堅調な企業業績を反映する1-3月期の法人企業統計
本日、財務省から1~3月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で見て、売上高は前年同期比+4.3%増の404兆2311億円、経常利益も+3.8%増の28兆4694億円に上っています。さらに、設備投資も+6.4%増の18兆7975億円を記録しています。この設備投資を季節調整済みで見ると、GDP統計の基礎となる系列については前期比+1.6%増となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
全産業の設備投資、1-3月6.4%増 四半期で最高の18.7兆円
財務省が2日発表した2025年1~3月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)のソフトウエアを含む設備投資は18兆7975億円で、前年同期と比べて6.4%増えた。2四半期ぶりのプラスとなり、四半期では過去最高額となった。食料品や自動車用鋼板の生産能力増強が目立った。
設備投資は製造業で4.2%増、非製造業で7.6%増となった。季節調整済みの前期比では全産業で1.6%伸びた。
経常利益は28兆4694億円で、前年同期と比べて3.8%増えた。2四半期連続のプラスとなり、1~3月期での過去最高額となった。
財務省は「景気が緩やかに回復している状況を反映したもの」だとの見解を示した。その上で「米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクや物価上昇などの影響を含め今後とも企業の動向に注視したい」と付言した。
設備投資は製造業のうち、鉄鋼関連が21.8%増えた。自動車向けの鋼板の需要が伸び、生産能力を上げるための投資が相次いだ。食料品は13.1%増えた。
非製造業では運輸業・郵便業が19.3%増え、全体を押し上げた。鉄道事業者による駅周辺の再開発が活発になっているほか、輸送用の航空機や鉄道車両の導入が進んだ。
経常利益を業種別に見ると、製造業は2.4%減だった。海外での販売競争の激化や調達コストの上昇などで輸送用機械が28.0%減った。食料品は原材料価格の上昇が響いて26.0%減となった。
非製造業は7.0%増えた。建設業や不動産業が全体を押し上げた。価格転嫁が進んだことで建設業が22.4%増加した。分譲マンションの販売価格の上昇やオフィス需要の高まりを受けて不動産業は9.3%増だった。
売上高は全産業で404兆2311億円となり、4.3%増えた。四半期で過去最高となった。
長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。まさに、それが昨年来の株価に反映されているわけで、東証平均株価については、トランプ関税で揺れた4月初旬は3000円代前半まで落ちましたが、その後は回復して5月以降は3万円台後半の水準に回帰しています。1~3月期に関しては、2四半期ぶりに経常収支が悪化した点を指摘する意見もチラホラ見かけますが、季節調整済みの系列で見てわずかに前期比▲2.6%減であり、高い水準で推移していることは確かです。法人企業統計からは離れますが、他方で、株価はまだしも、住宅価格が大きく高騰しているのも報じられている通りです。東京では「億ション」を軽く超えて、「2億ション」というのも決してめずらしくはないようです。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。もうひとつ私の目についたのは、設備投資の動向です。上のグラフのうちの下のパネルで見て、前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象がありましたが、最近時点での堅調さは、人手不足に対応した本格的な設備投資増であることを私は期待しています。季節調整していない原系列の統計の前年同期比で見ても、設備投資に限らず、売上げや利益も含めて、売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中では、卸売業・小売業、サービス業や運輸業・郵便業が上位に食い込んでいる場合があります。人手不足による影響が大きい非製造業、中でも卸売業・小売業やサービス業の動向が注目されます。

続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。そして、現在でも労働分配率の低下は続いています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半の75%近い水準と比べて、最近時点では▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間の65%ほどと比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。ただ、さすがに分配については昨年2024年春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率が下げ止まった可能性が示唆されていしたが、決してそうはなっていません。昨年春闘ではあれだけの賃上げがありながら、まだ労働分配率は低下し続けている可能性が高いと考えるべきです。これでは消費は伸びません。日本経済の成長には大きなマイナスだと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計で2020年くらいからは、人件費の伸びが高まっている可能性が見て取れますが、人件費以上に経常利益が伸びているのがグラフの傾きから明らかです。加えて、トランプ関税などを考慮すると、現時点では人件費の伸びが続くかどうかは不明です。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇する経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇することにより、決して高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できる可能性が生じており、それは中期的に望ましい、という私の考えは代わりありません。
本日の法人企業統計を受けて、来週6月9日に1~3月期のGDP統計速報2次QEが内閣府から公表される運びとなっています。私は1次QEから大きな変更はないと考えていますが、日を改めて取り上げたいと思います。
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