4か月ぶりの増産となった鉱工業生産指数(IIP)とインバウンド需要に支えられる商業販売統計
本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも2月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.5%の増産でした。4か月ぶりの増産となります。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.4%増の12兆9130億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.5%の上昇を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
2月鉱工業生産は4カ月ぶり上昇、基調は弱く「一進一退」=経産省
経済産業省が31日発表した2月鉱工業生産指数速報は前月比2.5%上昇となり、前月の1.1%の下落から反発し、4カ月ぶりにプラスに転じた。ロイターの事前予測調査の同2.3%上昇を上回った。設備投資関連の生産用機械に加え、電子部品デバイス、化学機械がけん引した。
生産予測指数は3月が前月比0.6%上昇、4月が同0.1%上昇となった。いずれも、生産用機械、化学工業、石油製品工業に支えられた。経産省は生産の基調判断を「一進一退」として据え置いた。昨年7月から8カ月連続で同表現を維持した。
経産省幹部は「生産は決して強くないが、海外経済の不確実性を反映した需要面の動向のため、上に抜けきれない状況が続いている」と述べた。
トランプ米大統領の関税政策の影響については、生産関連で何か影響を受けたとの声はまだ聞いていないものの、「今後はなお一層注視していく」とした。
日本、中国をはじめ貿易相手国との間で多額の貿易赤字を抱える米国は、トランプ大統領就任以降、自動車、銅、アルミニウムをはじめ幅広い輸入品に一律関税をかける意向を表明しており、貿易相手国に輸出を減らし、対米投資を加速させるよう促している。
ただ、米国の輸入品に課す関税は、完成品のみならず、部品などの調達コストを押し上げ、米国経済で高インフレが再燃し、世界経済に悪影響を与えると危惧する向きもある。
日本国内では、愛知県のばねメーカーで、3月6日に起きた爆発事故の影響で、自動車部品の供給不足が続いている。事故の影響は3月10日以降の生産計画に出てくる可能性があり、生産予測値についても幅をもって「なお注視する必要がある」と同幹部は指摘した。
小売業販売2月は前年比1.4%増、ガソリン値上げ寄与も医薬・飲食減少
経済産業省が31日に発表した2月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比1.4%増となった。ロイターの事前予測調査では2.0%増が予想されていた。
業種別の前年比は、ガソリンなど燃料が7.2%増、自動車が6.2%増、家電などの機械器具が5.6%増だった。ガソリンは価格上昇が主な要因。
一方、各種商品小売業は4.5%減、医薬品・化粧品0.9%減、飲食料品0.8%減だった。インフルエンザや感染症の一服で医薬品販売が減少した。飲食料品の減少は「前年がうるう年だったため」(経産省)という。
業態別の前年比は、家電大型専門店がスマートフォンなどの好調などで5.6%増。このほかドラッグストアが3.5%増、スーパーが3.3%増、コンビニエンスストアが0.3%増、ホームセンターが0.3%増となった。
医薬品の販売が減少するなかコメなど食品販売の増加によりドラッグストアはプラスを確保した。
一方、百貨店は衣料品の減少などが響き2.0%減にとどまった。
2つの統計から取りましたので、やや長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は+2.3%の増産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同程度の+2.2%の増産が予想されていましたので、実績である+2.5%と大きな差はなく、2か月ぶりの増産ですが、特段のサプライズはありません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から8か月連続で据え置かれています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、足下の3月は補正なしで+0.6%の増産、4月も+0.1%の増産となっており、上方バイアスを除去した補正後でも、3月の生産は+0.6%の増産と試算されています。経済産業省の解説サイトによれば、2月統計における生産は、生産上昇方向に寄与した産業として、生産用機械工業が前月比+8.2%の増産で+0.66%の寄与度を示したほか、電子部品・デバイス工業が+10.2%の増産で+0.56%の寄与度、化学工業(除、無期・有機化学工業・医薬品)が+34%の増産で+0.16%の寄与度、などとなっています。他方で、生産低下方向に寄与したのは、輸送機械(除、自動車工業)が+△6.2%の減産で△0.19%の寄与度、無機・有機化学工業が△4.0%の減産で△0.18%の寄与度、鉄鋼・非鉄金属工業が△1.5%の減産で△0.10%の寄与度、などとなっています。
広く報じられている通り、米国ではトランプ政権発足に伴って関税引上げを連発していて、特に、今週4月3日からは自動車関税に25%が上乗せされ、日本も例外なく適用されるということになっています。自動車工業は裾野が広く、輸出に依存する部分も決して無視できないことから、我が国の生産の先行きは極めて不透明です。例えば、大和総研のリポート「米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響」によれば、国際産業連関表を用いて、自動車のみで△0.25%、自動車部品でも△0.11%と、計△0.36%の我が国GDPを押し下げる効果があると試算しています。先行き懸念材料、それも大きな懸念材料のひとつといえます。もうひとつ、引用した記事にもあるように、中央発條のプレスリリースによれば、3月6日に爆発事故があり、自動車工業への供給制約の動向も注目されます。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数を小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、伸び率はまだプラスを維持しているものの、比較対象の昨年2月がうるう年であったことも考慮する必要があるとはいえ、やや伸びに鈍化が見られます。季節調整済みの系列では停滞感が明らかとなっていて、1月統計で+1.2%増の後、本日公表の2月統計では+0.5%の伸びにとどまりました。引用した記事にある通り、ロイターでは季節調整していない原系列の小売業販売を前年同月比でみた伸びについて、市場の事前コンセンサスでは+2.0%増としていましたので、実績の+1.4%増は少し下振れした印象です。統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断していて、本日公表の2月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.5%の上昇となりましたので、昨年2024年9月から続けていた「一進一退」から、今月は「緩やかな上昇傾向」に上方修正しています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、2月統計ではヘッドライン上昇率が+3.7%となっていますので、小売業販売額の2月統計の前年同月比+1.4%の増加は、インフレ率を下回っており、実質消費はマイナスの可能性が高いといえます。さらに考慮しておくべき点は、中華圏の春節も含めて、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。
最近のコメント