円を超えた後、一時下落したものの、現時点では38,000円をやや超える水準に回帰しています。ただ、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。東京では「億ション」を軽く超えて、「2億ション」というのも決してめずらしくはないようです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、昨年2023年10~12月期に跳ねた後、今年2024年1~3月期に減少し、直近で利用可能な7~9月期には堅調に増加しています。前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象があり、昨年2023年10~12月期にはその出遅れが解消され、特に、日銀短観や日本政策投資銀行の調査などによる設備投資計画とGDP統計の差が縮小される動きが始まった一方で、今年2024年1~3月期の減少が何を意味するのか、現時点では不明ながら、人手不足に対応した本格的な設備投資増であることを私は期待しています。設備投資に限らず、売上げや利益も含めて、昨年5月の感染法上の分類変更に伴って、新型コロナウィスル感染症(COVID-19)のダメージの大きかった非製造業、特にサービス業が回復してきています。売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中ではサービス業が上位に名を連ねています。人手不足による影響が大きい非製造業、中でもサービス業の動向に注目しています。
続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半と比べて、▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間と比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。ただ、さすがに分配については今年2024年春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率がホンのチョッピリ上がった可能性が示唆されています。すなわち、GDP統計で把握される国内の総付加価値のうち、今までは猛烈な勢いで企業業績、というか、資本分配率の方に流れ込んでいた部分が、極めてわずかな部分ながら、7~9月期には労働・雇用の方に回帰している可能性があれば、日本経済の成長にはプラスだと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計でデータが利用可能な7~9月期については、経常利益から人件費に回帰する部分があった、というか、そのような可能性があります。ただ、現時点ではんこの傾向が続くかどうかは不明です。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇するの経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇する中で、決して高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できるのが望ましい、という考えは代わりありません。
最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週12月9日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。設備投資はやや上方修正されると私は予想していますが、仕上がりのGDP成長率には大きな変更はないものと考えます。また、シンクタンクなどの2次QE予想については、日を改めて取り上げる予定です
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