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2025年4月30日 (水)

ともに市場の事前コンセンサスを下回った3月の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計

本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも3月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.1%の減産でした。2か月ぶりの減産となります。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.1%増の14兆0630億円を示し、季節調整済み指数は前月から▲1.2%の低下を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産3月、2カ月ぶり低下の前月比マイナス1.1%
経済産業省が30日発表した3月鉱工業生産指数速報は前月比1.1%低下した。2カ月ぶりのマイナス。ロイターの調査による事前予測0.4%低下を下回った。自動車や電気・情報通信機械などの生産が低下した。
経産省は生産の基調判断を「一進一退」のまま据え置いた。
3月は自動車が前月比5.9%低下。とくに小型車の落ち込み幅が23.2%と大きかった。一方、半導体製造装置が8.4%、フラットパネル・ディスプレイ製造装置が44.5%上昇した。
生産予測指数は4月が前月比1.3%上昇、5月が同3.9%上昇。経産省の担当者によると、米国の関税政策で生産計画を変更したとの声は聞かれないという。
一方、これまで堅調だった電子部品・デバイス、生産用機械が、4-5月は弱くなるとみている。
農林中金総合研究所の南武志・理事研究員は「長い目で見て生産はぱっとしない状況が続いている」と話す。トランプ米大統領の関税政策については、「修正含みで、輸出・生産に多少の影響はあってもマーケットが揺れ動く事態は避けられるのではないか」とみる。
2024年度1年間の鉱工業生産は、前年比1.6%低下した。
小売業販売3月は3.1%増、食品値上げ寄与 訪日客向け減で百貨店マイナス
経済産業省が30日に発表した3月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比3.1%増の14兆0630億円だった。値上げにより飲食料品の増額が寄与しスーパーの販売などが好調だった。
ロイターの事前予測調査では3.5%増が予想されていたが、これを下回った。
業種別の前年比では、織物・衣服が7.6%増、機械器具6.7%増、その他小売業4.1%増、医薬品・化粧品3.7%増と大きく伸びた。飲食料品も1.9%増え、燃料が1.8%、自動車1.5%、それぞれ増加。
寄与度別では飲食料品と機械器具の押し上げが大きく「食品価格上昇やiPhone16などスマートホンなどの販売が増えた」(経産省)。
業態別の前年比は、ドラッグストアが7.4%増、スーパーが5.3%増、家電大型専門店5.3%増、コンビニエンスストア4.1%増、ホームセンター0.9%増。一方、百貨店は「寒暖差が大きく衣類などが不振だったほか、訪日観光客(インバウンド)向けが減少」(同)し3.2%減だった。

2つの統計から取りましたので、やや長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)▲0.4%の減産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく同程度の△0.4%の減産が予想されていましたので、実績である▲1.1%は市場予想を下回りました。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から9か月連続で据え置かれています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、足下の4月は補正なしで+1.3%の増産、翌5月も+3.9%の増産となっています。ただし、上方バイアスを除去した補正後では、4月の生産は▲2.5%の減産と試算されています。経済産業省の解説サイトによれば、3月統計における生産は、減産方向に寄与したのは、自動車工業)+△5.9%の減産で△0.81%の寄与度、電気・情報通信機械工業が△4.4%の減産で△0.38%の寄与度、汎用・業務用機械工業が△5.0%の減産で△0.37%の寄与度、などとなっています。他方で、増産方向に寄与した産業として、生産用機械工業が前月比6.9%の増産で+0.59%の寄与度を示したほか、自動車を除く輸送機械工業が+7.6%の増産で+0.20%の寄与度、無期・有機化学工業が+4.2%の増産で+0.18%の寄与度、などとなっています。
広く報じられている通り、米国ではトランプ政権発足に伴って関税引上げを連発しています。日米交渉が進められているものの、自動車工業をはじめとして輸出に依存する部分も決して無視できないことから、我が国の生産の先行きは極めて不透明となっています。ダウンサイドリスクを顕在化させかねない先行き懸念材料、それも大きな懸念材料のひとつといえます。もうひとつ、中央発條のプレスリリースによれば、3月6日藤岡工場の第3工場で爆発事故があり、自動車工業への供給制約の動向も注目されます。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数を小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、伸び率はまだプラスを維持しているものの、やや伸びに鈍化が見られます。季節調整済みの系列では停滞感が明らかとなっていて、1月統計+1.2%増、2月統計+0.4%増の後、本日公表の3月統計では▲1.2%の減少を記録しています。引用した記事にある通り、ロイターでは季節調整していない原系列の小売業販売を前年同月比でみた伸びについて、市場の事前コンセンサスでは+3.5%増としていましたので、実績の+3.1%増は大きなサプライズではないものの少し下振れした印象です。統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断していて、本日公表の3月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.2%の上昇となりましたので、先月から「緩やかな上昇傾向」に上方修正しています。ただ、プラス幅が大きく縮小しつつありますので、来月の基調判断は微妙なところです。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、3月統計ではヘッドライン上昇率が+3.6%となっていますので、小売業販売額の3月統計の前年同月比+3.1%の増加は、インフレ率をやや下回っており、実質消費はマイナスの可能性が高いといえます。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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2025年4月29日 (火)

二酸化炭素排出を調整した生産性の試算

経済の重要な概念に生産性がありますが、外部効果を含めて二酸化炭素排出を調整した全要素生産性の計測結果を示したワーキングペーパー "Emissions-adjusted total factor productivity" が明らかにされています。その昔に、公害や交通事故などの自動車の外部経済を計測した宇沢弘文先生の『自動車の社会的費用』(岩波新書)が出版されていますが、ひょっとしたら、それに匹敵する画期的な推計かもしれない、と私は受け止めています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

次に、London School of Economics and Political Science のサイトからからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
Traditional estimates of total factor productivity (TFP) measure the output that a bundle of inputs produces. But production comes with emissions that stay in the atmosphere for decades, which means that productivity does not capture the full effect of today's production on the present value of current and future output. We draw on the climate-macro literature to propose a measure for emissions-adjusted total factor productivity (TFPE) that takes these long-run effects into account. TFPE is a relevant measure of productivity under general assumptions consistent with canonical integrated assessment models and "green national accounts." It is straightforward to calculate and relies only on publicly available data, as well as an estimate of the social cost of carbon. For traditional (small) estimates on the economic effects of climate change, TFPE is approximately equal to TFP. For recent (large) estimates of the social cost of carbon, however, TFPE and TFP growth decouple. In the United States, the rapid decline in emissions over the past 20 years raises annual TFPE growth by 0.4 percentage points. In contrast to traditional productivity measures, growth in TFPE accelerates after the mid-2000s. A back-of-the-envelope calculation furthermore finds that achieving net-zero emissions would raise U.S. TFPE by 27%.

通常の全要素生産性=TFPに対して、二酸化炭素排出を調整した全要素生産性=TFPEを考えれば、過去20年で二酸化炭素排出量の急激な減少から、TFPEの伸びはTFPを上回っており、従来の生産性指標とは異なり、2000年代半ばからTFPEで計測した生産性はむしろ加速している、と主張しています。なお、炭素排出調整済みの生産性=TFPEの算出は、ワーキングペーパー p.8 の式(9)にあるように、非常に単純に "marginal effect of a bundle of inputs on the present value of output" を算出していて、炭素排出調整前の全要素生産性=TFPから副産物としての炭素排出と Cost of Carbon の積を差し引くことにより求められており、例えば、炭素排出が減少すれば生産性が高いと算出されますし、炭素税の税率が高くて炭素排出のコストが高ければ生産性が低く算出されます。ワーキングペーパーから Figure 6. Acceleration and slowdown in long averages of TFP and TFPE growth を引用すると下の通りです。

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グラフのタイトルにある "acceleration and slowdown" とは、1990-2005年と2005-2019年の2期間を比較して生産性が加速しているか、それとも、減速しているかを考えています。後の方の期間の2005-2019年はリーマン・ブラザース証券の破綻から始まった金融危機や Great Recession を含みますので、排出調整を含もうと含むまいと生産性が減速している国が多くなっています。逆に、日本はバブル経済崩壊直後の1990-2005年よりも2005-2019年の方が生産性が加速しています。この4分割で日本と同じグループに入るのはスペインとスイスだけです。4分割とともに、45度線による2分割も注目です。45度線の左上は排出調整を含む生産性の方が低いわけですので、少し強調した表現をすれば、二酸化炭素排出に依存して生産性が伸びている、ということになります。45度線の右下にある国は排出よりも生産性の伸びの方が高いわけですが、韓国、ギリシア、ノルウェイしかありません。しかも、3国とも生産性は減速しています。
繰り返しになりますが、とても興味深い結果が示されていると私は受け止めています。従来のクズネッツ型のGDPではいくつかの重要な要素が含まれていないという批判があり、多くの国でサテライト勘定としてグリーンGDPが算出されています。GDP以外でも生産性など、こういった重要な経済指標で炭素排出や環境の要素を調整することが重視される時代が近づいている気がします。

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2025年4月28日 (月)

SNSをやめると精神状態はどうなるか?

SNS をやめると精神状態はどうなるか、興味深いところです。全米経済調査会(NBER)から "The Effect of Deactivating Facebook and Instagram on Users' Emotional State" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。それによれば、幸福度、抑うつ度、不安度などの改善が計測されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

次に、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると以下の通りです。

ABSTRACT
We estimate the effect of social media deactivation on users' emotional state in two large randomized experiments before the 2020 U.S. election. People who deactivated Facebook for the six weeks before the election reported a 0.060 standard deviation improvement in an index of happiness, depression, and anxiety, relative to controls who deactivated for just the first of those six weeks. People who deactivated Instagram for those six weeks reported a 0.041 standard deviation improvement relative to controls. Exploratory analysis suggests the Facebook effect is driven by people over 35, while the Instagram effect is driven by women under 25.

すなわち、2020年の米国大統領選挙の際に、選挙前の6週間 Facebook を利用停止した人は、最初の6週間のみ利用停止した対照群と比較して、幸福度、抑うつ度、不安度の指標が標準偏差0.060改善した、との結果が報告されています。この改善度合いが大きいと評価するのか、小さいと考えるのか、議論が分かれるところかもしれませんが、一応、ワーキングペーパーから Figure 2: Effects of Facebook and Instagram Deactivation on Emotional State を引用すると以下の通りです。

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実は、この研究では Facebook と Instagram のほかに、Snapchat、Twitter、TikTok、YouTubeなどなどといった別の SNS やメールやブラウザなども対象にしているのですが、特に大きく取り上げられているのは Facebook と Instagram ということになります。上のグラフの Panel A: Average Treatment Effects に見られる通りです。はい、ハッキリいって、Twitter や TikTok などはやめてもそれほどの効果がなかった、統計的な差は観察されなかった、とうことになります。引用はしませんが、上のグラフの前に示されていた Figure 1: Effects of Deactivation on Use of Selected Applications で確認することが出来ます。なお、上のグラフの Panel B: Effects on the Emotional State Index in Subgroups には年齢や性別といったサブグループに分けた分析結果も示されています。Facebook では35歳以上のグループが、また、Instagram では25歳未満の女性で効果が大きいという結果です。米国の分析結果が、そのまま日本に当てはまるかどうかは私には判りませんが、確かに、電車やバスでスマホに熱中している人を見かけると、逆に、SNSに限らずスマホの操作をやめた方が精神的な安定を得られる可能性が十分ある、という気はします。はい、強くします。

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2025年4月27日 (日)

さすがにジャイアンツ相手に連勝は続かない

  RHE
読  売001000001 291
阪  神100000000 140

【読】堀田、船迫、中川、ケラー、大勢、マルティネス - 甲斐
【神】伊原、岩貞、桐敷、岩崎 - 坂本

クローザー岩崎投手が失点してジャイアンツに競り負けました。
さすがに、そこまで連勝が続くほど甘くはないわけですが、吉田義男さんの追悼試合を落としたのは残念至極です。負け投手になった岩崎投手を責めるよりは、4安打に終わった打撃陣の奮起を促したいと思います。

次の中日戦は、
がんばれタイガース!

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2025年4月26日 (土)

今週の読書は経済書からミステリまでいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、コリン・メイヤー『資本主義再興』(日経BP)では、資本主義の危機の克服のためにビジネスのパーパスを重視し、問題の解決策を追い求め、それを実現することをもって行動原理とする、そのため、現実的には、会社法を然るべく改正する、という方向性を打ち出しています。トマ・ピケティ『来たれ、新たな社会主義』(みすず書房)は、フランスの夕刊紙として世界的に有名な『ルモンド』紙に、ピケティ教授が2016年から21年初頭にかけて寄稿した時評コラムから44本を精選しています。三浦しをん『ゆびさきに魔法』(文藝春秋)は、ネイルサロンを経営する30代半ば過ぎの女性を主人公に、ネイルの仕事や商店街の仲間、もちろん、顧客といった周囲の人々を幸福にしようとするお仕事小説です。藤崎麻里『なぜ今、労働組合なのか』(朝日新書)は、格差が拡大し賃上げが進まない中で、カスハラ問題のクローズアップなど、職場の働きやすさの改善が進む背景としての労働組合の果たすべき役割について取材した結果を取りまとめています。ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』(新潮文庫)では、ノーベル賞作家がラテンアメリカの独裁者を取り上げて、きわめて独創的かつ幻想的な小説に仕上げています。全6章の各章は単一のパラグラフから成っています。若竹七海『まぐさ桶の犬』(文春文庫)は、タフで不運な女探偵・葉村晶を主人公とするシリーズの最新長編ミステリであり、有名学校法人創設者一族に属し、自身もエッセイストとして著名な元教師から人探しを依頼されるところからストーリーが始まります。
今年の新刊書読書は先週までの1~3月に75冊を読んでレビューし、4月に入って先週までに計18冊、さらに今週の6冊と合わせて99冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2でシェアしたいと考えています。なお、本日の6冊のほかに、田中啓文『銀河帝国の弘法も筆の誤り』(ハヤカワ文庫)も読んでいます。すでに、いくつかのSNSにてブックレビューをポストしていますが、新刊書ではないと考えますので、本日の感想文には含めていません。

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まず、コリン・メイヤー『資本主義再興』(日経BP)を読みました。著者は、英国オックスフォード大学サイード経営大学院名誉教授であり、早稲田大学商学学術院の宮島英昭教授が監訳者となっています。本書は資本主義の危機の解決に取り組んだ著者の三部作の締めくくりの3冊目に当たります。三部作とは、すなわち、『アーム・コミットメント』、『株式会社規範のコペルニクス的転回』と本書です。勉強不足にして、私は前の2作は読んでいません。本書の英語の原題は Capitalism and Crises であり、2024年の出版です。本書はパート1~5で構成されていて、各パートに2章ずつ配置されています。各パートのタイトルは、順に、問題、義務、方法、真の価値、コミットメント、となります。ということで、資本主義、おそらくは、18世紀後半のイングランドから始まった産業革命以降の資本主義は、先進国では経済成長が達成され、国民経済は大いに豊かになった一方で、同時に、格差や不平等の拡大、加えて、最近では、気候変動や環境悪化、社会的排除や差別など、さまざまな弊害を伴う成長であり、これらは20世紀終わりから現在まで悪化の一途をたどっていることも事実です。今世紀に入ってからでも、リーマン・ブラザース証券の破綻に端を発する大規模な金融危機と景気後退、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻などの武力衝突の激化、そして、現在 on-going で進行中の米国トランプ政権による世界経済の大規模な混乱、さらに、本書ではまったく問題ともされていないように見える途上国の経済開発の遅れ、などなど、こういった資本主義の拡大する矛盾をいかに考えて解決するかを本書、というか、一連の三部作では目指しているようです。そして、本書では、やや「お花畑」的な解決を示しているように私には見えてなりません。道徳律を修正して、企業行動の基本原理を変更する、という解決策です。いわゆる黄金律、すなわち、「自分がして欲しいと望むことを、他者にする」のではなく、「他者がして欲しいと望むことを、他者にする」に変更し、ビジネスのパーパスをミクロ経済学的な企業の行動原理である利潤の最大化ではなく、問題の解決策を追い求め、それを実現することをもって行動原理とする、そのため、現実的には、会社法を然るべく改正する、ということになります。私は最後のこういった一連の結論で完全に拍子抜けしてしまいました。巻末の解説では、従来から議論されているような企業活動の負の外部性ではなく、いかにして正の外部性を発揮させるかが重要と指摘しています。それはそれとして、私が重要と考えるのは、資本主義の矛盾を解決する根本的な経済主体が企業である点を指摘しているという事実です。解決策としては大いに「お花畑」的ではあるのですが、従来の解決策が政府に重きを置き過ぎていて、したがって、選挙をがんばりましょう、政権交代しましょう、ばかりだったのに対して、資本主義の諸問題を解決する本丸が企業活動にあるのであって、企業に政府が介入するのも結構だが、企業行動に対して何らかの直接的な影響を及ぼす可能性が暗示的に示されている点を私は評価します。ドイツ的な労使による経営協議会、あるいは、私は全く詳しくないのですが、北欧的な労働の経営参加、などなど、選挙や政権交代ばっかりではなく、労働者代表がいかに企業行動に影響を及ぼすことができるか、そういった方向の議論が進むことを本書は示唆しているように感じられてなりません。まあ、本書の本筋とは違う読み方かもしれません。はい、その点は理解しています。

