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2025年5月30日 (金)

3か月ぶりの減産となった鉱工業生産指数(IIP)と伸びが鈍化した商業販売統計と堅調な雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、さらに、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも4月の統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.9%の減産でした。3か月ぶりの減産となります。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.3%増の12兆9250億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.5%の上昇を記録しています。雇用統計のヘッドラインは、失業率は2.5%、有効求人倍率は1.26倍と、いずれも前月から横ばいでした。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産4月は3カ月ぶりマイナス、「一進一退」判断維持
経済産業省が30日発表した4月鉱工業生産指数速報は前月比0.9%低下と、3カ月ぶりのマイナスだった。ロイターの事前予測調査では同1.4%低下と予想されていたが、これより小幅な低下にとどまった。
経済産業省は生産の基調判断を「一進一退」に据え置いた。昨年7月に上方修正して以降、判断は据え置かれている。生産予測指数は5月が前月比9.0%上昇、6月が同3.4%低下だった。
4月の業種別では、フラットパネル・ディスプレイ製造装置や半導体製造装置の輸出減などで生産用機械が前月比8.7%減少したことが、電子部品・デバイス(5.4%増)、汎用・業務用機械(3.4%増)、無機・有機化学(3.1%増)の増加分を打ち消した。自動車の生産指数は1.1%低下と、3月の5.9%からマイナス幅が縮小した。
同省の担当者はトランプ関税について「大勢に影響は出ていない」と述べた上で「引き続き注視していく」考えを改めて示した。
伊藤忠総研マクロ経済センター長の宮崎浩氏は、生産予測を分析した上で、自動車に関してトランプ関税に伴うマイナスの影響は出ていない、とみる。情報、電気機械、情報通信機械等、輸出関連のハイテクセクターをみても先行きに対して過度に悲観的な動きは出ていない、と言う。
ただ、同氏は「少し気になるのは在庫。生産が減少基調になる時は、先に在庫が積み上がって出荷が落ち込む局面が出て来る。4月になっても出荷が伸び悩む中で、在庫も高水準で横ばいになっており、在庫調整の動きが出てこないかどうかが今後の注目点だ」と付け加えた。
小売業販売額4月は前年比3.3%増、食品値上げが押し上げ
経済産業省が30日に発表した4月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比3.3%増の12兆9250億円となった。ロイターの事前予測調査では3.1%増が予想されていた。前年の反動で自動車販売が増えたほか、コメなど食品値上げの影響でスーパーやドラッグストアの販売が押し上げた。業種別でみた前年比は、自動車が9.5%増、織物・衣服が5.9%増、燃料4.4%増、医薬・化粧品4.1%増、機械器具とその他小売業がそれぞれ3.4%増、無店舗小売り業が2.1%増、飲食料品が1.7%増だった。各種商品小売業は5.2%減。
前年比の増額で寄与度が最も大きかった業種は、前年の認証不正問題の反動で増えた自動車、次いでその他小売業、飲食料品、医薬・化粧品、燃料などの順だった。
業態別の前年比は、ドラッグストア6.8%増、スーパー5.6%増、コンビニ3.4%増、家電大型専門店1.1%増だった。ドラッグストアはコメなど食品販売や調剤薬品が好調だった。スーパーは食品全般の値上げが押し上げた。一方、百貨店は4.9%減、ホームセンターは0.5%減にとどまった。百貨店はインバウンド関連が減少、ホームセンターは新生活者向けの収納品などのまとめ買い需要の減少が響いた。
完全失業率4月は2.5%、有効求人倍率1.26倍 ともに前月と同水準
政府が30日に発表した4月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.5%と前月から横ばいだった。有効求人倍率は1.26倍で、前月と同水準だった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.26倍が見込まれていた。
総務省によると、4月の就業者数(原数値)は6796万人と、前年同月比で46万人増加。正規の職員・従業員数は3709万人と比較可能な2013年以降で過去最多となった。非正規の職員・従業員から正規への移動や、学生などの就職などが挙げられるという。
総務省の担当者は、就業者数が高水準で推移していることや、完全失業率が低位で安定していることを踏まえると「現在の雇用情勢は悪くない」とみている。
<有効求人数、有効求職数とも増加>
厚生労働省によると、4月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べ0.3%増加した。製造業や建設業など人手不足の業種で新規求人数が増加。医療・福祉の需要拡大で求人が増加傾向にあるという。
有効求職者数(同)は0.2%増加。物価高騰による先行き不安などから求職活動を始めたり、ダブルワークの職を探したりする動きがあったという。

