ともに市場の事前コンセンサスを下回った3月の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計
本日は月末ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも3月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.1%の減産でした。2か月ぶりの減産となります。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.1%増の14兆0630億円を示し、季節調整済み指数は前月から▲1.2%の低下を記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産3月、2カ月ぶり低下の前月比マイナス1.1%
経済産業省が30日発表した3月鉱工業生産指数速報は前月比1.1%低下した。2カ月ぶりのマイナス。ロイターの調査による事前予測0.4%低下を下回った。自動車や電気・情報通信機械などの生産が低下した。
経産省は生産の基調判断を「一進一退」のまま据え置いた。
3月は自動車が前月比5.9%低下。とくに小型車の落ち込み幅が23.2%と大きかった。一方、半導体製造装置が8.4%、フラットパネル・ディスプレイ製造装置が44.5%上昇した。
生産予測指数は4月が前月比1.3%上昇、5月が同3.9%上昇。経産省の担当者によると、米国の関税政策で生産計画を変更したとの声は聞かれないという。
一方、これまで堅調だった電子部品・デバイス、生産用機械が、4-5月は弱くなるとみている。
農林中金総合研究所の南武志・理事研究員は「長い目で見て生産はぱっとしない状況が続いている」と話す。トランプ米大統領の関税政策については、「修正含みで、輸出・生産に多少の影響はあってもマーケットが揺れ動く事態は避けられるのではないか」とみる。
2024年度1年間の鉱工業生産は、前年比1.6%低下した。
小売業販売3月は3.1%増、食品値上げ寄与 訪日客向け減で百貨店マイナス
経済産業省が30日に発表した3月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比3.1%増の14兆0630億円だった。値上げにより飲食料品の増額が寄与しスーパーの販売などが好調だった。
ロイターの事前予測調査では3.5%増が予想されていたが、これを下回った。
業種別の前年比では、織物・衣服が7.6%増、機械器具6.7%増、その他小売業4.1%増、医薬品・化粧品3.7%増と大きく伸びた。飲食料品も1.9%増え、燃料が1.8%、自動車1.5%、それぞれ増加。
寄与度別では飲食料品と機械器具の押し上げが大きく「食品価格上昇やiPhone16などスマートホンなどの販売が増えた」(経産省)。
業態別の前年比は、ドラッグストアが7.4%増、スーパーが5.3%増、家電大型専門店5.3%増、コンビニエンスストア4.1%増、ホームセンター0.9%増。一方、百貨店は「寒暖差が大きく衣類などが不振だったほか、訪日観光客(インバウンド)向けが減少」(同)し3.2%減だった。
2つの統計から取りましたので、やや長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)▲0.4%の減産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく同程度の△0.4%の減産が予想されていましたので、実績である▲1.1%は市場予想を下回りました。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から9か月連続で据え置かれています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、足下の4月は補正なしで+1.3%の増産、翌5月も+3.9%の増産となっています。ただし、上方バイアスを除去した補正後では、4月の生産は▲2.5%の減産と試算されています。経済産業省の解説サイトによれば、3月統計における生産は、減産方向に寄与したのは、自動車工業)+△5.9%の減産で△0.81%の寄与度、電気・情報通信機械工業が△4.4%の減産で△0.38%の寄与度、汎用・業務用機械工業が△5.0%の減産で△0.37%の寄与度、などとなっています。他方で、増産方向に寄与した産業として、生産用機械工業が前月比6.9%の増産で+0.59%の寄与度を示したほか、自動車を除く輸送機械工業が+7.6%の増産で+0.20%の寄与度、無期・有機化学工業が+4.2%の増産で+0.18%の寄与度、などとなっています。
広く報じられている通り、米国ではトランプ政権発足に伴って関税引上げを連発しています。日米交渉が進められているものの、自動車工業をはじめとして輸出に依存する部分も決して無視できないことから、我が国の生産の先行きは極めて不透明となっています。ダウンサイドリスクを顕在化させかねない先行き懸念材料、それも大きな懸念材料のひとつといえます。もうひとつ、中央発條のプレスリリースによれば、3月6日藤岡工場の第3工場で爆発事故があり、自動車工業への供給制約の動向も注目されます。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数を小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、伸び率はまだプラスを維持しているものの、やや伸びに鈍化が見られます。季節調整済みの系列では停滞感が明らかとなっていて、1月統計+1.2%増、2月統計+0.4%増の後、本日公表の3月統計では▲1.2%の減少を記録しています。引用した記事にある通り、ロイターでは季節調整していない原系列の小売業販売を前年同月比でみた伸びについて、市場の事前コンセンサスでは+3.5%増としていましたので、実績の+3.1%増は大きなサプライズではないものの少し下振れした印象です。統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断していて、本日公表の3月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.2%の上昇となりましたので、先月から「緩やかな上昇傾向」に上方修正しています。ただ、プラス幅が大きく縮小しつつありますので、来月の基調判断は微妙なところです。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、3月統計ではヘッドライン上昇率が+3.6%となっていますので、小売業販売額の3月統計の前年同月比+3.1%の増加は、インフレ率をやや下回っており、実質消費はマイナスの可能性が高いといえます。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。
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