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次に、トマ・ピケティ『来たれ、新たな社会主義』(みすず書房)を読みました。著者は、10年ほど前の著書『21世紀の資本』で格差に対する警鐘を鳴らしたフランスのエコノミストであり、パリ経済学校やフランス社会科学高等研究院の経済学教授を務めています。本書は、フランスの夕刊紙として世界的にも有名な『ル・モンド』紙に、ピケティ教授が2016年から21年初頭にかけて寄稿した時評コラムから44本を精選しています。時系列的に3部構成としていて、第Ⅰ部が2016-2017年、タイトルは「グローバル化の方向性を転換するために」、第Ⅱ部が2017-2018年、タイトル「フランスのためにはどんな改革をすべきか?」、第Ⅲ部が2018-2021年、タイトル「欧州を愛することは欧州を変えること」となります。当然、フランスの夕刊紙へ寄稿されたコラムですのでフランスや欧州のトピックが多くなっています。表紙画像でも見られるように、明らかにトリコロールのフランス国旗を意識している、といえます。しかも、タイトルで標榜しているのが社会主義ですので、やや敬遠する向きがあるかもしれませんが、ピケティ教授は「社会国家」という用語で、おそらくは、「福祉国家」と似たような意味を持たせていますので、社会主義がマルクス主義的な概念とは限らず、少なくとも、旧来型の旧ソ連や現在の中国における社会主義とはまったくの別物と考えるべきです。したがって、何よりも、本書で重視しているのは経済的格差の是正、そして、経済面に限定せずに、男女間、民族間、などなどの格差や差別に対する是正、そして、ひいては、参加型の民主主義や循環型の経済の実現、何より一言でいえば、社会的正義の実現を目指していると考えるべきです。逆にいえば、現在の日本や欧米先進国はもとより、世界の多くの国でこういったピケティ教授の目標が達成されていないわけで、ひとつひとつのコラムは当然にそれほど長くもなく、一般紙のコラムですので難解でもなく、分量としても内容としても一般読者に読みやすくなっています。加えて、綿密に構成された書籍ではなくコラムを時系列的に並べているだけ、といえば、まあ、そういうことですので、どこから読み始めてもいいですし、適当に興味あるトピックだけを拾い読みすることも出来ます。話題になった『21世紀の資本』が大部の専門書でしたので、本書の興味あるトピックを追うことにより、ピケティ教授の主張に触れておくのもいいんではないかと思います。

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次に、三浦しをん『ゆびさきに魔法』(文藝春秋)を読みました。著者は、直木賞も受賞した小説家です。私のもっとも好きな作家の1人です。タイトルや表紙画像から読み取れるように、主人公はネイリストです。すなわち、弥生新町駅前の商店街でネイルサロン「月と星」を経営する30代半ば過ぎの月島美佐が主人公です。サロンの名前は、月島美佐ご本人とともに、同じ専門学校に通っていた同級生であり、かつて、いっしょにサロンを経営していた星野江利にも由来しています。今では、2件の棟割長屋でサロンを開いていて、どちらも1階が店舗で2階が住宅という造りです。もう1軒は居酒屋「あと一杯」が入っています。大将は松永という中年男性で、1人で居酒屋を切り盛りしています。中年男性らしく、チャラついたネイルに軽い偏見を持っていますが、巻き爪を施術により矯正してもらってからは、ネイルについての理解が深まります。その「あと一杯」の常連客で、大将である松永の煮付けをこよなく愛している酔っ払いが大沢星絵となります。ネイルをオフする時の摩擦熱が強烈だったり、一部の技術に未熟さが残っていますが、月島美佐は大沢星絵をネイリストとして雇うことを決めます。基本的に、お仕事小説ですので、ネイルサロンやネイリストの活動がストーリとして展開されて行きます。赤ちゃんの子育てに忙殺され、ネイルをしたいが、チャラついた母親と思われるのではと気に病む主婦、国民的な有名俳優などがサロンを訪れたり、さらに、子連れ客への利便性を高めようと保育士を雇ってキッズコーナーを店舗内に設けたり、商店街の中では隣接した居酒屋だけでなく、八百屋の奥さんとの交流があったり、さらには、老人施設にボランティアに赴いたりと、いろいろとあります。中でも、華やかなセンスを持った大沢星絵の才能を伸ばすために、かつてのパートナーだった星野江利のサロンに修行に行かせるところが、ひとつのハイライトとなります。主人公の月島美佐自身は丁寧で正確な施術が得意なのですが、独創的なセンスを持つ大沢星絵のためを考えての武者修行です。主人公は、30代半ば過ぎの独身女性で、「仕事に忙しく、恋の仕方は忘れてしまった」なんて部分もありますが、いかにも小説にありがちな展開で、ある日突然運命の人に出会って大恋愛に発展した、なんてところが微塵もなく、結婚や恋愛の要素はまったく欠落した小説です。それはそれで、この作者らしいともいえるかもしれません。最後に、ネイルに関して、私はネイルについてはまったく知りません。そこは典型的な中年男性である点は自覚していますし、本作に登場するネイルの施術や器具などにつてもまったく無知です。その点はレビューとしては割り引いて下さるようにお願いします。ただ、私自身の運動習慣として週3日はプールで泳いでいて、気が乗れば1時間ほどかけて2,000メートル泳ぐ日もありますので、爪はボロボロです。何とかしたいと考えなくもありませんが、何もしていません。

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次に、藤崎麻里『なぜ今、労働組合なのか』(朝日新書)を読みました。著者は、朝日新聞のジャーナリストです。朝日新聞のGLOBEの連載を新書にい取りまとめています。4部構成であり、3部までが日本、4部が米国となっていて、日本の各部は現場、政策提言、労働組合の可能性、ときわめて意識高い系のタイトルとなっています。逆から見て、上から目線を私は感じましたが、ジャーナリストですので、私のような一般庶民はついついそう感じるのかもしれません。昨今の物価高で賃上げが進み、昨年2024年春闘では賃上げ率5%を超えて、33年ぶりの高い伸び率になったと報じられています。ただ、実際には物価上昇が賃上げを上回って、実質賃金はマイナスが続き、国民生活がますます貧しくなっていることは周知の通りです。正規職員と非正規職員の格差は一向に是正される気配もなく、労働組合の組織率は長期的に低下の一途をたどっていることは、これまた、広く知られている通りです。しかし、他方で、本書冒頭でも取り上げられているように、かつては神さまだった客からのカスハラの問題などがクローズアップされて、職場が働きやすい方向にわずかなりとも進んでいる実感もあります。私自身は、役所ではキャリア公務員らしく早々と管理職になって組合からは離れましたが、大学に再就職してヒラ教員となり再び労働組合に所属しています。実は、昨今の賃上げ獲得やカスハラ是正などの労働条件の改善に、労働組合が果たした役割が大きいとは私はまったく考えていません。むしろ、典型的に使用者側からのおこぼれに労働側があずかっている、という印象しか持っていません。ですので、本書の指摘にはやや違和感がありますが、欧米で労働組合がそれなりの役割を果たしている点については、まったく異存ありません。フランスなんかでは、労働組合の組織率は日本よりも低いにもかかわらず、影響力は日本より大きくすら見えます。しかし、本来、労働組合というものは、労使のアンバランスな力関係をわずかなりとも是正する目的で、労働側に有利な扱いを認めているわけですが、少なくとも日本では、そういった労働側に有利な点を活かした活動を進めようとする意図が、私には感じられません。特に、1980年代後半の3公社の民営化、特に国鉄の分割民営化により国労が消滅してからは、労働組合の力量が大きく低下したことは明らかだと私は考えています。現在の連合の芳野会長にしても労働者間の分断を志向するかのような反共の姿勢は明らかですし、何といっても、日経連の『新時代の「日本的経営」』に対する対抗軸を見いだせずに、「失われた30年」で実質賃金が一向に上がらなかった責任の一端は明らかに労働組合にあると考えるべきです。ただ、タイミングの問題として本書では取り上げられていませんが、朝日新聞の記事「フジテレビ労組、組合員が急増 専務が労組とのやり取りで辞意表明」などで報じられたように、職場や雇用のピンチには労働組合とは一定の役割を果たすべき存在であることは明らかです。労働者から頼りにされているともいえます。その意味で、まったく活動が目立たず奮わない日本でも労働組合の重要性を認識させようとするこういった試みは重要だろうと、私も考えています。

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次に、ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』(新潮文庫)を読みました。著者は、中南米文学の最高峰の作家の1人であり、この作品に先立って出版された『百年の孤独』でノーベル文学賞を受賞しています。スペイン語の原題は El Otoño del Patriarca であり、1975年に出版されています。日本では今年2025年2月に新潮文庫から新装再刊されています。この作品は中南米の独裁者をテーマにした小説であり、同じように独裁者を主人公に据えたマリオ・バルガス=リョサ『チボの狂宴』を私は読んだ記憶があります。『チボの狂宴』はドミニカ共和国のトルヒーヨ将軍という実在した独裁者をモデルとしている一方で、本書『族長の秋』ではそういった特定のモデルではなく、架空の国の独裁者であり、ヘルニアの巨大な睾丸を持っている大統領を中心とするストーリーです。ただ、『百年の孤独』の主人公であるブエンディア大佐のなれの果てではないか、とする解釈もあったりします。6章から構成されているのですが、各章は単一のパラグラフから成っています。すなわち、パラグラフひつとで各章を構成しています。そして、ほぼほぼすべての章が独裁者である大統領の死から始まっています。その意味で、この作者独特のとても幻想的な雰囲気を感じることが出来ます。大統領のほかの登場人物は以下の通りです。すなわち、ロドリゴ・デ=アラギルは、大統領の腹心の将軍でしたが、野菜詰めにされてオーブンで丸焼きにされます。ベンディシオン・アルバラドは大統領の母であり、元娼婦で父の不明な子を産んだとされています。マヌエラ・サンチェスは、美人コンテストの優勝者で大統領の恋の相手ですが、日食の日に姿を消します。パトリシオ・アラゴネスは、街のチンピラでしたが、大統領と外見がそっくりなため、影武者としての役割を与えられます。レティシア・ナサレノは、修道女でしたが誘拐されて大統領の妻となります。ということで、ストーリーらしいストーリーは、なかなか明確には読み取れませんが、大統領府にハゲタカが群がり、牛が徘徊したりして、異常を感知した国民が大統領官邸に押し寄せ、無惨に殺害された大統領の死体を発見します。章ごとに視点を切り替えつつ、独裁者であった大統領のとんでもない数々の残虐かつ冷酷な行為を羅列し、母や妻や恋人との関係を描写し、独裁者としての孤独な心情を描き出しています。私は傑作や名作というよりも、カオスに満ちた怪作ではなかろうかと考えていますが、この『族長の秋』を『百年の孤独』よりも高く評価する人が決して少なくないことも知っています。

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次に、若竹七海『まぐさ桶の犬』(文春文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家です。本書は、タフで不運な女探偵・葉村晶を主人公とするシリーズの最新長編ミステリであり、出版社によると5年ぶりの出版だそうです。文春文庫オリジナルの書下ろしです。ということで、主人公の葉村晶は着実に年齢を重ねて50代となり、老眼に悩まされるようになっていますが、相変わらず、吉祥寺のミステリ専門書店 MURDER BEAR BOOKSHOP でアルバイトをしつつ、白熊探偵社のただ1人の調査員として、非情なオーナー富山の下でこき使われながら働いています。なお、老眼のほかにも、更年期障害、五十肩、花粉症に加えて歯も悪くなるなど、年齢とともに体にはアチコチ無理が来ています。タイトルの意味は本書のp.141にありますが、イソップ寓話に由来するようで、「自分には役に立たないが、誰かがそれでいい思いをするのを邪魔するため、その『自分には役に立たないもの』を手放さずに意地悪や嫌がらせをし続ける」人を指しています。犬はまぐさを食べないのですが、牛に食わせないようにまぐさ桶に陣取って邪魔する、というわけです。本書では、ストーリーの冒頭は人探しで始まります。すなわち、東京多摩地区にある有名私立大学とその付属校から成る魁皇学園の創設者一族、というか、創設者の孫であり、学園の元理事長を務め、エッセイストとしても有名なカンゲン先生こと乾巌から、絶対に秘密厳守で「稲本和子」という女性の行方を捜すよう葉村晶が依頼を受けます。一見、殺人事件とかではなさそうなのですが、殺人ではないにしても過去の死亡事件に加えて、複数の死者が出ます。その意味で、立派に「ノックスの十戒」に則ったミステリです。葉村晶が調査を進めるうちに、創設者である乾一族の何ともいえない複雑怪奇な人間関係とともに、リゾート開発に欲が募っていたりして、実にドロドロした人間関係が複雑に絡み合っていることが判明します。このシリーズでは、葉村晶の傷や痛みなどのダメージが累積されていくうちに、少しずつ謎が解き明かされる展開であり、そのプロットは実に巧みといえます。ひょっとしたら、ラストに不満を感じる読者がいるかもしれませんが、ストーリーの展開と謎解きは実にいい出来だと思います。

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2025年4月25日 (金)

IPSOS「人類と気候変動リポート2025」People and Climate Change に見る日本の意識の低さ

世界でも有数の大規模な世論調査機関であるIPSOSから「人類と気候変動リポート2025」People and Climate Change が明らかにされています。もちろん、pfdの全文リポートもアップロードされています。なお、私は英語の1次資料に当たっていますが、IPSOSの日本オフィスから日本語によるプレスリリース「気候変動対策への日本人の意識低下が明らかに、32か国中最下位」というショッキングなタイトルで出されています。リポートからいくつかグラフを引用して、日本語プレスリリースのタイトルを後付けておきたいと思います。

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まず、"If individuals like me do not act now to combat climate change, we will be failing future generations" 「私のような個人が、今すぐ気候変動に対処する行動を取らなければ、次世代の期待を裏切ることになる」という問いに対する調査対象32か国別の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。32か国平均が64%であるところ、日本は最低の40%となっています。

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続いて、"If businesses in [COUNTRY] do not act now to combat climate change, they will be failing their employees and customers" 「(自国の)企業が、今すぐ気候変動対策に取り組まなければ、従業員や顧客の期待を裏切ることになる」という問いに対する調査対象32か国別の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。32か国平均が60%であるところ、日本は最低の37%となっています。