3つの統計から取りましたので、やたらと長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)▲1.4%の減産、また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同程度の△1.5%の減産が予想されていましたので、実績である▲0.9%は市場予想を上回りました。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から10か月連続で据え置かれています。先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、足下の5月は補正なしで+9.0%の増産、ただし、翌6月は▲3.4%の減産となっています。上方バイアスを除去した補正後でも、5月の生産は+5.2%の増産と試算されています。経済産業省の解説サイトによれば、4月統計における生産は、減産方向に寄与したのは、生産用機械工業が前月比▲8.7%の減産で▲0.80%の寄与度を示したほか、自動車を除く輸送機械工業が▲7.0%の減産で▲0.20%の寄与度、金属製品工業が▲3.7%の減産で▲0.15%の寄与度などとなっており、他方、増産方向に寄与したのが、電子部品・デバイス工業が+5.4%の増産で+0.33%の寄与度、汎用・業務用機械工業が+3.4%の増産で+0.23%の寄与度、無機・有機化学工業が+3.1%の増産で+0.14%の寄与度、などとなっています。
広く報じられている通り、米国ではトランプ政権発足に伴って関税引上げを連発しています。日米交渉が進められているものの、自動車工業をはじめとして輸出に依存する部分も決して無視できないことから、我が国の生産の先行きは極めて不透明となっています。ダウンサイドリスクを顕在化させかねない先行き懸念材料、もっとも大きな懸念材料のひとつといえます。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数を小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、伸び率はまだプラスを維持しているものの、やや伸びに鈍化が見られます。季節調整済みの系列では停滞感が明らかとなっていて、1月こそ+1.2%増の伸びを示したものの、2月統計+0.4%増の後、3月統計では▲1.2%減となり、本日公表の4月統計でも+0.5%の増加にとどまりました。引用した記事にある通り、ロイターでは季節調整していない原系列の小売業販売を前年同月比でみた伸びについて、市場の事前コンセンサスでは+3.1%増でしたので、実績の+3.3%増は少し上振れた印象です。統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断していて、本日公表の4月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.1%の低下となりましたので、2月からの「緩やかな上昇傾向」で据え置いています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、4月統計ではヘッドライン上昇率が+3.6%となっていますので、小売業販売額の4月統計の前年同月比+3.3%の増加は、インフレ率をやや下回っており、実質消費はマイナスの可能性が高いといえます。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。したがって、小売業販売額の伸びが国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性は考慮されるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率が2.5%有効求人倍率は1.26倍でしたし、引用した記事でも、失業率は2.5%、有効求人倍率は1.26倍が見込まれていました。本日公表された実績で、失業率が2.5%、有効求人倍率が1.26倍、というのは、市場の事前コンセンサスにジャストミートしました。人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率・有効求人倍率ともに雇用の底堅さを示す水準が続いています。ただし、そろそろ景気回復局面は後半期に入っている可能性が高いと考えるべきですし、その意味で、いっそうの雇用改善は難しいのかもしれません。雇用の先行指標とされている新規求人数については4月統計で増加を示していますが、万博開催で警備業の求人が多くなったことなどで「その他のサービス業」が原系列の統計で前年同月比8.3%増となっていたりしますので、どこまで持続性があるかは不明です。加えて、米国がソフトランディングに失敗して年内に景気後退局面に入る可能性が高まっており、いつまでも雇用の改善が続くわけではないと考えるべきです。

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