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2025年1月23日 (木)

昨年2024年12月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から昨年2024年12月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.8%増の9兆1523億円に対して、輸入額は▲3.8%減の9兆2700億円、差引き貿易収支は▲1176億円の赤字を記録しています。5か月連続の貿易赤字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字4年連続、24年5.3兆円 円安で輸出額が過去最高
財務省が23日発表した2024年の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆3325億円の赤字だった。4年連続の赤字となった。赤字幅は前年比で44.0%縮小した。輸出入の数量はいずれも減少しているものの、歴史的な円安が輸出額を押し上げた。
24年の輸出額は前年比6.2%増の107兆912億円だった。2年連続で100兆円を超えて、1979年以降で過去最高となった。貿易指数(2020年=100)の輸出数量指数は2.6%減の102.9と3年連続で減少した。為替レートは年平均で1ドル=150.97円で、7.7%の円安だった。
アジアを中心に需要が旺盛な半導体等製造装置が4兆4962億円と27.2%伸びた。自動車は3.7%増の17兆9094億円で過去最高だった。
地域別でみると、アジア向けの輸出が8.3%増の56兆8708億円と全体をけん引した。IC製造用など半導体等製造装置は34.8%増えた。半導体等電子部品は11.6%増だった。中国向けの輸出は6.2%増の18兆8651億円だった。
米国向けは5.1%増の21兆2951億円だった。国別として最大の輸出先だった。円安に加え、高価格帯のハイブリッド車(HV)などの販売が好調だったことから自動車の輸出が3.1%伸びた。自動車の部分品も14.5%増えた。
欧州連合(EU)向けは3.9%減の9兆9659億円だった。自動車や鉄鋼などの輸出が減った。
輸入額は前年比1.8%増の112兆4238億円だった。品目別ではパソコンなどの電算機類が31.7%増の3兆2706億円、非鉄金属鉱が14.7%増の2兆7490億円だった。
原粗油は4.4%減の10兆8694億円。原油の輸入価格は1キロリットルあたり7万9494円で3.9%上がったが、数量ベースで前年比8%減少した。
地域別ではアジアからの輸入が3.5%増の53兆8439億円だった。中国を中心にパソコンなど電算機類が19.9%増えた。石油製品は韓国からを中心に25.2%増えた。中国からの輸入は3.6%増の25兆3008億円だった。
米国は9.5%増の12兆6533億円だった。電算機類が約3倍に増えた。航空機のエンジン部品など原動機が24.6%伸びた。
EUは医薬品や航空機類の輸入が増加したことで、3.8%増の11兆8606億円だった。
24年12月単月の貿易収支は1309億円の黒字だった。黒字は6カ月ぶり。半導体等製造装置などの輸出額が好調だったほか、原粗油の輸入額が減った。

差以後のパラグラフを別にすれば、延々と2024年の年間統計について詳述されていて、景気動向を確認する目的で統計をウォッチしているエコノミストからすれば、むしろ、直近月の統計を知りたいところなのですが、まあ、それでも、学生向けの授業などで中長期トレンドを重視する際には、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。2024年年間データを見て私が重要だと思ったのは、引用した記事のタイトルにもあるように、「円安で輸出が伸びた」という点です。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲500億円ほぼの貿易赤字が見込まれていたのですが、実績の+1000億円超の黒字は、予測レンジ上限の+969億円を超えて大きく上振れした印象です。また、記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支赤字はこのところジワジワと縮小していて、11月統計ではやや拡大したのですが、12月統計ではわずかに△330億円まで赤字が縮小しています。季節調整済みの系列では、12月統計では輸出入ともに増加しているのですが、輸出の増加幅の方が輸入より大きくなっています。ですので、拡大均衡という見方もできます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2024年12月統計まで、ほぼほぼ3年半に渡って継続して赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。昨年2024年12月統計の�億円ほどの貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。
本日公表された昨年2024年12月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+0.6%増ながら、石油単価の下落により金額ベースでは▲11.6%減となっている一方で、非鉄金属鉱は数量ベースで+23.9%増、金額ベースでも+28.2%増を記録しています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+8.7%増と、輸入額全体の伸びが+1.8%にとどまっている中で引き続きプラスの伸びを示しています。輸出に目を転ずると、自動車が数量ベースで▲7.2%減、金額ベースでも▲5.9%減となっている一方で、電気機器が金額ベースで+4.7%増、一般機械も+3.7%増と堅調な動きを示しています。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向けは減少したものの、アジア向けの地域全体では+5.8%増となっています。米国向けは△2.1%減ながら、西欧向けが+3.3%などとなっています。輸出については、欧米先進国がソフトランディングするとすれば、先行き回復が見込めると考えるべきです。

最後に、トランプ米国大統領の就任に伴って、関税を主たる政策手段とする通商政策に注目が集まっていることは広く報じられているとおりです。直観的に考えれば、日本から米国への輸出への影響は、第1に、関税引上げ国からの輸出を代替する部分はプラスのインパクトを持つものの、第2に、所得効果として高関税国だけではなく米国自身も景気減速の影響をこうむりますので、日本からの輸出は一定のダメージを受けると予想されます。たぶん、後者のマイナスの影響の方が大きいんだろうと私は考えています。

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