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続いて、"If [COUNTRY]'s government does not act now to combat climate change, it will be failing the people of [COUNTRY]" 「(自国の)政府が、今すぐ気候変動対策に取り組まなければ、(自国)国民の期待を裏切ることになる」という問いに対する調査対象32か国別の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。32か国平均が63%であるところ、日本は最低の42%となっています。

要するに、調査対象の32か国の中で、日本は、気候変動に対する取組みは、個人でもなく、企業でもなく、政府でもなく、すべての主体において他国と比較して責任が弱い、という意識が示されています。ひょっとしたら、日本では余りに「地球温暖化」という用語が広まりすぎて、「気候変動」という用語について理解が進んでいないのか、と考えなくもなかったのですが、それにしても少し驚くような結果といえます。まさに、プレスリリース通り、「気候変動対策への日本人の意識低下が明らかに、32か国中最下位」というしかありません。
私は従来から、日本人はPISAなどで示されている認知能力が高く、加えて、勤勉で時間に正確などという非認知能力も決して世界の中で低くはない、と認識してきましたが、日本人の意識、あるいは、ひょっとしたら、能力やリテラシーやスキルなどについても、私の認識を変える必要があるのかもしれません。

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2025年4月24日 (木)

6か月連続で+3%台の上昇率となった3月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から3月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月2月の+3.2%からわずかに縮小して+3.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIは前月と同じ+3.2%の上昇となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、3月3.1%上昇 人件費転嫁進む
日銀が24日に発表した3月の企業向けサービス価格指数(速報値、2020年平均=100)は109.7となり、前年同月に比べ3.1%上昇した。伸び率は2月(3.2%)から0.1ポイント低下したものの6カ月連続で3%台となった。人件費を価格に転嫁する動きが続く。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。貨物輸送代金やIT(情報技術)サービス料などが含まれる。企業間取引のモノの価格動向を示す企業物価指数とともに、今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
日銀は今回の発表で2月分の前年同月比上昇率を3.0%から3.2%に遡及修正した。
3月分の内訳をみると、人件費の価格転嫁を背景に機械修理は前年同月比9.4%上昇、廃棄物処理は6.6%上昇した。いずれも2月から伸び率は横ばいだが、全体の押し上げに寄与した。宿泊サービスは11.0%上昇した。2月(11.8%上昇)から0.8ポイント鈍化したが、好調なインバウンド需要を受けて伸び率は高水準を維持している。
情報通信でも人件費の転嫁が進み、ソフトウエア開発が前年同月比2.5%上昇した。2月(1.9%上昇)から伸び率が拡大した。不動産では入居テナントの売り上げ増加などを受けて、ホテル賃貸や店舗賃貸などが2.6%上昇した。
調査品目のうち、生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は前年同月比3.4%上昇し、低人件費率サービス(2.8%上昇)を上回った。人件費を価格に転嫁する動きが鮮明になりつつある。
24年度の企業向けサービス価格指数は108.3と前年度比2.9%上昇した。14年度(3.3%上昇)以来10年ぶりの高水準となった。宿泊サービスなどの伸びが大きく寄与した。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、どうしても長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、昨年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は3月統計で+4.2%に達しています。昨年2024年12月から4か月連続での+4%台の上昇です。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてコンスタントに上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2024年6月に+3.2%まで加速し、その後、2024年9月に瞬間風速で+2.8%を記録した以外は、本日公表の2025年3月まで+3%台の上昇率を続けています。2024年10月からカウントしても6か月連続の+3%台の上昇率です。日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%近傍の上昇率はデフレに慣れきった国民や企業のマインドからすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が高いと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はなく、人件費をはじめとして幅広くコストが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っており、国民生活が数量ベースで苦しくなっているのは事実であるといわざるをえません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて2月統計のヘッドラインSPPI上昇率+3.1%への寄与度で見ると、機械修理や廃棄物処理や宿泊サービスなどの諸サービスが+1.60%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。諸サービスのうち、引用した記事にもあるように、宿泊サービスは2月の+11.8%の上昇から3月には+11.0%になりましたが、インバウンド需要もあって引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送さらに、サードパーティーロジスティクスなどの運輸・郵便が+0.50%、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.44%、ほかに、不動産+0.20%、リース・レンタルも+0.14%、広告+0.13%などとなっています。

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2025年4月23日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlookやいかに?

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook の見通し編が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。すでに、先週の段階で、高齢化や移民・難民に着目した分析編も明らかにされています。

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まず、リポート p.14 Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Reference Forecast を引用すると上のテーブルの通りです。世界経済の成長率を中心とした見通しの総括表といえます。米国は今年2025年の成長率は+1.8%、来年2026年は+1.7%と見込まれていますが、1月時点の見通しから2025年△0.9%ポイント、2026年△0.6%、それぞれ下方修正されています。日本は成長率見通しが2025年+0.6%、2026年も+0.6%なのですが、同じように1月時点の見通しから2025年△0.5%ポイント、2026年△0.2%ポイント、それぞれ下方修正されています。世界経済全体では2025年に△0.5%ポイント下方修正されて+2.8%成長、2026年は△0.3%ポイント下方修正されて+3.0%成長と予想されています。他方、図表は引用しませんが、インフレ率は少し上方修正され、世界全体で2025年+4.3%、2026年+3.6%と徐々に低下すると予想されています。

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このように、世界経済の成長率を大きく鈍化させ、インフレ率をわずかとはいえ加速させる大きな要因は米国トランプ政権の関税引上げを主軸とする通商政策にあります。上のグラフは IMF Blog The Global Economy Enters a New Era から米国関税率の歴史的推移と4月2日時点での世界の関税率を示す US tariffs are highest in a century, globaltariffs are also rising sharply を引用しています。米国のトランプ政権による関税引上げにより、米国の関税率は第2次世界大戦直前のスムート・ホーレー法のレベルをとうとう超えてしまいました。世界経済のブロック化を促進した関税引上げ競争が第2次世界大戦の引き金のひとつになった歴史的教訓が思い出されます。

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そして、最後に、 IMF Blog The Global Economy Enters a New Era から Global growth revised down significantly, inflation slightly revised up を引用すると上の通りです。すなわち、こういった米国の関税率の引上げは決して MAGA=Make America Great Again に貢献するものではなく、米国と世界の経済の成長率の減速とインフレの加速につながりかねない、との試算結果が示されています。

最後に、IMFは政策について、Policies: Navigating Uncertainty and Enhancing Preparedness to Ease Macroeconomic Trade-offs の必要があると分析しています。すなわち、国際協力を促進しつつ国内経済の安定を確保し、ひいては世界経済の不均衡の是正に資するよう、政策を調整する必要があるとの結論を示しています。

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2025年4月22日 (火)

米国経済の先行きを示唆するグラフ

やや旧聞に属するトピックも含まれていますが、最近、私がネットで見た範囲で米国経済に関して印象に残ったグラフを2枚ほど引用します。

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まず、国際通貨基金のゲオルギエヴァ専務理事のスピーチ "Toward a Better Balanced and More Resilient World Economy" の冒頭に示されているグラフです。IMF世銀による春季会合を前にしたスピーチなのですが、見ての通りで、貿易政策の不確実性はケタ外れに上昇しています。いうまでもなく、米国トランプ政権の関税政策に起因します。

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米国トランプ政権の関税政策は貿易政策の不確実性をケタ外れに高めているだけではなく、確実に、米国経済を景気後退に向かわせています。上のグラフはピーターソン国際経済研究所(PIIE)によるコラム "Policy shocks and rising uncertainty are weakening the global outlook" から引用しています。このグラフはPIIEによる Global Economic Prospects: Spring 2025 に向けて準備されているもののようです。一応、ギリギリで2四半期連続のマイナス成長は回避できる見通しとなっていますが、果たしてどうなりますことやら。

私は日本の景気局面について、景気拡大が後半に入ったことを認識しつつも、繰り返し、米国経済が景気後退に陥らずにソフトランディングするとすれば、日本経済もそう簡単には景気後退に入らない、との見方を示してきましたが、前半の米国経済に関する前提が崩れつつあるように感じています。もしも、米国経済が今年後半ないし来年早々に景気後退に入るとすれば、日本もご同様であろうと思います。

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2025年4月21日 (月)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編やいかに?

国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季集会に際しての明日4月22日の見通し編の前に、国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlook, April 2025 の分析編が公表されています。各章のタイトルは以下の通りです。

まず、第2章の高齢化の経済への影響は、いうまでもなく、成長の鈍化と財政圧力の増大 (slower growth and increased fiscal pressures) に現れると指摘しています。ただ、日本でいうところの健康寿命を伸ばすことにより、労働参加率の上昇、就労期間の延長、生産性の向上(boosting labor force participation, extending working lives, and enhancing productivity) をもたらすことができると主張しています。財政への影響については、労働供給の維持に加えて、利子率と成長率の差 (r-g) も重要な財政圧力要因となります。すなわち、高齢化が進んで貯蓄が取り崩され利子率が上がれば国債利払いがかさむ一方で、高齢化の影響で成長率が鈍化すれば税収が伸びないこともあるわけです。ですから、日本のように成長率が低い一方で、高齢化が進んで利子率の上昇が予想される場合、財政収支への影響は無視できません。下のグラフはモデルのシミュレーションによる予測結果 Figure 2.9. Baseline Projections: Growth, Interest Rates, and Primary Balances が示されていて、を引用しています。2025-50年の期間で日本の利子率と成長率の差 (r-g) もプライマリバランスも財政収支を悪化させる方向に進みかねないリスクが読み取れます。

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第3章の移民と難民の分析については、新興国と途上国が移民や難民の受入れ国となりつつある (Emerging market and developing economies have found themselves increasingly on the receiving end of migrant and refugee flows) 事実を指摘しています。そして、こういった流入が地域資源を圧迫する可能性 (inflows can strain local resources) がある一方で、移民や難民のスキルが受入れ国住民のスキルを補完できれば、生産への好影響を大きくできる可能性もある (output effects can be larger should the skills of migrants and refugees complement those of natives) と指摘しています。下のグラフは Figure 3.3. Changes in Stocks and Flows of Migrants and Refugees を引用しています。

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最後に、「世界経済見通し」World Economic Outlook, April 2025 の見通し編は米国東部時間の4月22日午前に記者発表が予定されています。

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2025年4月20日 (日)

ドラ1ルーキー伊原投手の初勝利おめでとう

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広  島000000100 180
阪  神20103002x 8120

【広】森、鈴木、中崎、塹江、岡本、島内 - 石原
【神】伊原、及川、ゲラ、桐敷、岡留 - 坂本、梅野

ドラ1ルーキー伊原投手が初勝利おめでとうで、今シーズン甲子園初勝利です。
打つ方は佐藤輝選手の2ホーマー6打点が光ります。伊原投手のピッチングに立ち返れば、3回のピンチに村上投手すら粘り負けた広島のリードオフマン二俣選手に粘り負けなかったのが印象的でした。攻撃では得点シーンではなく、8回ウラに広島の岡本投手が坂本捕手に頭部デッドボールを当てた際、坂本捕手が「大丈夫」とばかりにルーキー岡本投手に手を上げる一方で、藤川監督が激昂して広島ベンチに詰め寄りました。どちらもそれぞれのパーソナリティなのでしょうが、冷静で対戦相手を思いやる態度も、熱く激する情熱も、どちらも素晴らしいと感じました。いずれにせよ、セ・リーグ首位に立つ広島を相手にまさに、完璧な快勝でした。

次の横浜戦も、
がんばれタイガース!

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2025年4月19日 (土)

今週の読書はディズニーを題材にした経済学入門書をはじめ計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、山澤成康『新ディズニーで学ぶ経済学』(学文社)は、東京ディズニーリゾート(TDR)を題材にして、消費者の効用最大化といったミクロ経済学の初歩、あるいは、国際経済まで含むマクロ経済学の視点、などなど、さまざまな要素を詰め込んだ経済学の入門書です。山下一仁『食料安全保障の研究』(日本経済新聞出版)は、シーレーンが利用できなくなった際には、食料だけではなくエネルギーも輸入できなくなり、我が国で餓死者が出かねないという危機感を基に、食料安全保障のあり方について議論しています。ジェイソン・ブレナン『投票の倫理学』上下(勁草書房)は、リバタリアンである著者がエリート主義に基づいて、有権者がいかに投票するかについての議論を展開し、何と、「バカは選挙に行くな」という結論に達しているように見えます。伊与原新『宙わたる教室』(文藝春秋)は、東新宿高校定時制を舞台に理科の教師が個性豊かな生徒4人とともに火星でのクレーターの再現実験に取り組み学会発表を目指します。本書を原作としたNHKドラマ10でも感動をよびました。朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層』(朝日新書)は、この4月に開幕した大阪・関西万博について維新政治とともに取り上げており、当初計画から大きく膨らんだ建設費、海外パビリオンの建設遅れやグレードダウン、メタンガスの事故のリスク、などの取材結果を取りまとめています。稲羽白菟『神様のたまご』(文春文庫)は、2013年の下北沢を舞台に、小劇場創設者の孫がワトソン役、小劇場の支配人がホームズ役となる謎解きのトピックをいくつか収録しています。西條奈加ほか『料理をつくる人』(創元文芸文庫)では、6人の作家がタイトル通りに料理をつくる人をテーマに、短編6話を収録したアンソロジーです。いずれも粒ぞろいでオススメです。
今年の新刊書読書は先週までの1~3月に75冊を読んでレビューし、4月に入って先々週と先週で計10冊、さらに今週の8冊と合わせて93冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2でシェアしたいと考えています。なお、本日の7冊のほかに、小川哲『君のクイズ』(朝日新聞出版)も読んでいます。すでに、いくつかのSNSにてブックレビューをポストしていますが、新刊書ではないと考えますので、本日の感想文には含めていません。

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まず、山澤成康『新ディズニーで学ぶ経済学』(学文社)を読みました。著者は、跡見学園女子大学マネジメント学部教授です。数年前には2年ほど総務省統計委員会担当室長として役所に出向されていたことがあり。シェアリング・エコノミーの計測などで私は内閣府経済社会総合研究所のカウンターパートにいましたので、個人的にも存じ上げています。どうでもいいことながら、ご令嬢が今春4月に進学された大学なんぞも把握していたりします。ということで、タイトルから容易に想像される通り、「新」のつかない『ディズニーで学ぶ経済学』もあって、同じ著者により同じ出版社から2018年に出版されています。新旧の構成はほぼほぼ同じで、今回出版された新版は基本的にデータをアップデートした印象です。冒頭の序章では、テーマパーク業界の中で東京ディズニーリゾート(TDR)がガリバー的な存在であることが理解できます。ただ、大阪のユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)も入場者数ではTDRの半分強ですので、首都圏と関西圏の経済規模から考えるとUSJの検ともいえるところです。第1章ではディズニーリゾートのレイアウトを建築学で分析し、第2章のディズニーリゾートの歩みを日本経済史で解説し、ほかにも、全15章に渡って株価、人事管理、価格戦略、消費者の効用最大化、企業の利潤最大化、などなど、ディズニーを題材に経済学を解説しています。例えば、東京ディズニーリゾートの入園者数をGDPを説明変数として単回帰で分析していたりします。ただ、2018年の旧版よりも今回の新版の方がフィットが悪くなっているのは、2020年からのコロナの影だったりするんでしょう。なお、どうでもいいことながら、回帰分析する際は説明変数に対するパラメータの符号や大きさだけでなく、定数項にも注意を払うように、私は大学院生などには教えていて、旧版でも新版でも回帰分析では定数項がマイナスになっています。したがって、GDPが一定の水準に達するまで東京ディズニーリゾートの入場者がプラスになることはない、ということを意味していると解釈されます。まあ、ディズニーだけではなく観光はある意味でぜいたく財ともいえるので、所得が一定の水準に達しないと需要がそもそも発生しない、ということなのかもしれません。また、エコノミスト誌によるビッグマック指数の向こうを張って、東京ディズニーランドとフロリダのディズニーワールドにあるマジック・キングダムの入場料で円ドル為替の購買力平価を計測しようとしていますが、購買力平価はかなり円高を示し、逆から見て、東京のディズニーランドは割安で入場できるという結果が示されています。最後の最後に、観光学と題している第8章については、もう少し遊園地とテーマパークの違いをクリアにした方がいいんではないか、と私は考えています。テーマパークが1965年の明治村から始まる、といわれても、浅草の花やしきは戦前からあるんじゃないの、と思う人がいっぱいいそうな気がします。

