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2025年5月 7日 (水)

米国経済の景気後退はすでに始まっているのか?

米国トランプ政権による関税政策の乱発は世界経済に混乱を引き起こしており、そもそも、米国経済そのものに大きなダメージがあるとの指摘もありますが、実は、すでに米国経済は景気後退に陥っているのではないか、とする論文が明らかにされています。"Has the Recession Started?" と題するワーキングペーパーで、すでに査読を経てジャーナル掲載が決まっているようです。まず、引用情報は以下の通りです。

次に、ワーキングペーパーのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
This paper develops a new rule to detect US recessions by combining data on job vacancies and unemployment. We first construct a new recession indicator: the minimum of the Sahm-rule indicator (the increase in the 3-month average of the unemployment rate above its 12-month low) and a vacancy analogue. The minimum indicator captures simultaneous rises in unemployment and declines in vacancies. We then set the recession threshold to 0.29 percentage points (pp), so a recession is detected whenever the minimum indicator crosses 0.29pp. This new rule detects recessions faster than the Sahm rule: with an average delay of 1.2 months instead of 2.7 months, and a maximum delay of 3 months instead of 7 months. It is also more robust: it identifies all 15 recessions since 1929 without false positives, whereas the Sahm rule breaks down before 1960. By adding a second threshold, we can also compute recession probabilities: values between 0.29pp and 0.81pp signal a probable recession; values above 0.81pp signal a certain recession. In December 2024, the minimum indicator is at 0.43pp, implying a recession probability of 27%. This recession risk was first detected in March 2024.

昨年あたりからエコノミストに注目され始めた Sahm rule、すなわち、失業率に注目して、過去3か月の失業率の平均が過去12か月ので最低だった失業率からどれだけ上昇したかに着目し、その上昇幅が0.5%ポイントあれば経験的に景気後退の兆候と見なす指標があり、本論文では、それに求人率を組み合わせた新指標を開発し、Michez rule と名付けています。この新指標は失業率の上昇と求人率の低下が同時に生じることを捉え、景気後退局面入の閾値を適切に設定することにより、的確な景気後退指標をして用いることができると主張しています。ひとつの比較として、Sahm rule よりも景気後退を検知する遅延期間が短く、さらに、Sahm rule では1960年以前では検知能力がほとんどない一方で、新たな Michez rule では1929年以降の15回の景気後退を誤検知なく特定できる、と主張しています。そして、経験的な閾値として0.29%ポイントを設定し、0.29%ポイントから0.81%ポイントの差があれば景気後退の可能性があり、0.81%ポイントであれば景気後退が確実であると結論しています。そして、以下のようなグラフを示しています。ワーキングペーパーの FIGURE 3. Michez rule in the United States, 1960-2024 を引用しています。

photo

ワーキングペーパーには算出式が展開されていますが、新指標の算出には最小値を求めるオペレーションはあるものの、微積分なんやといった小難しい式はほとんどありません。まあ、そうなのでしょう。我が国の景気動向指数について内閣府が示している「景気動向指数の利用の手引」なんかも、同様に、それほど難しいものではありません。この指標を最近の米国経済に当てはめると、2024年3月に初めて景気後退の可能性が検知され、2024年12月には0.43%ポイントの大きさに拡大し、その時点での景気後退の確率は27%であった、と算出しています。この結果をどう解釈するかは幅があると思いますが、ただ、景気後退局面入りが決定的になってはいないものの、現在のトランプ大統領就任前から景気後退の方向に向かっていた、あるいは、景気拡大ないし景気回復が後半局面にあった、ということは明らかだろうと私は受け止めています。

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