米国トランプ政権による関税引上げの影響はいかに?
先月1月20日にトランプ大統領が就任し、いよいよ今週からカナダとメキシコには25%、中国には追加で10%と大きな関税引上げ政策が行政命令により発動されるかと思っていたら、延期の報道が見られ、早くも世界経済が混乱に陥りかけているよう見えます。このトランプ2.0の関税政策の経済的影響については、昨年の段階で大和総研から日本経済には明確にマイナスの影響という試算結果が示されており、私を含む多くのエコノミストが緩やかに同意していたことと思いますが、先週になって、JETROアジア経済研究所から真逆の日本経済にプラスという試算結果が示されています。また、主要な眼目ではないながら、日本総研からもそれらしい試算が示されていて、これもマイナスという結果となっています。各シンクタンクの試算結果の引用元は以下の通りです。
- 大和総研リポート「『トランプ関税2.0』による日本経済への影響試算」
- アジ研ポリシー・ブリーフ「トランプ政権の中国・カナダ・メキシコに対する関税政策の影響」
- 日本総研「トランプ2.0が高める中国景気後退リスク」
また、web上でオープンにされている資料はありませんが、知り合いのエコノミストから送ってもらっているSMBC日興証券のリポート「トランプ関税による日米経済への影響」では、米国内の物価上昇に対する需要の価格弾力性や内閣府の短期マクロモデルの定数などから日本の実質GDPにはマイナスの影響があるとの大雑把な試算結果を示しています。はい、私もこれくらいの大雑把な感触なのですが、明らかに、トランプ2.0の関税政策は世界経済にも、日本経済にもネガな影響を及ぼすと考えるべきです。
米国の関税率の引上げについて理論的に考えれば、通常は、関税率が引き上げられた国、すなわち、カナダ、メキシコ、中国からの輸出が、そうでない国、日本をはじめとする多くのその他の国の輸出で代替されますので、その代替効果と、関税率の引上げが米国経済や関税率を引き上げられた国々、それに世界経済の所得を引き下げる所得効果の両方があります。日本経済への影響は、前者の代替効果がプラスで、後者の所得効果がマイナスとなり、符号は必ずしも確定しませんが、常識的に考えて、後者の所得効果によるマイナスの影響が大きく、トランプ2.0の関税引上げは日本経済にはネガな影響をもたらす、と私は考えています。
ついでながら、この日本経済へのネガな影響は、世界各国の中でも日本は決して大きい方ではない、という点は強調しておきたいと思います。すなわち、上のグラフは学術論文から引用しているのですが、英国、フランス、ドイツといった西欧先進国の方が日本よりダメージが大きい、との試算結果が示されています。繰り返しになりますが、上のグラフを引用した学術論文は以下の通りです。
最後に、カナダ、メキシコ、中国に対する米国の関税率引上げは、実は、米国経済へのマイナスのインパクトを持ちます。基本的に、物価の上昇とそれに起因するGDP成長率への負の影響です。しかも、カナダからの輸入はともかく、中国やメキシコからの輸入は高所得家計よりも低所得家計に対するダメージが大きい点は十分理解できると思います。そういったいくつかの試算結果について、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)によるPIIE Chartsと同様のものをTwitterのサイトに上げられているグラフを、私の視点からいくつか見繕ってつなぎ合わせると以下の通りです。ご参考まで。
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