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次に、山下一仁『食料安全保障の研究』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、農林水産省のご出身で、現在はキャノングローバル戦略研究所の研究主幹だそうです。本書の主張はかなり回りくどくて、私のような専門外のエコノミストには理解し難い点もありますが、基本的には、台湾有事でシーレーンを使った輸送が困難になると国内で餓死者が出かねない、という危機感は私でも読み取ることが出来ました。ただ、農協に対する激しい批判や政府の減反政策廃止をフェイクニュースと論じるなど、本筋から少し離れたところかもしれませんが、私には理解が及ばない点がいくつかありました。まず、現在のコメをはじめとする食料の価格上昇については、私はエネルギー価格と歩調を合わせたものだと認識しています。もちろん、相対価格の変化があるとはいえ、減反政策の続行や廃止とコメ価格が連動しているわけではなく、コメ以外の農産物の価格と連動していると考える方が論理的です。例えば、私が驚愕したことに、キャベツ1玉500円、キュウリ1本100円といった価格は減反政策とはほとんど関係ありません。コメというよりは園芸作物なのかもしれませんが、農業機械の運転のみならず、施設などの暖房や乾燥などに用いられるエネルギー価格、あるいは石油を原料とする肥料の価格に起因する可能性が高いと考えるべきです。例えば、2024年9月末に日経新聞では「農業生産コスト高止まり、肥料も重油も 新米高騰の一因」と題する記事を報じていたりします。ただ、本書で指摘しているように、食料輸入が途絶するときは、同時に石油輸入も途絶する可能性が高い点は認識しておく必要があります。もう1点、私が本書の指摘を正しいと考えている点があります。すなわち、食料安全保障の観点からは、戦後一貫して政府が取ってきた価格支持政策でははなく、民主党による政権交代気に一時模索された農家への直接給付の方が望ましいと考えられます。価格支持政策は、結局のところ、価格に応じた生産をもたらすだけであり、農家が安定的に食料を生産するためには個別給付による経営安定の方が望ましいのは判りきっています。そうしないのは、本書が指摘するように財政負担を回避する目的なのかどう不明ですが、経済合理性からは不可解に私には見えます。最後に、本書のテーマに関連して、私は食料安全保障ではなく経済社会の不平等や貧困を是正する上で、市場取引される商品として供給されるべきかどうか疑わしいサービス、もっといえば、脱商品化された公共サービスとして供給される方が好ましいサービスとして、医療と教育を考えています。その医療と教育に次いで公的セクターから供給される方が望ましい財は食料と住宅ではないかと思っています。特に、食料は生存のために不可決な財であり、政府による一定の価格支持あるとはいえ、市場の価格に従った生産や消費を脱する時期が来ているような気がします。

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次に、ジェイソン・ブレナン『投票の倫理学』上下(勁草書房)を読みました。著者は、米国ジョージタウン大学のマクドノー・ビジネススクールの教授であり、ご専門は政治哲学、応用倫理、公共政策などだそうです。リバタリアンとしても有名です。英語の原題は The Ethics of Voting であり、2011年の出版です。英語の原書の出版はプリンストン大学出版局であり、こういった情報からもほぼほぼ学術書であると考えるべきです。ただ、専門用語を駆使していたりはしますが、政治学や倫理学の学術書ですので、経済学や自然科学のように数式がいっぱい並ぶわけではありません。じっくりと取り組めれば読みこなす読者は少なくないものと思います。ということで、英語の原題からしても、邦訳タイトルからしても、そのままであり、有権者がいかに投票するか、についての議論を展開しています。そして、結論を一言でいえば、巻末の解説に簡潔に表現されているように「バカは選挙に行くな」ということに尽きます。基本的に、著者も否定していないように、エリート主義の立場から公共善、について自信ない有権者は投票を棄権すべきであり、政治学や経済学などの専門知識を十分持っていて、公共善について正しく認識している自信がある場合のみ投票すべきである、ということになります。なお、公共善については、時に、共通善とも呼んでいますが、私は同じものと考えています。ということで、結論を考える前に本書の構成に従ってレビューすると、前半では、いくつかの選挙に関する常識を否定しています。まず第1に、市民は投票すべきであって、選挙で投票する道徳的な義務がある、という点を否定します。日本のシステムではそうなっていませんが、南北米州大陸のいくつかの国では、選挙があると投票者登録をした上で投票を行う必要があり、国によっては登録をしたにもかかわらず投票しなければ何らかのペナルティを課される場合があります。そのシステムにはこういった「投票義務」がバックグラウンドにあることは間違いありません。第2に、日本でも投票率が低下しているという事実に対して不安や憂慮を示す有識者の意見はよく聞きますが、本書では投票率が高いことに特段の価値を見出していません。第3に、投票は自分の良心に従って行うべき、という常識に対しても、自分の良心ではなく公共善にしたがって投票すべき、という点を強調しています。そして、公共善に関して正しく認識しているという自信がある場合のみ投票すべき、という結論を分解すれば、第1に、公共善とは何か、第2に、公共善について理解しているのではなく、理解していると自信を持っているとは何か、の2点から成り立っていることは容易に理解できると思います。第2の点から、すべての投票者の考える公共善が一致する保証はないという点は理解できると思います。そして、第1の公共善とは何か、がもっとも重要となります。はい、正直いって私は本書の展開する議論を十分理解した自信がありません。繰り返しになりますが、本書では明示的にエリート主義に基づく智者政 epistcracy を目指しています。はい、これまた明らかなように、民主主義や個人の平等や尊厳というものを無視ないし否定しているように見えます。そういう内容の倫理学の専門書であると私は認識しました。最後の最後に、このレビューでは本書の結論だけを紹介しましたが、当然ながら、本書ではこの結論が導かれる理由を詳細に議論しています。私はこれらを十分理解した自信がないので、ご興味ある向きは読んでいただくしかありません。

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次に、伊与原新『宙わたる教室』(文藝春秋)を読みました。著者は、小説家であり、本作品の次に出版した『藍を継ぐ海』で直木賞を授賞されています。東京大学大学院を終了し、博士号を取得していて大学で研究者の経験もあるようです。本書は小説という媒体よりは、昨年10月から同タイトルで窪田正孝が主演したNHKのドラマ10の方がよく知られているかもしれません。なお、ドラマでは大阪が舞台になっていましたが、小説は東京、しかも、歌舞伎町やコリアンタウンの新大久保などからほど近い東新宿が舞台です。私も統計局勤務の際には、副都心線の東新宿駅で降りて統計局に通っていたりしましたから、どうでもいいことながら、土地勘はあります。主人公は都立東新宿高校定時制の教師である藤竹叶です。本来は理科の教師らしいのですが、人員不足により数学も教えています。一般のイメージ通りに、定時制高校はやや荒れているのですが、科学部を創設して実験などの活動を始め、個性豊かな4人の生徒ともに火星のクレーターの再現実験をして、日本地球惑星科学連合大会における高校生の部で学会発表を目指す、というストーリーです。4人の生徒はストーリーでの出現順に、中心的な役割を果たす2年生の柳田岳人は、ディスレクシアのために本が読めず、中学校から不登校になり、20歳になって定時制高校に通い始めています。すでに成人ですから喫煙ができたりするのですが、ストーリーの途中で禁煙したりします。フィリピン人の母と日本人の父を持つ日比ハーフの越川アンジェラは、同じく日比ハーフの夫とともにフィリピン料理店を経営していますが、2年生になって勉強についていけなくなり始めています。名取佳純は起立性調節障害で朝に活動できないことから夜間定時制高校に通っていますが、定時制高校でも保健室登校になってしまっています。集団就職で上京して高校に通えなかった長嶺省造は中小企業の経営を引退した70代であり、ものづくりには詳しく実験装置の作成で貢献します。生徒以外では、東新宿高校定時制の教師として、名取佳純の保健室登校をサポートする養護教諭の佐久間理央、明るい英語教師で年中アロハシャツの木内泉水がいます。ディスレクシアや起立性調節障害などといった障害をはじめとする生徒自身の問題に加えて、家庭の問題はもちろん、同じ教室を使う全日制生徒との軋轢、昔付き合っていた不良仲間とのトラブル、などなど、いろんな困難がありますが、教師の藤竹というよりも、それ以上に生徒たち自身ががんばりを見せます。私も教師として、この読書から得るものがあった気がします。

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次に、朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層』(朝日新書)を読みました。著者は、朝日新聞のネットワーク報道本部の行政担当グループ、大阪経済部、大阪社会部の担当記者が中心ということです。表紙画像に見えるように、副題は「迷走する維新政治」となっていて、まさに、大阪維新の会や日本維新の会の政治的な影響力とともに大阪・関西万博を論じています。その意味で、第1章では昨年2024年総選挙における維新の低迷の要因のひとつとして、万博への国民の懐疑的な眼差しを上げています。ただし、本書の構成からうかがえるように、万博懐疑論は私のようにカジノ構想(統合型リゾート=IR)と結びつけられてはいません。すなわち、本書の第2章では開催経費が当初予定より大幅に上振れた点に焦点を当て、第3章では「万博の華」とも位置づけられている海外パビリオンの建設遅れやグレードダウンなどを取り上げ、そして、第4章ではメタンなどの可燃性ガスによる爆発や引火といった物理的な危険に着目し、その第4章の中でカジノ構想とのシームレスなリンクではなく、IR設備工事による万博への騒音問題などに言及しているに過ぎません。最後の点は、4月14日付けの日経新聞記事「日本初のIR、大阪万博会場隣地で24日に本体工事着工へ」でも取り上げられています。しかし、本書に収録されたp.6の会場周辺地図でも、同じ日経新聞記事に添付されている地図でも、極めて明確に理解できるように、大阪メトロ中央線を延伸して建設した夢洲駅は万博会場というよりも、カジノ設備への利便性を優先しているようにすら見えます。というのも、私は本書で初めて知りましたが、鉄道延伸などのインフラ整備のためにIR事業者から200億円の負担(p.48)を求めていたから、という点も忘れるべきではありません。いずれにせよ、本書で指摘している3点、すなわち、膨らみ続けている建設費とそれを支える公的負担、「万博の華」といわれつつもパッとしないパビリオン、メタンガスの爆発や引火などの危険、だけでも万博を疑問視する意見が出ているのですから、大手メディアがまったく報道することなく情報隠蔽を続けている万博とカジノ構想とのリンクを考え合わせると、万博がいわば「うさん臭い」ものから、中止すべきもの、になりかねない可能性を十分考える必要があります。

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次に、稲羽白菟『神様のたまご』(文春文庫)を読みました。著者は、私には初読でよく知らないのですが、ミステリ作家のようです。舞台は東京の下北沢、ただし、2013年の下北沢です。私の読み方が浅かったり適当だったりしたためか、今後、何らかの必然性ある展開が待っているのか、どうして、2013年なのかは読み取れませんでした。アパートを改造したセンナリ劇場を創設した俳優の孫、竹本光汰朗が東京の大学に入学するために引越してきます。センナリ劇場は叔父に当たる木下薫が経営を引き継いでいます。この竹本光汰朗が主人公となり、センナリ・コマ劇場の支配人で日英ハーフのウィリアム近松とともに謎解きに当たります。というか、ホームズ役となる謎解きはウィリアム近松が当たり、タケミツとあだ名された竹本光汰朗がワトソン役となります。というのも、タケミツはセンナリ・コマ劇場で支配人である近松の下で助手としてのアルバイトを始めるからです。劇場が大いに関係しますので、演劇人やミュージシャンが関係する事件が多くなります。独特の用語も飛び交います。「ブタカン」が舞台監督だというのは、初読の読者である私には理解がおよびませんでした。ということで、劇中で使う小道具の指輪が紛失したり、プライベートなCDに収録した曲の作曲者を解明したり、下北沢の伝説となっている「白い夜」に現れた伝説のダンサー、すでに死んでいるはずのダンサーの正体を突き止めたり、公開中に舞台から忽然と消えた劇団主催者の謎を解いたりします。最初の指輪の謎は、何と電話1本で解決したりして、そんな謎解きはミステリとして許されるのかと思ったりしましたし、伝説の死んだはずのダンサーの正体を探るのも、単なる人探しではないか、と思わないでもありません。でも、簡単に解決できる謎からだんだんと難しげな謎に進んで、読み進むほどにミステリの度合い、謎解きの完成度が高まっていく気がして、もしも、そのように意図しているのであれば、なかなかのものだと思います。私自身は独身のころに東急新玉川線の桜新町を最寄り駅として世田谷区の深沢に住んでいたことがあり、三軒茶屋を経由して下北沢はそれなりに土地勘あります。私の土地勘は本書でいうところの再開発前であり、土地勘なくても本書は楽しめますが、土地勘あればさらに面白く読める気がします。

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次に、西條奈加ほか『料理をつくる人』(創元文芸文庫)を読みました。著者は、6人の小説家です。テーマはタイトルに込められている通りです。収録順に、西條奈加「向日葵の少女」では、飯田橋を舞台に、祖母の元に持ち込まれた絵画の謎を解くために、秘密を知る客を迎えるに当たって、孫が料理を用意します。ややミステリ調です。千早茜「白い食卓」では、水族館で出会った女性が、主人公である男性に弁当を差し出し、その後、主人公に対して料理を作ることを始めます。その理由が極めて興味深い、というか、ややホラーな理由でサスペンスフルでもありました。深緑野分「メインディッシュを悪魔に」はニューヨークを舞台に、女性シェフが悪魔=サタンから最高の料理を作ることを要求されます。果たして、サタンが満足した料理とは何なのか。まあ、ファンタジーですね。秋永真琴「冷蔵庫で待ってる」では、大学生になって自炊を始めた女性が手料理を盛り付けたくて憧れの食器を購入したりしますが、恋の行方も気になります。織守きょうや「対岸の恋」では、姉弟で同居している弟は姉のために料理していたのですが、姉が結婚することになり、その結婚相手の男性の妹とともに結婚披露宴当日に思い切った行動に出ます。越谷オサム「夏のキッチン」では、夏の日の午後に、空腹に耐えかねて小学生男子がカレーを作り始めます。ということで、どの短編も水準が高くてオススメです。中でも、私は「メインディッシュを悪魔に」がもっとも出来がいいと感じました。その次に出来がいいと感じた「白い食卓」と「対岸の恋」はいずれも、少し背筋が寒くなるホラー的な要素を併せ持っています。「冷蔵庫で待ってる」と「夏のキッチン」はともに主人公が若いこともあって、前進する勢いのようなものを感じました。私は従来から強調しているように、飲み食いと着るものには何らこだわりがありません。ユニクロの服とカミさんの作った食事やジャンクといわれようとファストフードがあればそれで十分です。料理は飢え死にしようともまったくやりません。長崎大学に出向して単身赴任していた際も、買い食いと外食ばかりでした。でも、こういった料理をする人の短編小説もいいと思います。

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2025年4月18日 (金)

