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2025年3月19日 (水)

2月の貿易統計と大きく減少した1月の機械受注統計をどう見るか?

本日、財務省から2月の貿易統計が、また、内閣府から1月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+11.4%増の9兆1911億円に対して、輸入額は▲0.7%減の8兆6066億円、差引き貿易収支は+5845億円の黒字を計上しています。2か月振りの貿易黒字となっています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲3.5%減の8579億円と、2か月連続の前月比マイナスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支、2月は5845億円の黒字 2カ月ぶりプラス
財務省が19日発表した2月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5845億円の黒字だった。黒字となるのは2カ月ぶりとなる。輸出は春節(旧正月)の影響で中国向けが伸びたほか、米国向けも自動車などが増加した。
貿易黒字額は21年3月の6098億円以来、およそ4年ぶりの大きさだった。全体の輸出額は9兆1911億円で前年同月比で11.4%増加した。増加は5カ月連続となる。輸入は8兆6066億円で0.7%減だった。減少は3カ月ぶりだった。
地域別では対中国の輸出が1兆5382億円で14.1%増、輸入が1兆7250億円で3.5%減となった。輸出額は2月として最大だった。
1月は中国が春節に入った影響で現地の生産活動が停滞し、日本からの輸出の動きが鈍り赤字額が拡大する原因となった。2月に入って止まっていた輸出が動き出したことで輸出額が増えた。昨年は春節が2月だったため前年同月で比べると反動で輸出が増えた。
対米国では輸出が10.5%増の1兆9047億円で、輸入は2.7%減の9858億円だった。品目別では輸出のおよそ3割を占める自動車が13.9%増となったほか、電気機器なども増えた。
米国を巡ってはトランプ米政権が追加関税の発動を計画している。財務省は「駆け込み需要があったとは言い切れない」と説明するが、輸出額は2月として最大だった。
欧州連合(EU)とは輸出が7.7%減の8041億円、輸入が1兆266億円で15.2%増だった。中国を含む対アジアでは輸出が15.7%増の4兆8916億円、輸入が0.4%減の4兆45億円だった。
1月の機械受注3.5%減 2カ月連続マイナス
内閣府が19日発表した1月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で3.5%減の8579億円だった。2カ月連続のマイナスだった。基調判断は「持ち直しの動きがみられる」と据え置いた。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.5%減だった。
製造業、非製造業ともに前月比でマイナスだった。製造業は前月比1.3%減の4130億円だった。製造業17業種のうち9業種が前月から減少した。マイナス幅が大きかった業種では前月に伸びた反動がでた。業種別では石油精製施設などからの受注が減り、「石油製品・石炭製品」は前月比71.1%減だった。
非製造業(船舶・電力を除く)は7.4%減の4373億円だった。2024年3月(10.2%減)ぶりのマイナス幅だった。情報サービス業(24.3%減)や金融業・保険業(19.5%減)、リース業(29.2%減)からの受注が減った。
月ごとのぶれをならした3カ月平均の数字では0.6%減だった。内閣府は基調判断を据え置いた理由について、「先月に引き続きマイナス幅は小幅にとどまっており、明確な変化が確認できなかった」と説明した。
25年1~3月期の見通し(季節調整済み)は前期比2.2%減となった。見込み通りなら2四半期ぶりのマイナスになる。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、+7500億円超の貿易黒字が見込まれていたところ、実績の+6000億円足らずの黒字はやや下振れした印象です。また、記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字はこのところジワジワと縮小していて、昨年2024年12月統計では+500億円余りの黒字を記録した後、今年2025年1月統計では再び赤字となって▲6000億円超に拡大し、本日公表の2月統計では+2000億円近い黒字を計上しています。ただ、毎年1-2月は中華圏の春節により季節調整しきれていない部分がないとはいえませんので、1-2月を均してみると、まだ赤字幅の方が大きいと感じられます。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2025年1月統計まで、ほぼほぼ3年半に渡って継続して赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。ですので、この程度の貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。繰り返しになりますが、毎年1月と2月は旧暦で日付が決まる中華圏の春節がいつになるかでかく乱要因が大きく、大きく統計が振れたからといって深刻に考える必要はありません。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる点の方がよほど懸念されます。ただ、本日公表の2月統計では、米国の関税政策発動直前の駆け込み需要があったかどうかについては、引用した記事にもあるように、財務省当局からは懐疑的な見方が示されていると私は受け止めています。
本日公表された2月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで▲13.1%減、金額ベースで▲12.9%減となっています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+5.6%増と、大きく増加しています。非鉄金属鉱は数量ベースで▲16.0%減、金額ベースで▲29.4%減を記録しています。輸出に目を転ずると、自動車が数量ベースで+3.2%増、金額ベースでも+13.4%増となっている一方で、電気機器が金額ベースで+9.7%増、一般機械も同じく+11.6%増と高い伸びを示しています。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で+14.1%増と大きく伸びたことを受けて、中国も含めたアジア向けの地域全体で15.7%増となっています。米国向けは+10.5%増ながら、西欧向けが▲4.5%減などとなっています。輸出については、中国の景気動向が目標の+5%成長近くを達成できるとすれば、米国トランプ政権の関税政策次第と考えるべきです。

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続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。まず、引用した記事にある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、市場の事前コンセンサスは季節調整済みのコア機械受注で前月比▲0.5%減、予測レンジの下限が▲3.2%減でしたから、実績の▲3.5%減はレンジ下限を超えて、大きく下振れした印象です。ただ、統計作成官庁である内閣府では、半ノッチ上方修正した先月2024年11月の「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。また、先行きについては決して楽観はできず、特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響が同時にラグを伴って現れる可能性が十分あることから、金利に敏感な設備投資にはブレーキがかかることは明らかです。加えて、繰り返しになりますが、米国のトランプ政権の関税政策により先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。

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