まだまだ+3%台の上昇率が続く3月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から3月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+3.0%からやや加速して+3.2%を記録しています。まだまだ+3%台のインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から36か月、すなわち、3年間続いています。ヘッドライン上昇率も+3.6%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.9%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

3月の消費者物価3.2%上昇 コメは伸び率92%で過去最大
総務省が18日発表した3月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が110.2となり、前年同月と比べて3.2%上昇した。2月の3.0%を上回り、2カ月ぶりに伸びが拡大した。電気・都市ガス代の上昇は鈍化したものの、コメなど食料高が続いている。
3%台の上昇率は4カ月連続で、上昇は43カ月連続となった。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は3.2%の上昇だった。
政府による電気・ガス代補助でエネルギー関連の伸びは抑制されている。一方で、コメ類は92.1%上がり、比較可能な1971年1月以降で最大の上げ幅となった。6カ月連続で過去最大幅を更新した。生産や運送のコスト上昇に加え、需給が逼迫している現状を映している。
物流費や人件費の上昇を受けて3月に価格改定があった外食のハンバーガーや、1月の鳥インフルエンザ発生の影響を受けた鶏卵なども物価を押し上げた。生鮮食品を除いた食料の上げ幅は6.2%に達した。2月の5.6%を上回った。
生鮮食品も含めた総合は3.6%上がった。2月の3.7%から伸びは縮小した。ブロッコリーやトマト、イチゴといった生鮮食品の価格が下落している。
エネルギー関連の全体の上昇率は6.6%となり、2月の6.9%から縮んだ。電気・ガス代への政府補助が効いている。上げ幅は電気代が8.7%、都市ガス代が2.0%と、いずれも2月から伸びが縮小した。
ガソリン代は6.0%上昇し、2月の5.8%から拡大した。価格高騰を抑える政府補助の目安を1月から小売価格で1リットルあたり185円程度に引き上げた影響が出ている。
2024年度の1年間で見ると、生鮮食品を除く総合は平均で108.7となり、前年度と比べて2.7%上昇した。上昇は4年連続。伸び率は23年度の2.8%からやや縮小した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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引用した記事には、2パラめに市場の事前コンセンサスは+3.2%とありますが、私の調べた範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.3%、ロイターの記事「全国コアCPI、3月は+3.2%に加速 米関税で下方リスクの声」では+3.2%ということでした。また、エネルギー関連の価格が抑制されているのは、政府の「電気・ガス料金負担軽減支援事業」による押下げ効果です。総務省統計局の公表資料によれば、ヘッドラインCPI上昇率への寄与度は▲0.33%、うち、電気代が▲0.28%、都市ガス代が▲0.05%との試算値が示されています。続いて、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、食料価格の上昇が引き続き大きくなっています。すなわち、先月2月統計では生鮮食品を除く食料の上昇率が前年同月比+5.6%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.35%であったのが、3月統計ではそれぞれ+6.2%、+1.49%と、一段と高い伸びと寄与度を示しています。他方で、エネルギー価格も上昇していますが、政府の「電気・ガス料金負担軽減支援事業」により上昇幅は縮小しています。すなわち、エネルギー価格については2月統計で+6.9%の上昇率、寄与度+0.52%でしたが、本日公表の3月統計では上昇率+6.6%と高い伸びは続いますが、やや縮小していて、寄与度も+0.50%となっています。寄与度差は▲0.02%ポイントと、わずかながらマイナスを記録しました。特に、エネルギーの中で上昇率が大きいのは電気代であり、エネルギーの寄与度+0.50%のうち、実に電気代だけで寄与度は+0.29%に達しています。また、ガソリン価格も高騰を続けており、2月統計の+5.8%の上昇から、3月は+6.0%になりました。食料とエネルギー以外では、公正取引委員会のカルテル摘発もあった宿泊料が2月統計の上昇率+5.2%、寄与度+0.06%から、3月統計では上昇率+6.6%、寄与度+0.07%に加速しています。3月にはすでに中華圏の春節休暇が終了しているのですから、もしも、昨日の日経新聞記事「名門ホテルにカルテル恐れ、問題視された業界の情報交換」にあるようなカルテル行為で価格が上昇しているのだとすれば、公正取引委員会の厳正な措置が望まれるところです。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+6.2%、寄与度+1.49%に上ります。その食料の中で、コアCPIの外数ながら、生鮮野菜が上昇率+22.1%、寄与度+0.43%、生鮮果物も上昇率+10.2%、寄与度+0.11%と大きな価格上昇を示しています。特に、私がよく例として取り上げているキャベツは上昇率+111.6%と昨年同月から2倍超に跳ね上がっていて、寄与度もキャベツ単独で+0.12%もあったりします。ほかには、なんといっても注目はコメといえます。コシヒカリを除くうるち米が上昇率+92.5%ととてつもない価格高騰を示していて、寄与度も+0.34%あります。そもそも、スーパーなどの店頭で見かけなくなった気すらします。うるち米を含む穀類全体の寄与度は+0.58%に上ります。さすがに、農林水産省も備蓄米の放出にかじを切ったようですが、現時点で価格の安定は見られません。主食に加えて、チョコレートなどの菓子類も上昇率+6.9%、寄与度+0.18%を示しており、コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+4.6%、寄与度+0.17%、同様に外食も上昇率+3.6%、寄与度+0.17%と、それぞれ大きな価格高騰を見せています。ほかの食料でも、豚肉などの肉類が上昇率+5.1%、寄与度+0.13%、コーヒー豆などの飲料も上昇率+6.2%、寄与度0.11%、などなどと書き出せばキリがないほどです。何といっても、食料は国民生活に欠かせない基礎的な物資であり、価格の安定を目指す政策を望むとともに、価格上昇を上回る賃上げを目指した春闘の成果を期待しています。

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2025年4月17日 (木)

2か月連続で黒字を記録した3月の貿易統計

本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.9%増の9兆8478億円に対して、輸入額は+2.0%増の9兆3038億円、差引き貿易収支は+5441億円の黒字を計上しています。2か月連続の貿易黒字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字4年連続、24年度15%減の5兆2216億円
財務省が17日発表した2024年度の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆2216億円の赤字だった。4年連続の赤字となった。歴史的な円安を背景に輸出額が伸び、赤字幅は前年度比で15%縮小した。
輸出額は前年度比5.9%増の108兆9345億円だった。2年連続で100兆円を超えて、比較可能な1979年度以降で過去最高となった。人工知能(AI)向けの投資の増加を背景に半導体製造装置などが輸出額を押し上げた。
為替レートは平均で1ドル=152.60円で、6.1%の円安・ドル高だった。
輸入額は4.7%増の114兆1562億円と、2年ぶりに増加した。パソコンやスマートフォンなどの輸入が増えた一方で原粗油は減少した。原粗油の輸入価格は1キロリットルあたり7万9083円と1.5%上昇したものの、数量ベースで7.1%減った。
地域別でみると対米国の輸出額は3.8%増の21兆6482億円、輸入額は7.7%増の12兆6429億円だった。輸出入ともに過去最高額で、貿易黒字は1.3%減の9兆53億円だった。全体の輸出額に占める米国の割合は19.9%で、3年連続で最大の輸出相手だった。
輸出では自動車が1.6%増えた。為替の影響のほか、ハイブリッド車など付加価値の高い車種の需要が高かった。輸入では電算機類が2.9倍だった。データセンターなど向けの単価の高い業務用サーバーの需要が増えた。
アジアとの輸出額は8.8%増の58兆513億円、輸入額は7.1%増の55兆1760億円だった。そのうち対中国は輸出額が3.4%増の18兆8917億円、輸入額が7.1%増の25兆9392億円でいずれも過去最高だった。7兆474億円の貿易赤字で、2年ぶりに赤字幅が拡大した。
半導体等製造装置の輸出が増えた。輸入ではスマホなどの通信機やパソコンなどの電算機類の増加が寄与した。
欧州連合(EU)は輸出額が7.8%減の9兆7740億円、輸入額が7.6%増の12兆3047億円だった。輸入額は過去最高で、円安や医薬品の単価が上昇したことなどを反映した。
25年3月単月の貿易収支は5440億円の黒字で、黒字幅は前年同月比55.5%拡大した。輸出額は3.9%増の9兆8478億円、輸入額は2%増の9兆3037億円だった。

3月のデータが利用可能となって年度計数ばかりが報じられて、私が景気動向との関係で注目している月次計数は最後のパラに追いやられていますが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、+4500億円超の貿易黒字が見込まれていたところ、実績の+5400億円を少し超える黒字はやや上振れした印象です。また、年次計数ばかりに注目している記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字はこのところジワジワと縮小していて、中華圏の春節の影響もあって、2月統計では+1914億円の黒字となった後、本日公表の3月統計では▲2336億円の赤字を計上しています。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2025年3月統計まで、3年半超に渡って継続して赤字を記録しています。例外的に黒字となっているのは、2024年1月と12月、2025年2月だけですが、中華圏の春節の影響は季節調整では除去しきれていない可能性があり、2024年1月と2025年2月の黒字は実勢に従ったものかどうか、やや怪しいと私は感じています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。ですので、現状の▲2000億円程度の貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。赤澤暖人が米国の首都ワシントンDCにて日米交渉に当たっていますが、成行きが注目されます。
本日公表された3月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで▲13.6%減、金額ベースで▲17.2%減となっています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+3.5%増と、輸入総額の+2.0%を超える伸び率で増加しています。ただし、食料品のうちの穀物類は数量ベースで▲14.9%減、金額ベースで▲19.9%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで+3.5%増、金額ベースで▲4.1%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+3.3%増、金額ベースでも+16.3%増となっている一方で、電気機器が金額ベースで+16.1%増、一般機械も同じく+19.3%増と高い伸びを示しています。トランプ関税発動前の駆込み輸出の可能性は否定できません。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲4.8%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+5.5%増となっています。米国向けは+3.1%増、西欧向けも+2.4%増などとなっています。今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策次第と考えるべきです。

最後に、国際通貨基金(IMF)と世銀の春季会合を前に「世界経済見通し」World Economic Outlook 分析編の第2章と第3章が公表されています。タイトルは以下の通りです。少し時間をかけて読んで、来週になってから取り上げたいと予定しています。なお、第1章の見通し編は4月22日に公表とアナウンスされています。

  • Chapter 2: The Rise of the Silver Economy: Global Implications of Population Aging
  • Chapter 3: Journeys and Junctions: Spillovers from Migration and Refugee Policies

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2025年4月16日 (水)

3か月ぶりの前月比プラスを記録した2月の機械受注

本日、内閣府から2月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から+4.3%増の8947億円と、3か月振りの前月比プラスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

2月機械受注4.3%増、3カ月ぶりプラス 非製造業伸びる
内閣府が16日発表した2月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で4.3%増の8947億円だった。3カ月ぶりにプラスに転じた。非製造業(船舶・電力除く)が11.4%増と大きく伸びた。
非製造業を業種別にみると、運輸業・郵便業が39.6%増と高い伸び率だった。鉄道車両で100億円を超える大型案件の受注があったという。デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の投資が堅調な金融業・保険業や、建設業も全体を押し上げた。
製造業は3.0%増だった。核燃料処理施設関連の受注があった影響から、非鉄金属が前月と比べ2倍超に膨らんだ。このほか、化学工業が39.6%増、鉄鋼業が33.7%増だった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.5%増で、実績は市場予測を上回った。毎月のぶれをならした3カ月移動平均の民需(船舶・電力除く)は横ばいだったことから、基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
米トランプ政権が打ち出す一連の施策の影響については「3月以降に先取りの動きが出るのか様子見となるのか、数字を注視する必要がある」(内閣府)と説明した。官公需などを含む受注総額全体では、3.0%増の3兆3623億円と2カ月連続で増加した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事には、コア機械受注の季節調整済みの前月比で見て「市場予測の中央値は0.5%増」とあるものの、私が調べた範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、市場の事前コンセンサスは季節調整済みのコア機械受注で前月比+0.8%増でした。また、予測レンジ上限は+2.6%増でしたから、実績の+4.3%増はレンジ上限を超えて、大きく上振れした印象です。ただし、これまた記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では、コア機械受注の3か月後方移動平均が▲0.0%であることなどから、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。季節調整済みの前月比で見て、製造業が+4.3%増であった一方で、船舶・電力除く非製造業は+11.4%増と大きく伸びています。非製造業のうちの運輸業・郵便業が+39.6%増と大きく伸びたのは鉄道車両の大型受注があったとはいえ、金融業・保険業で+33.8%増であったのはデジタルトランスフォーメーション(DX)投資が出始めている印象です。人手不足の象徴ともなっている建設業も+14.1%増と堅調な受注となっています。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合がありましたが、さすがに、人手不足への対応やDXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、やや異常な気すらしていましたので、今後の伸びを期待したいところです。しかし、先行きについては決して楽観はできません。特に、米国のトランプ政権の関税政策により先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資にはネガな影響を及ぼすことは明らかです。いずれにせよ、先行きリスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2025年4月15日 (火)

とうとう1食400円を超えた帝国データバンクの「カレーライス物価指数」

やや旧聞に属するトピックながら、先週4月10日に帝国データバンクから2025年2月調査の「カレーライス物価指数」が明らかにされています。先月段階で2月調査では400円を超える見通しでしたが、結局、407円という結果になっています。まず、帝国データバンクのサイトから 「カレーライス物価」推移 を引用すると以下の通りです。

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グラフで3月の予想めいた数値が示されていますが、帝国データバンクによれば、来月3月の「カレーライス物価」は1食420円前後と予想しています。また、2月の実績407円というのは、前年同月の319円から+88円の上昇を見せているわけですが、うち、ごはん(ライス)が+77円を占めています。コメ価格の高騰が原因であることはいうまでもありません。
私は1950年代の生まれですから、白米のごはんが「銀シャリ」と呼ばれる贅沢品だったという歴史的事実を知っています。でも、もう80年も昔のことです。日本経済は歴史を逆行しながら貧しくなっていくのでしょうか?

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2025年4月14日 (月)

今年のゴールデンウィークの旅行需要は盛り上がりに欠けるのか?

かなり旧聞に属するトピックながら、4月3日にJTBから「ゴールデンウィークに、1泊以上の旅行に出かける人」の旅行動向見通しが明らかにされています。ここでゴールデンウィーク=GWの日付は今年2025年4月25日~5月7日ということになっています。まず、JTBのサイトからGWの旅行動向の推計結果のテーブルを引用すると以下の通りです。

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見れば明らかな通り、総旅行人数や総旅行消費額は昨年2024年を下回っており、コロナ前の2019年比でも及びません。ただ、最近の物価動向や為替相場を反映しているような気がしますが、1人あたり平均旅行費用は国内旅行も海外旅行もそれほど減少しているわけではありません。
たぶん、私自身は大阪・関西万博を含めて、このゴールデンウィークに宿泊をい伴う旅行はしないと思うのですが、それは別としても、旅行に行かない理由としては、前年から△1.3%ポイント低下したものの「GWは混雑するから(45.9%)」がもっとも多くなっています。次いで、「GWは旅行費用が高いから(34.6%)」、「家計に余裕がないので(25.9%)」といった経済的な理由が続いています。

昨年の春闘はそれなりに盛り上がりを見せて、名目ベースでの賃上げは進みました。しかし、物価上昇が賃上げを超えてしまい、厚生労働省の毎月勤労統計によれば、実質賃金は3年連続で減少しています。総務省統計局による今年2025年2月の消費者物価指数(CPI)では、うるち米(コシヒカリを除く)の価格は+81.4%というとてつもない上昇を示しています。あくまで一般論ながら、消費の優先順位として、コメを買うよりも旅行を断念する家計が決して少なくないことは容易に想像できます。所得が伸びずに、このまま国民生活が貧しくなって行くのでしょうか?

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2025年4月13日 (日)

来場意向が盛り上がらないまま大阪・関西万博が開幕

昨日の開会式に続いて、本日、大阪・関西万博が開幕しました。来場意欲はサッパリ盛り上がっていません。今年2025年2月に大阪府・大阪市万博推進局による「大阪・関西万博の機運醸成状況調査」が明らかにされていますが、認知度が95%近いにもかかわらず、来場意向度は35%足らずで「ほぼ横ばい」となっています。この調査結果を報じた朝日新聞の記事「万博に来場意向は34.9%、目標の50%に届かず 大阪府・市調査」で示されていたグラフを引用すると下の通りです。

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この朝日新聞の記事の3パラ目を引用すると、「来場意向を示した人の割合は、21年のアンケートで51.9%だったが、22年は41.2%、23年は33.8%と下がり、開幕が目前に迫る今回の調査でも好転しなかった。」ということになります。もちろん、万博協会のプレスリリースにあるようなメタンガス検知などの危険性の認識もあるのでしょうが、大きな要因は万博からシームレスにつながる大阪ガジノ構想です。なぜか、大手の既存メディアでもカジノ隠しに協力していて、万博の報道ではほとんどカジノ構想との連続性については言及がありません。私が見た範囲ながら、大手メディアで報じられているのは以下のNHKのローカルニュースだけです。

万博へ行くかどうかについて、私自身は何が何でも行かないというだけの強い意志はありません。小学生の孫でもいて、ねだられたりすれば同行する可能性もなくはないのですが、そもそも、孫はいませんし、その前段階で子どもたちは結婚すらしていません。友人から少しディスカウントされたチケットを勧められなくもなかったのですが、お断りして現時点でチケットは入手していません。たぶん、私は万博には行かないと思います。

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2025年4月12日 (土)

今週の読書は政治経済学の学術書をはじめ計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、和田淳一郎『一票の平等の政治経済学』(勁草書房)では、憲法で保証されている法の下での平等や個人としての尊重などを基本原理とする「一票の平等」に関して理論的に解明するとともに、制度的な保障まで幅広く議論を展開している学術書です。山口未桜『禁忌の子』(東京創元社)は、本屋大賞4位となっています。救急医の下に運び込まれた溺死体は、当の救急医に極めて肉体的条件が類似していました。生殖医療の光と闇を通して謎を解明するミステリです。今井悠介『体験格差』(講談社現代新書)では、子どもの体験格差についてアンケート調査から浮かび上がる事実を明らかにし、所得や障害などにより体験が不十分な子供に対する社会情動的スキルの育成などについて議論しています。田中秀征・佐高信『石橋湛山を語る』(集英社新書)では、戦前に「小日本主義」を提唱し戦争や植民地支配に反論を加え、戦後は短期間ながら内閣総理大臣にもなった石橋湛山の考えや戦後日本の政治に関する対談です。深木章子『闇に消えた男』(角川文庫)は、『消人屋敷の殺人』に登場したフリーライターの新城誠と文芸編集者の中島好美の2人が、行方不明になったノンフィクション作家の稲見駿一の調査と謎解きを行います。
今年の新刊書読書は先週までの1~3月に75冊を読んでレビューし、4月に入って先週は5冊で計80冊、さらに今週の5冊と合わせて85冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2でシェアしたいと考えています。また、最近は大いにサボっていますが、経済書はAmazonのブックレビューにポストするかもしれません。なお、本日の5冊のほかに、北村薫のベッキーさんシリーズの3冊『街の灯』、『玻璃の天』、『鷺と雪』(すべて文春文庫)も読んでいます。すでに、いくつかのSNSにてブックレビューをポストしていますが、新刊書ではないと考えるべきですので、本日の感想文には含めていません。

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まず、和田淳一郎『一票の平等の政治経済学』(勁草書房)を読みました。著者は、横浜市立大学国際商学部教授であり、選挙制度や定数配分などを研究のキーワードにしているようです。本書では、憲法で保証されている法の下での平等や個人としての尊重などを基本原理とする「一票の平等」、英語では "One Person, One Vote, One Value." に関して理論的に解明するとともに、制度的な保障まで幅広く議論を展開しています。はい、完全な学術書であり、難解な数式がいっぱい用いられています。私のような専門外のエコノミストには理解が及んでいない部分が多々ありそうですし、一般的なビジネスパーソンにはそれほどオススメできないかもしれませんが、それでもテーマに興味を持つ向きには読んでおく値打ちがある本だと思います。まず、高校生でも理解できることながら、小選挙区制は候補者が乱立した場合に、いわゆる「死票」が大量に生じる可能性があります。私の記憶する範囲で、衆議院小選挙区の法定有効得票数は有効得票総数の1/6です。ですから、極端な場合、5/6近い死票が出る可能性があります。ですので、本書ではほぼほぼ比例代表制でもって議論を進めています。比例代表選挙の場合、端数処理が問題となりますが、日本では、いわゆるドント方式で端数切上げです。閾値の上限で判断しているともいえます。それに対して、端数切捨てで閾値の下限で判断するアダムズ方式、また、ドント方式とアダムズ方式の中間、というか、端数を四捨五入して閾値の平均を取るサンラグ方式、などの計算方法が紹介されます。ただし、こういった方式を考える場合の不都合、というか、パラドクシカルな状況を生じるケースとして2点に言及していて、総定員を増やすと定員配分が減る選挙区がある、あるいは逆に、総定員を減らすと定員配分が増える選挙区がある、というアラバマ・パラドックス、さらに、総定員を固定して再配分した場合、人口増加率、すなわち、人口総数ではなく人口の増える割合が高い選挙区から人口増加率の低い選挙区に定員が移されてしまう、という人口パラドックス、これらの不都合を避ける必要について分析を加えています。数式をいっぱい並べた理論的な分析です。ですので、このあたりは、私も十分理解した自信がありませんし、ご興味ある向きには読んでいただくしかありません。そして、こういった不平等について、一般に人口に膾炙した「格差」という用語ではなく、「較差」という用語を用いて、報道でも取り上げられることが少なくないジニ係数やほかの指標を紹介しています。ただ、結論の前の章で経済学者の視点から、都市部の賃金が地方の賃金より高いと仮定すれば、地方の政治的影響力を都市部よりも大きくする余地がある、とも指摘しています。本書の著者は都市部と地方のそれぞれの賃金=経済的利益と政治的影響力の和を均衡させることが解決策となる可能性を示唆しています。本書のタイトルが政治経済学となっているゆえんの一端ではないかと思います。最後の最後に、私からひとつだけ指摘しておくと、「一票の平等」は極めて重要なのですが、その平等な投票に基づいて選ばれた国会議員が、憲法改正や参議院否決後の衆議院の再議決などを例外としつつも、そのたの多くの議案に関して、はたして、単純過半数で法律や予算を議決していいものかどうか、こういった視点も本書のスコープの外ながら気にかかる点です。

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次に、山口未桜『禁忌の子』(東京創元社)を読みました。著者は、医師なのですが、昨年2024年本作品みより第34回鮎川哲也賞を授賞されてデビューしています。有栖川有栖の創作塾のご出身であるとの報道を見かけたことがあります。本書は今年の本屋大賞の4位に入っています。ということで、本書の主人公は兵庫県の芦屋と神戸の間にある病院の救急医である武田航です。33歳です。4月初旬に「キュウキュウ12」とコードをふされた溺死体が運び込まれてきます。なんと、その溺死体は、見た目はもとより、身長・体重、さらに体毛の生え方まで武田航とソックリ瓜二つでした。どう見ても遺伝子上の類似性が想定されるので、武田航の中学校のころの同級生で同じ病院に勤務する消化器内科医の城崎響介とともに調査を始めます。この城崎響介が謎解きの探偵役を務めるわけですが、この人物のキャラが何とも独特で、この人物造形だけでも新人作家が文学賞に入選するだけの値打ちがあるような気がします。ただ、このキャラについては、読んでみてのお楽しみです。武田航の両親はすでに亡くなっており、一家には双子どころか兄弟もおらず、戸籍を調べても双子であった形跡はなく、母子手帳にも「単胎」と記載されているばかりです。ただ、さすがに警察の調査により、「キュウキュウ12」は岐阜県在住の中川信也という人物であることが判明します。調べを進めるうちに、大阪にあるリプロダクティブ医療のクリニックに武田航の母親が妊娠のごく初期に通っていたことが判明し、武田航と城崎響介の2人はその生島リプロクリニックの生島京子理事長から「知る権利がある」といった趣旨の返事を受け取って話を聞く機会を得ますが、そのアポイントの直前に生島京子理事長は密室状態の鍵のかかった理事長室のドアのノブにかけられたベルトで首を吊って亡くなってしまいます。他殺か自殺か、警察とともに武田航と城崎響介の2人も独自に調査を進めます。といったあたりから、生殖医療による何らかの医療的な措置により、武田航と中川信也の2人は極めて類似した、あるいは、同一の遺伝子を有する、との暫定的な結論が導かれます。後の謎解きは、城崎響介のキャラとともに、読んでみてのお楽しみです。最後にいくつか私の方から指摘しておくと、まず、テーマからして重いです。生殖医療の倫理性、そして、犯罪行為の倫理性、そういったものを含めて重くて暗いストーリーです。まあ、その分、考えさせられる部分もありますが、私のような生殖医療などに専門性ない読者が考えてもどうなるものでもありません。そして、ミステリとしては、ストーリーの展開とともに徐々に真相が明らかになるタイプのミステリであり、名探偵が最後の最後にどんでん返しの真相を明らかにするタイプのミステリではありません。ですから、私も途中で真実に気づいてしまいました。その意味で、タイトルがあまりにもダイレクトに結末を暗示していて私は好きになれません。でも、謎解き役の城崎響介のキャラは大好きです。

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次に、今井悠介『体験格差』(講談社現代新書)を読みました。著者は、チャンス・フォー・チルドレンという団体の代表だそうで、これだけでは何のことやら判りませんが、この団体は生活困窮家庭の子どもの学びを支援しているということです。本書では、タイトル通りに、「子どもにとっての必需品」、すなわち、その社会に生まれたすべての子どもが享受できて然るべきものとしての体験について、第1部でアンケート調査の結果を、また、第2部でインタビューの概要などを明らかにするとともに、第3部では体験格差の縮小や解消に向けた取組みを論じています。なお、本書では年間所得300万円に満たない家庭を低所得としています。ということで、軽く想像されることですが、低所得家庭においては小学生などの体験が少なく、体験格差が存在することが明らかにされています。特に、体験ゼロの割合は300万円未満家庭では約30%であり、600万円以上の10%あまりの約3倍となっている事実を明らかにしています。子供たちの想像力の幅はもとより、長じての人生の選択肢の幅まで、大なり小なり人生における体験に依存している部分があるとか、小学校4年生くらいまでは学習よりも体験の方が重要といった主張がなされています。特に、本書では意図してか、意図せざるかは別にして、母子家庭をはじめとするシングルペアレントの家庭に一定の焦点が当たる形となっていて、低所得で金銭的な負担が出来ない上に、子どもの体験をサポートするための時間的な余裕もない姿が浮き彫りにされています。第2部のインタビューでは低所得に加え、障害などのマイノリティ、また、多子の家庭の実情が明らかにされています。体験が少ないと、社会情動的スキル、というか、学力などの認知能力に対比して忍耐強さややり抜く力などの非認知能力と呼ばれるスキルを伸ばす機会が限定されるおそれを指摘しています。最後の第3部では、p.164から5項目の提案がなされています。このあたりは読んでいただくしかありません。最後に、我が家の場合ですが、やや突飛にめずらしい体験としては、大雑把に子どもたちの幼稚園のころ、というか、小学校に上がる少し前くらいの3年間を私の仕事の関係で海外で過ごしています。南の島のジャカルタで3年間を過ごし、定期的にメディカルチェックでシンガポールを訪れ、年末年始休みや夏休みといったまとまった休暇では、日本に一時帰国することもありましたし、インドネシア国内のバリ島などや近隣国のタイのプーケット、マレーシアのペナンなどといったリゾートは満喫しました。はたまた、オーストラリアのパースまでカンガルーやコアラを見に行ったこともあります。帰国してからは普通だと思うのですが、夏休みの海水浴はよく行きましたし、水泳教室なんてのも行かせましたが、でも、今となっては何の役にも立っていないように見えなくもありません。長じてからは、レクリエーション活動が減った裏腹に、塾などで学校学習を補助することもしましたし、それなりに、本書でいうところの体験は、通り一遍ながら、いろいろとさせたつもりです。でも、本屋大賞にもノミネートされていた『アルプス席の母』のような強烈な親のサポートを必要とする体験は、どこまで役立つんでしょうか。少し謎です。

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次に、田中秀征・佐高信『石橋湛山を語る』(集英社新書)を読みました。著者は、元衆議院議員の政治家と評論家、なんだろうと思います。「語る」というタイトル通りに対談なのですが、軽く想像されるように、著者のうちの佐高信が聞き手になって、元衆議院議員の政治家である田中秀征が語り手になっている部分が多い印象です。なお、出版は昨年2024年10月なのですが、現在の石破内閣については何の言及もなく、出版の時期からして石破内閣、あるいはその前段階の石破自民党総裁が決まる前の時点での対談ではないか、と私は想像しています。まず、本書p.12に石橋湛山の略年譜がありますが、経済評論家というか、『東洋経済新報』のジャーナリストであり、戦後は内閣総理大臣に就任するも急性肺炎のために3か月ほどで辞任しています。ということで、冒頭の対談では石橋湛山の「小日本主義」を取り上げています。戦前昭和期の世界的にも帝国主義の時代に、我が日本は本州ほかの4島だけでやっていける、したがって、満州や朝鮮や台湾は不要などを主張し、石橋湛山は「小日本主義」として論陣を張っています。結果として、ヤルタ宣言だか、ポツダム宣言だか、を受け入れて、日本は戦後4島の基盤のもとで戦後復興や高度成長といった経済発展を成し遂げたわけで、先見の明を見ることが出来ます。この「小日本主義」の背景に、アダム・スミスの自由放任経済、J.S.ミルの功利主義、グラッドストンの植民地経営に対する見方などがあるといった議論を対談では展開しています。そして、その「小日本主義」を成り立たせる条件を4点上げていて、国際的には、自由な通商とブロック経済への批判、高度な科学技術を基礎とする魅力的な財の供給、国内的には、積極的な経済拡大を支援する財政政策、そして、まっとうな倫理観に支えられた経済政策運営、と指摘しています。やや本書のオリジナルな表現とは異なりますが、私の理解した限りでの本書の主張を私の表現にしたがって展開すれば以上の通りとなります。ここまでが第1章であり、残りの2章から6章は読んでいただくしかありませんが、1点だけ私の方から疑問を呈しておくと、本書では現在の自民党、というか、日本ではリーダーが不在であり、小選挙区制のために世襲議員が増加している、と主張しています。私はこの点は疑問です。すなわち、タイミングの点から本書でカバーしきれなかった現在の石破自民党総裁、石破内閣を見ても明らかですが、自民党総裁選における発言と総理総裁に就任してからの発言が大きく異なっています。メディアではもう忘れているようですが、いろんな総裁選当時の発言を反故にしているのは明らかです。意図的に虚偽の公約を掲げていた可能性は否定しませんが、逆に、まあ、好意的に解釈するとすれば、党総裁選の際に掲げていた公約は総理総裁に就任してからは実現が不可能であったわけで、それは石破総理のリーダーとしての力不足に起因するものではありません。すなわち、自民党、というか、公明党も含めて現在の与党体制の中で、リーダーとしての力量にはそれほど関係なく、システムとして制度疲労を起こしているのだと考えるべきです。ですから、強力なリーダーが必要なのではなく、本書で主張しているような政策、あるいは、広い意味でのシステムを実現するためには、政権交代が必要、という点は理解すべきです。

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次に、深木章子『闇に消えた男』(角川文庫)を読みました。著者は、60歳にして弁護士を引退して小説を書き始めたミステリ作家です。私は、この作家さんは『消人屋敷の殺人』しか読んだことがないのですが、本書はそこで登場したフリーライターの新城誠と、文芸編集者の中島好美の2人が謎解きに当たる作品、というか、2人で調査し新城誠が謎解きをする長編ミステリです。ですが、シリーズをなしているというよりも独立したミステリであり、前著をすっ飛ばして本書だけでも十分楽しめます。ストーリーは、ノンフィクション作家の稲見駿一が取材旅行に出かけて、そのまま行方不明となって3か月が経過し、妻の稲見日奈子から出版社の粂川を通じて2人に調査の依頼があります。稲見駿一は資産家の跡取りであり、多額の不動産収入があることから、コストを気にせずに徹底した取材で作品を仕上げる主義で、寡作だが定評あるライターでした。仕事に関しては秘密主義というか、家族にも何も知らせず、何日も帰宅しないことがあるということです。でも、さすがに3か月というのは今までになく長期間である上に、仕事で借りているマンションのメールボックスに「地獄に堕ちろ」で始まる脅迫状めいた怪文書が投函されていて、調査の依頼につながっています。そして、まあ、いろいろあって調査が進んで謎解きがなされるわけです。はい、驚愕のラストといえます。最後に、2点だけつけ加えておきたいと思います。第1に、本書は5章から構成されていますが、奇数章では中島好美から見た1人称の視点でストーリーが進められている一方で、偶数章では稲見日奈子の視点ながら3人称で進められます。これは、性別としては同じ女性ですので、ひょっとしたら、混乱をきたす読者がいるかもしれませんが、まったく気づかない読者も多そうな気がします。何と申しましょうかで、ひとつの趣向であることは明らかなのですが、作者が何を意図していて、読者がどういった受止めをするかは私には不明です。もうひとつは作者に関して、60歳にしてデビューというのは、年齢だけを考えると、幼稚園教諭と幼児教育教材会社勤務を経てミステリ作家となった天野節子を思い出してしまいました。天野作品も、デビュー当時の『氷の花』と『目線』くらいまでは興味深く読んだのですが、不勉強にして、その後はご無沙汰しています。

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2025年4月11日 (金)

日銀「さくらリポート」(2025年4月)を読む

やや旧聞に属するトピックながら、今週月曜日の4月7日に日銀支店長会議において「さくらリポート」(2025年4月)が公表されています。おそらく、トランプ関税直後で株安なども含めて、まだ経済的影響が十分に織り込まれていない一方で、春闘の1次回答はすでに分析されているという気がします。その意味で、やや中途半端なのですが、それは日銀の責任ではありません。いずれにせよ、このリポートを簡単に見ておきたいと思ます。まず、日銀のサイトから総括判断を短く引用すると以下の通りです。

景気の総括判断
一部に弱めの動きもみられるが、すべての地域で、景気は「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」としている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2025年1月判断】前回との比較【2025年4月判断】
北海道一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している
東北緩やかに持ち直している持ち直している
北陸一部に能登半島地震の影響がみられるものの、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
関東甲信越一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
東海緩やかに回復している緩やかに回復している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに持ち直している一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している
中国緩やかな回復基調にある緩やかな回復基調にある
四国緩やかに持ち直している緩やかに持ち直している
九州・沖縄一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している

テーブルを見れば明らかなのですが、すべての地域で「前回判断と比較して景気の改善・悪化度合いが変化しなかった」という意味の水平矢印が示されています。しかも、北陸でビミョーに表現が変更されて、「能登地震の影響」が削除されたほかは、4月の地域別総括判断は1月から変更なしであり、まったく同じ表現振りとなっています。
pdfの全文リポートでは、トピック別の「企業等の主な声」というのがあって、① 個人消費、② 精算・輸出・設備投資、③ 雇用、賃金設定、④ 価格設定、のトピックを取り上げています。これらのうち、② 精算・輸出・設備投資 のなかから、米国の関税や通商政策に関するものが3点あり引用すると以下の通りです。

  • 国内外の堅調な需要を背景に、生産は増加基調にある。なお、米国等で先行きの政策運営に関する不透明感が強く、とりわけ通商政策についてはその影響を見極めたうえで、具体的な行動に移る方針 (名古屋[輸送用機械])。
  • 米国の通商政策の影響を事業計画に織り込むのは困難。現時点で生産・輸出計画を変えていないが、ダウンサイドリスクは意識している (大阪[電気機械])。
  • 米国大統領選の行方が不透明な中で発生していた海外顧客の買い控えの動きは、政権発足後も通商政策の着地がみえないことから、続いている (高松[生産用機械])。

米国トランプ政権による関税政策や通商政策に起因し先行き不透明感が強まる中で、リスクはダウンサイドに厚い、という点は十分に認識されているようです。

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2025年4月10日 (木)

+4%台の高い上昇率が続く3月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から3月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+4.2%の上昇となり、2月統計の+4.1%から上昇率がさらに拡大し、依然として高い伸びが続いています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

3月の企業物価指数4.2%上昇 コメ価格上昇続く
日銀が10日に発表した3月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は126.0と前年同月比で4.2%上昇した。2月(4.1%上昇)から伸び率が拡大し、民間予測の中央値(3.9%上昇)より0.3ポイント高かった。コメを含む農林水産物の価格上昇の影響が出た。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。2月分の前年同月比上昇率は発表当初は4.0%だったが、遡及修正で4.1%に変更された。
3月分の内訳をみると、農林水産物は40.1%上昇した。コメの値上がりが長引いたほか、鳥インフルによる供給減少で鶏卵価格が高騰した。
ガソリン補助金の減額を受け石油・石炭製品は8.6%上昇した。2月(5.9%上昇)から伸び率が2.7ポイント拡大した。飲食料品は原材料や包装資材などの上昇分を価格に転嫁する動きが続き、3.1%上昇した。
2024年度は前年度比3.3%の上昇だった。非鉄金属の国際市況上昇も影響した。公表している515品目のうち、上昇したのは387品目、下落したのは106品目だった。

インフレ動向が注目される中で、やや長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.9%、予測レンジの上限で+4.0%と見込まれていましたので、実績の+4.2%はレンジ上限を超えて大きく上振れた印象です。しかも、引用した記事にもある通り、2月統計の上昇率は遡及して上方改定されています。なお、ロイターの記事では、ロイター調査による民間調査機関の予測中央値は+3.9%でした。国内物価の上昇幅が拡大したした要因は、引用した記事にもある通り、コメなどの農林水産物の価格上昇であり、農林水産物は前年同月比で見て2月+40.2%の後、本日公表の3月統計では+40.1%と、猛烈な上昇を見せています。何分、コメなどは生活必需品の食料なのですから、企業間取引の価格とはいえ小売価格に波及することは当然ですから、国民生活への影響も深刻度を増している可能性が高いと私は受け止めています。ただし、為替相場では2-3月には一時的に円高が進んだ点は、金融政策当局の目論見通りかもしれません。すなわち、前月比で見て、1月には+1.8%の円安となったものの、2月には△2.9%、3月も▲1.8%の円高が進んでいます。また、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年4月)を見ておくと、当面の原油価格は60ドル台前半で推移すると予想しており、「OPECプラスによる増産や貿易戦争による世界景気の悪化が価格下押し圧力」と指摘しています。円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年に入って1月+2.3%の後、2月▲1.8%、3月▲1.6%と下落を記録しており、国内物価の上昇は明らかにホームメードインフレの様相を呈してきています。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず繰り返しになりますが、農林水産物は2月の+40.2%から3月は+40.1%と高い上昇幅を続けています。これに伴って、飲食料品の上昇率も+3.1%と高止まりしています。電力・都市ガス・水道も+6.4%と高い上昇率が続いています。ほかに、銅市況の高騰などにより非鉄金属も12.3%とと2ケタ上昇が続いています。

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2025年4月 9日 (水)

アジア開発銀行(ADB)による「アジア開発見通し」Asian Development Outlook 2025 やいかに?

本日、アジア開発銀行(ADB)から「アジア開発見通し」Asian Development Outlook April 2025 が公表されています。ごく簡単に、pdfの前文リポートもアップロードされていますが、プレスリリースのプレゼン資料から成長率とインフレ率の見通しのスライドを1枚だけ引用すると以下の通りです。

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スライドのタイトルは見ての通り Developing Asia's growth is forecast to decline; inflation will continue to moderate であり、左半分のテーブルにあるアジア新興国・途上国の成長率は、昨年2024年+5.0%の後、今年2025年+4.9%、来年2026年+4.8%とジワジワと減速すると見込まれています。ただし、この減速の主因は中国経済の影響であり、中国を除くアジア新興国・途上国の成長率は、+5%近傍でほぼほぼ横ばいと見込まれています。すなわち、2024年+5.1%、2025年+5.0%、2026年+5.1%との予想です。右半分のグラフのはインフレ率がプロットされており、中国でやや加速すると見込まれているほかは、アジア新興国・途上国で物価上昇は徐々に落ち着きを取り戻すと予想されています。

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4か月連続で低下した3月の消費者態度指数

本日、内閣府から3月の消費者態度指数が公表されています。3月統計では、前月から▲0.7ポイント低下して34.1を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数3月は0.7ポイント低下、4カ月連続悪化=内閣府
内閣府が9日に発表した3月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は、前月から0.7ポイント低下し34.1となった。
内閣府は消費者態度指数の基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いた。
消費者態度指数の悪化は4カ月連続。 指数を構成する4つの指標のうち、雇用環境と収入の増え方、暮らし向きの3つが前月比で悪化した。耐久消費財の買い時判断は改善した。
1年後の物価が上昇するとの回答は93.9%と前月比0.6ポイント増えた。そのうち物価が5%以上上昇するとの回答は55.3%と前月の53.9%から増えた。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、唯一「耐久消費財の買い時判断」だけが前月から+0.2ポイント上昇して27.3となったほかは、「雇用環境」が△1.7ポイント低下して39.2、「収入の増え方」も△0.7ポイント低下して38.8、「暮らし向き」も△0.6ポイント低下し30.9となり、消費者態度指数を構成する4項目のうち3指標が低下しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いています。1月統計で従来の「改善に足踏みがみられる」から、「足踏みがみられる」に1ノッチ下方修正してから、本日公表の3月統計まで3か月連続の「足踏み」です。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のヘッドライン上昇率は昨年2024年11月の+2.9%から12月には+3.6%に跳ね上がり、今年2025年に入ってからも1月+4.0%、2月+3.7%と高止まりしており、消費者マインドへのダメージが大きかった気がします。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、バブル経済崩壊後の長い長い景気低迷機を経て、物価上昇により消費者が買い控えをする行動が目につくように変化したのかもしれません。こういった消費者行動の経済分析が必要だという気がしています。
また、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が55.3%を占める一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答も31.2%に上っており、これらも含めた物価上昇を見込む割合は93.9%と高い水準が続いています。加えて、引用した記事の最後のパラにも現れているように、物価上昇予想は上昇率の高い方にややシフトしています。これも、最近の物価統計などで実績としてのCPI上昇率が加速している影響が現れている可能性が高いと考えるべきです。

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2025年4月 8日 (火)

物価高騰で低下の続く3月の景気ウォッチャーと大きな黒字を計上した2月の経常収支

本日、内閣府から3月の景気ウォッチャーが、また、財務省から2月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.5ポイント低下の45.1、先行き判断DIも▲1.4ポイント低下の45.2を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+4兆607億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターと日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

街角景気3月は3カ月連続の悪化、食品高で 先行きは米関税に懸念
内閣府が8日発表した3月の景気ウオッチャー調査は、現状判断DIが前月から0.5ポイント低下し45.1となった。低下は3カ月連続で、2022年7月(43.6)以来の低水準となった。食料品の価格上昇や各種コスト高が景況感を悪化させている。先行きでは、米国の通商政策に対する懸念が強まっている。
指数を構成する3部門は全てマイナスで、家計動向関連が前月から0.1ポイント、企業動向関連が0.5ポイント、雇用関連が3.9ポイントそれぞれ低下した。
景気判断は前月引き下げたばかりで、今月も状況に変化がないことから「緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」で据え置いた。
回答者からは「野菜およびコメの価格高騰の影響が大きく、買い控えが顕著」(中国=一般小売店<食品>)、「建設費高騰などの影響で事業予算内に収まらず、計画中止になる案件が複数出ている」(東北=建設業)といった声が聞かれた。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは前月から1.4ポイント低い45.2と、4カ月連続で低下。22年7月(43.2)以来の低水準となった。トランプ米政権の関税政策の影響を懸念する声が急増している。
内閣府は先行きについて「賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策への懸念もみられる」とまとめた。
大和証券の鈴木雄大郎エコノミストは、引き続き商品の値上げに対する節約志向が強いと指摘。米国の相互関税が想定を上回る内容だったことは調査に反映されておらず、来月分が「もう一段悪化する可能性が高い」との見方を示す。
調査期間は3月25日から31日。トランプ政権が26日に輸入自動車に対して25%の追加関税を課す計画を発表し、調査期間は世界景気の不透明感に対する織り込みが進んでいた。
2月経常黒字、過去最高の4兆607億円 前年比48%増
財務省が8日発表した2月の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支は4兆607億円の黒字となった。黒字幅は前年同月から48.4%拡大し、単月としては過去最高となった。前年に比べ輸出額が増えた。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやりとりを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。
貿易収支は7129億円の黒字(前年同月は2983億円の赤字)だった。自動車や半導体製造装置の輸出が増え、輸出額は9兆55億円と前年同月比10.4%伸びた。輸入額は1.9%減の8兆2926億円だった。
貿易黒字に転じた背景には、中国の春節(旧正月)の時期のズレもある。例年、春節休暇中には現地の生産活動が停滞し、日本からの輸出が鈍る。2025年は1月末から春節に入り、2月は影響が少なかったが、24年は2月半ばが春節期間だったため、反動で前年からの伸びが大きくなった。
サービス収支は1755億円の赤字だった。赤字幅は前年同月から49.1%拡大した。製薬会社などに関連する知的財産関連の使用料の受け取りが減る一方、海外向けの支払いが増えた。
旅行収支は5599億円の黒字だった。前年同月から黒字額は約4割増え、2月としては過去最高だった。訪日客(インバウンド)が増えた効果が出た。
海外投資に伴う利子や配当の収支を示す第1次所得収支は3兆8817億円の黒字で、黒字幅は10.9%増えた。主に債券の投資残高が増えたことが寄与した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、最近では2月統計で前月から大きく▲3.0ポイント低下して45.6となった後、本日公表の3月統計ではさらに▲0.5ポイント低下して45.1を記録しています。先行き判断DIもさらに大きな低下を見せており、3月統計は前月から▲1.4ポイント低下の45.2となっています。現状判断DIでは家計動向関連のうちの小売関連が▲0.3ポイントの低下となっている一方で、飲食関連は+0.4ポイントの上昇、サービス関連も+0.3ポイントの上昇と、わずかながら上昇を記録しています。基本的には物価上昇、特に食料の価格高騰の影響が家計関連のマインドに出ていると私は見ています。それにしては、外食のはコメ価格の高騰が大きな影響を及ぼしていると考えるべきなのですが、1月統計から2月統計にかけて▲4.8ポイントの大きな低下を示した後、3月統計では+0.4ポイントの上昇を見せています。また、住宅関連が3月には前月差で▲1.9ポイント低下しており、価格上昇に加えて、どこまで金利上昇が影響しているのか、やや気になるところです。企業動向関連については、現状判断DI、先行き判断DIともに製造業は前月差プラスで、逆に、非製造業は前月マイナスとなっています。まだ、米国の関税政策・通商政策の影響は、ロイターの記事では織込み済みとはいえ、マインドには現れていません。ただ、先行き、ここ数日の米国通商政策に起因する金融市場の混乱などを受けて、家計も企業もマインドを悪化させることは確実です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。」と先月からの基本ラインは据え置いています。先行きについては、国際面での米国の通商政策とともに、国内では価格上昇の懸念は大いに残っていて、最大の焦点となりそうです。また、内閣府の調査結果の中から、家計動向関連に着目すると、小売関連では「野菜及び米の価格高騰の影響が大きく、買い控えが顕著であり、販売数量は前年を下回っている(中国=一般小売店[食品])。」といったものが目につきました。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易・サービス収支が5374億円の黒字を計上したようです。ただし、私が注目している季節調整済みの系列では、2024年12月に2023年10月以来の黒字を計上した後、今年に入って、2025年1月、2月は赤字に戻っています。直近でデータが利用可能な2月は速報段階で▲1337億円の赤字を計上しています。1月統計や2月統計は、旧暦で決まる中華圏の春節の時期次第で貿易・サービス収支が大きく振れますので、その点は注意が必要です。私が調べた範囲で、今年の春節は1月29日から2月にかかる期間となっています。お休みは1月28日から始まるそうです。ですので、1月統計と2月統計に何らかのかく乱要因が持ち込まれていた可能性があります。さらに、引用した記事にもある通り、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできると考えるべきです。ですので、経常収支にせよ、貿易収支・サービスにせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2025年4月 7日 (月)

10か月連続で「下げ止まり」を示す2月の景気動向指数

本日、内閣府から2月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲0.3ポイント下降の107.9を示した一方で、CI一致指数は+0.8ポイント上昇の116.9を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数2月は0.8ポイント上昇、生産寄与し3カ月連続プラス
内閣府が7日公表した2月の景気動向指数速報(2020年=100)によると、足元の景気を示す一致指数は前月比0.8ポイント改善の116.9となり3カ月連続で改善した。一方、先行指数は前月比0.3ポイント低下の107.9と3カ月ぶりに悪化した。
一致指数から機械的に決める基調判断は「下げ止まりを示している」で据え置いた。この文言を用いるのは10カ月連続。
一致指数を構成する各種経済指標のうち、改善に寄与したのは投資財出荷指数や鉱工業生産指数など。半導体・フラットパネル製造装置の生産・出荷が押し上げ要因。輸出数量指数の改善もプラス材料となった。
先行指数の下押し要因となったのは新規求人数、日経商品指数、中小企業売り上げ見通しなど。建設業界の見通しが影響した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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2月統計のCI一致指数は3か月連続の改善となりました。3か月後方移動平均は昨年2024年10月にプラスに転じてから5か月連続の前月比プラスを続けています。2月統計では+70ポイントの上昇です。7か月後方移動平均はそれより前から上昇を続けており、2月統計では+0.23ポイント改善しています。しかし、統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で据え置いています。引用した記事にもある通り、5月に変更されてから10か月連続で同じ基調判断で据置きです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏み、あるいは、悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。ただ、「局面変化」は当該月に景気の山や谷があったことを示すわけではなく、景気の山や谷が「それ以前の数か月にあった可能性が高い」ことを示している、という点は注意が必要です。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、それはそれで正しいと今でも変わりありませんが、前提が崩れつつある印象で、米国経済が年内にリセッションに入る可能性はかなり高まってきていると考えています。理由は、ほかのエコノミストとたぶん同じでトランプ政権が乱発している関税政策です。関税引上げによって、米国経済においてインフレの加速と消費者心理の悪化の両面から消費を大きく押し下げる効果が強いと考えます。加えて、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は明らかにネガであり、引き続き、考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、引用したロイターの記事にもあるように、輸出数量指数+0.72ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)+0.63ポイント、生産指数(鉱工業)+0.43ポイントなどであり、他方、前月差マイナスとなったのは、商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.51ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)▲0.39ポイント、有効求人倍率(除学卒)▲0.31ポイントなどでした。ついでに、引用した記事にありますので、CI先行指数の下げ要因も数字を上げておくと、新規求人数(除学卒)▲0.64ポイント、日経商品指数(42種総合)▲0.25ポイント、中小企業売上げ見通しDI▲0.14ポイント、などとなっています。

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2025年4月 6日 (日)

門別投手がプロ初勝利でジャイアンツを3タテ

  RHE
阪  神000100000 120
読  売000000000 060

【神】門別、工藤、石井、桐敷、岩崎 - 梅野、坂本
【読】石川、中川、田中瑛、ケラー、大勢 - 甲斐

投手戦を制して、門別投手が初勝利で、ジャイアンツを3タテです。
タイガースはわずかに2安打、得点は前川選手の押出しフォアボールだけですが、何と、2安打でも勝てるんだとびっくりしました。

甲子園に戻ったヤクルト戦も、
がんばれタイガース!

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最近のお気に入りの音楽ビデオ

タイトル通り、Vivaldiの冬です。
ストリート・ピアノを演奏しているところにバイオリンを持った姉妹が来ての合奏となります。なかなかにいい出来の演奏です。
私は基本的にモダンジャズばっかり聞いていて、大阪ジャズチャンネルなんぞを楽しんでいることが多いんですが、こういった演奏も聞いたりします。

阪神タイガースは巨人を相手にリードしています。

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2025年4月 5日 (土)

1点差でも勝ちは勝ちでジャイアンツに連勝

  RHE
阪  神102000010 470
読  売100000002 360

【神】富田、及川、石井、桐敷、岩崎 - 坂本
【読】赤星、高梨、ケラー、泉 - 甲斐

1点差でも勝ちは勝ちですから、ジャイアンツに連勝でした。
タイガースはすべてホームランでの得点で、先制ダメ押しと佐藤輝選手が2ホーマーでしたし、近本選手もツーランにホーム好返球とさすがの活躍でした。富田選手は今季初勝利ですし、及川投手も引き続き好調を維持しているように見受けます。岩崎投手はツーランを浴びましたが、繰り返します、1点差でも勝ちは勝ちです。

明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書をはじめとして計5冊

今週の読書感想文は以下の通り計5冊です。週半ばに久しぶりに風邪をひいて発熱して寝込んでいて、それほどの量は読めませんでした。
まず、横山和輝『インセンティブの経済学』(新世社)は、タイトル通りにインセンティブが経済活動で果たす役割を解明するというよりは、明治期の殖産興業の際のエピソードから日本の経営史を考える材料として評価すべきです。吉田修一『罪名、一万年愛す』(角川書店)は、長崎県の九十九島のプライベートアイランドを舞台に、一代で財を成した経営者の人生をなぞるミステリ仕立てのストーリーです。白井智之『ぼくは化け物きみは怪物』(光文社)は、5話の独立した短編から編まれたミステリ短編集です。謎解きはとても意外で鮮やかなのですが、ややグロいと感じる読者がいるかもしれません。一色さゆり『ユリイカの宝箱』と『モネの宝箱』(文春文庫)は、アートに特化した旅行会社に勤める20代半ばの女性を主人公に、各地の美術館に同行して解説もする教養小説といえます。
今年の新刊書読書は先週までの1~3月に75冊を読んでレビューし、本日の5冊も合わせて80冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2でシェアしたいと考えています。また、最近は大いにサボっていますが、経済書はAmazonのブックレビューにポストするかもしれません。

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まず、横山和輝『インセンティブの経済学』(新世社)を読みました。著者は、名古屋市立大学経済学部の教授です。タイトルでも、本書冒頭でも、インセンティブを強調しているのですが、ハッキリいって、本書はそれほどインセンティブについて何かを主張しているわけではありませんし、著者が特にインセンティブの経済学にお詳しいという印象は持ちませんでした。研究成果から判断すると日本経済史ないし経営史のご専門のようで、タイトルから想像してインセンティブにより経済を解説するという目的なら、少し失望する可能性があります。ただ、明治の殖産興業期の7つのエピソードから日本の経営史について知りたいということであれば、大いに参考になることと思います。エピソードは収録順に、伊藤八兵衛の訴訟問題、鐘紡職工誘拐事件、三井家の株式会社としてのビジネス展開、東京製綱のワイヤロープ開発におけるイノベーション、大日本製糖の疑獄事件である日糖事件、生糸商標の品質保証、そして、海運業の独占と寡占、となります。特記しておきたい点は、明治に至る前段階の開国当時から明治中期くらいまで、日本のビジネス・モラルはまったく先進国レベルに達せず、特に今でも部分的にそうですが、契約は遵守せねばならないという意味での契約概念が希薄であり、契約遵守よりも契約に反してでも目先の利益を優先するケースが目立ったりしていました。株式取引は少し前までインサイダー情報を仕入れて儲けるくらいの証券マンが優秀と考えられていたこともあります。そういった中で、先進国レベルのビジネス・モラルがどのようにして、また、いかにして確立されたかについては興味深いものがあります。繰り返しになりますが、インセンティブについて勉強しようという向きには物足りなさが残ると思いますので、出版社の本書のサイトで今一度目次を確認しつつ、日本の明治期の経済史や経営史を勉強する向きにはオススメであることを改めて明らかにしておきたいと思います。

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次に、吉田修一『罪名、一万年愛す』(角川書店)を読みました。著者は、日本を代表する人気小説家の1人です。私ももっとも好きな小説家の1人でもあります。小説の舞台は長崎県内の九十九島です。「くじゅうくしま」と読みます。私も長崎大学経済学部の教員をしていた時に、まさに今くらいの4月初めのころに新入生のオリエンテーションで泊まり込みで九十九島の中のリゾート開発された島に行った経験があります。本書では、プライベートビーチならぬプライベートアイランドとして個人に買い取られた島が舞台です。でも、視点を提供するという意味での主人公は、横浜の探偵である遠刈田蘭平となります。この主人公のもとに、九州を中心にデパートで財を成した有名一族の3代目である梅田豊大から「一万年愛す」という宝石を探すよう依頼が舞い込みます。紹介者は最後の最後に明らかにされます。主人公の探偵は、創業者であり、依頼人の祖父に当たる梅田壮吾の米寿の祝いのため九十九島の中の梅田家のプライベートアイランドを訪れます。お祝いの会には、ご本人である梅田壮吾のほか、依頼人の両親と依頼人の双子の妹といった家族のほかに、警視庁の元警部である坂巻も招待されています。しかし、その祝いの宴の翌朝にご本人の梅田壮吾は行方不明になります。島中を探しても見つかりません。主人公は依頼された宝石とともに、梅田壮吾も探すことになるわけです。とてもいいラストです。もちろん、元来がミステリ作家ではありませんから、プロットや謎解きに不満が残る読者は少なくないものと思います。でも、ミステリとしてよりも一代で財を成した経営者の人生をなぞるストーリーとして読めば、とてもいい小説です。私のようにこの作者のファンであれば、ぜひとも押さえておくべきであり、ファンでなくても大いにオススメの小説です。

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次に、白井智之『ぼくは化け物きみは怪物』(光文社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、本書はいくつかのミステリ小説のランキングで上位に入っています。5話の短編からなる短編集なのですが、いわゆる連作短編ではなく、まったく独立した短編を収録しています。収録順にあらすじを紹介すると、「最初の事件」では、小学校の児童が襲われる事件が立て続けに起き、小学校の名探偵が捜査を行います。他方、北アフリカでは反政府デモから内戦状態に突入します。「大きな手の悪魔」では、未来を舞台に、地球にやって来た異星人が地球を16のエリアに分割し、知能の高いエリアへの攻撃を中止する一方で、知能の低いエリアでは殺戮が続きます。地球人は対抗するために特殊な最終手段を講じます。「奈々子の中で死んだ男」では、昭和初期を舞台に、ならず者が罠に嵌められて訳あり遊女の集まる地域に逃げ込みますが、結局殺されて幽霊となって遊女に真相解明を依頼します。「モーティリアンの手首」では、縁起物として高値で取引されることから、一攫千金を夢見て異星生物モーティリアンの化石を発掘する3人組でしたが、地震の後に大量の化石が現れ、その中に、切り落とされた手首の化石が発見されます。「天使と怪物」では、教会の孤児院から逃走した姉弟は、フリークショーを見世物にしている世界の真実博物館にやってきて、天使の子として手紙により殺人事件を予言します。ということで、まったく何の関連もない5話のミステリ短編ですが、それぞれの短編はとても意外性が大きい上に完成度が高く、鮮やかな謎解きを展開していて、全体としても素晴らしいミステリに仕上がっています。ただ、読者によってはエロよりもグロい方で少し敬遠する向きがあるかもしれません。

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一色さゆり『ユリイカの宝箱』『モネの宝箱』(文春文庫)を読みました。著者は、東京芸大美術学部ご出身であり、『神の値段』で第14回「このミステリーがすごい!」大賞受賞して作家デビューしています。芸大ご出身らしく美術ミステリでしたが、私も出版直後の2016年にに読んでいて、やや物足りない旨のレビューを残しています。本書は2冊ともやっぱり美術に関連する小説なのですが、まったくミステリではありません。主人公の優彩は高校卒業から勤めていた画材店が廃業して、小さなアートの旅に特化した旅行会社である梅村トラベルで働き始めます。経営者である梅村夫妻と先輩女子社員の桐子に主人公を合わせても4人だけの小さな旅行会社ですが、通常の旅行会社と同じように交通手段や宿の手配とともに、展示内容の把握、入館チケットの入手、さらに、各地の美術館を解説者として同行して、読者に対しても美術への旅を誘いかけます。2冊とも4話の短編を収録しています。訪れる美術館は、収録順に、『ユリイカの宝箱』が瀬戸内海の直島にあるベネッセの地中美術館、京都の河井寛次郎記念館、安曇野の碌山美術館、佐倉のDIC川村記念美術館、そして、『モネの宝箱』はタイトル通りにすべてモネの睡蓮を所蔵している美術館であり、東京上野の国立西洋美術館、箱根のポーラ美術館、倉敷の大原美術館、京都のアサヒグループ大山崎山荘美術館、となります。河井寛次郎記念館はその名の通り陶芸家の河井寛次郎の作品を所蔵しているわけですが、短編の中で京都のもう1人の美術家として福田平八郎先生のお名前が言及されています。私が中学生のころですから、1970年代初め、福田平八郎先生が亡くなる1974年の前だと思うのですが、私の父親がお客さんを連れて行ったお店で福田平八郎先生の絵をあしらった団扇をもらってきたことを記憶しています。夏の季節ですからナスの絵をあしらった団扇でした。ああいった美術品を普通に配るのが京都の文化なのだと感じたのですが、どうでもいいことながら、今となっては、きれいに保存しておけば結構な値で売れるお宝だったかもしれない、と思わないでもありません。さらにどうでもいいことながら、我が家が青山に住まいしていたころ、子供が参加していたボーイスカウト港第18団が麻布十番納涼夏祭りに焼きそばを出店していて、宇野亞喜良先生デザインの団扇をもらっていました。保存状態は決してよくありませんが、2009年と2010年の団扇は私は今でも身近に持っていたりします。メルカリで検索すると結構なお値段がついていたりします。はい、どうでもいいことでした。私の美術に対する関心は、この程度なのかもしれません。

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2025年4月 4日 (金)

風邪をひいて金曜日にして今年度初出勤

今週は風邪をひいて発熱してしまい、金曜日にして今年度初出勤でした。
キャンパスを入ったところにあるグラウンドの周囲を外輪と呼んでいますが、サクラが植えられています。私の所属する立命館大学のキャンパスはかなり山の上にあって、まだサクラは5分咲きくらいで、満開にはほど遠かったです。日曜日くらいにはもっと開くことと思います。
中でもよく開いているのをバックにロードバイクとともに写真に収めてみました。

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